It's not a joke to cry!   作:急須

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Children

次元の狭間。

何処にでもあり、何処でもないこの狭間は俺だけの領域。

この場所では俺こそがルールであり、絶対である。

この空間に工房を構えているのは単に拡張が簡単だから、という理由もあるが、それ以上に縁がある者しかこの空間に立ち入れないことが大きな理由である。

 

世界に一つしかない俺力作の閻魔刀で無数にあるブラフの空間を避けてここに接続するか、スパーダのように縁だけを頼りに閻魔刀でぶった切るしかない。

閻魔刀がなければ訪れることすら不可能であるここは非常に落ち着いて作業ができるのだ。

もちろんここに閉じこもっていればムンドゥスにもアビゲイルにも、ましてやアルゴサクスでさえもこの領域には踏み込むことができない。

何か特別な理由でもなければ、という注釈がつくが。

 

しかし残念なことに俺は何処かに閉じこもることが出来ない質である。

当てもなくふらふらと次元から次元へと飛び去っていくのが元々の種族性だった。

スパーダによって自我を与えられ、力の制御を覚えたとしてもそこは変わらない。

時折外に出て何かに触れないと心穏やかにはいられないのである。

 

スパーダ一家によくお邪魔するのはあそこがこの空間に次ぐ安全領域だからだ。

人間界でまず間違いなく安心できると言えるのはあそこしかない。

 

ここまで長々と語っておいて本題が見えないだろう。

つまり何が言いたいのかというと。

 

「シードおじさん!」

「今日は外で遊ぼうぜ!」

Calm down children.(落ち着け子供達)お外は逃げたりしないよ」

 

今日も今日とてスパーダ家にお邪魔している、と言いたかったのである。

依頼の品であるアミュレットと閻魔刀のメンテナンス、流れでリベリオンまで見てしまったために工房に一週間ほど篭っていた。

途中でモノクルを投げつけにこの家を訪れたが、その時は双子が本を読んでくれと騒がしくて大変だった。

 

本日はお外で遊びたい気分のようで、閻魔刀とリベリオンをギターケースに入れて持ってきた俺を捕まえてグイグイと腕を引っ張ってくる。

更にスパーダとエヴァは夕方まで買い物に行ってくると、その間に双子の面倒を見るように頼まれた。

俺はベビーシッターじゃないんだが。

双子が可愛くなかったら絶対引き受けない。

 

「かくれんぼしようぜ」

「じゃんけんで鬼を決めよう」

Ok, I won't go easy on you.(いいぜ、手加減しないからな)

「「「Rock, Scissors, Paper, One Two Three!」」」

 

ダンテ、バージル、俺の順番にチョキ、グー、グー。

可哀想なことにダンテの一人負けである。

ちょっとしょんぼりしてしまったダンテをバージルと二人で慰めながら気を取り直してかくれんぼのルールを決める。

エヴァとスパーダの言いつけで遠くに行けない二人のために少し先の林の中で行うことになった。

 

「五十数えたら探しに行くからなー!」

 

駆け出したバージルに続いて林の中を悠々と歩く。

子供相手に本気になるなど大人気ないことはできない。

上を見ればなんとなく見える程度にちょうどいい高さの木に登り、枝の上で昼寝を決め込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「バージルみっけ!」

 

木のうろの中に隠れた片割れに満面の笑みを浮かべる。

同じように笑顔で俺の手を取って大木の中から出てきたバージルはキョロキョロと周りを見た。

 

「シードおじさんは?」

「まだ見つけられてないんだ。一緒に探そうぜ」

 

天高く上っていた太陽が少しだけ傾き始めた時間にようやくバージルの気配を探れた。

父さんに教わった魔力の感じ方もまだ不慣れで、いつもそばにあるバージルしか見つけられなかったのだ。

特徴的な魔力を持つシードおじさんも確かにこの林から魔力を感じるけれど、場所の特定までには至らない。

こういう細かいことはバージルの方が得意だ。

 

「どうだ、バージル。分かるか」

「高いところにいるみたいだ」

「木の上?」

「うん。スタートした場所のすぐ近く」

「うわっ!あの辺は全然探してなかった!」

 

通りで見つからないわけだ。

二人で手を繋いでシードおじさんの気配がある場所まで歩く。

注意深く上を向きながら歩くと足元がおろそかになって、その度にバージルに手を引かれた。

頼もしいお兄ちゃんだ。

 

