It's not a joke to cry!   作:急須

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Gilver

Looks like a newcomer has come?(新人が来たんだって?)

Come, tell me what it's all about. (ああ、それがどうした)

What kind of person was his lover?(そいつの武器はどんな子だった?)

 

工房の作業台から身を乗り出すようにダンテに問いただすと彼は苦笑いを零す。

三日ほど前の晩、ボビーの穴蔵に新人がやってきたらしい。

その新人はダンテとまともにやりあえるほどの実力者であり、腕が立つのだと噂が既に広まっている。

たまたま仕事で遠くまで出ていた俺の耳に入ったのはつい先程のことだった。

 

なんでもそいつの獲物が東洋に多い刀だと。

俺も一応刀を作れる職人だが、自分以外の作品はあまり見たことがなく、とても興味がある。

ぜひ参考にしたいものだ。

 

「なんの変哲も無い刀だよ。切れ味抜群の業物ってところ以外は。魔具でもなさそうだった」

「なるほど。一発殴りあったんだろう。勝負の決着は"いつもの"で決めたみたいだが」

「クジラもイチコロなボビー特製ウォッカ飲んで酔い潰れるのは毎度のことだ」

 

ボビーの穴蔵には毎回恒例の新人の歓待方法がある。

喉が焼け、目が霞むほど強いアルコール度数を誇る特製ウォッカの一気飲み対決である。

"Chug chug chug! Drink drink drink!"なんて声高に叫ぶ雰囲気に飲まれたが最後、真面目に殴り合った方が何倍もマシな勝負が始まる。

酔い潰れたら連中に身ぐるみ剥がされて翌日には素寒貧だ。

トニーも惜しい戦いを繰り広げたが、結局むしり取られて帰ってきた覚えがある。

 

「同じように刀を使う奴がいるって教えたら随分興味を示してた」

「両思いとは嬉しいこった。今晩にもデートに誘いに行くとしよう」

「悪食も程々にしろよ」

「俺は面食いなんだ。食指が動くかは顔を見てからだな」

包帯男(ミイラ)相手に面食いかよ」

 

噂では口と目、鼻の先以外は全て顔を包帯で覆っているらしい。

細身のスラットした体型に合わせた仕立てのスーツが実に似合うという。

細身で弱っちいなどという評価が出てこないのは彼の実力が本物だと証明されているからだ。

トニーとギルバがコンビを組めば依頼達成率はうなぎ登りだと誰かが言っていた。

 

「帯刀してあの酒場に行くのは初めてだ」

「アンタ、素手で今まで手加減してきたからな」

「素手でもタフな悪魔が武器なんか持っちゃあ人間が惨めで無様で愚かでかわいそうだろ?」

「御同輩はそう思ってなさそうだったけど」

「塵は塵、俺は俺だ。おいで、マリー」

 

塵芥から生まれる文字通りのクズ共と一緒にされて非常に不愉快だという顔を隠そうともせず、現れたマリーを腰に携える。

工具用のベルトからポーチを抜き去り、マリー用に作った金具に通す。

本来は東洋の民族衣装の帯なる部分に刺すものらしいが、ベルトに通るとも思えず別に固定部分を設けた。

朱鞘のマリーが美しく見えるよう、鈍く輝く金の金具である。

 

「さて、俺の奢りでストロベリーサンデーでも食いに行きますか」

 

歓喜するダンテとまたかと言いたげなマリーの声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

あいも変わらず怒号が飛び交うボビーの穴蔵に行けば、件の男らしい包帯男がバーカウンターにいた。

優雅に足を組みながら煽るはウィスキーだ。

チビチビと煽っている様子を見るに酒はさほど強くないらしい。

トニーと共に男を挟むようにしてドッカリと座れば、男は俺の彼女を一瞥した。

 

「よぉ、前に言ってたアンタと同じ刀使い、連れてきたぜ」

「Hi. 俺はシード。武器職人をしてる」

「ギルバだ。武器職人がわざわざここへ?」

「ここは酒場だ。酒を飲んで金を落としていく分には構わないだろ?」

 

包帯男改めギルバの獲物は確かに刀だった。

一目で見てわかる。

どの素材も全て人間界で手に入るものではない。

そしてこの男が放つ気配。

あまりにも薄いが、過去に感じたことのある匂いもある。

 

