至高の御方転生記 〜現地人になった御方達〜   作:ハチミツりんご

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 |ω・`)じー

 |ω・`)ノポイッ(番外編)

 |ω・`)…………

 (逃走)


if story ミスリル級冒険者 チームアインズ・ウール・ゴウン

 

 

 

 _______冒険者、と名乗る者たちがいる。

 

 

 魔物から人類を護る者。国家の枠組みに縛られず未踏の地に足を踏み入れる探求者。

 

 しかしその実態は、『便利屋を兼ねた対モンスター用傭兵』とでも言うべき存在だ。

 謎めいた遺跡や秘境の大地へ向けて本当の意味で『冒険』が出来るのは限られた極小数のみ。

 殆どの冒険者は、その日の糧を得る為に魔物の討伐や薬草の採取。他にはなんてことの無い日常の手伝い等をして過ごすのが通常だろう。

 

 

 

 英雄譚の登場人物に憧れ、希望を胸に抱いて門を叩いた新人のうち半数が一週間のうちに死亡、ないしは再起不能になるのが当たり前。

 そこから上手く気の合う仲間を見つけ、中堅。そしてベテランに残ることができる者は誇張無しにほんのひと握り。

 

 そんな殺伐とした世界が、冒険者業界の本当の姿。英雄譚など夢のまた夢、明日を生きるのすら不透明な職業。

 殆どの場合、非合法な事に手を染めるギリギリの落伍者達や食い詰め農家の三男坊………そういった行き場のない者たちがなるのが通例である。

 

 

 

 だが、冒険者になる者の中には例外も居る。

 

 

 先程も述べたような、冒険者という職業に夢を抱く若者。

 元々傭兵業といった戦いを生業にしていた転職組。

 他国から旅をしてきて、最低限の身分を保証される為に登録する者達。

 

 

 

 これらとは異なる_______本当の英雄へと至る者。

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国王家直轄領、城塞都市【エ・ランテル】。

 

 隣国であるバハルス帝国・スレイン法国を含めた三国の国境に位置するこの都市は、国防の要であると同時に交易の要所も担っている王国最重要地点の一つだ。

 

 駐屯地を中心に軍備系統の設備が整った外周部。

 冒険者組合や市場など生活に必要な設備が整えられた内周部。

 そして有事の際に王国全土から徴収されるであろう10万に及ぶ兵士達の食を満たす為、備蓄された食料庫等が立ち並ぶ最内周部。

 

 守りやすく攻めにくく、充分な食糧が確保されている上に都市内である程度の武具やポーションの生産すら行える。

 三重の城壁に囲まれたこの都市をもってすれば、バハルス帝国全軍が攻め込んで来てもそう易々と落ちることは無い。

 

 

 レエブン侯の懐刀、かの平民軍師をもってして『小田原みてーな硬さしてんなオメー』と言わしめる防衛能力。間違いなく王国随一の都市であろう。

 

 

 

 そんなエ・ランテルにおいては、冒険者の需要が盛んだ。

 

 専業騎士制度が整っており防衛機能としての冒険者の立場が薄いバハルス帝国とは違い、王国の治安維持は殆ど冒険者の手によって整えられているのが現実。

 

 元々国内でも冒険者の出番が多いのだが、交易の盛んな為に護衛任務の数が他の比では無い。

 更には近くに人類未踏の危険地帯である『トブの大森林』が存在する為、そこから溢れてきたモンスター討伐の依頼も多数ある。

 

 

 王都の様にアダマンタイトを戴くような頭抜けた強者はおらずとも、市民の安全の為。また流通の活発化の為にも、冒険者の存在が無くてはならないものなのだ。

 

 

 

 

 そしてこのエ・ランテルにおいて、ここ最近新進気鋭の冒険者チームが名を挙げている。

 

 組合に登録してから僅か一年足らずでエ・ランテルにおける最高位、ミスリル級に登り詰めた英雄の卵。

 採取依頼などの丁寧さが求められる依頼も難なくこなし、他の冒険者が避けるような危険な依頼も請け負い未踏の大地へ足を踏み込む勇有る者。

 実力も然ることながら、市民に手を上げるような暴挙を働くことも無く。逆に積極的に問題を解決しようと働き掛ける姿は、多くの人々からの信頼を勝ち取っている。

 

 

 正しく未来の英雄。あと2年もすれば王国3番目のアダマンタイトになると言われている、そんな冒険者チームは今_______

 

 

 

 

「_______ッバイヤッ_______」

 

 

 

 

 

「_______バイヤッバイ_______」

 

 

 

 

 

『ゴロギュアァァァァァァァァァァァァッ!!!!』

 

「ヤッバイヤッバイヤッバイヤッバイ!!!!!!」

 

 

 

 _______でっかいダンゴムシに轢かれ掛けていた_______!

 

 

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

「やっばい!!冗談抜きでヤバいですってこれ!!ペロさんちゃんと索敵しといてくださいよ!!」

 

 

 丸まった巨大なダンゴムシ型の魔物_______巨大鉄球蟲(ジャイアント・ロリポリ)に追い掛けられながら、【聖騎士(せいきし)】が叫ぶ。

 全身鎧を着込んだ純前衛たる彼は、もっとも装備の重量があるにも拘らず余裕がある様子。腰の剣と背中の盾を揺らしながら、すぐ側の一人へ文句を述べた。

 

 

「はァ〜〜ッ!?たっちさんとウルベルトさんが馬鹿でかい声で喧嘩してっからでしょ!?あんなん索敵どころじゃねぇって!!俺は悪くねぇ!!」

 

 

 ブンブンと手を横に振って抗議の声を上げたのは、大弓を背負った【狩人(かりゅうど)】。このチームの目と耳を担う彼ではあるが、原因は自分では無いと主張。

 気が付けなかったのは聖騎士と【魔術師(まじゅつし)】の喧嘩のせいだと口にすれば、それを聞いた魔術師がかったるげに会話に口を挟みに来る。

 

 

「アレ喧嘩じゃねぇっての。コイツの意見が間違ってっから正しい意見出しただけだろ」

 

 

