深紅の槍 黒殻を穿つ 作:リルリルjp
今日から1日1話になります。
民家はもぬけの殻だった。数十日も前から使われた形跡はない。おそらく持ち主はすでにこの世には居ないのだろう。
私の作業は家の修理や掃除から始まった。手押しポンプの水道管は錆びてしまい真っ赤な水しか出てこない。食糧の備蓄も、物によっては傷んでしまっている。幸い家自体は穴もなく、雨漏れや動物による被害はないと考えていいだろう。
家中の扉や窓を開け、積もった埃を払う。キッチンやリビング、寝室。それにこの家には書斎があった。机が一つに椅子一つ。大きめの本棚2つ分。めいいっぱいに詰められた本。多くは英語で書かれており、背表紙はどれも小洒落た文字になっていた。これだけ多くの本があれば、せめて地図の一つや二つは見つかるだろう。さっそく彼にも手伝ってもらおう。
「ランサーさん、英語もスラスラと読めるんですね。私はどうにも苦手で……」
彼は本棚を前にして、背表紙にざっと目を通すと、いくつかの本を取り出し私に渡してきた。
「おそらくこの国の歴史書や地図がそん中にはあるはずだ。オレは歴史書を見る。マスターは地図を見てくれ。何か見覚えのあるものがあったら報告し合おう」
頷き、本を一冊手に取った。パラパラとめくるが、全く頭に入ってこない。ため息が出てしまう。もっと良く勉強をしておくべきだった。せめてイラストの1つや2つが見つからないかとページをめくる。見覚えのある女性の肖像画が載っていた。はて、これは誰だろうか? さらにページをめくっていく。
「ランサーさん! ありました! 地図です。世界の地図がありました!」
一部の国は写ってはいないが、それは確かに私たちが普段目にする地図だった。ならばここは地球に限りなく近い場所なのだろう。またひとつ、希望が見えた気がした。
地図を指差す。
「イギリスが地図の真ん中にきています。ここはイギリスなのでしょうか?」
「いや、イギリスならここまで荒野が続かないはずだ。となるとイギリス関連の国家ってとこだろ」
「イギリスに関連した国家ですか?」
「そうだ。どこか思い当たるか?」
気候からして、アフリカの方面はない。また、東南アジア方面も同じ理由で除外する。とすると、オーストラリアかアメリカあたりだろうか。
「そこまで詳しい場所がわかるわけでもない。他の本でも探してみるか」
私たちは地図の捜索に励んだ。
「結局世界のどこにいるのかがわかった程度か」
干し肉をかじりながら彼が話す。保存食や鍋、薪といった基本的なものは案外多く残っていた。
「はい。しかし、ここが北アメリカ大陸だとわかっただけでも大きな進歩です。ある程度の地理なら私も覚えていますし」
あれから3時間。私達は情報収集に努めていた。これといったものが見つかることはなかったが、歴史書から地区の名前程度はいくつも見つかり、ここが北アメリカ大陸であることが確定した。
「明日は少し遠くの探索にでもいってくる。この民家が見つかったんだ。ここだけとは限らない。家の1つや2つくらい
見つかるだろ」
「そうですね。ではお願いします。私は引き続きこの家の中の整理をします。案外掘り出し物なんかが見つかるかもしれませんし」
食事が終わると寝るしかない。寝室は一つしかなく、ベッドは一つしかなかった。
「ベッド、一つしかありませんけど……。あの、私は気にしません。その、一緒に使うことになっても仕方ないといか……」
言葉尻が細くなる。
流石に私1人がベッドを使うのはバツが悪い。それに彼とて今は疲れているだろう。
「いや、大丈夫だ。1人で使ってくれ」
「そんな! 睡眠は大切です。その、あなたは今まで動きっぱなしでしたし。あの、本当に気にしません。あなたのことは信頼していますから……」
彼は渋々、ベッドに横になった。彼の隣に背中合わせで横たわる。毛布も一枚しかない。必然的に、背中がくっつく。一つの布団で誰かと寝るのは早逝した両親以来だろう。誰かとここまで深い仲になることはあっただろうか。背中に感じるじんわりとした体温が暖かく、落ち着いた気持ちで私の意識は落ちていった。