至高の御方転生記 〜現地人になった御方達〜   作:ハチミツりんご

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ウルベルトin帝国

 

 

「ぬぉあぁぁぁぁぁぁ!!!!なんで俺が縛られなきゃならんのじゃァ!!!」

 

「あったりまえでしょうが!?ジエット君囮に使ってフールーダさんから逃げるとか外道にも程があるでしょ!?」

 

 

 

じったばったと縄でぐるぐる巻きにされたウルベルトが地面で蠢く。いっそ芋虫のようなそれを見てヘッケランとロバーデイクは哀れみの視線を投げ、イミーナは汚物を見るような目で彼の惨状を見つめる。クーデリカとウレイリカはウルベルトの様子が面白いのか、それを見てキャッキャッとはしゃいでいる。が、アルシェと母の手によってそれぞれそっと目隠しされた。可愛い妹、娘の教育にはとてもよろしくない光景だ。

 

 

 

「だからといって縛ることないだろやまいこさん!?あのじじいが半狂乱で襲いかかってくんのが悪いんだ!俺は悪くねぇ!」

 

「………オードル教授、いくらなんでもジエットを身代わりにするのはどうかと思う」

 

 

 

 

この期に及んでそんな事を言うウルベルトに、アルシェが呆れたような声で言い放つ。「にゃにぃ!?」とウルベルトがアルシェを睨みつけるが、地面にころがった状態では格好がつかないことに気がついた方がいいのではないだろうか。そう思わずにはいられない一同であった。

 

 

 

「……そもそもパラダイン様が教授を追い掛けるのは仕方ない。大人しくその才能を磨くべき」

 

「才能だかなんだか知らねぇけど、俺は俺なんだよ!!じじいの言うこと聞いて過ごすなんざ真っ平御免だ!!」

 

 

 

へんっ!といってそっぽを向くウルベルト。これではどっちが大人でどっちが子供か……更に言うならばどっちが師でどっちが弟子なのかわかったものでは無い。そんな中、アルシェにすすすっと寄って行ったヘッケランとイミーナが小さく耳打ちする。

 

 

 

「……なぁアルシェ、あれがお前のもう1人の師匠なのか?」

 

「こういったらなんだけど、とてもアルシェが弟子になるほど優れた人だとは思えないんだけど。あんな感じのチンピラどこにでも居るわよ」

 

「誰がチンピラだ!!その貧相な身体に《魔法の矢(マジック・アロー)》お見舞して______」

 

「ふんぬらばっ!!!」

 

「セボネガッ!?」

 

 

 

どうみたってこの男をアルシェの師だと思うことは出来ない、とばかりに懐疑的な視線を投げる二人。そのうちチンピラと言ってきたイミーナに噛み付こうとするウルベルトだったが、マイコの踏みつけによって背骨に嫌な音が走る。女教師怒りの鉄拳ならぬ、怒りのスタンプであった。

 

 

ピクピクと痙攣するウルベルトに「軟弱だなーもう」と言いながら回復魔法を掛けてやるマイコを見て余計に実力者には見えなくなるフォーサイトの面々。しかしアルシェのみ首を横に振り、複雑そうな顔で真実を述べる。

 

 

 

 

 

「………普段はアレだけど、確かに私の師匠。パラダイン様と並んで、私がどんなに頑張っても追い付けない人でもある」

 

「アルシェが?」

 

 

 

驚きのあまりヘッケランが声を上げる。

 

アルシェ・イーブ・リイル・フルトと言えば、歴代帝国魔法学院の生徒達の中でも飛び抜けた才能を持つ天才児として名高い。同年代の生徒会長であるフリアーネ嬢もトップクラスに入る才能を持つが、彼女が『自分よりも天才と呼ばれるに相応しい人物を知っている』と言うほど、アルシェという少女は飛び抜けていた。フォーサイトも、それは嫌という程知っている。彼女がいなければ死んでいるであろう場面なぞ、数えるのも馬鹿らしいほどに経験してきた故だ。

 

 

そんな彼女が追い付けないと評する相手。女性に踏みつけられているあの男がそうは見えないヘッケラン達だが、次のアルシェの言葉に己が耳を疑う。

 

 

 

 

「…あの人はあの歳で第5位階に踏み込んだ本物の天才。今の位階こそ一歩劣るけど、魔力量ならパラダイン様より上」

 

「いぃっ!?」

「うっそ、あのチンピラが!?」

「パラダイン老よりも、上とは……!」

 

 

 

バハルス帝国の生ける伝説、『三重詠唱者(トライアッド)』と呼ばれる第6位階魔法の使い手《フールーダ・パラダイン》。かの魔法詠唱者は、帝国を危機に陥れる化け物たち相手に単騎で勝利を収めてきた逸脱者。当然ながら並び立つ者などおらず、直属の高弟たる『選ばれし30人』の中でも第4位階が最高、と言えばかの人の異常さが分かるだろうか。

 

 

そんなフールーダを、目の前の簀巻き男が抜いている。しかもアルシェの言い分だと、第5位階を十全に使いこなしているらしく、近いうちに帝国第二の逸脱者と呼ばれるであろう人物。それがこの簀巻き男だと言うのだ。

 

 

 

 

「簀巻き簀巻きうるせぇよ!?好きでこうなってんじゃねぇ!!」

 

「いやだって、簀巻きだしなぁ………」

 

 

 