 空中に寝そべるような形で浮いている魔術師が狩人の横に併走する。染めたような黒髪を風に靡かせながら、アレは俺が正しいと自信を持って豪語。

 事実第三位階も簡単に使いこなしてみせる彼はこのチームの頭脳の一人。普段ならば彼の意見は正しい正しくないは置いておいて鋭い着眼点を持っているのだが………今この時においては少し事情が異なる。

 

 

「はぁ〜???絶対私が合ってましたけど」

 

 

 不満そうに聖騎士が魔術師の意見にくってかかる。

 納得行く訳ねぇだろとでも言いたげな聖騎士の顔を見て、魔術師の額にビキ、と青筋が浮かんだ。

 

 その瞬間狩人含めたチームメンバーは察する。

 

 まーた始まったよ、と。

 

 

 

「ンこォれだから第一位階しか使えないBA☆KAは!!そのままトブの大森林に残った方が健康にいいんじゃねぇのかバッタ野郎がよォ!!」

 

「文句言いたきゃ自分の足で走ってから言って貰えます〜〜〜???あぁ無理か、ウルベルトさんMO☆YA☆SHIですもんねぇ!!山羊だった癖に!!山羊だった癖にィ!!」

 

「うるせぇ乳くりあうな走れ野郎共!!」

 

「「乳くりあうとかキショいんでやめて貰えます?」」

 

「うわー、息ピッタリ………」

 

 

 互いに煽り合いつつ巨大鉄球蟲(ジャイアント・ロリポリ)から逃げる野郎2人に向けて、少し離れた所を走っていた女性の【重戦士(じゅうせんし)】が一喝。

 桃色髪を揺らしながら大地を蹴る彼女の言葉にほぼ同時に反応した聖騎士と魔術師を見て、後方で飛行していた【死霊術師(しりょうじゅつし)】が呆れたように笑った。

 

 

「はぁ………ひぃ………!いくら拳闘士(グラップラー)持ちとはいえ………!今世は神官な僕にこのスピードはキツいよぉ〜……!!」

 

「やまいこさん、浮遊舟(フローティング・ボート)出しときました。私が牽引するので、乗って休んでください」

 

「モモンガさん超イケメン〜〜〜!!!お邪魔しますッ!!」

 

 

 そんな最中、一番後ろで息を切らしながら付いてきていた【女神官(しんかん)】が泣き言を漏らす。

 

 前衛たる聖騎士と女重戦士はもちろんの事、狩人も身体能力は高い。後衛組のうち魔術師、そして死霊術師は飛行(フライ)の魔法が使える為、難なくついて行く事が出来る。

 パーティメンバーの中で唯一、飛行(フライ)の使えない後衛職たる彼女には些か速すぎた様だ。拳闘士(グラップラー)のクラスも修めている為何とか付いてきているが、当然速度は他のメンバーより落ちる。

 

 

 そんな彼女を見兼ねて、死霊術師が透明な舟を呼び出す魔法を使用。飛行している自身と結び付けて牽引する、と述べれば、女神官は目を輝かせてピョンッ、と舟に飛び乗った。

 

 

「あふぅ〜…………楽ゥ〜…………」

 

「モモンガお兄ちゃぁ〜〜ん♥私ぃ鎧と盾が重くてこれ以上走れなぁ〜〜〜〜い♥♥♥」

 

「うわキモ」

 

「あ゛?」

 

「あ、はは…………まだ余裕ありますから、茶釜さんも休んで頂いて大丈夫ですよ」

 

「いィィやっほォォォい!!やまちゃんそっち詰ーめてーーッ!!」

 

「っしゃ来いやかぜぇーっち!!」

 

 

 フゥーっ!と浮遊舟(フローティング・ボート)の上で両手を広げる女神官の胸へと重戦士が勢いよく飛び込む。

 普通ならば鎧などの重さによってへし折れそうなところだが、そこは冒険者。特にダメージを負うこともなく受け止めると、そのまま二人仲良く舟に腰を下ろして力を抜いた。

 

 

「っかぁーっ!楽だわぁーっ!おらおら走れ野郎共ーッ!!甲子園に行きたくないのかーっ!!」

 

「うっっっわ自分が楽になった途端元気になりやがった!!モモンガさん俺も!俺も乗せてよ!!」

 

「愚弟を乗せるスペースは存在しませぇぇ〜〜ん!!潔く走れタコ!」

 

 

 透明な舟の上からやんややんやと走る男連中に檄を飛ばす重戦士。そんな姉の姿に、弟の狩人が悪態をつきながら自分も乗せてくれと死霊術師に頼み込む。

 

 しかし、死霊術師が既存の魔法を改良して編み出したこの浮遊舟(フローティング・ボート)という魔法は積載可能量がそう多くない。

 そもそものサイズが小舟相当。もっと魔力を注げば大きくはなるが、今は依頼をこなしエ・ランテルへ帰る最中。魔力に余裕もあまりない。

 

 何より、死霊術師一人で牽引するにはこれ以上は速度的に厳しいものがある。

 のんびり走る分にはいいかもしれないが、魔物に追い掛けられている現状では速度低下は避けたい所だ。

 

 

「ペロさん、すみません。俺的にもこれ以上乗せると追いつかれそうで………」

 

「えーっ!んじゃウルベルトさん!代わりに浮遊舟(フローティング・ボート)出し_______」

 

 

 死霊術師から申し訳無さそうに断られれば、狩人もこれ以上頼み込むことは憚られる。

 

 となれば、頼む相手は別の相手。

 

 チームを組む六人の中で魔法詠唱可能なのは4人。

 

 そのうち聖騎士(パラディン)職業(クラス)を会得している聖騎士は加護系魔法の使い手ではある。

 しかして彼は元々純物理の前衛職であり、第一位階が使えるようになったのすらつい最近。別の魔法を覚える余裕もないだろう。故に除外。

 

 

 次に神官の女性。信仰系魔法の使い手であり、位階も第三位階まで到達している為腕前の面では申し分無い。

 しかし彼女は拳闘士の職業(クラス)も会得している治癒役(ヒーラー)兼サブ前衛だ。休日も魔法を覚えるより身体を動かしたり、近所の子供たちの世話をする方が好きだと言っている体育会系、自分の分野と違う魔法を覚えているわけはないだろう。

 

 

 現在進行形で魔法を使っている死霊術師はもちろん除外。

 

