私達は今、歩き慣れた廃城への道のりを歩いている。
以前と違うのは、私達について来ているのが、カズマではなく、アクアということだ。
なぜこのようなことになっているかと言うと、話は数時間前に遡る。
デュラハンが街に来た日から2日程経っていた。
私達は、未だにデュラハンが、街の近くにいるせいで、いいクエストがなく、ギルドで時間をつぶしていた。
私は今度こそ天井のシミを数えてやる!と思って天井を見上げていると、後ろから声をかけられた。
「天井なんてみて、何をしているのですか?」
声をかけてきたのは、めぐみん。
私はさすがにシミの数を数えようとしていたなどと言えず、苦笑いをして回答を濁した。
「まぁいいです。そんなことよりも、また私と魔法の訓練に行きませんか?もちろん標的はあの廃城の城跡です!」
「そんなわざわざ魔王軍の幹部に喧嘩を売りに行かなくても…。まぁ確かにダクネスを呪い殺そうとした仕返しはしたいかな。でも、カズマに話せば絶対に止められるよ?」
「その点は大丈夫です。今回はカズマには、黙って行くつもりですから」
どうやらカズマに話せば、止められると考えたのはめぐみんも同じらしい。
だがしかし、カズマについてきて貰わないのであれば、帰り道どうするつもりなのだろうか。
「私を背負ってくれる人には、心当たりがあります。なので、マイさんは先に行って正門辺りで待っていて下さい」
めぐみんには何やら考えがあるみたいなので、私はそれに了承すると、先に正門で待っていた。
そこにめぐみんが連れて来たのが、アクアだったのである。
そして時間は今に戻る。
「あのデュラハンのせいで、ろくなクエストがなくて腹が立っていたのよね!」
アクアはあのデュラハンに、相当ご立腹らしい。
おそらくそれをめぐみんは聞きつけたのだろう。
「でも、動けなくなっためぐみんを背負って帰らないといけないけど、アクア大丈夫なの?」
私は男のカズマでさえ、アクセルの街につく頃には少し疲れた様子だったので、華奢なアクアに務まるのか心配だった。
「前はカズマが背負ってたんでしょ?なら、問題ないわ!あんなヒキニートより、私の方が筋力のステータスは上だもの!」
そんなことを少し腕まくりをして、ドヤ顔で喋っていたアクア。
それなら大丈夫だろう。
無駄話もしつつ、しばらく歩いていると、いつも爆裂魔法を放っていた場所に到着した。
そこから廃城跡を見ると…
なんと少し城が再建築されていた。
どうやら私達が壊した後から少しずつ直していたのだろう。
もしかすると、最初に私達が爆裂魔法を放っていた時から、破壊された所を修復していたのかもしれない。
だから、毎日爆裂魔法を放ってもなかなか壊れなかったのか。
「あのデュラハン、生意気にも拠点を建て直しているのね!めぐみん!マイ!盛大に撃ち込んでやりなさい!後ろにはこの私がついているわ!」
「アクア、私に任せて下さい!あんなちっぽけなもの、私の爆裂魔法で再び木っ端微塵にしてくれます!───『エクスプロージョン』っっっ!!!!」
そう告げためぐみんは、既に詠唱を終えていたようで、一瞬で空気が変わったかと思うと、次の瞬間には、再建築中の城を爆炎が飲み込んだ。
『あぁぁぁ!!せっかく建て直した俺の城がぁぁぁぁ!!』
廃城の方から、そんな叫びが聞こえてきた。
「いい気味ね!マイもやっちゃいなさい!」
私はアクアの声に応えるように、爆裂魔法の詠唱を始めた。
そして詠唱を終え、爆裂魔法を放とうとした時だった。
「ね、ねぇ、何か聞こえるんですけど。ものすごい足音みたいなのが、聞こえるんですけど!」
「あ、あれです!大量のアンデットがこっちに向かってきています!」
既にアクアに背負われていためぐみんが、前方を指差す。
そこには大量のアンデットの集団が、こちらに目掛けて走っていた。
