至高の御方転生記 〜現地人になった御方達〜   作:ハチミツりんご

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これ以降も書けてたんですが、14巻の内容を見て修正入れてるので分けました。主に漆黒聖典メンバーの口調的に。まだ見てない人は14巻、買おう!(ダイマ)

後、原作には登場せずにアプリゲームのMass For The Deadに登場する人物が一人出てきてます。とても良いキャラなのでやってない人はオバマス、やろう!(ダイマ)


感想は時間ある時にちまちま返します……全部目は通してるし返信するのでお待ちを……


ヘロヘロinスレイン法国

 

 

「_______神よ」

 

 

 

厳かな雰囲気を醸し出しながら、低い声が響き渡る。発した言の葉は小さいが、辺りに人がいないこと、そしてこの場所の構造上、声が良く響く。壁や天井で音が乱反射し、多角から自分の声が聞こえてくるようだ。

 

 

「我が主神よ。聖なる光の御方、アーラ=アラフよ。人類を護りたまえ。その光で、我らのゆく道を照らしたまえ………」

 

 

静かに、しかして真摯に神を想い、従順なシモべたる自分は頭を垂れる。かつて突如として現れ人類を救いたもうた6人の神々、その中でも闇の神【スルシャーナ】様と並びたつ程の力を有しておられた光の御方、【アーラ=アラフ】様。矮小な私達を優しく導いてくださる、人類の導き手。スレイン法国が建国されてからこの六百年余り、法国民の心の中でかの御方への忠誠は途切れたことはない。だからこそ、今一度気持ちを新たにし、偉大なる神へ感謝と忠誠を捧げるのだ。

 

 

 

瞼を閉じ、祈りを捧げている人物。極短く整えたくすんだ金髪であり、顔立ちは冷たさこそ感じるものの凡百に過ぎない平凡なもの。頬に抉れたような傷跡が無ければ、どこにでも居る壮年期の男性と言った印象だ。

 

しかし、ひとたび身体に目を向ければこの男が只者でないことが簡単に読み取れる。身を包んでいるのは法服でこそあるものの、特殊な金属糸で編まれた衣服鎧。そこいらの全身鎧(フルプレート・アーマー)なんぞよりも格段に護りに優れた逸品である。

 

更に、その衣服鎧の上からでも容易に理解出来るほどに隆起した筋肉。一日二日で手に入れられるものでは無い、長期間に及ぶ鍛錬の末にようやく至る、努力の積み重ねによって得られる肉体だ。これでいて本人は常人を遥かに超える信仰系魔法詠唱者なのだから、如何に彼の率いる隊のレベルが高いか理解出来るだろう。

 

 

 

「______よし」

 

 

 

納得のいく礼拝が出来たことに対してか、それとも今日一日の職務に対する意気込みの表れか。短く言葉を発した彼は、信仰する神の姿を模した像に向かって一礼し、礼拝堂から退室する。

 

 

 

「………まずはドラクロワ殿に頼まれていた件に派遣する隊と人員の割り当てを決め……消耗品の補充も頼まねば。風花か水明か……いや、ここは火滅聖典にも協力を要請すべきだな。手早く終わらせた後に財務状況の確認と整理を行い、装備品の点検を頼んでから部下達の報告に目を通さねば………あぁ、その前に今日は第二班の戦闘訓練があったな。既に考えてはあるが確認の為に訓練内容の練り直しを………やれやれ、『カゥフィ』を嗜む時間すらないか」

 

 

 

ブツブツと呟きながら、カツカツと足音を鳴らして荘厳な廊下を進んでいく。本人の人相の悪さも相まって今から誰かを暗殺にでも行くかのように見えるが、考えていることは多忙に頭を悩ませる社会人そのものである。しかしこの苦労も民の平穏の、そして人類を護るためと思えば苦ではない。

 

しかし、たまにでいいからゆっくりと趣味を嗜む時間が欲しいと、心で密かにため息をつく。彼が隊長を務めるスレイン法国の特殊部隊【陽光聖典】は人員が多い。しかも連携による亜人暗殺任務などが主であるため危険も多く、隊長たる彼の仕事は常人の数倍では済まないほどの量に及んでいた。それら全て、確実な任務遂行のためにも、そしてなにより部下達の安全の為にも、一切手は抜けない。

 

 

 

「待ちに待ったあの豆が……【スルシャーナ】が先日届いたというのに。挽きたてのあの甘美な風味を味わえるのは、当分先か……」

 

 

 