「この木だと思う」

「んー…おじさんの白髪、見えないな」

「おじさんに言ったら銀髪だって怒るよ」

「おまけにお前達も同じだろーって頭撫でてくれるぜ」

 

本人は銀髪だって言い張ってるけど、赤と青のメッシュのせいで白髪に見えてしまう。

カラフルな色合いをしてるくせに地毛らしい。

染めてない、と豪語していた。

俺達も小さい頃は黒髪が多かったけど父さんと同じ銀髪が増えてそのうち全部銀髪になりそうだ。

 

シードおじさんは父さんの友人で強くて優しい悪魔だって。

たまにうちに来てごはんを食べたり泊まったりしていく。

いつも俺たちと一緒に遊んでくれて、時折父さんと真剣な話をしてる時もある。

今は俺達の訓練に使う木刀を、この間はモノクルを届けてくれた。

本人曰く武器職人らしい。

いつか俺達にも本物の武器を作ってくれるって。

 

「シードおじさーん!」

「もうおやつのじかんだ」

「マジかよ!シードおじさん!おやつ食べたいから降りてきてくれよー!」

 

呼びかけても返事がない。

見上げても木漏れ日がさす木々ばかりで、シードおじさんの姿が見えないままだ。

バージルの言う通り、確かに木の上から魔力がするのにどうしてだろう。

このままでは母さんが作ってくれたおやつのクッキーが食べられなくなる。

夕飯を食べる一時間前までに食べないと没収されてしまうんだ。

 

困ってしまって立ちすくんでいると、繋いでいた手をバージルが離した。

器用に枝から枝へと登り、上から何か黒いケースを落としてきた。

思わず離れてしまったが、ハードケースはドコッ!と重苦しい音を立てて地面に落ちた。

さっきまでシードおじさんが持っていた謎のケースだ。

 

「魔力の気配はこれのせいみたいだ。父さんの魔力も感じる」

「本当だ。変な感じだ」

 

一体何が入っているのだろう。

降りてきたバージルと一緒にケース手にを伸ばした瞬間。

 

「Boo!」

「「うわぁ!?」」

 

目の前に逆さまになったシードおじさんの顔がアップで映し出された。

驚いた俺たちを見て嬉しそうにしているのを見るに、驚かせるために待機していたのだろう。

ストンッと軽く降りてきたおじさんがご機嫌に黒いケースを担ぐと、俺達の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

 

「おやつの時間が来たんじゃあ仕方ないな。一度お家に帰ろう」

「かくれんぼは驚かせるゲームじゃないのに…」

「素直に出てきても面白くないだろう。バージルは魔力感知の精度、ダンテは頑張って位置特定まで出来るようにならないといけないようだし」

 

俺達がシードおじさんを魔力で探っていたのはお見通しだったみたいだ。

でもよくできました!

これでもかと言うほど褒められて家への道を促される。

ダメなところはダメだと言いながらも良いところは余すことなく褒めてくれるシードおじさんは大好きだ。

湧いてくるやる気というものが違う。

母さんや父さんとの勉強の時間も好きだけど、シードおじさんのちょっとした雑学や復習の時間も楽しい。

 

「よし、家まで走って競争といくか!お先に失礼!」

「あっ!ズルい!」

「バージルもおじさんも早いって!」

 

あんなに重そうなケースを背負ってなんであんなに早く走れるんだよ!

 

 

 

 

 

 

「ただいまー…ってなんだ。お昼寝かい?」

「あらあら。シードに遊んでもらえて良かったわね」

「お帰り。スパーダ、エヴァ。子供達は夢の中さ」

 

スパーダ家のソファの上。

俺の膝を片方ずつを枕に二人がすっかり眠ってしまった夕方。

見つけてきたブランケットを二人にかけてやりながら本を読んで家主の帰りを待っていた。

おやつを食べて先程まで本を読み聞かせていたのだが、途中でダンテが寝落ちてしまった。

バージルと一緒に笑いながらブランケットをかけ、起こさないように静かにエヴァに教わった子守唄を歌うと今度はバージルが寝落ちた。

 

