It's not a joke to cry!   作:急須

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Brother

I want to play gamble.(ギャンブルをしてみたい)

W-w-w-what happened to Virgil!?(ど、どど、どうしたんだいバージル!?)

 

俺の書斎にギャンブルについての本なんて誰が置いたんだ!

バージルが小脇に抱えている本のタイトルを目で追いながら心の中で頭を抱えた。

十中八九あのスパーダとかいう魔剣士の置き土産である。

 

Calm down. Uncle Seed.(落ち着いて、シードおじさん)

 

これが落ち着いていられるか!と言いたい気持ちを我慢してそっと飲み込む。

頭ごなしに叱るのは良くないことだ、シード。

バージルが急に反抗期だったり悪いことをしだしたりするはずがない。

きっとこれは好奇心の延長線だ。

ただやってみたいだけなんだ。

 

「父さんと母さんにも言ったら、きっとシードおじさんなら詳しく知ってるよ、って」

 

エヴァならまだしもスパーダの奴は結構人間のカジノに出入りしてただろうが!

不都合なことを教えなきゃならない時に俺のところに寄越すのはやめろ!

親だと自負するなら自分達で教えてやれ!

 

「バージル…ギャンブルってそもそもなんだか知ってるか?」

「カードゲームとかスロットマシーンとか大人の事情で色々調整された施設で娯楽と称して金銭を搾取するための場所」

「認識があまりにも敵意に溢れてるのはなんでなんだ…」

「…ダンテが最近、何かと賭けを要求してくるんだ」

 

あー、それでギャンブルについて調べていたのか。

そういえばスパーダの奴がダンテにコイントスを教えていたな。

表か裏かを互いに言い合い、当てた方の意見が通るだけの簡単なものだ。

別に遵守する必要はないが、勝負は勝負。

双子で何かと競い合っているし、真面目なバージルは負ければ大抵いうことを聞いてくれるだろう。

 

「いっつも負けちゃうんだ」

 

ダロウナー。

スパーダがダンテに教えたのはイカサマコイントスである。

人間なら簡単に騙せる。

そもそもダンテにコインを投げさせなければいい話なのだが、きっと嫌がるだろう。

ここは敢えて投げさせた上で勝てる方法を教えたほうがいい。

 

「俺がダンテと同じ方法でコイントスをしてみよう。ヒントとしては魔力だな」

「魔力?」

「そう。表か裏、どっちが魔力が多いかで出目が決まる。そら」

 

キンッと高い音を立てて爪で弾かれたコインが宙を舞う。

早い回転で回るコインを必死に目で追い、バージルが何か気づいたようにあっ!と声を出した。

コインを手元が見えないほど素早くキャッチし、バージルに問う。

 

「表?裏?」

「表!」

Bingo!(当たり!)仕掛けはわかったか?」

「うん。裏の方に魔力が付いてた。魔力を引き寄せてキャッチしてるんだ」

 

仕掛けはいたってシンプル。

少量の魔力を片面につけ、キャッチするときに魔力を吸い寄せる。

魔力が付いた面が結果的に下になり、魔力が付いていない方が当たりとなる。

悪魔も半魔もできるしょうもない魔力の使い方である。

 

「賭けをする理由としては、ダンテの場合、Jackpot!って言いたいだけかもしれないけど」

「下品な台詞」

「映画の主人公がそうやってキメてたのに惚れたんだと。ダンテ曰く"イカす!"ってさ」

「品性の欠片も無い」

「なーんでそんな辛辣なのかなぁ…」

 

ギャンブル関係に相当の恨みでもあるの?

いや、恨みはダンテのせいで出来たのだろうけど。

魔力や剣術に関しては人一倍努力をし、スパーダのようになりたいといつも言うこの子はダンテのように遊びで魔力を使わない。

悪魔に対して自らの考え方を持っている気がする。

 

「双子の弟がいるから貰った本に名前を書くようないい子だったのに…ダンテと上手くいってないのか」

「今でもちゃんと書いてるし、別にダンテが嫌いなんじゃない。たとえ元々一つだったとしても外に出て仕舞えば別の存在なんだって気がついただけ」

「一卵性双生児と雖も別の存在だからな」

「うん。だから考えが多少違うのは仕方ない」

 

しかし根本は同じで、全てが全て違うとも言い切れない。

バージルは複雑な表情でそう言った。

 

「ダンテのことは好きだ。守らなきゃいけない大切な弟だ」

 

数秒先に生まれただけだとしてもバージルはしっかりダンテの兄をしている。

我慢なんてしなくてもいいのに、なるべく両親に甘えられる立場を譲っている。

その分俺の工房に来て、本を読んだり閻魔刀の使い方を聞きに来たり。

少しだけではあるが、魔力による遠距離攻撃も覚えた。

 

俺ばかりに聞きに来るものだからスパーダが拳をブンブン振って工房に乗り込んできたこともある。

お前ばっかりバージルと遊べてズルい!なんて八つ当たりをされた。

うるせぇよお前が構いたいなら待ってないで自分から構いにいけよ。

バージルはバージルでなんか拗ねてるんだよ。

 

