この素晴らしい世界にパー子を!   作:Tver

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アンデッドの店主

 

 

 

俺の名前は、佐藤和真。

日本に暮らす、ごく普通の高校生だった。

そんなある日、不意なことで非業の死を遂げた俺だったが、死後の世界で女神に導かれ、この異世界で新たな人生をスタートさせたのだ!

 

そして俺は今、4人の仲間と共に冒険をしている。

俺を死後の世界で導いてくれた可憐な女神。

どんな敵も最強の攻撃魔法で屠るアークウィザード。

あらゆる攻撃を耐え凌ぐクルセイダー。

そして、俺と同じく日本から転生してきた、高い魔力を誇る美人冒険者。

 

そして遂に俺達は、先日魔王軍幹部デュラハンのベルディアを討伐したのだ!…したのだ…。

 

──したはずだったのだが、討伐で得た報酬は、どこぞの貴族がいちゃもんをつけてきたことによって、借金に変わり、俺達の暮らしは更に困窮していた。

 

俺の想像していた異世界生活と違う!

元々ジャージ1つでこっちの世界に来た時点で、ハードモードだったのだ。

先日なんて、冬将軍という何処ぞの日本人のせいで生まれたモンスターに首チョンパされるし…。

 

そう言えば天界で会ったエリス様は、優しかったなぁ。

あぁ、どうかエリス様、私をお救い下さい…。

 

──あれ、そう言えば俺のジャージどこいった?

何か嫌な予感がする、確かアクアが外にいたはず…。

 

「マイー、火を貰ってもいいかしら?焚き火が消えそうなの」

 

「いいけど、それ燃やしていいの?」

 

「いいのいいの、どうせ薪の代わりぐらいにしかならないから」

 

「てめぇ、何してんだぁ!」

 

俺の嫌な予感は的中し、危うく俺の唯一の日本の思い出が灰になるところだった。

 

「ちょっと何してくれるのよ!もう薪もなくて、燃やすものがないのよ!」

 

「お前の羽衣があるだろ?俺のジャージよりよっぽどよく燃えそうじゃねーか!」

 

「この羽衣は私の大切な女神の神器なのよ?燃やせるわけないじゃない!」

 

これが可憐な女神ことアクア。

確かに見てくれは女神なのだが…、こいつを放っておくといつの間にかトラブルを抱え、借金を作り出すただの駄女神だ。

こんなやつより、エリス様の方がよっぽど女神である。

 

「アクア落ち着いて、私のティンダーで暖めてあげるから」

 

「ちょ!?マイ!熱い熱い!」

 

そしてこの初級魔法と言いつつ、手から火炎放射器並の炎を出しているのが、俺と同じく日本からの転生者であるマイだ。

本名田中舞。日本からの転生者特有のチートとして、高い魔力を持っている…持っているのだが、こちらに送られて来る際に、どうやら頭がパーになったらしく、日本での記憶と知力を失ってしまった。

マイも同じく見てくれは、綺麗な長い黒髪で美人なのだが、どうも知力が低いせいで、仲間の悪い部分に影響を受けてしまっている。

 

その仲間というのが、先程のアクアに加え、最強の攻撃魔法を操るアークウィザードこと、1日1発撃てば動けなくなりただの荷物と化すめぐみん、そして高い防御力を誇るクルセイダーこと、不器用で攻撃が全く当たらない上にドMの性癖持ちのダクネスというメンツだ。

 

こんな仲間と一緒にいるから、アクアからは宴会芸、めぐみんからは爆裂魔法と要らないものばかり吸収している。

そして最近は、ダクネスに影響を受けて、筋トレをしているそうだ。これだけならいいのだが、性癖まで影響を受けたらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしている。

 

「そう言えば、なんでマイさんがここにいるんだ?」

 

「ちょっと引っ張らないで!」

 

俺はふと疑問に思い、アクアの羽衣を引っ張りながらそう聞いた。

マイは普段宿に泊まっていて、俺達が泊まっている馬小屋に来ることは滅多にない。

 

「あれ?言ってなかったっけ。少し前から私も馬小屋に泊まってるのよ?」

 