「ま、マイさん!あいつらに爆裂魔法を食らわせるのです!」
「分かったわ!」
めぐみんに言われ、標的を変える。
そして放つ。
「『エクスプロージョン』っっっ!!」
私が放った爆裂魔法は、アンデット集団の真ん中に着弾した。
だが、全てのアンデットを葬ることは出来ず、爆裂魔法を逃れた残りが、再び追いかけてくる。
「マイ!ずらかるわよ!」
そう言ったアクアは、既に少し先に行っており、私は慌ててその後をおった。
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「いやぁ、まさかアンデットがあそこまで追いかけて来るとはねぇ」
「アクアの魔法がなければ、多分追いつかれてたね」
私達は追いかけて来たアンデット達をやっとの思いで振り切り、もうすぐでアクセルという所まで戻ってきていた。
「まさか追っ手を放ってくるとは思っていませんでした。明日以降何か手を考えないといけませんね」
「え?明日以降もまだ続けるの!?」
私はてっきり今日ので、復讐を果たし終わるものだと思っていた。
「当たり前じゃないですか!あのデュラハンは私達がせっかく破壊した廃城を建て直していたのですよ?あのまま放置すれば、いつか必ず再建させるでしょう。そ、それにですね、あの廃城への爆裂魔法を覚えて以来、他の標的じゃあ満足出来なくなってしまって……」
「そ、そんなことを言われてもなぁ」
以前であれば、追っ手もなく、ゆっくりと帰れていたのだが、今回は追っ手がいる。
もし追いつかれれば、どうなることか…。
「2人とも安心しなさい。この私がついている限り、アンデットなんか何体来ようが問題にならないわ!」
そんな私の不安を打ち消したのはアクアだった。
確かに今日もアクアのおかげで何とかなったし、アークプリーストのアクアがいれば何とかなるかな。
そんなこんなで、明日以降も廃城へ向かうことになった私達。
ただ、無策で向かうのは危険なので、最低限の作戦は決めることにした。
作戦は至ってシンプル。
まず1つ目は、いつも違った時間に行くというもの。
決まった時間に行き、待ち伏せでもされたら、たまったもんじゃない。
そして2つ目は、廃城前に着いたら、私とめぐみんが同時に詠唱を始め、まずめぐみんが、廃城に向かって放ち、そして私が、追っ手が見えた瞬間に追っ手に向かって放つというものだ。
これで追っ手と最大の距離をとって逃げることが出来る。
こんなシンプルなものではあったが、私達の作戦は上手くいった。
初日ほど、アンデット達に追いかけ回されることは無くなった。
だが、上手くいったのは最初の数日だけだったのだ。
少しアンデットを侮っていた。
ある日、私達はいつも通り廃城が見える場所に向かっていた。
すると、いつもの場所に辿り着く少し手前で、アンデット集団に奇襲を受けたのだ。
「『ターンアンデット』!!『ターンアンデット』!!なんでこいつらここで待ってんのよー!」
「こんなに近いと爆裂魔法を撃てません。早く逃げましょう!」
「アクアアクア、私にもその魔法教えてくれたら、楽に逃げれると思うんだけど!」
私達はアンデット集団から逃げるために、ひたすら走っていた。
アクアは走りながら、たまに振り返り魔法を放つ。
めぐみんは爆裂魔法を撃っていないので、自分で走っており、そのめぐみんの隣を走っている私は、こんな状況でも魔法を覚えたかった。
「マイ、あなたまだそんなことを言っているの?私がいるんだから、マイは覚えなくていいでしょ!『ターンアンデット』!!」
最初に見た時から、教えて欲しいと頼んでいるのだが、頑なに断られる。
回復魔法も知りたいのになぁ、どうしたものか。
走りながら考えていた私は、ふとあることを思いつく。
あれが使えるかもしれない。
