至高の御方転生記 〜現地人になった御方達〜 作:ハチミツりんご
____________ローブル聖王国。
人類の存続圏最大の国、リ・エスティーゼ王国の南西に位置する宗教国家。東に位置する《アベリオン丘隆》、及びそこに住まう亜人種に対抗すべく南北に跨る巨大な城壁が存在したり、徴兵令が存在するなど、他国とは少し異なった事情、政策が施されている国。巨大な湾により北部と南部に2分されているこの国は、現在歴代初の女性聖王、『カルカ・ベサーレス』によって治められている。
南部の貴族や一部の諸外国の王からは、強硬な政策の取れないカルカを揶揄する声も多い。
が、民を思って政治を行う彼女の国民からの人気は高く、ローブルの至宝とも呼ばれる美貌に加え、15歳の時には既に第4位階の信仰系魔法を使いこなす才能も持ち合わせている才人。
まさしくローブル聖王国が産んだ奇跡。他を圧倒する美貌を持ちながら、国の危機には兵士たちと共に戦うことが出来る稀有な王族。民のために生まれ、民の為に生きているとすら噂される聖女である。
そんなカルカの傍には、常に2人の女性が控えている。
一人は、茶色の髪をした、整った顔立ちの女性。その眼光は鋭く冷たい雰囲気を醸し出しており、銀色の全身鎧に加え白のサーコートを身につけている。聖王たるカルカの傍で直立して佇むその見た目は、まさしく王と国を守護する『聖騎士』と呼ぶに相応しかった。事実彼女は、このローブル聖王国の中で頭一つ抜けた実力を持つ聖騎士である。
もう一人は、同じく茶色の髪をしているがこちらは長髪。神官服に身を包んでおり、ゆったりとした笑みを浮かべるその姿は女神すら彷彿とさせるが、腹の中は実際のところ真っ黒。どこか一物を抱えてそうな、そんな印象を与える彼女は、あの蒼の薔薇のリーダーたる神官戦士をも超える信仰系魔法の使い手。隣に立つ聖騎士の妹であり、この聖王国の最高位神官でもある。
聖騎士たる姉の名は『レメディオス・カストディオ』。
その妹の名は『ケラルト・カストディオ』。
姉妹揃って英雄の域に踏み込んだ傑物であり、カルカの親友。カルカの即位に否定的な南部の貴族たちが手を出せないのも、他を圧倒する才能を持つカストディオ姉妹という存在がそばに居ることが大きい。
…………だが、もう一人。聖王カルカの傍にいることの多い人物が存在する。
宗教国家故に神殿勢力の神官団や、レメディオス率いる聖騎士団などが国防に深く関わっている。なので信仰系魔法は深く根付いているこのローブル聖王国だが、反面その他の魔法に関してはあまり使い手がいないのが現状だ。
しかし、そんな聖王国にあって一人だけ、国民から広く知られる魔力系の魔法詠唱者がいた。若くして第4位階を十全に使いこなし、噂では第5位階にすら届いているのではないか、と言われる人物。カストディオ姉妹にもその才能を認められている上に、性格は温厚、誰にでも優しく接するその姿は、以前の聖王が重なって見えると言われる程であった。
そんな人物………平民ながら宮廷魔術師として召し抱えられ、男性にしてカルカ達の傍に控えることを許された人物。その男は______
「うーん………真新しいマジックアイテムはなさそうだなぁ………」
………のんびりと市場を散策していた。
「ん?おう!サトル様じゃないか!!どうだい?新鮮な果実が入ったんだ!好きだったろ?」
「ホントですか!それじゃあ、一つお願いします」
サトル様、と呼ばれたその男は、露天の主人に金を払って果実を受け取ると、それをシャリシャリと食べながら歩いていく。程よい甘みと小気味良い食感が堪らない、彼の好物のひとつであった。
彼の名は『サトル・スズキ』。些か珍しい苗字をしているが、れっきとした聖王国生まれ聖王国育ち。……なのだが、顔立ちといいその艶やかな黒髪といい、どう見ても南方の国から来たと言われた方がしっくりくる見た目をしている男である。
