深紅の槍 黒殻を穿つ 作:リルリルjp
男が立っていた。
黒のフードをかぶり、身体中に赤黒い文様がいくつも刻まれている。そして何よりも──ー
「ランサーさん?」
似ている。それどころの次元じゃない。声も、身体も、声も。まさに同一人物といっても過言じゃない。
「さっすがくーちゃん。一発で当てるなんて」
男の背後からピンク色の髪の女が出てくる。
女はまるで恋人のように男に絡みついた。
「引っ込んでろ。まだ殺ったわけじゃない」
その声を聞き、彼を見る。
腹部から槍を引き抜き、血が溢れ出す。それでも彼は立ち上がった。明らかに戦闘は不可能にも関わらず、何もなかったかのように槍を構える。
ふと、頭の中に彼の声が響く。
『マスター、聞こえるか?」
突然の事態に目を見開く。
『念話だ。とにかく説明は後だ。傷が深い。隙を見て逃げるぞ』
「その顔はオレかぁ? 随分と面白いかっこになってんじゃねえか」
血を地面に吐き出す。
彼は自分に注目させるために男を煽る。
「関係ない。俺は俺だ。他の何者でもない」
まるで興味がなさそうに男は反応する。
無機質な視線や言動。彼にある温もりは感じられない。まるで感情を削ぎ落としたかのような存在だ。
「くーちゃんはね、私が聖杯でつくったの。さいっこうでしょ!」
女が自慢するように出てくる。無邪気な顔の裏には狂気が垣間見える。
「メイヴか。またくだらねーことしたなお前」
「ふふふ。用済みが何か言ってるわ。くーちゃん、やっちゃって!」
「了解した」
男が腕を振るう。
それだけで離れた位置に落ちていた槍が手元に戻っていった。
緊張が高まる。遂に男が膝を屈める。
ズダァンッ!
不意に、音が鳴り響く。
銃弾が女に向かって放たれた。
「舌を噛むなよマスター」
彼が私を抱えて走り出す。
人型機械が動き出し、女に群がって行く。
男は女を守るのに忙しいようだ。
ふと、男がこちらを向く。ふと、目があったように感じた。その目は強い飢餓に襲われたようであり、少しだけ寂しそうに感じた。
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荒野を走る。ただ、ひたすらに走る。地理も方角も、何にもわからない。もし追い付かれたら死ぬ。ただ、それだけだ。
彼の速度が落ちる。減速は止まらず、遂に彼が足を踏み外した。咄嗟に自分の頭を抱える。私達は地面を転がった。
彼に駆け寄る。左下腹部の出血が酷い。ここまで走れたのが異常なほどだ。
「ランサーさん。死なないで! ねぇ、ランサーさん!」
上の服を脱ぎ傷口に押し付ける。血は止まらない。むしろ出血は酷くなる一方だ。
「すまねぇマスター……。オレは、ここまでの様だ……何とか、返してやりたかった、出来そうにねぇ……」
「喋らないで! やだ! 死んじゃやだ!」
涙が止まらない。いやだ。彼が死ぬなんて絶対に嫌だ。
ごぽりと血が溢れる。
「やだ、やだ。死なないで! 死んじゃやだ。────死なないでっ! ランサーさんっ!」
不意に肩が熱くなる。躍動するようなナニカを感じる。
その瞬間、奇跡が起こった。
彼の血が止まり出す。傷がじわじわと塞がって行く。
────ーそれでも足りない。傷は彼を少しずつ蝕んでいる。
ああ、もう無理なのだろうか。
「おや。大きな爆発から馬鹿弟子の気配を感じて追跡してみれば。死にかけてるではないか。私はそのような軟弱に育てた覚えはないのだがな」