ドラゴンボール外伝~Z戦士たちが悟空と出会うまで~   作:究極

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やっとだせた


敗因

「い…いない!?…」

言葉の節にも動揺が隠しきれない様子だった。さっきまでちゃんと目の前にいた人間が忽然と姿を消したのである。

 

気配もほとんど感じない。息を完璧に殺している。見事なもんだ。

 

だがあの僅かな気力で素早く長距離を移動したとは到底思えない。

かなり範囲は狭い。安易に移動せず周辺を虱潰しに探すか。

 

「おいおい。いくらすばしっこいとはいえガキ一匹捕まえられないとはねえ。フィラさんよ、腕が落ちたか?」

マジックはそう言ってひひひと笑う。

 

イラっとはくるが取り逃したのは自分の責任。

余裕綽綽とやっていたのがいけなかったと猛省する。敵外見だけで判断するべからずである。

 

…ここでガキ一人仕留めることができなければ一生の恥だ。絶対に仕留める。

 

「安心しろ…すぐに殺る…」

そういうとパチンッとフィラは指を鳴らした。

 

黒い大きな靄のような蠅の大群が密集して薄い板状になった。サーフボードのような感じである。

 

それにぽんっとフィラは飛び乗った。フィラの体重などものともしないようで非常に安定している。

 

「おっ!久しぶりにマジになるか。ひい。こわいこわい」

マジックがわざとらしく悲鳴を上げる。

あれは知っている。あれは「苍蝇板」という形態。フィラの切り札の一つで、超高速飛行をいとも簡単に行い、自由自在に空を駆けることができる。あれの追跡を逃れたものは今までに一人もいない。そう思うと大人気ないと言っちゃ大人気ない。

 

するとギラッとフィラは殺気だった目でマジックを睨んで、

「マジック…お前は手を出すなよ?…」

と釘を刺した。

 

そう言われると人はやりたくなるものだがマジックは

「言われなくても出さねえって。戦いはフェアじゃないとね。ほら早いとこ行った行った」

とここはせかした。

 

フィラの威圧に少々押されたのもたしかだが「久しぶりに本気のフィラが見れるのだ邪魔することもないだろう」という気持ちが先行していた。

ならいい…とぼさっと呟くとフィラは目を瞑り胸の前で腕を組んだ。神経を研ぎ澄ませ、空中で蠅とともに静止すると徐に口を開いた。

 

「おい…ガキ…かくれんぼらしく10秒待ってやる…それまでにどう逃げるかでも考えるこったな…」

放たれた言葉はそんなものだった。

 

10秒という時間。これは戦闘においては十分すぎる時間である。

 

フィラにとっては決して余裕から来る行動ではなく、一度頭の中を整理するために要する時間。敵に時間を与えるのも恐怖心を膨らませるのに効果的面である。

 

「10…」

…地形についてはおそらくこのあたりに住むあのガキの方が詳しいか…ガキの視点から物事を見る必要があるな。

 

「…8…7…」

隠れるなら左手に見えるまばらに岩が転がる岩石地帯か。

足跡もほとんどついていないため早急に逃げ込んだとするなら十中八九、左だろう。また小さな体型なぶん隠れやすい。

フリューゲらをあの一帯に送り込むのも策だがこれ以上皆がやられるのは避けるべきことである。

 

子どもだからと見くびるとさっきみたく足を掬われるが、現実的に考えればあの体力であの僅かな時間では左側にそれることくらいしかできないだろう。

またさっきのガキの目はいざとなったら左に逃げようと言わんばかりにちらちら動いていた。

この勝負勝ったな…左に重点的な攻撃をとる構えに間違いはない。

 

カウントダウンはついに3秒前に差し掛かった。

 

『ひゅんっ』

 

そのとき背後で風を切ったような音がした。そしてそのものがフィラの視界に入ったとき、瞬時に理解したのである。自分の盲点並びに愚かさを。

そのものは紛れもなくあの忌々しいガキ、サラだった。

 

「こいつで…本当に最後だ!…光芒拳!」

 

