【未完】被らない帽子と抜かない刀【ワンピース】   作:千葉 仁史

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8,アイツ・あの方・どちら様?

「"ボク"?」

「それもあるが、"と"も当てはまるな」

 

 記憶喪失の男――仮の名は"ムギガタナ"とジョリーが奇妙な会話を交わしている。今、三人は"プラド(町の名前)"のオレンジの樹が立ち並ぶ街道を歩いていた。オレンジの樹には実が幾つかなっていたが、ムギガタナは、シルクから、その実が食用ではないことを知らされていた。

 

「ややこしいわね」

 

 手首に付けていた黒のゴム紐で髪を一つに結びながら、シルクが言った。

 

「つまり、こーゆー形ってことでしょ」

 

 そう言うと、シルクは身を屈(かが)め、先ほど目に付いた、オレンジの街路樹の落ちていた枝を一つ拾った。

 

「そうそう、そんな形」

 

 医者が言うように、シルクの持つ枝は、ムギガタナの言う漢字の"卜(ボク)"、あるいは、ジョリーの言う片仮名の"ト(と)"の形をしている。

 

「ムギガタナ、これが私たちの島の形よ」

 

 ムギガタナの目の前で、シルクは人差し指と親指で枝を垂直に掴み、天をさしてクルクルと回した。

 

「シロツメ島は四つの区域に分けられるの」

 

 そう言って、シルクは右手で握った"卜"の形をした枝の下の方を、左手で指差した。

 

「ここが私たちの住んでいる"プラド"で」

 

 彼女は今度、枝分かれで右の曲がった部分を指差し、次は「ここは港町"ルーブル"、岬には海軍基地があるわ」と言いながら、残った上の部分を指差した。

 

「ここは"エルミタージュ"って言って、森やら山やらある非開拓地域なの」

「四つ目の地域ってのは?」

 

 シルクの説明通りだと、一つ足りない地区をムギガタナは不思議に思って尋ねた。

 

「最後の地区は、ここ」

 

 答えながら、シルクが指差したのは、枝別れした部分とは逆の何もない箇所であった。

 

「海?」

「そう。この島の西側に広がる海を"オルセー"って呼ぶの」

 

 ムギガタナが呟いた単語に、シルクが頷いた。

 

「……にしても、おかしいよね。他の箇所の海には名前なんて付けてないのに、ここだけあるなんて」

 

 シルクはそうぼやきながら、枝を魔法のステッキのように指で左右に振った。

 

「でも、」

 

 シルク(レディー)に対し、ムギガタナは敬語で尋ねた。

 

「"ルーブル"に行くんなら、かなりの遠回りになるんじゃないですか?」

 

 そう。

 彼の言う通り、シロツメ島が『卜』の形をしているのなら、下のプラドから、右のルーブルに行くには、T字路となっている場所まで行かなくてはならず、かなりの遠回りになってしまう。

 

「ここを曲がれば分かる」

 

 ムギガタナの問い掛けに、ジョリーが答えた。はぁ? と怪訝(ケゲン)がるムギガタナがその言われた角を曲がると、島の輪郭線である崖が見えてきた。それと同時に、一つのものが見えた。橋だ。ひ弱な釣り橋ではなく、幅の広い丈夫な橋である。行商人や荷馬車を引く馬、親子連れに年寄り、そして、若い女性二人組……(?)。様々な人々が橋を往来していた。

 

「島分かれになってるところまで行かなくても、プラドからルーブルへ真っ直ぐに行けるよう橋が掛けてあんだよ。まぁ、昔は釣り橋だったらしいんだが、俺がこの島に来た年に今の橋が出来たんだ。そんで――」

「ねぇ、医者」

 

 まるで自分が橋を拵(コシラ)えたかのように、長々と説明を施(ホドコ)そうとするジョリーをシルクが呼び止めた。

 

「……って、なんだよ、シルク。わざわざ、俺があの記憶喪失ヤローに説明してやってんのに邪魔をすんなよ」

「その"記憶喪失ヤロー"がいないんだけど」

「……は?」

 

 ジョリーは自分の脇に立っているはずの人物を見た。いない。一体、何処に……?

 

「はぁ~い、レディ~♪」

「ん?」

 

 聞き慣れた声がした方を見ると、橋を往来していた若い女性二人組にデレデレしながら、くちどいている金髪男がいた。しまった、こいつがかなりの女好きってことを忘れてた、とジョリーは思わず頭を抱えてくなる。

 

「このっ……」

 

 呆(アキ)れるシルクの手から、"ト"型の枝に抜き取ると、青筋を浮かべたまま、ジョリーは大きく振りかぶった。

 

「クソ色ボケバカヤローがっ!!!」

 

 投げられた枝は回転しながら飛んでいき、ムギガタナの後頭部に、見事クリーンヒットしたのだった。

 

 

 

「いててて……。クソッ、ハゲたりしたら、テメェのせいだからな」

 

 ムギガタナが頭を擦(さす)りながら、ジョリーを睨み付けると、医者も負けじと記憶喪失の男を睨み返してくる。敵意丸出しの男二人組に、シルクは頭を抱えたくなった。

 シロツメ島を"ト"で例えるなら、右に位置する、ルーブルの街を往来する人込みの中に、亜麻(あま)色の髪の少女と青色の髪の男性と金髪の青年は歩いていた。色様々なタイルが綺麗に敷き詰められた街路は、オレンジの街路樹が並ぶプラドとは別の雰囲気が漂っていて素敵なのだが、睨み合った二人の雰囲気は紛(まぎ)らわせそうになかった。

 

「はぁ? なんで、おれのせいなんだよ?」

 

 ムギガタナの愚痴をジョリーが受けたことから、二人の言い争いは始まった。

 

「はぁ? じゃねぇよ! テメェがさっきから、殴ったり、ぶつけたりしてるからだろ!」

「ンなの、自業自得だ! 行く女、来る女、片っ端からナンパしやがって」

「だからって、逐一(ちくいち)、攻撃する必要はねぇじゃねぇか!」

「こちとら、お前のためにルーブルに来てやったってのに、その当の本人が見境なく女を口説いてたら、攻撃したくもなるだろが!」

 

 ジョリーの言った通り、ムギガタナは若い女性(レディー)を見つけると否や、すぐさま口説きに走るので、その度にジョリーに殴られたり、物を投げ付けたり、首根っこを掴まれたりしていた。

 そして、今も。

 

「おっ! うっつくしいレディー発見♪」

「アホかっ!!」

 

 口喧嘩の最中というのに、女性に近寄ろうとするムギガタナの頭をジョリーが、ぽかん、と叩いた。

 

「ってぇな、何しやがる!?」

「これで五回目。お前も何回したら気が済むんだ?」

 

 叩かれた箇所を押さえながら、怒鳴るムギガタナに、ジョリーは顔全体に怒りを表したままで返答する。

 

「レディーに声を掛けるのは常識だろが、クソ医者!」

「ンな常識あってたまっか、この"馬鹿ガタナ"!」

「あの~」

 

 暴言と共に、ヒートアップする口喧嘩する医者と患者をシルクが呼ぶが、二人とも気付きやしない。

 