『カゥフィ』。かつて六大神がもたらしたと言われる飲み物の一種であり、彼が最も愛飲しているものである。似た飲料に『黒々草茶』というものがあるが、アレよりも何倍も濃く、何倍も苦く、そして何倍も風味豊かで味わい深い嗜好品だ。

 

しかしその独特な苦味と酸味を嫌う者は多く、600年という長い歴史を経ても未だ法国に広まってはいない。極わずかな農家のもの達が作っているのみであり、取り扱う店も限られる。そんな貴重なカゥフィの中でも特に時間をかけ、手間を惜しまず、農家の技術を結晶した至高のカゥフィ………それこそ、死の神の名を冠する『スルシャーナ』なのだ。

 

 

日々の疲れが掻き消えるような素晴らしい味わい、眠気すら吹き飛ばす衝撃的なまでの深み………陽光聖典成り立ての頃に、給金の殆どを使って一杯だけ飲んだあの味は、今でも鮮明に思い出せる。

 

今になっては毎日挽いてもしばらくはカゥフィが楽しめるほどの量の豆を買えるようになった。思えば随分偉くなったものだ、召喚モンスターの強化という希少なタレントに目をつけられ陽光聖典に抜擢された、がむしゃらな若い頃の自分が懐かしい。

 

 

若い頃は今ほどの余裕はないにしろ、それなりに時間はあった。今では仕事に対する気持ちの余裕こそあれど、時間的余裕は皆無に等しい。望んでこの地位にいるとはいえ、再びため息が溢れてしまう。

 

 

 

「……こんなことを考えている暇では無い。手早く仕事を終わらせ______ん?」

 

 

 

仕事外のことに飛んでいった脳内を元に戻すかのように頭を振る。真面目で実直な彼だが、如何せん趣味の話となると道が逸れてしまう。ここでどんなに考え思ったところで嗜む時間は作れないのだから、とっとと仕事に入ろうと思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーイン隊長ォォォォォ!!!」

 

 

 

彼______【ニグン・グリッド・ルーイン】の元に届いた暑苦しい程の声量。聞き覚えがあるというか、今まで何度も聞いてきた隊員の声だ。声のした方に目を向ければ、灰色がかった銀髪を逆立てた屈強そうな男がこちらに向かって歩を進めていた。

 

 

 

「……イアンか」

 

「はいっ!!【イアン・アルス・ハイム】以下陽光聖典第一班!!任務を終え、今しがた帰還した次第ですぞ!!ガーハッハッハ!!」

 

「相も変わらず騒がしい奴だ………」

 

 

 

胸をドンッ!と叩きながら大きな笑い声を上げるこの男。ニグンが隊長を務めるスレイン法国の特殊部隊、陽光聖典の一員。精鋭揃いのこの隊において、第一班の隊長を務める実力者にして人格者。口煩いのは兎も角、高い実力とその性格からニグンや部下達からも信頼されている人物、イアンであった。

 

 

 

 

「……それにしても随分と早かったな。マジックアイテムを使った経過報告では、まだしばらく掛かるとのことだったが……」

 

 

イアン率いる陽光聖典第一班は、各部隊の中でも特に殲滅力に長けたメンバーが揃っている。隊長のニグンには及ばずとも、イアン自身もかなりの実力者。敬虔な信仰心と屈強な精神を併せ持つ、頼りになる男だ。

 

そんな第一班には、遠方へと赴く任務が多くなる。単純な危険度もそうだが、長期の任務の間、食べられるものは限られるし、何時どこで不慮の危険に巻き込まれるか分からない。それに陽光聖典が出張るという事は、亜人や異形の殲滅だ。幾ら鍛えている陽光聖典の隊員達とはいえ、最悪の場合殉職ということも有り得る。誇りある陽光聖典の者ならば誰しもがそれに耐えられるが、やはり安心して任せられるのは第一班なのだ。

 

 

 

そんな彼らは現在長期任務に出ているはずであり、帰還ももっと先だったはず。こうして五体満足でイアンが戻っているので失敗したということは無いだろうが、それにしたって早すぎる。魔力量と距離の関係から日を置かねばならないものの、定期報告ではまだ掛かるとの事だったので尚更だ。

 

 

 

「いや、申し訳ありません!!報告しようにも未だ連絡用のマジックアイテムは充填中でして……特別報告すべき点も無く、それならば急ぎ戻ってから報告で問題ないかと思いまして!部下達の心労もそれなりにきていましたしな」

 

