至高の御方転生記 〜現地人になった御方達〜   作:ハチミツりんご

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前回途中まで投稿したから全部投稿しようとしたらまたアホ長くなってしまったので分割投稿。ほぼほぼできあがっているので、おおよそ2時間後に残りも投下予定です


モモンガinローブル聖王学院②

 

 

「______それでサトルったら、よりにもよってアンデッド召喚の魔法使ってたんですよ!?信じられます!?」

 

『あっはははは!!が、学院着いて早々にやる事がそれって……あっははは!!』

 

「笑い事じゃありませんよ、カルカ様!!」

 

 

 

 

 辺りの陽は落ち、人々は眠る暗闇。いくらマジックアイテムを活用した街灯が照らす明かりはあるとはいえ、この世界の大半の人々は意識を夢の世界へと旅立たせるだろう。

 

 そんな静まった夜、聖王学院の教員用宿舎………その一室で、深いため息と共に頭を抱える女性の姿が。現在聖王学院の教員としてこの場に派遣されている神官団のトップ、ケラルトだ。

 

 普段とは違い、艶やかな茶色の長髪を髪留めで纏めて前に流しているケラルト。そんな彼女の目の前には、蓄音機のような形をしたマジックアイテムが。そこから響いてくる愉快そうな笑い声は、この国の王である初の女性聖王、カルカのものである。

 

 

 

「聖王直属の臣下が従者相手にアンデッド召喚して戦わせたなんて……反対派貴族の耳に飛び込んだらカルカ様批判の為の格好のネタですよ!」

 

『あっははは……はぁ。もう、笑い過ぎてお腹が痛いわ……ふふふっ』

 

「だからカルカ様ァ……」

 

『ゴメンなさいケラルト、でも面白くって……本当に貴方達……というか、サトルさんの周りは面白いことばかり起きるわね』

 

 

 

 

 聖王学院に対して反対派の貴族連中にとって、サトルの行動は聖王学院の……ひいてはカルカへの攻撃材料になりかねない暴挙とも取れる。当然今の教員達はカルカ側のもの達ばかりであり、貴族に密告をするような面々は居ない。それでも、攻撃出来る材料が存在するということ自体が不味いのだ。

 

 

 親友であり、心から尊敬する主に害が及ばないかどうか心配するケラルト。だが当の本人は、相も変わらず人生そのもの珍道中みたいな生き方をしているサトルの様子に笑いが抑えられない様子だ。イマイチ危機感の薄そうなカルカに、思わずケラルトがため息混じりにジト目で言葉を発する。

 

 

 

 

「聖王国中どころか、人類圏全体探し回ってもあんな事するやつ居ませんよ………」

 

『そうねぇ、しかもその摩訶不思議な理論が実際効果あるから面白いのよね!』

 

 

 

 

 カルカの愉快そうな声に、「そうなんですよね……」とこれまた困った様に息を吐く。

 

 

 今回のような荒唐無稽な理論を出されても、効果が無ければ鼻で笑って終わる事が出来る。新しい試みをする事は大切だし成長、発展していく上で欠かせない事柄ではあるものの、間違った理論ならばそれを正すだけで済む話だ。

 

 

 

 

 しかし。今回のサトルがやらかした……というか提案したやり方は既存の考えからすると全くもって有り得ない理論。

 何ともまぁ驚くべき事に、これが実際効果を発揮しているのだ。

 

 

 

 

「本人からお願いされて、実践して一週間ほどですが………目に見えて従者達の実力が向上しています。この短期間で新たな加護系魔法を習得する者も少なくない……どころか、今まで使えなかったのにサトルとの訓練中に魔法を使えるようになる者まで現れる始末で………」

 

 

 

 

 最初は半信半疑………どころか、八割方は疑っていたサトルの新理論。

 

 

 

 正式な名称こそないが、簡単に言えば『聖騎士って聖なる騎士なんだからアンデッドや悪魔みたいな邪悪そうな種族倒せばいんじゃね?』というのが彼の生み出した新理論。はっきり言って子供ですら馬鹿にする考えだ。

 

 

 当然この話をされた時にケラルトは「馬鹿じゃないの!?」と言いながら彼の両頬を引っ張ったし、グスターボとパベルも何とも言い難い目を向けていた。

 唯一肯定的だったのは、何も考えずに『新理論!凄いなサトル!』と笑っていたお馬鹿な姉だけだ。

 