「えぇ!?そうなの!?」

 

「だって私のせいでできた借金みたいなものでしょ?少しでもお金を節約したくて…」

 

「じゃあ私がマイの泊まってた宿にいっていいかしら?」

 

羽衣も守るために俺から少し距離をとったアクアが何か言っている。

 

「お前それじゃあ、マイさんの苦労が水の泡じゃねぇか!」

 

「私は女神なのよ?女神な私はもっと優遇されてしかるべきだと思うの」

 

マイは少し頭がパーになってて呆れることもあるけど、根はいい人なんだなぁ、としみじみと思ったのであった。

まぁ隣に根からダメな、自称女神がいるから余計である。

 

「それよりもアクアー、そろそろ出掛けるぞ」

 

「えぇ私寒いから出掛けたくないんですけどー」

 

「神器って言ったっけ、その羽衣。売れば大層高い値がつくんだろうなー」

 

「カズマさーん、今日はどこにいくのかしら?」

 

俺の脅しにあっさりと態度を変える駄女神。

 

「これからどこかに行くの?」

 

「あぁ、ちょっと魔道具店に行ってみようかなって」

 

「魔道具店?」

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

俺達のパーティはバランスが悪い。

もっと攻撃が出来るスキルが欲しい。

まぁマイの初級魔法があれば、どうにかなる気もするが、彼女を侮ってはいけない。

いつ誰に感化されて何をしでかすか分かったもんじゃない。

キャベツ狩りの時なんて、一番前に出て爆裂魔法を放とうとしていたしな。

ある意味このパーティの中で、一番扱いが難しいかもしれない。

 

「カズマ、魔道具店で何を買うの?」

 

そう聞くのは俺の隣を歩いている、件のマイだ。

特にすることも無いということで、一緒についてきている。

そして今俺達は、マイが言う通り、魔道具店に向かっていた。

ただ今回の目的は買い物ではなく、その店の店主さんに用事があるのだ。

 

「ちょっと有効的な攻撃手段が欲しくてな」

 

「ねぇカズマさーん、魔道具店ならもっと近いところがあると思うんですけどー」

 

「うだうだ言ってないでついてこいよ。じゃないと、…剥ぐぞ?」

 

俺は後ろを歩くアクアに振り返り、手をかざしてそう言うと、アクアは何事も無かったかのように、黙ってついてくるようになった。

正直アクアは連れてきたくなかったのだが、今回会う相手が相手なので、念の為の保険である。

 

「カズマって時々、すっごく悪い顔をするよね」

 

隣でマイが何か言っているが、これは必要な措置なので仕方がない。

そう思いマイに弁解しようとそちらを向くと、マイが俺の後ろを見て苦笑いを浮かべている。

…そちらを見ても、アクアがただついてきているだけ。

 

なんだったのだろうかと思いつつも、再び視線をマイに戻すと、後頭部を抑えて、顔を歪めていた。

 

「どうしたんだマイさん、慣れない馬小屋で首でも寝違えたのか?それならアクアに回復魔法でもかけてもらったらどうだ?」

 

「寝違えたとかじゃなくてね、冬になってから時々痛くなっちゃって。自分で回復魔法かけてみたこともあるから、怪我じゃないと思うんだけど。この前の雪精討伐の時から痛みが増しちゃってね…」

 

「そ、そうだったのか…」

 

雪精討伐の話を聞き、冬将軍のことを思い出した俺は、バツが悪くなり気の抜けた返事をしてしまった。

 

気まづくなったので、前に向き直り歩を進めた。

──ふいに家の窓ガラスに目が向く。

するとそこには、俺達の姿が反射して映っていた…。

アクアが俺を挑発している姿もバッチリと映っていた。

マイが苦笑いしていた理由はこれか。

……帰ったら羽衣売り飛ばしてやろう。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

「よし着いたぞ」

 

「こんな所に魔道具店なんてあったんだ」

 

マイが疑問に思うのも無理はない。

ここは大通りから少し外れた、あまり人通りのない所にその店はあった。

この店の名前は、ウィズ魔道具店。

 