「でもなぁ、最近ダンテを避けてるだろ。明らかに工房にいる時間が長い」

「…母さんには言ってある」

「それ、父さんとダンテには何も言わずに朝イチから夕方までここに来てますって白状してるのと同じだからな?」

「だって…」

 

バージルは口を尖らせてそっぽを向いた。

ああこれ完全に何か喧嘩でもして拗ねてる。

しかもこれスパーダが余計なこと言ったから父親にもちょっと怒っている。

日常会話はあるのだろうが、長時間顔を合わせたくないと言った雰囲気だ。

 

「ダンテのやつ、我が儘なんだ。俺が本読んでるとすぐ拗ねるし、構ってやらないと喚くし、くっついてないと泣きそうになってる」

「えぇ…ダンテってそんな子だったか…?」

「今まで一緒のベッドで寝てたんだけど、この間の誕生日を境に別々のベッドで寝てる。その時からずっとなんだ」

 

単純に今まで一緒にいた存在が夜になるといなくなるから不安になってるだけじゃないか。

しかしだから夜一緒に寝てしまっては、分けた意味がない。

うーん、と頭をひねっていると話はさらに進む。

 

「父さんはお兄ちゃんだから少し我慢してあげなさいって…」

 

はい。スパーダ、アウト。

完全に構ってもらえないのは自爆です。

子供は自分達の欲望に忠実でその要望が通らなければ泣いたり暴れたりする生き物だ。

もちろん聞き分けのいい子はいるが、そういう子は腹に溜める。

そのままいつか足元から崩れる。

 

恐らくエヴァのサポートが入っているだろう。

だから俺のところに来るだけで今は落ち着いていられるのだ。

そのうち一人で泣き始めたりするぞ。

兄弟間でも我慢ばかりさせると、ウチに来て帰りたくないとか言い始めるぞ。

その時は俺がバージルを貰っていくからな。

 

「そうか。ここではなんの我慢もしなくていいからな。声にさえ出してくれればなんだって叶えてやる。危ないことはダメだけどな」

「ありがとう、シードおじさん」

 

バージルの頭を撫でて、席を立つ。

冷蔵庫の中のジュースは好きに飲んでいいと伝え、外に出ることにした。

ダメ父親スパーダに一発お見舞いしにいくのである。

俺を羨ましがる前に自分の発言を考え直せ!

 

 

 

 

 

 

 

 

スパーダ家に行くと、ぐすぐす泣くダンテとそれを慰めるスパーダの姿が庭の木の上で繰り広げられていた。

正確には木の上に登って泣くダンテをスパーダが木下から慰めている、という形なのだが。

こっちはこっちで面倒なことになっている。

 

「ダンテ、降りておいで。バージルはいつもちゃんと帰ってきてるだろう」

 

ダンテからの返事はない。

両親以上に自分の半身にべったりなこの子はバージルがすぐ手の届く範囲にいないだけで相当応えるのだろう。

すでに心が自立しているバージルとは違い、まだまだ甘えたい盛りらしい。

いや、バージルが異常に大人びているだけだとも言うが。

 

「スパーダ」

「シード、今忙しいから後で…」

「事情をなんとなく聞いたから見にきた。この状況は三割ぐらい君のせいだと言っておこう」

「えぇ!?」

 

本気で落ち込んだスパーダに軽く蹴りを入れる。

先に気がつけよ。

すると、木の上にいたダンテが少し顔をこちらに向けた。

 

「シードおじさんのところにいるんでしょう」

「なんだ。居場所はわかってるじゃないか」

「街に行った気配はないもん…」

 

ダンテも薄々、バージルにウザがられているのが分かっているのだろう。

追いかけることはせず、拗ねながら帰りを待っている。

兄弟というものはなんでこうも性格が違うものになるのか。

不思議なものだ。

 

スパーダを踏みつけ、木の上に飛び上がる。

ひとっ飛びにダンテのいる枝に足を掛けた俺に、青い瞳を見開いた。

子供達の前では人間と同程度の力しか出したことがなかったから、悪魔だとわかっていても驚いたようだ。

別に俺、弱いわけじゃないからね?

 

「なんでそんなにバージルと一緒に居たいんだ?」

「バージルが好きだから。一緒に居てすごく安心する」

「うん。バージルも多分ダンテのことをそう思ってるさ」

「じゃあなんで避けるの?」

「あの子は結構我慢するだろう。やりたいこと、言いたいこと、甘えたい気持ち。必ずことを始める前にまず君を見る。気が付いてたかな?」

 

ダンテは緩く首を振った。

苦笑いをしながらバージルがどれほどダンテのことを気にしているかを事細かに説明すると、彼は拗ねていた顔をこちらに向ける。

ほんの少し先に生まれただけのバージルがこんなにも弟を大事に思えるのはエヴァの教育の賜物だろうが、それ程までにダンテを優先している節がある。

 

必ず弟の顔を見てから自分の要望と彼の要望を兼ね合わせた中間案を提示する。

それでも弟が駄々をこねれば弟に譲る。

そういう風に今までしてきた。

 

