ドラゴンボール外伝~Z戦士たちが悟空と出会うまで~ 作:究極
プロローグ
薄暗い夜空に星々がうっすらと見える。そろそろ陽が上ってくる頃だ、なんて思いながら腕時計を一瞥する。
はるか彼方の水平線が光で揺らめいた。太陽がいつもと変わらずに顔を見せる。茶色い荒野を眩い陽光が包んだ。あの日の朝もこんな陽だったっけな。
陽の周りを靄が縁取って空に飾られた一つの絵画のように浮き出ている。
風が吹いてきた。羽織っていた黄色いスーツが風になびいた。男は突然の風にも古くから根付く大樹のようにまったく動じなかった。
風が止んだ。
ここ最近いつのまにかこの荒野にいることも多くなったような気がする。
楽しかったこと、苦しかったこと、悲しかったこと、嬉しかったこと。
まあ色々、紆余曲折あって今がある。
「あっ!ヤムチャさんじゃないですか!」
どこか懐かしい声が頭上から降ってきた。ふと顔を上げるとそこには額の灸の跡が特徴的な小男が笑いながら空中から降りてくる。ヤムチャと呼ばれた黄色いスーツの男はニヤッと笑った。二人はどうやら知り合いのようである。
「クリリンじゃないか!どうしてこんなところに?」
「俺はちょっと残業で。逃げた泥棒追いかけてたら朝までかかっちゃいまして」えへへと白い歯を出してクリリンは笑った。「ヤムチャさんこそどうしてここに?」
ヤムチャはすっかり明るくなった空を見上げながら、
「昔が懐かしくてな」
とそっと呟いた。「思い出の場所なんだよ。この荒野は」
「ここが、ですか?」
ごつごつした樹木のような岩が点在するだけのだだっ広い荒野を見渡しながらクリリンは不思議そうに言った。
「ああ。見たところは何にもありゃしないが、俺にとっちゃかけがえのない始まりの場所なんだぜ」
苦笑いしながらどこか嬉しそうにヤムチャは言った。
そうですか〜とクリリンは感嘆した。
「そういや。ヤムチャさんって昔は盗賊してたって悟空に聞きましたけどほんとですか?」
「ああそうさ。俺はこの荒野を根城にするハイエナ。ヤムチャってもんだ!ってな」
軽くポーズを決めてみる。ポーズも当時は気に入っていたが時が経つと価値観なんて大きく変わるものだ。見事なまでにダサさが際立つ。あの頃着ていた「樂」の文字が刻まれた服は今ではクローゼットの奥に眠っている。
ぷっと思わずクリリンは吹き出した。
「すいません。笑っちゃって」
「いいんだ。バカみたいだろ?好きなだけ笑ってくれ」
と静かに言った。ヤムチャは大きな傷の刻まれた左頬を照れくさそうに掻いた。
クリリンはよいしょっと腰を下ろすと胡坐をかいて
「教えてくれませんか。その思い出」
と好奇心の塊を目の奥一杯に輝かせながら言った。
まさかクリリンが自分の思い出話を聞こうとしてくれるなんて思わなかった。
ヤムチャは驚いた顔をして
「ガキの頃のてんでくだらない話だぜ。それでもいいのか?」
と確認した。
クリリンは表情変わらず頷いた。
「退屈だったら聞き流してくれていいからな。そんじゃあ、ある荒野で育ったお人好しな盗賊の話を一つ・・・・・