「刀をバカにすんじゃねぇっ、この"青汁"!」

「……ちょっと、」

「誰が"青汁"だっ!? つぅか、青汁は青色ってか、どっちかいうと緑色じゃねぇか! このっ馬鹿ムギ! ……ってか、馬鹿ムギ、馬鹿ゴメ、馬鹿タマゴ!!!」

「早口言葉にすんじゃねぇよ、このクソ青髪っ!」

「しずかに……」

「おっ、やるかーっ!?」

「ブッ飛ばしてやる!!」

 

 売り言葉に買い言葉で悪化していった口喧嘩は、本当の喧嘩に変わりつつあった。

そして、ついに手が挙げられた――ジョリーでも、ムギガタナでもない手が。

 

「いい加減にせんかいっ!!!!」

「ほげっ!」

「ぐげっ!」

 

 シルクの鉄拳が二人の脳天に炸裂した。

 

「喧嘩も大概にしてよ! みんなの迷惑になるでしょ!!」

 

 大の男二人を撃沈した少女が仁王立ちになって、叱り付ける。

 

「コイツが悪い!」

 

 声を揃えて言う二人に「両方、悪い!!」とシルクの怒声が再び飛ぶ。

 

「それに……、」

 

 少女が辺(あた)りを見渡しながら、小声で付け加えた。

 

「周りの人みんな、こっちを見てるじゃないの」

 

 恥ずかしい、と言いたげに額に手をやる少女と喧嘩をする男二人を、通り掛かる人は全て振り返り、好奇の目で見ていた。

 

「それは勿論、おれがかっこ良過ぎるからだよ、シルクちゃん♪」

「阿呆。お前がそんな格好をしてるからだろ」

 

 胸を張って当然のごとく言うムギガタナに、ジョリーが冷静に指摘した。医者の言う通り、記憶喪失の男は白シャツに黒スーツを着こなし、白鞘の刀をピンクのリボンでベルトに固定し、そして、麦わら帽子の紐を首に引っ掛けるという、どっからどう見ても奇妙な格好をしていた。

 

「んだとっ!! 誰がアホって……」

「……にしても、お前、どうして帽子を被らないんだ?」

 

 ムギガタナがわめき始める前に、ジョリーは尋ねていた。

 

「そういえば、そうね」

 

 シルクもそれに参戦する。

 

「家の中で被るのはマナー違反だからって、被らなかったけど、どうして、外にいるのに今も被らないの?」

「え? あ……、それは……」

(そういえば、なんでだ?)

 

 ムギガタナは心の内で自問自答する。

 

(何故かは分からないが、"駄目だ"と思う。理屈なんてない。けど……、この帽子をおれは被っては駄目なのだ)

 

 唇の片端を下げて、一瞬だけ、ムギガタナは困ったような表情をしたが、直(じき)にそれも消え、いつもの表情で答えた。

 

「そりゃあ、シルクちゃん、帽子を被っちまったら、おれのトレードマークである金髪が隠れちまうからさぁ!」

 

 家の中であろうが、外であろうが、結局、ムギガタナに帽子を被る気はないらしい。ハートを振り撒きながら、女性(レディー)であるシルクにしか答えない男に、ジョリーがぼやいた。

 

「確かにお前の目障(めざわ)りな程にビカビカ光る髪が隠れてたら、物を当てにくくなっちまうなぁ」

 

 そんな医者の挑発にムギガタナが乗らない訳がない。

 

「あんだとっ! そーゆーテメェの格好もどうなんだよ?」

「何って、医者の格好」

「医者だからって、外でも白衣を着る奴が何処にいんだよ!?」

 

 ムギガタナの言う通り、ジョリーは外であるのに、しかも街中なのに、白衣を着こなしていた。これはもう不自然、いや不審者以外の何物でもない。

 

「常に白衣着用、これがおれのポリシーなんだよ!」

「……お前、アホだろ」

「女性を見つけ次第、口説くのが常識って思ってるお前の方がアホだっての」

「アホ・アホ言うんじゃねぇよ、バカ青髪っ!」

「何をーっ!! このグルマユ野郎が!」

 

 ……という具合に、年齢が十歳程離れていそうな、金髪でグル眉毛、帽子と刀をぶら下げた黒スーツの男と、街中なのに白衣を着て、緑色の四角いフレームの眼鏡をかけた青髪の男が、往来のど真ん中で互いを罵りあい、ぶつかりあっているので、かなり目立つのである。誰もが振り返る訳なのだ。

 

(この三人で一番マトモなのって、私だけね。……なんだか、そっちの方が逆に浮きそうだけれども。)

 

 Vネックの濃紺のTシャツに、チェック柄のオレンジのキュロット(スカートのようなズボン)を穿いた少女は他人のフリをしたくて仕方なかった。だが、一息吸うと、口喧嘩が殴り合いの喧嘩に発展する前に、二人を地面に叩き付けるため、シルクは拳(こぶし)を強く握り込んだ。

 

 

 

「あ」

 

 しばらく歩いていると、ふいにジョリーが声をあげた。

 

「どうした?」

 

 先ほど、医者同様、仲良く殴られたムギガタナが訊いてきた。

 

「おれ、あそこに行ってくるから、先に鍛冶屋に行っててくれ」

 

 そう言ったジョリーの指差す先には、家の中に入りきらないのか、外にまで書物が並んだ本屋があった。

 

「……医者、もしや、エ」

「阿呆。おれはただ月刊誌を見たいだけだ。今日が発売日なんでな」

 

 ムギガタナが全てを言う前に、ジョリーが理由をとっとと述べた。

 

「……ってな訳で、シルク、コイツを鍛冶屋に連れて行ってくれ。おれは野暮用が済んだら、鍛冶屋に向か……うっ!?」

「シッルクちゃ~ん♪ こんなクソ医者を放って置いて、おれとデートしよ~っ!」

 

 話しかけのジョリーを思いっきり突き飛ばすと、ムギガタナはシルクの手を握り込んだ。

 

「テメェっ! 何しやがる!?」

「クソ医者、テメェはお呼びじゃねぇんだよ。どっかいきやがれ」

 

しっしっしっ、と犬を追っ払うような仕草(しぐさ)をするムギガタナに、ジョリーが噛み付きそうな勢いでいきり立っている。

 

「そうね」

 

 シルクがそう言うもんだから、ムギガタナは心底嬉しそうな顔をした。だが、世の中、そんなに甘くはない。

 

「医者は本屋に寄っててイイよ。ムギガタナは私に任せて」

 

 ムギガタナの手をギリギリと摘(つま)みながら、シルクが笑顔で応答する。そんなシビアなシルクちゃんも素敵だ~、と盲目にメロリン状態の奴を「不憫だな」と思いつつも、決して声に出さず、ジョリーは本屋へと足を運んだ。

 

 

 

「いらっしゃい……って、なんだ、ジョリーかい」

 

 ジョリーが本屋に入ると、カウンターで本を読んでいた初老の女性が顔をあげた。

 

「なんだ、じゃないだろ。一応、客だぜ?」

 

 世にも珍しい青髪をガシガシ掻きながら、ジョリーはカウンターに凭(もた)れ掛かった。

 

「どうせ、まぁた、手配書を貰いに来たんだろう?」

「それが狙いじゃねぇんだが……、その口調からすると新しい手配書が入ったのかい?」

 

