深紅の槍 黒殻を穿つ 作:リルリルjp
明日投稿出来るかは未定です。
真っ黒なタイツにヴェール。真っ赤な瞳は彼と同じなのに感情の起伏が見え辛く少し不気味だ。
馬鹿弟子と言っていたのだから彼女は彼の師なのだろう。ぱっと見はそうは見えない。見た目は私と同じかそれより少し若い。彼との年齢差はそんなにあるようには見えない。それでも彼が彼女を警戒してないあたり本当なんだろう。
彼女は拾った石に紋様を刻むと彼に渡す。彼が石を握ると顔に生気が戻っていった。その様子を見て少しだけ安心した。彼女は彼を背負って歩き出す。私は置いていかれないよう、一歩後ろをついて行く。
黒衣の彼女と荒野を歩く。会話の無い道中というのは、いろんなことを考えてしまう。例えばそう、町に行ったこと。
正直私は彼が死ぬだなんて一度も考えていなかった。この世界に来てから、彼は私を常に救ってくれた。最初の槍の雨、森の獣人、民家の武人、町の人型機械。私だけなら生き残ることはできなかった。それに町での槍の投擲。ただの投擲の威力とは到底思えないそれは私の慢心に拍車をかけていた。
あの時、私は全く周りの警戒をしていなかった。それどころじゃない。町に行く決断をした時もそうだ。心の何処かで彼がいれば大丈夫だと思っていた筈だ。彼が貫かれた時、初めて彼の死を想像した。彼も人で、心臓は一つ。何かの拍子に死んでしまってもおかしくは無い。私が彼の、足を引っ張っている。
「おい、何を考えているのかは知らんがその顔はやめろ。辛気臭くなる」
不意に彼女が振り返った。
「大方この馬鹿が警戒を怠ったのだろう。まったく、仕方のないやつだ」
彼女は大げさに溜息を吐いた。
「そんな、違います……。私が……私が慢心していたのが悪かったんです」
「馬鹿者。お前のそれは慢心ではない。第一、お前のせいにすればこの馬鹿が喜ぶとでも思っているのか?」
それは違う。彼のことだ。責任は自分にあるとでもいうことだろう。
「それに主人を守るのが馬鹿の役目だ。にも関わらず、主人が『戦士のことが心配で送り出せません』とでも言ってみろ? こいつのプライドはどうなる」
「それは……」
まさにその通りだ。
「それに、慢心しろとは言わないが信頼はしろ。戦士の主人なのだ。我が臣下は最強である。そう信じることがお前の仕事だ」
確かにその通りかも知れない。私に出来ることは多くない。それでも、信じると決めたのだ。最後まで、彼を。
「そうだぜマスター。今回は少しミスっちまったが次はやる。俺の槍にかけてアイツを仕留めてやるよ」
彼が笑う。
「喋るな馬鹿弟子。それとも歩くか?」
「そりゃねぇぜ師匠」
荒野を進む。何となく、どうにかなるような気がしてきた。今はただ、彼が回復するのを待つ。彼が起きれるようになったらまた歩き出そう。彼ならきっと大丈夫だ。
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あれから1週間も経つ。あれから私達は廃村を見つけた。町よりよっぽど小さいが、食料や服などの日用品と案外必要なものが揃っていた。それに彼女は自分のことを教えてくれた。スカサハと言うらしい。彼女は非常に博識で、『魔術』といったものを日に数度だけ基礎のみだが教えてもらった。
最初の3日は彼はベッドで寝て起きなかった。ずっと寝続ける姿に不安はあった。それでも彼は4日目には目を覚まし、5日目には動けるようになった。6日を超えると日に数度、師匠である彼女と槍を合わせだした。そして動きがあったのは7日目、つまり今日だった。
彼女が廃村周りの探索から帰ってきた時、緑の外套を着た男を連れていた。
「スカサハさん、その人は誰ですか?」