ゆったりとしたローブに身を包んでいる彼は、道行く人に頻繁に声を掛けられる。それに逐一反応し、手を振り返したり談笑したりしながら彼はふらふらと歩みを進めていく。
「………にしても、ほんと綺麗だなぁ。もうこっちにいるのも長いのに、未だに慣れない………」
空を見上げながら、その美しさに目を細める。これだけみれば感性豊かな人物だが、彼に限って言えば事情が異なってくる。
「………ほんと、『日本』とはえらい違いだよ。二度とあんなところで過ごしたくない………」
______彼の人生は、2度目。いわゆる、転生というものを経験している人物なのだ。
前世での彼の名は『鈴木悟』。ガスマスクが無ければ外を出歩けないようなディストピアじみた日本で、小卒のサラリーマンをしていた人物。そして、DMMORPG【ユグドラシル】において異形種だらけの極悪ギルド、《アインズ・ウール・ゴウン》のギルド長を務めていた人物でもある。
前世で彼は、大切な仲間達との思い出の詰まったゲーム、【ユグドラシル】がサービス終了してしまった後、無気力状態となってしまった。それでも仕事をやらない訳にはいかず、僅かな睡眠を取った後に仕事に出掛けたが、その出先で不運にも現状を憂う革命派によるテロに遭遇。流れ弾に被弾し、帰らぬ人となってしまった。
帰らぬ人と、なってしまうハズだった。
気がつけば彼は、この聖王国に新しい命として産まれ落ちていた。両親は南方の国から旅をしてここにたどり着いたらしく、それゆえか金髪碧眼がデフォルトなこの国でも前世と同じような______若干美形になってはいる______容姿で、鈴木悟ではなくサトル・スズキとして誕生していたのだ。
そりゃ最初は困惑した。死んだと思ったら赤ん坊になっていて、前世の記憶もしっかりある。「うわーペロロンチーノさんが好きそうな展開だなーアハハー」と現実逃避してしまうくらいには困惑した。
しかし、外出の際にはガスマスクをつける必要はなく。美しい空が何処までも広がり、豊かな自然の存在するこの世界は、前世と比べるべくもなかった。「ブループラネットさんにも見せてあげたかったなぁ」、なんて心の中で思う程に、この世界は、美しかった。
食べ物だって、前世では一部の富裕層しか食べられない生の食材が当たり前のように食べられる。三十年以上向こうで生活していた彼にとっては未だに感動を覚えるほどの贅沢に思えてならない。
そして、前世では禄に親孝行も出来ずに自分のために過労死してしまった両親。しかし、この世界の両親は健康に生きていた。だからこそ、彼は心機一転。この世界で、前世では出来なかったことをやろう、なんて思い立った。
幸いにも商人である両親の稼ぎは一家が困窮するほどでは無かった。それどころか、むしろたまに贅沢をするくらいのことも出来る程度には稼げている。
その為、前世では読む機会がユグドラシルの中にあるギルメンが持ち込んだものを読む時くらいしか無かった本を読むことも出来たし、学びたい事をしっかり学べる環境が整っていた。
勉強する事、学ぶことの大切さを、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明と呼ばれた知恵者、『ぷにっと萌え』やギルド最年長にして大学教授の『死獣天朱雀』から教わっていた彼は、真摯に勉強に取り組んだ。それ以外にも外で体を動かしたり、興味ある事には手を出したりしてみたが、インドア気質の強い彼にとってはやはり勉強が性に合っていた様で。両親だけでなく、周りの大人達からも感心されるほど多くのことを学んでいった。
そんな中で彼が最も勉強したもの。それは、《魔法》だ。