「ねぇ、アクア。最近賠償金はどうなってるの?アクアの報酬の一部を貰えるってことだったけど、ほとんどくれたことないよね?もしアクアがいいなら、その魔法と回復魔法の2つを賠償の代わりにしてもいいんだよ!」
この状況で、そんなことを言われると思っていかなったのか、アクアは唖然としていた。
横からめぐみんが『賠償金?』と呟く声が聞こえる。
また帰ったら訳を教えてあげよう。
それよりも今はアクアだ。
再びアクアの方へ振り返ると、相当悩んでいたようだが、決心したみたいだ。
「分かったわ、マイ。その2つを教えてあげる。だからお金はチャラにしてよね!じゃあよーく詠唱を聞いておくのよ!!───『ターンアンデット』!!」
私はすぐさま、冒険者カードを確認し、魔法を習得した。
「ありがとう、アクア!『ターンアンデット』!」
その後、私とアクアが『ターンアンデット』を放ちながら逃げることで、無事アクセルの街に辿り着いたのであった。
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「もう無理限界。クエストを受けましょう!あのデュラハンのせいで、ろくなクエストがないけど、もうお金がないの!」
そんな切実なことを言う、アクア。
奇襲を受けてからも、撃つ場所を変えたりしながら、爆裂魔法を撃ちに行っていたが、腹いせは出来ても、お金がないみたいだ。
カズマに泣きつくアクアに、それを眺めるめぐみんとダクネス。
今日私達は、久々にギルドに集まっていたのだ。
「俺の金もいつかは尽きる。よさそうなクエスト探してこいよ」
「分かったわ!」
アクアの懇願に折れたらしく、カズマがクエストを受けることを許可した。
でも、今のアクアに選ばせたら、難易度そっちのけで、とりあえず高額報酬のクエストを選んできそうだ。
「アクア大丈夫ですかね。まともなクエストを選んでくれるといいのですが」
私の心配はみんなも同じだったらしく、めぐみんの発言に頷いていた。
流石にアクア1人に選ばせるのはまずいという結論になり、カズマが見に行くことになった。
カズマが行ってすぐ後に、カズマの怒る声が聞こえたので、私達の心配は的中していたようだ。
一体どんなクエストを選ぼうとしていたのか。
その後しばらくして、カズマとアクアが戻ってきたので、どうやらクエスト選びは終わったようだ。
私達はそれぞれ準備をする。
一足先に準備を終えたカズマは、ギルドに檻を借りに行くと言って、先に行ってしまった。
檻を使うクエストということは、モンスターの捕獲クエストらしい。
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私達は現在、湖に来ている。
そして湖に檻を置き、モンスターが入ってくるのを待っている…訳ではなく、その檻の中には、既にアクアが入っていた。
カズマが檻を持って来たと思ったら、おもむろにその檻にアクアが入っていった時は、また何か芸でも見せてくれるのかと思ったのだが、アクアの嫌そうな顔を見て、芸ではないことを悟った。
今回のクエストは、湖の浄化。
浄化魔法を使えば、アクア1人でもクエストを達成できるのだが、浄化を嫌がったモンスターに襲われるのを危惧したらしい。
それをカズマに相談した結果がこれだ。
檻の中で浄化を行うことで、モンスターに襲われることなく安全にクエストを達成できるということだ。
「アクアー!浄化の調子はどうだー?」
「浄化は順調よー!」
今のところカズマの考えた作戦は上手くいっているようだ。
「ずっと水に浸かってると体冷えるだろー?トイレ行かなくても大丈夫かー?」
「アークプリーストはトイレいかないしー!」
「大丈夫なようですね。ちなみに、紅魔族もトイレには行きません」
「く、くるせいだーもと、といれ…」