ヘッケランの言葉にイミーナとロバーデイクも頷く。正直な話、マイコの手によって縄に巻かれたウルベルトは全く持ってそんな凄い男には見えない。せいぜい問題起こしてしょっぴかれてる食い逃げ犯だ。それに自分のせいじゃないと声高に言っているが、そもそも簀巻きにされたのは彼が自分の助手を生贄に捧げてフールーダからの逃走を召喚したのが悪いのだ。手札の切り方を間違えた彼の責任であり自業自得である。

 

 

 

「250年以上生きたパラダイン様の立つ場所に、その十分の一……魔法を覚えた時期を考えればもっと短い期間で辿り着いた。しかも独学。その癖いつまでも子供みたいな感性の抜けないアホ」

 

「それが師匠に対する言葉かアルシェコノヤロー!!!」

 

「アホなのは事実。幾ら自分で魔法付与出来るとはいえ、そんな装飾品のひとつに至るまでマジックアイテムにするのは真性のバカ」

 

 

 

 

ギャーギャー騒ぐウルベルトに淡々と悪口を言うアルシェ。その姿は仲が悪いようにも見えるが、仲のいいフォーサイトや母親、妹達はアルシェが心の底から信頼し切っているが故の行動だと察することが出来た。

 

それにマイコも、こういう風な言動はウルベルトのトレードマークみたいなものなので本心は普通にアルシェを可愛がっていると知っている。この山羊が本気で嫌っている時は節々にそれが漏れでるということを前世のギルド時代に嫌という程知っている。

 

 

 

「……あのー、そろそろ解いてくれませんかねぇ!?いい加減腰とかヤバいんだけど!?」

 

 

 

そんな中、突如に声を上げる。何か話があるのか起き上がろうとするが身体を縛られている故にうにうにと蠢くだけに終わってしまう。さすがに不憫に思ったのか、アルシェ母と妹ーズの手によって、後でジエットに謝ることを約束して縄から解き放たれる。

 

 

 

「あー、ようやく開放された…サンキューちみっこ達。お礼にこれをやろう」

 

 

 

ゴキゴキと首をならし背伸びをするウルベルトは、双子の頭をポンポンと叩くように撫でると、懐を漁り始める。すわ何を取り出すのか、とイミーナが警戒していたが、ウルベルトが取り出したのは2つのペンダントだった。

 

 

どちらも真っ白な天使の羽を模したような見た目をしており、それぞれ右翼と左翼の形をしている。中央に花のような模様が入れこまれており、全体が淡く光っている。それを見た双子は「可愛い!」と言ってはしゃいでいるが、後ろにいたアルシェ、ロバーデイク、マイコはそのペンダントに込められている魔力量を肌で感じ、頬をひくつかせる。………おおよそ超がつく一級品のマジックアイテムであり、子供にポンと渡すようなものでは無い。

 

 

 

 

「おじさん!これなーに?」

 

「コレか?これはなー、俺が作ったマジックアイテムで、【片翼の天使の首飾り(ペンダント・シングルウィング)】っつーんだ。《飛行(フライ)》の魔法に加えて魔力蓄積、低位だが全属性への防御耐性を………と言っても分かんねぇか。簡単に言えば空を飛べるペンダントだ」

 

「お空飛べるの!?」

 

 

 

クーデリカの問いに応えるとウレイリカが驚きと喜びの混ざったような声で叫ぶ。そんな双子に笑いながら首に掛けてやると、淡く光っていた片翼型のモチーフが光を増す。次第にその光が身体を包んでいく。それが全身に達した時、まるで風を受けた羽のように、二人の体がフワリと宙に浮く。

 

 

 

「すごい!すごい!クーデ浮いてる!」

「ウレイも一緒に!すごいすごーい!!」

 

「はっはっは!!どーだ凄いだろぶふぇっ!?」

 

 

 

室内を飛びまわりながらキャッキャとはしゃぐ双子に向けて得意げな笑い声をあげるウルベルト。しかしそんな彼の顔面に飛来したのは、賞賛の言葉ではなくマイコの超速の拳。哀れ厨二山羊は爆発四散!サヨナラー!……とは流石にならなかったものの大きく吹き飛んでソファにぶつかった。

 

 

 

「あんったはホント!!!あんな小さい子に!!渡すものじゃ!!ないでしょが!!!」

 

「く、クーデ!ウレイ!危ないから降りてきて!」

 

「お姉さまもお空とぼー!」

「お姉さまも一緒ー!」

 

 

 

レベルとしてはほぼ同等の2人だが、魔法職と前衛職を混ぜた魔法拳闘士のクラスを持つマイコと純粋に魔法職のみを習得しているウルベルトでは、筋力に大きな差がつくのは道理。顔面をめり込ませながらぴくぴくするウルベルトをしり目に、アルシェは必死に双子を地面に降りるよう説得していた。

なお、お菓子を持ってきたアルシェ母の機転により双子は無事に確保された。

 

 

 

 

「……………………………………………」

 

「いや、その………サーセン」

 

「遺言はそれでいいのですねダメな方の師よ」

 

「ダメな方!?あのキチガイじじいと比べられて俺ダメな方扱いなのか!?」

 

「パラダイン様は些か行き過ぎることはあれど基本は良き師です。人の妹を危険に晒すノータリンとは比べるべくもありません」

 

「アルシェ!?敬語になってない!?アルシェさん!?アルシェさーーん!?」

 

 

 

手に持った杖でゲジゲジと正座するウルベルトのももの辺りを突き続けるアルシェ。ウルベルトもさすがにまずいと思ったのか珍しくワタワタとした様子でどうにか機嫌を直してもらおうと言葉を重ねている。

