ささやかで素敵な夜。
大きな苺が乗ったホールケーキを囲む少し豪華な夕食。
今日はダンテとバージルの誕生日。
スパーダ家では身内だけを集めた誕生日パーティーが開かれていた。
俺もお声がけをいただいて、あらかじめ作っておいた誕生日プレゼントを片手にスパーダ家にお邪魔していた。
嬉しそうに切り分けられたケーキを食べる二人に、ケーキに乗った苺をあげる。
綻ぶように笑う子供達は幸せの象徴だ。
「
エヴァがラッピグされた小包を二人に渡し、直ぐに開けるように促す。
中には銀色と金色で作られたペンダントが入っていた。
もともと一つだったアミュレットを二つに割り、大人になってもつけられるように俺が加工した。
嬉しそうにお互い首に掛け合う二人に、次はスパーダがプレゼントを渡す。
「バージルには閻魔刀、ダンテにはリベリオンをあげよう」
「いいの!?」
「ありがとう、父さん!」
ジロリ、と呆れたような目線を向けてもスパーダはどこ吹く風である。
あれだけ子供達にはまだ早いといったのにこのザマだ。
この家の住人でもなし、ましてや持ち主でもない故に口うるさく言うぐらいしか出来ることはないが、渡してしまったものは仕方ない。
子供達の誕生日に怒りたくはない。
スパーダは、何か考えがあるようだし。
軽くため息をついて、手に持っていた小包を開ける。
今にもリベリオンと閻魔刀を振り回しそうな子供達を押さえ込んで目を瞑るようにいうと、二人の耳にそれぞれ魔力を込めてイヤーカフをつけた。
バージルには青い石、ダンテには赤い石のついたものだ。
無論、俺が作ったものである。
「なんだ、これ」
「ダンテ、多分イヤーカフっていうアクセサリーだ」
「バージル惜しい。たしかにイヤーカフはアクセサリーだが俺が作るものは殆ど魔具だってことを忘れちゃいけないぜ」
「じゃあこれも?」
「
この魔具は相当気を使った逸品である。
まずこの魔具は制作者である俺、持ち主になるダンテとバージル以外にスパーダとエヴァの魔力を覚えさせた。
悪魔と半魔は全く問題なかったのだが、問題は人間であるエヴァの魔力がほぼない事だ。
四苦八苦してなんとか魔力に類する血を覚えさせた。
この五人以外が使用する場合、本当にただのアクセサリーになる。
さらにつけ心地を重視し材質は軽く、錆びや汚れがつかない魔界の鉱石を使用した。
人間にはステンレスにしか見えないだろう。
肌が白い双子への配慮された色合いも兼ねて主張し過ぎないものにしている。
更に完全なる独断と偏見だが、それぞれのイメージに合わせた石の使用。
デザインに手を抜くこともできず、魔具の核となる魔力を注ぎ込む為のカットにどれだけの労力を費やしたか。
「さらにこの魔具のデザインはな…」
「
「
げんなりした顔をしている二人の手を取り、予め用意してきた姿見の前に立たせた。
不自然に置いてあった姿見の意味に二人も気がついたらしい。
「鏡に向かって"seed"と指でなぞるんだ。やってごらん」
二人とも顔を合わせ、ダンテがバージルの手を握る。
握られた手を見て、バージルはおずおずと鏡に言われた通りスペルをなぞる。
指でなぞったところで形にすら残らない筈が、ふわりと跡が浮かび上がり、鏡の向こう側に先日見た俺の工房が浮かび上がった。
「すげー!」
「これ、向こう側に行ける!」
「Ta-daa! これでいつでも遊びにこられるぜ」
自分が通れる鏡であればどんなものでもかまわない。
手鏡だと通り抜ける機能がなくなり、向こう側の映像と声が届くようになっている。
「リベリオンも閻魔刀も格安で修理してやる。家族共々ご贔屓にってな」
「ありがとう、シードおじさん」
「いっぱい遊びに行く!」
「懐中時計も二人にプレゼントだ。鏡が付いているから何かあった時に連絡してくるといい」
アミュレットの鎖とは逆に、ダンテには金色、バージルには銀色の懐中時計を手渡した。
嬉しそうにはしゃぎ回る双子を横目に、スパーダからジトっとした視線を受ける。
ああ、言わなくてもわかるぞ
どうせ自分の分が欲しいとかそう言うのだろう。
お生憎様。
スパーダの分は作っていない。
今回は誕生日という子供達にとってのビッグイベントのために変わり種で報酬もなしに仕事をしただけだ。
本来なら大金積まれたって作るのを渋るだろう。
俺は武器職人であってデザイナーでも細工師でもない。
「改めて、Happy birthday.」
そっくりな二人の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
