カエル討伐を終えた翌朝。
めぐみんをパーティに加えた私達は、ギルドに集まっていた。
カズマとめぐみんは朝食を摂りながら、何やら話してる。
私はというと………
「「花鳥風月〜」」
アクアにスキルを教えて貰っていた。
「さすがマイだわ!このスキルをもうマスターしたみたいね」
「教えてくれてありがとう、アクア。いつ使うのかは分からないけど、面白いスキルね!」
アクアは満足気にうなづいていたが、そんな私たちをカズマとめぐみんは、ジト目で眺めていた。
「おい、アクア。これ以上マイさんに使えないスキルを教えるのはやめてくれ」
そう言ったカズマの視線が一瞬、めぐみんに向けられていた。
めぐみんもどうやら、そのことに気づいていたらしい。
「爆裂魔法に文句があるのなら、聞こうじゃないか!」
そう言い放ち、いきり立っためぐみんを、面倒くさそうに宥めているカズマ。
そんな2人を見ていると、視界に綺麗な金髪の女騎士の姿が視界に入った。
その姿には見覚えがあった。
ギルドでウェイトレスをしている時に、何度か見かけ、凛々しくかっこいいなぁと思っていた人だ。
その人が、カズマ達めがけて、歩いている。
そして、カズマの近くで歩みを止めたと思うと、何やらカズマに話しかけている。
カズマはあの人と知り合いなのだろうか。
知り合いならいつの間に知り合ったのだろうか。
もし知り合いなら、後で紹介してもらえないかな等と考えていると、先程めぐみんに先を越され、カズマに文句を言いそびれたアクアが私に愚痴を言ってきた。
「カズマったら、私のスキルを使えないだなんて、ほんと失礼ね。その点マイはいい子ね。もっと私のスキルを教えてあげるわ!」
「ほんとに?ありがとう!」
アクアのスキルは使いどころが分からないが、教えてくれるということなので、とりあえず教えてもらうことにしたのであった。
「じゃあ、まずは、手を使わないで机の上のコップを動かすやつね!まずは机の上にコップをおいて───」
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アクアに使いどころは分からないが、面白いスキルを2つ3つ教えてもらったところで、めぐみんがやってきた。
だが、一緒にいたはずのカズマの姿がみえない。
「カズマはどうしたの?」
「カズマなら、クリスという盗賊職の人にスキルを教えてもらうと言って、外にいきましたよ。ところで、2人は何をしていたのですか?」
「アクアにスキルを教えてもらってたの」
そう言うと私はおもむろに、机の上にコップを置き、先程教えてもらった、手を使わずにコップを動かすスキルを見せてあげた。
アクアは満足そうに頷いているので、上手くできているようだ。
よし!と思い、めぐみんにドヤ顔を向けると、
「宴会芸スキルじゃないですか」
と呆れた顔で言われてしまった。
「そんなことより!」
そう言いながら、めぐみんが、紅い瞳を輝かせながら近付いてくる。
「マイさんは爆裂魔法の詠唱を覚えましょう!私が教えて差し上げます!そして爆裂魔法を使いこなし、私と一緒に爆裂道を歩もうじゃありませんか!」
「ほんと!?教えてくれるの!?」
私としても、魔法というものを早くものにしたかったので、願ったり叶ったりである。
後半の爆裂道というのは、よく分からないが…
「いいですよ!いいですとも!まずは詠唱を覚えましょう!上手く扱うためには、やはり杖も必要ですね。それにスキルポイントもまだ余っているようですし、それをどんどん爆裂魔法につぎ込んで───」