 

 

 それでも少しの期間だけでいいから試させて欲しい、と願い出たサトルの様子に、渋々ケラルトは了承。彼の理論の証明のため……というのも勿論だが、別個の理由もちゃんとある。

 

 

 サトルの召喚するアンデッドや低位悪魔は見習い達の実力とほぼ同じ。厳密に言えば、素の実力はモンスターが上だが、対策すれば見習い達にも十分な勝機があるくらいの塩梅だ。

 

 実力が近く安全面の確保もしやすい、それに人間や亜人とは異なった動きをするそれらとの戦闘訓練は見習い達に良い刺激を与えるだろう、というレメディオスからの言葉も、サトルの新理論を実験的に採用する後押しとなっていた。

 レメディオス自身は特に何も考えずに発言したのだろうが、彼女の言葉は確かにその通りではある。それに、従者達にとっても己とほぼ互角の相手と限りなく実戦に近い形で経験が積め、サトルの召喚モンスター故に従者が殺される心配もほぼ無い。模擬戦以上に、戦いの勘を養うのに良い訓練なのだ。

 

 

 

 その結果は、先程ケラルトが呟いた通り。聖騎士として神に認められた証とも言える加護魔法を、見習いのうちからでも習得するもの多数。剣の実力だって、歴代聖騎士見習いと比べても間違いなく上位に……下手すれば歴代トップの代とも呼べる程の成長ぶりを見せていた。

 

 

 

 

「あぁ〜、でもどうしたら………こんな訓練民兵相手に組み込める訳ないし、南部にバレたら嬉嬉としてカルカ様を批難してくる……けど、上手く…上手く活用さえ出来れば聖王国の地力はより強固に………でも博打が過ぎるし………第一人数の少ない従者達ならまだしも民兵達の人数分アンデッドを確保するなんて正気の沙汰じゃないわよ………死霊系の魔法なんてニッチなの修めてる魔法詠唱者なんて滅多にいないし………」

 

 

 

 

 あ゛ー、と疲れ切ったような溜息をつきながら頭を抱えて考え込む。

 

 今回の件で、理由は曖昧ではあるがサトルの新理論が一定の……というより、既存の訓練方法より格段に高い効果が見込めることは分かった。

 もしかしたら見習い達のようにあまり実力が高くない者にのみ効果を発揮するのかもしれないが、それでも聖騎士団の地力底上げには十分過ぎる。上手く利用出来れば、対亜人戦の安定度は増し、聖王学院の存在価値を大いにアピール出来る。そうすれば、カルカに対する民衆の支持の声はより大きくなるはずだ。

 

 

 

 だが、まさか神に仕えるとされる聖王国が建てた聖王学院での訓練がアンデッドとのガチ勝負だなんて民衆に公表出来るわけも無い。

 そもそもアンデッドは生者を憎み、害しか及ぼさないその性質から忌み嫌われているのだ。よほど強大な何かが起こらない限り、人々に受け入れられることは無いだろう。

 

 

 

 戦力増強の観点から見ればメリットの方が大きいが、その他の視点も加味するとデメリットが上回る。というかサトルや自分の身に批難が降り掛かるならまだしも、カルカにまでそれが及ぶのは最悪手だ。絶対に避けなければならない。

 

 

 

 あーだ、こーだと案を考え込み、ブツブツと呟き続けるケラルト。そんな声を聞いていたカルカから、小さく笑い声が通話越しに響いてくる。

 

 

 

「あっ!も、申し訳ありませんカルカ様!こんな弱気な話を聞かせてしまい……」

 

『あぁ、気にしないでケラルト。問題点や難点を見つけるのは大切な事ですし、貴方とのお話なら楽しいわ。そうじゃなくて………ふふっ』

 

「?カルカ様?」

 

 

 

 今一度小さく笑い声を零すカルカの様子に、疑問符を浮かべたようなケラルトの声が零れた。

 そんな大切な臣下にして、レメディオスと並んで無二の親友に向けて嬉しそうに……そしてからかいを含めた声音で、カルカは音を送る。

 

 

 

 

『だって、そんなふうに不利益がー、なんて考えてるのに……サトルさんの案を却下しようって帰結にならないのね、貴方』

 

 

 昔からは考えられないわ!と喜色を滲ませた声を送ってくるカルカに、ケラルトは顔を歪めて______主にする態度では無いが見えてないので無問題______ため息を着く。