「ふむ……まぁお前がそう判断したのならそれでいい。こうして無事に戻っているのだ、とやかくは言うまい。よく戻った、流石だな」

 

 

 

 

報告をしたかったものの、連絡を取るより戻ってきた方が早いと判断したイアン。それでも連絡しなかったのは事実、申し訳なさそうに頭を搔くが、ニグンはそれを咎めない。イアンという男は聡明だ、現場にいた彼がそう判断したのなら問題は無い。

 

 

 

「あぁいや、これほど早く終わったのは後続の援軍のお陰でしてな!我ら第一班のみでは、これほど早くは戻れなかったでしょう!いやはや、実力不足が身に染みますな」

 

「援軍だと?火滅辺りから部隊が任務の手助けしてくれたのか?」

 

 

 

笑みを浮かべながら放ったイアンの言葉にニグンが疑問を浮かべる。スレイン法国の暗部、六色聖典に属するもの達______いや、法国の民ならば皆、最も強く信仰する神こそ違えど等しく六神教の信徒。危険の大きい仕事に就くが故に、各聖典が互いに協力し合うことも多い。

 

 

例えば、得意分野こそ違えど情報収集に長けた水明と風花の組み合わせ。陽光聖典も、敵国へのカウンターやテロ行為に長けている火滅聖典と手を組むことは多い。唯一それが少ないのは漆黒聖典だろうか。あの部隊は一人一人が隔絶した能力を持っているのである種当然なのだが。

 

 

 

そのためイアンの口から飛び出た援軍という文字に、ニグンは疑問を持ったのだ。火滅聖典からの援軍であれば自分の耳に入っていなければおかしい。水明や風花は情報収集が主なのでこの任務には適しておらず、護りが主体の土の神を信仰するもう1つの聖典が動くとも思えなかった。

 

 

 

「えぇ、別の地にて任務を遂行しておられた様でして。部下に《伝言(メッセージ)》を飛ばさせて連絡をとった所、協力してくれましてな。いや、全く!!流石はかの漆黒聖典、()()()()()でありますな!!」

 

「十三席次……十三席次だと!?と、言うことは……!!」

 

 

 

【漆黒聖典】。スレイン法国特殊部隊の中でも群を抜いた存在であり、隊の全員が一騎当千の強者。……いや、強者所では無い。全員が英雄の領域に到達し、うち数名に至ってはそれすら超える逸脱者。隊長に至っては神の血を覚醒させた神人だ。宝物殿を守護している彼女を除けば、間違いなく法国の______ひいては人類最強の戦力。

 

そんな部隊のメンバーが力を貸してくれたことに驚く。そして十三席次と言えば、ある意味では漆黒聖典で最も著名な男と言っても過言ではなかった。驚きのあまり柄にも無く大きな声を上げたニグンが次の言葉を口にしようとした時______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______あぁ、ハイムさん。こんな所にいらっしゃったんですね」

 

 

 

ふと、声が響いた。ニグンとイアンがそちらを向けば、先程の会話に出た人物が……漆黒聖典、第十三席次の姿があった。

 

 

少し癖のある、暗い水色の短い頭髪。染めている訳でもなく地毛でこうなっているのは、法国でも非常に珍しい髪色だった。次いで目を引くのは体格だろう。郡を抜く大柄という訳では無いが、鍛え上げられがっしりとした立派な体躯。ニグンやイアンも相当に隆起した筋肉の持ち主であるが、彼はその比では無い。天性の才能と不断の努力、2つを掛け合わせたからこそ生まれた柔軟性のある剛力。人間最高の肉体と言われても何の疑いも持たないだろう程だった。

 

 

 

「……っと、すみません。お取り込み中でしたか!」

 

「あぁいやいやヘイロー殿!!お気になさらないで下さい!!」

 

「いえいえ、他部署の私がそちらのお話の最中に割り込むなんて褒められた行為ではありませんので…………」

 

 

 

申し訳なさそうにしながら、トロンと垂れた黒い瞳を向けてくる。手には幾つかの紙束が折り重なっているので、イアンに何かしらの用があったのだろう。声を掛けたが、上司であるニグンと話していたので失礼を働いたと思い謝罪を口にしたのだ。

 

 

 

「(……律儀な青年だな)」

 

 

 

そんな彼______【へーロ=ヘイル=ヘイロー】の事を、ニグンは心の中でそう評した。

 

 