何やら今後の方針についても考えてくれているようだが、その場ではとりあえず詠唱を教えてもらうことにしたのであった。
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めぐみんの瞳がいつにも増して紅く輝いている。
私は今、めぐみんの対面に座り、彼女が爆裂魔法について熱く語っているのを、笑顔で頷きながら聞いていた。
めぐみんは、爆裂魔法の詠唱について一通り私に教えた後、そのままの勢いで、爆裂魔法がいかに強力かを語り始めたのだった。
開口一番が、『爆裂魔法は詠唱なんて二の次で、一番大事なのは、かっこよさです!』と、先程教えてもらった詠唱は一体なんだったんだ、と思うようなことを言われ、そのことについて私が言うよりも早く、矢継ぎ早に、大量の雑魚モンスターめがけて放つ爆裂魔法の素晴らしさ等を語り始め、今に至る。
アクアも最初のうちは、一緒に聞いていたが、ふとアクアを見ると、めぐみんには見えない位置で船を漕いでいた。
「どうです!マイさん!爆裂魔法の素晴らしさについて理解できましたか!?」
アクアに意識を向けていたうちに、話が終わってしまったようだ。
私はとりあえず、先程と同様に笑顔で頷いてあげると、めぐみんは満足そうな顔をしていた。
正直、めぐみんには悪いが、話が長かったので、最初の詠唱よりかっこよさが大事という部分しか頭には残っていなかった…。
かっこよさが大事かぁ…とそんなことを考えると、入口付近にカズマ達の姿が見えた。
「カズマが戻ってきたみたいですね」
めぐみんも気づいたようで、アクアを起こしつつ、私達3人はカズマを出迎えに向かった。
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カズマを出迎え向かった私達であったが、どうやら様子がおかしい。
あの女騎士の人は、少し頬を紅潮させ、めぐみんが言っていたと思われるクリスという盗賊職の人は…泣いていた。
「ちょっとカズマ、その人どうしちゃったのよ?」
私と同様に異変に気づいたアクアが、カズマに尋ねた。
カズマは少しバツが悪そうにして、答えるのを一瞬躊躇っていると、あの女騎士の人が代わりに教えてくれた。
女騎士の人の話、そして泣いていたクリスの話を聞き、要約すると、カズマがパンツ泥棒の変態鬼畜野郎になった、ということだ。
カズマの第一印象が大人しめな男の子だっただけに、豹変っぷりに少し驚いたが、まぁつい魔が差しただけなのかもしれないと思い、自分の中でカズマに変態の烙印は押さないでおいてあげた。
「それでカズマは、盗賊職のスキルを習得できたのですか?」
めぐみんがそう言ったのを聞くと、確かに本来の目的は達成したのか私も気になり、カズマに視線を向けると、
「もちろんだ!みせてやるよ。………『スティール』!!」
そんなカズマの声が聞こえ、一瞬視界が光に包まれた。
そして視界が戻り、カズマの手元を見た瞬間、先程押すのをやめた、変態の烙印をカズマに押しつけた。
この日からカズマを見る目が変わったのは、言うまでもない。
「こんな幼げな少女の下着を、公衆の面前で盗むだなんて!」
そう言って、パンツを盗まれ少し涙ぐんでいためぐみんを庇うように、へんt……カズマの目の前に立ちふさがったのは、あの女騎士だった。
私はそんな女騎士の行動に感動していた。迷わずあの変態の前に立ちふさがるなんて、すごくかっこいい!