 

 

「ただの考え無しの案ならそりゃ却下しますよ。でもほら、簡単に破棄するには勿体ない効果が実証されてますし………悪気あってこんな提案してるとは思えませんし……」

 

 

 

 あくまで効果があるから、利益となる部分があるからこそ活用しようと考えているのであり、変な案なら一考の余地も残さず切り捨てる。そこに私情は挟まない。

 サトルが悪意を持ってカルカを貶める可能性のある選択を取る事はない、というのも理由の一つではあるが、これは私情ではなく組織の一員としての信頼だ。今まで何事も無く業務をこなしており、聖王国発展に助力してきた宮廷魔術師としての信頼。それがあるからこそ利用出来ないか考えている。

 

 決して仲がいいからとか、そういう理由では無いと言うケラルト。そんな彼女に向けて、この国の女王である親友は「えぇ〜、ほんとぉ〜?」とニマニマ声で訝しげに問うてくる。

 

 

 

「なんですか、その意味ありげな言い方」

 

『別に?ケラルトはサトルさんがしょんぼりする所を見たくないからあれやこれや考えてるのかな〜って』

 

「そんなわけな…………な……」

 

『な?な?』

 

 

 

 咄嗟にそんなわけない、と言い放とうとしたが、すんでのところでピタリと詰まる。

 

 至極楽しそうなカルカが先を促すと、ごにょごにょと言いにくそうにしながらケラルトは前髪をかきあげる。

 

 

 

「な………くは無いというか少しあると言うか………」

 

『あらあら?どういう意味なのかしら!?私詳しく聞きたいわぁ〜!』

 

「カ・ル・カ・さ・まァ〜……!?」

 

『きゃー、ごめんなさーい♪』

 

 

 

 これが他の誰かなら、デメリットの方が大きいからという理由で確実に却下している。例えカルカやレメディオスが相手でもそこは譲れず、苦言を呈して安全な策を取っていたはずだ。

 

 

 元々、ケラルト・カストディオという女性は慎重な性分だ。

 

 優秀ながら理想が先行してしまい、それ故に強い政策がとれないカルカや、考え事をしようとしないレメディオスの分まで思考を巡らせる。

 二人の歩む道が、聖王国の未来がより良い形となるように。例え僅かでも、この国の未来に、カルカたちの身に不幸が訪れないように石橋を叩き続ける。

 誰よりも考えて、考えて、考え抜いて、より安全な道を選び取る。そしてその為に己の労力を惜しまないのが、ケラルトという女なのだ。

 

 

 だからこそ、本来ならこの案は却下していた筈なのだ。確かに見過ごすには惜しい利益があるものの、カルカに非難が及ぶ可能性は作りたくない。難しいところではあるものの、いつもの彼女なら現状維持を選択していたはずなのだ。

 

 

 

『(そんな貴方が変わったのも……きっと彼のお陰ね)』

 

 

 

 そんな堅物とも言えるケラルトに変化をもたらしたのは、どう考えても彼だ。

 

 普通の人間では思いつかないような奇想天外な発想を生み出したり、超級のマジックアイテムをポンポン作り出す。

 かと思えば、使い道のなさそうなマジックアイテムを衝動買いするし、フラフラと市井を歩き回って屋台の物を食べ歩きするし、当たり前の事に対して子供みたいに目を輝かせる。

 

 

 彼女の変化の原因は、間違いなく。見た目はごく普通にも関わらず、中身を【魑魅魍魎の巣窟(アインズ・ウール・ゴウン)】でこれでもかと言うほど練り込まれた男。宮廷魔術師を務めている、サトルに他ならない。

 

 

 

『何年か前まで絶対見れなかったケラルトを見せてくれたサトルさんには感謝しかないわね、本当に!』

 

「あーもうっ!怒ったわよカルカ!!そういう貴方だって、サトルがこっちに来てから随分ポンコツになったらしいじゃない!?ほんっと分かりやすいわね!!」

 

『んなぁっ!?そ、それは違うわよ!!サトルさんは関係ないもの!!』

 

「あらあらぁ〜?聖王様の御子は絶望的とか言われてたのに春ですかぁ〜?頭の中桃色一色聖王様でございますかぁ〜!?」

 

『あ、貴方ねぇ……!!そういうケラルトだって昔っから______』

 

 

 