 とくれば、残りは一党の中でも随一の魔力系魔法の使い手である魔術師(まじゅつし)なのだが…………

 

 

 

「つかてめぇ盾役補助(サブタンク)だろうが(タマ)張ってあのダンゴムシ共止めてこいやボゲッ!!」

 

「え………一党(パーティ)唯一の近距離物理攻撃手(アタッカー)の価値を理解していらっしゃらない………?くっ、ウルベルトさん………!頭まで山羊に………ッ!!」

 

「燃やすぞクソポリィ!!」

 

 

 

 

「…………うん無理!!走りまぁす!!!」

 

「一応、《下級敏捷性増大(レッサー・デクスタリティ)》掛けときますね」

 

「モモンガさん好き!!!ペタン娘吸血鬼(ヴァンパイア)とJSとヘンテコ方言娘と合法ロリババアの次に愛してる!!」

 

「あ、凄い。ロリだらけの中にランクインしてる俺」

 

「ペロさん今世でもブレ無さすぎじゃない?」

 

「生まれ変わった程度で直ったら苦労しないわよ」

 

 

 聖騎士(せいきし)魔術師(まじゅつし)のいつもの喧嘩を見て割り込めないと思ったのか、狩人(かりゅうど)は大人しく足を動かす決意を固める。

 

 親友からの補助を受け、更に元々足の速さは一党屈指。

 装備品も前衛組に比べれば軽装なのも相まって、浮遊舟に身を任せてる女性メンバー二人とは違い余裕の表情で巨大鉄球蟲(ジャイアント・ロリポリ)から逃げ仰せている。

 

 

「というかウルベルトさんが止めればいいのでは?安心して下さい、魔力系の魔法詠唱者(マジックキャスター)ならモモンガさんがいらっしゃるので安心して二階級特進出来ますよ!」

 

「魔法詠唱者の貴重さを把握しておられない????????これが一党の顔役扱いされるとか末代までの恥だろ常識的に考えて…………大丈夫だたっちさん、お前が死んだら御家族には名誉ある死だったと伝えよう。つか娘ちゃんどっからどう見てもモモンガさんに惚れt_______」

 

「正義執行チョォップ!!!」

 

「ヘゲロバッ!?」

 

 

 白銀の様な一閃が魔術師(まじゅつし)の首元へと降り掛かり、勢いそのままに地面に転がる。

 それに伴って飛行の魔法が解除された彼を横目に、聖騎士(せいきし)はわざとらしく兜の目元を押さえて走った。

 

 

「さぁ皆さん!!生命を賭して我々の殿(しんがり)を買って出たウルベルトさんの気持ちを無駄にしないためにもッ!!必ずやエ・ランテルへ帰り着きましょう!!」

 

「テメェェェェェーーーッ!!!待てやゴラクソタッチィィィィィィーーーッ!!」

 

「うっわウルベルトさんはっや!?愚弟レベルに速いんだけど!?」

 

 

 身に付けた装飾品や黒いマントを揺らしながら爆走する魔術師(まじゅつし)の姿に、思わず重戦士(じゅうせんし)が目を見開く。

 

 本来純後衛である彼は、一党の中で見れば身体能力的に低く、魔法による多彩な攻撃と高い火力で格上を殺す切り札的な役割だ。

 当然走る事など滅多に無く、特段足が速いとか普段から走っているという訳でもないのだが………一重に聖騎士(せいきし)への怒りで限界を超えているのだろう。

 

 げに恐ろしきは前世からの因縁である。

 

 

「ちょっ、あれ助けた方がいいんじゃないですか!?」

 

「…………!いや、見てモモンガお兄ちゃん!」

 

「お兄ちゃんやめて頂けません!?」

 

「モモンガ………兄さん………?」

 

「ペロロン、シャラップ」

 

 

 流石に限界を超えた速度で走っているとはいえ、後衛職をあそこに放っておくのはマズイのでは。

 そう思った死霊術師(しりょうじゅつし)が助けに入ろうとしたのだが、それよりも早く重戦士(じゅうせんし)がインターセプト。

 

 何を、と言おうとしたのだが、それよりも早く全員が異変に気が付いた。

 

 

「……………ギュアー……………」

 

「うっわあの蟲!!『ないわー』みたいな顔で引いてんだけど!!」

「ダンゴムシにすら引かれる一党の顔役と切り札ってなに………?何なの………?」

「ヤバい、末代までの恥過ぎる」

 

 

 先程まで団子状になって襲いかかっていた巨大鉄球蟲(ジャイアント・ロリポリ)の群れが、元の巨大ダンゴムシ状態に戻って何処か可哀想なものを見るかのような鳴き声と共に若干後ろへ下がる。

 

 人の感情が分かるのか、それとも本能なのか、はたまた別の理由か。

 ただの人間である一党には分からないものだが、どうにも怒りの収まったらしいダンゴムシ達は、ゾロゾロゾロと連れ立って住処であるトブの大森林へと帰って行った。

 

 

「……………………………」

「……………………………」

 

 

 いたたまれぬ空気が漂う中、どちらとも無く聖騎士と魔術師が互いに近づいて行き_______

 

 

 

「_______全て狙い通りですね」

「アカデミー賞待ったナシの名演技だったな」

 

『嘘つけボケ共』

 

 

 精一杯の言い訳は、満場一致の冷たい一言で切って捨てられた。

 

 

 コレが、彼等の日常。

 

 冒険者であるが、何処か冒険者らしくなく。そして誰よりも、冒険を楽しむもの達。

 エ・ランテルが誇る問題児集団にして、当街最強の戦闘集団であり、何だかんだと街の厄介事を解決する人気者達。

 

 

 ミスリル級冒険者チーム【アインズ・ウール・ゴウン】。

 

 彼等の、当たり前の冒険なのだ。

 

 

 

☆☆★

 

 

「…………で、巨大鉄球蟲(ジャイアント・ロリポリ)に追いかけ回されて報告が遅れた、と」

 

「ゴメンねぇ、事前に戻るって言ってた時間より遅れちゃって…………」

 

 

 エ・ランテル、冒険者組合。

 

 日々数多の若者や食い詰め物が冒険者になる為に訪れ、人知れずに消えて行く殉職率の高い業界。

 それを少しでも少なくする為に、組合には彼らをサポートする職員達が多く在籍している。

 

