It's not a joke to cry!   作:急須

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Vampire

突然、ダンテが朝食を代わりに作ると言い出した。

 

What happened all of a sudden?(急にどうした?)

You don't want to? (だめなのか?)

Ah…it doesn't matter.(まあ…構わないけど)

 

小さい頃から自分がいなければ問答無用でキッチンに立たせすらしなかったが、彼は既に大人と言っていい。

まだ二十歳を超えていなくとも多少家に金を収めている。

彼の行動を制限する理由もなかった。

しかし面倒臭がりで出されたものしか食べないあのダンテが料理。

 

昔無理やりやらせた時はまあまあな味で、大雑把に作っていた記憶がある。

武器と同じように創作しまくりの俺とは違い、レシピを見てから適当に味見でなんとかするタイプだ。

変なものは出てこないだろう。

 

「ここで見ててもいいか」

「いや、アンタは昨日寝ちまって依頼の品出来てねぇんだろ。早く仕上げてこいよ」

「お前、気を回せるようになったのか…!?」

「ぶん殴るぞ」

 

殴られたくはないので笑いながら工房に足を向けた。

確かに昨日やり残した細工がそのままだ。

あとは仕上げだけで納品は明日になっている。

終わり次第趣味の武器作りを行うのも悪くない。

ニールの婆さんに言われて銃も最近手を出し始めた。

 

構造や並びなどは知っていても作るまでには至っていなかったのだ。

バラバラの部品でガンブレードと言われるとんでも武器を作った時にはニールの婆さんに銃口突きつけられた。

"お前さん銃なめてんのか?"と婆さんに凄まれたときは流石に反省した。

あれはあれでいいと思ったんだけどなー。

 

「なあ、トマトジュース飲めるっけ」

「あ?なんだ藪から棒に。飲めるけど」

「そっか」

 

トマトジュースが好きなダンテのために毎度買い出しの時は必ず二本は買っている。

どうせ飲む奴がいるから好んで口をつけたことはないが、何故聞いてきたのか。

んん?と首を傾げつつも細工作業に戻った。

 

――数十分して食卓にお呼ばれしたため、持っていた工具を置く。

結局一般的なオートマチックハンドガンを作っていたのだが、意外と設計通りに組み込むのに四苦八苦していた。

威力のわりに繊細な技術が必要な代物だ。

 

「銃?」

「ニール婆さん直伝の。初心者はまずこれからやれっていくつか設計図貰ったんだよ」

「アンタが弟子入りねぇ」

 

俺が手に持っているどこにでもあるような銃を構えるダンテはなかなか様になっている。

だが素材は人間界にあるものなので今までやってきたようにぶち壊されるのがオチだ。

 

「悪魔はなんだかんだ言って剣士気取りなのさ。銃は人間が使うもんだって考えの奴も多い。かく言う俺も武器としては好きだが使うとなると抵抗ある」

「そう言うもんなのか」

「だから対策も甘い。俺特製の魔術がこもった鉛玉は悪魔によく効くだろ?」

「いい声で鳴いてくれるな」

 

投げよこした試作品を受け取り、作業台に置く。

凝り固まった肩を回しながら食卓に行くと、ボルシチとトマトジュースが並べられていた。

随分赤いメニューだ。

 

「コートが赤いからって飯まで赤くするか?」

「悪魔らしい食卓だろう」

「そりゃあ確かに」

 

では遠慮なく。

湯気が立ち上るボルシチを口に含んだ途端、グラリと視界が揺れた。

なんだこれは。

美味い。

魔力が溢れてくるような美味さだ。

あのクソ不味い悪魔のような栄養価なのに人間のソレと同じような美味さで。

これは癖に…。

 

「ゴホッ!!」

 

急いでシンクまで走り、口に入れていたスープを全て吐き出した。

指の先がミシリと音を立てて白く硬くなっている。

少しだけ人間への擬態が解けている証拠だった。

強者の、しかもこれは半魔の血の味だ。

 

「人の飯に血を入れるのはスピリチュアルに没入した女だけだと思ってたぜ…」

「なんだ。アンタの主食だって書いてあったから美味く感じるのかと思ってた」

「極上に美味だったよ!チクショウ!」

 