この世界にはモンスターが存在する。しかも、彼がのめり込んでいたゲーム【ユグドラシル】に酷似したモンスターだ。それに伴ってなのか、魔法も彼の知っているものばかり。ゲームでは第十位階や超位魔法が当たり前だったがこの世界では第3位階ですらエリート、という話を聞いて困惑はしたが、それがこの世界なのだと早々に受けいれた。
それに伴って、彼はこの世界にはユグドラシルの様にLvが存在していることを察した。徴兵制度によって軍に行った時も、明らかに人間辞めてるような身体能力をしている軍士がいたり、弓による攻撃で鎧に身を包んだ亜人をはじき飛ばしている暗殺者じみた見た目の人間がいたりと、レベルアップというものが無いと説明つかないような人物が複数いた。
そのため彼は、徴兵されている間に魔法を駆使して、なるべくレベルを上げるように努めた。この世界においては人間種は亜人や異形に劣る劣等種として認知されている。事実、毎年亜人との戦いで命を落とすものは絶えない。それに、ユグドラシルに比べて酷く低レベルなこの世界では、種族レベルの存在する亜人種や異形種に並び立つのは至難の業である。その事を、元ユグドラシル廃人である彼は熟知していた。
レベリングをする目的は、もちろん己の安全の確保である。石橋を叩いて渡るどころか叩き過ぎて壊すんじゃないか、というほど慎重派の彼にとって、いつ、どこでモンスターに襲われるか分からないのは心臓に悪い。
聖王国には、『スラーシュ』という亜人種が大雨の中、国内に侵入し国民が蹂躙されていったという悲惨な過去がある。幾ら徴兵制、そして南北に跨る巨大な城壁、要塞があるとはいえ、いつまたあんな悲劇が起こるとも限らない。
せっかくの2度目の人生、道半ばで果てることは避けたいし、何より両親や、仲良くなった人達を失うのはもう二度と経験したくない。
その為、彼は近しい人たちを守る為、という決意の元レベリングを続けていった。最初こそ上手くいかなかったし、ゲームとは違うリアルさに吐きそうにもなったが、徐々に慣れていった。それに、魔法の勉強をしている間にも速度は遅いがレベルアップは起こっていたようで、なるべく効率の良いレベリングを心掛けて生活していった。
「その結果、宮廷魔術師かぁ………しがないサラリーマンだった俺が、出世したなぁ……」
空の青さに目を細めながらしみじみと呟く。効率の良いレベリング生活を送っていた結果、彼は24にして第5位階魔法を行使出来る聖王国屈指の魔法詠唱者へと成長していた。ユグドラシルのプレイヤーだった経緯からイマイチ実感は湧いていないが、充分に驚異的、かつ逸脱している。聖王国内で彼と並ぶ者は勿論、届きうる者ですらほぼ居ないほどにはだ。
なおこれは国が秘匿しており、第5位階を使えると知っているのはごく僅かなのだが。世間的には若くして第4位階を使える才能に溢れた魔法詠唱者、として通っている。
そんなサトルの脳内に突如として声が響く。まぁだからといって驚くことは無い。事前に魔法的な繋がりがあったのを察知していたサトルは、特に何をする訳でもなくその声に耳を澄ませた。
『サトル?貴方、今何処にいるの?』
響いてきた声は聞き慣れたもの。相手の名前はケラルト・カストディオ、彼と同じく聖女王たるカルカの傍に仕えている最高位神官であり、同じ24歳。系統は違えど同じ魔法詠唱者、しかも第5位階まで使用可能と共通点の多い女性だ。
「ケラルトさん。いえ、散歩がてら市場に面白そうなマジックアイテムがないか探してたんですよ」
実際、平民であるサトルにも分け隔てなく接してくれる上にさり気ない気遣いも出来る彼女。サトルを良く思わなかった南部貴族から圧力をかけられ宮廷魔術師の座を追われかけた時も根回し、火消しに奔走し助けてくれた恩人だ。魔法詠唱者故に行動を共にすることも結構多く、姉のレメディオスも含めて何度かレベリング______名目上は亜人の調査と、サトルが考案したより強くなるための魔術式の実験______も共にしたことすらある。