 

 そんな職員の一人、受付の女性の前で申し訳なさそうに手を合わせる、手甲を着けた神官服の女性が一人。

 

 冒険者チーム、アインズ・ウール・ゴウンの一員。かつての世界では『やまいこ』と呼ばれた人物だ。

 

 

 

「あ、コレ依頼の薬草!思ったより沢山取れたからその分も持って帰ってきたんだけど大丈夫?」

 

「あ、はい!先方に薬草の状態を確認して頂き、問題なければ追加の報酬が出るかと」

 

「ありがとう〜〜!後こっちは依頼とは別の討伐証!ちょっと血腥いから、男の人に頼んでね」

 

 

 エ・ランテルのみならず、王国や帝国といった近隣諸国の冒険者組合ではモンスター毎に決められた討伐証を持ち込めば、その分の報奨金を受け取る事が出来る。

 

 毎日十全な量の依頼が入って来るとは限らず、仮にあっても自分達の一党が受けられるかも分からない。

 そんな中で、治安維持も兼ねたこの討伐による日銭稼ぎは冒険者達が糊口を凌ぐ上で大切な事業だ。

 

 

 勿論、やまいこ達【アインズ・ウール・ゴウン】が討伐してくるモンスターともなればそんじょそこらの小鬼(ゴブリン)とは格が違う。

 報奨金も去ることながら、モンスターから剥ぎ取る事が出来る素材も一級。

 今回で言えば、《巨大鉄球蟲(ジャイアント・ロリポリ)》の甲殻は鎧や手甲といった防具の素材にピッタリ。鍛冶屋からの買取も見込める人気商品だ。

 

 

 そういった大事な資金源だが、モンスターの耳やら牙やら、全体的に血腥い。いくら慣れている冒険者組合の受付嬢とはいえ、好んで見たいものでも無いだろう。

 こういった細かな気配りが、アインズ・ウール・ゴウンが他の冒険者とは一線を画す要因の一つだったりする。

 

 

 

「_______はい、確認が取れました。コレでバスケン商会からの依頼は完了ですね、お疲れ様でした。討伐証の換金はいつも通り、明日の朝にお渡しします」

 

「ありがとう!また依頼受けた時は宜しくね〜〜!!」

 

 

 

 手馴れた様子で薬草の束の本数を数え、笑顔で依頼の終了を告げる。

 

 下手な冒険者ならば本数を誤魔化したり、そもそもの質が悪かったりと確認事項が物だが《アインズ・ウール・ゴウン》に関しては別物だ。

 仕事の丁寧さ、確実さは誇張抜きでエ・ランテルでもトップ。時折訳の分からない事情で報告が遅れるが、それも許容範囲内だ。

 

 

 自由人共とはいえ、大半が前世で社畜やってた連中。

 社会人としてのアレコレは、他の冒険者とは比にならなかった。

 

 

 

 

「お待たせ!依頼の報告と討伐証の提出済ませて来たよ!」

 

「やまちゃんお疲れ〜〜〜」

 

 

 トテテッ、と小走りで戻ってきたやまいこに、机に頬を付けながらぬぼーっとした表情を浮かべる重戦士_______【ぶくぶく茶釜】が軽い口調で労う。

 

 

「いつもありがとうございます、やまいこさん。問題なさそうでした?」

 

「バッチリ!依頼品の質も勿論だし、モモンガさんがいつも【清潔(クリーン)】使ってくれるから受付の皆からの評判も上々だよ!」

 

「お役に立てているのなら良かったです」

 

 

 本来ならば【アインズ・ウール・ゴウン】という一党の顔役として認知されている聖騎士_______【たっち・みー】がこういった役目をこなすもの。

 しかし細やかな気配り、対人会話となると前世で教員として働いていた上に勘のいい彼女の方が適任なのだ。

 

 笑顔でVサインを見せるやまいこの言葉に、死霊術師_______【モモンガ】も嬉しそうに小さく笑みを浮かべる。

 本人の凝り性も相まって、彼の習得魔法数は相当なもの。戦闘用以外にも生活魔法やそれに付随する魔法、彼独自に開発した魔法を含めれば、エ・ランテルでも並ぶ者が居ない程の量だ。

 

 

 

「んでぇ〜、この後どうするぅ?個人的には武器屋寄りたいんだけど。飛んでる虫系モンスター相手に矢を使い過ぎちゃったし、後は臭い消しとかも補充しときたい」

 

「あ、そんなら魔術師組合も寄って欲しい。低位の巻物(スクロール)を買おうか悩んでたんだ」

 

 

 背もたれに身体を預けながら果実水を傾ける狩人_______【ペロロンチーノ】が必要物品の補充を願い出ると、それに倣うように魔術師_______【ウルベルト】が魔法関係の品の購入を検討する。

 

 腕の良い弓使いであると同時に一党の斥候役も担うペロロンチーノと、モモンガ以上に攻撃魔法に精通している高燃費高火力のウルベルト。

 メンバー内でも消耗品を扱う両名は、早い内に補充してしまいたいと真面目な意見を出した。

 

 

 

「アレ?ウルベルトさん、マジックアイテム買いたいから貯金するって言ってなかったっけ?」

 

「エ・ランテルじゃ何処探しても目当てのが手に入らなさそうでなぁ………戦力充実させる方が優先度高ぇなと」

 

「あー………そこは面倒ですよねぇ。帝国の方が手に入りやすいけど、拠点としては王国の方が仕事多いですし………」

 

 

 ユグドラシル時代ならば、余程高位なものでもなければその辺のNPCの店舗で購入出来たマジックアイテム。

 しかし転移後の世界においては、少しばかり重さが軽くなる程度のゴミ性能だろうとも頭を抱えたくなるほどの高値が着く。

 

 ましてはここは人類圏屈指の魔法後進国、リ・エスティーゼ王国。

 ウルベルトが求める程の品質のマジックアイテムなんて、手に入る確率はうんと低い。

 

 かといって、帝国魔法学院の影響でマジックアイテムが比較的に入手しやすい隣国、バハルス帝国に行くのも考えもの。

 向こうは向こうで、専業騎士による日夜の努力のお陰………いや、そのせいで冒険者の仕事は王国よりも目に見えて少ないのだから。

 