あー私もあんな風にかっこよくなりたいなぁと物思いに耽っていた私には、その後のカズマと女騎士のやり取りは聞こえていなかった。
「ねぇカズマ、この人って昨日私達がいない間に面接に来たって人?」
そう言えば、そんな人がいたと言っていたが、まさかこの人が私達のパーティに入ってくれるのだろうか!と、私は人知れず興奮していたのであった。
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「この方、クルセイダーではないですか!」
例の女騎士、ダクネスが私達のパーティに入りたいということで、とりあえず机を囲んで話し合うことになった。
話し合うにあたり、ダクネスの冒険者カードを見せてもらっていたのだ。
ダクネスは、先程めぐみんがいったように、上級職であるクルセイダーという職業らしい。
そんなダクネスが、パーティに入ることを反対する人などいるはずもなく、みんなが加入に賛成しようとしていた時、おもむろにカズマが話を始めた。
「ダクネス、君にどうしても話しておかないといけないことがある」
そう切り出したカズマの話は、寝耳に水であった。
なんと真剣に魔王の討伐を考えているということだ。
アクアを見ると、うんうんと頷いていたので、2人の間では周知の事実だったようだ。
2人と1番付き合いの長い私ですら、パーティを抜けた方がいいのではないかと考えてしまうような内容の話。
だとすれば、今から入ろうとするダクネスは、このままパーティの参加を断念するのではないだろうか…
「のぞむところだ」
そんな私の思考を、ダクネスの一言が遮った。
なんて頼もしく、かっこいい一言だろうか。
私がダクネスの言葉に感動していると、カズマもその決意を感じ取ったのか、次はめぐみんに話を振る。
めぐみんは、上級職のアークウィザードではあるが、パーティでは最年少のまだまだ子供である。
さすがにめぐみんはパーティを抜けてしまうのかな…というのは、私の杞憂に終わった。
なんとめぐみんは、魔王の話を聞くと、パーティを抜けようとするどころか、逆に魔王討伐に意欲を示し、むしろやる気になったのだ。
私はなんとも頼もしいパーティメンバーに恵まれたのだろうか。
「最後に、マイさんはどうする?魔王討伐だなんて無理しなくていいんだぞ?」
カズマが最後に話を振ったのは、私である。
最初に振られていれば、おそらく回答に躊躇ったであろうが、私は既に2人の頼もしい回答を聞いている。
私は真っ直ぐカズマをみつめ、こう言い放った。
「こんな頼もしいクルセイダーとアークウィザードがいるようなパーティ、抜けるわけがないよ!」
その言葉を聞き、めぐみん、ダクネス、そして私はお互いに見つめ合い、目を輝かせながら、頷きあった。
そんな3人とは対称的な2人。
「カズマカズマ、話聞いてたら私、なんだか腰が引けてきちゃったんですけど…」
アクアはカズマだけに聞こえるように、そう呟いた。
それを聞いたカズマはため息をついた。
目を輝かせていた3人とは違い、カズマとアクアの目は曇っていたのだった。
一方その頃私は、このパーティーなら、どんな敵でも渡り合える気がする!などとフラグじみたことを考えており…
『緊急クエスト!緊急クエスト!────』
そんな放送が聞こえてきたのは、そのすぐ後だった。
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『緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は至急正門前まで!』
「一体なんなんだ!」
突然の放送を聞き、カズマが動揺したように声をあげる。
私も一体何事かと思い、周りをキョロキョロと見渡す。
しかしそこには、カズマのように慌てていた冒険者はおらず、みな訳知り顔で準備を始めていた。
時々、「キャベツか!」「キャベツだな!」などといった声が聞こえてきた気もするが、キャベツ…何か秘密の合言葉なのだろうか…。
そんなことを考えつつ、周りの冒険者達の後を追いかけて、正門まで辿り着いた。
私と同様に、未だに状況を掴めていないカズマが、めぐみんやダクネスに何事かと問いかける。
「キャベツよ、キャベツ」
「………はぁ?」
カズマの問に答えたのはアクア。
キャベツという言葉に首を傾げるカズマ。
そして、またしてもキャベツ。
「キャベツというのは、何か合言葉のようなものなの?」