「え?このパーティでトイレ行くの私とカズマだけなの?私もレベル上げて、アークプリーストかクルセイダーになろうかな」
「ダクネスは無理するな。マイさんはこのアホどもの話を真に受けないでくれ。こいつらには、日帰りでは行けないクエストを受けて、本当にトイレに行かないのか試してやる」
私は久しぶりにカズマのゲスさを目の当たりにした。
だが、それよりも私以外もちゃんとトイレに行っていることを知って少し安心していた。
「しかし、このまま何も起こらなければいいのですが」
「ここまで何もなければもう大丈夫なんじゃない?」
「おまえらっ!フラグみたいなことを!」
私とめぐみんの会話が気に入らなかったらしく、何故かカズマが怒っていた。
そもそもフラグって?と思い聞こうとしたその時、
「カズマぁぁ!カズマさぁぁぁん!」
アクアの叫び声が響いた。
もう何も起こらないと思われた矢先、湖の中央から、何やら影が複数近づいてくる。
そいつらがアクアの檻まで辿り着いたと思うと、檻に噛み付いた。
ブルータルアリゲーター。ワニ型のモンスターの登場である。
ワニ達がアクアの檻をぐるっと囲み、檻に噛み付いていた。
一方中にいるアクアは、泣き叫びながらも、リタイアすることなく、浄化魔法を唱えまくっていた。
「あの檻の中、楽しそうだな」
「…………お前、行くなよ?」
「でも何とかして助けてあげたいよね」
「そ、そうだ!クルセイダーである私は、仲間を助ける義務がある!それでは、いってくりゅ!」
「おまえっ!ダクネスとまれ!!マイさんのせいで、ダクネスが暴走しちゃったじゃねぇか!」
どうやら私の呟きが、ダクネスのクルセイダー魂に火をつけてしまったらしい。
「あーもう、どうしたらいいんだよ!あれだけアクアとダクネスが近かったら、爆裂魔法も撃てないし。……………おい、撃つなよ?」
ふとカズマが、めぐみんに釘を刺すと、めぐみんはビクッとしていたので、どうやら撃とうとしていたらしい。
「カズマ、私に任せて!つい最近、この状況に打って付けの魔法を覚えたの」
そう私はつい先日、新しい魔法を覚えたのだ。
その日は、アクアに回復魔法を教えて貰い、それを試したくギルドでウロウロしていた。
そこで、クエストで怪我をしたらしい魔法使い職の女の人を見かけ、回復魔法をかけてみたのだ。
本職程の効果はなかったものの、数回回復魔法をかけると、その怪我が綺麗に治っていた。
すると、その魔法使いの女の人がお礼をしたいと言い出したのだ。
私は魔法を試したかっただけなので、お礼を断っていたのだが、どうしてもということなので、何か魔法を教えて貰うことにした。
それを今から使おうとしている。
ワニは水棲生物。要するにみずタイプ。
みずタイプには、これだと相場が決まっている。
「カズマ、みずタイプには、でんきタイプの技が''こうかばつぐん''なのよ!」
「あんたそれってポケっ!って今電撃系の魔法を使ったら!」
何やらカズマが言っているが、私には聞こえていなかった。
「───くらえ!『ライトニング』!」
私が教えて貰ったのは、中級魔法の『ライトニング』。
私はその魔法を手前にいたワニにくらわせた…くらわせると、その電撃は水を伝って周りのワニ達にも、ダメージを与え、そして…
「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」
水に浸かっていた、アクアとダクネスも巻き込んでしまった。
□□□□□□□□
私達は現在ギルドに帰ってきていた。
あの後電撃をくらったワニ達は慌てて逃げて行ったのだが、ダクネスは電撃をくらっても尚ピンピンしていた。
そんなダクネスは、私を責めるどころか、『またあの電撃をくらわせてくれないか?』と、そんなことを言ってくれた。
