It's not a joke to cry!   作:急須

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便利屋というものは本来、数々のマフィアや薬の売人、武器弾薬の密売人から人身売買の物騒な連中から危険な仕事を押し付けられるかなり厄介な立場にあった。

ダンテが偽名を用いてその荒波に揉まれると豪語した時には頭を抱えたものだ。

散々ダメだと言い含めても聴く耳を持たず、結局俺が年齢制限を設けることで折れた。

 

トニー・レッドグレイブは二年程前から快進撃を繰り広げ、四方八方に恨みを売りつけている。

彼のパワーバランスを無視した無茶苦茶な依頼の受け方もさる事ながら、本人がイカれている程に強いのだ。

己の持つ銃を依頼ごとにぶっ壊してくるのは彼がマシンガン並みのスピードで引き金を引いてしまうことが原因だとガンスミスが嘆いていた。

何百発という弾丸の雨を剣一本で防ぎきったなどという伝説もある。

 

そんなトニーの元には指名依頼と称した私怨たらたらな罠としか思えない依頼も結構な確率でくる。

今回もその類の依頼だったようで、トレードマークの赤いコートではなく野暮ったい真っ黒なコートを着たトニーがボビーの穴蔵にやってきた。

おそらく一張羅はダメにされてしまったのだろう。

割と頻繁にそうなることが多く、翌日には似たようなデザインの赤いコートを着ている。

無論、俺がきちんと仕立て直してやっているのである。

 

昔取った杵柄、いや女装させるために始めた服飾もなかなかの腕前になった。

仕事にしようだなんて思っちゃいないが、一々仕立てに行かせるより楽である。

出来上がるまでは俺が昔着ていた黒いコートを着せることになるが、ボビーの穴蔵では嫌がられるだろう。

何かとゲンを担ぐ奴が多いし。

 

Was it fun? Little boy.(楽しかったかい?坊や)

It was a lovely party.(ご機嫌なパーティーだった)

 

手に持っていたジン・トニックを奪われ、一口に煽られてしまった。

皮肉な口調とは裏腹に笑み一つ浮かべずトニーが隣に座った。

ご自慢の一張羅が仕立てて一週間も経たずにボロボロにされてしまったのだ、ご機嫌斜めにもなる。

 

「気に食わない仕事でも相棒に言われちゃあ受けに行かなきゃならんよなぁ。グルー、娘さん達は元気かい?」

「おかげさまでな。誕生日プレゼント、助かった。気に入ってたよ」

「職人なんでな。またご贔屓にどうぞ」

 

続いてトニーの相棒であるグルーが隣に腰掛けてきた。

二人で俺を挟む構えの時は大抵トニーの機嫌がすこぶる悪い時だ。

グルーが巻き込まれないように俺を盾にする。

そんなに気に入ってたのか、あのデザインのコート。

別になんの変哲も無い普通の赤いコートだったじゃないか。

 

「いつも通りデザインはお任せでいいな」

「…おう」

「気に入ってたなら前と同じ型も作れるが、どうする?」

「好きにしてくれ」

 

珍しい程に機嫌が悪い。

コート一つでここまでボヤくトニーはなかなか見ない。

確かに今回は記録更新レベルの速さでコートをお釈迦にしたが、元々ダメになると分かっていて作っているのだ。

服の一つや二つ、ボロにした程度で怒ったりはしない。

材料だって特別頑丈なものを使ってはいるが、人間界にあるものだけだ。

手に入りづらい物でもなかった。

 

「どうしたんだ。なにをそんなに思いつめている」

「…アンタ、自分の作品が壊されるの凄く嫌だろう」

「そら丹精込めて作ったもんが壊されりゃ誰だって悲鳴の一つでもあげたくなるだろうな。俺が作ったわけじゃないが、お前の背負ってる長剣が壊された日にゃあ号泣する」

 

俺の返答にトニーが顔を逸らした。

ヒビを入れたことすらないだろうが、乱暴に振り回している自覚はあったようだ。

しかし人の戦闘スタイルにとやかく言うつもりもないし、武器を気にして自分がヤられては武器の意味がない。

今のはただの嫌味である。

 

噛み合わない会話にグルーが隣から補足を入れてきた。

 

「シードの作品を壊しちまったこと、珍しく反省してるんだってよ。ほら、立て続けに三枚ボロ切れにして今日で四枚目だろ?」

「どれも一週間は持ってたじゃないか。トニーにすれば上出来だ」

「あんな頑丈なコート一週間でゴミ箱行きにしちまう方がおかしいって…」

 

