至高の御方転生記 〜現地人になった御方達〜   作:ハチミツりんご

2 / 14
武人建御雷・弐式炎雷in王国

 

リ・エスティーゼ王国。

 

 

人類存続圏にあるいくつもの国のなかでも飛び抜けた国土、さらにスレイン法国に次ぐ国民数を誇る巨大国家。肥沃な土地に恵まれ、他国に比べ脅威となる亜人種や異形種の国家が隣接していないなど、人間の住める範囲内では最も安全な国と言っても過言ではない。

 

……が、その恵まれた立地に反して国力は低下の一途を辿っている。

民達は碌でもない貴族が課した重い税に苦しみ、生活もままならない。裏では犯罪組織《八本指》が蔓延っており、禁止されているはずの奴隷商売や大量の麻薬商売によってじわじわと蝕まれる。おまけに貴族達は自分の利のことしか考えていない者が多く、現国王《ランポッサⅢ世》は国民の事を思ってはいるが如何せん王としての力は凡人どまり。

 

他国では重宝される魔法詠唱者の地位すら低いと、もはや救いようがない国。隣国のバハルス帝国は勿論、人類の護り手たるスレイン法国からも見放されていた、正真正銘、滅びるのを待つだけの国であった。

 

 

 

 

 

 

______なのだが、数年前から国力の低下は収まっていき、なんと現在その国力は僅かながら上昇し始めている。誰がどう見ても救いようの無いダメ国家だったはずが、巻き返し始めたのだ。

 

 

 

裏組織と通じている貴族たちが粛清、その地位を追われた為に比較的マトモな貴族達が残った為に以前よりもかなりマシな税金となった事で国民達は救われ、それにより流通も活発化。さらにそれを邪魔する裏組織《八本指》も幹部勢が複数処刑された上に、生き残った面々も多くが国外に逃亡している事によってその規模は全盛期の十分の一……いや、さらに下までなっているだろう。

 

さらにさらに、王位継承権一位でありまさしく無能中の無能と言われてもおかしくなかった第一王子、《バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフ》が裏で犯罪組織と通じていた事が発覚。ランポッサの慈悲により死刑は免れたものの王宮からは追放され、現在は行方不明。噂によると規模の小さくなった八本指に身を寄せているとの噂もあるが、大した能力を持たないバルブロを匿う理由は無いため、もしかしたら既に帰らぬ人になっているのでは、とも言われている。

 

この様にして国の癌になる者たちが相次いで排除された為、リ・エスティーゼ王国は崩壊への片道列車から寸でのところで下車することが出来た。これによりバハルス帝国も迂闊に手を出すのは得策でないと判断、スレイン法国もしばらくは動向を見守る事となった。

 

 

 

これらの功績の根底には、六大貴族の一人にして最も王国の為に尽くしてきた《エリアス・ブラント・デイル・レエブン》ことレエブン侯、及び本来の優秀さを存分に発揮し、王位継承順位一位となったバルブロの弟、《ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ》の活躍が大きい。ザナックの名を使い、レエブン侯が配下の元冒険者チームを使って情報を集め、相手の策謀に打ち勝ち見事国を救ってみせたのだ。

 

 

 

 

だがしかし、その快進撃の裏には幾人もの人間達の力があってこそ成り立っている。

 

その中でも特に力を尽くしたのが、〈黄金〉とも言われる美貌、そしてレエブン侯やザナックですら及ばない程の飛び抜けた智謀を誇る第三王女、《ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ》。心優しい彼女は血の繋がった兄を貶めるような行為はしたくなかったが、国の為民の為、なにより日々疲弊していく父の為に、その頭脳を振るった。仕方なかったとはいえ実の兄を追い出してしまったことに心を痛めた彼女は、何度も護衛の騎士の前でさめざめと泣いたという。

 

 

 

 

 

 

……と言っても、彼らと彼女は頭脳面での功労者。武力面でも飛び抜けていた八本指を打倒する為に、当然ながらそれ相応の戦力も動いた。そんな戦闘面のメンバーの中でも活躍したのは、第三王女とも親しいアダマンタイト級の冒険者チーム、【蒼の薔薇】………では、なく。

 

 

 

 

もう一組。どうやったのか、秘匿されている貴族や八本指関連の情報を集め、戦闘面で最も活躍した二人の冒険者がいる。王国3番目のアダマンタイト級冒険者チームでありながら、なんと戦士と盗賊の二人チーム。魔法詠唱者すらいないにも関わらずそこまで登りつめた実力者。

 

 

 