 ギャイギャイ騒ぎ立てながら、通話機越しに喧嘩を始める二人。傍から見たら変人だろうが、これでも片やこの国を統べる聖王、片やこの国の神官たちを纏めあげる神官団のトップである。

 

 まともな人がこの場にいたら、きっと聖王国の未来を案じていたことだろう。それ程までに、今の彼女達はポンコツであった______。

 

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

「………………」

 

「……団長?どうしたんですか、扉の前で固まって」

 

「……うむ、よし!グスターボ、明日は見習い達の休日で仕事も少ない!少し飲まないか?」

 

「え、まぁお誘いとあらば喜んで………それより団長、ケラルト殿に用があったのでは?」

 

「いや、この状態のケラルトとカルカ様は……その……あれだ!関わらないに越したことはない!ここ数ヶ月で学んだぞ!」

 

「団長が………学んでおられる………だと……!?」

 

 

 

 レメディオス は 一つ 賢く なった !

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

「………それで若干二日酔いなんですね、グスターボさん」

 

「いや……面目ない………」

 

「全く………水でも飲め」

 

「ありがとうございま………うっぷ……」

 

 

 

 翌日、聖王学院職員室にて己の机に突っ伏すグスターボ。そんな彼に苦笑を浮かべながらも心配するゆったりとした服装の男と、呆れながら水の入った水筒を手渡す軽装の暗殺者じみた男の姿があった。

 

 

 ゆったりとしたローブに身を包み、羽根ペンで手元の報告書を書き進めているのが聖王学院追加人員にして宮廷魔術師、【サトル・スズキ】。かつては別の世界で、『異形種動物園(アインズ・ウール・ゴウン)』のギルド長を務めていた転生者。

 

 そして水筒を手渡しながら、グスターボの書類の束を一部自分の仕事内容に追加しているのが彼らと同じく聖王学院での講師役を任された九色の一人、【パベル・バラハ】。聖王国で並ぶ者の居ない弓使いにして、人類種でも指折りクラスの野伏(レンジャー)である。

 

 

「あぁいやパベル殿、仕事を肩代わりして頂くわけにゃ………」

 

「そのザマでこなせるのか?次の休みの時、俺の分までやってくれればそれでいい」

 

「そう言う事でしたら私も。今度飼っている猫、触らせて下さいね」

 

「……助かります」

 

 

 そんな2人とグスターボの計3人は、普段の仕事内容等の関係もあって共に仕事することが多かった。元々グスターボとパベルは落ち着き、思慮深い性格が合ったのか話すことも多かったが、そこに適応力の高いサトルが加わった形だ。

 

 

「サトル殿、これを任せてもいいか?魔法関連だ、貴殿の方が適任だろう」

 

「あ、それなら必要備品の発注、手伝っていただけませんか?マジックアイテムならまだしも、武器防具の手入れの為の品や矢とかの消耗品、何処の店の物が良いのかとかよく分からなくて……」

 

「了解した、そういうのは軍士の仕事で慣れた俺の領分だ。確認した後、発注までやっておこう」

 

「すみません、助かります」

 

 

 テキパキと互いの得意な仕事をこなし、不得手なものや不明点の多いものに関しては相談、交換し合いながら効率よく仕事を進めていくサトルとパベル。

 元々どちらもこういった事務系の仕事内容は苦手ではなく、得意分野が異なるのも相まって単独でやるよりも素早く、的確に書類の束を減らしていく。

 

 

「……そういえば、お二人はここ数日で随分打ち解けましたな……」

 

 

 水筒の水を飲んで一息ついたグスターボが、ふとそんなことを口にする。

 

 聖王学院に来た当初は、ネイアに対してとんでもない内容の特訓を行っていたサトルにパベルが怒髪天の如く怒り、それこそ射殺す寸前だった。

 それがこの数日で、2人は何事も無かったかのように……いやむしろ仲良くなっているようにも思える。

 

 いくらパベルが思慮深い常識人であるとはいえ、この男は聖王国でも屈指の親バカだ。一人娘のネイアを溺愛し、彼女からプレゼントされた人形を肌身離さず持ち歩く程。そんな彼が自分の事ならまだしも、ネイア関連の相手をこれ程早く許すとは考えにくかった。

 

 そんなグスターボからの問いに、パベルが「あぁ」、と小さく反応した。

 

 

 

「その事か。いやなに、娘に近づくな、という警告の意味合いも兼ねて2人で飲みに行ってな。その時に、俺もサトル殿の事を勘違いしていたのだと知っただけだ」

 