 

「火力アップ系とか、効果が分かりやすい分高いですもんね。遠出して遺跡にでも潜った方が早いのでは?」

 

「たっちさんの盾もそんな感じで見つけたしねぇ………でも遠征費も馬鹿にならないし………」

 

 

 たっち・みーの提案に、渋い顔で返したのはやまいこ。

 

 白金級時代にたまたま見つけた地下遺跡。そこでの冒険は過酷なものだったが、最奥にて保管されていた盾は、そんじょそこらで手に入る代物ではなかった。

 

 

 並の盾とは比べ物にならない硬さを誇るだけではなく、装備者の斬撃攻撃威力を上昇させ、一日に二度、盾から【衝撃波(ショックウェーブ)】の魔法を放つことが出来る垂涎の品。

 他の冒険者達から《アインズ・ウール・ゴウン》を象徴するとも呼ばれるそれを見つけた時のように、遺跡に潜るという手もなくはない。

 

 

「金、金、金!騎士として恥ずかしくないのか!!」

 

「俺ら冒険者だから恥ずかしくねぇな!!」

 

「実際いくらあっても足りないもんね!!!」

 

 

 しかし問題は、その遠征費。

 

 都合良く遺跡発掘の調査なんて依頼が舞い込む事は有り得ない為、潜りたければ自分で見つけて潜るしかない。

 しかしその調査にも金がかかる。当然潜る間は依頼を受けないことになるので、冒険者としての収入はガタ落ち。

 そして運良く見つけて潜れたとしても、マジックアイテムが手に入る保証は無し。

 

 

 金金金、とぶくぶく茶釜が頭を抱えれば、冒険者としちゃ正しいだろうとウルベルトが半笑いで乗っかる。やまいこも諦めたようにあっはっは、と笑い、次いで3人揃って机に突っ伏した。

 

 

「魔力系なら帝国、神官系なら聖王国。武器関連は…………何処でしょうか。都市連合辺り?」

 

「噂のドワーフの国と交流持てればなぁ………ブルムラシュー侯領まで行けば、取引されてるって噂だけど」

 

「仮に取引していたとして、買えませんよ。だってあのブルムラシューですし」

 

 

 六大貴族でも随一の財源を持つと共に、金貨1枚のために家族すらも裏切ると噂されるブルムラシュー侯。

 その領地では満足な買い物なんぞ出来るわけもない、とモモンガやたっち・みーも肩を竦める。

 

 

「あーあ、なんかでっけぇ素材になる魔物でも落ちてねぇかなぁ!!」

 

「そんなの出たらエ・ランテルの危機では?」

 

「危機だからこそ大手を振って討伐出来るかもしれませんよ。まぁ………こんなところまで出てくるとは思えませんけど」

 

 

 近くにトブの大森林が聳えるエ・ランテルの近郊には、他都市よりも比較的多数の魔物や魔獣が姿を見せる。

 そういった類の討伐依頼はよくある事だが………ミスリル以上の冒険者が求める様なマジックアイテムの素材なるレベルかと言われれば、明確に違うだろう。

 

 そんな大魔獣ともなれば、もっと早くに目撃報告が上がる。そして討伐の為に、他都市のオリハルコンやアダマンタイトに要請が飛ぶだろう。

 

 

 ミスリル級である一党が参加するには、要請をとばす余裕が無いほど近場に大魔獣が現れるしか方法は無かった。

 

 

 

「………………あー、もう!!考え過ぎても身体に毒!!っしゃあ野郎共、こういう時は飲むわよ!!」

 

「え、茶釜さん補充は?」

 

「どうせこの時間に行っても大したもの残ってないわよ!それくらいなら明日討伐報酬受け取ってから早い時間に顔出しても変わらん!!」

 

 

 どうしたもんか、という空気感の中で、やめだやめだと言わんばかりに茶釜が立ち上がる。

 

 依頼をこなし、浴びるほど飲んで、眠る。ある意味でとても冒険者らしい提案をした彼女に思わず補充はと聞き返すたっち・みー。

 しかし現在時間はクソデカダンゴムシに追いかけ回されたのが祟ってかなり遅め。今から魔術師組合や武器屋に顔を出しても、品切れやらなんやらで完璧な補充は見込めない。

 

 それならさっさと気分転換して、明日に全部やればいいと茶釜は胸を張る。

 

 

「うーん……まぁいっか!どうせ満足いく物がなかったら依頼しての補充になるし、今日も明日も変わらないね!」

 

「さっすがやまちゃん、分かってるぅーっ!」

 

「まっかしとけーぃっ!!」

 

 

 いえーい、とハイタッチを交わす女子組を眺めながら、男子組もまぁいいか、とアイコンタクト。

 こうなったら止まらないと、経験則で理解しているのだ。

 

 

「んじゃ、いつものとこでいいか?」

「なら俺、先に行って席確保しとくね〜」

「あっ、どうせ飲むなら妻と娘も連れてきていいですか?」

「いいですね、人数多い方が楽しいですし是非!」

 

 

 テキパキと言葉を交わしながら荷物をまとめて席を立つ。

 

 ウルベルトの提案を受けて、馴染みの店にペロロンチーノが走る。

 家族を連れてきていいかというたっち・みーに、笑顔でモモンガが同意する。

 「さーけ!さーけ!」と騒ぎながら、我先にと冒険者組合のドアから出ていく茶釜に、それを愉快そうに眺めるやまいこ。

 

 

 何だかんだ、《アインズ・ウール・ゴウン》のお決まりの流れだった。

 

 

 

★★☆

 

 

 

「そんじゃギルド長、お願いしまーすっ!!」

 

「一党のリーダーはたっちさんなんですけど!?」

 

「まぁまぁいいじゃないですかモモンガさん、頼みますよ」

 

「たっちさんまで………全く。それじゃあ全員飲み物持ってー_______お疲れ様でした!」

 

『お疲れ様でしたーーッ!!』

 

 

 カァンッ、と木製コップの小気味良い音色が酒場に響く。

 モモンガの音頭と共に一気に酒を傾けた一党は、ほぼ全員が1杯目を飲み干して空のコップを机に叩き付けた。

 

 