曰く、かの戦士は周辺諸国最強と呼ばれる戦士長、《ガゼフ・ストロノーフ》と、蒼の薔薇の戦士にして王国内でもとびきりの重戦士、《ガガーラン》が同時にかかっても勝てない。

 

曰く、かの盗賊を捉えることは不可能。蒼の薔薇、イジャニーヤの首領であった2人すらも嘲笑うほどの隠密を可能としながら、戦いにおいても華麗に舞う傑物である。

 

 

 

 

確実に物語の英雄と呼ばれるほどの実力を持ち、唯一無二の相棒と共に歩んでいく。そんな、王国が誇る英雄二人は______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひかえおろーう!!!この紋所が目に入らぬかぁ!!!」

 

「ここにおわすはかの王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ公にあらせられるぞ!!頭が高ぁぁぁい!!」

 

「……す、済まないタケミカヅチ殿、ニシキ殿。モンドコロ、とはなんの事だろうか?それに、私は平民の出であって公爵位は王から頂いては………」

 

「そんな細かいことはいーんだよ!!」

「こういうのはノリだぜ、ノリ!!」

 

「は、はぁ………?」

 

 

 

 

 

______広場で王国戦士長相手にウザ絡みしていた。

 

 

王国首都、リ・エスティーゼ。国名と同じ名を冠するこの首都は、現在活気に満ち溢れていた。

 

元々王都自体はそこそこ賑わいを見せていたのだが、それは大通りのみ。少し道を外れれば舗装されていない道、寂れた店に活気の無い人々。ハッキリいえば古めかしいだけで、都市としてはエ・ランテルにすら劣っているのでは、とすら言われていた。

 

 

が、悪政を強いる原因となっていた貴族達、そして八本指の力が大きく削がれた事により税率は以前に比べて下がり、少なくとも働いていれば生活には困らないだけの金銭を稼ぐことが出来るようになっていた。それに伴った市民の笑い声も増え、商人達による商売も活発に。経済が回るようになった今、王都はかのバハルス帝国に勝るとも劣らない賑わいを見せていた。

 

 

 

 

そんな王都の広場で王国戦士長ガゼフを相手にバカみたいな事をやっているのは、彼に憧れている子供なんて可愛らしいものでは無い。首元に輝くのは、深い蒼色をした魔法金属の輝き。かの朱の雫や蒼の薔薇と同じく、アダマンタイト級まで登りつめた冒険者。

 

 

そのうち、片方は目を見張るような大柄な男。ガゼフも充分に恵まれた身長、鍛え抜かれた体格をしているが、そんな彼すら子供のように見せるほど。2mにすら及ぶ超高身長であり、その体は分厚い鋼の筋肉に覆われている。

背に背負うのは、これまた自身よりも大柄な剣。緩やかな曲線を描いたその片刃の剣は、遥か南方で作られるとされる武器、刀。その中でも大太刀と呼ばれるものに様々な魔化を施した逸品。鎧も同様に、この辺りでみかける全身鎧とは異なった装いをした南方の鎧。マジックアイテムも含め、その合計金額は王国貴族ですら迂闊に手を出せないほどのもの。

 

 

そしてもう片方は彼とは逆に小柄。一般的な大人の身長どころか、下手すれば子供にすら間違えられるのでは、という程低い背丈に細身の身体。冒険者には見えないだろうが、見るものが見れば彼の動き一つ一つが洗練され、音すらたてていないのが分かるだろう。

忍び装束と呼ばれる一風変わった装いをしており、口元も布で隠している。しかしそんな彼の服の中には数多の武器暗器、マジックアイテム、短杖(ワンド)巻物(スクロール)が隠されており、ありとあらゆる状況に対応出来る凄腕忍者。その隠密は蒼の薔薇の二人ですら見抜けないとのもっぱらの噂。

 

 

その黒髪を逆立て、無精髭を生やした無頼漢の戦士は【タケミカヅチ】。

 

その隣に立つ短めの黒髪に整った容姿を垣間見えてさせている盗賊が【ニシキ】。

 

 

今回の王国最大の騒動での功労者であり、随一の実力者。そして同時に問題児共である彼らこそ、件の二人組。アダマンタイト級冒険者チーム【ミート・コゥ・ムーン】である。

 

 

 

 

「……それにしても、お二人共久しいな。ここ数日は姿が見えなかったようだが……」

 

「ん?あぁそりゃ、ココ最近帰ってきたからな。レエブン侯からの依頼受けた後、緊急のが入って一週間くらい空けてたんだよ」

 

 

 

 

広場に開かれた露店で串焼き数本とエールの入った木のジョッキを手に椅子に座り込むタケミカヅチ。苦笑しながら対面に座るガゼフは何も買わなかった様子。曰く、「非番とはいえ、万が一王に何かあった時にすぐ駆けつけられるようにしたい」とのこと。非常に真面目かつ義理堅いが、ある意味融通が利かないとも言えるかもしれない。