 

 

 

「なんというか……ほんとに普通の人に見えるな」

 

「えぇ……しかしあれほどのマジックアイテムを子供に渡せるとなると、それ相応の地位にあるのでしょうね…」

 

「しかもあの細かい装飾一つ一つに魔法付与してるって……ほんと何者よあの人」

 

「(ヘロヘロさんやホワイトブリムさんの機嫌損ねた時の焦り方にそっくりだァ………)」

 

 

 

そんな情けない様子を見せるウルベルトだが、フォーサイトからしたら先程のようにただのチンピラとは思えなかった。

 

 

マジックアイテムは、フォーサイトの様な戦いを生業とするものには必須とも言っていい。特にそれぞれの役割にあったもの………例えば、隠密行動をとるイミーナには足音を消したり気配を薄くしたり、ロバーデイクならば信仰魔法の魔力削減や回復量の上昇などといったマジックアイテムは、あるのと無いのではまさしく雲泥の差。これらのアイテム1つが生死を分ける、なんてことも珍しくない。

 

 

そして、そういったマジックアイテムは必然引き取り手が多く、その割に高い性能、有用な効果のマジックアイテムは絶対数が少ない。余程腕の立つ人物ならば時間をかけて作る事も出来るが、殆どのものは未知の遺跡から発掘される。その為最低でも金額十数枚、近隣諸国にその名が知られる程のものとなれば滅多に出回らないが、金貨数千枚を払ってでもそれを手に入れようとする人が多数現れるほどだ。

 

上位冒険者でもアダマンタイト級ならまだしも、ミスリル級ほどでは一人1つ、2つ持っていれば実力を認められているとも言われるマジックアイテム。それを洋服などに留まらず、細かい装飾品の一つ一つに至るまで、『正攻法』で揃えるともなれば、どれだけの金額がかかるのだろうか。

 

 

 

「ねぇ先生、あの……ウルベルト?さんって何者なの?やっぱり貴族?」

 

「ん?うんそうだよー。ウルベルトさんは帝国貴族、オードル家の次男坊で、本名はたしか……『ウルベルト・アレイン・デイル・オードル』だったかな?」

 

 

 

イミーナが隣に立つマイコに尋ねると、首を傾げながらそう教えてくれた。なお『デイル』は貴族としての称号であるため、本当の意味で彼の名前として言えるのは『ウルベルト・アレイン・オードル』である。初め聞いた時「まんまじゃん」と思ったのはマイコの秘密である。

 

 

 

それからマイコによって話されたウルベルトの話は、にわかには信じ難いもの______平民ならまだしも、貴族としては有り得ないような人生を歩んでいた。

 

 

 

オードル家は帝国でも大きな貴族家であり、次男である彼も充分恵まれた教育を受け、他の貴族家に奉公人として仕えた経験も______なんて思ったら大間違いである。

 

 

 

 

「当時から問題児だったらしくてね〜。知識を得ることに関してはめちゃくちゃ貪欲、かつ優秀だったらしいんだけど礼儀作法とか嫌って、裏路地に入り浸ってたみたい」

 

「貴族なのに!?」

 

「貴族なのに。それどころかその時の友達と一緒にカッツェ平野に行ってアンデッド退治したり、酒に酔って絡んできたワーカーをボコボコにのしたり………まぁ〜色々やってたみたいだねぇ」

 

 

 

非合法には手を出してないけどね。そう言って笑うマイコだったが、正直笑うに笑えない。貴族といえば平民のことを下に見るのが殆どであり、裏路地出身なんて特に侮蔑の目で見られるだろう。現皇帝の粛清により実力があれば取り立てられるようにはなったが、好き好んで平民と関わろうとする貴族なんぞ稀だ。

 

それが差別するどころかストリートチルドレンじみた事をしているなんぞ誰が信じるだろうか。その友人とやらもまさか貴族だとは思ってなかっただろう。

 

 

 

「……しかし、そんな人物を親が破門にしなかったのは何故なのでしょう?こう言ってはアレですが、貴族として見れば家の恥でしか無い訳ですし」

 

「破門しようにも出来なかったんですよ。ウルベルトさん、知識量はお兄さんよりもあったらしいし……何よりも10歳の頃には第三位階に到達してたっぽいですし」

 

「10歳ィ!?第三位階だぞ!?凡人の極地だぞ!?」

 

「まぁウルベルトさんだし……アンデッド退治とかしてればそうもなるよねって」

 

 

 

 

あはは〜、と呑気に笑うマイコだったが、それは前世においての彼の優秀さ、及び魔法詠唱者としてのプレイヤースキルの高さを知っているが故。世間一般からすれば齢10歳にして第三位階に踏み込むなぞ目の玉が飛び出る程の偉業。この場にいるアルシェですら、帝国魔法学院で学び、かつ稀有な才能があったからこそこの歳で第三位階に到達したのだ。アンデッド退治して第三位階なんて聞いたことも無い。

 

 

 

「まぁそんなこんなでやらかしたらしくてねぇ。偶然街でフールーダじいちゃんに見つかって、半ば誘拐じみたやり方で魔法省に監禁、無理やり魔法研究員兼直属の高弟に抜擢。ジルクニフ陛下の即位の際にもその能力の高さを認められ、オードル家は前より更に力を増して……って感じらしいよ?」

 

「はぁ〜………大出世じゃねぇか……」

 