「っかぁーっ!!生きてる!生きてるねぇ!」

「正直これの為に冒険やってるって言っても過言じゃないよねぇ!!」

 

「ったく、酒好き姉弟め」

 

 

 そそくさと2杯目のコップを掴んでギャイギャイ騒いでいるのは、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノの姉弟。

 死してなお血の繋がった2人は、前世では飲む機会なんて数度も無かったアルコールにすっかりメロメロになっていた。

 

 

「すみません、やまいこさん。夫の誘いとはいえ、私と娘までお世話になって………」

 

「いーのいーの!奥さんも娘ちゃんも前世仲間なんだから!お金だって一党の共有財布から出すから、じゃんじゃん楽しんでこー!」

 

 

 そんな中で少しばかり申し訳なさそうにしている女性が1人。左手の薬指には、幸運の加護が宿った魔法の指輪が光っている。

 

 何を隠そう彼女こそ、たっち・みーの奥さん。

 前世でも夫婦だった2人はなんの奇跡か今世でも巡り会い、再び愛を誓い合った。

 

 そんな恋愛譚のような二人の関係が大好物だったやまいこは、仲間の家族なら自分の身内、という謎の理論の下、彼女の参加を歓迎していた。

 

 

「………ん!」

 

「はい?………あぁ、取り分けてくれたんですか?ありがとうございます」

 

「ん!」

 

「ふふっ、小さい子って可愛いなぁ。何か食べたいのがあったら、遠慮なく頼んで下さいね」

 

 

 隣に座る小さな淑女から、宴会用の大皿から取り分けたのであろう小皿を受け取るモモンガ。

 

 たっち・みーの一人娘である少女が一生懸命気を使ったのだろう。その気遣いがなんだか可愛らしく、彼も柔らかな笑顔で応対していた。

 

 

 

「……………やっぱお前の娘ちゃんってモモンガさんにベタ惚れだよな?」

 

「やめてくださいウルベルトさん!!私はまだモモンガさんの首と胴体を繋げていたいんです!!どうか私にその言葉を認識させないで下さい!!」

 

「コイツやっば」

 

 

 なお娘ちゃんの気遣いは、毎回特定の御骨様単独に向けられている模様。

 

 その事実を静かにウルベルトが指摘すると、苦虫どころか毒虫を噛み潰したかの如き表情を浮かべて必死にその光景を見ないようにするたっち・みー。

 彼にとっては前世でも今世でも可愛い可愛い愛娘であり、近寄る男は全て斬り伏せる勢いで愛している。

 

 それはそれとして、モモンガの事をめちゃくちゃに信用しているのも事実。

 我が子の慧眼を褒めればいいのか、よりにもよって一番否定しにくいところに行くのを嘆けばいいのか。転生しようと、父の苦悩とは変わらないものである。

 

 

「つまり娘ちゃんと俺がラブラブ♡になれば全て解決…………ってコト!?お義父さん、娘さんを僕にください」

 

「焼き鳥追加入りまァす!!」

 

「ぎゃあああああああっ!!」

 

「残当」

「親の焼き鳥より見た焼き鳥」

「死ね愚弟」

 

 

 モモンガじゃなければこうなる。流石はモモンガ様である。

 

 

 愛剣を片手にペロロンチーノへ連続突きを放つたっち・みーと、それを叫び回りながら全部躱すロリコン。

 見方によっては曲芸にも見えるそれは、酒場の飲んだくれ達からもヒューヒューと歓声が上がるほど見事なものだ。

 本気で刺そうとしているのだから当然のクオリティである。

 

 

「みんな仲良いなぁ…………ん?」

 

 

 串刺しにされそうな親友を眺めながらぽやぽやした感想を述べるモモンガ。日常風景なのもあるが、それ以上にペロロンチーノならなんだかんだ避けるだろうという信頼もある。

 

 そんな最中、ギィと音を立てて酒場の扉が開く。

 

 見覚えのある4人組の顔を認識したモモンガは、頬を緩ませて彼らを手招きで呼び寄せた。

 

 

 

「《漆黒の剣》の皆さん、お疲れ様です。飲みに来たなら、一緒にどうです?」

 

「いいんですか!?ありがとうございますモモンガさん!」

 

 

 胸に銀色のプレートを提げた金髪の青年が、人好きされる笑みを浮かべて頭を下げる。

 

 銀級冒険者チーム《漆黒の剣》。

 エ・ランテルの若手の中でも有望株な4人組であり、アインズ・ウール・ゴウンの面々とも関わりが深く仲も良い。

 度々こうして酒の席を共にすることがあり、今回も世話になるとリーダーの戦士、【ペテル・モーク】が感謝を述べた。

 

 

「んでぇ………あの二人はなーにしてるんだ?曲芸?」

 

「どうせペロロン殿がやらかして折檻されているのである!よく見る光景である!」

 

 

 「尻に1発入った!!尻に入ったってたっちさん!!」というペロロンチーノの悲痛な叫びを聞いて苦笑を浮かべる野伏の【ルクルット・ボルブ】。ペロロンチーノとは役割も近く武器も同じということで、よく二人でつるむところ目撃される。

 

 そんな彼によく見る光景だと笑い飛ばしたのは、大柄な森祭司の【ダイン・ウッドワンダー】。アインズ・ウール・ゴウンの面々では持たないような薬草の知識を持ち合わせ、よく質問攻めに遭いながらも快く受け入れる快男児である。

 

 

「も、モモンガ先輩!お隣良いですか!」

 

「あぁニニャさん。勿論です、どうぞどうぞ。取り皿取りますね」

 

 

 ありがとうございます!と緊張気味に答えたのは、術師(スペルキャスター)の二つ名を持つ漆黒の剣の魔法詠唱者、【ニニャ】。

 モモンガにとっては同じ師匠を持つ相手であり、冒険者としても魔法詠唱者としても同門の後輩とも呼べる。

 

 そんな彼女________否、彼にあれこれと世話を焼くことも多く、魔法に関する手ほどきも時折行っている程仲がいい。

 

 

 

「いけ、ニニャ!そこだ、攻めろ!」

「モモンガさんならいける!難易度イージーだって!」

「朴念仁には攻めねば始まらぬのである!」

「し、静かにしてよぉ!」

 

「?どうかしましたか、みなさん」

 