『いつもの悪いくせね………王宮に仕える魔法詠唱者である貴方ならもっと良質なマジックアイテムを持っているでしょうに』
「いや、その…珍しいものがたまに転がってますから、そういうのは集めたいなぁ…って」
呆れたように呟くケラルト。姿は見えないが軽くため息をつき、額に軽く手を当てているのが容易に想像出来るサトルは誤魔化すように笑う。ユグドラシル時代から続く収集癖はもはや世界が変わっても変わりなく。ユグドラシルでは無かった生活魔法すら存在するこの世界のアイテムを集めたいと思うのはゲーマーとしてのサガである。
『まったく………まぁいいわ。カルカ様がお呼びよ、すぐに来てちょうだい』
「カルカ様が?はい、分かりました。直ぐに伺いますね」
お願いね、といってケラルトはサトルとの接続を切る。この魔法はユグドラシル時代から存在する《
しかしサトルと、彼と同じく第5位階を行使出来る神官である彼女の2人による《伝言》ならば、このホバンスの街の中ならばどれだけの距離があっても問題なく通信が可能。英雄と呼ばれる領域に至った人間は伊達ではない。
すぐさま彼は《
………まぁこんな特別扱いに加え、女3人しか許されない場所に彼だけが入れるのには理由があるのだが、それを詳しく知らない世間では『美人3人を美味しくいただいている裏山けしからん男』と呼ばれているのはまた別の話。
ふわりと城内の中庭に降り立った彼はそのまま歩いてカルカ達の待つ部屋へと向かう。流石に王族の待つ部屋に飛んだまま入るのは不敬が過ぎる。人の為を思った政治を行うカルカの事は、サトルも心から尊敬していた。そんな相手だし、なにより上司に飛んでいくなんて失礼な事は出来ないとサラリーマン時代の自分が心の中で言っている。
豪奢な城内を歩いていけば、向かい側からやってくる鎧に身を包んだ聖騎士達がこぞって敬礼を返してくる。サトル的には自分にそんな事しなくても、とは思うのだが、宮廷魔術師たるサトルはそれなりどころじゃないほど高い地位にいる。自分たちの団長とも親交のあるサトルに無礼は働けない、というのが聖騎士たちの気持ちだった。
それに、聖騎士達と合同で魔物の討伐に出ることもあるサトルの魔法の絶大な力は聖騎士達がよく理解している。低位の信仰系魔法なら使えるが、サトルの魔法は彼らをはるかに凌駕する。さらに的確な状況判断力を持ち、その場その場に応じて最適な魔法を使用する彼に助けられた騎士は多く、純粋に尊敬の気持ちを抱くものも少なくなかった。
………お世辞にも考えることに向いているとは言えず、その上頑固な自分達の団長が素直に言うことを聞く数少ない相手なのも尊敬に拍車をかけていたりする。
しばらくして目的の場所に辿り着くと、サトルは慣れた手つきで何度かノックする。部屋の中から綺麗に澄んだ声で「どうぞ」と促す声が聞こえたので、「失礼致します」と言ってからゆっくりと扉を開いた。
扉を開いた先にいたのは、テーブルを囲んで椅子に座る3人の女性。言うまでもなく、聖王女たるカルカに、その親友であるカストディオ姉妹である。
扉に目を向けた、艶やかで美しい光沢を放つ金髪に絹のような白く、そして瑞々しい肌をした聖王女。聖王国に伝わる大儀式魔法《
「いらっしゃい、サトルさん。どうぞおかけになって」
嬉しそうに微笑むカルカ。その美貌と相まって後光が差しているのではないかの幻視してしまう程で、前世含めて女性経験の無いサトルにとっては眩しすぎて直視すら難しい。しかし上司に目を逸らしながら席に着くなんて失礼甚だしいのでなんとか目を合わせて挨拶しながら席につく。
「ありがとうございます。…しかしカルカ様、平民である私に敬称など不要です。カルカ様の品位に関わってしまいます」