 女主人が"手配書"の三文字を口にした途端、ジョリーがその話題に食いついてきた。

 

「ほら、これだよ」

「サンキュー♪」

 

 女主人が十数枚の手配書を渡すと、ジョリーは喜々として目を通した。

 

「……にしても、手配書集めとその人物の情報収集が趣味だなんて、アンタも随分変わってるねぇ」

「何もねぇ島だからな、なんか趣味がねぇとやっていけねぇよ。……かと言って、お宝拾いはセンスがねぇしな。……おっ、"六角(ろっかく)のシュピール"か! まだ持ってないヤツだな♪」

「何もないなんて、実も蓋もない言い方をしないでおくれよ。アンタは途中から、この島に来たけど、あたしらはずっと住んでんだから」

「ああ、悪(わり)ぃ、悪ぃ。……"三日月のギャリー"はもう取っ捕まったから、いらねぇや」

「それに、面白いものと言えば"金(きん)の成る木伝説"があるじゃないか」

「ああ、アレね。"金の成る木伝説"だなんて、イイ観光文句じゃねぇか。あんなのを信じるのは、トレジャーハンターと海賊ぐらいだろ。……なぁ、おばちゃん。コイツの手配書はもう持ってんだけどよ、情報持ってないか?」

 

 パラパラと手配書を捲(めく)りながら、めぼしいものを探すジョリーに女主人が話し掛けていると、血塗れの男が写った手配書をひらひら見せながら、医者が尋ねてきた。

 

「"海賊狩りのゾロ"の情報? ああ、あるよ。アンタ、手配書収集でも、剣士の情報を集めるのが一番好きそうだね」

「まぁな」

 

 女主人から手渡されたレポートに一通り目を通すと、ジョリーは白衣の内ポケットに先程ピックアップした手配書と一緒にしまい込んだ。

 

「後は欲しいもんがねぇや。返すぜ」

「ハイ」

 

 医者が残った手配書を返すと、女主人が手を出してきた。

 

「なんだ?」

「情報料。手配書は無料(タダ)だけど、情報はそうはいかないからね」

「あ、すっかり忘れてた」

 

 うっかり、とでも言うようにジョリーは呟くと女主人に何ベリーか支払い、ぼそぼそと頼んだ。

 

「新しい情報が入ったら、また教えてくれよな」

「はいよぉ。"エディンバラ"から定期船が来たら、また情報が入るから、それまで待ちな」

「わーってるよ。……あと、電伝虫(でんでんむし)を借りてもいいか?」

「電伝虫? 別に構わないけど、誰に電話するんだい?」

「海軍に」

 

 不思議がる女主人にジョリーはそう答えると、ベリーを一枚払い、カウンターに置いてある電伝虫に受話器を外した。

 

「ちょいと拾い"者"をしたんでね」

「馬鹿だねぇ、拾い"物"なら連絡なんてせずに取(盗)っとけばイイんだよ」

 

 "物"と"者"を間違えたまま、呆れたように女主人は助言した。

 

「海軍に連絡したら、没収されて、奴等の懐に入るだけさ。アイツら、流れ付いた財宝を上に連絡せずにくすねてるんだ。しかも、エディンバラから海賊の引き渡しているのをイイことに、そのまま自分らの手柄にしてる」

 

 ここぞとばかりに女主人は愚痴った。

 

「あれで海軍とは笑えるねぇ。シロツメもフォリー・ベルジェール同様、傭兵にしちまえばイイんだよ」

「おばちゃん、"物"じゃなくて、"人"の"者"」

 

 ぶつぶつと続く愚痴に一区切りがついたところで、ジョリーは間違いを訂正した。

 

「あら、そうなのかい? ……もしかして、死体?」

「いや、生きてる」

 

 腹が立つぐらいにな、と心の内で医者は補足した。

 

「珍しいねぇ、生きてる人が流れ付くなんて。でも、それなら、尚更、連絡しない方がイイかもよ」

 

海軍への番号は……、と考えるジョリーを横目に女主人がアドバイスする。

 

「今回、流れ付いて来たものは死体ばかりで、財宝がなかったから、奴等、イライラしてるみたいだからね」

 

 いい気味だ、という気持ちを暗に匂わせる言い方に、海軍も嫌われたな、とジョリーは他人事のように思った。いや、実際に他人事なのだけれども。

 

「けどよ、やっぱり連絡した方が良いだろ」

 

 海軍なら、あの記憶喪失男の情報を得られるかもしれない。そんな期待を持ちながら待っていると、海軍に電話が繋がった。

 

『――こちら、シロツメ島海軍。何用だ? 名を言え。』

 

 ぶっきらぼうに上から言う態度そのもので、電話を取った海軍兵の男性が応答した。一瞬、イラッと来たが、心を落ち着かせながら、医者は答えた。

 

「"プラド"の"ジョリー"。単刀直入に用件を言うと、拾い"者"についてなんだが、」

『拾い"物"だとっ!!』

 

 拾い"モノ"発言に海軍兵の声色があからさまに変わった。

 

『で、なんだ? 財宝か? 金か?』

「いや、"人"の"者なんだが……、」

 

 拾ったのが"人"と知るや否や、海軍兵の態度はガラリと変わった。

 

『――なんだ、"死体"か。そんなことで連絡すんじゃねぇ。死体は勝手にそっちで始末しやがれってんだ。海軍は一般人(パンピー)と違って、忙しいんだよ!』

「ちげぇよ! 死体じゃなくて、生きてる"人"……って、切りやがった。クソッ!!」

 

 受話器を叩き付けるようにして戻すと、ほらね、と言いたそうに肩を竦(すく)める女主人と目が合った。海軍を頼った自分が馬鹿だったと思いつつも、ジョリーは言わずにはいられなかった。

 

「腐ってやがる……っ」

 

 

※ ※ ※

 

 

「ここが鍛冶屋よ」

 

 ムギガタナにそう伝え、シルクが扉を開くと、カウンターに居座っている、五十代ぐらいの鼻髭を生やした男主人が、いらっしゃい、と声を掛けたが、客がシルクと分かると親しげに話しかけてきた。

 

「おっ、シルクじゃないか! なんだ? 包丁でも出しに来たか?」

「ううん、今日、用があるのは私じゃなくて、この人よ」

 

 シルクはそう言って、ムギガタナを前に押しやった。

 

「なんだぁ、コイツは? 見掛けない顔だな」

 

 鼻眼鏡を掛け直しながら、男主人は目の前に立つムギガタナを見た。

 

「ジロジロ見るんじゃねぇよ」

 

 ムギガタナがギロリと睨みをきかせて、牽制をかけるが、男主人は奇妙な格好の方に気を取られていた。金髪、グル眉毛、黒スーツに麦わら帽子、見れば見る程、変な格好である。

 

「彼は"ムギガタナ"と言って、」

「シルクちゃんの彼氏♪」

「そうそう……って、勝手なこと言うなぁっ!!」

「ぶふぇっ!」

 

 メロリン状態のムギガタナをノリ良く張り飛ばすと、シルクは「医者の患者(クランケ)よ」と素早く訂正した。

 

「昨日、私が海岸で"拾った"の」

「"拾った"って……、とうとう、お前も変なモノを拾っちまったなぁ」

 

