至高の御方転生記 〜現地人になった御方達〜 作:ハチミツりんご
「______教師、ですか?」
突然の指名に困惑しながら、サトルは自分を指さして問う。間違ってはいないだろうか、という確認も込めてだ。しかし彼を指名した女性……サトルの仕える相手であり、この国の聖王たるカルカは肯定するように頷いた。
「えぇ、そうよ。先月から帝国の教育機関のやり方を模倣して、ここホバンスに【ローブル聖王学院】を立ち上げたのは知っているでしょう?」
「レメディオスさんやケラルトさんが期間限定で先生やってる所ですよね。信仰系や加護系魔法の勉強とか、戦闘訓練を行うんでしたっけ?」
サトルの言葉にカルカは今一度頷く。どうにもその表情は喜色に満ちているとは言いがたく、どちらかと言えば苦悩を抱えているそれに近い。
彼らのいるローブル聖王国から遥か北東、アベリオン丘隆やスレイン法国、王国領屈指の賑わいを誇る城塞都市エ・ランテル。更には王国と帝国を分断するアゼルリシア山脈や死の霧に覆われたアンデッドの巣窟たるカッツェ平野を挟んだ先にある国家こそが【バハルス帝国】。歴代でも群を抜いた英傑、史上最高の指導者との呼び声高い『ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス』が皇帝として座する専制君主制国家である。
そんなバハルス帝国が他国に誇れるもの……それは多岐に渡る。専業騎士達による充実した軍事面や円滑に回る経済面、優秀な人材の豊富さ等がよく挙げられるが、その中でも最たるものと言えば何か。まず間違いなく、他国の重鎮達の殆どが口を揃えて【帝国魔法学院】と言うだろう。
「あれだけの規模の教育機関を、国が運営するなんて中々ありませんからね。スレイン法国なら有り得るかもしれませんが、それ以外の国家でやるとなると……まぁ人材面でも経済面でも、帝国しか無いでしょうし」
才能ある者たちが、貧困などを理由にして埋もれていくことを良しとしなかった先々代皇帝。彼が師であり、同時に魔法省の最高責任者でもある逸脱者『フールーダ・パラダイン』の知恵を借りて作り上げた近隣国家でも最大級の教育機関。その名声は、遠くこのローブル聖王国までも響いていた。
家柄や才能に関係無く誰でも入学が可能であり、優秀な成績を修める者なら学費の免除、更には報奨金が与えられることもある。その上、稀有な才や斬新な発想を見せればフールーダ直々に帝国魔法省にスカウトされることすらある。帝国で立身出世していくためにも、貴族家の跡取り達だけでなく裕福な商家の人間は当然合格、及び卒業を目指す。それに報奨金を得る程の優秀な成績を修められるならば、ただの平民、果てはその辺の浮浪児にだってその門は開かれる。
「(前世で言えば、一流大学みたいなものだからなぁ……小卒の俺には最早何が何だか分からない世界だよ………)」
前世においては、両親の必死の働きによって小学校まで修めることの出来ていたサトル。そのお陰で底辺は底辺でも生きていける程度には働けていたし、
「(朱雀さんとかだったら、もっと詳細な助言とか出来るんだろうけど……あの人実は帝国で教師やってたりしないかなぁ。教えるの上手で生徒との距離も近い学園長的な……)」
ぼんやりとギルド時代の友人のことを思い浮かべる。小卒ですらそれなりの学歴に分類されるあのディストピアにおいて、『大学教授』という超がいくつも列挙されるような高学歴の持ち主だった、ギルド内最年長の男。
年相応に落ち着いてはいたが友人との輪を尊ぶ人であったし、茶目っ気もあった。なので話しやすかったし、時折歴史などを交えて面白い話をしてくれた教え上手だ。きっとこの世界に来ても、そういった役職についているんだろうなぁと勝手ながらに思う。
「……まぁそれで、そんな魔法学院を元に作ったんですよね、聖王学院」
「そうなの。将来的には全土に広げて、市民の識字率の向上や人材発掘、後は徴兵制度と兼ね合わせてより高度な戦闘訓練を行えたらと、思ってるんだけれど………」
______話は少し逸れたが、そんな帝国の魔法学院を元にした教育機関の設立を行ったローブル聖王国。平民層の台頭を危惧した南部貴族からの横槍こそあったものの、国民達からの厚い支持があった上に根回しの鬼ことケラルト・カストディオの手によってつつがなく開校に至った筈だ。しかし、カルカの顔は冴えない。
国民全体の識字率が上がれば今まで口頭で説明するしかなかった物事をより具体的、かつ迅速に伝えることが出来るようになる。
学ぶ機会の無かった平民達に学ぶ機会が与えられれば、サトルやケラルトの様な優秀な魔法詠唱者が生まれる可能性だってある。
それと同時により高度、より濃密な戦闘訓練を合わせて行えば、ローブル聖王国はより豊かな国となるだろう。