 

 

 

「アダマンタイト級である貴殿らに緊急の依頼とは、かなりのものでは無かったのか?近場でなにかが起こったとは聞いていないが……」

 

「んー、大したもんじゃねぇよ。ギガントバジリスクが森で暴れてて被害が出てるから、広がる前に討伐してくれってだけだったし」

 

「ぎ、ギガントバジリスク!!?」

 

 

 

あっけらかんと言うニシキに、頷くタケミカヅチとは対照的に目を見開いて驚くガゼフ。それもそのはず、彼らの言うモンスターはそんな軽く済ませていい相手では無い。

 

 

ギガントバジリスク。難度にして実に83。その血液は人体にとって猛毒であり、浴びれば並の者では即死しかねない程の脅威。さらに鱗はかのミスリルにすら匹敵する硬度を持ち、大柄な体格から繰り出される打撃や尻尾の強打は一つ一つが鉄や鋼の全身鎧をひしゃげる威力を誇る戦士殺し。さらには見たものを石化させる魔眼を持つとんでもない魔物であり、アダマンタイト級でなければ討伐不可能とまで言われる化け物である。

 

 

それをたった一週間、そして見たところ大した怪我もなく終えている。それを見たガゼフははっと気がついたように尋ねる。

 

 

 

「もしや、蒼の薔薇の方々との合同で?それならば確かに納得が行くが……」

 

 

 

そう言って思い浮かべるのは、現在王都にいるもう片方のアダマンタイト級冒険者チーム。あのチームならば、鎧の力により魔眼の影響を受けない戦士、補助に長けた2人の忍び、第5位階を詠唱できる神官戦士に魔法詠唱者と、バランスの取れた構成をしている。そこに前衛の火力役たるタケミカヅチと、補助も攻撃もこなせるニシキが入れば短期間でのギガントバジリスクの討伐も容易だろうと思い至った。

 

 

 

「いんや?俺ら2人だけだぞ?」

 

「なっ!?」

 

「だってあれ7人もかけるような敵ではないしなぁ……確かに強いけど毒耐性と石化耐性さえしっかりしときゃ見た目の割に痛くねぇし足遅いし……」

 

「な。妨害スキル持ちで守備寄りって感じだよな。ニシやんが補助してくれてたし、マジックアイテムで対策してたし」

 

「後はタケやんがたたっ斬るだけだもんなぁ」

 

 

 

さも当たり前のようにそう言った2人に、ガゼフも思わず肩の力が抜けてしまう。都市ひとつ、あるいは小国なら滅ぼせるほど脅威的な魔物に対してこの言い草だが、この2人ならば本当にやってのけそうなのが怖いところだ。かつて自分とガガーランを同時に相手して勝利した戦士と、ティアとティナを相手に隠れ仰せた盗賊はやはり規格外ということか。

 

 

 

 

 

「______ッ!?」

 

 

 

そんな時、いきなりピクっと反応したニシキがその場から飛び退く。なにを、と2人が思った瞬間、その場に飛び込んでくる影が一つ。

 

 

 

「どわぁっ!?」

「うおっ!?」

 

「…逃げられた……」

 

 

 

いきなり飛び込んできたのは、オレンジ色に近い金髪をした少女。後ろ髪を逆立てるようにして一つにまとめており、スラリとした肢体に纏う服装はピタリ密着しており、どこか扇情的な見た目をした涼し気な美人。髪飾りやヘアバンド、スカーフの手裏剣模様などが赤で統一されており、もう1人の姉妹と混同することを避けている。

 

 

 

「クソが!でやがったな変態くノ一!!」

 

「ニシキたん久々。会いたかった」

 

「俺は出来ることなら会いたくねぇわ!!いつもいつもスキルフルに使って追い掛けやがって!!」

 

「ニシキたん成分不足中。補給求む。ぺろぺろちゅっちゅ」

 

「ぬぉぁぁぁぁ!?助けろタケやぁん!!!」

 

 

 

両手をワキワキと動かしながら見せられないよ!な顔でジリジリと迫ってくる変態くノ一こと、《ティナ》。蒼の薔薇の一員であり、かのイジャニーヤの首領の一人だった凄腕の忍者。そして生粋の〈ショタコン〉である。初めてニシキに出会ってから今まで再三追い掛け、捕まえてニャンニャンしようとしているもののニシキの方が上手で、その願いは未だ果たせていないらしい。

 

 

 