感覚が鈍り始めているとしか思えない俺の発言にグルーが冷めた目を送ってくる。

俺の言い分は別に間違っていないと思うのだが。

無駄に噛み付いてくる狂犬のなんたらに喧嘩を売られ、依頼先でも銃口を向けられていればそうもなるだろう。

むしろコート一枚で済んでいるのは俺の作った作品が持ち主を守っている証拠に他ならない。

役目を終えた上で雑巾になったと言うのなら職人としては本望だ。

 

「物ってのはダメになるときゃダメになる」

「職人がそれでいいのか」

「いいモン作るのが職人。ぶっ壊すのが使い手だ。そこに役目を終えた証があるのなら文句はない。しかしまあ、毎度コートだけダメになるのも問題だ。もう少し頑丈に作ろう」

「あれ以上頑丈なコート?ただの皮だぜ?」

「グルー、客のニーズに応えるのが商売ってもんなのさ」

 

可愛い預かり子の為に一肌脱ぐのも悪くないだろう?

上機嫌にいつも持ち歩いているスケッチブックを取り出し、コートのデザインを描き上げていく。

隣から覗き込んだグルーが感心したようにデザインの内約を見て、今度俺にも作ってくれとそわそわし始めた。

 

物作りとはセンスの良さが肝になる。

数千年分、時代の知識と感性の発達がある俺はまあまあその時代にあったデザインを作るのに長けていた。

剣も銃もついつい意匠を凝らして装飾多目になってしまうのは最早趣味である。

もちろん重くならないように彫り物や塗装に限定しているけれど。

振り回す者と打ち抜かれる者を考えるステキな当店をどうぞご贔屓にってな。

 

Hey, Tony.(ほーら、トニー)今度のは前を開ける前提で作ろう。俺にしては控えめなデザインだ。機能性と頑丈さを重視する。明日の夕方には出来上がりだ」

「へー!相変わらずいいセンスしてるなぁ!」

 

いつの間にか現れた背の小さい小太りの男がトニーに見せたはずのスケッチブックを覗き込んでいる。

エンツォという最近売れっ子の仲介屋だ。

本人は仲介屋は副業で本業は情報屋だと宣っている。

俺が稀に世話になっている同じく仲介屋のモリソンの方が紳士的で俺は好きだが、トニーはよくエンツォから仕事をもらっているようだ。

 

「お前に着せるにはちとスレンダー過ぎだぜ、エンツォ。丈の長さも長すぎてドレスになっちまうな。Hue! Sweet little girl.(可愛いお嬢さん)

「そんなこと言っていいのか?シードのおっさん。アンタにいい仕事持ってきたのによぉ」

「こんな老いぼれに仕事持ち込むたぁお優しいガキがいたモンだ」

 

心底面倒臭そうにバーカウンターに肘をついた俺にエンツォは紙切れを渡してくる。

内容を見るまでもなくトニーの方に投げよこし、開いたままのスケッチブックに細かくデザインを描き込み始めた。

これは俺の"気が乗らない"合図である。

 

「おいおい!中身ぐらい見てくれよ!」

「残念。当店へのご依頼はトニー氏のコートをもちまして満杯となりました。またのご利用をお待ちしております」

「最近暇でニールの婆さんに弟子入りしたのに忙しいわけあるか!」

 

流石、情報屋を名乗っているだけあって得ている情報は多い。

ケラケラ笑う俺を他所にエンツォはトニーに縋り付いた。

鶴の一声ならぬトニーの一言で俺が依頼を受けるか否かが決まるのだ。

気が乗らない時は聞くかすら怪しいが、一応トニーがやれと言うのならやる時がある。

 

依頼の中身を見たトニーがどうでも良さそうにそっぽを向いた。

これは"どっちでもいい"時の合図である。

ガックリとうなだれたエンツォはトニーから離れ、俺の方に詰め寄ってきた。

一度噛み付いてくると絶対にはなれない。

肉を噛みちぎり尾を噛み合うウロボロス並みのしつこさだ。

 

「この依頼はおっさんにしか頼めねぇんだよ。アンタの本業だろ?」

「気に入った奴にしか俺の作品は売らねぇよ。どうせ俺への紹介料でも勝手にとってんだろう?俺が紹介すれば受けてくれるーとか御用聞きの真似事してな」

「うぐっ…」

「こりぁ図星だな」

 

安物のビールを煽りながらグルーが呆れたような声を出す。

何かと気難しい職人として名が上がるシードは武器の修繕はすれど新しい武器はなかなか作らない。

そのくせ店の中には業物がゴロゴロ転がっているものだから、強盗狙いでくるやつも昔は多かった。

武器職人ごときが戦えるわけがないと思ったのだろう。

 