その為カルカがこの提案をした時は、北部貴族の多くが賛成の意を示してくれた。特にカルカの兄であり、彼女に王座を譲り渡した【カスポンド・べサーレス】王兄殿下はカルカの提案を最も強く支持し、ケラルトと共に奔走してくれていた程だ。
優しすぎるが故に強い執政が取れないカルカだが、今回の提案は平民を中心に多くの人々にとっては利点の多い、ある種カルカらしさに溢れた大規模な執政。国王として、国を統べるものとして成長の一歩を踏み出した妹の助けになりたかったのだろう。私財すら提供して、今回の件に尽くしてくれている。
「何か問題でも起こったんですか?」
それ故に、今回の件は上手くいっているものと思っていたサトル。だがカルカの表情を見るに、どうやら順調とは言い難いようだ。サトルの言葉に頷きを見せ、その端正な顔立ちを悩ましげに歪めていた。
「えぇ。とんでもないミスよ………私の見通しが甘過ぎたわ」
「とんでもないミス……?カルカ様がそれほど言うとは、どんな問題が………?」
とんでもないミス、という言葉にサトルが驚く。カルカ・べサーレス聖王女は聡明な人物だ。他者を思いやり過ぎるあまり付け入られることも多い彼女だが、その点を抜けば極めて優秀な人物。事実15才という異例の若さで即位してからこの十年近く、大きな失策もせずに国を導いてきた実績がそれを物語っている。
そんな彼女が語るとんでもないミス。何かとんでもないことが起こっているのでは、とサトルは少し身構えた。
そんなサトルに向けて、カルカは真剣そのものな表情で語りかける。
「実は…………」
「実は______?」
「______先生出来る人がいないの」
「えぇ………?」
学校開設以前の問題であった______!
☆☆★
「先生出来る人がいないって………ケラルトさんやレメディオスさんが講師してるんじゃ?」
テーブルに突っ伏して頭を抱える美人上司の様子に困惑しながら、サトルは用意された紅茶で口内を潤す。もう冷えていてもおかしくない時間は経っているが、未だに湯気を上げている紅茶は暖かい。カルカの私物のマジックアイテムの効果だ、サトルももっと効果が低いではあるが、同じものを持っている。使う機会はほぼ無いが、コレクター魂である。
そんなサトルは、既にカルカの頼みで講師を務めている二人の友人について触れる。レメディオスの方は考える事こそ不得意なれど聖騎士団での指導実績があるし、ケラルトは腹に一物抱えてそうな雰囲気をしているが一流の神官だ。多くの事を学んできているし、それ相応の地位も手に入れている。教えるのに向いていると思っていたのだが、そうでは無かったのだろうか。
「…………これを見て………」
「?これは………報告用の羊皮紙ですか?」
サトルからの指摘を受けたカルカは僅かに視線を逸らすと、大きくため息をついて項垂れる。手に持っていた羊皮紙をサトルに手渡すと、彼はそれに目を向ける。
『レメディオス先生の訓練内容が過酷過ぎて生徒の大半が次の授業で死にかけています。至急改善と注意を』
『ケラルト先生の授業が難解過ぎます。質問しようにもどうにもしにくい雰囲気を醸し出しているらしく………』
『パベル先生の授業の大半が娘自慢です。何とかしてください』
『他の先生に質問しにくいからグスターボ先生に全部いってます。過労と心労で先生の胃が心配なので対策してあげてくださいお願いします』
「うっわぁ…………」
若干引き気味の声をサトルが上げる。一枚目に書いてある内容だけでも相当なもの、それが十数枚。うち半数以上がレメディオスの訓練に関する不平不満……というか嘆願だ。地味にケラルトも多い。
「………2人とも優秀でいい子なんだけどね………」
「凄いですねコレ………」
開校して間も無いので、確かに不備はあるだろう。なので多少の不平不満はむしろ改善の為の意見として有り難く思えるはずなのだが、まさか肝心の教師の面でこんなに文句が飛び出てくるとは思ってもいなかった。
特にケラルトは聡明であり、普段からカルカの頭脳として動いてくれている。人生の全てを強くなることに捧げたお馬鹿な姉のレメディオスならまだしも、彼女にまでそんな弱点があるとは。
更に間の悪いことに、今は専属となる教師を探す為に人員の多くが忙しく動いているので、追加で教師を送る宛もなかった。首都であるホバンス近くで私塾を開いていた人間には声を掛けているが、規模を考えればもっと遠く……プラートやカリンシャ、それにリムン辺りの私塾経営者を取り込みたい。
「______という訳で!このまま放置する訳にも行かず、最終手段の貴方に行ってもらうしかないの!お願い!」
「最終手段って………大袈裟だなぁ」
