深紅の槍 黒殻を穿つ 作:リルリルjp
花に水をあげる。この時間が好きだ。
自らの手で、1つの生命を育てている。
立派に育つか。それとも途中で枯れてしまうか。
願わくば、この花たちが立派に育ってくれていると嬉しい。
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花屋というのは、存外体力を使う。重い土を運んだり、大量の水を運んだり。28にもなると、少し前に比べて運べる量が減ったと思うその日も、私は朝から大忙しだった。祖父母、両親が旅立ち、私1人での経営となってからだいぶ経つ。私の裁量で仕事が決められる。それは楽しくて、でもやっぱり難しくて、そして何より────寂しかった。
その日も、私は朝から肥料を運んでいた。大きな袋に詰められた肥料は非常に重く、ふらついた足取りで狭い通路を行ったり来たりしていた。
だからだろうか。足下にあった枝に気づかず足を滑らせた。
一瞬の浮遊感。その後に来る痛みに備え、ぎゅっと目を閉じたその時である。
フッと、体に二度目の浮遊感。
そして、体を地面に叩きつけた。
違和感を感じて目を開ける。
吹き抜ける風、急激な気温の変化。
そして何より、目の前に広がる荒地。
お店で転んだら、知らない場所に転移していた。
足下には運んでいた肥料がある。このことから、私が気を失って夢を見ていたと言ったパターンはないだろう。
周りを見る。荒れ果てたちには何もなく人も居ない。
『なぜ』だとか、『どうやって』と言った疑問が、いくつも思い浮かんできた。
ふと、遠くで何かが動いたのが目に入る。
「あれはなんだろうか」
そう思っているうちに、何かは次第に近づいてきた。
人影だ。それも何人も。
心細かったところで目に移った人影に安堵を覚える。
しかし、人影が近づくにつれ、不審な点がいくつも見つかった。
なぜ、彼らは兜なんかを被っているのだろう。
なぜ、彼らは奇妙な服を着ているのだろう。
なぜ、彼らは槍や剣と言った武器を装備しているのだろう。
次第に安堵が恐怖に変わっていく。
そして先頭を歩く金色の長髪の男が私に気づいた。
彼が兵士に声をかける。すると兵士は我先と駆けだした。
「ひっ」と、小さく悲鳴をあげる。
右を見ても荒地。左を見ても荒地。隠れる場所もなく、逃げ切れるほどの足の速さもない。
いわゆる、『詰み』の現状。泣きたかった。
「なんで私が」とか。「死にたくない」とか。
ただ、そんなことよりも、1つ心残りがあった。
「花屋を守れなくなってしまう」
祖父母、両親。私たちの思い出の場所。
私には子供もいないから、ここで死ねば、あの花屋はどうなるだろう。あの花達はどうなるだろう。
兵士達が槍を振りかぶった。
放たれた槍は豪速を持って私に向かってくる。
走馬灯だろうか。全てがスローに見えた。
そんな中。『死にたくない』が、『死ねない』に変わった。
神でも、仏でも、なんでもいい。どうか、どうか、どうか。
どうか私を、助けてください。
その光景を、今でも覚えている。降り注ぐ槍。躍り出た青い背中。振るわれる深紅の槍。その背中が、大丈夫と言っているように思えて。私の意識はプツンと切れた。