おそらくわざとではないとは言え、仲間に魔法を当ててしまった私に気を使ってそのようなことを言ってくれているのだろう。
もう1人電撃をくらったアクアといえば、檻の中で気絶していた。
流石に気絶した状態で浄化は無理だろうと、檻の中から出してあげようとすると、カズマにとめられたのだった。
カズマ曰く、『あいつなら気絶しててもなんとか浄化するだろ』らしい。
正直、気絶させてしまった手前、そのまま放置するのは忍びなかったが、カズマの言葉に従うことにした。
すると、気絶したままにも関わらず、湖はみるみる浄化され、数時間後には、綺麗な湖となっていた。
ただ、浄化を終わっても尚、アクアは目を覚まさなかったので、檻に入れたまま帰ることにしたのであった。
檻を返した際に、ギルドの職員に変な目で見られたのは、言うまでもない。
アクアには今回の報酬にあわせて、私の貯金も少し加えておこうと、密かに考えていた。
そして今やっとアクアが目を覚まして、私達と一緒に座っているのだが、少し困った状態になっていた…。
「女神様ぁぁぁ!?」
アクアの対処に困っていた私達の目の前に、突然、アクアのことを女神様と呼ぶ青年が現れた。
「女神様、一体こんな所で、なにをしているのですか!」
その青年は周りの私達を無視し、アクアに近付くと、肩をゆさゆさしながらそんなことを言っていた。
その様子をみて耐えかねたダクネスが、その青年を止めに入る。
こんな状況にも関わらずアクアは、ボーッとしていた。
そう、気絶していたアクアだったが、目覚めると少しパーになっていたのだ。
詳しくは、目覚めてもボーッしており、時折、『ワニ怖い、ビリビリ怖い』と呟くだけになってしまった。
ちゃんと元に戻るかなぁと心配しながら、アクアを見ていると、カズマが何やら耳打ちしていた。
すると直後、
「そうよ、私は女神よ!」
と言って、突然立ち上がった。
良かった元に戻ったようだ。
ただ、「あれ、今まで何してたんだっけ?」と呟く声が聞こえたので、少し記憶障害があるようだ。
まぁそのままの方が幸せかもしれない。
そこからの展開は、その青年が少し可哀想に思えるものだった。
元に戻ったとは言え、未だ現状を掴めていないアクアに代わり、カズマが何やら青年と話していた。
そして、話し終えたかと思うと、私とカズマに怒りだした。
どうやら私が気絶させたことも話してしまったらしい。
その後、アクアだけではなく、めぐみんとダクネスにも目を向けるその青年。そしてその青年は、3人をパーティに勧誘しだした。
だが、私が心配するまでもなく、めぐみんとダクネスはそれを断り、アクアもよく分かっていなかったが、とりあえず断っていた。
そんなこんなで、その青年と話を終え、アクアも元に戻ったので、食事を済ませようとしたら、青年が突然、カズマに決闘を申し込んだ。
それもアクアをかけて。
渋々ながらその決闘を受けたカズマ。
ギルド内で、暴れるわけにもいかず、一行はギルドの外に行き、2人はそこで対峙していた。
流石に最弱職であるカズマには、分が悪いのでは無いかと、心配していたのだが、それは杞憂だった。
決闘が開始するやいなや、カズマお得意のクリエイトアースとウィンドブレスの目隠しコンボをくらわせ、ショートソードで斬りかかり、体勢を崩したところを、スティールで青年が持っていた剣を奪い、それで1発KO。
決闘に勝ったカズマは、青年の剣を持ったまま、ギルドに帰ろうとし、私達もそれについて行こうと思うと、2人の少女にそれを阻まれた。
「卑怯者!そんな不意打ちなんて卑怯よ!」
「そうよ!そうよ!それにその魔剣はキョウヤにしか扱えないんだから返しなさいよね!」
どうやら青年、キョウヤが持っていたのは魔剣らしく、それが彼にしか扱えないと聞いたカズマは少し落ち込んでいた。