「あの若さでフールーダ高弟筆頭だからね。あ、ちなみにウルベルトさんとアンデッド退治してた友達も、今は皇帝の近衛騎士らしいよ?確か……バジウッドさんだっけ」

 

「うっへぇ、『雷光』じゃねぇか………」

 

 

 

その後も数々のウルベルトの有り得ない逸話がマイコの口から語られる。

 

 

曰く、かの鮮血帝の政策にタメ口で意見した。

 

曰く、魔法省が極秘に進めていた技術を10年早めた。

 

曰く、フールーダにタメ口をきき、尻を蹴り飛ばす。

 

曰く、カッツェ平野で多くの人を救う軍神である。

 

曰く、前世はかの十三英雄の黒騎士である。

 

 

 

 

などなどなど……あげれば枚挙に遑がない。世間一般にはあまり知られていない______と言うよりも皇帝であるジルクニフの方針により隠されているにも関わらず、噂が噂を呼んで、帝国国民の間では『フールーダ二世と呼ばれる皇帝の親友がいる』なんて言われ方もしている。

 

 

 

そしてさらに言えば、皇帝ジルクニフからも期待を寄せられている未来の宮廷魔術師。フールーダの様に寿命を延ばして帝国に居続けてくれれば良し、そうでなくても帝国を豊かにする為に動いていてくれれば問題無し。現状でも自分からカッツェ平野に出向いてアンデッド狩りをしたり、便利な生活魔法を編み出したりと非凡な活躍をしている男なのである。

 

 

 

「まぁそんな訳で、ああ見えて結構凄いっぽいよ?」

 

「結構どころじゃねぇ気がするんだがなぁ……」

 

 

 

 

腰に手を当て、呆れたように頭を搔く。これだけの非凡な事やってる男を『結構』、『っぽい』で済ませられるのだろうかと思ったが、そういや今話してるこの女の人も非凡な人だったわ、と思い直すヘッケランであった。

 

 

 

と、そんな時。唐突に、部屋の扉がノックされた。発生源はもちろん、フォーサイトが入ってきたりウルベルトが突撃してきたりしたあのドアである。

 

 

 

「?あれ、今日はもうお客さん来ないはずなんだけど………はーい、どうぞー!」

 

 

 

 

今日訪ねてくるのはアルシェ達のみであり、それ以外にここに来るという事前連絡は無い。大体ここに来る予定がある人は事前に日程を知らせてくることが多く、急な来客も《伝言(メッセージ)》を通してマイコに連絡があるはずだ。まぁすぐそこで弟子につま先をゲシゲシ蹴られているアホ山羊は例外だが。

 

 

 

 

「失礼。お邪魔するよ」

 

 

 

 

そう言って扉を開けて入ってきたのは、男性。しかもマイコやウルベルトよりも一回り以上歳上であり、この場で最年長であろうアルシェ母やロバーデイクよりも上……40代半ば程度だろうか。白髪が生え始めたのか黒と白のまだら模様になった頭髪が目を引く人物だった。

 

服装自体は、この魔法学院の教員制服をそのまま綺麗に着こなしており、佇まいも年相応の落ち着いた威厳のあるもの。身につけている装飾品はやや多いだろうが、『数自体』はウルベルトよりも断然少ない。問題としては、その装飾品の見た目だろうか。

 

どれもこれもなんと言うだろうか……とても『名状しがたい』形、模様をしており、じっくり見つめていると根源的な恐怖感が湧き上がってくるようだった。こちらが見ているはずが、深淵から自分が覗き込まれているような、そんな違和感を覚える不思議な装飾品を身につけていた。

 

 

 

「あぁ、タブラさん!どしたのいきなり」

 

 

 

そうして入ってきた男性はマイコの知り合いだったらしく気軽に声をかけていた。それに薄い笑みを浮かべながら「久しぶりだね」、と手を挙げて答える。

 

 

 

 

そんな人物だが、ロバーデイクはその人物から漂ってくる聖なる魔力を肌で受けて驚く。自分よりも上、より強い魔力を持つ人物。マイコにはさすがに劣るが、それでも凡人がたどり着く領域を超えているのは間違いないだろう。

 

 

 

「これは……凄いですね。さぞ高名な神官様だとお見受け致しますが」

 

 

 

マイコ以外にこれほど力ある人に出会ったのは久々だと思い、自然と口から言葉がこぼれる。しかし、次の瞬間ロバーデイク、そしてヘッケランとイミーナは困惑することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

「…?何言ってるのロバー。この人は神官じゃない、魔力系の魔法詠唱者」

 

「……なんですって?」

 

 

 

 

至極不思議そうに首を傾げるアルシェ。いつの間に戻ってきたのだろうかと思ったが、首には魔法の力が漂う薔薇のモチーフが着いたネックレスを下げている。おおかた、ウルベルトから手渡されて機嫌が直ったのだろう。

 

 

 

「まさか、いや、アルシェさんのタレントなら間違いないんでしょうが……しかし、かの御仁からは、私よりも強い聖の波動が感じられます」

 

「………ロバーを疑う訳じゃないけど、確かにあの人は魔力系の魔法を使える。しかも第四位階……魔力系と信仰系、どちらも十全に扱える人なんて、パラダイン様以外知らない」

 

 

 

アルシェとロバーデイク、どちらも力ある魔法詠唱者であり、特にアルシェはタレントも相まってよほど強力な認識阻害の魔法効果を掛けられていなければ相手の魔力量、及び使用出来る最高の位階を看破できる。そんなアルシェの言葉が間違っているはずはなく、しかして優秀な神官のロバーデイクが感じた波動も間違いであるとは思えなかった。

