奴隷少女と料理人   作:特選からあげ

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タラのボンファム4

『お待たせしました。こちら焼きトマトのカプレーゼです。』

 

よしっ、なんとか噛まずにうまく言えた。

私が料理をそれぞれに出すと、母親が初めて口を開いた。

 

『カプレーゼって生のトマトで食べるイメージだけど、なぜあえて焼いたのかしら?』

 

なぜ?なんでだろう。私が困っていると、

 

『当店では出来る限り苦手な食べ物を出さないように工夫しています。トマトが苦手な方でも焼くことによって甘みが出ますので、食べやすいかと考えています。』

 

すかさずディーンさんの助け船が出た。

 

なるほど、たしかに生のトマトは苦手でも火が入れば食べられる人も多いものな。勉強になる。

私も援護射撃しなきゃ。

 

『因みにトマトはチーズと一緒に食べることによって、栄養の吸収がよくなります。旨味も増えて、栄養もしっかり取れる調理法ですね。』

 

昔、自分のお母さんに教えられた知識だが、間違ってないはず。

お客さんたちは説明を聞くと、ゆっくりとナイフとフォークで食べ始めた。

 

『これおいしー!こんな甘いトマト初めて食べたよ!』

息子が屈託のない寝顔で喜んでいる。

そんな様子を見て、夫婦も顔を見合わせて笑った。

さっきまで流れていた微妙な空気感はもうなくなったとみて良いだろう。

たった一口で空気を変える、そんな力が料理にはあるんだなぁ。

 

『店員さん、気にいったわ。この後の料理も楽しみにしてるわね。』

母親が私に目を合わせて柔らかな顔で言った。

 

 

『はい、本日のコース、特にメインの魚料理にはご期待ください。』

まぁ私が作るわけではないんだが、ディーンさんの出すメインだから、美味しくないわけないだろうし。

 

お客さんの席から離れると、

『良い説明だったね。料理ってのは10点の味があるとして、今のように説明や演出、組み合わせなんかで、20点にも30点にもなるからね。ぼくの料理を広げてくれてありがとう』

 

『い、いえ、私はただ昔母から聞いたことを伝えただけです。』

 

『謙遜することはないさ。誰しも知識ってのは誰かから教えてもらうものだから。初めから何でも知ってる人間なんていないだろ?』

 

 

ディーンさんはやっぱし口が上手いな。

何も言い返せず私の手柄になってしまった、、、嬉しいけど。

 

 

その後はエビとゴマのサラダと人参のポタージュを出してドリンクもおかわりを入れた所でディーンさんがメインの調理にとりかかった。

 

タラを焼く良い音が聴覚で空腹を刺激する。

肉や魚が焼ける音ってのは人間の食欲を刺激する抜群のスパイスだ。

 

前菜、スープ、サラダで、完全に心を掴まれたお客さんたちは今か今かとメインの登場を待っている。

 

『ボンファムって母さん何かわかる?』『全然知らないわ、想像もつかない。』

夫婦が会話する中、息子は静かにその時を待ってる様子だ。

もう母親の誕生日ってことを忘れて純粋に料理を楽しんでいるように見える。

 

 

 

そんな様子を見ていると。

『はい、さくらお待たせ。タラのボンファム〜エビのトマトクリームソースと魚介のクリームソース〜だよ。 途中でこのパスタを絡めて食べるように伝えてね。』

 

 

はい、と返事したあと、しまったと気づいた。

私はこの説明を考えておかねばならなかったのだった。

 

どうしよう、どうしよう思考がプチパニックで停止している。

 

『あ、できたみたいだね、父さん母さん。』

そんな男の子の声でハッとして。

楽しみにしてくれている料理、冷めないうちに運ばねば。

覚悟を決めて、頭に浮かんだ言葉をそのまま伝えよう。

 

 

『お待たせしました。タラのボンファム〜エビのソースと魚介のダブルソースです。』あ、ちょっと違うこと言ってる。意味は同じだからいけるか?

 

『あと、良かったらこのパスタをどおぞ。』

 

『ん?このパスタただの茹でたパスタですわよね?どうやってたべるの?』

 

『この料理を最後まで美味しく召し上がっていただくためのものです。よろしければ、特におススメの召し上がり方をお伝えしてもよろしいですか?』

 

『ぜひお願いするわ。』

 

『はい、こちらのパスタは最後にパスタソースと、絡めて召し上がるためのものです。そのためには残ったタラをナイフで小さくカットし、二種のソースと混ぜていただきたいと思います。』

 

『え、全部でぐちゃぐちゃに混ぜちゃうの?ちょっと汚くなってしないかしら?』

 

『お客さま、料理とは何かと何かを混ぜることです。今回のパスタはお客さまにも料理をしていただくと考えおります。どうか、自分の一番ベストな状態まで料理してください。』

 

『そお言われると悪い気はしないわね。店員さんの言う通りにするわ。』

 

私はぺこりとお辞儀をして、ディーンさんのもとへ戻った。

 

 

『き、緊張しました。うまく言えてましたでしょうか?』

 

『いや、びっくりしたよ、さくら。君ってあんな饒舌だったの?文句のつけようがないよ』

 

自分では正直しゃべっている時頭は真っ白だったので、そおいわれてもしっくりこない。

でもディーンさんの顔を見ると、ちゃんと言えてたんだろうなって気にさせてくれる。

良かった、良かった。

 

 

ふとお客さんの方を振り返ると、三人ともが沈黙していた。

 

でもこの沈黙が意味するものは悪い意味ではないことを私は知ってる。

タラをどれだけ残すのか、ソースをどれくらい混ぜるのか。そおいったことを考えながら食べていると自然と無口になってしまう。

気持ちはすごくよく分かる。

 

だからこそ全てを食べた後には、

 

『ふーおいしかったぁ。デザートも口の中がさっぱりしてよかったわねぇ。二人ともステキな誕生日をありがとう』

 

自然と感謝や喜びの感情が浮かぶのだろう。

家族3人で嬉しそうに笑い合う姿を見ていると、寂しさや満足感など、複雑な感情に胸を締め付けられた。

だめだ、だめだ最後は笑顔でお客さんを送らなきゃ。

 

 

『ありがとうございました!!またお待ちしていますね。』

 

もう入店時の面影はどこにもなく、笑顔の素敵な気品漂うお客さんの姿がそこにはあった。

『今日は、ありがとう。お陰で素敵な誕生日になったわ。また寄らせてもらうわね。』

 

 

私はお客さんにもう一度頭を下げると、見えなくなるまで見送った。

 

 

 

 

 

ふぅ疲れたなぁ。でもやっぱり私は料理に携わる仕事が好きだって再確認できたな。

 

なんて一人もの思いにふけっていると。

 

 

『さくら、お疲れ様。早速で悪いけど、テーブルを綺麗にして、次のセットをお願いしてもいいかな?次も3名さまだからさ。』

 

 

一瞬ディーンさんが何を言ってるのか分からなかった。

しかし、冷静になって思い出した。

そうかこの店は2部制だ。

まだお腹のすかしたお客さんがこれから来るのか。

 

慌ただしいが、お客さんを笑顔に変えれる。

次のお客さんはどんな人だろう。

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