「アクア。先に言っておくが、店では絶対に暴れるなよ?」

 

「あんた私のことチンピラかなんかと勘違いしている訳?私は女神なのよ?そんな──」

 

アクアが何やら喚いているが、俺は気にせず店の扉を開ける。

 

「いらっしゃい…あぁぁぁぁ!」

 

「あああぁぁぁぁ!あんたリッチーね!リッチーがこんな所で店なんか構えていたのね!」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

こいつはつい先程の俺の言葉を忘れたのだろうか。

俺は店主さんに掴みかかっているアクアに、おもむろに近づくと、ショートソードの柄の部分で、頭を小突いた。

 

「いてっ」

 

「暴れるなっていっただろ。よおウィズ、久しぶり」

 

「あぁ!あの墓場で会った!」

 

後ろでずっとウィズの顔を見ていたマイだったが、今の今まで思い出せないでいたらしい…。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

彼女の名前はウィズ。

この魔道具店の店主にして、アンデッド達の王リッチーである。

 

どうして俺達がウィズと知り合ったかというと…

──そうあれは俺達がまだパーティを組んで間もない頃…と、この話をすると長くなるので、また別の機会にするとしよう。

 

簡潔に話すと、ウィズはリッチーではあるのだが、墓地で迷える魂を天に帰してあげるというとても優しい人なのだ。

色々あって、俺達がその仕事を引き受け、とりあえずは見逃すということになったのだが…。

 

女神であるアクアは、アンデッドであるウィズの存在をどうにも受け入れられないらしい。

 

「この店は客にお茶もださないのかしら?」

 

魔道具店なのだからお茶がでないのは、当たり前だと思うのだが、そんなことを、嫁をいびる小姑のような態度で言い放つ。

ウィズはというと、謝りながらお茶の準備に向かった。

本来、アンデッドの王であるリッチーは、とても強いのだが…、これに関してはさすが女神といったところか。

ウィズも逆らえば、簡単に浄化されると本能で感じとっているのだろう。

 

「そういえばカズマは、ウィズに用事があったの?」

 

「そうだった!なぁウィズ。スキルポイントも余ってるから、何かリッチーのスキルを教えてくれないか?」

 

言い終わると同時に俺の顔は紅茶まみれになった。

 

「アクア!何すんだよ!」

 

「あんた女神の従者たるものが、アンデッドのスキルなんて覚えて良い訳がないでしょ!」

 

「いつ誰がお前なんかの従者になったんだよ!」

 

俺とアクアは机を挟んでいがみ合う。

そんな中マイは、我関せずとばかりに、呑気に紅茶を啜っていた。

マイは喧嘩を見ると、止めるでもなく、乗っかるでもなく、ただただ傍観を決め込むようにしているらしい。

 

「カズマいい?リッチーって言うのはね、ジメジメした所に住んでるナメクジの親戚みたいなものよ?そんなリッチーのスキルなんて覚えたら、あんたまでナメクジの親戚になるわよ」

 

「ひ、ひどい…!」

 

「ならない。というか、リッチーのスキルなんて滅多に教えて貰えないだろ?強力なスキルを教えて貰えたらいい戦力アップになると思うんだが…」

 

俺はそう言うと、アクアの腕に首をロックされているウィズに目を向けた。

 

「あの、私は教えてもいいのですが…、その、先程女神の従者って…」

 

それを聞いたアクアは、ウィズを解放し、ドヤ顔を決めた。

そして、アクアが口を開く寸前で、ここに来て初めてマイが口を出した。

 

「という夢を見たらしいの」

 

「ちがうわよ!」

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

あの後、マイに余計なことを言われ混乱していたウィズに、アクアが自分の正体を明かした。

中々女神だとは信じて貰えないアクアだが、ウィズはアクアが女神だと信じたらしい。

まぁその際、自分のことを"頭のおかしい信者達の元締めの女神”と言わたアクアが、少し涙目になったのはまた別の話である。

 

今はマイがアクアを慰めつつ、商品を見ていた。

そんな2人が棚においてあったポーションを手に取った。

 