そんなカズマだったが、難癖をつける2人を、変態鬼畜野郎カズマとなって追っ払い、私達を先にギルドに返して、カズマは1人魔剣を持ってどこかにいってしまった。
□□□□□□□□
翌日。
私達はギルドに集まり、特にやることも無くのんびりと過ごしていた。
アクアはというと、とてもご機嫌だ。
昨日、決闘から帰ってきた辺りで、その日にあったことを思い出し、少し騒ぎ出していたが、先に貰っていた報酬を渡すと、落ち着きを取り戻し、満足した様子になっていた。
そのタイミングで私も、アクアを気絶させたことを謝り、報酬に私の貯金を加えておいたことを伝えると、怒るどころから、とても嬉しそうだったので、とりあえず許してもらえたようだ。
一方、そんな幸せそうな顔をしていたアクアに対して、カズマは、何やらボーッとしていた。その手には大きく膨らました財布が握られている。
一体どこであんな大金稼いだのだろう。
「探したぞ、サトウカズマ!」
そんな大声がし、入口の方に視線を向けると、そこには昨日の青年が。
私はその青年を見て、昨日のことを思い出し、全てを悟った。
「君の噂は聞かせてもらったよ。鬼畜のカズマだってね。」
「おい!その話誰が広めてるのか詳しく!」
「アクア様、こんなやつよりも先に僕が魔王を倒してみせます。ですので、是非僕のパーティへ…」
「えっと、あんた誰?」
「ぼ、僕ですよ!御剣響夜です!」
性懲りも無く、アクアを誘うミツルギと名乗る昨日の青年だったが、アクアは彼のことを覚えていなかったらしい。
昨日も彼がいた時は、記憶を思い出すために、ほとんど上の空だったので、覚えていないのも仕方がないが、どうやらそれ以前にあっていたことすら覚えていなかったようだ。
打ちひしがれるミツルギを放置し、アクアはシュワシュワを注文しに行く。
そして少し気を持ち直したミツルギは、今度カズマに向けて頭を下げる。
「こんなことを言うのは、身勝手なのだが、あの魔剣は返して貰えないだろうか?あれは、アクア様から貰った大事な魔剣で…」
そこまで言うと、いつの間にか隣に来ていためぐみんに、肩をたたかれ、顔を上げる。
「まず、カズマがその魔剣を持っていない件について。」
それを聞き、カズマを見たミツルギの顔が青ざめていく。
「さ、サトウカズマ?僕の魔剣は…?」
「……売った。」
カズマは先程から持っていた、パンパンに膨れた財布を見せつけながらそう言うと、それを見たミツルギは、「ちくしょぉぉ!」と叫びながらギルドから出ていったのであった。
「一体なんだったのだ?それよりもさっきからアクアのことを女神、女神とどういうことだ?」
ダクネスが走り去っていく、ミツルギを見ながら、そんなことをカズマに聞いていた。
確かに昨日からアクアのことを女神女神と。
あれ?アクアが女神?
なにか引っかかるものがある。
もしかしたら失った記憶に何か関係のあることなのかもしれない。
私が必死に思い出そうとし、何か思い出せそうな気がした時、
「そういう夢を見たのか。」
という声が聞こえた。
どうやらアクアが女神になったという夢を見ただけだそうだ。
それなら失った記憶とは何も関係ないだろうと思い、思い出すのをやめた。
そして水を一口飲んだ時、ギルド中にその放送が響いた。
『緊急!緊急!全ての冒険者は、装備を整え至急正門まで!…特にサトウカズマさんとその一行は急ぎ正門まで!』
嫌な予感しかしない…。
「この素晴らしい世界にパー子を!」を読んで頂きありがとうございます。
いつもなるべく早く続きを書こうとしていたのですが、今週末に用事があり、それの準備などで、忙しいので、次の話は、少し先になると思います。
シナリオは何となく思い浮かべているので、時間が出来次第、また投稿しようと思います!
今後ともよろしくおねがいします。