私がアクアにそう聞くと、今度は私がアクアに「合言葉?」と言いたげな顔で首を傾げられた。
少しして何か理解したような顔になると、私に説明を始めた。
「そういえばマイも知らなかっ「なんじゃこりやぁぁぁ!」」
アクアの声を遮ったのは、カズマの叫び。
その声に驚き、前方を見ると、巨大な緑色の塊…いや…緑色の何かの群れ…キャベツ…の群れ…が、目に入った…。
呆然とする私とカズマにアクアが説明してくれた。
なんでもキャベツは飛ぶものらしい。
確かにギルドでウェイトレスをしている頃、調理されようとしている野菜が不自然に動いているように見えたことが何度もあった。
しかし私は、野菜は動くはずのないものという、固定概念が何故かあったため、目の疲れだと思っていたのだ。
眼前に広がるキャベツの群れ。
キャベツと闘う冒険者。
なんとも言えぬ、この光景の違和感に耐えつつ、私は自分の出来ることをした。
アクアに見習い、花鳥風月で周りのサポートをしつつ、後方まで通り抜けてきたキャベツをショートソードを使って倒し、収穫する。
私に出来ることといえば、このようなものだ。
しかし、私の頼もしい仲間たちは、もっと活躍しているだろう。
私もみんなと肩を並べられるように頑張らないと!等と考えていると、カズマの声が聞こえてきた。
「ダクネス!」
カズマの視線の先では、キャベツによって倒されてしまった冒険者を庇い、キャベツからの猛攻撃に耐えているダクネス。
そんなダクネスの姿を見て、とてもかっこいいと思った。
自分の身を犠牲にして、他人を守っている姿は、なんとかっこいいことだろうか。
そんなことを考えつつ、ダクネスの勇姿を眺めていると、背後の空気が変わった。
その感覚には覚えがある。
そう、昨日平原で感じたあの…!
後ろを振り返るとやはりそこには、爆裂魔法を放とうとしているめぐみんの姿があった。
そこで私はふと思った。そうだ私にも爆裂魔法がある、と。
これでキャベツを一掃出来れば、皆と肩を並べられるのではないか、と。
そして私はめぐみんに続き、爆裂魔法を放つために、詠唱を…。
と、そこで私はふと思い出した。朝のめぐみんの話を。
爆裂魔法は詠唱よりもかっこよさという話を。
どうすればかっこよくなれるか。
私はつい先程、かっこいい仲間の姿を見ている。
私の考えがまとまり、そして行動に移すまでにさほど時間はかからなかった。
私は後方から前方に向けて、走り抜けた。
そして、倒れている冒険者を庇うように前に立った。
おそらく私が色々と考えているうち放たれた、めぐみんの爆裂魔法の爆風に巻き込まれたのだろう、その冒険者は少し煤けていた。
「嬢ちゃんあぶねぇぞ!」
そんな声が後ろで倒れている冒険者から聞こえた。
しかし私はそんな声を無視し、詠唱を始めた。
詠唱を唱え、爆裂魔法を練り上げる…練り上げる…練り上げる…
あ、やべ、詠唱の続き忘れた。
そんな一瞬の隙をつかれ、キャベツの体当たりをもろにくらい…
庇っていた冒険者も巻き添えにしつつ…
ボンッとなった。
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キャベツの収穫を無事に終え、私達は採れたてキャベツの料理を食べていた。
キャベツの野菜炒めを食べるカズマの顔が少し不満そうなので、あまり野菜は好きではないのかもしれない。
そんなことを考えていると、みんなが今日の活躍について、お互いに称えていた。
確かにみんな素晴らしい活躍だったと言えるだろう。
私はというと、爆裂魔法に失敗し、煤けていただけだった。
少し落ち込んでいる私に気づいたのか、みんなが声をかけてくれる。
「マイは、前衛に出るなら、もう少し筋肉をつけないとな。今度よかったら一緒に筋トレでもするか?」
「筋トレする前に使えるスキルを覚えろよ」
「爆裂魔法、途中まではいい感じだったのですがね。やはりまだ詠唱をしっかり覚えていなかったみたいですね。ただし!倒れている冒険者を庇う姿はとてもかっこよかったです!」
「まず、爆裂魔法を使おうとするなよ」
「私と一緒に花鳥風月で周りの冒険者のサポートをする姿は、さながらプリーストのようだったわ!」
「そもそも宴会芸でサポートってなんなんだよ」
至らない私をみんな励まし、褒めてくれる。
なんと素晴らしいパーティメンバーだろうか!
その日私達、5人のパーティが結成したのであった。