首都ホバンスから離れていれば離れている程こちらに来るまでに時間がかかるし、何より待遇面での交渉やら何やらでもっと時間が掛かる。カルカ個人が直ぐに頼れる人材は、目の前の宮廷魔術師にして気のいい友人のサトルしかいないのだ。
ちなみにサトルことモモンガ様が教師として送られずにカルカの元に残っている理由は、宮廷魔術師としての魔道の研究に加えて彼女の警護を任されているからだ。
「大袈裟なものですか!宮廷魔術師の貴方なら渋っている貴族派閥からも文句は出ないでしょうし、聖騎士団の皆からも信頼されているから生徒である聖騎士見習いの子達も受け入れてくれるだろうし………」
どう考えてもレメディオスと警護任務を交代するべきだとはカルカも重々承知しているのだが、開校したばかりの聖王学院に通う生徒は、実験的に聖騎士団の見習い達にお願いしている。聖騎士を志すもの達は多くがレメディオスに憧れを持っているので、彼女を送った方がより良い結果になると思ったのだ。
そしてケラルトとサトル、どちらを警護に残すかとなった時に、ケラルト自身から『カルカ様と同じ信仰系の私より、魔力系の魔法詠唱者であるサトルの方が警護として役に立つ』と進言したので、姉妹揃って学院の教師となり、男のモモンガ様だけが残ったのだ。
「それに貴方ならレメディオスの暴走止められるでしょうし!………………ケラルトの機嫌悪いのは確実に貴方と離れたからだし………」
「?何か仰られましたか?」
「いいえ何も!!」
チラリと視線を逸らしながら呟いた言葉にモモンガが首を傾げて尋ねるが、カルカは何でもないと取り繕うように笑う。
カストディオ姉妹の頭の出来がいい方、神官である妹のケラルト。彼女ならば人に教えることもできると思っていたし、実際能力的にもそれをこなせるだろう。彼女が生徒の見習い騎士達に避けられるレベルの威圧感を出しているのは、サトルと離したからだとカルカは思っていた。
『_____カルカ様、聖王学院の件についてなのですが………』
『ケラルト?どうかしたの?』
『いえ、その………魔力系の授業は取り入れないのでしょうか?』
『魔力系の……?考えてはいるのだけれど、この国では魔力系で講師を務められる人材が不足しているのが痛手でね……。騎士見習いの子達が習うのは加護系や信仰系が中心でしょうし、正式に開校するまで魔力系は無理かもしれないわねぇ』
カルカが脳裏に思い浮かべるのは、出発直前の夜。神官団の団長を務める最高司祭のケラルトは、珍しく日が落ちてから自分の部屋を訪ねてきた。普通ならば警備のもの達が通すわけも無いのだが、他ならぬケラルトだ。部屋に通したカルカが彼女と、そんな話をしていた。
『………そうですか……あっいえ!カルカ様の決定に不満がある訳ではありませんし、納得のいく理由だと思います!』
『ふふ…ケラルトにそう言われると、自信ついちゃうわね。でも急にどうしたの?』
『いえ、姉様や私がいない間、カルカ様の警護はサトルに一任することになりますが………よくよく考えたら一国の女王の護衛が男性一人とは流石に如何なものかと思いまして……』
少し伏し目がちにそう呟いていたケラルト。それだけ見れば、人の良すぎる主を心配する美しい従者のそれ。月明かりに照らされる2人の美貌も相まって、英雄譚の一幕に数えられそうなほど幻想的な光景だった。
事実ケラルトは、モモンガ一人にカルカの警護を任せる事を申し訳なく思っていた。カルカの風評にも影響するかもしれないし、何よりもしもの事が会った時に危険過ぎる。せめてレメディオスがいてくれれば心配もないのだが、あの姉はケラルトと共に聖王学院の教員として向かう予定だ。
………そう、ケラルトは普通に。交渉事もこなせる程頭は切れるのに、根っこが善良過ぎて人に騙されかねないお人好し二人だけを残して離れる事を心配していたのだ。当然、しばらくは二人に会えなくなる一抹の寂しさも含まれてはいるが、彼女が夜にカルカの元にやってきた理由の大部分はソレだ。
そんな彼女の、唯一の落ち度。それは______
「(______分かっているわケラルト………サトルさんと離れるのが寂しかったのよね!!)」
______自らの主が結婚願望こじらせてクソ雑魚恋愛脳に成り果てていたことだろうか。
【カルカ・べサーレス】。
ローブル聖王国、歴代初の女性聖王にして、第四位階信仰系魔法を操る才女。国を率いる者としては些か優し過ぎる面こそあれど、個人として見ればこれ程善良な人も珍しい程。
ローブルの至宝と呼ばれる美貌含めて国内で絶大な人気を誇る彼女だが、根底にあるのは王族で25歳になっても一向に現れる気配のないお婿さんへの憧れと鬼気迫る程の結婚願望!そしてそれによって若干歪んでしまった、恋愛ポンコツ脳みそである……っ!!