「あ、それは衝撃を与えると爆発するポーションでして、扱いには気をつけて下さいね?あ、そっちはフタを開けると爆発するポーションで…あっそれも温めると爆発する─」

 

「この店には、そんな危ない商品しかないのか!」

 

爆発するポーションのオンパレードで思わずつっこんでしまった。

当のアクアとマイもおっかなくて、商品を手に取るのはやめたらしい。

 

「違うんです、たまたまそこの棚が爆発するポーションの棚でして…、他の棚は安全ですから!」

 

それを聞いた2人だったが、もうポーションは怖いのか、魔道具を見ていた。

 

「そう言えば、あのベルディアさんを倒されたみたいですね。あの人は幹部の中でも剣の腕は相当なはずだったのに、すごいですね!」

 

ウィズはそんな世間話を始めた。

ただ何か言い方が引っかかる。

その言い方だとまるで…。

 

「何かベルディアと知り合いみたいな言い方だけど…」

 

「あぁ。私、魔王軍の8人の幹部のひとりですから」

 

魔王軍!?幹部のひとり!?

そんな爆弾発言をさも世間話かのように、笑顔で告げるウィズ。

 

「確保ー!!」

 

「ま、待って待ってアクア様!話を聞いて下さいー!」

 

どうやら少し離れていたアクアにも聞こえていたらしく、即座にウィズに対してマウントをとっていた。

アクアと一緒にいたマイはというと…

 

「ま、魔王軍の幹部…。ここは私が爆裂魔法を放って、自爆覚悟で─」

 

「っておい!やめろ!落ち着け!」

 

そう、一度落ち着こう。

本当に悪い奴なら、そんなことをここで暴露しないだろう。

とりあえずウィズの言う通り話を聞かないと。

 

「やったわねカズマ!これで借金はチャラよ、チャラ。むしろお釣りがくるんじゃないかしら?」

 

ウィズにマウントをとりながらそんなことを言うアクア。

アクアの下では、ウィズがバタバタしている。

 

「アクアも落ち着けよ。とりあえず話ぐらい聞いてやれよ。何か事情があるかもしれないだろ?」

 

俺はそう言うと、屈んでウィズに話しかけた。

 

「それで、ウィズ。冒険者という立場上、魔王軍の幹部は見逃せないんだけど…」

 

「違うんです!魔王さんから魔王城の結界の管理だけ頼まれまして…、もちろん今まで人に危害を加えたこともありません!それに私を倒したところで賞金もかかっていません!」

 

ウィズの言い分を聞いた俺とアクアは顔を見合わせた。

マイはというと、未だウィズを警戒しているようでブルブルしながら杖を構えていた。

 

嘘は言ってなさそうだし、見逃してもいいかなと思ったので、今まさにウィズを浄化しようとしていたアクアを、ウィズから引き剥がしたのであった。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

ウィズをとりあえず浄化しようとするアクアと、ウィズに対してずっとビクビクしていたマイを落ち着かせて、俺達はウィズから話を聴いた。

 

「つまり、その8人の幹部を全員倒せば魔王城への道が開かれるみたいなやつか?」

 

俺の問いにウィズは、必死に首を縦に振って答えた。

 

「じゃあこのリッチーがいる限り人類は魔王城に攻め込めないのね。なら浄化しましょ」

 

まだウィズを浄化することを諦めていないアクアを何とか説得し、この場を治める。

 

──これでやっとリッチーのスキルを教えて貰える。

アクアがいるせいで、全然話が進まなくて余計に時間がかかってしまった。

 

「マイさんもスキルポイント余ってるなら、一緒に教えて貰ったらどうだ?」

 

「私はいいかな。正直スキルポイントもあまり余ってなくて…」

 

「カズマ、マイまで悪の道に引きずり込むのはやめてちょうだい」

 

「そんな悪の道みたいな物騒なものじゃありませんからね?ではとりあえずカズマさんにリッチーのスキルをお教えしますね。これも以前見逃して頂いた恩返しに…」

 

そこまで言うとウィズは、言葉を詰まらせた。

 