「だーはっはっは!!いいじゃねぇかニシやん!そんな美人に迫られて満更でもねぇだろ!いい歳なんだし籍入れちまえ!!」

 

「義父さんからのゴーサインも出た。一緒にベッドでくんずほぐれつ」

 

「なんでタケやんが義父なんだよ!?俺ァアイツと同じ27だボゲ!!お前の範囲外だろうが!?」

 

「その見た目でその歳とかもはやご褒美。一生その見た目。絶対添いとげる。大丈夫、私は尽くす女。シノビのテクは王国一」

 

「俺はそんな獣みてぇな目で見てくる女はごめんだァァァァァ!!?〈影渡り〉!!」

 

 

 

叫び声を上げながらスキルを使い逃走を図るニシキ。諦めるわけもなくティナも同じスキルを使い追いかけ始め、二人揃ってその場から離れていく。問題を起こさないだろうかと心配げなガゼフだったが、表立って問題起こすような腕じゃないか、と半ば諦めたように吹っ切った。

 

 

 

「にしても本当に止めなくていいのか、タケミカヅチ殿?」

 

「ん?別にいいよ、ニシやんが本気で嫌がってんなら別だが、満更でもなさそうだしなぁ」

 

 

ゲラゲラと笑いながら酒を浴びるように飲んでいく。既に十数本の串焼きを食い、大きなジョッキ三杯分のエールを飲み干しながらもお代わりを要求する。信頼しあっているのだな、と感心するガゼフだったが、微かに耳に聞こえてきた「〈足殺し〉ぃ!」の叫び声を聞いてやはり適当なだけかもしれない、と困惑したような冷や汗を流した。

 

 

「お待たせ!追加の大エールと串焼きを10本ね!」

 

「おっ、サンキュ!」

 

 

 

そんな時に注文していたものを露店のお手伝いが持ってくる。今一度エールを口にしようと手を伸ばしたタケミカヅチだったが、それよりもはやく横からそのジョッキを手に取った人物が一人。

 

 

 

「あっ!てめ、ガガーラン!!」

 

「ンっ、グッ………ぷッはァ!!いいエールじゃねぇか!!おう坊主、大ジョッキで4つ頼む。あとこれと同じ串焼きを20な」

 

「はいよ!オヤジ、注文追加!!」

 

 

 

 

お手伝いが離れていくと、その場に現れた全身鎧の偉丈夫……ガガーランは同じ場所に座り、串焼きに遠慮なく手を伸ばす。呆れたようにタケミカヅチがため息をつくが、止めるようなことはしない。横から取ってはいくが、後から料金を払って埋め合わせもきちんとするのは知っている。取るだけ取っといて金払わないような器の小さな男では………否、女では無いのだ。

 

 

 

「ったく……俺のエールかっぱらいやがって」

 

「わりぃわりぃ!喉乾いててよ!にしてもこの店うめぇな!」

 

「ほんと。味付け好み」

 

「うぉっ!?いたのかティア……」

 

 

 

いつの間にかその場に現れ串焼きをモッ、モッと口にしていたのは先程のティナの色違い。髪飾りやヘアバンド、スカーフの手裏剣模様を青色にしているだけでそれ以外は瓜二つの忍者、ティアだ。ガガーランと共に蒼の薔薇に所属するアダマンタイト級冒険者でもある。

 

 

 

 

「ガガーラン殿、ティア殿、久しぶりだな」

 

「おうガゼフのおっさん!つってもこの間ぶりだろ?」

 

「やほ」

 

 

 

ガゼフの挨拶に二人揃って軽く手を挙げて答える。ガゼフとはラナーの従者であるクライムを通して何度も顔を合わせており、以前八本指と戦った際には力を合わせて戦った仲である。特にガガーランは、共にタケミカヅチに挑んで負けてしまった仲故に幾度も手合わせをしてお互いの技量を高めあっている良き戦友である。

 

 

 

「にしても元気してっかタケミカヅチィ!どうだ、この後一発!」

 

「………そりゃどっちの意味だ?」

 

「どっちもに決まってんだろ!優しくしてやるぜぇ?」

 

 

 

タケミカヅチに肩を組みながらそういうガガーラン。彼女は『童貞喰い』が趣味だと公言しているため、とどのつまりはそういう事である。

 

 

「冗談キツイぜ、遠慮しとくよ。クライムの奴でも誘ったらどうだ?」

 

「アイツは姫さんにぞっこんだからなぁ………んで、勝負のほうはどうすんだ?」

 

 

 