「(サトルさんは貴方の初恋だものね……!友達の私だったとしても、異性と2人きりになんてさせたくないわよね!分かってる、私応援しちゃうからね!!)」
心の中で小さく旗を振って親友の1人を応援すると決意を固める聖王カルカ。余談だが、別にケラルトは彼女に恋愛相談をしたこともないしサトルが好きとは一言も言ったことがない。完全にカルカのお節介である。
ちなみにやる気が一周まわって本人も無意識に小さく両手でガッツポーズしながら、目に見えるほどふんすふんすしていたりする。モモンガからしてみても至極可愛らしい仕草なのだが、なんでこの上司いきなりこんなことしてんだろうと笑顔の奥で小首を傾げるモモンガなのであった。
「とにかく!サトルさんにはケラルト達の応援として、聖王学院に教員として向かって欲しいんだけど……大丈夫?」
「カルカ様のご指示なら、喜んで向かいますよ。お力になれるかは分かりませんが、できる限りの事はやってみます」
カルカが改めてモモンガに頼むと、彼は笑みを浮かべながらその頼みを了承。より多くの子供が学べる環境を作ろうというカルカの政策には共感しかないので、全面的に協力するつもりだ。
「良かった!しばらくはレメディオスやケラルト達と同じように向こうに泊まり込みになるかもしれないから、お願いね。必要な物は言ってくれればこちらで用意しますから」
「了解しました。取り敢えず急ぎの方が良いでしょうし、荷物準備してきます」
モモンガはカップに残っていた紅茶を頂いてから1人席を立つと、一礼をして退室していった。泊まり込みともなれば、着替えやらなんやらも必要になるし、向こうに行っても宮廷魔術師としての仕事を遅らせるわけにはいかないので関連の資料やマジックアイテムも持っていかなければ。
そう思いながら静かに退室していくモモンガの背に向けてニコニコと笑顔を見せながら手を振るカルカ。扉が閉じられたのを確認してから、彼女は今一度小さくガッツポーズ。
「ふ、ふふふ…………上手くいった、これでケラルトとサトルさんの仲が進展してくれれば『あの噂』も潰えるはず……!!」
普段の優しいカルカからは想像もつかないほど悪い笑みを浮かべながら、そう呟く。そこだけ見れば悪い組織と繋がっていそうなものだが、実際のところはそんな事もない。ただただ彼女は、自分の夢に対する巨大な障壁を取り除きたいだけなのだ。
カルカが消し去りたい噂………それはただ一つ。
______『聖王様ってレズなんじゃね』という至極はた迷惑な噂、それ一つだけ。
近年になって宮廷魔術師に召し抱えられたサトルことモモンガ。彼が今のメンバーに加入するまでの間、カルカが本当の意味で信じられるのは親友たるカストディオ姉妹しかいなかった。
王女という立場上致し方なくはあるが、歴代初の女性聖王に就任してからはそれはもう権力欲と策謀の雨あられ。マトモに信頼のおける男性なんて、兄であるカスポンドくらいなものだった。
………結果として、信頼おけるレメディオスとケラルトの2人といつも一緒。仕事の面でも私生活の面でも共に過ごすことの多かった三人娘は、全員が男性経験皆無なのも相まって『カルカ様の御子の誕生は絶望的』なんて噂がまことしやかに囁かれ始めたのだ。
「違うの………あの子達は信頼してるし好きだけど友人的な意味でなの、恋愛的じゃないの………」
はァ、とため息をついてカルカは王族らしくなく机に突っ伏する。確かに彼女は親友の姉妹を信頼しているし、並の友人関係以上に強固な信頼を結べているとは思っている。しかしそれはあくまで友人として、親友として。決して恋愛面の意味では無い。どこぞの王国冒険者の双子……実際は三つ子の忍者の青いのとは違うのだ、カルカは至ってノーマルである。
「でも仕方ないじゃない!私の事マトモに見てくれてる殿方なんて、カスポンド兄様とサトルさんくらいしかいないんだものぉ!!」
わっ、と半泣きになって一層ぐでぐでっと突っ伏し始める。血が繋がった兄であるカスポンドとの結婚は正直無いし、彼は貴族のご令嬢と良い感じという話も聞いた。
となれば候補は自ずと宮廷魔術師にして仲良しのサトルただ一人に絞られるのだが、彼はケラルトの初恋の相手だとカルカは認識している。親友であり、王座に座ってから今までずっと支え続けてくれた親友の恋路だ。折角ならばそれを応援したい。
つまり、彼女の身の回りにカルカ・べサーレス個人を見てくれるお婿さん候補は皆無なのだ。貴族連中の息がかかった婿なんて極力御免だ、王族としてワガママを言っている自覚はあるが、それでも彼女は自分個人を愛してくれる殿方と結ばれたかった。
「はぁ………あぁダメよカルカ、諦めたらそこで何もかも終わってしまうわ!………取り敢えず、紅茶片付けて………あら?」
まぁ現実として、そんな気配が漂う様子は無いのだが。今一度大きくため息をついたカルカは、気を取り直して聖王国の王としての仕事をこなそうと紅茶を片付け始めた。