「どうしたんだよ、ウィズ」

 

「いえ、その、リッチーのスキルは相手がいないと発動しないものばかりでして…」

 

なるほど、誰かが実際にリッチーのスキルを受けないといけない訳か。

ウィズがいくら温厚とは言え、使うのはリッチーのスキル。

ここはアクアに受けてもらうべきか。

いや、アクアだとまた話がややこしくなりそうだから、マイにお願いするとしよう。

 

「マイさんお願いできるか?」

 

「わ、私!?」

 

マイはまだ、ウィズにビビっているみたいだ。

 

「マイ、安心しなさい。この私がついている限り、あのリッチーが少しでも変なことをしようとしたらすぐ退治してあげるわ。それでリッチー、どんなスキルを使うつもりなのなしら?」

 

「絶対に害はないようにしますから安心して下さいね?スキルは、ドレインタッチなんてどうでしょうか?相手の魔力や体力を奪い取ったり、逆に分け与えたりできるスキルです」

 

「なるほど。使い方によったら、俺達のパーティの火力不足を補ったりできるかもな」

 

俺はドレインタッチを教えて貰うことにした。

マイがスキルを受けるためにウィズに近づく。

 

「ウィズ、し、信じてるよ?」

 

「そんなに心配なさらないで下さい?ほんのちょぴっとしか吸いませんから」

 

そう言うとウィズはマイの手を両手で優しく包んだ。

 

「ドレインタッチ!」

 

「わぁ、確かにほんの少し魔力がなくなった気がする」

 

「あんた本当にドレインタッチしか使ってないでしょうね?この私の曇りなき眼はごまかせないわよ?」

 

アクアがウィズを疑いの目で観察し、マイは魔力が吸われた感覚を思い出すかのように自分の手を見つめていた。

そして俺は、冒険者カードを取り出し、取得可能なスキル欄を確認し、ドレインタッチを習得した。

 

丁度その時に店のドアが開いた。

 

「ウィズさんは、いらっしゃいますか?」

 

そこには、初老を迎えながらも紳士風な男性が、被っていた帽子を手に取り、立っていた。

 

「あ、貴方は不動産屋の…」

 

「不動産屋?」

 

「はい、この方は街で不動産業を営んでいらっしゃる人でして…」

 

「ははは、そんな大層なものではありませんよ。この度は高名な魔法使いであらせられるウィズさんに直接依頼をするために来た次第です」

 

その不動産屋のおじさんが持ってきた依頼とは、とある物件に住み着いた悪霊の退治だそうだ。

何度祓っても、再び悪霊がやってくるそうで、困った不動産屋が頼ったのがウィズだったのだ。

 

ただ、そこに俺達…というかアクアがいた訳で…。

悪霊退治なら私でしょ!と言わんばかりにウィズから依頼を横取りしてしまった。

当のウィズも、「アクア様の方が適任ですからお願いしますね」と言って譲ってくれたのだ。

 

またこの不動産屋のおじさんも太っ腹で、もし悪霊退治が出来たのなら、タダでその物件に住んでいいと言ってくれた。

なんでも、俺達に住んでもらうことで、悪霊が住んでいるという評判を無くしてもらいたいとのことらしい。

馬小屋生活に限界を感じていた俺は、即座に快諾したのだった。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

「ここかぁ」

 

不動産屋のおじさんに書いてもらった地図を頼りに、依頼の物件に辿り着いた俺達だったが、そこには立派な屋敷があった。

 

「なんでも昔貴族が住んでいた別荘らしいですね」

 

「除霊の報酬にここに住んで良いだなんて、なかなか太っ腹な大家だな」

 

そう呟いたのは、めぐみんとダクネスだ。

依頼を受けた俺達は一度ギルドに行き、この2人にも声をかけたのだ。

俺達5人で住むことにしたので、それぞれの手元には、自分の私物を包んだ風呂敷が握られている。

 

「悪くないわね、ええ悪くないわ!この私が住むのに相応しい屋敷ね!」

 

「5人で住むにはちょっと大きい気もするけどね」

 

