ドラゴンボール外伝~Z戦士たちが悟空と出会うまで~ 作:究極
あらすじ
ある荒野で一人、黄昏ていたヤムチャ。そこをたまたまクリリンが通りかかり、ひょんなことから昔話をすることになった…
1
耳を聾するような爆音をたててひとつのバイクが道を突き進んでいる。このバイク以外に道を走るものはひとつもない。
太陽がじりじりとアスファルトの道路を焼いている。
この体にまとわりつくような熱気のおかげで恐竜もさすがに参ってしまったようでどれも岩の陰でじっとしている。
バイクは忌々しい熱風をもろともしないで、一定速度で進んでいる。急いでる様子はあまりない。
錆びたチェーンに擦り傷のついた車体からかなり年期の入ったものであると窺える。
ヘルメットの中のドライバーの目がふとちらついた。
このドライバーはどうも営業マンのようだった。変なところにひっかけてある鞄の口から書類が何枚か覗いている。
彼は何かを発見したようでふっと急ブレーキをかけた。
止まってよく見ればそれは看板だった。
『この先西の都近道』
と汚い字で書かれた木の看板が立っているのだ。正確には倒れかけで立ってはいない。
たしかに奥に正道からひとつ道がそれているようである。それた道は舗装などされておらず、まっすぐ歪な岩が複数乱立する荒野に向かっている。
ドライバーは腕時計をじっと見つめると、「少し冒険してみるか」と口の中でつぶやいた。
このドライバーのことは「のんびり屋」とでも呼ぶことにしよう。
勿論、読者様好きな名前で呼んでもらったらいい。
のんびり屋はバイクのハンドルを握り直し、エンジンをふかすとまた風を切って走りはじめた。
少し行くと器用に例の横道にそれてみせた。
安定のしていないでこぼこ道を突っ切り、荒野に入る。正道より一層、空気には熱気がこもっているとはいえ、のんびり屋は軌道にのった運転に胸を下ろしたようで、暢気に都で流行っている歌を口ずさんでいる。
のんびり屋の心中は穏やかだった。
そんなのんびり屋な彼が少し離れた切り立った崖の上で何かが光ったことになんぞ気づくわけがなかった。
光っていた物体の正体は黒い双眼鏡だった。その双眼鏡を小柄な少年が崖の先ぎりぎりに寝そべって固く目に押し付け、熱心にそれを覗いているのである。
手は小刻みに震えている。
少年は暫く覗きながら「やっと来やがった」と嬉しそうに言って歯を見せてしししと笑った。
少年はゆっくりと顔を上げた。幼い顔立ちで乱れた金色の髪が金の瞳を秘めた目にかかっている。
少年は大きく振り返ると息を思いっきり吸って
「皆!カモだぜ」
少年は精一杯叫んだ。歓喜に満ちた表情はまさに喜色満面と言えよう。
その大声を聞いて地面に空いた穴から小さな白い頭がひとつ土竜のように飛び出した。
「…久しぶりのカモだな。目標は?ピータ」
白髪の少年が頭を掻きながら駆け寄ってきて興奮して立ち上がっている金髪の少年の隣に座った。金髪の少年の名はピータというらしい。
さらにひとつ返事をするように大きな欠伸も後ろから一緒に聞こえてきた。
「一名のみ。CC(カプセルコーポレーション)製の旧型バイクにのってる。あれもバラせば金になりそうだ」
またしししと不気味な笑い声を最後に添えてピータが報告する。目はとびきり輝いている。
「しかしまさかサラの作戦がうまくいくとはなあ」
さっきの大欠伸の主がそう言いながら、遅れて二人のもとに到着した。
うーんと背伸びをして体をほぐしている。こいつの髪は黒い。
男だらけなので全員髪の色が違うとはなんともわかりやすいものである。
「よく言うぜ。ヤムチャなんて何の案も出さなかったくせにな」
そう言って白髪は笑いとばした。白髪の彼の名前はサラであろう。
「なんだと!オレはだな…」
何か言いかけたが語彙力の無さなのか寝起きのせいなのか何も言い返せない、この何とも哀れな黒髪の少年がヤムチャである。
「いいから特攻はお前らの役目だろ。早く準備しな」
「…へーい」
サラとヤムチャが同時に返事をし、恥ずかしさからか同時に赤面した。
ピータが思わず吹き出すと二人は口喧嘩を始めた。勿論、またヤムチャが負けてしまうわけだが。何事も息ぴったりである。
仲がいいんだか、悪いんだか。
少なくとも三人は長い付き合いのようである。
結構時間が経っている感覚は三人もあった。
しかしあののんびり屋の定速運転とピータの素早い状況報告が相まって、仮にも豆粒ほどになって彼らの獲物は何も知らずに荒野をまだ見える範囲で走っているようだ。
「そしたら…ヤムチャ準備いいか?」
サラが腕と足をほぐしながらヤムチャに声をかける。
「いつでもオッケー!だぜ」
足の腱を伸ばしていたヤムチャが一息ついて答えた。運動の前は準備運動が大切である。
そんなやりとりをしているうちにピータがサラとヤムチャの後ろにこっそり立ち、
「よーし、お前ら張り切って行ってこ~い」
と言うと、すぐに二人の背中を崖の先から足で蹴っ飛ばした。げ!と短い悲鳴を空中で上げると二人の背中はみるみるうちに小さくなっていった。文字通りピータはサラとヤムチャを蹴落としたのである。
ピータが蹴る直前にあの不気味な笑い声を上げていたことを彼らは一生忘れることはないだろう。
それからピータの眼下で二つの砂煙がぽんっと起こった。すぐに煙は尾を引いて煙は真っ直ぐ荒野に直線を作った。時間が経つにつれてどんどん直線はバイクと距離を詰めていく。
ピータが思わず「相変わらず速えなあ」と一人言を漏らした。
宙を舞った砂が陽光に照らされてキラキラ光った。
砂塵を撒き散らす直線の正体はやはりサラとヤムチャだった。白髪で青い瞳のサラ、黒髪で黒い瞳のヤムチャ。どちらも七歳児ほどの体格で、足は裸足。肩を突き合わせて高速で競走でもしているかのように荒野を駆けている。
「まずどうすんだ?サラ」
走りながら前を向いたままのヤムチャが訊いた。
珍しいなと言わんばかりに
「へえ。おめえが作戦を訊いてくるとはな」
と感心してみせると、皮肉っぽく「何も考えずに機械的に暴れてたガキの頃とはもう違うんだな」と続けた。
「うるせいよ。でもわりと頼りにしてんだぜ」
サラはリーダータイプでいつもこの三人組を先導してきた。そのためヤムチャも絶対の信頼を置いているのだろう。
サラは改めて言われるとちょっと照れたようで
「てか訊かなくてもわかんだろ」
とぶっきらぼうに答えた
「また派手にやれ、か?」
「おう。あたぼうよ」
とすかさず答えるとサラは不意にスピードを上げた。負けじとヤムチャもフルスロットルでサラの背を負う。
二人はまた一段と加速した。ギアがまたひとつ外れたような勢いだ。
さすがにかののんびり屋も後方から上がる砂煙とそれに伴う轟音には嫌でも気づいた。しかし気づいた頃にはもう遅かった。
次の瞬間、二つの小さな影が飛び上がりドライバーにのしかかったのである。勿論、のんびり屋なドライバーに避けることのできる余裕も与えず。
それを見ていた崖の上のピータはうっすら笑みを浮かべ、
「記録7秒28。見事記録更新だね。ボクの蹴りが効いたかな?」
と静かに言って一分の躊躇も見せずに崖を飛び降りた。