六色聖典と呼ばれる特殊部隊に所属する隊員達は、全員が精鋭だ。訓練された騎士が冒険者で言うところの銀級相当、帝国の近衛騎士団が金級相当であるのに対し、六色聖典メンバーは全員がミスリル級を優に超える。並の隊員ですらオリハルコン、班長や隊長格に至ってはアダマンタイトにすら匹敵する。英雄の領域には至らずとも、人類の中で特別強力な部隊であることには違いない。

 

 

そんな六色聖典の隊員達は、厚い信仰心を持ってはいるのだが、如何せん癖が強い。

 

他の聖典ですらそうなのだ、精鋭中の精鋭を集めた漆黒聖典のメンバーは言わずもがな。奇人変人の集まりと言っても足りないような、個性の暴力。バカと天才は紙一重とは、神もよく言ったものだと感心してしまう程なのだ。

 

 

 

そんな中で彼……ヘイローは、漆黒聖典所属とは思えない程物腰柔らか、かつ常識的。プライドの高いかの聖典のメンバーで素直に謝罪を口に出来るのは極少ない。それが出来るだけでも、ニグンの中でヘイローという男の株が上がるというものだ。

 

 

 

 

「いえ、ヘイロー殿。大したこともない世間話です故、お気になさらず」

 

「あぁ、これはどうも………もしかして、陽光聖典隊長の……?」

 

「えぇ、はい。陽光聖典のまとめ役を仰せつかっている、ニグン=グリッド=ルーインと申します。以後、お見知りおきを」

 

「これは、自己紹介が遅れて申し訳ありません!漆黒聖典所属、第十三席次を任されているへーロ=ヘイル=ヘイローと申します!」

 

 

 

イアンの上司、陽光聖典隊長と知るやいなや頭を下げて名を名乗ったヘイロー。図抜けた実力を保持する漆黒聖典は、本来は平等な立場である六色聖典の中では特別な存在であることが暗黙の了解だ。不可能を可能にする、人類の切り札。その自覚があるからか、はたまた実力に比例するだけ何処かがねじまがっているのか。他の聖典を下に見るものも多い。

 

そんな漆黒聖典に所属しながら、陽光聖典隊長であるニグンに即座に頭を下げた。あの変人共の巣窟に身を置きながらよくぞこんなに常識的な人間になれたものだと感心を露わにする。

 

実際、ヘイローの実力ならばここにいるニグンとイアンを同時に相手取っても容易く勝利を収められるだろう。というか遠距離からの攻撃に集中し、召喚モンスターを総動員しても勝てる気がしない。それほど隔絶した差が存在するのだ。法国上層部が話し合いの末にわざわざ席をひとつ増やしてまで漆黒聖典入りさせた男の実力は伊達では無い。

 

 

 

 

「それで、ヘイロー殿。イアンに何か用があったのでは?」

 

「あっ、はい!先程の任務についての報告書なんですが、一応陽光聖典さんの方にも確認をと思いまして」

 

「おぉ、これはこれは!わざわざ御足労頂き感謝致しますぞ、ヘイロー殿!」

 

 

 

曰く、体力的にも余裕があり、別の任務の報告も兼ねていたヘイローが報告書を提出すると申し出たのだが、内容に問題が無いか確認のために持ってきたという。

 

イアンが途中までを確認した時は全く問題無かったが、わざわざこうして持ってきてくれたのだ。感謝の言葉を述べながらイアンが紙束を受け取り、ペラペラとめくって確認していく。書き慣れた様子で、丁寧な文字で書かれている上に見やすいように工夫してある。チラリと視界に入ったニグンも、その報告書の様子に「ほう…」と関心を示した。

 

 

 

「ふむ、特に問題は見受けられ………ん?」

 

「?どうした、イアン」

 

「いえ、その………ヘイロー殿?これは貴殿の任務のものですかな?」

 

 

 

 

ペラリとイアンが手に取ったのは、紙束に紛れた数枚の用紙。他の報告書の用紙とは違うものであり、書かれているのもイアン達が従事した任務とは別個の内容に関するもの。となれば、ヘイローが受け持つ別任務の内容と結論付けるのに時間は要らない。

 

 

 

「あっ!す、すみません!混ざってしまってたんですね………お恥ずかしい」

 

「いやいや、気になさらんで下さい!……しかし漆黒聖典の任務を請け負った上に我々を手伝って、さらに次の任務も決まっておられるとは………出発はいつ頃で?一週間後とかですかな?」

 

「?いえ、明後日ですが?」

 

「おお、明後日ですか!………明後日ェ!?」

 

「はい、何か問題でも?」

 

 

 

