深紅の槍 黒殻を穿つ   作:リルリルjp

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本日2本目です。


第3話

 あくる朝、再び眼を覚ます。すると、再び彼がウサギを捉えていた。

「よっ。どうしたマスター。なんかあったのか?」

 彼はいつも通りに過ごしていて。

「なんでもないです。それより薪を拾ってきてください」

 すれ違いざまに、ぽんと頭に手を載せられる。

「アンタがマスターである限りはオレもどこにもいかねぇからよ、そこんとこだけは安心してろ」

 そう言って彼は飛び去っていった。ひどく安心したからか、瞳から雫が溢れてくる。申し訳ない。私は彼が私を見捨ててしまったと決めつけて泣いていた。彼を信頼していなかった証だろう。この現状。せめて彼ぐらいは、全面的にも信頼してもいいはずだ。

 

 

「おいマスター、南東の方角に民家を見つけたぞ」

 それは思っても見なかったことだった。2日も移動をし続けたのに人に会わなかった。この事から私は、この世界には既に人が存在しないとばかり思っていた。

「民家ですか⁈人はいたんですたか?」

「いや、見た感じはいなかった。ま、行ってみないとわからんがねぇ」

「行きましょう。ここがどこかの手がかりもつかめるはずです」

 

 

 既にヘトヘトにもかかわらず、希望が見えると元気が出るのは少し不思議だ。民家の中にはきっと何かがあるはずだ。それが地図にしろ、食糧にしろ。何より、雨風をしのげるような場所が得られるのは大きい。

「マスター、浮かれるのはいいが最悪も想定しておけよ。民家が罠で、敵の魔術師が拠点にしている可能性もあるからな」

「あ。そうですね。確かにその可能性もありました。油断大敵。昨日の二の舞にならないように気をつけます」

 今日の荒野はだいぶ快適な気候になってきた。気温的な面もあるが、曇天によって日差しが当たらないのがいちばんの理由であろう。

 

 

 

 ただ、ただ、歩き続ける作業というのは気が滅入ってくる。

 ふと、右を歩く、彼を見る。

 この戦争は、願いを叶えるための戦争だと彼は言った。では、はたして彼はどんな願いをもってこの戦いに身を投じたのだろうか。

「ねぇ、ランサーさん。あなたは──ー」

「止まれ! 民家の前に人影だ」

「民家? まだ私には見えませんが?」

「サーヴァントと一般人じゃ視力が違うんだよ。それよりどうする? このまま向かうか?」

「えと、警戒はしつつも向かいましょう。一般人なら交渉を、魔術師関係ならば…………」

 その先の言葉が出てこない。

 私が帰るには、最終的には戦争に勝たなくてはならないのに。『殺す』と言った行為にどうしても嫌悪感を抱かずには居られない。

「何にせよだ。取り敢えず民家に行ってみるぞ」

 

 

 私にも民家が見えてくると、確かに1人、男が立っていた。

男は槍を右手に、こちらを睨みつけてくる。

「その隙のなさ、余程名のある武人と見受ける。儂は『ランサー』李書文、立会いを所望する」

 彼を見る。彼は衝撃を受けたような顔をしていた。

「『ランサー』といったな。どういうことだ? 聖杯戦争では一クラスあたり1騎のサーヴァントしか呼ばれないんじゃなかったのか?」

「ふん、今は人理焼却の危機。普通の聖杯戦争なわけがなかろう」

「なに? 人理焼却だと? おい、それはどういう──」

 

 キィン

 

 槍同士がぶつかる。

 

「武人が2人出会ったのだ、卑怯とは言うまい」

 

「は! 上等だ!」

 

 キィン。

 

 虚空に火花が散る。

 

 目視できない速度で振るわれる槍。彼らが腕を振るう度に幾多もの残像が浮かび上がる。

 

 槍は最速の武器だと言う。リーチの長さから繰り出される刺突はもはや神速。素人の私にも鋭さを感じさせてくる。

 

 ザッ! 

 

 李書文が間合いを開けた。

 

「どういうつもりだ?」

 

「なに、貴様のマスターにそのような顔をされてはな。気が散って仕方がない。それに、全力では戦えんのだろう。槍を合わせればその程度わかる。それではひどくつまらんではないか」

 

「さらばだ」

 彼は光に溶けて消えてしまった。

「なんとも自分勝手なサーヴァントだこと。それよりマスター、小屋が空いたぜ。今日からはここを拠点とするか」

 その言葉に、私は頷いた。

 

 

 小屋の中は広く、キッチン、リビングの二つに加え、寝室もあった。

 

「じゃ、俺はこの家の周りを見渡してくる。他にアイツみたいなやつがいないとも限らないしな。」

 ランサーさんは家の外に出て行った。

 

 ドサッ。

 腰が抜けた。

 正面から当てられた殺気。

 濃密で、粘りつくような死の気配。

 浴びせられたのは私ではないのに、酷く苦しかった。

 その後に続いた戦闘。視認すらできない速度で振るわれる槍。

 もし、あの場で彼が私を狙ってきたら。

 もし、あの場で彼が引かなかったとしたら。

 そんな『もしも』を考えると震えが止まらない。

 槍の雨や獣人の矢。確かにそれらは私を簡単に殺しうる。しかし、殺気の面で言えば、天と地ほどの差がある。近くにいるだけで死を連想してしまった。

 この先、私がこの戦いを生き残るにはこの程度の事は何度も起こるだろう。その度に、彼は私を気遣って全力で戦えない。それでは本末転倒だ。ぐっと恐怖を抑え込む。なんとか体を起こす。膝は笑っているが、立つことはできた。大きく息を吸って吐く。それだけで、少しは気もマシになった。まだ、私は頑張れる。

 

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