『いえなんでも!!』

 

 

 ………そんな両者の関係を面白おかしく応援している仲良しグループ、それが漆黒の剣である。

 

 こんなチームだが、もうすぐ金級への昇格試験を受けられるのでは、なんて噂が出る程度には優秀な面々だ。

 

 

「そういえば最近は姿が見えませんでしたけど、遠出の依頼を?」

 

「あ、はい!クラルグラの皆さんに同行して森林地帯に!」

 

「あぁイグヴァルジさんのところと!それなら安心ですね、森林地帯なら特に」

 

 

 モモンガ達アインズ・ウール・ゴウンと同じくエ・ランテルの冒険者のトップ層、ミスリルの地位を得ている冒険者チーム《クラルグラ》。

 

 そのリーダーを務める男イグヴァルジは、初見の森であろうとも迷うことなく踏破出来る腕の良い斥候役だ。

 森林地帯ならばペロロンチーノよりも優れた感知力を発揮する彼と共にならば、危険も少なかっただろう。

 

 

「『モモンガとその他5人に宜しく』って言伝預かってますよ」

 

「相変わらずだなぁイグヴァルジさん」

 

 

 余談だが、駆け抜ける様に功績を重ねていたアインズ・ウール・ゴウンに嫉妬したイグヴァルジとメンバーの間で一悶着あったりした事もある。

 しかし現在ではモモンガを筆頭に信頼できる仕事仲間として振舞っており、漆黒の剣ほどでは無いが一緒に酒を飲む位には打ち解けた相手になっている。

 

 イグヴァルジを絆した手腕を見て、他メンバーが『見なよ、俺たちのギルド長を』とドヤ顔していたのは秘密である。

 

 

「組合に報告してから酒場に来るって言ってたので、そろそろ来るんじゃないかな」

 

「ホントですか。なら先に料理の注文しておきましょうか」

 

 

 クラルグラの面々も参加するとなれば、料理は勿論席も足りなくなる。

 先んじて用意しておこうと店員を呼ぼうとした、その時だった。

 

 

 ピクリとペロロンチーノが、次いでルクルットが反応する。

 そんな彼らを見て、悪ふざけをしていたたっち・みーは即座に剣を収め、茶釜は愛用の盾を何時でも取り出せるように身構える。

 

 

 バァンッ、と荒々しく店の扉が開かれる。

 

 そこに居たのは、息を荒らげた目付きの悪い男。

 しかしアインズ・ウール・ゴウンからしてみれば、見知った顔であった。

 

 

 

「モモンガ!!居るか!?」

 

「イグヴァルジさん!?どうしたんですかそんな慌てて」

 

 

 先程まで話題に上がっていた男_______フォレストストーカーの職を持つミスリル級冒険者、イグヴァルジが焦りを滲ませ友人の名を呼ぶ。

 

 不審者でこそ無かったものの、彼の焦った様子になんだなんだと店中の視線が集まった。

 

 

「イグちゃんじゃん。なんかあったの」

 

「ペロロンチーノ!他の連中も揃ってるか!組合からの要請だ、やべぇのが来た!!」

 

「要領得ねぇな、ハッキリ言えよイグヴァルジ。()()()()?」

 

 

 軽く手をあげるペロロンチーノを見て、アインズ・ウール・ゴウンが全員揃っていることに少し安堵の表情を浮かべる。

 

 そんな彼にウルベルトが端的に言えと目を細めて問う。

 アインズ・ウール・ゴウンと同じくミスリル級チームを率いる彼が焦る様な相手、そして組合からの緊急要請。何が起こったのかは、ある程度察せた。

 

 

 少しばかり言い難そうに口をもごもごと動かしたが、意を決したように額に手を当てて緊急の内容をこぼした。

 

 

 

 

「_______ギガント・バジリスクが出やがった!!しかも近ぇ!!」

 

 

 

 瞬間、酒場は冷え切った様に静まり返った。

 

 

 

 ギガント・バジリスク。

 

 難度にして実に83。全長は10メートルの巨大であり、厚い鱗と皮膚はミスリルクラスの硬度。血液は並大抵の人間ならば即死する猛毒であり、何より厄介な石化の魔眼を持つ最高クラスの魔獣。

 討伐するにはアダマンタイトか、最低でも腕利きのオリハルコンが2チーム以上。

 

 ミスリルでは、仮にアインズ・ウール・ゴウンとクラルグラ以外の残りのミスリル_______《天狼》と《虹》の4チーム合同であっても、撃退出来るか怪しい。

 

 

 そんなモンスターが、エ・ランテルに迫っている。

 

 

 つまるところ、都市滅亡の危機である。

 

 

「兵士たちじゃ太刀打ち出来ねぇ!しかも間の悪いことに天狼も虹も出払ってる!!俺らでどうにかしねぇと不味い!」

 

 

 誰かの息を飲む音が聞こえる。

 

 

 ギガント・バジリスクの相手ともなれば、兵士たちなんぞ何人いても役に立たない。犠牲が増えるだけであり、寧ろ石化で障害物になることを考えれば邪魔と言っていい。

 その上で、天狼と虹を除いた2チームで撃退せよという依頼。

 

 

 言い換えれば、『死んでこい』と同義である。

 

 

 イグヴァルジも死にたくはない。しかし以前の彼ならばまだしも、今の彼にとってエ・ランテルは居心地良く、なるべくならば守りたい場所。

 

 友人達に共に死んでくれと言うのは、本当ならば口にしたくない。

 それでもと、イグヴァルジが口にしようとした、その時だった。

 

 

 

「_______皆さん」

 

 

 ガシャン、と音を立ててたっち・みーが盾を鳴らした。

 

 それと同時に、理解してると言わんばかりにアインズ・ウール・ゴウンの面々が装備を身につけ立ち上がった。

 

 

「…………戦う、んですか?ギガント・バジリスクと…………」

 

 

 息を飲みながら途絶え途絶えに問うペテルの言葉は、その場の全員の代弁であった。

 

 クラルグラの4人を加えても10人。何人死ぬかも分からぬ戦いに、全員が臆せず立ち上がる。

 

 

 これが英雄の姿か、と涙すら浮かべかけた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_______素材狩りじゃあアアアアアアアアッッッッ!!!!」