イアンがビリビリと腹の底に響くような大声を上げて驚愕を露わにする。声こそあげないものの、隣のニグンも同様だ。そんな2人の反応を見て、ヘイローは子首を傾げる。

 

 

「いやいやいやいや!?ヘイロー殿に手伝って頂いた我々ですら3日の休暇を貰っているのですぞ!?もっと休んで然るべきでは!?」

 

「いやぁ、漆黒聖典(うちの部署)は陽光聖典さんと違って人員が少ないですし………それにほら!残業手当とか各種の補償は凄く充実してますし!むしろそれだけ手厚い保険を用意してくれてるのに完全フリーの日をこんなに貰っていいのかなってくらいですよ!」

 

 

 

ハハハッ、と笑顔を見せるヘイロー。本来ヘイローの受け持った任務の量ならば、陽光や火滅、水明、風花であれば1週間の休暇が貰えるほどの激務。危険な任務が多く、休日に緊急で呼び出されることも少なくは無いが、心身を休めるのも仕事のうち。法国上層部の最高位神官達が何度も議論して各任務の緊急性や危険度、必要人員を決定。少しでも隊員達に心休まる時間を作り出せるように調整を重ねているはずだ。

 

 

 

それでもヘイローにこれだけ任務が多いのは、幾つかの理由が存在する。

 

 

 

1つは、単純に漆黒聖典の人員が少ない事。

 

ヘイローともう一人、()()()()を任されている歳若い男の二人が新たに席を増やされているとはいえ、番外席次を任される少女を除けば全部でたったの14人。

そのうち神の血を覚醒させた神人たる隊長は積極的に任務に赴く訳にも行かず、未来予知のタレントを持つ第七席次もホイホイと危険地帯に向かわせるわけには行かない。とどのつまり実働人員は12人。それでいて漆黒聖典にしか任せられない案件は多々あるのだ、その名の通り漆黒(ブラック)である。

 

 

 

そして2つ目に、ヘイローが修行僧(モンク)系のクラスを収めていること。

 

当然ながら漆黒聖典の任務は殲滅だけでは無い。人類にとって脅威となりうる存在の抹消は勿論だが、仮に敵に見つかっても単独での帰還が可能な漆黒聖典は、安心して敵の中枢へ潜り込ませられる貴重な人員。しかもヘイローの場合はその屈強な体格のお陰でフードやマジックアイテムを駆使すれば大柄な亜人種にも紛れ込むことが出来、なおかつ武器を使わない徒手空拳。物理防御は勿論のこと、魔法への耐性が並の戦士より高いのも相まって未知の存在がいたとしても対処出来る安心感が彼にはあるのだ。

 

 

 

そして最後に、本人の情報伝達能力の高さ。

 

 

モンク故に、魔法詠唱者達に比べればそういった能力は低いと思われがちなヘイロー。しかし彼は【報告・連絡・相談】という単純にして重要な事をきっちり行える人材だ。これが陽光聖典ならばニグンが教育して当然の様にこなせるのだが、如何せん漆黒聖典は変人の集まり。マトモに報告書を書き、途中経過や状況の変化をキッチリ連絡し、無理なもの、厳しいものはしっかり相談して追加の人員を頼る。それが出来るのは本当に少ないのだ。

 

 

 

 

これらを鑑みれば上層部が、ひいては隊長がヘイローに任務を託したくなるのも理解出来るだろう。それにしたってたった一日の休みでここまで働けるヘイローは異常に見えるが、彼が前世で務めていた会社に比べればすこぶる良心的。

 

なんせ一年間連続勤務や、残業代が基本給より多いなんて序の口。怪我しても補償なんて存在しなかったし、片手が折れてても「利き手が使えるんで!」と言って出社してきた同僚もいたほどのブラック中のブラック企業。それに比べれば上司や別部署の人も優しくて同僚は頼りになり、補償も何もかもが充実しているスレイン法国は天国みたいなものである。

 

 

 

 

 

______しかしそれはあくまでヘイロー(社畜)視点の話。前世の記憶なんてものを持っているはずもないニグンとイアンの陽光聖典組からすれば、ヘイローはまさしく異常。ドン引きするのもやむ無し______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ………!!なんと、なんと厚き信仰心ッ!!私は自分が恥ずかしいっ!!」

 

「これ程まで敬虔な信徒は、見たことが無い………素晴らしき心構えです、ヘイロー殿。貴方との出会いを授けて下さった我らが神に感謝を」

 

「……えっ怖っ………」

 

 

 

