二年の春、俺は高校生活を振り返ってと言う作文を提出した。
しかしそれが国語の教員にとってはいい加減な内容に見えたらしく、職員室に呼び出されたと思ったら色々な過程を飛ばされ奉仕部と言う部活へと無理やり入部させられた。
部員は俺を除いて1人、同学年だが科が違い全くと言ってもいい程接点の無い女子生徒、雪ノ下 雪乃。
彼女は無理やり入部させられた俺などには全く興味を示さずに黙々と本を読んでいた。そんな彼女を顧問である平塚 静は咎めるも、そんな事は眼中に無い様で無視を貫いた。
平塚先生は頭を掻き毟り項垂れると、「しょうがない、あとは君達で何とかしてくれ私は私で仕事があって忙しいんだ」と言い残し職員室へと帰っていった。
その後、何とか話しかける事数分、ようやく彼女との会話に成功する。どうやらこの奉仕部は困った生徒に解決に至るまでの手助けをする部活らしい。このご時世、一体そんな部活の何処に需要があると言うのか、彼女曰く奉仕部に持ち込まれた相談事は一つもないらしい。
相談事が無い以上やる事が無いのでこうして本を読むなどをして時間を過ごし、建前でボランティア活動などをして今まで部を継続しているらしい。
「はあ」
なんて部活に入れやがったのかあの先公は…
先が見えない状況に思わず溜息が出る。入学式の前に交通事故に遭い一月程入院しクラスに馴染めなかった俺に現れたチャンスだと思ったが、どうやらこの状況はチャンスでは無く試練だったらしい。
まあ、でも良い暇つぶしにはなるだろう。彼女が俺に危害を加える事は無いだろうし俺も危害を加える気は無い、ならばこの教室で彼女同様本を読めば良いだけだ。幸い読書は嫌いじゃない、此処には持ち込まなければ誘惑が無いため勉強するにもちょうど良いだろう。
彼女との会話を終わらせ、ちょうど持ってきていた文庫本を開いた。
それからひと月の時間が経った。
これがドラマか何かであったならそれなりにイベントがある筈だが、俺達の間にはそんな浮ついた事は一切起こる事は無かった。俺は只々部室に入っては読書か勉強を繰り返し、彼女への交流を必要最低限に済ませ、帰宅するだけのお一人様生活を徹底して続けていた。
そのせいか、彼女の警戒も日に日に薄れていき、何するか分からない人から置物くらいにはクラスアップしたのだろうか、偶に話しかけてくる様になった。内容は当たり障りのない事や俺への罵倒が殆どで情報量で言ったら無いにも等しい。
そしてそんな生活もこの日を持って終了を迎えた。
「ねえ、比企谷君これを見て欲しいのだけえれども」
ある日の放課後、雪ノ下雪乃は本を読んでいる俺の元に一冊のメモ帳を差し出した。
「何だこれは?俺には只のメモ帳にしか見えないけど」
読んでいた本に栞を挟み、彼女の差し出したメモ帳を眺める。見た感じは普通の革製のカバーの掛けられたメモ帳で、少なくとも学生が使うには高い品物の様な高級感を感じる。
「ええそうよ、これがメモ帳と分かるあたり、あなたの頭にもちゃんと脳みそが入っている様ね」
彼女の十八番の一つの罵声を浴びせ満足したようで、手に持っていた手帳を俺に読めと言いたげに差し出した。
「何だこれは…ええっと」
手帳には書き手の性格なのか丁寧な字で几帳面にびっしりと細く文字が書き込まれていた。軽く眺めるが日付が入っている事からどうやら誰かの日記らしい。
「これお前の日記か?」
多分違うだろうが念の為確認する。
「違うわよ、あなた私が人に自分の日記を読ませる人だと思う?中身はちゃんと読んだのかしら、あなたの事だから読んではいないと思うけど黙って読みなさい」
1話せば2プラス罵声が飛んでくる彼女の言葉を受け止め、再び手帳に目を落とす。
内容はいたってシンプルで昨日発見されたバラバラ殺人事件の内容を犯人目線で描かれていた物だった。本来であれば誰かのイタズラだろうと吐き捨てたが、偶然にも俺はその事件を詳しく調べていたので分かる事がある。
この手帳に記されている内容には俺の知らない内容や状況が細く丁寧に記されていたのだ。内容を読めば読むほど俺の中で溜められていた事件の情報がこのメモ帳にかかれた情報と合わせられて、まるでパズルのピースが噛み合っていく様に一つに纏まっていく。もし、これが偽物なら途中の矛盾に気付き頭がこんがらがるだろう。
俺はドヤ顔で佇む彼女を無視しながら、本を読み進める。こんなに心が踊ったのはいつぶりだろうか?