 

 

 

「ははは、これはすみません。私のせいで、混乱させてしまっているようですね」

 

 

 

と、そんな2人の疑問を解消したのは他ならぬ本人。タブラ、と呼ばれていた男性だった。

 

 

 

 

「私は確かに魔法詠唱者だよ。魔力系、信仰系、精神系…それぞれ第四位階まで扱える。なのでお二人共正解、が正しいかと」

 

「はァっ!?」

「だいよっ……3系統!?」

「信仰系だけでなく……精神系まで…!?」

「………ウソ……?」

 

 

「はははっ!いいね、そのビックリした顔!」

 

 

 

イタズラ成功、とでも言わんばかりに愉快そうに笑う男性は、第一印象の落ち着いた雰囲気よりも些か子供っぽいギャップがあった。そんな男性だが、ひとしきり笑った後一つ息をつき、改めて彼らに自己紹介をする。

 

 

 

 

「あぁすまない、気を悪くしたなら許して欲しい。どうも人をからかうのが好きでね………改めて。初めましてフォーサイトの皆さん、私はタブラ。『タブラ・スマラグディナ』だ。気軽にタブラと呼んでくれたまえ」

 

 

 

タブラ・スマラグディナと名乗ったその男性………まぁそのまんまなので分かるだろう。マイコ、ウルベルトとならんで、元【アインズ・ウール・ゴウン】所属の魔法使い。錬金術士として、設定魔として、守護者統括アルベドや第五階層のニグレド、最強のNPCたるルベドの製作者としてギルドに貢献してきたギャップ萌え大好き神話生物系タコこと『タブラ・スマラグディナ』その人である。

 

 

ちなみに彼は現在、この帝国魔法学院の《学院長》として運営全体の総責任を担っている。元はただの弱小商人の家に生まれた平民だったのだが、諸々あって彼の代で一気に家は巨大化。一代で帝国でも有数の商家に成り上がった彼はその経営手腕を認められ、数ある貴族達を押し退けてこの魔法学院の学院長へと任命された。

 

 

ちなみに彼は以前あまのまひとつとサシ飲みした時に、『いやー異世界で知識使ったチートなんてあるわけないと思ってたけどあるもんだねぇ…知ってるって強いや』と爆笑していたとのこと。

 

 

 

 

 

 

「………という訳で、ここの学院長なんだ。といっても人前に出ることは少ないし、生徒からもあんまり知られてないけどね」

 

「知らなかった…………あの、3系統を全部第四位階までっていうのは…」

 

 

 

学院長。アルシェが入学した時に、一度前に立って挨拶をしていたとは思うが随分前の事だ。それ以外に出てくることのなかったタブラをさすがに覚えてはいなかった。

 

 

そんなアルシェがタブラに向けて、先程の発言の真実を尋ねる。当然ながら、生涯をかけて第四位階に到達出来れば天才と称されるこの世の中で、40代半ばで、しかも基本となる3系統で到達しているのはにわかには信じられない。しかしタブラはそれを聞いて笑いながら、肯定するように頷いた。

 

 

 

「そうだよ。便利だし、一応どの系統も第四位階までは使えるようにしたんだ。器用貧乏でしょ?」

 

 

 

ケラケラと笑うタブラに向けてアルシェ、そしてフォーサイトが首がちぎれんばかりに横に振る。これが全部第一位階だったら器用貧乏と称されるのだろうが、第四位階ならばそんなことを言うやつはいない。

 

攻撃から補助、回復、妨害などの戦闘系に限らず、移動の際の足元の保護、野宿の際に毛布が無くても温度を最適化したり、遺跡探索など暗がりでの戦闘及び探索の際の光源の確保に、開かない鍵の解除、罠の解除、調味料などの生成によって食事を豊かにして士気の向上……これら全て、魔力が続く限り彼一人で行えるのだ。ここまで来たら器用貧乏ではなく、『万能』である。

 

 

 

「私は未だ第四位階には踏み込めなくて……尊敬します……!」

 

「私も未だ、第三位階で………タブラさんからお話を聞いてもっと精進しようと思いました。貴方との出会いに、我が神へ感謝を」

 

 

魔法詠唱者の2人がタブラへ尊敬の念を送り、ヘッケランとイミーナも魔法の有用性が分かっているだけにタブラという非凡な男へ、戦いを生業とするものとして敬意を示していた。

 

 

 

「______んな尊敬されるような奴じゃねぇよそのオッサン」

 

 

 

そんな中、溜息をつきながらウルベルトがこちらへとやってくる。それを聞いたマイコも苦笑しながら同意するように首肯しており、タブラがわざとらしく残念そうに目を伏せる。

 

 

 

「酷いなぁウルベルトさん、僕らの付き合いだろう?」

 

「『前』なら普通に接してたよ、『前』ならな!!こっち来てからあんた自由過ぎるんだよ!!それに付き合わされる俺とやまいこさんの身にもなれ!!」

 

「仕方ないじゃないか、同年代はあまのまさんしかいなかったんだし。いやー、フールーダさんから『こやつを更生させてくれ!』って叫んで君を連れてきた時は爆笑したなぁ……ぷぷぷ」

 

「くっそジジイ…………おいアルシェ、神官のオッサン!!騙されんなよ、こいつの聖印、『ズーラーノーン』のだぞ!」

 