残念、彼らも変人(社畜)である。というか国の腐敗を避けるために、立場が上になればなるほど給料が下がるという特殊な組織構造をしているスレイン法国だ。該当しないとはいえ、特殊部隊でかつ上位の立場にいるこの2人がそうであってもおかしくはない。幸いなのは、ヘイローの発した言葉が2人に届いていないことだろう。

 

 

 

 

「ぃよぅっし!!私もヘイロー殿を見習いますぞ!!ルーイン隊長!!この後の仕事、お手伝い致します!!」

 

「そうか、頼んだぞイアン。……私もカゥフィを嗜みたいだなんて雑念は捨て去ろう。法国の為、人類の為、より尽くすのだ」

 

「いや、お二人共、休憩はしっかりとってくださいね……?にしてもコーヒーですかぁ、良いですよねぇ」

 

「むっ……!?もしやヘイロー殿、カゥフィを飲まれるのですかな!?」

 

 

 

六大神への信仰心を胸に決意を新たにした陽光聖典の2人。なにを勘違いしたのかそんなことを言い始めた2人に向けてヘイローが冷や汗を流す。

 

その会話の中でニグンが呟いた言葉にヘイローが反応。法国ではマイナーなカゥフィに反応する人物の出現に、ニグンが今一度食い付いた。

 

 

 

 

「えぇ、任務の最中とか、休憩中にも良く飲んでいますよ!眠気が覚めますし、法国のコーヒーは美味しいですからねぇ……」

 

「おお、おお!!分かる、分かるぞヘイロー殿!!あの苦味の中に隠れた芳醇なコクと香り……まさかこんな所でカゥフィの同志に巡り会えるとは!」

 

 

 

何度も言うが、苦味が強いカゥフィは法国に限らずこの世界の人々にはなかなか受け入れられていない。特にリ・エスティーゼ王国やローブル聖王国は存在すらあるかどうか危うい程だ。陽光聖典の中にもカゥフィを愛飲するものはニグン以外におらず、ようやく出会えたヘイローという同志に図らずも彼のテンションが上がる。

 

 

 

 

「ヘイロー殿、明日に予定などございますかな?」

 

「いえ、今日は隊長に報告書を提出してから先約が入ってますが、明日は一日何の予定も入っていませんよ?」

 

「よろしければ共にティータイムでも如何でしょう?実はつい先日、個人的な伝手で頼んでいたスルシャーナが届きまして。是非一緒に楽しみたいと……」

 

「スルシャーナ!?最高級品じゃないですか!!えっ良いんですかそんなに高いの!?」

 

「勿論ですとも!!」

 

 

 

まさかニグンからそんな誘いを受けるとは思っていなかったヘイロー、しかも出てきた単語は最高級のカゥフィ。スルシャーナの豆はとんでもなく高値がつくので六色聖典の隊長と言えども豆を袋でおいそれとは買えない代物。そんな高いものを頂いてもいいのかと恐縮するが、ニグンは笑って頷く。誰だって好きなものは一人よりも、価値観を共有出来る相手と楽しみたいのだ。

 

 

 

「うっわぁ、絶対予定空けときます!!」

 

「それは良かった!では明日の正午辺りで如何でしょう?……イアン、お前も来るか?」

 

「えっ!?い、いやぁ私はアレはどうも苦手でして………紅茶や果実茶の方が好みでして……」

 

「そうか………残念だ。お前にもあの至高の味わいを楽しんで欲しかったが、無理は言うまい」

 

 

 

 

まさか矛先が自分に向くとは思っていなかったイアン。こんなにテンションの高い隊長は見たことが無いので、そのスルシャーナを飲んでいる時の隊長を見てみたい気持ちはある。しかしあの苦味がバカみたいに強い飲み物を愛飲する気にはなれない。甘みの強くスッキリとした果実茶の方がイアンは好きなのだ。単にカゥフィが法国民の口に合わないのもあるが。

 

 

部下から断られはしたものの、無理強いをするような男ではない。ニグンは至極残念そうにしながらも、ヘイローと明日のお茶会についての詳細を詰めていく。

 

 

 

「……あっ!そろそろ時間が……すみません、自分はこの辺りでおいとましますね!」

 

 

 

そんな最中にヘイローが腕に巻いた鉄製のバンド______今の時刻が正確に分かるマジックアイテムをチラリと見る。既に話し始めてそれなりの時間が経っていた様だ。

 

 

「それでは失礼します!ハイムさん、ありがとうございました!!ニグンさん、お茶会楽しみにしてますね!!」

 

 

 

 