 シルクの宝拾い癖を知る男主人が意地悪く笑った。

 

「……死体を"拾った"アンタに言われたくないっての」

 

 こちらも意地悪く返してやりながら、宝拾いで死体を拾って以来、スパッと宝拾いから手を引いた鍛冶屋の主人に、シルクは、べぇっ、と舌を出してやった。

 

(……だが、アレじゃあ、死体の方がマシかもな。)

 

 随分と変な奴を連れてきたな、と壁に激突した男を見ながら、男主人は密かにそう思っていた。

 

「ところで、」

 

 シルクが用件を告げた。

 

「彼が持っている刀を見て欲しいの」

「かたなぁ?」

 

 アイツの? と怪訝がる男主人に、シルクが頷いた。

 

「そっ、刀。ムギガタナ! 鍛冶に出すから、おっちゃんに刀を渡して」

 

 シルクが手招きすると、犬よろしく、「ハ~イ!」と男は瞬時に復活して寄って来た。

 

(ますます変な奴だ。こんな奴が持っている刀なんて、きっとロクでもない刀なのだろう)

 

 椅子に座ったままの男主人は警戒しながら、ムギガタナから白鞘の刀を受け取ろうとした……が。

 

「なぁ、患者(クランケ)さんよぉ」

 

 ゆっくりと深呼吸してから、男主人は言った。

 

「刀から、手ぇ放してくんねぇか」

 

 彼の言う通り、ムギガタナは男主人に刀を手渡しながらも、自分の手を放そうとはしていなかった。男主人が力任せに引っ張っても、ムギガタナは始終無言で、決して放そうとはしなかった。

 

(ムギガタナの刀に対する"執念"を忘れてた。)

 

 はぁ、と息を吐くと、シルクはムギガタナに言ってやった。

 

「ムギガタナ、刀から手を離してあげて」

「わっかりましたよ~、シッルクちゃん♪」

 

 女性至上主義の男が、レディーであるシルクの言うことに逆らう訳がない。何の未練もなく、ムギガタナはパッと手を離した。

 

「うげっ!」

 

 哀れなのは、男主人だ。先程まで引っ張っていたのに、ムギガタナがいきなり手を離したので、座っていた椅子ごと後ろへ横転してしまった。

 

(最高にふざけてやがる。)

 

 起き上がろうともせずに、男主人は聞こえてくるシルクを口説く男の声に怒りを覚えた。勢い良く打ち付けたせいか、後頭部と背中がジンジン痛む。

 

(……ったく、こんな刀の何処がいいんだか……)

 

 手に持った刀を鞘から軽く引き抜いてみた。持ち主はアホそのものだが、白塗鞘太刀拵の非常に良い刀だ。

 

(いや、待てよ。この特徴は……)

 

 男主人は目を皿のようにして、抜き身の刀を見た。

 

(もしや、もしかして、もしかすると、この刀……っ!?)

「おっちゃん、大丈夫?」

 

 シルクの心配げな声に、思考が刀から現実に戻った。

 

「お、おうよ」

 

 男主人は返事をすると、よいしょっと椅子を直し、座り直した。

 

「そういえば、ジョリーの患者(クランケ)と言ってたが、どっか身体(からだ)が悪いのか?」

 

 ムギガタナのことなのに、男主人は話題の本人と目を合わさないようにして、シルクに確認してみた。

 

「うん。この子、記憶喪失なの。何処から来たはおろか、刀や麦わら帽子のことも、自分の名前さえも思い出せないんだって。ちなみに、"ムギガタナ"ってのは私が仮に付けた名前よ」

(記憶喪失か。尚更、好都合だな。)

 

 シルクの説明に心の中でほくそ笑みながら、男主人は真剣そうに聞いていた。

 

「では、刀を見てみようか」

 

 そして、専門職ではあるが、更に専門職らしく、刀を半分まで引き抜き、ある程度、目を通すと、これ見よがしに溜め息を吐き、鞘にしまい込んだ。

 

「なに? 刀に何か欠点があったの?」

 

 その動作に目敏く気付いた少女に、さも残念そうに男主人は首を縦に振った。記憶喪失の男は怪訝な表情でこちらを見つめている。男主人は告げた。

 

「この刀はもう駄目だな。使えもんにならねぇ」

 

 鍛冶屋の主人の告白に、その場にいた二人は固まってしまった。

 

「そ、そんなっ……、まだこんなにきれいなのに?」

 

 いち早く驚愕から解けたシルクが訊くが、男主人の答えは「駄目だね」という"NO"だった。

 

「きれいなのは見た目だけさ。刃の中は、芯はボロボロで数回使っただけで、斬る衝撃に耐えきれなくなって折れちまう」

 

 非常に残念そうに言う男主人の説明に、シルクは肩を落とした。ムギガタナは……というと、俯いているせいか、前髪が顔を隠してしまい、表情が分からなかった。

 

「ムギガタナ……と言ったか。お前さん、剣士だろう?」

 

 ムギガタナがうんともすんとも言わないので、勝手に"肯定"と受け取った主人は言葉を続けた。

 

「お前さんの使えない刀は儂が貰おう。その代わり、他の刀をやるよ。どうだ? 良い案だろ?」

 

 男主人が親切な(?)提案をするが、さっきまでうるさかったのが嘘のように、ムギガタナは黙ったままだった。

 

「ムギガタナ……」

 

 シルクが声を掛けても、何の反応もしないムギガタナ。なぜ持っていたのかは知らないが、白鞘の刀が使えないモノだと、記憶喪失の男は宣告されてしまった。

 

 さて、ムギガタナは、その事実に、一体、どう思ったのだろうか? そして、男主人の提案に乗ってしまうのだろうか? それとも……?

 

 

 

「そういや、その拾い"者"さんは大丈夫なのかい?」

 

 ところかわって、本屋では。

 海軍のあまりもの横暴な態度に憤慨していたジョリーの気を反らすため、本屋の女主人はそんなことを尋ねてきた。

 

「あ、……ああ。まぁね」

 

 急な質問に、ジョリーは吃(ども)りながら答える。海軍から患者(クランケ)に、医者の思考の焦点がずれた。そのまま、女主人は質問を続ける。

 

「嵐に巻き込まれたってんだから、かなりの大怪我を負ってるんだろう?」

「いや。運が良かったのか、しぶとかったのかは知らねぇが、そんなに大怪我はしてねぇよ」

 

 記憶を失っている、ということは伏せておいた。彼女を信頼してないという訳はないのだが、なにせ患者(クランケ)のプライベートなことだ。医者である限り、患者(クランケ)のプライバシーを無視して、秘密を暴露してはいけない。

 

 それに、記憶がないということは、真っ白な状態ということだ。医者ですら、患者(クランケ)の情報を把握していないというのに、この噂が広まって、悪戯心を持つ奴から嘘を吹き込まれでもしたら、たまったものではない。例え、噂が伝って、正しい情報が入ってきたとしても、真実を知る者は誰もいないのだから、その情報の真偽のしようもない。迂闊に情報を教えると、"あんな"患者(クランケ)でもパニックに陥るだろう。それだけは避けたかった。

 

(そーいや、)

 

 ふと、ジョリーは思い出した。

 

(シルクにアイツの記憶喪失のことを言わないよう注意すんの忘れてた。)

 

 だが、シルクは医"師"の娘。彼女自身でも「医"師"の娘よ」と豪語していたのだから、多分、大丈夫だろう。

 そんな訳で、今回は海軍を頼ったのだ。世界的なネットワークを持つ海軍なら、正解度の高い情報を仕入れてくれるだろう、と。

 

(なのに、アイツらと来たら……っ!)