そんな時、不意に部屋のドアがノックされる。この時間に来客が来るとは聞いていないカルカがそちらに意識を向ける。
『すみませんカルカ様、少々よろしいでしょうか?』
「サトルさん?えぇ、どうぞ」
失礼します、と一言断ってからモモンガが部屋へと戻ってくる。服装等は変わっていないが、肩から布製のカバンを提げている。まさかとは思うがもう準備が終わったというのだろうか。
「もしかして、もう準備が?」
「えぇ、元々持っていくものも大してありませんし。これに適当に入れてたらすぐに終わりましたよ」
ポンポン、とモモンガは腰の辺りに揺れるカバンを叩く。笑いながらそう言ったモモンガに、カルカは目を丸くして驚きを露わにする。
マジックアイテム等に対しては何故そこまで集めるのか首を傾げる程のコレクター魂を見せるモモンガだが、彼は元々洋服や装飾品など、自分を着飾るものには興味が薄い。なので彼の部屋はマジックアイテムやら装備品、後は日持ちする菓子類は沢山あるものの、それ以外は必要最低限しか持っていない。
なので準備が早いのも分かるが、しばらくの間は聖王学院の教師用の部屋に泊まり込みだ。いくら何でも荷物が少な過ぎる。彼が肩から提げているのはどう見たって、休日に年頃の娘がちょっとショッピングに向かう時に使用するようなサイズだ。
「サトルさん、いくらなんでも少な過ぎないかしら……?一着を着回しとかは流石に……」
「あ、大丈夫ですよ。ちゃんと必要な分入れてますから………ほら」
流石に教師として向かうのであれば、最低限度の身だしなみは整えて欲しいと暗に言うカルカ。しかし元サラリーマンのモモンガはそんなこと重々承知、パカッとカバンを開けてみせると、そこにはカルカが思いもしなかった光景が広がっていた。
カバンの口の部分が黒く染められたようになっていて、底が見えない。モモンガがその空間に手を突っ込むと、中からずるり、と洋服が数着彼の手に握られて出てきた。明らかにカバンの内容量を超えている。
「スゴい!サトルさん、これは……?」
「『
ユグドラシル時代に存在したアイテム、『
基本的にアイテムを種別ごとに整理する時等に使われていたものなのだが、この世界では当然そんな便利なアイテムは存在しない。厳密には法国等には存在するのだが、一般に認知されるほどの量が流通しているわけもない。そこでモモンガはユグドラシルでの知識を活かし、研究の一環としてそのアイテムの再現をしてみたのだ。
「………サトルさん、サラッと言ってるけど………それ、売りに出したらとんでもない値がつくわよ……?」
本来の『無限の背負い袋』は、500kgまで入れることが出来る上にショートカット登録も出来る。対してモモンガの創ったこのカバンは、せいぜいが50kg前後。ショートカット登録なども出来ないので下位互換もいい所なのだが……この世界においてその価値は計り知れないものがある。
本来嵩張る装備品や食料品などを楽に運搬出来るとなれば、冒険者だけでなく多数の商家がこのアイテムを欲しがる事だろう。見た目は何の変哲もないカバンなので貴重品の管理にも便利だろうし、裏組織の手に渡れば多量の麻薬を手軽に運び出せてしまう。使い手によってはとんでもない使い方すら出来るであろう、超級のアイテムだ。
「あはは……でもこれ創るの、かなり時間がいるんですよ。見た目に反して必要素材も多いですし……売りに出せるほど量産は難しいですね」
「そうじゃなくて!これ単品でも金貨数百枚はくだらないマジックアイテムよ!?それを自作って………」
「レメディオスさんが聖騎士団の仕事で討伐したモンスターの素材とか、よく持ってきてくれるんですよ。中には特殊な処置を施さないとすぐにダメになってしまうようなレアのも含まれてて……そのお陰なんです」
モモンガからの言葉を聞いて、思わず額に手を当てる。そういった有用そうなアイテムは、基本は専門家に鑑定などを施して貰うのが常識だ。それを無視して平然と彼の元に持っていくなんて、相変わらず親友姉妹の姉の方は直情的というか思い立ったら即行動というか……。
『サトル!よく分からんがマジックアイテムの素材になるらしいぞ!お前にやろう!』と、剥ぎ取った皮やらなんやらを担いで持ってくる聖王国最強の聖騎士の姿を幻視するカルカ。幸いなのは、レメディオスがそれを持っていく相手が妹のケラルト、宮廷魔術師のサトル。それに聖騎士団副団長のグスターボやイサンドロたちであることだろう。このメンツならば適切に対応出来る筈だ。
「………あの子ったら、もうっ………それでサトルさん、準備が出来たのなら、もう出発の報告に?」
「はい、向こうに着いてからも確認事とか多そうですし、早めに向かった方がいいかと思いまして。今から向かえば、日が落ちる前に着くでしょうし」
「そう……不甲斐ない主でゴメンなさい、サトルさん。本来なら貴方にこんな頼みをせず、存分に研究に打ち込める環境を作らなければならないのに………」