 

「へっ!?」

「なっ!?」

 

 

 

昔ながらの付き合いである2人が口喧嘩……というよりウルベルトの怒りをタブラが飄々と受け流しているのだが、そんな中でウルベルトが2人へ爆弾を投下する。

 

 

『ズーラーノーン』。帝国だけでなく王国や聖王国、都市国家連合、竜王国、果ては法国ですらその根を張り巡らせている秘密結社と呼ばれる存在。ネクロマンサーを中心にアンデッドに関連する者たちが集い、絶大な力を持つ盟主、及び十二高弟を中心としてはるか昔からその力を保ち続けている邪悪な組織であり、人間国家全てから『敵』として認識されているカルト集団である。

 

 

帝国内でも貴族達を中心に操り怪しげな儀式を行ったり、誘拐、殺害、強姦、強盗……ありとあらゆる犯罪に手を染めている為ジルクニフも手を焼く存在。そんなズーラーノーンに関わっている。目の前の男が。よりにもよって学院長が。

 

 

 

そんなことを言われ、普通の人間ならば…関わっていない人間ならば、即座に怒りを露わにして否定するだろう。しかし、それを言われたタブラは怒るどころかポンッ、と手を叩いた。

 

 

 

 

「そうだそうだ!ズーラーノーンで思い出した、今日は2人に面白いニュースが入ったから教えに来たんだったよ」

 

「面白いニュースぅ?」

 

 

 

そうそう、と笑うタブラ。

 

 

 

 

否定しない。つまり逆に言えば認めたということだ。多くの子供たちが、帝国の未来を担う魔法学院の子供達を守る立場にいるタブラが、ズーラーノーンと関わりがあると。

 

 

そしてそれを知っていたのであろうウルベルト、マイコも平然としてタブラの方を見ている。何故だ。ウルベルトという男はまだしも、マイコは心優しい人のはず。なのに何故、平然としていられるのか。

 

 

 

 

「いやー、ふたつあるんだけど、笑っちゃうのと嬉しいの、どっちがいい?」

 

「あー……俺どっちでもいいや。やまいこさんどっちがいい?」

 

「え〜……あ、それじゃ笑っちゃうのから!」

 

 

 

 

ヘッケラン達がそう考えているあいだも会話は続けられる。まさかとは思うが、ウルベルトとマイコもグルなのではないか。もしかして今自分達は、とんでもない危機的状況なのではないか。

 

信じている師匠や、自分を救ってくれた恩人を疑いたくないアルシェ。それはロバーデイクやヘッケラン、イミーナも同様であった。少なくとも付き合いの長いマイコと、今であったばかりだがウルベルトの人柄は悪いものではなかった。どうせなら、信じたい。

 

しかし万が一そうだったのなら。逃がさなければ、アルシェとその家族だけでも。可愛い妹分に、これ以上の苦労を背負って欲しくはなかった。

 

 

 

そう考えたフォーサイトは……いや。アルシェとロバーデイクは決断出来ず、イミーナとヘッケランだけが己の武器に静かに手を伸ばした。

 

 

そして、次の瞬間______

 

 

「笑っちゃう方ね?いやー、それがさー………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ズーラーノーン、掌握しちゃった」

 

 

『…………はァ!?!?』

 

 

 

 

なんかもう全部吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

「いやほら、秘密結社じゃん?あくどい事してるじゃん?皇帝様から直々に潜入しろって言われちゃってさー。そういう宗教系には詳しいし、面白そうだから潜り込んだの知ってるでしょ?」

 

 

 

 

至極愉快そうに笑って説明するタブラ。

 

 

 

そう、別にこの男、ズーラーノーンに共感したわけでも心酔した訳でも無い。その宗教系への深い知識と高い実力、対応力を買われ、皇帝であるジルクニフ直々に頼まれて潜入調査をしていたのだ。

 

 

ちなみにズーラーノーンへと入団する時に前世で大好きだったクトゥルフ神話の話をぼかしながら伝えたところ「こんなおぞましい者は見たことが無い」「十二高弟にすらこんな事は思いつかないであろう」と絶賛。瞬く間に十二高弟入り、【大災厄】の二つ名を授かるに至ったのだが、タブラが『とっても』詳しく話そうとした事、大災厄の二つ名に文句のあるウルベルトがギャーギャー騒いで時間がかかったので割愛する。

 

 

 

 

 

 

「まぁそんなこんな、上手いこと信用を勝ち取ったんだけど…………すっごい杜撰な組織体系しててさぁ。誰も盟主の顔も名前も知らないのよ」

 

「秘密結社のボスならそうじゃなくっちゃな!!」

 

「はーい厨二病が抜けきらない悪という名の悪趣味さんは黙ってましょうねー正義降臨しますよー」

 

 

「………ま、まぁ続き話すと、盟主に成り代わったら動きの掌握も楽になるかなーと思ってさ。得てしてラスボスの警備は堅いもんだし、正直冗談半分で盟主を探知魔法で探ったのよ…………そしたらさぁ………」

 

 

 

 

はぁ〜……とため息をつくタブラ。どうしたのか、と首を傾げる一同だったが、至極ガッカリとでも言いたげな様子でタブラが続きを話す。

 

 

 

 

「………してるにはしてたんだけど探知への防御がスッカスカでさ。王道の探知方法に対するものしかやられてないし、少し回り道すればかんったんに探知出来たわけよ」

 

「「えぇ………」」

 

 