「アンタこそ、こんなところで便利屋するようなタマには見えないね。特にその刀。"コッチ"じゃあ見ることすらできないだろうなぁ」

「ほう。"やはり"分かるか」

 

なるほど。

"もうバレちまった"のか。

さてどう始末をつけるか。

まさかこんな回りくどいやり方をアイツがしてくるとは予想していなかった。

ずいぶん陰湿なやり方だ。

 

Hmm. Cute girl.(ふむ、可愛い子だ)レディのお相手(修繕)が出来るならタダでも構わないね。うちのマリーもご機嫌だ」

「それだけで構わないのかね?」

Shall we Dance?(ダンスがご希望で?)

 

まさに一触即発。

一分の隙もなくお互いを見据える瞳の先に殺意の炎が揺らめく。

ギルバが刀へ手をかけようとしたその刹那、パッと雰囲気を変え俺はにっこり笑った。

一瞬固まったギルバの前に、ドンッとグラスが置かれる。

 

「じゃあ一つダンスと行こう。運がいいな。今日は俺とトニーの勝負の日なんだ。君も混ざるといい」

「……?」

「ラッキーだな、ギルバ。今回はシードの奢りだぜ」

 

困惑するギルバをよそにどんどん目の前に置かれるストロベリーサンデー達。

そう、グラスはグラスでも女子供の食べ物と酒場の連中に罵られる最高にスイートなストロベリーサンデーのグラスだ。

月に一度、どちらかの奢りで行われるトニーとの一騎打ち。

 

「今回で何回目だったか?」

「さあな、忘れた。俺が勝ったら、いつもの通りアンタが俺の借金のツケを払うってのでいいよな」

「オーライオーライ、お前が負けたら俺へのステキな武器素材プレゼントだ。ギルバは…まあ、あとで考えるか」

 

勝負は単純明快。

より多くストロベリーサンデーを食い切った方が勝ち。

後ろで怒号を飛ばす連中がいつもの光景を見て眉をしかめているのが良く分かる。

こんな甘ったるいものが山の様に置かれていたらそんな顔にもなる。

 

未だに状況が飲み込めないギルバは、なんとなく強制なのを察したらしい。

目の前に置かれたスプーンに視線が行っている。

これ食べるの?馬鹿じゃないの?アイス乗ってるよ?凍死するよ?自殺志願者なの??とでも言いたげな顔である。

残念なことにコイツで勝負するのは決定事項だ。

 

It's sweeter than drinking a vodka barrel.(樽飲みよりスイートだろ?)

sweet…(甘い…)

Yes. sweet.(そう。甘い)

 

目の前に置かれた甘いグラス達に包帯男の顔が向けられた。

 

試合開始の合図はない。

好きなタイミングで好きな時に食べ始めるのがこの勝負のルール。

飲み物は安酒のビール限定。

作り手にもよるが、ストロベリーサンデーは甘いだけの物じゃない。

 

苦い酒を飲み慣れた野郎共なら一口入れただけで甘いと叫ぶだろう。

しかし超が付くほど甘党の俺達に言わせてみれば、ボビーの作るものはなかなか酸味が効いている"甘さ控え目"のストロベリーサンデーなのだ。

 

かき込むように食べるトニーとは対照的に俺はゆっくり食べる。

一口が大きく、一つのグラスに五回もスプーンを通せば空っぽになってしまう。

スピードはほぼ互角。

俺達の前に空のグラスが五つほど並んだ頃に漸くギルバが口をつけた。

 

食べながらもギルバをジッと見ていると、向かい側のトニーも同じように見ている。

包帯男がストロベリーサンデーを食べる光景なんて早々お目にかかれないだろう。

ハロウィンでもなかなか見られない。

 

まず一口。

ストロベリーソースがたっぷりかかったクリームを惜しげも無く含む。

もうこの時点で野郎共は口元を押さえて酒を一気飲みするレベルだが、ギルバはなんともなさそうな顔ですぐさま二口目に移った。

心なしか口元が緩んでいるように見えて、トニーと二人で笑った。

 

「お仲間とは恐れ入った。ここのストロベリーサンデー、美味いだろ?」

「ああ、"甘い"な」

「いいねぇ、そうこなくっちゃ。シード相手だけじゃあ飽きてきたところだ」

「おお?言ったなトニー」

 