肩を竦めて答えるタケミカヅチ。ガガーラン自身も夜の誘いの方は冗談半分で言っており、本命はサシの勝負。戦士として、自分よりも高みにいるガゼフと手を組んでも勝てなかったタケミカヅチ。彼との戦いは得るものも多いし、なにより負けっぱなしは性にあわないのだ。

 

 

そんな話を聞いていたガゼフも当然ずいっと身を乗り出して話に入ってくる。タケミカヅチに負けたのはガガーランだけでは無い。彼もまた、リベンジの機会を狙っている。

 

 

 

「ほう?差し支えなければ私も混ぜていただきたい。以前では負けては貴族派閥から横槍を入れられていたが、今の情勢ならばそんな無粋な事は起こらないだろうしな」

 

 

爛々と戦士の目を輝かせながらそう迫るガゼフとガガーラン。しかし、申し訳なさそうな表情をしながらタケミカヅチは顔の前で手を横に振る。

 

「あー、わりぃがどっちも無理だ。今日はコイツの調子がイマイチなんだよ」

 

 

 

そう言ってコンコン、と大太刀を軽く叩く。赤を基調とした見事な作りの鞘に納められたのは、2m越えのタケミカヅチよりもさらに大きい。これこそ彼を象徴する名刀。かの蒼の薔薇のリーダー、ラキュースの持つ四大暗黒剣の一振、魔剣キリネイラムにすら匹敵しうる現代の神器、【鬼殺し】。その切れ味はアダマンタイトすら両断しうるという鋭さを誇る反面、通常の武器よりも手入れが難しい。

 

 

 

 

「んだよ、手入れ不足か?」

 

「いんや、手入れは丁寧にやってんだが…本職にゃ劣るからな。定期的に見せに行ってんだよ」

 

「直せる鍛冶師がいるのか?」

 

 

 

興味深そうに話を聞くガゼフとガガーラン。ガガーランは純粋に戦力強化の意味合いで、ガゼフは王から下賜された武器以外は使えないが、それでも武人として名剣の類には興味はある。王国圏内でそれほどの腕を持つ鍛冶師の名は聞いたことが無いので、国外だろうか?などと思考を巡らせる。

 

 

 

「おうよ!帝国の場末の鍛冶師なんだが、腕はいいんだ。偏屈な性格してなけりゃあの皇帝さんの目にも止まるんだろうが、あいつの性格じゃ無理だろうなぁ」

 

 

 

新たに持ってこられたエールを煽りながらそう笑うタケミカヅチ。わざわざ帝国に行ってまで点検をしているのか、と驚くと共に、かの【鬼殺し】を万全に整備出来る腕を持つ鍛冶師の名が大々的に広まっていないことにも驚愕する。普通ならば、それを売り文句にして稼ごうとするものだが。

 

 

そんな中、串焼きを食べながら話半分で聞いていたティアが唐突にポンッ、と手を叩く。

 

 

 

 

「………《アマノマ鍛冶店》?」

 

「おっ、なんだアイツの店知ってんのか!珍しいな、王国じゃ初めてだぜ」

 

「ティア、行ったことあんのか?」

 

 

 

知り合いの店を知っていたのに驚くタケミカヅチを尻目に、その鍛冶店を知っていた仲間へ声をかけるガガーラン。今の今までそんな店の名前を出した事はなく、腕のいい鍛冶師がいるのならティアが自分たちに教えない理由は無いのが気にかかったからだ。

 

そう尋ねられたティアは、無表情で感情の起伏の少ない彼女にしては珍しく明確に眉をしかめながら、ポツリと呟く。

 

 

 

 

「………直接は無いけど、イジャニーヤ時代に依頼しようとしたことがある。当時から腕利きだったが、同時にかなりの変わり者だとも言われていた。そんな噂を聞いて、興味本位で調べたら………」

 

「調べたら、どうだったんだ?」

 

「………アマノマ鍛冶店で作られた鉄の剣で鋼の塊が斬れた」

 

「はァ!?」

「なにっ!?」

 

 

 

ティアから発された言葉に思わず立ち上がり、声を荒らげる二人。

 

鉄の剣などは、造り手の腕にもよるが基本的に実用的な武具としては最下級の装備品だ。それを一段階引き上げたのが鋼…いや、塊であることを考えれば二段階は上だろう。それほどの硬度差がありながら斬れるなぞ、普通ならば有り得ない。絵空事として笑い飛ばされるだけだが、目の前のくノ一がわざわざ嘘を言うとは思えなかった。

 

 

 

「しかも魔化とかそんなもんじゃない。あれは純粋に、造り手の技量。しかも作業の速さが尋常じゃない。通常ひと月はかかる仕事を半月も掛からずに終えていた」

 

「……おいおい、なんだよそりゃ……」

 