 

情報に対する防御なんぞ基礎中の基礎。ユグドラシル時代の経験がある3人からしたら当然の事だが、この世界ではそもそも魔法使いの魔法によって情報を探知するなんぞスレイン法国くらいしかやっておらず、むしろ王道のみだろうと防御を施していた盟主は用心深いと言える。

 

 

 

「んで、本人は死霊系一辺倒なのも看破出来たから、チラ見目的で軽く覗いたんだけど……警護してる召喚モンスター、なんだったと思う?」

 

 

「あ?あー…この世界なら死の騎士(デス・ナイト)か?守りにゃもってこいだろうし」

 

「うーん、案外骸骨守護戦士(スケルトン・ガードナー)複数体に死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)とか?あ、上位死霊(ハイレイス)もいそう!アルシェちゃん達はどう思う?」

 

「……広い場所なら、魔法への絶対耐性を持つ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)も有効」

 

「他ならば……紅骸骨戦士(レッド・スケルトン・ウォリアー)でしょうか?」

 

「防衛なら、やっぱり数いるわよね」

 

「そうかぁ?あのズーラーノーンの盟主なら、少数精鋭にしそうなもんだがなぁ」

 

 

 

 

ウルベルト、マイコ、アルシェ、ロバーデイク、イミーナ、ヘッケランの順で各々の推察を述べる。それぞれが実力者である故に、どの考察も普通に考えれば的を射た意見。そんな中で、タブラが呆れたように答えを口にした。

 

 

 

 

 

「………双顔(デュアルフェイス)シリーズ。しかも最下級の戦士を五種類全部」

 

「「えぇ…………?」」

 

「でっしょお……?」

 

 

ウルベルトとマイコが有り得ない、とでも言うようにゆっくりと、大きく首を横に振る。タブラがその反応を見て大きく頷くのだが、フォーサイト達は初めて聞くモンスターに首を傾げる。

 

 

 

 

 

双顔戦士(デュアルフェイス・ウォリアー)

 

ユグドラシルにおいて《クソ雑魚双子シリーズ》と呼ばれたゾンビ系モンスターであり、どのモンスターも共通して『左右に二つ顔がある』事と『それぞれの顔に色がついている』事が特徴的である。

 

 

このシリーズ、実はそんなに……というか、ステータス的には同レベル帯と比べれば高い部類に入る。最下級の戦士ですらユグドラシルでのレベルは29。この世界ならアダマンタイト級冒険者でも高い部類に入るレベルだが、ステータスだけみれば死の騎士(デス・ナイト)にすら届きうる。つまりこの世界においては無類の強さを誇る化け物級モンスターであり、それが五体。まさしく現地では最高級の護衛であった。

 

 

 

…………なの、だが。このシリーズがクソ雑魚双子と呼ばれるに足るだけの、致命的な弱点があった。

 

 

 

 

「まぁ………ドヤ顔で『我が最強の兵士たちの前に、貴様なんぞ無力よォ!!』って叫んだ盟主(失笑)さん見ててなんかこう………笑いが……さ……」

 

「………その護衛さん達は倒せたの?」

 

「いつも通りやったら瞬殺余裕でしたwww」

 

「「プギャーwwwwwwww」」

 

 

 

 

爆笑してバンバンと自分の膝を叩くタブラ、腹を抱えて涙すら浮かべるマイコ、もはや地面をゴロゴロ転がりながらぎゃははは!!と叫ぶウルベルト。ユグドラシルプレイヤーにしか分からない空間が、そこにはあった。

 

 

 

双顔シリーズ。その巨大すぎる弱点として…と言うよりも瞬殺される原因としては2つある。

 

 

 

一つ目は、植物の絡みつき(トワイン・プラント)などの拘束系に対する耐性が脆弱であり、若干ステータスで劣ってても十分拘束可能だということ。

 

 

 

そして、二つ目にして致命的過ぎる弱点。

 

 

 

彼らの顔にはそれぞれ色がついている。例えば《炎氷の双顔戦士(えんひょうのデュアルフェイス・ウォリアー)》ならばそれぞれ『赤色』と『青色』、《風雷の双顔戦士(ふうらいのデュアルフェイス・ウォリアー)》ならばそれぞれ『緑色』と『黄色』、と言った感じにだ。

 

 

 

そしてこれらには再生能力と属性耐性がついており、攻撃しても徐々に回復、威力の高い属性攻撃をしようとしても、それぞれの色の弱点属性以外にはかなり高い耐性を誇る。これだけ見れば防衛に向いた性能をしている……の、だが。

 

 

 

こいつ、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』のだ。

 

具体的にいえば、魔法戦士のように魔法攻撃力の高くない職業の攻撃ですら、弱点属性ならば体力の八割を削れてしまうほど。本職ともなれば、当てればほぼ一撃で殺せるのだ。

 

本来ならば知られているはずだが、そこそこ珍しいシリーズ、そして最下級ですらレベル30近いという事でこの世界では中々現れず。更には情報が伝達されなかった上に多彩な属性を操るほどの実力者が少ないので自力で理解するのも困難。

 

 

 

 

まぁなので。哀れズーラーノーンの盟主は、ドヤ顔で呼び出した自慢の護衛たちをあっさり拘束され、弱点属性ぶち込まれて消滅。ぽかんとしていたところをタブラの聖属性魔法を受けてその偽りの生命を終える事となった。

 

 

 

 

「………という訳で、タブラ・スマラグディナ。ズーラーノーンの盟主に成り代わりました〜」

 