スンッと鼻を寄せて匂いを嗅ぐと思わずがっつきたくなるほど美味そうな匂いがする。

悪魔の血はあんなにも不味いのに栄養価は抜群。

人間の血はあんなにもうまいのに栄養がまるでない。

その中間をいくハイブリットの美味さに品性など忘れてしゃぶり尽くしたい気分だ。

 

「若いからか血の舌触りが最高だ…今まで食ったどんな奴よりも美味い…ぐう…I really want that.(めっちゃ食いたい)

「栄養摂取方法は血しかないんだろ。今までも食ってたんじゃないのか」

「輸血パック買ってその辺でとっ捕まえた悪魔食いながらジュース感覚で飲んでた」

「悪魔の踊り食いと血のジュースとかクレイジーすぎるだろ」

 

裏路地で人間に発見されないようにわざわざ魔術で結界を張ってまでそうしなければならなかった。

スパーダとの約束で人間からの同意のない血液摂取はタブーである。

わざわざ守る必要もないと言えばそうだが、なんとなくできないままここまで生きてきた。

一度摂取すれば一週間は人間のように食べ物からの栄養で持たせられる。

 

ちなみに動物の血も試したことがある。

栄養どころか味すら感じず、悪魔か人間からしか意味がないことがわかった。

選り好みするとはお高くとまった種族(毒の樹)である。

え?輸血パックの入手ルート?

そこはほら、裏社会の闇なのさ。

 

「なんでこんな悪戯しやがったんだ」

「日頃の感謝の気持ちを込めて」

「俺は人間の血は必要以上に飲まないって手記に書いた気がするんだがぁ?」

 

どうやらダンテはわかってやらかした様子だ。

とんでもない悪戯小僧である。

そうまでして俺を苦しめて楽しいか。

 

「ほら食えよ。俺が自分で分けてんだ。"同意の上"だろう?」

「絶対くわねぇ。こんなの覚えたら他のなんか口にできなくなる」

 

冷静になるんだ俺。

とても冷えたトマトジュースを飲んで落ち着こうと口をつけた瞬間、再びシンクにダッシュする。

こ、こいつ…!

トマトジュースにまで…!

 

You suck!!(最低!!)

I'm really glad you liked it.(お気に召したようで何より)

 

少し口にしただけで俺の素直な舌は味を覚えてしまったようだ。

反射で手を伸ばしそうになるのを必死にこらえ、目を背ける。

こんな美味いモノが目の前に塊であるのに少量分けられただけで我慢できるとは思えない。

記憶がぶっ飛ぶほど頭がおかしくなって覚えたての子供のようにダンテに牙をたてそうだ。

 

「ほら、残さず食えよ。出されたもの残すなって俺に教えたのはアンタだぜ」

「ンーッ!」

 

口を閉じて顔を背ける俺に無情にもスプーンが向けられる。

ボルシチは本来血でできた食べ物ではないはずなのに、今赤い液体を見るとドロリとした血液に見えてしまう。

匂いもダメだ。

意識すればするほど血の匂いが鼻腔をくすぐる。

差し出されたスプーンから目を逸らし、唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

その日、俺はベッドから出ることはなかった。

 

I’m so sorry.(マジでごめん)

 

ベッドサイドにかろうじて置かれている小さなテーブルに水を置きながら、ダンテは本気で謝罪の言葉を口にした。

相当栄養があったのか、ただ単に体に合ったのかは定かではないが俺の容姿がすっかり若くなってしまったのである。

もう一ヶ月は何も口にしなくていい程健康体になった。

 

しかし、同意があるとはいえ友人から託された大切な子供の血を飲んでしまった自分への自己嫌悪でもう何も手につかない。

美味いと思ってしまった自分の感覚にも嫌気がさす。

いや本能的に美味いと感じるものなのだけれど、世界に殆どいない半魔の血があんなに美味いだなんで信じられない。

 

I want you to burn.(燃やしてくれ…)I want to be firewood.(薪になりたい…)

 

血を養分にする悪食の樹が燃えるかなんて知りたくもないが無性に薪になりたい気分だった。

そのまま延焼して街一つ破壊してしまいそうだ。

 