誕生日パーティーの翌日。
工房の炉の前で、緩く首をかしげる。
「あの時の俺は何を思って打ってたんだっけなぁ…」
先ほど叩き上げたばかりの刀身をそっと台の上に置いた。
何度作り直しても、最高傑作たる閻魔刀を超えられない。
チャレンジしては自信無くし、落ち込んではまたチャレンジ。
失敗作のコレは鈍ではないにしろ、一撃の重さも魔力の混ざり具合も違う。
洗練されたあの刀にあと数歩届かない。
「ダメだ。振るうには弱すぎる」
「君はちょっと高望みが過ぎるね。どんなに美しく作り上げても君の理想に届かなかったら捨ててしまう」
「職人ってのはそういうものさ。…あと、人の家に上がる時は連絡をよこせ」
「君の家、電話もないし玄関もないじゃないか」
「だからって息子にあげたはずの閻魔刀もって侵入してくるな!」
叱っても全く反省する気のないスパーダに呆れながら、刀身を素手で砕く。
パラパラと砂になって落ちていく刀身に、思わず溜息が出た。
そもそも俺が握っただけで砕けるような物は武器にすらならない。
使えない武器など重いだけの荷物だ。
最近、思うように武器が作れない。
武器職人としてかなり深刻な悩みである。
素材も設計も何一つ変なところもない。
完璧に俺の思考を図面化し、俺の思うままに腕を動かしているのに。
何度やっても出来上がるのは使えもしない武器だけだ。
「はぁ…惨めだ…」
「君の武器はどれも一級品なんだけどね。君が納得しないと完成品にすらならないからなぁ」
「最近誰かさんのせいで武器以外の依頼も増えたがな」
工房から離れ、完成品がいくつか並ぶ棚に足を向ける。
手遊びで始めたアクセサリーやちょっとした彫り物がいくつか並んでいる。
そのうちの一つだけ、プレゼント用に綺麗にラッピングされたものがある。
それを手に取り、スパーダに渡した。
「これを取りに来たんだろ」
「急に依頼したのにもうできたの?」
「今度からは余裕を持って依頼してくれよ」
もう金槌を持つ気にもなれず、キッチンへ向かう。
後ろでスパーダがコーヒーの注文をしてくるが、無視して自分の分だけをいれた。
不法侵入者を客人扱いする馬鹿がいるか。
「人間は面倒だな。一年ごとに生まれた日にプレゼントを贈らなきゃならねぇ」
「本来は物じゃなくてもいいらしいけど、そこはほら、形に残った方が嬉しいじゃないか」
受け取った箱をコートの内ポケットにしまうスパーダは口元に優しい笑顔を浮かべている。
双子の誕生日の次はエヴァの誕生日がやってくる。
そのプレゼントを俺に作らせたのだ。
中身は武器でも魔具でもないただの髪飾りである。
「形に残す、ね…死んだら砂になって消える俺達にはその発想すら生まれないな」
「君は
「
「種のまま死んだら?」
「種から無理やり樹になって株分けが起きる」
俺の異常な再生能力の源は種族の根本にある。
何度だって同じ形で生まれ、継承していく。
「
「
「願うのは"人間"のやることだ。必要とし、求め、代償を差し出し、何かを失う。そうまでして力を求める"悪魔"に俺は禁忌を与える生き物なのさ」
人間には与えない。
過ぎたる力は身を滅ぼし、いずれ形すら残さず忘れ去られていく。
形に残すのが人間の特権だというのにそれを放棄してまで一体何が欲しいというのか。
俺は一つ、たった一つ武器を作るだけでこんなにも苛まれ、ぐるぐると悩むのに人間はいとも簡単に沢山の形を作る。
その権利を放棄するなんて俺は許さない。
人間には与えない。
これは絶対だ。
「もしダンテやバージルがそう願ったら君はどうするんだい」
「今の時点だったら与えないだろうな。彼らはどう見ても人間だ。
「それ、二人が聞いたら顔を真っ赤にして怒るね」
「俺のところに来たってこう言うしかない。"
シッシッ!と厄介払いをするかのように手払うと、スパーダはくすくす笑う。
お前に向けてのセリフでもあるんですけど聞こえないフリですかそうですか。
このひん曲がり野郎、悠々と足組んでやがる。
「子供達が汚い言葉を覚えそうだ」
「悪魔に汚いも綺麗もあるかよ。てか君はいつまで居座るつもりだ」
「君がコーヒーを出してくれるまでかな」
「ここはカフェじゃないんだぜ」
「素敵なおもちゃがたくさんおいてあるティーハウスかな」
「俺の話聞いてた?耳が遠いのか?お医者さんでも紹介してやろうか。君の腐った耳なんて誰も治せないだろうけど」
「はっはっは」
にっこり笑顔のまま微動だにしないスパーダにヒクリと頬がひきつる。
出ていく気配が全くない。
結局俺が折れてコーヒーを出すまでスパーダは俺の後をついて回ってきた。