「でもアクア、そもそもここにいる悪霊を祓えるのか?大家さんが言うには祓っても祓ってもまたやって来るらしいぞ」

 

「この私を誰だと思ってるの?私は女神にしてアークプリースト、言ってみれば対アンデッドのエキスパートよ!」

 

確かにアンデッド相手なら、アクアが後れを取ることもないか。

当のアクアは、両手を前に突き出し、霊視紛いのことを始めていた。

 

「みえる、みえるわ。この屋敷には貴族が遊び半分で手を出したメイドとの子供、その隠し子が幽閉されていたようね。彼女の名前は、アンナ・フィランテ・エステロイド──」

 

どうしてそんな細部まで分かるんだと心の中でつっこみながら、俺達は霊視を続けるアクアを置いて、屋敷の玄関に向かった。

 

「あれ?マイさんは?」

 

ふと気が付き、俺がそう言うとめぐみんとダクネスが、揃って同じ方向を指さす。

そこには、アクアの霊視結果を頷きながら楽しそうに聴いているマイの姿があった…。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

その後俺達は屋敷の掃除をして、部屋割りを決め、悪霊が動き出す夜まで各自自由として、俺は自室のベットで横になっていた。

掃除がほとんど終わった頃になっても、まだ霊視を続けていたアクアと、それをずっと聴いていたマイには軽く呆れてしまったが、そんなことはどうでもよく、俺はこの世界で初めての自分の部屋とベットで寝れることのありがたみを噛み締めていた。

 

馬小屋生活から一転、屋敷暮しである。

これはウィズに感謝しないとな。

悪霊の方はアクアに任せていたら、今夜のうちには何とかなっているだろう。

 

そんなことを考えていると、久しぶりのベットだからか、抗い難い眠気に襲われる。

俺はその眠気に身を委ねたのだった。

 

 

──トイレ行きたい。

眠りから目が覚めた俺が思ったことだ。

どれくらいねていたのだろうか。

寝る前は窓から夕日が差し込んでいたが、既に日は落ち、外は真っ暗なようだ。

 

俺は寝返りを打ち…、直ぐに反対に寝返った。

えっと、何あれ…、あんなもの部屋にあったっけ。

いやないわぁ、あんなもの無かった!こわっ!

 

俺が見たのは、椅子の上に座ってこちらを見つめていた人形。

ホラーとしてはベタ過ぎるが、正直かなり怖い。

 

どうしようかと悩んでいると、辺りに気配を感じた…。

俺は恐る恐る目を開き、状況を確認すると…

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

ベットから飛び出し、一目散に部屋から逃げだした。

男として情けないとも思うが、自分の周りが人形で囲まれていたら仕方があるまい。

俺は人形から逃げ、アクアの部屋を目指した。

アクアなら悪霊達を退治してくれるはずだ!

 

俺は全力疾走で走り、アクアの部屋に着いた。

そしてドアノブに手をかけ、ドアを開く。

 

しかし、そこにいたのは、アクアではなく、暗闇に浮かぶ2つの紅い瞳で…

 

「きゃぁぁぁ!」

 

「ふわぁぁぁぁ!!ってめぐみん?」

 

そこいたのは、アクアではなくめぐみんだった。

 

「もう少しで漏れるところだったぞ」

 

「それはこっちのセリフです!」

 

実際は少しちびったのは内緒だが、めぐみんに事情を聴くと、どうやら俺と同じらしい。

人形に追われ、アクアに助けを求めて来たみたいだ。

それとあと、トイレに行きたいらしい。

 

あ、そう言えば俺もトイレ行きたい。

まぁ人形がうろつく中、トイレまで行くのは至難の業。

背に腹は変えられないだろう。

 

「ちょっとベランダから失礼するから、めぐみんは反対向いててくれ」

 

そう言うと、めぐみんに服を引っ張られ、阻止される。

 

「何1人だけ、済ませようとしてるんですか。私達は仲間でしょう?トイレだろうがなんだろうが、いく時は一緒です」

 

そんなことを今まで見たことがないくらい、朗らかな表情で言うめぐみん。

 

「って何邪魔してくれてるんだよ!お前紅魔族はトイレに行かないとかいってたじゃないか!」

 

「なんのことかさっぱりですね!1人でスッキリなんかさせませんからね!」

 

めぐみんはがっしりと俺にしがみつき、俺はそれを引き剥がそうと躍起になる。

こいつアークウィザードのくせに、なんでこんなに腕力があるんだ!