「何、そこでたまたま見つけてな。何やら事情がありそうなんで連れて帰ってきた。おい、貴様。名乗れ」
「ハイハイ。助けられた恩があるんだ。言われなくても名乗りますよっと。オレはロビンフッド。クラスはアーチャーだ。そんでオタク、何者だ? なんで人がここにいる?」
少し。いや、かなり鋭い眼で見つめられる。まるで鷹のような鋭い眼だ。すくんでしまい、上手いように声が出ない。
「まぁ待て。桜花は敵では無い」
「アンタがそう言うんだったら信じるよ。それよりだ。オレは早くマスターと合流しなきゃならねぇ。救ってもらったところ悪いが行かせてもらう」
ロビンフッドと名乗った男はフードを被って走っていこうとする。
「待て!」
「なんかようかよ? こっちは急いでんだ」
「私たちも連れてけ。力を貸してやろう」
「それはありがたいが、その女はどうするんだ?」
男は厄介そうにこちらを見る。
「連れて行く。馬鹿弟子! 行くぞ!」
師匠が家に向かって声をかける。
「あいよ! 了解!」
彼は窓から飛び出してきた。
男は彼を見て眉間にシワを寄せる。
「やっぱり訳ありかよ……。めんどくせー!」
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廃村を発ってから半日、私達は彼の案内のもと、男のマスターとの合流地点まで向かっていた。
「ここらの野営地で合流する手筈だ」
まだ彼のマスターはいないのか、人の気配は全く無い。
「しばらく待ちになる。好きなように過ごしてくれ」
彼は木に寄りかかった。
「いや、そうもいかないみたいだぜ。どうやら敵のお出ましのようだ」
鎧を着た大男の大群が迫ってくる。この世界に来た当初のと同じ光景だ。
男は心底面倒臭そうに頭をかいた。
「ほんっと奴等。はぁ、迎え撃つとしますか」
男は弓を構え、2人は槍を構える。
最初は男の射撃だった。
ザシュッ!
放たれた矢が先頭の男たちに突き刺さる。それでも彼らの軍隊は止まらない。
初めて生で見た「人」が死ぬ場面だった。それでもこの数日で覚悟出来ていた。目線をそらさず観察をする。戦闘中にただ守ってもらうだけではいたくない。追加の矢が飛んでいき、スカサハさんが軍隊に突き進む。私は軍隊との接触を、木陰の後ろで観察していた。するとひとつ、気づいたことがあった。
「血が────出ない?」
大男たちからは出血がない。それによく見ると死体も残っていない。おそらく魔術で作られたであろう軍隊。それがなんとも不気味で、何より魔術の恐ろしさを改めて痛感した。
「ハ──ッ!」
凛とした声と共に少女が戦場を駆る。大楯を持ったまだ幼い少女が軍隊に突撃した。援軍だ。
おそらく男のマスターの仲間なのだろう。
さらに後方から矢が飛んでいく。
まるで剣のような形をした不思議な矢だ。
敵の中心にあたると爆発し、多くの軍勢が灰燼となる。
その他様々な攻撃が軍隊に突き刺さる。
援軍が来てからと言うもの、あっという間に軍勢は消滅した。
木陰から出てランサーさんに近づく。
「怪我はねぇかマスター。お陰様で俺の方は快調だぜ!」
「それはいいんですけど……」
目線を後方に向ける。
1人の男の子が前に出てロビンフッドと話している。見た目からして年齢は高校生ほどだろう。少し変わった服を身につている。しかし、スカサハさんから聞いた魔術師のような気配はない。何かあったのか、少し哀しそうな表情をしている。
教わった魔術師としての像とまったく違う。警戒していただけあって少し拍子抜けだ。
ふと、彼らの視線がこちらに向く。大勢に見つめられるのはなんとなく居心地が悪い。
それでも対話は必要だ。気は進まないが、行かなくてはならない。彼らの元に足を進めた。