「勘違い?」

 

「あぁ」

 

 

 二人で飲みに行っていたことにも驚いたが、たったそれだけで打ち解けたのかと物珍しく思うグスターボ。

 勘違い、と言っていたがそれが何なのだろうかと首を傾げると、パベルは良い笑顔______傍から見たら悪鬼羅刹______を浮かべて何度も頷く。

 

 

「彼なりの根拠があって娘を強くしようとしてくれていたのだと知れたし、安全もきちんと確保してくれていたと気が付かされてな………それに、彼は聞き上手なんだ。あんなに気持ち良く飲んだのは久々だ」

 

「パベルさん、凄い勢いで飲んでましたからね……」

 

 

 自分に預かり知らぬ分野ではあるが、魔物との戦闘によって力を格段に増すサトルの理論はパベルからしたら面白いものだった。

 事実彼の部下にも魔物との戦いを繰り返して格段に強くなったものが居るし、パベル自身そうして己の限界を超えたような、力が溢れるような感覚を味わったことがある。

 

 そう説明され、その上で召喚したアンデッドの武器をゴム製……しかも当たっても傷を負うようなものではなく当たったという感覚を受ける程度。打撃武器としての機能を果たしていないような安全なものに置き換えていたと教えられれば、ある程度は溜飲を下げて納得も出来た。少なくとも射殺すという感情が鎮火する程度には。

 

 

 それでも結局、本人の了承を得たとはいえ他の教員達に確認せず行ったサトルが悪い。それは本人も自覚していたので素直に謝罪してくれたので、その時点でパベルの怒りはほぼ無くなっていた。

 

 

 

「ほー、なるほど………にしてもお二人に弾むような話があるとは………って、まさか……」

 

「決まっている、娘の話だ。軽く半日ほど」

 

「半日ぃ!?……っあいたたた……」

 

 

 グスターボの驚いたような声が響く。自身の声に頭が揺れ二日酔い特有の頭痛に襲われるグスターボをしり目に、パベルは真顔で「やはり語り足りなかったな……」と至極真面目に口にしていた。

 

 

「は、半日って………ずっと喋り倒してたんですかい?サトル殿もずっと聞いてて?」

 

「あぁ、まだ3分の1も話せなかったが……大抵仕事の話が入るからな。あそこまで話せたのは久方ぶりだ」

 

「まぁその、昔の知り合いを彷彿とさせて私も楽しかったですし……酔いや眠気はマジックアイテムでどうにか誤魔化せますし」

 

 

 

 そう、パベルとサトルが打ち解けた最大の理由。それは、パベルが永遠と語り続ける最愛の娘、ネイアの思い出話をサトルは笑顔を浮かべたまま阻害せず、最後まで聞き続けたのだ。しかも相槌を打ちながら、だ。

 

 パベルは親バカだ。娘の話ともなれば半日どころか、丸3日は優に語り続けることが出来るほど。

 それ故にグスターボやケラルト、ここにはいないが九色の一色を賜っているとある愚連隊を纏めあげる班長閣下などと言った関わりある人間達は、『娘の話を始めたら仕事の話に摩り替えろ』という対処方法を知っている。

 

 しかし聖王学院に来たばかり、パベル本人とも関わりのなかったサトルはその対処法を知らないはず。半日にも及ぶ長い時間、この親バカ暗殺者の話に付き合って笑顔を浮かべられた。

 たったそれだけながら、グスターボにとっては語り継がれるレベルの偉業。相槌まで打って見せたという男に対する畏敬の念が、グスターボの心中に巻き起こっていた。

 

 

 

「(娘さんの話をする時のたっちさんみたいで懐かしかったんだよなぁ。あの人もこっちにいたりするのかなぁ)」

 

 

 ……当の本人は、昔の友人を想起させて懐かしい気分に浸っていたのだが。

 

 確かに半日も話続けるパベルの様子はサトルからしても辟易するものだが、娘を大切に思うパベルの姿はかつての友人にして大恩人の姿を重ねてしまう。

 

 

 

『あー、久しぶりにログインできた……!モモンガさん、お久しぶりです!』

 

『あ、たっちさん!久しぶりって、娘さんお生まれになったんですから仕方ないですよー』

 

『ははは、ありがとうございます。今日は妻が娘を連れて実家に遊びに行っているのでログイン出来まして…………』

 