真っ直ぐ正確にフィラの胸目掛けて繰り出されたその拳は、またフィラをあの苦痛に陥れること…はなんとなかった。

 

フィラの咄嗟に取った怒涛の反撃によって飛び出した二つの手刀が、サラの拳がフィラに到達するよりも前にサラの首を捉えたのである。

フィラは刎ね飛ばそうと心中では念じていたものの突発的な攻撃は思ったより力が籠らなかった。

 

サラは空中で白目を剥いて力なく、空気が抜けたかのように落下していった。目下で小さな砂煙が立った。

 

なぜサラは苍蝇板の上のフィラの背後にいたのか。それは今となっては至極、明白である。

 

サラは高く高く跳んだのだ。フィラが耐えられざる痛みに目を伏せた一瞬の隙を突いて。ただ高く跳び落ちていって技を仕掛ける。単純明快な戦法とは言えど気づかれにくさを含む。だが身動きの取れない空中であるため見つかったときには確実に討たれるというリスクを孕んでいる。

ゆえにそんな一か八かな戦法であるからこそフィラの虚をつきかけた。

 

限られた気力を最大限に活用するために跳び上がったサラを見失ったフィラは左右の地形に固執し、とてもサラが遥か上空に飛び上がっていることは予測できなかったという寸法である。

 

フィラは組んでいた腕をゆるりと解くと苍蝇板も解けた。すたっと音小さく着地すると半身砂に埋まったサラを足から引っ張り上げる。

依然、白目を剥いたままサラの体は膠着している。

 

「哀れなガキよ…敗因を教えてやろうか?…」

サラは答えず宙ぶらりにされたまま一つも揺れも動きもしない。おまけに息もしていないように見える。だが気にせずフィラは続ける。

 

「…腕の長さだよ…お前の腕は吾輩よりわずかに短かった…よくも二度もこのフィラを欺いたな…ん?…」

相変わらず返事はなし。くそったれとフィラは舌打ちしてサラの足を掴んでいた手を離した。サラが音を立て転がった。

「とっくにくたばったか…」

胸糞が悪い。

勝ったのに勝った気がしないとはこのことである。あそこで二度目の『光芒拳』を受けていたら状況は変わったかもしれない。けれど奴は攻撃が当たろうと当たらまいと気力は完全に消え去っていたはずである。

 

つまり両者KOを狙っていた?

 

つくづく恐ろしいガキである。

 

「やっと勝てたなぁ。これで『黒い暗殺者』の名が傷つくこともないわけだ。いやあよかったね。ギリギリ勝てて」

マジックが冷やかした。返す言葉もなく、確かにギリギリである。ただ頭ごなしに煽るように聞こえてマジックの言葉はどこか真をついているのである。

 

若輩とばかり結局は侮ったばかり今、途轍もなく自責の念に駆られている。完璧主義、完全勝利を掲げるフィラにとってこの戦いは失態にも等しかった。

 

「ああ…さて気まぐれはお終いだ…すぐに帰還する…」

沈み濁った目を伏せながら言った。フィラが軽く黒いマントを翻すと蠅たちがわらわらと集まってフィラの体に纏わりついて止まった。

 

「だな。早いとこ帰ってこい。ボスがもうすぐおいでだ…」

マジックはそう言うと黙った。流れていたラジオがぷつっと切れたかのように最後までどうやっていたかはわからない遠隔での通信が途切れたらしい。

 

それを合図にフィラはゆっくり歩き出した。黒一色に覆われた体はあっという間に闇に溶け、あたりを静寂が包んでいった。

 

_____二分後…

遠くからエアバイクか何かのエンジン音が近づいてくるのが聞こえてきた。徐々に大きくなっている。

 

ぱっと光がさしたかと思うとゴーグルをかけた少年が闇の中から現れた。少年はサラを目視するとすぐにエアバイクを飛び降りて側に駆け寄った。

 

「おい!サラ!!」

そう呼びかけながら少年はサラを揺すった。少年はゴーグルを外してなおも揺すり続ける。よく見ればピータである。

ピータは手をサラの鼻の下に当てる。

 

「…まずいな。息してない」

焦った表情でピータは言った。




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