「その話が本当なら、その御仁の価値は計り知れないぞ……!?」

 

「間違いなく鍛冶師としての英雄級……いや、もっと上。フールーダとかのそれに近い」

 

 

 

確信を持ってそう頷くティアの隣でうんうん、と頷くタケミカヅチ。王国随一の冒険者である2人______恐らくティナとニシキもなので合わせれば4人______からこれだけの評価を受ける鍛冶師ならば可能なのだろうか、と納得しようとするも、やはりそんな人物が無名でいることに首を傾げてしまう。

 

 

 

「だがよぉ、なんでったって教えなかったんだよ?」

 

 

ガガーランが尋ねれば、ティアは苦虫を噛み潰したようにいっそう顔を顰める。ここまで感情が現れる彼女のことを珍しいな、と思うガガーランだったが、隣でその顔を見て納得したようにタケミカヅチが手を叩く。

 

 

 

「あーあー、なるほどな。ティアお前、追い返されたんだろ?」

 

「追い返されたァ?鍛冶師が客をか?」

 

「……タケミカヅチの言う通り。通常の倍額を持っていったにも関わらず門前払い。何度やっても同じだった」

 

 

 

ケッ、とつまらなさそうにするイジャニーヤの元首領。裏組織ということもあり、素性がバレないようにした上で破格の金額をもって行ったのに「帰れ」と言われ話も聞かれず。

 

何度やっても同じ反応だったので痺れを切らして腕のたつ部下を数名送ったら、揃って巨大なたんこぶを頭に作った上に縄で縛られて丁寧に送り返されて来たという。

 

 

 

「冒険者で言えばミスリルはあるうちの部下を返り討ち。なんとしても引き込みたかったけどその時期は忙しくて断念した。その後に私とティナはリーダーのところに来たから、それ以降の事は分からない」

 

 

 

その話を聞いて素直に受け止められたのは知り合いであるタケミカヅチのみ。ガガーランとガゼフにとっては到底信じられるようなものでは無かった。

 

ティア達の部下、つまりはイジャニーヤならばそれ相応に武装も整っている。そんなミスリル級の暗殺者に同時に掛かられても返り討ちにし、神器とも呼べる武器を作り上げる鍛冶師。確かにティアが逸脱者級と評したのも納得が行くが、そうなれば別の疑問が浮かび上がる。

 

 

 

 

「はぁ〜、しっかしなんでったって追い返すなんてやるんだよ。こだわりでもあんのか?」

 

「いや、ひっきりなしに依頼を受けては手が回らない。だからこそ選別しているのでは?」

 

 

「……アイツにそんなちゃんとした理由ねぇよ」

 

 

 

そんな風に考察を立てるガゼフの背後から不意に声が聞こえる。振り返れば疲れたように息をつくニシキの姿が。その後ろには縄でぐるぐる巻きにされた先程のティナに加え二人の女性、そして一人の男性。女性陣はどちらも見覚えがある…というか、ここにいるガガーラン達の仲間だ。

 

 

 

「まったく……お前はいい加減学べ。魔力は有限なんだ、こんなことに使わせるな」

 

「なら使わなくて大丈夫。これほどいて」

 

「ほどいた瞬間飛びかかるだろうが……」

 

 

 

溜息をつきながら拘束魔法を展開しティナを捕縛しているのは、仮面をつけた小柄な魔法詠唱者。しかし、その実力は蒼の薔薇でも飛び抜けて高い。彼女単体で蒼の薔薇全員を相手にしても確実に勝利を収められ、更にはタケミカヅチとニシキを相手にしてもほぼ確実に勝てるほどの逸脱者。かつては【国堕とし】と呼ばれた、250年の時を生きる吸血鬼、《イビルアイ》。

 

 

 

「そうよティナ、これ以上ニシキさんに迷惑かけるなら接近禁止にするわよ………あ、タケミカヅチさん、ガゼフ戦士長、お久しぶりです」

 

「おう!久々だな!」

 

「ご無沙汰している、ラキュース殿」

 

 

 

朗らかに挨拶してきたのは、王国が誇る女性のみのアダマンタイト級冒険者チーム、【蒼の薔薇】のリーダーにして、王国で唯一蘇生魔法を使用出来る稀代の神官戦士。王国貴族、アインドラ家のご令嬢でありながら家を飛び出し冒険に明け暮れる、ラキュースこと《ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ》。

 

 

 

「なんの話をしていたの?」

 

「いや、それがよ______」

 

 

 

 