かつての彼ならばそう言うことは無かっただろうが、仮にも宮廷魔術師であり貴族と関わる機会も多くなった。相手に下に見られない、舐められない事を重視する貴族から平民のサトルに敬称を付けているのを見られればそこを言われるのは必定。そう思い何度も言っているが、カルカは気にした様子もなく続ける。
「公的な時ならともかく、今はここには私に彼女達、そしてあなたしかいないわ。いつも助けてくれているのだし、私たちの仲なんですもの。それくらいいいじゃありませんか」
クスクスと可愛らしく笑って言うカルカ。この部屋は王族の部屋らしく魔法による防御がかけられており、並の貴族では会話を盗み聞きすることは不可能。もし心配ならケラルトとサトルが手分けして認識阻害の魔法を使えば、高位冒険者を雇っても不可能。たとえかのイジャニーヤであっても容易には突破出来ないだろう。その安心感から、カルカは気兼ねなくそう呼んでいるのだ。
それに、魔力系の魔法詠唱者であるサトルだが、覚えている魔法は多岐に渡る。ユグドラシル時代から有用だった魔法に加え、この世界独自の魔法にも手を出しており、彼のレベルで覚えられる魔法の量を完全に超えている。しかもそれを全て暗記しているので、戦いに限らずありとあらゆる場面で彼という存在はありがたい存在であった。
「しかし……いえ、ありがとうございます」
それでも苦言をこぼそうとしたサトルだったが、思い直して感謝の意を示す。サラリーマン時代の営業で培ったノウハウ。相手の言うことを頭ごなしに否定してはいけない、である。幾ら貴族たちとの対話のために丁寧な言葉使いを学んでも、彼の根底にあるのはサラリーマン時代のものなのだ。
そんな彼の足に、唐突に痛みが走る。いてっ!?と声を出しながらそちらを見れば、サトルを睨みつけるように見ている相手がいた。《伝言》で連絡してきた聖王国最高位神官、ケラルト・カストディオである。
「いつまでカルカ様を見て鼻の下伸ばしてるのかしら?不敬ではなくって?」
「ちょっと、変なこと言わないでくださいよケラルトさん!そんな目で見てません!」
「どーだか………ほら、カルカ様が言われたんだしとっとと座りなさいよ」
サトルの抗議の声を聞き、面白くなさそうな顔で自身の隣の椅子を引くケラルト。いきなり蹴ってきたケラルトに不満げな顔をしながら隣に座ると、手馴れた様子でケラルトがサトルの分のティーカップを用意し紅茶を注ぐ。
「ありがとうございます、ケラルトさん」
「ハイハイどういたしまして……ってあなた、服乱れてるじゃないの。カルカ様の前でそんな服装してちゃ失礼でしょ!……あっ!しかも何か果実食べてきてるわね!?ほんっともう、《
「あっ、えっ、その、すみません……」
「ほんとにもう………腕はいいのに色々とズレてるわよね、あなた」
だいたい貴方はいつもいつも……と、ため息をつきながらブツブツ文句を言うケラルト。しかしその手は止まらず、テキパキとサトルの服を直し、魔法を唱えて清潔さを取り戻らせる。サトルもサトルで申し訳なさそうにしているが、それを止めることはしない。好意でやってくれているのだし、それにケラルトが世話焼きなのは今に始まったことではない。
「………うーむ分からん!!なぁカルカ様、なんでケラルトはあんなに機嫌がいいんだ?さっきまで機嫌悪かったのに」
そんな中、レメディオスが首を傾げてカルカに問う。自身の妹だから機嫌の善し悪しくらいは分かる。今のケラルトはすこぶる機嫌がいいのだが、先程まで南部貴族がカルカを誹謗中傷するような意見を辞めない、と今にも何人か裏で始末しそうな顔をしていたのだが、カルカがサトルも呼ぶと言った時から機嫌良くなっていた。こんなに機嫌が乱高下する妹ではなく、むしろ良い時も悪い時もそれが続くのがケラルトだ。
「シーっ!レメディオス、少し静かにしてましょう…ケラルト、とても楽しそうだから、ね?」
「ん?まぁたしかに楽しそうだが………うーむよく分からん!まぁカルカ様がそう言うなら静かにするか!」