入学式の前に何処かの家の飼っていたペットの犬を助ける為車に轢かれて以降、俺から物事の関心が失われ、この世界は灰色に染まった。ゲームをしても漫画、アニメを見てもかつての興奮は無く只々虚しさだけが残った。そのかわり凶悪事件や猟奇的殺人など生々しければ生々しいほど犯罪者の歪んだ何かが見えてくる様な、そんな人間性が垣間見える様な事象に興味を持つ様になった。
それからの俺はこうして何か人間の暗黒性が垣間見える事件があるたびに新聞を切り抜きスクラップ帳を作り、ニュース速報を徹底的にチェックし、偶に現場に観光ているのだ。全ての興味が失われ、その事にしか関心を得られなくなった俺の執着は妹の小町ですらドン引きする程だった。
手帳を読み進めると、記された内容は次の事件と続いていく。今度はまた違った事件が記され俺の知らない細事件の部が明かされていく。
この事件もニュースで話題になり先程の事件と合わせて連続猟奇的殺人事件と報道されている。遺体をバラバラにして、まるで何かを表現するかの様に遺体を操り作品に仕上げている。
そしてある事に気付き、手帳を読む手を止めた。
「気づいたようね、実はこの手帳を見ながらニュースを眺めるのが最近の私の楽しみだったのよ」
彼女は俺の動きが止まった事を見て何かに感づいたかの様に笑みを浮かべた。どうやら彼女と俺は根本的な部分での趣味嗜好が歪んでいる様だ。
目線を彼女から手帳へと戻す、世間で公表されているのは先程までの2件のみだが、この手帳にはまだ続きが書かれていた。つまり、まだ発見されていない事件が手付かずで残されている事になる。このページの先には俺の知らない犯人の記録が記されているのだ。
興奮のあまりてが震えるのが分かる、幸いこの教室には彼女しか居らず下校時間まではまだ時間もある。慌てずゆっくりとページをめくり、俺は未だ犯人しか触れていない領域へと踏み込んだ。
手帳に記されいる全ての内容を読み込み、それが達成された安堵感となぜ彼女は俺にこれを読ませたのかと言う疑問が心に残った。
「で、雪ノ下。俺にこれを読ませた理由は何だ?金か?金なら今持ち合わせがないから勘弁してくれ、それに事前に説明が無いから支払いの義務は無いと思うぜ。まあ俺の出来る範囲で協力出来る事なら付き合うが」
取り敢えず、金銭の要求の可能性を潰し彼女の要求と目的を聞く。出来れば俺の人生にマイナスになら無ければ良い事なら良いのだが。
「あら、随分と物分かりが良いのね、このメモ帳へ食いつきようから見てやはり私の目は間違って無かったわ。私の目的はたった一つよ」
ビシッと指を俺に突き出すと、彼女は小悪魔の様な笑みを浮かべながら話を続ける。どうやら彼女に俺の性質を見抜かれていた様で、内心悔しい気持ちと理解者が現れたのでないかと期待する。
「次の休みの日に、この3人目の被害者を探しに行くから貴方はそれに付き合ってちょうだい」
彼女から要求された内容は、俺には願っても無い事とだった。