すっかり立ち上がれなくなってしまい、ベッドに連れて行こうにも身動きしたら彼らが起きてしまう。

致し方なく二人が風邪を引かないように暖かくしてから読書で暇を潰していた。

その辺にあった小説はおそらくスパーダのものだろうがなかなかに退屈しのぎにはなった。

 

「スパーダ、子供達をベッドに運んでやってくれ」

「そのままでもいいじゃないか」

「暖かくしているとはいえ寝冷えして風邪を引いてしまうかもしれないだろう」

「悪魔の子が風邪を引くって当たり前に思うのは君ぐらいだよ」

「半分は人間の子だし、ここは人間界なんでね」

 

お前は父親なんだからしっかり心配しろ。

側にあった頭を叩いてやると、笑って二人を抱え上げた。

父の気配になんとなく安心したのか抱えられても二人はふにゃふにゃ笑うだけで起きる気配はない。

こんなに愛らしい生き物が悪魔なわけあるか。

 

「ありがとう、シード。子供達を見ていてくれて」

「デートは楽しかったかい?」

「ええ。とっても。でも母親だからついつい子供達の事考えてしまうわ」

「そういうものなのかい?」

「そういうものなの!」

 

夕飯の支度を始めたエヴァが買ってきたものをいくつか出していく。

中にはスパーダがエヴァにプレゼントと称して買ったのだろうささやかなものもあるが、子供達のためであろうケーキやお菓子、本などもある。

今日の夕飯もなかなか豪勢になりそうだ。

 

「夫婦で子供達の事を考えるのが、楽しいってことなのか」

「私達の大切な宝物だもの」

 

俺が知っている中で誰よりも美しい女性だと思えるほどエヴァは綺麗に笑った。

子供のことを考える母親とは実に美しく強いものなのだろうか。

母や父がいない悪魔の俺にはよく分からないものだ。

人間自体奥が深すぎて底が見えない。

それこそが人間の強さであり、悠久の時を生きる連中とは違う、刹那の輝きだ。

 

「なんだか楽しそうだね」

「子供達にちゃんと布団をかけてやったか」

「もちろんだよ」

「じゃあ元々の要件だ。そのケースにあんたの相棒達がいる」

 

ハードケースを指差すと、すぐさまスパーダが開けて中身を確認した。

傷や汚れのない刀身が露わになる。

綺麗に修繕されたリベリオンに満足し、ついで閻魔刀を軽く振るった。

 

「今回は随分時間がかかったなぁ」

「ケチつけるなら金ふんだくるぞ」

「これ以上取る気なのかい!?」

「これでも割引してる。リベリオンと閻魔刀がどれだけ複雑なものか…」

 

格安料金に子守代もつけてやろうか?と脅すとスパーダは苦笑いだ。

昔稼いだ金で生活している身としては余計な出費をしたくないのだろう。

分かっていて俺もかなり安く金額を提示している。

材料費にさえ手が届かないレベルは最早赤字どころではない。

スパーダへの恩があるからこそ善意で行なっているのだ。

全く悪魔らしくない行動である。

 

「リベリオンは兎も角、閻魔刀の制作者は君じゃないか」

「因みにこの腕は昨日生えてきたばかりでな?」

「あー…そんなにひどかったのかい?」

「俺の肉体を削って補強しなければならないほどにな」

 

閻魔刀は特に規格外の魔力を込めて俺の質そのものを詰め込んでいる。

俺の肉体と言い換えてもいいぐらいだ。

故に修繕のために形だけでなく魔力のために血を閻魔刀に吸わせたりして治すのである。

少しの傷なら血で十分なのだが、今回はそうもいかなかった。

種族的に肉体の破損はすぐに修正されるから良いものを、我ながらとんでもない武器を作ってしまった。

 

「子供達にはまだ触れさせるなよ。呼応するやもしれんが、リベリオンも閻魔刀は気まぐれだ」

「えー、すぐにあげようと思ったのに」

「ちゃんと振れるようになってからにしろ。リベリオンも閻魔刀も泣いちまう」

 

どうせそうするだろうと思って木刀はリベリオンの形をしたものと閻魔刀の形をしたものの二種類を渡してある。

二人とも好きに選んだ結果が出ている分、どちらがどちらに行くかはわかりきったようなものだけれど。

武器が主人を選び、呼応するかどうかは持つまでわからない。

 

一応返事はしたけれど、そわそわしているスパーダをみてとてつもなく心配になった。

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