 

おどけるように言うタブラに、「おー」、と感心した様に拍手を送る旧友二人。ちなみにフォーサイトの4人は最早何がなんなのか分からずに苦笑しか出来ない様子だ。

 

 

 

 

「ほー、そんなら鮮血帝も喜んだだろうよ」

 

「まぁ盟主討ち取ったって言ったら『何言ってんだこいつ』って顔されたよ。……ってそうじゃなかった。もう一個!嬉しいニュースがあるんだよ!」

 

 

 

帝国皇帝、ジルクニフの話すらどうでもいいとばかりに笑顔を見せるタブラ。そんな彼の様子を珍しく思った2人は、先程のズーラーノーン騒ぎよりも興味深げに話を聞く。

 

 

 

 

「それがさ、ズーラーノーンの情報網使ったら何人かギルメンっぽい人の情報手に入ったんだよ!」

 

「おお!」

「やったじゃん!!」

 

 

 

 

ギルメン。前世において、彼らと同じ【アインズ・ウール・ゴウン】に所属していたメンバー達であり、大切な友人達。この場にいる3人が、各々の理由で離れざるを得なかった、何者にも代え難い人々。

 

 

ウルベルトは己の正義を成す為に、困窮する弱者を救う為に、世界を変える為に。

 

マイコは子供達の未来を憂い、彼ら彼女らが戦争に巻き込まれるのを防ごうとし、口封じされ。

 

タブラはとある出来事によりその身を追われる事となり、最後に仮想世界の愛しの娘達に、一人残るギルド長に別れを告げ。

 

 

 

 

 

そうして彼らは、意図せず2度目の生を得た。そして、巡り会った。この儚く残酷でも、素晴らしく美しい世界で。

 

 

 

 

「で、誰!?誰が見つかったの!?」

 

「王国に建御雷さんと炎雷さんはいるらしいけど、それ以外のメンツは分かってねぇしなぁ………あ、あのクソ偽善者はいるか!?顔面に魔法ぶち込んでやる!!」

 

「まぁまぁ落ち着いて………まず竜王国のアダマンタイト級に3人……【不動の盾女神】、【爆撃の太陽弓】、【翔る軽脚】って3人がいるらしい。そんでもって男ふたりはロリコン」

 

「あぁもう分かったわ、確定だわ」

 

「変わんないねぇあの二人も。そんでもってかぜっちもいるのかー!!!」

 

 

 

 

だから探し出そう。だって自分たちがいて、彼らがいた。ならばきっとみんないる。また会おう。そして、また一緒にバカをやろう。

 

 

 

 

 

「あとね、どっかの国にいるわけじゃないらしいんだけど………『ビバ!!!大自然!!!』って叫び回る変態ドルイドがいるらしい」

 

「あぁもうアイツだ。紛うことなきアイツだ」

 

「揺らぎ無さすぎて草生える。まぁこの世界ならはしゃぐよねぇ……」

 

「刀使いの友人がいるらしいけど、こっちはこの世界の有名人らしいから違うっぽいかな」

 

 

 

 

前世でしか出来ないことも沢山あった。この世界は魔法を除けば生活レベルは中世ヨーロッパ並でしかなく、当然ゲームなんてものは無い。

 

 

だけどここには、なくなってしまったものが沢山ある。空が、海が、自然が、風が。進化の過程で失われたそれらが、ある。

 

 

 

「あの法国だね!ココは情報が少なくてね………でも一人確定でいる。あの腐れゴーレムクラフターが」

 

「あっ(察し)」

 

「あっ(察し)」

 

 

 

 

美味しい食事をみんなで食べるなんてどうだろう。自然の中でスポーツなんていいかもしれない。あぁそう言えばキャンプをしたがってた人がいたな。『かれーらいす』とやらをみんなで作ってみるのもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

「______それと」

 

 

 

 

まぁ、ただ。それをやるにしても、まずは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______聖王国に、ギルド長の姿が」

 

「______!!」

 

 

 

 

 

『彼』に、謝ってからだ。

 

 

 

 

 

「死霊系が得意な魔法詠唱者で、穏やかで優しく、誰にでも分け隔てなく接する姿から誰からでも好かれる青年らしいよ」

 

「あぁ……うん。多分、そうだよな」

 

「だーよねぇ……」

 

 

 

 

 

心優しい彼の事だ。きっと最後まであの場所を守っていてくれたのだろう。1人になっても、ずっと、ずっと。彼はそういう人だ。

 

 

だけど。各々に仕方の無い理由はあったとはいえ、この場にいる全員、彼に別れを告げないままギルドを去り、そのままユグドラシルは終演を迎えた。そして、二度と、彼に出会うことは無かった。

 

 

 

 

でも今。また彼に会える可能性が生まれた。なら、謝ろう。一人にしてゴメンって。ありがとうって。そして______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______『また遊ぼう』って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、でも王族含め美人3人を美味しく頂いてるハーレム野郎らしいよ」

 

「それモモンガさんじゃねぇよ、よく似た別人だよ」

 

「うちらのギルド長はそんなことしないってか、出来ないよね」

 

 

 

 

 

 

______言える日は遠そうである。

 

 





ウルベルトさんは悪に拘ってたけど、本質は良い人っぽいし、あくまであの世界を変えるための『正義』を成そうとしてたと思うの。力が無かったから、悪のやり方をせざるを得なかっただけで。まぁどういうことかっていうと御方達は尊いよねって

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