尋ねてきたラキュースに先程のアマノマ鍛冶店の話をすれば、ラキュースが驚いたように目を丸くする。隣に立つイビルアイも分かりにくいが仮面越しに驚いているようであり、悠久の時を生きている彼女も知らない人物だったようだ。ちなみにぐるぐる巻きになっているティナは「あぁアレか」と納得のいったような顔をしていた。

 

 

 

 

 

「凄いわね……その大太刀、一体どんな遺跡から発掘したのか聞きたかったのだけれどまさか現代の鍛冶師の逸品とはね……」

 

「前に《道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)》で見せてもらったが、キリネイラムと遜色ないものだった……なるほど、その時にでてきたアマノマという人物はまだ生きているのか…」

 

「おう、ピンピンしてるぜ」

 

「俺の《陽天》と《月光》作ったのも、タケやんの《不知火の襦袢》作ったのもあいつだしな」

 

 

 

驚きのあまりそう呟く2人に向かって笑いかけるタケミカヅチ。ニシキも頷きながら飲み物を注文して喉を潤していた。そのネーミングにラキュースがぴくりと反応するが。そんな彼女に気が付かなかったガガーランは首を傾げながら尋ねる。

 

 

 

 

 

「んじゃあよ、お前らはなんでその鍛冶師に武具を作って貰えてんだ?気に入られてるとかか?」

 

「んー?あぁ、アレだよ。俺らとあいつは友達だからな!」

 

「そうそう、生まれる前からの腐れ縁ってな」

 

 

「____________!」

 

 

 

 

上機嫌に笑うタケミカヅチとニシキ。さらにぴくっ!と大きめにラキュースが反応。

 

 

 

「生まれる前からの知り合い……3人はかつて同じ国に仕えた戦士と鍛冶師だったけど、強大なモンスターの襲撃にあった際に2人が命をかけて国を救い、それを鍛冶師が語り継いだ……そして永き時を経て、再び今地上に彼らが集いし時………ふふ、ふふふ………」

 

「……おい?ラキュース、どうかしたのか?」

 

 

 

ブツブツの影の差す表情で呟き始めたラキュースに向かってイビルアイが声を掛けると、身体をビクリと揺らしてあ、え?と狼狽えたようにして反応する。それをみたガガーランが、まさか、と呟きラキュースに心配そうな表情を向ける。

 

 

 

「また闇の人格が現れたのか?」

 

「いっ、いやその!!」

 

「なに?…おいラキュース、大丈夫なのか?まさかお前が呑み込まれるとは思わんが、そうなった場合力が暴走を始めるのだろう?一度休んでいた方が…」

 

「だっ、だだだだ大丈夫!!!大丈夫よ、気にしないで!!!」

 

 

 

ブンブンブンブンと手を大きく振って心配させまいと振る舞うラキュース。うっすらと頬に赤みがさしているが、神に仕える神官たる自分が闇に呑まれかけているのが許せないのだろう。そんな彼女を仲間達は心配げに見つめていた。

 

 

 

 

「………やーっぱラキュースってアレだよな?」

 

「あぁ、紛うことなきアレだ。しかもウルベルトさんタイプ……あぁでも恥ずかしいって自覚してるだけマシか」

 

 

 

 

______まぁお分かりだろうがラキュースは現代の中学二年生男子がもれなく患うあの病の持ち主である。むしろ大元となる本やら物語やらが少ないこの世界で患っている辺り筋金入り、かつ稀有なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの〜、そろそろいいですかねぇ」

 

 

 

 

そんな時、ほやんとした眠たげな声が聞こえる。ハッ、と気がついたようにそちらに目をやれば、ラキュース達と共にこちらに来ていた男性が苦笑しながらこちらを見ていた。今までのアホなやり取りを見られた上に邪魔にならないように黙っていたらしい。

 

 

 

「あぁっ!す、すみません!!」

 

「いえいえ、無理を言って同行させて頂いたのはこちらですし、友人同士での団欒の時間をお邪魔して申し訳ないです」

 

 

 

慌ててラキュースが謝るが、男はそれを笑って問題ないと許す。そのまま男が自己紹介し、レエブン侯直属の家臣であり取り立てられた平民である事を告げる。実際彼は、平民ながらその指揮能力は将軍並みという稀有な人材で、知る人ぞ知る【平民軍師】その人であった。

 

 

 

「レエブン侯の……よく話しておられました、平民ながら優秀な指揮官がいると。初めまして、ガゼフと言います」

 

「あぁ、ご丁寧にどうもガゼフさん。私もよく聞きますよ、あなたの活躍。同じ平民として、誠に勝手ながら親近感を覚えておりました」

 

「こちらもです、お互いいい主を持ちましたな」

 

 

 

平民であり、王族や貴族などのお偉い所に仕えているという共通点からかガゼフと話が弾む。

 