しかし、行動範囲の拡大や知識の入手に伴い、ダンテありきでは欲が満たせないことに気がついた。

エヴァの言いつけ通り仲良くしたいのに、悉く邪魔をされる。

喧嘩をすると怒られるし、時間も削られる。

 

その状況で最善の行いは、家族全員に許され何者にも指図されず自由に欲を満たせる場所に逃げることであった。

都合のいいことに条件が揃ったのが俺の工房である。

正直、兄弟喧嘩に巻き込まないでほしい。

遊びに来ていいと言ってしまった手前、理由なく帰すのもかわいそうで、完全に自爆だったのだがそこには触れないでほしい。

 

「バージルは今、やりたいことをやっているんだ。ダンテだって好きなことたくさんしたいだろう」

「…それはわかるけど、一緒に遊んでくれてもいいじゃん」

「君のやり方に問題があるのさ。お淑やかに交渉を持ちかけたらバージルだって話を聞いてくれる」

「どうすればいいの?」

 

簡単なことさ。

ニタリと笑い、ダンテにコソコソ耳打ちをした。

 

Are you serious?(本気で言ってる?)

I'm always serious.(俺はいつでも本気だぜ)

 

引きつった顔の少年にあくどい笑みを浮かべる。

下でスパーダが聞き耳でも立てていたのかニコニコ笑顔で待ち構えていた。

 

That cracks me up!(超面白そうじゃん!)

 

君ならそういうと思ったよ。

 

 

 

 

 

 

 

夕方になり、工房から帰ろうとすると部屋の主から声をかけられる。

不思議そうに俺は振り返った。

 

「バージル、今日は"紳士的"にな」

「なんのこと?」

「イロイロとさ」

 

シードおじさんは帰ってから青い綺麗な布を使って何か洋服を作っている。

急にそんな作業を始めたから気になって聞いたところ"俺に洋裁の才があるとは流石に思わなかった"と意味不明なことを言っていた。

思い出し笑いなのかいきなり肩を揺らしたり、ドレスらしきデザインを描いたり様子が変で気持ち悪かった。

 

外に出た時何かあったのだろうか。

ものすごくシードおじさんが気になるが、そろそろ家に帰らなければ怒られてしまう。

この家に来る時に買った姿見と違うデザインのものが置かれた工房に入り、首を傾げながらも家に帰る次元の狭間に足を突っ込んだ。

 

出た先は子供部屋。

両端にベッドが置かれている小さな部屋に出て、借りてきた本を置こうと自分のベッドに目線を向けると思わず眉をしかめるものが視界に映った。

 

品のある真っ赤なドレスに身を包んだ小さな子供が俺のベッドに座っていた。

憂う様に夕日が差し込む窓を見る姿はどこかのご令嬢かのよう。

白い髪には控えめな髪飾りが付けられており、どこからどう見ても綺麗な少女である。

しかし、俺にはその子供の正体がはっきりわかった。

 

「…何してるんだ、ダンテ」

 

ビクリッ!と大袈裟なほど肩を跳ねさせたダンテが不安げにこちらを見る。

いつもの喧しさは鳴りを潜め、だんまりだ。

靴は流石にヒールではなく普通のブーツだが、大股に座るダンテがきっちり足を閉じているのはとてつもなく珍しい。

あの徹底主義(シードおじさん)のことだから下着に至るまで自作してダンテに着せているのだろう。

 

外に出ていた数時間の間にこれ程までの仕上がりでドレスを一着作ってみせる悪魔的所業に恐れ入るが、職人技を別のところに生かしてほしい。

いい笑顔で"今日のダンテはきっとおとなしい"と言うものだから疑いの眼差しを向けてしまったが、たしかに彼の言う通りであった。

ただ遊びたいがためにやったのだろうけど。

紳士的にとはこういうことだったか。

 

「嫌なら嫌だって言わないとシードおじさんは止めてくれないぞ」

「…だって、こうすればバージルが一緒に居てくれるって」

 

あの悪魔、何ナチュラルにダンテのことを騙しているんだ。

思わず大きなため息をつくと弟がしょぼしょぼ縮んでいく。

相当恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。

 

「別にお前が喚かず騒がず、普通に頼んでくれば無下にしたりしないよ。そんな格好しなくても」

「うっ…ごめんなさい…」

「いつもそのぐらい素直で静かでいて」

 

目に大粒の涙を溜め込むダンテに肩をすくめる。

これ以上何か言うと本気で泣き出しそうだ。

仕方なく、弟の前に片手を差し出すと不安げな顔で手を見る。

 

「ご飯行かないと、母さんに怒られる」

「…うん」

 

少し嬉しそうに手を握り返してきた。

 

 

 

 

 

 

翌日、二人でシードおじさんの工房に行くと同じサイズの赤いドレスと青いドレスが数着並んでいた。

なんだこれ、昨日までこんなのなかったじゃないか。

満足げに両手に持った裁ちバサミを回す姿に背筋に氷のような冷たさが這う。

 

Good timing.(いいところに来た)

 

ニタリとあくどい笑みを浮かべるシードおじさんに顔が引きつった。

 

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