 

だが、しばらく取っ組みあっていると、ふとめぐみんの力が弱まった。

めぐみんを見ると、俺の後ろを見て青ざめていた。

俺は嫌な予感を感じつつも、後ろを振り返る。

そこには、窓一面に人形が張り付いていて…

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!」」

 

一目散に部屋から飛び出したのだった。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

何が楽しくて、トイレの前で歌っているのだろうか。

 

アクアの部屋から逃げ出した俺達は、何とかトイレに辿り着いた。

そして先に用を済ませた俺は、めぐみんのトイレを待っていたのだが…、めぐみんたっての希望で歌を歌っている。

 

「それは一体何の歌ですか?」

 

「これはな、落ちこぼれの少年を助ける青だぬきの歌だよ」

 

トイレの中からは、「青だぬき?」と呟く声が聞こえたが、俺の歌を聴く暇があったら早く済ませて欲しい。

こうしてる間にも、人形達が…こっちみてるじゃねぇか!

 

「おいめぐみん、早くしろ!まずい状況なんだ!」

 

「そんな急かさない出ください。カズマは先に済ませたでしょ?」

 

「そうじゃなくて!人形が!」

 

めぐみんが早くしてくれないと、あの人形達がこっちに来てしまう!

めぐみんを置いて逃げようかという考えが、一瞬頭を過ぎり、人形と反対の方を見ると…

 

「やばい!まじでやばい!本当にやばい!」

 

「そんなにドンドン扉を叩かないでください」

 

こんな時に呑気なことを言いやがって!

俺が人形と反対の方でみたのは、日本のホラーでよくみるあいつ。

白い服装をして、長い黒髪で顔が見えなくなってるあいつ!

なんでこんなとこに出てくるんだよ!

 

「アクア!助けて!」

 

「カズマ!どうしたのです!また人形がいるのですか!」

 

霊に挟まれた俺は、為す術なく、アクアに助けを求めるしかできなかった。

だんだん近寄ってくる、人形と日本式の幽霊。

あ、もうダメだ、と思ったその時。

 

「ターンアンデット!」

 

そんな絶望する俺の目の前を浄化魔法が過ぎる。

そしてその浄化魔法が当たった人形達は動かなくなった。

 

俺はその魔法の出処をみると、それは例のあいつが放ったもので…

なんで霊が浄化魔法を?

でも、さっきの声聞き覚えがあるな。

俺は恐る恐る、そいつに尋ねる。

 

「ま、マイさん?」

 

「あっ、カズマ」

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

翌日、俺とアクアは、ギルドにきていた。

アクアとダクネスのおかげで、悪霊は全て祓われ、その報告のためだ。

 

俺が日本のホラーにでてくるあいつだと勘違いしたマイには、あの後事情を聞いた。

どうやら、マイの部屋にも人形が現れたらしく、それを祓ったら、トイレに行きたくなったそうだ。

寝起きで冷静に対処出来るマイの精神には少し引いた。

またあの白い服装は、あれが1番安かったからだそうだ。

 

今後もあの格好で屋敷に居られると、夜が怖いので早めに新しい服を買ってもらうとしよう。

正直先に済ませてなかったら、漏らしていただろう。

 

 

「屋敷に住み着いていた悪霊を退治されたそうで、ギルドから臨時報酬がありますよ」

 

昨日のことを報告したところ、ギルドのお姉さんにそう伝えられた。

この報酬で、マイに服を買おう。

 

「でもどうしてあの屋敷に悪霊が住み着くんですかね?」

 

「それがですね、あの屋敷の近くに共同墓地があるじゃないですか。そこに──」

 

この後、俺はアクアに説教をし、臨時報酬は受け取らなかったのだが、その理由は語らないでおこう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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