ヘイローはニグン達に申し訳なさそうにそう告げると、頭を下げてから踵を返して早歩きで去っていく。聖堂付近を走るのはマナー違反、なので急ぎながらも歩く姿勢は崩さない。

 

 

 

 

「…………良い時間だった……」

 

「それは何より……で、良いんですかな?」

 

 

 

短い時間だったが、久々にカゥフィについて語ることが出来た。その喜びを噛み締めながらニグンがぽつりと呟くと、隣に立つイアンは苦笑する。普段は厳格ながら部下達への優しさを忘れない良い上司なのだが、趣味の事となるとなかなかに饒舌となる様だ。隊長の新たなる一面を垣間見たイアンは、いつか部下達との世間話の時に話そうと心の中でメモを執る。

 

 

 

 

 

「………にしても話し込み過ぎたな。この後は仕事が詰まっているというのに……」

 

「なぁに、私も手伝います故大船に乗った気でいて下さい!!ガーッハッハッ!!」

 

「ふっ……そうか。ならば行くぞイアン、手伝ってくれ」

 

「喜んで!!」

 

 

 

胸を叩いて手伝うと言ってくれるイアン。先程のヘイローの話を聞いていたとしても、任務終わりのこの日にそう言える辺り相変わらず頼りになる男だと再認識。そんなイアンを引き連れて、ニグンは再び歩みを進めていく。

 

 

 

 

「ドラクロワ殿への報告と火滅聖典への取り次ぎは火急に済ませなければならない。イアン、お前はその間に鍛治団を呼び装備の点検に立ち会ってくれ」

 

「あい分かりました。消耗品の補充申し立てはルーイン隊長がなさるので?」

 

「あぁ、それも私がやろう」

 

「それならば私は部下達の報告書を読んで纏めておきましょう。二班への戦闘訓練も私がやりますので、隊長はそのまま別の任を進めてくだされ」

 

「そうか、助かる。他には………ん?」

 

 

 

 

テキパキとした呼吸で打ち合わせを進めていく2人。普段から仕事慣れしているのもあるが、イアン自身の実務能力の高さとニグンとの信頼関係がそれを可能にしているのだろう。長きに渡って陽光聖典として人類を守ってきた彼らの絆は、並大抵のものではない。

 

そんな折り、ニグンの耳に何やら音が聞こえてきた。ヘイローがまだ何か用があったのかと思い振り返ると、そこに見えたのはヘイローではなく。少し遠くに、華奢な女性の姿があった。

 

 

 

「はっ……はぁっ………!ま、まって……!!」

 

「?貴殿は……【占星千里】殿?」

 

 

 

意外そうにニグンが呟いたのと同じタイミングで、荒く息切れした少女が彼の元に辿り着く。両手を膝につき、大きく肩を上下させながら息を整える姿は見るものが見れば色っぽく映るだろう。

 

 

胸元に大きな紫色のリボンを付け、頭部にはぴょこんとアホ毛のように黒いリボンが付けられている。目元には視力の悪いものがそれを補うための装備、メガネを掛けている少女で格好は少々特殊。少なくとも法国の格好では無いが、ニグンとイアンは訝しがらない。メガネも含めて、これは神々が残して下さった遺産。弩級の性能を誇る衣服鎧______【ヴ=レィザー】なのだから。

 

 

そんな遺産を身に纏うことが許された彼女は、先程のヘイローと同じく漆黒聖典に所属する人物。第七席次を任されている、未来予知のタレントを保持する貴重な人員………【占星千里】の名を授けられた少女だ。

 

 

そんな少女が息を切らして走ってきた。もしや何か大事が起こっているのではとニグンとイアンは即座に臨戦態勢を整える。

 

 

 

「どうされたのですかな。何かあったのですか?」

 

「はっ……はっ……!!い、や……まだ、なんだけど………!!」

 

「『まだ』……つまり近々起こるのですね」

 

 

 

占星千里が『まだ』、と言った。これは裏返せば『いつか』何かが起こる、という事だ。それを伝える為に来たのだろうという確信がニグンの中に芽生える。

 

 

「と、にかく……!!そっち行かないで!!面倒な事に……!!」

 

「こちらに?この道を通ってはまずいのですか?」

 

「いいから、早くこっち………あっやばっ!!」

 

 

 

急かすようにニグンの袖を引っ張って、元来た道に戻そうとする占星千里。急にこの道を通るなと言われたニグン達だったが、理由を言われずにそちらに行くなと言われても困惑が勝つというもの。

 