 

 自分の利益しか考えない、役立たずもいいところの単なる烏合の衆だったのだ。

 

(かーっ、ムカツク!! あんな奴等ばっかりだから、一昔前のおれらにも敵わなかったんだよ……って、ありゃあ、おれと"あの人"が強すぎただけか)

 

 思考の焦点が再び"海軍"、あるいは"過去"に移動しつつあるジョリーに、女主人は違う話題を持ち掛けた。

 

「ところで、"コレ"を見に来たんじゃないのかい?」

「コレ?」

 

 女主人の持っていた本を目にした途端、思わず、ジョリーは叫んでいた。

 

「月刊・ぶキング!!!」

 

 それは、彼が本屋を寄る一番の理由となった月刊誌だった。女主人から渡されると、医者は先程まで頭の中を占めていた"海軍"やら"過去"のことは、一気に何処かへとぶっ飛んでしまった。

 

「アンタ、やっぱり変わってるよ」

 

 まるで子供のように、様々な武器を紹介する月刊誌に見入る三十路近くの医者に、女主人がカウンターに頬杖をしながら言った。

 

「医者の癖に、海賊やら武器、特に"刀"や"剣士"に興味があるなんて。そんなに、それが発売されるのを待ち望んでいたのかい?」

「あったりめぇよ! 月に一度のお楽しみってね。すっげー読みたかったんだよなぁ~♪ おっ、今月号は特集か!」

 

 最初は喜々として読んでいた医者だったが、ある記事を見た瞬間、急に真面目な顔になった。いや、表情の動きが止まったのだ。不審がった女主人が声を掛ける前に、ジョリーは雑誌を彼女に押しつけ、「あの野郎……っ!」と独り言を言うと、本屋から飛び出して行ってしまった。

 

「ジョリー! 一体、どうしたんだい!?」

 

 慌てて女主人が本屋から出るが、ジョリーの背中姿さえも見えなかった。一人、首を傾げる彼女の手に残された"月刊・ぶキング"の表紙には大見だしで、『今月は刀の"大業物"特集!!!』と色濃く印刷されていた。

 

 

 

 鍛冶屋の主人が白柄の刀を鞘から引き抜いたときから、ムギガタナは違和感がしていた。男主人が半分しか抜かなかったのに、一度も自分は抜刀したことがないのに、ムギガタナは刃の全形を鍔(つば)から切っ先までを、ありありと脳裏に思い描けた。そして、刀が引き抜かれた一瞬、室内の明かりに反射したのを見て、違う、と思った。

 

 "アレ"は、もっと違う反射の仕方をするのだ。室内のような狭い空間ではなく、外の、青く晴れた大空の、全方向から与えられる光に乱反射し、存在を誇示する刀身。迷いなく、天を目指して掲げられる――。

 

「……ムギガタナ?」

 

 自分を呼ぶ少女の声が聞こえてきて、ハッとする。刀の反射する光を見てから、気が随分と散ってしまったようだ。

 

「えっ……と、なんだっけ?」

 

 聞いていなかったことを誤魔化(ごまか)したくて、ムギガタナが曖昧な笑みと一緒にとぼけたように言うと、少女は、はぁ、と息を吐(つ)いた。

 

「あのね……」

「まぁ、お前さん、聞いてくれ」

 

 シルクの台詞の途中から割り込む男主人に、ムギガタナは「野郎はお呼びじゃねぇんだよ」と対男性用の口調で言って、相手を黙らせると「……で、シルクちゃん。なんだ~い?」と対女性(レディー)用で少女に尋ね掛け、彼女の台詞の続きを待った。はっきりくっきりとした"女尊男卑"に呆れながらも、真実を伝えることに躊躇(ちゅうちょ)を感じながらも、シルクは覚悟を決め、告白することにした。

 

「貴方の刀、もう使えないんだって」

 

 少女の告白に、ムギガタナは、ただ「へっ!?」と言っただけだった。

 

(あまりの唐突なことに、思考がついていけないのかしら?)

 

 シルクがそう思っていると、隙を見つけた男主人が会話に割り込んで来た。

 

「そんな訳で、その刀はもうスクラップ同然の廃刀ってことだ。でも、お前さんは剣士なんだろ? この刀の代わりに、もっと良い刀をやるよ」

「"代わりに"?」

 

 気になった言葉をムギガタナが重複する。

 

「ああ、そうだ」

 

 商業用の笑顔を全開にして、男主人は告げた。

 

「この刀は儂が処分するから、これを儂が貰う"代わりに"別の刀を、」

「断る!」

 

 男主人に最後まで言わせずに、記憶喪失の男は叫ぶようにして即決していた。そして、あっと言う間もなく、刀を男主人の手から取り上げると「刀は渡さないっ!!!」ともう一度、自分の旨を伝えた。

 

「でも、ムギガタナ」

 

 急変した男の態度に驚きながらも、シルクは努めて冷静に進言した。

 

「その刀はもう使えな――」

「断る!」

 

 敬(うやま)うべき女性(レディー)が言ったのに、同じ言葉でムギガタナは反抗した。興奮する彼を落ち着かせようと、手を伸ばそうとしたシルクだったが、刀を両腕で守るようにして抱き締める男の肩が小刻みに震えているのに気付いた瞬間、自らの指図もないのに、少女の手は引っ込んでしまっていた。いきなり変わった男の態度に、男主人も少なからず戸惑っているようだった。そして、当事者たるムギガタナ自身は体中の血液が沸騰するような気分に陥っていた。

 

(あの刀は、本当は誰にも触れさせたくなかった。だが、鍛冶屋なら仕方ないかと思っていたのに、野郎はおれにそれを"手放せ"と言う。おれの身体を流れる全ての血が一気に煮え立ったような気持ちだ。刀が使えようが、使えまいが、はっきり言って、どうでも良い。この怒りには、理由も理屈もない! そんなものは、自分ですら分からない。本当に感覚だけだ。餓鬼の我が儘〔ワガママ〕と思われても、構わない。だが、ただひとつだけ言える。刀は渡さない! 例え、どんな理由があろうと、絶対に!!)

 

 怒りのあまり、ムギガタナの肩が震える。視界も揺らぐ。何処に立っているのかさえ、忘れそうになる。でも、腕に抱き抱えた刀の感覚だけは決して忘れはしない!