「とんでもない!カルカ様には返しきれないほどの御恩があるんですし、これくらい部下として当然の事ですよ」
宮廷魔術師として召し抱えられたモモンガは、本来国の政などに関わるのは最低限。国家の役に立つマジックアイテムや、新しい位階魔法、生活魔法の創作。その他にも多種多様な研究を推し進めるのがモモンガの仕事内容だ。
ともすれば、こうして学校の教師なんて仕事を頼むのは、言わば契約違反。当然モモンガには断る権利があるのだが、彼は断る気はさらさら無い。こんな風に気を使ってくれる上司たるカルカの頼みだし、普段はきちんと宮廷魔術師としての仕事に専念出来る環境を整えてくれている。できる事なら彼女の役に立ち、部下としても友人としても、少しでも力になりたいモモンガなのであった。
……まぁそもそも断ったらカルカに反発する貴族連中がこれ幸いと接触しに来るのが目に見えているので、ある意味断れないのだが。
「それにしても、サトルさんまで向こうに行ったら………やっぱりちょっと、寂しいわね」
そんな中で、カルカが思わずポツリと呟く。
王族としてこの世に生を受けたカルカは、幼少期よりその高い才能を発揮していた。兄弟達の中でもずば抜けた信仰系魔法の才能に、国内でも並ぶもののない美貌。
先代の聖王たる父親からも将来を期待されていたが故に、彼女は孤独だった。次期聖王の座を狙う兄弟達からは疎ましい目で見られ、声を掛けてくれるのなんてカスポンドくらいなもの。自身に擦り寄ってくる者達も、下世話な目で見てくる貴族嫡子や王族という立場を利用しようとするものばかり。聡明なカルカはそれらを見抜けてしまい、心許せる相手もいなかった。
レメディオスと知り合い、そしてケラルトをも含めて親友と呼べる間柄になってからは楽しかった。味方がいると思えるだけで心は軽くなるし、いざとなればケラルトの魔法で防音を施した部屋の中で大声で愚痴る事だって出来た。
ここにサトルが加わってからは、ケラルトの新しい一面を覗き見ることが出来たり、彼自身の語る興味深く面白い話の数々を聞く事も出来てもっともっと楽しくなった。
聖王という、民を導く立場。べサーレス王家のカルカ、聖王としてのカルカ。それを揺らがせることなく国を導かねばならない彼女にとって。大袈裟かもしれないが、カストディオ姉妹やサトルとの空間が唯一、1人の人間としての………ただのカルカとして振る舞える空間だったのかもしれない。
より多くの民が様々な事を学んで未来に希望を持てる国にするために、聖王学院を設立した。そのことを後悔はしていない。しかし、こうして仲の良い3人を向こうに向かわせることになるとは見通しが甘かった。レメディオスとケラルトが向こうに行った時も感じたが、サトルがいなくなればより一層部屋が広く感じるのだろうな、なんて思うカルカ。
「……あっ!ご、ゴメンなさいサトルさん!変なところ見せてしまって……気になさらないでね」
そんな彼女は、ハッとした表情を浮かべて慌てて取り繕う。今のはいけない。今から彼を送り出そうと言う時に、主である自分がこんなことを言っている場合ではない。
……だけどやっぱり、ちょっとだけ寂しい。聖王であるカルカはおいそれと聖王学院に向かうことは出来ないので、しばらくはサトル含めて3人に会うことも出来ない。自分のいない場で3人は会話に花を咲かせることが出来るのかと思うと、少しばかり羨ましい気持ちがあるのも事実だった。
「………カルカ様」
「?なぁに、サトルさん」
そんなカルカの表情を見てか否か。サトルから声を掛けられた彼女は返事をして彼の方を見やる。すると彼はカバンの口に手を突っ込むと、そこから一つ、何かを取り出す。それなりな大きさのものだ。
「……?これは……」
「改良中のマジックアイテムなんですが、お渡ししておこうと思って」
見た目としては蓄音機が1番近いだろうか。茶色い台座に、金塗装されたラッパのようなホーンが口を開けている。突然どうしたのだろうかとカルカが首を傾げながらそれを受け取ると、サトルはもう一個同じものを取り出した。
「……前に、レメディオスさんが『サトルとケラルトは離れた場所でも伝言の魔法で話せていいな!』……って、仰ってたじゃないですか」
「そういえば、そうだったわね………聖騎士のレメディオスもだけど、私も『伝言』の魔法は習得してないから少し羨ましいって、話してたのよ」
【
が、戦闘には一切関係ない故にレメディオスは覚える筈も無く、カルカも習得していない。なので離れてても手軽にサトルを呼び出せるケラルトを見て、便利だなぁと思っていたのだ。
「これ、それぞれが対応する通話のマジックアイテムなんです。伝言に色々魔法付与とかして、精度を高めて………ちょっと嵩張っちゃいましたけど、これがあればホバンス内くらいなら問題無く通信出来るんですよ」