 

 

 

 _______六人揃って、飛び出した。

 

 

 

「………は?_______はァ!?!?」

 

 

 

 

 

「グウウウウッドタァァァァイミィィィングッ!!!素材が向こうからやって来ましたよ皆さァん!!」

 

「おい鶏冠は傷付けるなよ!?あれがいっちばん高く売れるんだからな!!」

 

「ギガント・バジリスクなら毒耐性持った革盾作れるよねぇ!!いい加減買い換えたかったんだわ!!!」

 

「爪!!爪は俺に頂戴!!あと背筋のいっちばん良い筋!いい加減矢も弓もアップグレードさせたかったの!!」

 

「あ、かぜっち革ちょっと頂戴ね!!私も殴り用の耐久あるグローブ欲しいーーー!!!あ、そういえば石化耐性どうする!?」

 

「御安心下さい、私モモンガ、この間石化耐性の魔法覚えましたーーッ☆という訳で存分にやりなさい」

 

『さっすがーーっ、ギルド長は話が分かるッ!!!』

 

 

 

 恐れなど微塵も無く、素材をどうするかとワイワイワイワイ話し合いながら風のように正門方向へと去っていく。

 

 

 酒場に残されたペテルやルクルットは顎が外れそうな程に口を開き、ダインは信じられないものを見たかのように呆けている。

 

 ニニャが「いつもああなんですか」とたっち・みーの奥さんに問えば、「昔から変わらず可愛いでしょう?」とぽやぽやと述べていた。

 

 娘ちゃんは父やその仲間たちの楽しそうな表情を見て、「ん!」と嬉しそうに笑うだけだ。

 

 

「は、はは…………全く、ほんとにとんでもねぇよアイツら」

 

 

 英雄って、あんな奴らなのか。

 

 

 そんな言葉を飲み込んで、イグヴァルジも「俺とクラルグラを忘れんな!!」とその背を追って駆け出した。

 

 

 

 

 

 _______起こりえたかも知らない世界。

 

 あったかもしれない可能性。

 

 

 これが彼等の_______()()()()()()()()()()として歩んでいく彼等の。

 

 

 

 英雄達の、お話。

 

 

 






以下、多分もう使わない設定達。


▼たっち・みー
→元帝国貴族。両親は能力はないが善良、という人達だったので貴族じゃなくなってからは普通に働いている。
 兄がいるので実家を任せて、ウルベルトと共に冒険者チームを結成。途中でエ・ランテルに移り、モモンガ達と出会い合流。チーム《アインズ・ウール・ゴウン》を結成する。
 奥さんは貴族時代のメイドさん。出会って直ぐにお互いだと気が付いた。
 一党だと物理火力担当。前衛としてサブタンクも担っている。

▼ウルベルト
→ヴァディス自由都市出身。貧民だったが魔法の才能と冒険者の師匠に恵まれて開花。アンデット狩りをしている際にたっちさんに出会って、紆余曲折を経てチームを組んだ。
 多分チーム組んでなかったらそのうち冒険者辞めてワーカーになってフォーサイトに合流したりしてる。
 一党の魔法火力担当。燃費悪いけど火力が高い。アンデッド狩りの経験のせいで聖属性の魔法が使えるようになり、解釈不一致だと地団駄を踏んだ。

▼ぶくぶく茶釜
→王国の貧村出身。両親が亡くなり村に居場所が無くなったが、持ち前のガッツで弟を連れて冒険者として生きる為に前を向いたメンタルお化け。
 早々にモモンガと合流出来たので上手いこと生き残ってミスリルまで上り詰めた。
 ちなみに生まれ故郷の村の事を恨んではいないが、顔見せも兼ねて帰郷した際に「抱いてやってもいいぞ?ん?」してきたモチャラスの三男坊は許す気は無い。顔面は砕いた。
 一党のメイン盾。黄金の鉄の塊では出来てない。守る事に限ればオリハルコンやアダマンタイトに匹敵する優秀な人。

▼ペロロンチーノ
→姉と一緒に村を出て冒険者に。組合の門の前で「どうせ金稼いでもエロゲは買えないんだよなぁ………」と言った呟きがたまたまモモンガに聞こえてペロロンチーノ判定を受けたので、チームを組めたという実は重要人物。
 親友と一緒にキャッキャしながら冒険を楽しんでいるエンジョイ勢。蒼の薔薇と会った際に仮面状態のイビルアイに「付き合って下さい!!」したせいで避けられてる。それもご褒美というハイレベル変態。
 貴族は好きじゃないけど、『領内の仕事を引き受けてくれるミスリル級冒険者にとんでもない事を』として謝ってくれたモチャラスの長男は良い人だなーと思ってる。
 一党の目であり耳。ただしビルド的には弓使い中心で、斥候は色んなアイテム組み合わせて補ってる。その分戦闘に長けてるので、パーティ火力的には寧ろプラス。

▼やまいこ
→聖王国出身。向こうで神官やってる時に南部の神殿勢力の腐敗を嫌って辞職、冒険者としてチーム組んでたけど仲間がおめでたで寿引退。どうしよっかなーと思ってた矢先に王国から出張依頼を受けてたアインズ・ウール・ゴウンに出会って仲間入りを果たした。
 実はケラルトからも目をつけられて勧誘対象に上がってたくらい優秀な人。冒険者はもったいないとも思われてるが、本人は友達と一緒に楽しんでるエンジョイ勢2号。
 一党の回復役であると同時に、後衛の純魔法使い×2の護衛も兼ねてるグラップラー。武技を重ねた怒りの鉄拳は神官らしからぬ火力を叩き出す。

▼モモンガ
→我等が御骨様。友達と一緒でベリーハッピーな毎日を過ごしている。
 元々王国の商家出身だが、旅する魔法詠唱者に才能を見抜かれスカウト、色々教えてもらった上で冒険者組合の門を叩こうとしたら門の前にいた奴がエロゲとか言い出したのでペロさんだーっ!?ってなった。
 イグヴァルジを絆すしニニャともいい感じだし受付嬢からの人気も高いという相変わらずの人たらしを発揮している。この後聖王国に依頼で向かい、なんだかんだと神官長と仲良しになったりする。

 多分個人の幸福度は原作より高い。
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