 

 強く睨み向けるムギガタナに、男主人は叫びそうになるのを必死に耐えていた。それでも、視線を真面(まとも)に受け止められないまま、もう一回、男主人は交渉してみることにした。

 

「け、けどな。その刀は、も、もう使えないんだぞ。そん、な刀を持っても仕方ないから、儂に譲(ゆず)って、」

「っるせぇ!!!」

「ヒィッ!!」

 

 ムギガタナのその声に、男主人はとうとう叫び声をあげてしまった。激情する前の彼と、後の彼とのギャップが、あまりにもありすぎる。シルクも目を見開いたまま、肩を竦(すく)みあげていた。

 

「誰が何と言おうと、刀は渡さねぇっ! これは、この刀は……っ!!」

 

 有(あ)りっ丈(たけ)の意志を込め、ムギガタナは主張した。これ以上は肩が震えて、上手く声に出せない。

 

「こ、この刀は?」

 

 それは、男の気迫に押されながらも、蚊が鳴くような声でシルクが尋ねたときだった。

 

「ムぅギぃグヮぁツァぁヌァぁあああーーーっ!!!!(訳:ムギガタナ)」

 

 ドアが開く音がかき消されるぐらいの大音量で叫びながら、白衣を着た青髪の男性が鍛冶屋に飛び込んで来た。

 

「い、医者ぁ……っ!?」

 

 シルクが素頓狂(すっとんきょう)な声を出す。突然の来訪者に、三人全員の時間が打ち砕かれてしまった。少女が呼ぶのにも構わず、医者ことジョリーはズカズカ歩を進めると、店に入っときから目に止めていたムギガタナの刀を、彼が声をあげる間もなく取り上げ、すぐさま鞘から引き抜きいて「……やっぱりな」と呟いた。

 

「か、返しやがれっ!!」

 

 時間を取り戻したムギガタナが胸倉を掴まんとばかりに、ジョリーに飛び掛かったが、医者はさらりと避け、「ほらよ」とその隙に刀を彼に返してやった。大切な刀を返してもらったムギガタナは唸りそうな勢いで、刀を両手で握り締め、ジョリーを睨み付けている。

 

「やっぱりな、って、何がなの?」

 

 ジョリーとムギガタナの刀を交互に見ながら、シルクが尋ねた。医者はそれに息を整えると、言った。

 

「コイツの刀、"和道一文字"だ」

 

 現物を見た興奮を押さえきれないジョリーの回答に、シルクとムギガタナはぽかんとした。二人の後ろにいる男主人は顔色を失い、だらだらと汗を流している。

 

「……それがどうかしたのかよ?」

 

 イマイチ、それが何を意味するか分からないムギガタナが訊いてきた。

 

「馬鹿野郎っ!」

 

 ジョリーの大声に、ムギガタナは自分の質問があまりにも軽率だったことに気付かされた。

 

「"和道一文字"だぞ!! 世界に二十一本しかない"大業物"の刀なんだぞ!!!」

「え……、コレ、そんな価値のある刀なの?」

 

 感情の高ぶりに任せたまま怒鳴り散らすジョリーに、シルクが刀を指差して尋ねた。

 

「ああ、しかも、ちょっとやそっとの価値じゃねぇ」

 

 気持ちを落ち着かせようとしながら、ジョリーは言った。

 

「一本一千万ベリーはくだらない名刀だ」

「一本、一千万ベリーっ!!??」

 

 衝撃の値段に、シルクとムギガタナは声を揃えて驚愕してしまった。

 

「で、でも! おっちゃんが言うには、この刀はもう使えないって……」

 

 シルクの発言に、ジョリーは首を傾げた。

 

「おかしいな。和道一文字は優れた切れ味と耐久性が特徴の刀で、海に一晩浸(つ)かっただけで駄目になるようなものじゃねぇと思うんだが……」

 

 一気に三人の視線が鍛冶屋の主人に集まった。その中心となった人物は、ひたすら冷や汗を流している。

 

「へぇ、一千万ベリーはくだらない名刀で"耐久性"が自慢ねぇ……」

 

 青筋を浮かべながら、ムギガタナはジリジリと男主人ににじり寄った。哀れ、男主人は声も出ない。刀を両手で握り締めたまま、ムギガタナは片足をカウンターに音を立てて乗せた。

 

「テんメェ……、おれが記憶喪失なのをイイことに、」

 

 ぐっと顔を近付けて、今、行われようとした犯罪をムギガタナはさらけ出した。

 

「刀、騙し取ろうとしただろ」

 

 怒鳴る訳でもなく、青筋を浮かべた顔で、低くドスが効いた声でムギガタナに言われて、男主人は声までも凍り付いてしまった。何があったんだ? と尋ねるジョリーに、シルクが簡単に今までのことを説明する。

 

「……なるほど。刀の知識がないことに、嘘を吹き込み、刀を奪おうとした訳か……ってか、シルク、記憶喪失のことを話すんじゃねぇよ」

「ごめんね、医者」

 

 ムギガタナの背後では、医者とシルクがほそぼそと話し合っている。肯とも否とも言わない男主人に、ムギガタナはイキり立った。

 

「……で、どうなんだっ!?」

「はいぃぃぃっ、そうです!! 記憶喪失なことはイイことに騙しとろうとしましたぁ! とても本当に誠に申し訳ございませんでしたっ!!」

 

 声を荒げたムギガタナに、可笑(おか)しな敬語を使いながら、男主人はカウンターに拳どころか、額(ひたい)まで付けて観念した。

 

「じゃあ、刀は……」

「全然、大丈夫でございます! 少し手入れをすれば良いだけで、全く問題がございません!!」

 

 シルクの問い掛けに、男主人は頭を下げたままで返事した。

 

「良かったね、ムギガタナ! 刀、大丈夫だって」

「あ……、ああ」

 

 シルクが話し掛けたことで、多少、ムギガタナの怒りが薄らいだ。だが、だからと言って、許した訳ではない。

 

「でも、どーする? シロツメ島に鍛冶屋は此所にしかないんだけど」

 

 少女の言葉に、う~んと唸っていたムギガタナだったが、良い案を思い付いたのか、いたずら小僧のようにニヤリと笑った。

 

「なぁ、クソ主人。おれからも"良い提案"があるぜ」

 

 自分の唇に二本、人差し指と中指を添えながら、ムギガタナは言ったが、その格好が変だと思ったのか、手を元に戻すと続きを告げた。

 

「この事がバレちまうと、店の品位に関わるよな」

 

 コクコクと頷く主人に、ムギガタナは再び先程と同じ指を口許(くちもと)に添えようとしていた。手を慌てて下ろしたが、どうやら、コレは癖らしい。

 

「まぁ、未遂だから、黙っててやる。その代わり……」

 

 男は意地の悪い笑みを浮かべながら、"脅迫"した。

 

「無料(タダ)で刀を鍛冶しやがれ」

 

 その等価交換に、男主人が口答えする。

 

「そ、そんな……、それはあまりにも、」

「なら、別に構わないんだぜ」

 

 あっさりとムギガタナは答えると、カウンターの上に乗せていた足を下ろし、五歩ぐらい下がって、小声で開きっ放しのドアに向かって言った。

 

「街の皆さーん、実はこの鍛冶屋の主人、ぺてん師……」

「うぎぃやぁぁああっ!!!」

 

 鍛冶屋の主人はムギガタナのセリフをかき消すぐらいの奇声を発しながら、マッハを思わせる程の猛スピードでカウンターを乗り越え、ドアを慌てて閉めた。

 

「無料(タダ)です! 無料(タダ)にします!! ……ってか、無料(タダ)にさせて下さい!!!」

 

 土下座して頼み込む男主人は「交渉成立だな」と言って、ムギガタナはニヤッと笑った。

 