悪魔の店に強盗など自殺行為にも程がある。

言わずもがな、襲ってきた命知らずは死なない程度にマリーの餌食になった。

殺さないのはトニーにグロッキーな場面を見せないためというのと、そいつのアジトに瀕死のお友達をプレゼントするためである。

お陰で今では襲撃者など殆どいない。

 

今回のように真面目に依頼してくる分には文句は無いが、作るか作らないかは俺が決める。

なんせ俺が作るものはこぞって"魔具"という物騒な肩書きがつくのだ。

最近は悪魔を宿さずにただの武器を作ることもあるがそれも数は少ない。

普通に作るはずがうっかり悪魔を宿して作り直しになってしまった時もある。

もう俺が魔具を作ってしまうのは本能なのだ。

 

「今回はご縁がなかったということで」

「そう言わずに作ってくれよ!今回のは武器じゃねぇんだ!アンタのアクセサリーを見て惚れ込んだって奴が彼女へのプロポーズに指輪を作って欲しいって!いい話じゃねぇか!」

「どこの誰がナニしようが知ったこっちゃない。それになんだこの金額。ウチの店はこんな端金で依頼なんか受けん」

 

金額は凡そ十万ドル。

その辺のサラリーマンが容易に出せる額ではない。

そこそこの成金か金持ちの坊ちゃんが依頼してきたのだろう。

俺の作品は一切銘が入っていないにも関わらず、デザインで判別してくる。

名こそ不明のままだが植物をモチーフにした独特の風味に、いくつかの都市伝説ができていた。

 

因みにグルーの娘に作った誕生日プレゼントは人間用の普通のもので、売れば最低額五十万ドルは保証できるほどの値打ちがつく代物だ。

トニーが世話になっている分感謝の気持ちを込めて五ドルで受けた依頼だが、全身全霊を込めて作り上げた力作である。

もし金に困った時に売ってもいいし、彼女に子供ができた時に形見にしてもいい。

素敵な娘の彼女へ、少しでも力になれるものをプレゼントしたつもりだ。

 

「グルーの時はタダ同然で受けてたじゃねぇか!数十万ドルは下らねぇ値打ちもんだったのに!」

「俺はあの子(ジェシカ)に美味しいドリアを作ってもらったんでな。その礼さ」

「下手くそなドリアの礼にしちゃあ豪勢だな」

「なんせ"気に入った"んでね」

 

下手くそだとにやけるトニーに口角を上げて笑いかえす。

あれはあれでアジがあってよかっただろうよ。

ウチの店の標準価格を知らないグルーが俺達の会話に目を白黒させている。

ケラケラ笑う俺のシャツを掴んで、おもしろいほど真っ青な顔で悲鳴をあげた。

 

「アンタそんなに有名な職人だったのか!?」

「"有名"じゃないさ。なんせ名前を彫ったことが一度もない」

「なんだ、グルー。知らなかったのか。シードは修繕は適正価格、武器は気に入った奴以外吹っかけて作らずじまい、アクセサリーやら服はお気に入りにプレゼントって商売する気のねぇスタンスだぜ」

「トニー、馬鹿言っちゃいけねぇ。シードの作るもんは惚れ込んだ連中が何百万ドルでも出して買いたがる。金のなる木さ」

「ほー?エンツォ、それがお前の本心だな」

「あっやっべ」

 

珍しく失言したエンツォがそそくさと退散していく。

全く調子のいい奴め。

ここに書いてある十万ドルもどうせ依頼された時の金額からいくらか仲介料としてガメてるだろう。

無茶なほど引き抜く奴じゃないが、ちゃっかりしている。

 

「まあそういうことで、この間のは俺からのプレゼントでもあるんだ。トニーも世話になってる。本当は五ドルですら返すつもりだった」

「…怖くて娘に持たせらんねぇよ」

「持ちたくなきゃオークションにでも出しな。あの娘っ子のために金使うってんなら大歓迎だ。そのための"金券"なんでな」

 

俺は何かを作る時に必ず役目を決める。

コートなら怪我をさせないように、ブラッディマリーなら俺の半身、今回渡した誕生日プレゼントはいつか困った時に役に立つように、だ。

幼いトニーに与えてやれなかった家族のカケラを少しでも与えてくれたグルーには感謝しても仕切れない。

こんなことで少しでも役に立てるのなら俺は本望だ。

 

「これからもうちの子の相棒、よろしくな」

 

苦笑いを浮かべるグルーにトニーが面白げに笑う。

俺が突き出した拳には頼もしい父親の拳がぶつかった。

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