『おっ、良かったですね!そういえば娘さんのいる生活、どうですか?』

 

『いやもうほんっと………ほんっと可愛くて………この間なんですけど______』

 

 

 

「(………そのまま狩りにもいかずにログアウトまで喋り倒してたなぁ、懐かしい)」

 

 

 

 かつての大恩人にしてギルド内物理最高戦力、純銀の聖騎士と呼ばれた男、【たっち・みー】。彼がいなければサトルは……モモンガは確実にユグドラシルを辞めていただろう。そう確信出来るほどに、彼の影響は大きい。

 

 

 

「(途中から茶釜さんややまいこさん、あんころさんの女性陣も加わって……あそこまで話が続けられるのって、ウルベルトさんとかタブラさん、るし☆ふぁーさんにペロロンチーノさんくらい………駄目だ、たっちさんの話とそこの話を同列視したら駄目だ)」

 

『哭き焦がれよ我が災厄の発露に、断罪の焔にて己が罪を呪え______』

『ギャップ萌えって最高だよね、美少女の腹を突き破って触手が襲ってくるとか______』

『俺の新作、顔はギルド長で身体は大蛇型ゴーレム______』

『イエスロリータ、ゴーたっち・みー______』

 

「(やめて俺の脳内の問題児達。あと黙ってペロさん)」

 

 

 

 1人でブンブンと頭を振って脳内に浮かび上がった友人達(アホども)の姿を振り払おうとするが、キッチンの壁にこびりついた油汚れの如くしぶとく残り続ける脳内の3人。

 実際にはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの殆どがこれくらいの個性を持っていたし、たっち・みーだって特撮の話を振ればこれくらいは話し続ける。ただ単にこの問題児たちのイメージが強いだけである。

 

 ……特に仲が良かった変態に対してのみ口調が強くなるのは気の置けない仲だからこそだろう。決して彼の姉の影響がある訳では無い。

 

 

 

「……む、そういえば訓練用のカカシの追加も必要だったな。団長殿が幾つか粉砕したらしいが………今いくつ残っているんだ?」

 

「あ、なら私確認してきますよ。ちょっと気分転換したかったですし」

 

「そうか、済まないサトル殿。頼む」

 

 

 完全に頭に残った友人達の幻影。このままでは仕事が進まないと思ったサトルは、パベルの呟きに乗っかる形で職員室を後にした______。

 

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

「カカシかぁ。ユグドラシルにもあったなぁ、打ち込んだら少しだけ経験値貰えるやつ………序盤のゴブリン狩った方が良いくらいのクソ効率だったけど」

 

 

 僅かに木の軋む音が響く中、打ち込み用カカシの置いてある訓練場付近に足を運んだサトル。ユグドラシル時代の思い出を脳裏に浮かべながら、ぽてぽてと歩いていた。

 

 

「まぁこっちじゃ現実なんだし、大事なんだろうなぁ。打ち込み稽古って奴かな。建御雷さんがスルト相手にやってたみたいな…………ん?」

 

 

 ボスエネミーに対して稽古と称して何度も戦い、タンクやヒーラー、バッファーの援護こそあったものの単体火力で殺しきったギルド最高火力の友人を思い浮かべる。今考えたら相当アレだが、当時は『まぁスルト大して強くないしなぁ』としか思っていなかった。彼含めて、やはりあのギルドは変人の巣窟である。

 

 そんな折に、サトルの耳に風きり音、次いでターンっ……と何かが刺さったような響音が飛び込んでくる。

 

 

 

「?今日は生徒は休みだし……レメディオスさんが弓の訓練でも……いやあの人は今王城に戻ってるか」

 

 

 真っ先に可能性として浮かんだのは仲のいい友人であるレメディオスだが、彼女は現在休みの日を利用して王城に帰還、聖騎士団の騎士達の訓練を受け持っているはずだ。前日に酒を飲んだ筈なのにそれを感じさせない辺り、流石は英雄に足を踏み入れた女、と言ったところだろうか。

 

 ならば誰が……そう思い訓練場の扉を開けると、中にいた人物が音に反応して彼の方を振り向いた。

 

 

「______先生?」

 

「………バラハさん?」

 

 

 鋭い目付きを覗かせながら、汗を垂らしている少女。聖騎士見習いのネイア・バラハが、弓を手に持ちそこにいた______。

 

 

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