このままだとケラルト本人に聞きかねないと思ったカルカがさり気なくそう言うと、カルカを全面的に盲信しているレメディオスはすぐさまその言葉に従う。
「………これで良し!カルカ様の前なんだからこれくらい気を使いなさい!……すみませんカルカ様、お見苦しい所を……」
「うふふ…気にしないでケラルト。それじゃ、サトルさんもこられた事だしお茶会の続きをしましょうか!」
カルカの宣言と共に、サトルを含めた4人のお茶会が始まる。
聖王国に関する話の他にも亜人たちの動向、国内の反対勢力への対処など真面目な話も少しあったが、大半はそれぞれの近頃あった話をするだけの穏やかな場。サトルの考案した魔術式に付き合ったケラルトが新たな第5位階を習得できたことを語ったり、同様に以前よりもより強靭になれたとレメディオスが胸を張って言ったり、サトルが市場で見つけた珍しいマジックアイテムを披露しカルカが興味津々な様子でそれを聞いていたり、など、本当に穏やかな場だった。
「(………楽しいなぁ)」
テーブルを囲んで、親しい人達となんでもない談笑をする。それだけで、サトルの心の中にはとある40人の姿が思い浮かぶ。
「(もし、みんながこっちに来てるなら…)」
自分が二度目の生を受けた理由は分からない。だが、もしも。もしも、かつての______アインズ・ウール・ゴウンの仲間達が、この世界にいるのなら。この広い世界で、彼らを探し出すのは至難の業だろう。それに来ていたとしても、冗談抜きでもう死んでしまっている可能性だってある。それほどこの世界は人間に優しくない。
「……ちょっとサトル?あなた聞いてるの?」
不意にケラルトから声を掛けられ意識を戻す。ぼんやりしていたからだろうか、こちらを覗き込む3つの視線。揃いも揃って美人から見られてなんだか気恥ずかしくなってくる。
「もしかして、お疲れのところを呼んじゃったかしら…?そうだったらゴメンなさい」
「サトル!!魔法の勉強もいいがたまには鍛錬して体力をつけたらどうだ!?なんなら私が指導してやるぞ!!」
「姉様、姉様の底抜けの体力に付き合わせてはサトルが死んでしまうかと……」
「む?そうか!ならイサンドロ辺りに……」
「だ、大丈夫です!!ちょっと、思い出してたというか、考え事してたというか………」
慌ててそういうサトル。上司であるカルカの前でぼーっとして話を聞きそびれるなどサラリーマン時代のサトルとしてはやってはならないことの上位に入る。それに、普段仲良くしているカストディオ姉妹も本来ならサトルより地位の高い2人なのだ。こんな態度を取るのは良くない。
「………サトルさん」
「はい!申し訳ありません、カルカさ______」
「謝らなくていいのよ。ただ、もし悩み事とかあるなら、遠慮なく言ってね?何度も言うようだけど普段からあなたにはお世話になっているし……それに、私達の仲でしょう?」
え、と小さく言葉が漏れる。
「そうだぞサトル!!もし悩みがあるなら遠慮無く言った方がいい!!カルカ様とケラルトは頭がいいからな!なんだって答えられるぞ!」
「姉様、さすがにそれは無茶ぶり………はぁ、まったく……あなたも一人で抱え込んだりしないで、言いなさいよ?
______友達でしょ?」
レメディオスが豪快に笑い、ケラルトも呆れたように笑いながら言った。
あぁ、もし。もしも、また彼らに会えたなら。
カルカ様やレメディオス、ケラルトに紹介しよう。彼らはとてもすごい人達なんだって。
そして、彼らに自慢しよう。
「…………ありがとう、皆さん」
______この世界で、こんなに大切な友達が出来たんだって。
あの骨様なら肉がついても素で女の人から寄ってきそうだなって思った。オルランドやパベル、ネイアを出せなかったのが心残り。
次回、舞台は王国!火力バカでロマン馬鹿だった和風なあの2人が登場(予定)!