So, sweet.(楽勝だ)

一口の速度が速く、しかし優雅に足を組んで食べる姿は中々にキマっている。

体格のいいトニーやおっさんの俺が食べると違和感があるのに、細身の包帯男はサマになるなんて不公平だ。

七杯目の空っぽのグラスを脇に退け、八杯目を手に取った。

 

 

 

 

 

ぐったりとカウンターに突っ伏す男が二人。

一人はトニー、もう一人はギルバである。

目の前には数十杯分の空のグラスが置かれており、ピンピンしている俺は食後のコーヒーならぬ食後のビールで呑気に祝杯を挙げていた。

御察しの通り俺の勝ちである。

 

トニーもギルバも大健闘だった。

僅差で先に落ちたギルバに続いてトニーも突っ伏したのがつい先刻。

余ったストロベリーサンデーは綺麗に俺が片付け、多めの代金をボビーに支払っている。

この場合誰が先に落ちたなど関係なく、二人とも敗者扱いだ。

 

「トニー、分かってるよな?」

「…Yeah. しばらくプレゼント探しだな」

「ギルバは初戦にしては健闘した。慈悲をくれてやろう」

 

顔を上げた二人にニタリと笑う。

 

「One night. 」

「…なんて?」

「だから、一晩」

「は?」

 

言われたギルバよりトニーの方が驚いている。

こんな裏社会に住んでいて一晩の意味もわからないやつは居ない。

つまりは"そういう"意味である。

 

「おいおい、女と遊ばねぇと思ったらソッチかよ」

「お持ち帰りだ、ギルバちゃん。ほら、トニーも帰るぞ」

「は?え?嫌なんですけど?帰りたくないんですけど?」

 

固まったギルバを抱えて抵抗するトニーの首根っこを掴み上げる。

酒場の連中は君子危うきに近寄らず、とばかりにスルーの構え。

俺は誰に邪魔されることもなく大の男二人を軽々持ち上げ、家路への道を後にした。

 

 

 

――翌日の晩。

微妙な顔のトニーとギルバが一緒に穴蔵へとやってきた。

噂を聞いていたグルーが少々顔を引きつらせながらも、怖いもの見たさに近寄っていく。

 

「よぉ、トニー、ギルバ。昨晩はお楽しみでしたね、で良いのか?」

 

いつもなら何かしらの軽口が飛んできそうなものだが、口を開くどころか無言でバーカウンターにギターケースを置く。

彼の長剣が入っているケースだ。

同じようにギルバも持たされたのであろうギターケースを隣に置いた。

幾分か細身でかなり軽い素材のケースだ。

二人がケースを開けると、輝く程綺麗に磨き上げられた長剣と刀が現れた。

 

「コイツらと一晩、だってよ」

 

傷一つ、刃こぼれ一つない程に丁寧に磨かれた二振りは一晩で仕上げられたとは到底思えない程の出来栄えだ。

なるほど、ソッチはソッチでも人ではなく武器の方とOne night love(愛し合った)らしい。

触れただけで切れそうな仕上がりはどう見てもシードの仕業だ。

 

トニーとギルバはさっさと風呂にぶち込まれて寝かしつけられ、快眠の末に昼頃に胃に優しいものを食べて夕食も出され、さっさと仕事にありついてこい!と蹴り出されたと。

武器も調整され、体調も抜群。

仕事をするには絶好のコンディションだと言うのに言い様のない気持ちになっているという。

 

「抱かねえのかって聞いたら"お前みたいなガキ、相手にするわけねぇ"の一言だし…俺が恥晒しただけじゃねぇか…」

 

二人一緒にお持ち帰りの時点で悟りを開いていたのに、いざ家に着けば心底怪訝な顔をされて先程の一言。

別にそうなりたかったなんて微塵も思っていないが、拍子抜けもいいところである。

ギルバなんて子供のように終始世話をされ、素早く新品の包帯に交換させられていた。

顔を見られるチャンスかと思ったが、あまりの手際の早さに全く顔が見えなかった。

 

「ah…ドンマイ?」

 

掛ける言葉が見つからない。

グルーのなんとも言えないような慰めの言葉に二人揃って溜息をつく。

あのおっさん、次こそは負かしてやる。

トニーとギルバは固く誓い合った。

 

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