半魔の血液の美味さは最早他と比べようもないものだった。

ただ美味なるだけならいざ知らず、明らかに様々な能力が向上している。

これではまるで俺が食うためにダンテを育てていたみたいじゃないか。

 

「いっそ殴ってくれ…エヴァに顔向けできない…スパーダに斬られたい…」

「そんなに落ち込むものなのか」

「俺は君を食料として見たことなんて一度もない。たとえ飢え死ぬ寸前でも絶対に飲まないつもりで今まで君を育ててきたんだ」

 

それがどうだ。

いざ目の前に差し出されたら抵抗する意思など全く意味をなさず、気がついた時には胃の中だ。

ダイエットを決意した女性の方が幾分か忍耐があるというものだ。

 

「それが本来の姿なのか?」

「人間の老いと悪魔の見せかけは違う。俺のはわざとああなっていた。一番力が出るのはこの若い見た目ってだけだ。養分がなくても一応この姿にはなれる」

「わざわざ歳をとってたのか!」

「人間相応に歳をとらねばいずれバレてしまうから…ああ…枯木になりたい…」

 

ぐずぐずになってベッドに項垂れる俺の側にはブラッディマリーと魔剣リベリオンが置かれている。

意思のある彼女達の呆れたような雰囲気が辛い。

マリーは特に俺の決意をよく聞いて応援してくれていたから尚のこと苦しい。

不甲斐ない父で本当に申し訳ない。

リベリオンにもとても謝りたい。

事故とはいえ彼の主人に無体を働いたも同然だ。

 

マリーの呆れたような声が聞こえる。

――どうしてボルシチの時点で怪しいと思わなかったの。

 

その通りだ、マリー。

料理の時点で相当ハードルが高いあのダンテがボルシチなんてあり得ないと思うべきだった。

トマト嫌いの彼がわざわざトマトピューレを作るなんて何か企んでいるに決まっている。

 

リベリオンが静かに痛いところを突いてくる。

――だからスパーダに"お前は時々抜けているから気をつけろ"などと言われてしまうんだ。

主人が抜けているのはお前に似たのだろう。

 

コメントし辛いことを言わないでくれよリベリオン。

たしかにダンテの間抜けなところは俺に似たかもしれないがあそこまでじゃない。

俺の方が数千年分の老獪だ。

いや、このザマでは言い訳がましいことこの上ないけど。

 

「リベリオン、マリー。あんまりシードをいじめてやるなよ。今回は俺が悪かったって」

「ダンテ、この子達は俺の一番ダメなところをいい加減直せって説教してるだけさ。善処します…本当マジで」

 

何だかんだ言って、リベリオンともマリーとも長い付き合いだ。

リベリオンとはスパーダと出会ってから、マリーとは閻魔刀を作った後から共にある。

リベリオンは知らないが、マリーは俺が昔食った吸血種の悪魔が宿っている。

ズケズケと言ってくるし時々発言に棘があるのはそう言った面の所為だったりもする。

 

今回は特に俺が落ち込んでいるものだから棘が柔らかめだ。

悪魔だろうと刀だろうと主人に似るものなのだろうか。

魔剣が気遣いって。

 

「あー…そろそろ婆さんのところに銃を取りに行く時間じゃないか」

「本当だ。シード、一人にして大丈夫か」

「俺の精神的ダメージがでかいだけで肉体はすこぶる調子がいい。気にすることはないから行ってきなさい」

「マジでごめんな。なんか甘いも買ってくる。行こう、リベリオン」

 

リベリオンを抱えて寝室から出て行くのを見届けて、マリーを壁に立てかける。

枕に顔を埋めると小さく溜息をついた。

漸くダンテが離れてくれた。

今のうちに体内で飲み込んでしまった血の処理を行ってしまおう。

眠っていた方が効率が高くなるため、眠るために目を閉じた。

 

「マリー、留守を頼む」

 

返事のない彼女などいつものことで、どうせ何かあれば起こしてくれるとわかっている。

久方振りに深く意識を飛ばす中、軽く息を吐いた。

帰ってきたらリベリオンの手入れでもしてやろう。

 

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