この世界の伝言の精度の低さは、ユグドラシル時代を知るモモンガが1番よく理解している。ただ連絡するだけでも、お互いの力量や魔力量、それに二者間の距離が大きな影響を及ぼしてくる。下手に離れたところから連絡しようものならノイズが走って聞き取れないどころか、人によっては傍受の魔法を使って会話を盗み聞くことさえ可能なのだ。
それを不便に思ったモモンガは、前世で見たアイテム______友人であるぶくぶく茶釜が彼女の作成したNPC、アウラとマーレ用にと作っていたドングリ型のネックレスを参考にして作ってみたもの。それがこの蓄音機の様なアイテムなのだ。これがあれば、仮に伝言の魔法が使えなくとも話すことが出来る。まぁ早い話が、大型で持ち運びのできない電話機だ。
そんなものまで作っていたのか、とカルカが驚きを露わにする中で。モモンガはこの世界の友人であり上司のカルカに向けて、小さく笑う。
「カルカ様。もし悩み事とかがあるのなら遠慮なく言って欲しい………そう言ったのはカルカ様ですよ。それなのに一人だけ言いたい事黙っておくのは、友人として見過ごせません」
「うっ………」
「まぁお気持ちは分かりますけどね。………分かっていても、友達と離れるのは寂しいですから」
カルカの感じる寂しさは、モモンガにも察することが出来た。かつて大墳墓にただ1人残り、終わりが来るその時まで楽しみもなく、ただただ維持費を稼ぐ日々。夢叶ったり、状況が変化してログインも難しくなったり、人によっては連絡が取れなくなることもあった。友人達が新しい道へと進んでいく中で、それでもナザリックを手放して行った彼らに寂しさがあったのも事実だ。
わかっていても、友人と離れるのは寂しいもの……特にカルカの様に他に本音で話せる相手がいないならばより顕著にそれは現れる。それが分かるからこそ、モモンガはこうして持ってきたのだ。
「向こうの仕事が終わってから、これを使ってご連絡しますね!カルカ様がお休みになる前の数十分ほどしか話せないけど、少しは気が休まるでしょう。それにケラルトさんやレメディオスさんも、久しぶりにカルカ様の声を聴きたがるでしょうし」
「………ありがとう、サトルさん」
優しい笑みを浮かべながら語るモモンガに、心の底から感謝の念を送る。この優しい魔法使いに巡り会えた時は、まさかカストディオ姉妹に並ぶ程心許せる相手になるとは思いもしなかった。彼の気遣いは、どこぞの団体のトップに立っていてもおかしくない程だなぁ、なんて思うカルカなのであった。
「それに______」
そんな風に、じーんとした感情を味わっていたカルカに向けて。
「______俺もカルカ様とお話出来ないの、寂しいですし」
「………へぁ?」
______ギルド長から、無意識の爆弾が投げられた。
「それじゃあ、もう行きますね!失礼致しました、カルカ様」
パタン、と扉を閉じてニコニコ顔で部屋から出ていったモモンガ。室内に残されたのは、一人佇む聖王様のみ。
………モモンガは特に深い意味も無く、友人としてそう言っただけ。王家に仕えてからこの日まで、休日以外はほぼ毎日カルカと一緒にいたのだ。ケラルトやレメディオスとも一緒のことが多いが、彼女達はそれぞれ聖騎士団と神官団のトップという立場上離れる事もあり、宮廷魔術師のモモンガと王であるカルカは、顔を合わせない日の方が珍しいほどだったのだ。そんなカルカと話せないとなると、寂しいものだなと思って言っただけに過ぎない。
………そんな親しい立場の異性からの突然の言葉。ついでに顔も結構良し、内面抜群、地位磐石。更には滅多にカルカには見せてくれない、素の一人称である『俺』。
「…………だっ、ダメよカルカ……!人間舞い上がったら痛い目見るのよ……あぁでも凄くっ、凄く恋愛譚的……っ!!」
…………この日からしばらくの間、ポンコツと化して執務に支障をきたすローブルの至宝の姿が、代わりの護衛として抜擢されたイサンドロ・サンチェスによって目撃されることになったのは、また別のお話。
☆☆★
「______御老、ホントに護衛は俺一人でいいんです?」
「構いやせん。数だけおっても邪魔じゃわい。ソロでオリハルコンになったお主1人おれば十分じゃろうて」
「それなら別にいいんすけどねぇ。他のチームとすり合わせしなくていいから楽だし」
馬車の中。貴族用に作られた巨大かつ豪奢なその場所の中で大きく伸びをする青年と、そんな彼を見ながら笑う御歳80になる皺の深い老人。
老人の方は、南部貴族ながら聖王家への忠勤が認められて九色の一色、【紫色】を授かった公爵家の大貴族。皆から御老と呼ばれるその男は、貴族ながら実力あるものには平民だろうと若造だろうと敬意を払う、人間のできた稀有な老人だった。
「ほっほっほ……仮にも貴族相手にその態度とは、それだけ図太くないとソロではやっていけんということかのう?」
「御老はお得意様だし、俺がこういうやつだって知ってるでしょ?それに俺だって好きでソロやってんじゃないの!気が合う奴がいないんだって」
どうだか、と目の前で手を横に振る男を見る。