それでも急かすので、揃って彼女について行こうとした、その時。

 

 

 

 

 

 

______3人の耳に、『ズシンッ!!』という大きな足音が響いた。

 

 

 

「っ!!!隊長っ!!」

 

「占星千里殿が言ったのはこれか……!!イアン、彼女を護れ!!天使を召喚するのだ!!」

 

「ハッ!!《第三位階天使召喚(サモン・エンジェル・3rd)》ッ!!」

 

 

 

即座にニグンがイアンに指示を出すと、イアンは少女を抱えて後ろに下がりながら召喚魔法を使用。右手に剣を携えた上位炎の天使(アークエンジェル・フレイム)がその姿を現し、召喚主であるイアンを庇う立ち位置に陣取った。

 

 

 

 

「まっ、待って待って!!臨戦態勢整えないでさっさと戻ってって!!」

 

「何を言うのです!!いと尊き礼拝堂を荒し回る輩を放ってはおけますまい!!!」

 

 

 

戦闘態勢を整えている陽光聖典の2人に向けて、慌てて辞めるように言う占星千里。とは言うものの、ここは礼拝堂付近。そんな場所であんなに大きな足音を鳴らす相手を放って置けるような安い信仰心を持ち合わせていないニグンとイアンだ。占星千里に向けてイアンが大声でそう告げると、彼女は彼の腕の中で頭を抱える。

 

この時、せめて彼女が理由を説明していたら良かったのだが、急いで走ってきた彼女の酸素不足な脳みそは状況変化についていけず、理由を説明するタイミングを失ってしまった。

 

 

 

 

 

「………来るぞっ!!構えろっ!!」

 

 

 

次第に大きくなり、地面が規則的に揺れ始める。一定のペースで駆けてきている証拠だ、大柄な亜人種や異形種を相手にする時に良く体験するそれと似ている。

 

戦闘準備を整えた陽光聖典の二人、これから起こる出来事に頭を抱える占星千里。そんな3人の目に、飛び込んできたものは____________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カミニシンコウヲササゲヨ!!カミニシンコウヲササゲヨ!!」

 

「あっはははははは!!!!!イケイケゴーゴー、ニグン=チャーン・マークIII(スリー)ーッ!!」

 

 

 

 

 

 

______ズシンズシンと足音を鳴らしながら走り抜ける、ニグンそっくりの巨大ゴーレム。そしてその上に鎮座して大笑いしている、少年と青年の間くらいの年齢の人物だった。

 

 

 

 

「…………は?え………は?」

 

「あぁ………だからダメだって言ったのに………」

 

 

 

まさかまさかの存在の出現に、歴戦の勇士たるイアンですら状況を呑み込めずに困惑。腕の中の占星千里も完全に諦めの境地に至ったかのような表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「………ん?あーっ!!姉ちゃーん!!!イアンちゃーん!!!ニグンちゃーん!!!これ超カッコよくねぇーッ!?」

 

 

 

そんな中で彼お手製の巨大ゴーレム______【ニグン=チャーン・マークIII】に鎮座する彼が3人に向けて大きく手を振る。その表情は無邪気そのもの。状況を思考の外に放り投げてその顔だけ見ればとても人懐っこい良い子に見えることだろう。普段から構ってくれるイアンと、とても仲良しな自身の実姉に向けて自慢するようにそう告げた。

 

 

 

 

 

 

「………………………」

 

「……あの、ルーイン隊長?」

 

 

 

 

 

そんな中でニグンのみ、唯一沈黙を保っていることに疑問を覚えたイアンが彼に声を掛ける。俯いており、表情は読み取れない。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………こ」

 

「こ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんっのクソガキャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!降りてこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!!!!」

 

 

「ルゥゥゥゥイン隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」

 

 

 

「あっはははははは!!!!!やっべぇニグンちゃん激おこだァ!!にっげろーニグン=チャーン!!!」

 

「サイコウイテンシ!サイコウイテンシ!」

 

 

 

「ぬおおおおおおっ!?せ、占星千里殿ぉ!!弟君であろう!?止めて下されぇ!?」

 

「ふっふふ………もうヤダ、あれ完全に宝物殿の希少金属じゃん………また私が怒られるぅ………」

 

「占星千里殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?現実逃避せんで下され!!私も後から一緒に頭を下げますから!!」

 

 

「クソガキャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

「貴方は止まって下さいルーイン隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!誰かぁ!!誰かぁァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前略、六大神様へ。今日も法国は平和です。

 

 

 

 

 

 

 

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