 カウンターに戻った男主人に刀を改めて渡し、「もし、これで盗んだら、捻り潰してやる」とムギガタナが脅しかける頃には、男主人は泣きそうな面(ツラ)をしていた。

 

「……つぅか、テメェな」

 

 加えて、鍛冶屋の主人を見ながら、記憶喪失の男は言った。

 

「どうせ、嘘を付くなら、"アイツ"のような、もっと上手で面白い、楽しい嘘をつきやがれ」

 

 フンッ、と叱るように言ったムギガタナの台詞に、全員の時間が制止した。ジョリーとシルクと男主人が言った。

 

「"アイツ"って、誰だ?」

「そりゃあ、"アイツ"ってのは……、あ、れ?」

 

 途中まで、すらすらと答えそうだったムギガタナの言葉が途切れた。次の瞬間、頭の中の硝子(ガラス)をぶち破られるような衝撃と痛みが、ムギガタナを襲った。

 

「クソッ……、頭がいてぇ……」

 

 そうぼやいたかと思うと、ムギガタナはその場に座り込んでしまった。急なことに、初めて見た男主人も、二度目の医者と少女も、その場にいた全員が慌てた。

 

「おいっ、ムギガタナ!」

 

 ジョリーの声にも、男は頭を抱えたまま、反応しない。

 

「ねぇっ、大丈夫?」

 

 そう言って近付くシルクを見て、ジョリーは何故か、(あ、デジャヴ)と思った。愛する女性(レディー)から差し伸べられた手、それを女好きの男が掴まない訳がない。

 

「Ma mademoiselle(マ マドモアゼル/仏訳:私のレディー)、もっちろんでさぁ~♪」

 

 そう言ってあげた顔は、例のメロリン状態の顔で。シルクは、フッと笑うと、迷うこと無く、記憶喪失の男を蹴り飛ばしてやった。

 

「ほげっ!!」

 

 そんな間抜けな声を出しながら、ムギガタナは壁に激突していった。

 

「馬鹿は死んでも治らないわね」

 

 そう呟くシルクを見て、今朝行われた光景とほぼ変わらねぇなぁ、とジョリーは呑気に感じていた。

 

「馬鹿だな」

 

 一部始終を見た男主人が言った言葉に「お前もな」と、医者が小さく囁いた。騙そうとしたことを暗にジョリーに指摘されて、男主人は口惜しく思った。

 

(元はと言えば、ジョリーのせいだ。)

 

 鞘から引き抜いて、刀を黙々と調査をしつつ、男主人は思った。この医者が"和道一文字"だとバラしてしまったから、無料(タダ)で鍛冶をする羽目になってしまったのだ、と。

 

「でも、医者が刀の鑑定をしたおかげで詐欺されずに済んだし、たまには、アンタの変な趣味も役には立つのね」

「"変な"とはなんだ。"変な"とは」

「"青汁"でも、ものの役には立つんだな」

「おれがいなかったら、騙されていたのに、なんだ、その言い方は。……ってか、"青汁"はやめろ」

「……あれ? ムギガタナ、もう復活したの?」

「シルクちゃんへの愛のチカラで復活しました♪」

「あ、そう」

 

 "愛"のチカラとやらで猛スピードで蘇ったムギガタナを交(まじ)え、少女、医者、患者(クランケ)で、三者三様に話す光景を見ながら、男主人は医者に仕返しを考え(残念ながら、本人は逆ギレとは気付いてない)、そして、思い付いた。

 

「そーいや、お前さんたち、刀についての知識はあるのかい?」

 

 預けられた刀をチャキンと鞘に納めながら、急に男主人が尋ねてきた。

 

「あ゙あ゙?」

「ひっ!?」

 

 ギロリと睨み付けるムギガタナにビビりながらも、男主人は誰かが話題の乗ってくるのを待った。

 

「刀の知識? ん~、ないわね。それがどうかしたの?」

 

 よっしゃ! シルクが乗ってきた、と店主は心の中でガッツポーズをする。

 

「一度目は躱(かわ)せても、また騙されたりしたら大変だからな、少しぐらいは教えてやろうと思ってな」

「たった今、騙そうとしていた奴が何を……」

「刀には全部で五種類あるんだ」

 

 呆れたムギガタナが口を挟む前に、男主人は説明をし始めた。

 

「下のレベルからあげていくと、まずは普通の刀。次に"業物(わざもの)"、その"業物"の上が世界に五十本しかない"良業物"」

 

 一つ一つ指折りで男は説明していく。

 

「更にその上が世界に二十一本しかない"大業物"。コイツがお前さんの刀の種類だ。一本、一千万ベリーはくだらねぇ」

 

 男主人の四本目の指が曲がる。ムギガタナは無意識の内に拳を強く握り締めていた。

 

「最高なのが"最上大業物"と言われ、世界に十二本しかない代物(しろもの)だ」

 

 五本目の指を曲げ、男主人は一通り説明すると、「ところが、だ」と本題に入り始めた。

 

「本当はもう一つ、刀には種類があるんだよ。」

「もう一種類?」

 

 シルクとムギガタナが同時に尋ねる。このときになると、シルクだけではなく、ムギガタナまでもが興味を引かれていた。だが、ジョリーだけが糸のようにピンと張り詰めた空気を周りに纏っている。そんな医者の様子を横目で確認しながら、男主人は話を続けた。

 

「その名も"裏業物"」

「裏……業物?」

 

 その言葉を繰り返すムギガタナの横では、ジョリーが苦虫を噛み潰したような表情をしている。心の内でニタリと笑いながら、外では何もないようにして、男主人は説明を続けた。

 

「別名を"準業物"。普通の刀よりか性能は良いが、"業物"よりかは性能の劣る刀の通称だ。しかし、時たま、"業物"、"良業物"、いや、"大業物"を超える程の刀までもが"裏業物"とされていることもある。しかも、売っても、買っても、値段は二束三文、タダ同然の値段だ」

「そんな良い刀が、どうして……?」

 

 シルクの疑問に、男主人は答えた。

 

「変な"いわく"があるからさ」

「変な"いわく"って……、妖刀とか?」

 

 そんなシルクの回答に「まさか。妖刀として名高い"鬼徹"シリーズですら、"業物"、"大業物"、"最上大業物"に名前を連(つら)ねているというのに?」と言って男主人は否定した。

 

「じゃあ、どんな"いわく"なんだよ?」

 

 機嫌をやや損ねながらも尋ねるムギガタナの隣りでは、更に機嫌を損ねている男性がいた。

 

(イイ気味だ)

 

 そう思いながら、男主人はムギガタナに答えた。

 

「持ち主の沽券(こけん/意味:プライド)に関わる"いわく"さ」

 

 紳士ぶりながらも、心内は黒い男主人が分かりやすい説明をし始めた。

 

「チキン野郎(意味:臆病者)が持っていたとか、底無しに弱い奴が持っていたとか、変態野郎が打ったとか……、"裏業物"には刀を持つ奴にとっては、そんな風な、とんでもない"いわく"があるのさ。だから、誰も買おうともしない。二束三文の安い刀な訳なんだよ」

「それだけの理由で?」

 

 理解出来ないわ、とシルクがぼやくと、「甘いな、シルク」と男主人は言った。

 