 

「ほー、んで?なんであんたここに来たんだ?俺らに用でもあったか?それともガゼフのおっさんに?」

 

 

 

ガガーランが気軽に話し掛けるが、男は首を横に振る。曰く、今回来たのは蒼の薔薇やガゼフではなく、そこの……【ミート・コゥ・ムーン】の二人だという。

 

 

 

「へぇ…俺らにか。なんだよ?依頼かなんかか?」

 

「いえいえ、実は私、個人的にお二人に興味がありまして。少し質問をしようと思ってきたんですよ」

 

「質問?」

 

 

 

揃って首を傾げるタケミカヅチとニシキ。全く身に覚えがない相手なので多少の警戒を込めて相手を見るが、男は微笑を浮かべて口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「【かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗き者は全て汝より離れ去るだろう】」

 

「ッ!?それっ!!?」

「おま、うっそだろ!?」

 

「…なんだそりゃ?」

「なにかの暗号?」

「でも聞いたことない」

「私も存じ上げないな…」

「秘密の合言葉…!!」

「ん?どこかで聞いたことがあるような…」

 

 

 

男の口にした言葉に思わず立ちあがる二人。蒼の薔薇とガゼフは聞き覚えがないのか頭にハテナを浮かべている。イビルアイは聞き覚えがあるようなないような、必死に思い出そうとしていた。…ラキュースは何故か知らないが一人興奮していた。

 

そんな中で男は2人に向かって笑いかけながら話を続ける。その表情は久々に会った旧友に向ける、穏やかなものだった。

 

 

 

 

「いやー、やっぱそうですか。にしてもビックリですよ、こっちでも2人セットなんですね。名前までそのまんまですし、もう少し捻りましょうよ」

 

「ちょっ、ちょっと待て!!てことはお前も、ギルメン……?」

 

 

 

 

まさか、という驚愕と期待を込めてニシキが呟くと、男は笑いながら思い出を語る。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、ツヴェークは静かににじりよって一撃死させれば無問題とか、ほんと変態ですよね炎雷さん。必死に迂回するルート構想してた身にもなってくださいよ、らくらくPK術講座の刑に処しますよ?」

 

「ぷにっとだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「まじか、おまっ、マジか久しぶりィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」

 

 

 

 

飛び上がって抱きつく二人。躱すことも出来ずになすがままに受け、そのまま揃って地面に倒れ込みグェッ、とカエルの潰れたような声を上げる。

 

 

 

 

「うわっははは!!!まさかニシやんとアマノマの次に会うのがお前だったなんて!!久しぶりだな会いたかったぜこんちくしょー!!」

 

「あまのまひとつの奴がいるから何人かはいると思ってたぜぇ!!何年ぶりだよ!!」

 

「わ、私も詳しくは覚えてないですけど…とにかく久しぶりですね。てか、あまのまさんもいるんですね」

 

 

 

 

 

潰れたままの体勢で子供のようにはしゃぐ二人。これまた懐かしい光景だな、なんて思いながら男______かつて、《ぷにっと萌え》と呼ばれた彼は、笑う。

 

 

 

「…あのー…お知り合いで?」

 

 

 

ラキュースがそっとそう聞くと、ぐるりと振り向いた二人が男の肩を引っつかんで立ち上がり、左右から肩を組む。ちょうど巨大なタケミカヅチと小柄なニシキの間に挟まる中背の男は、苦笑しながらなすがままにされていた。

 

 

 

「おうよ!!アマノマと同じく、前世からの腐れ縁だぜ!!」

 

「俺達の軍師だ!!めっちゃ頭良いぜ!!」

 

「お二人共、やめましょう……?だいぶ目立ってて恥ずかしいですし……」

 

 

 

騒ぐ二人。当然ながらなんだなんだと人だかりが出来、さらにはアダマンタイト級冒険者チームが2チームそろい踏み、そこに王国戦士長までいるとなれば、人が人を呼び、一気に大群衆へと変貌した。

 

 

 

 

「そうだ!!今度帝国行くんだが、着いてこいよ!!あまのまひとつの奴も絶対喜ぶぞ!!」

 

「おおっ!そりゃいい!!ついでに他のやつもいないか、探してやろうぜ!!」

 

「あ、その事なんですがね。噂に過ぎないんですが、実は聖王国の宮廷魔術師が黒髪黒目で死霊系が得意な魔法詠唱者らしくて、もしかしたら____________」

 

 

 

 

そんな中でも、3人の話は賑やかしく続く。旧友に会えた喜びを分かち合い、そしてまだ見ぬかつての友人たちとの出会いを胸に。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。