ローブル聖王国では珍しい、信仰心の無い人間。南部の港町の出身らしいのだが、商家出身でも無いのに公的な場では正しい礼儀作法を振る舞えるなど少々謎の多い。
しかも、聖王国の冒険者組合では数少ない……アダマンタイトに位置する冒険者がいないので事実上最高位となるオリハルコン級の冒険者。しかもソロでだ。パッと見が常識人的なだけに、どこに変な部分があるか分かったものじゃない。
「そもそも小僧、お主は鬼のような形相で他を黙らせてこの依頼を勝ち取ったそうじゃないか。わざわざこの老骨の警護なんてつまらん任務を受けた理由はなんじゃ?聖王学院が目当てか?」
「あったり!流石御老、分かってるぅ!」
ノリ軽くそう言ってくる青年に、御老が納得の表情を見せる。
現在御老と呼ばれる老人は、南部の自治領から北部の首都、ホバンスに向けて進んでいた。理由は単純、聖王たるカルカに、聖王学院の教員代理として頼まれたから……というか、聖王学院の話を聞いて自分から志願したのだ。
聖王学院に通う生徒ならば、将来的に国の未来を担う人材。即ち聖王たるカルカやそれ以降の王族、それに貴族達と関わる機会も増えるだろう。ともすれば、長年べサーレス王家に仕えてきた自分が礼儀作法等の教育を担当しよう、と願い出たのだ。自分の領地の経営に関しては、既に息子達に引き継いでいるので問題ない。
それ故に、護衛となる人物を斡旋して欲しいと冒険者組合に頼んだ結果としてこの青年がやって来たのだ。御老の家から冒険者組合に出される依頼をよく受け、かつしっかりこなしてくれる見知った相手。御老としてもやりやすいが、まさか彼が立ち上がったばかりの聖王学院に興味を持っているとは。
「意外じゃのう。冒険者なんぞ、酒と女と金にしか興味が無いと思っておったのだが」
「そういうのが多いのは事実だけど、俺は夢があるからね!」
「夢ぇ?」
「そっ!!俺はいつか【学園】を作るのさ!!」
ばっ!と手を広げて笑顔で己の夢を語る男。前世からかねてよりの夢だったソレは、薄汚れ、外すら満足に出歩けない前世では夢物語に過ぎなかった。しかし、この世界でならば、僅かにだが叶えられる可能性がある。その為にも、聖王学院は格好の下見の場だ。
「学園のぉ………聖王学院に就職しようとは思わんのか?」
「んー……いけるならそれが手っ取り早いけど……オリハルコンとはいえ冒険者風情を教師にしてくれるほど甘くないでしょ。どうせ貴族諸侯とかで埋まってるって」
「確かに、今臨時で教師に就任しているのも九色の面々じゃからのう。グスターボの奴も貴族の出身じゃし、何より聖騎士団の副団長じゃ」
「ほらー、俺が入り込む余地無いって!」
息を吐きながら背もたれにもたれかかる。オリハルコン級ともなれば並以上の地位だが、聖騎士団の活躍する上に徴兵制度の敷かれたこの聖王国での冒険者の地位は低い。南部ならばまだ活躍の場はあるが、北部に行けばそれも無くなるだろう。教養ある貴族達や国から九色のいずれかを授かった面々に、一介の冒険者風情が太刀打ち出来るはずもない。
「あぁ、そういえば貴族ではない者が一人、追加で教員として派遣されたらしいな」
「え?デジマ?」
「なんじゃそれは……アレじゃよ、物腰の低い宮廷魔術師の………サトルじゃったか」
つい先日、連絡網で手に入った追加人員。御老より数日早く教員として聖王学院に入る予定の宮廷魔術師ならば、貴族ではなく平民だ。まぁ確固たる地位こそあるが、まだ可能性があるのでは無いか。そう思って口にした、瞬間だった。
「______嘘、だろ………?」
「………なんじゃ、どうした?」
「裏切るのか………そんな仕打ちってないだろ、ギルド長………ッ!!」
「おい、スゥーラ!?なんじゃ、突然何があったんじゃ!?」
ワナワナと震える青年。共に馬車の中にいる御老が声を掛けるが、全く反応せず。信じていた人に裏切られたようにショックを受ける彼は、怒りと決意の入り交じった表情で顔を上げる。
「ちくしょぉぉおぉぉ!!!」
「スゥーラ!?」
バッ!!と駆け出した彼は、馬車から飛び出る。とんでもない暴挙に御老が急いで掴み取ろうとしたが、スゥーラと呼ばれた彼は華麗なステップで馬車の上へと登る。
馬車の上で仁王立ちし、遠くにうっすら見えるローブル聖王国の王城を睨む。他の護衛たち……御老個人が雇い入れている使用人や騎士達がなんだなんだと馬車の上に立つ彼を見上げる。
そして彼はカッと目を見開き、両手に口の横にメガホンとなるように添えて______
「俺もっ!!金髪ロングの生徒会長ちゃんと禁断の恋がしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!!」
こいつを連れてきたのはどう考えても失敗だった。御歳80歳、紫色を授かった忠臣は、密かに心の中でカルカへと懺悔した______
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『コネ入社』