「剣士ってなは、プライドで構成された生き物だ。自分のプライドを傷付けるような刀を持つ訳がないのさ。……そうだろ、ジョリー?」

 

 男主人の呼び掛けに、シルクとムギガタナは医者を見た。当の本人はいうと、眉間に皺を寄せたまま、黙り込んでいただけだった。

 

「……って、"剣士"じゃなくて、"医者"であるお前さんに分かる訳ないか」

 

 その台詞に、シルクとムギガタナは男主人に視線を戻した。

 

「そういえば、そういう"いわく"付きではあるが、"裏業物"の中でも名刀の部類に入るものがあったな」

 

 男主人は微かにニッと笑った。

 

「確か、その刀の名は"な――」

「おい、刀のチェックは終わったのかよ」

 

 男主人の説明に被(かぶ)さるように発言したのは、医者のジョリーだった。

 

「なんだ、いきなり話の腰を折る真似をしよって」

「おれの問いに先に答えろ。それに、こんな話を続けてたら、お前がいつまでも鍛冶を始めねぇだろ」

 

 腕組みをして、ジョリーが冷たく言い放つ。彼の眼光もまた、それに相応(ふさわ)しいものだった。

 

「だからと言って、」

「とっととしねぇと、お前が犯した詐欺未遂、街の人に話しちまうぞ」

 

 医者の脅しに、うっ! と男主人は返答に困ると「客が少(すく)ねぇからな、二時間もありゃ終わる」とブツブツと愚痴るように答えた。

 

「……という訳だ。二時間もこんな辛気臭いところで待ってられねぇから、シルク、終わるまでの間、ムギガタナに観光案内しとけ」

「う、うん」

 

 ジョリーのテキパキとした指示に、シルクが戸惑ったように返答したが、「じゃあ、シッルクちゃん! あんなクソ医者、放って置いて、二人っきりで参りましょう♪」と行く気満々のムギガタナに手を取られ、外へ出てしまっていた。

 

「ムギガタナ。ちなみに、おれも後からついていくからな」

「クソ医者、テメェはそこで一人で寝腐れて待っていやがれっ! ……それじゃあ、行っきましょ~、シッルクちゅわん♪」

 

 ジョリー(男)の言葉を聞く耳なしのムギガタナが吐いた暴言と共に鍛冶屋の扉は閉められ、男主人と医者の二人っきりになった。

 

「"裏業物"の説明をしたのは、おれへの"当て付け"のつもりか?」

 

 ジョリーが静かに怒りを湛えながら、尋ね掛けた。男主人はそれに、復讐は完了したと言わんばかりに、ニヤリと笑っただけだった。

 

「なぁ、ジョリーよぉ」

 

 脈絡もなく、男主人は喋りかけた。

 

「お前さん、売るつもりはないかい?」

「ハッ! "裏業物"は売れねぇって言ったのは、お前だぜ?」

 

 馬鹿言ってんじゃねぇよ、とジョリーが両腕を肩の高さまであげ、"やれやれ"のポーズを取った。

 

「確かにプライドで構成された"剣士"相手には売れねぇな」

 

男主人の言い方に、ジョリーの眉がひくりと動いた。

 

「世界には"裏業物"を集めているコレクターがいるんだよ。そいつらは高く買ってくれるそうだ。それに、ジョリー。お前さんは"剣士"を辞めたんだから、もう使うことはないだろ? だからよぉ、お前さんの刀を――」

「やだね」

 

 ぴしゃりとジョリーは断った。

 

「確かにおれは陸に上がった。もう、海の戦闘員じゃねぇ。けどな、剣士は死ぬまで"剣士"だ」

 

 サッと片手で眼鏡を外すと、漢(オトコ)は言った。

 

「"裏業物"だろうが何だろうが、その剣士が"魂"そのものである己の刀を手放す訳ないだろ」

 

 そう言うジョリーの瞳は"剣士"の持つ"兵(つわもの)の魂(こころ)"が宿っていた。

 

「あとな、"剣士"がプライドで構成されてんじゃねぇ。"漢(オトコ)"そのものがプライドで構成されてんだよ」

 

 緑色の四角いフレームの伊達眼鏡(だてめがね)を掛け直すと、ジョリーは男主人に背を向けた。それに合わせて、彼のポリシーである白衣の裾が翻(ひるがえ)る。

 

「……つぅか、テメェ。一体、何年、おれの刀を狙ってんだよ?」

「お前さんがこの島に来てからだから、ざっと八年だな」

「バーカ、真面目に答えてんじゃねぇよ」

 

 顔だけをそちらに向けながら、ジョリーはケラケラと笑った。

 

「次に来るときはおれの刀を持って来る。また鍛冶してくれ」

 

 騙さずにな、と付け加え、ジョリーはもう一度、笑った。

 

「言っとくが、儂はしつこいぞ」

 

 男主人の言葉を背中で聞きながら、ジョリーは振り返りもせずに、「知ってる」とだけ答え、ドアノブを捻った。

 

「けどな、あの刀は"あの人"から貰ったものだ。誰かに譲る訳(わき)ゃねぇだろ」

 

 その言葉だけを残し、扉が閉まった。一人残された主人は「お前さんなら、そう言うと思ったよ」と負け惜しみのように独りごちたのだった。

 

 

 

「いやぁ~、シルクちゃんとデートだなんて、おれは幸せ者だな♪」

 

 風が吹いたのか、ムギガタナの被らない麦わら帽子が静かにはためく。その隣りをシルクは黙り込んで歩いていた。

 

(この子の持つ刀が一千万ベリーねぇ)

 

 女好きが持つ刀にしては高級品すぎるわね、と信じられない気持ちでシルクは考えていた。

 

 最初に推理した通り、刀は価値のあるものだった。彼は、ムギガタナはそれすらも忘れていたというのに、刀が奪われる、と知った瞬間、人が変わったように急変した。確かに刀は価値があるものだったが、それが肩を震わすまでの怒りを呼ぶものだろうか?

 

(もしかして、思い出の品とか?)

 

 そんなこんなで考えて込んでいるシルクを余所(よそ)に、ムギガタナの話は止まらない。

 

「うっつくしいレディーと一緒にいられるおれは、至上最高のラッキー野郎だぜ♪ ……にしても、シルクちゃんとおれの恋路を邪魔する、あのクソ医者がいねぇとホント清々する」

「だ~れがクソ医者だって?」

「そりゃあ、言うまでもなく……って、テメェ、いつの間に!!??」

「あら、医者。遅かったわね」

 

 いつの間にか背後に回られていた医者に、二者相応の対応をする。

 

「ちっ。"青汁"は"青汁"らしく、そのまま、"蒸発"してくれれば良かったのによ」

「……ってか、消えるのはお前の方が先だろ。この馬鹿ムギ、馬鹿ゴメ、馬鹿タマゴ野郎が」

 

目線を合わさることなく始まった口喧嘩に、シルクは大きく溜め息を吐いた。

 

(そういえば、)

 

 二人に拳骨(ゲンコツ)を落としながら、シルクはふと思った。

 

(ムギガタナの言う"アイツ"とか、"あの方"というのは、一体、"どちら様"なのかしら?)

 

 頭を押さえ呻(うめ)く男二人を無視し、少女は再び考え込むのだった。

 

 

 

つづく

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