深紅の槍 黒殻を穿つ   作:リルリルjp

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今日から1日1話になります。


第4話

 民家はもぬけの殻だった。数十日も前から使われた形跡はない。おそらく持ち主はすでにこの世には居ないのだろう。

 

 私の作業は家の修理や掃除から始まった。手押しポンプの水道管は錆びてしまい真っ赤な水しか出てこない。食糧の備蓄も、物によっては傷んでしまっている。幸い家自体は穴もなく、雨漏れや動物による被害はないと考えていいだろう。

 

 家中の扉や窓を開け、積もった埃を払う。キッチンやリビング、寝室。それにこの家には書斎があった。机が一つに椅子一つ。大きめの本棚2つ分。めいいっぱいに詰められた本。多くは英語で書かれており、背表紙はどれも小洒落た文字になっていた。これだけ多くの本があれば、せめて地図の一つや二つは見つかるだろう。さっそく彼にも手伝ってもらおう。

 

「ランサーさん、英語もスラスラと読めるんですね。私はどうにも苦手で……」

 彼は本棚を前にして、背表紙にざっと目を通すと、いくつかの本を取り出し私に渡してきた。

「おそらくこの国の歴史書や地図がそん中にはあるはずだ。オレは歴史書を見る。マスターは地図を見てくれ。何か見覚えのあるものがあったら報告し合おう」

 

 頷き、本を一冊手に取った。パラパラとめくるが、全く頭に入ってこない。ため息が出てしまう。もっと良く勉強をしておくべきだった。せめてイラストの1つや2つが見つからないかとページをめくる。見覚えのある女性の肖像画が載っていた。はて、これは誰だろうか? さらにページをめくっていく。

 

「ランサーさん! ありました! 地図です。世界の地図がありました!」

 

 一部の国は写ってはいないが、それは確かに私たちが普段目にする地図だった。ならばここは地球に限りなく近い場所なのだろう。またひとつ、希望が見えた気がした。

 

 地図を指差す。

 

「イギリスが地図の真ん中にきています。ここはイギリスなのでしょうか?」

 

「いや、イギリスならここまで荒野が続かないはずだ。となるとイギリス関連の国家ってとこだろ」

 

「イギリスに関連した国家ですか?」

 

「そうだ。どこか思い当たるか?」

 

 気候からして、アフリカの方面はない。また、東南アジア方面も同じ理由で除外する。とすると、オーストラリアかアメリカあたりだろうか。

 

「そこまで詳しい場所がわかるわけでもない。他の本でも探してみるか」

 

 私たちは地図の捜索に励んだ。

 

 

 

「結局世界のどこにいるのかがわかった程度か」

 

 干し肉をかじりながら彼が話す。保存食や鍋、薪といった基本的なものは案外多く残っていた。

 

「はい。しかし、ここが北アメリカ大陸だとわかっただけでも大きな進歩です。ある程度の地理なら私も覚えていますし」

 

 あれから3時間。私達は情報収集に努めていた。これといったものが見つかることはなかったが、歴史書から地区の名前程度はいくつも見つかり、ここが北アメリカ大陸であることが確定した。

 

「明日は少し遠くの探索にでもいってくる。この民家が見つかったんだ。ここだけとは限らない。家の1つや2つくらい

 見つかるだろ」

 

「そうですね。ではお願いします。私は引き続きこの家の中の整理をします。案外掘り出し物なんかが見つかるかもしれませんし」

 

 

 

 食事が終わると寝るしかない。寝室は一つしかなく、ベッドは一つしかなかった。

 

「ベッド、一つしかありませんけど……。あの、私は気にしません。その、一緒に使うことになっても仕方ないといか……」

 言葉尻が細くなる。

 流石に私1人がベッドを使うのはバツが悪い。それに彼とて今は疲れているだろう。

 

「いや、大丈夫だ。1人で使ってくれ」

 

「そんな! 睡眠は大切です。その、あなたは今まで動きっぱなしでしたし。あの、本当に気にしません。あなたのことは信頼していますから……」

 

 彼は渋々、ベッドに横になった。彼の隣に背中合わせで横たわる。毛布も一枚しかない。必然的に、背中がくっつく。一つの布団で誰かと寝るのは早逝した両親以来だろう。誰かとここまで深い仲になることはあっただろうか。背中に感じるじんわりとした体温が暖かく、落ち着いた気持ちで私の意識は落ちていった。

 





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