東方残火廻~火の無い灰の幻想入り~   作:直剣ブンブン

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新天地

 

 

__そうさね。

 

そこは“幻想郷”。

 

人々から忘れ去られた、幻想となりし者たちが、流れ着く場所さね。

 

遥か東方の地、その山奥のどこかにある、けれど誰にも見つけられない、妖怪の賢者の手によって外の世界から完全に隔離された箱庭……それ故に、存在を否定された者たち、特に人々に妖怪と呼ばれる種族にとっては、正しく楽園であった。

 

幻想郷では、様々な種族が暮らしている。

 

妖怪、妖精、魔法使い、悪魔、果てには神や仙人まで数多く……そして、それらが少ない人間たちと共存していた。

 

そんな歪な場所に、“火の無い灰”が迷い込む。

 

かつて、人間性を捧げた男。

 

かつて、絶望を焚べた男。

 

薪にもなれなんだ、呪われた不死。デーモンを殺し、神を殺し、巨人を殺し、闇を殺し、王を殺し、残り火を求めながら火を消した、王にも英雄にもなろうとしなかった者……果たして幻想の地で何を成そうというのか。

 

そんなの、分かりきったことさね。

 

__きっと、彼はまた残り火を求めるだろう。どこへ往こうが、灰は灰なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灰は、困惑していた。

 

あの闇の中で、火防女の声が聴こえ、それに返事をしようとした瞬間、辺りの景色が変わった。

 

それに関しては構わない。いつものように、灰の墓所で目覚めて再び王狩りの日々に戻るだけなのだから。

 

__しかし、今回は違った。

 

見たことのない、緑色の棒のような植物が生い茂る森の中。空に浮かぶのはあのダークリングのような皆既日食ではなく、青白く輝く満月……暗月の女神が深みの聖者に喰われた今ではまず見れない光景である。

 

__そこから導き出される答えは一つ。

 

 

「……別の場所に転移させられたか」

 

 

絵画世界のような異世界か、それともウーラシールや吹き溜まりのように過去か未来に飛ばされたか……どちらにせよ、いつものような“周回”とは違うようだ。

 

こういうことを何度も経験してきたからだろうか。灰は、この異常事態に異様なまでに落ち着いていた。

 

しかし、ドラングレイグやロスリックの時とは明らかに違う現象が起きていた。今までなら、素性も装備も能力(レベル)もリセットされていたにも関わらず、今回は装備もレベルもそのままであり、(オレ)たちの化身を倒した時のままの状態だったのだ。

 

 

「まあいい……とりあえず、“篝火”を探すか」

 

 

不思議に思うが、それだけ。むしろ好都合だと灰は愛用の大剣(クレイモア)を携え、歩き出す。

 

試しに“螺旋剣の破片”を使ってみたが、反応無し。エレーミアス絵画世界のようなものだろうか。

 

ならばやることは一つ。

 

エリア全体を探索だ。どんな敵が居るのか、どんなアイテムが落ちているのか、どんな初見殺しがあるのか、ボスへの近道(ショートカット)はどこか、そもそもボス部屋はどこなのか、隈無く見つけ出す、不死人の基本である。

 

何よりも、“篝火”を見つけなければならない。

 

 

(その後は……まあ、そのうち分かるだろう)

 

 

今回の己は、何を目的とするのだろうか。

 

二つの鐘を鳴らせ。王のソウルを集めろ。古のソウルを集めろ。古王の冠を集めろ。王の薪を集めろ。そういう目的を託されるなり頼まれるなりされ、それを目指して好き勝手に動く。

 

ロードランでも、ドラングレイグでも、ロスリックでも、灰はそうやって各地を旅していた。

 

 

(しかし、根っこらしきものも見当たらないし……本当に見たことのない植物だな……)

 

 

生い茂る自分よりも身長の高い植物群を見ながら不死は思う。それは()、という彼の世界において主に東国近隣に生えている植物なのだが、東国など行ったこともない灰が分かるはずもなかった。

 

 

「グルルルルル……!」

 

「ん?」

 

 

__その時だった。

 

竹藪から獰猛な唸り声が聴こえてくる。

 

 

「……亡者、ではないな」

 

 

それは、一見すると人のようであったが、鋭く長い牙と爪を持ち、身体の所々が獣のように毛深い。眼は血走っており、口からは大量の涎をダラダラと垂らしている。

 

飢えた獣、といったところか。まるでソウルに飢える亡者のようだと灰は思う。

 

 

「シャアア!!」

 

 

しばらく睨み合い、動こうとしない灰に痺れを切らした異形は雄叫びをあげ、その爪を振り翳さんと飛び掛かる。

 

__ガキィン!

 

 

それに対し、灰は即座に盾を構え、攻撃を防く。

 

重い。なかなかの膂力だ。動きも犬には劣るが、素早い。すかさず灰はクレイモアを振るい、がら空きとなった胴体を切り裂いた。

 

 

「ギャッ!?」

 

 

大きく開いた傷口から夥しい量の血が噴出する。異形は悲鳴をあげ、のたうち回る。膂力や俊敏さはなかなかだが、肉体自体は脆く、また強靭も無さそうだ。

 

__つまり、大した敵ではない。

 

 

「む、これは……」

 

 

しかし、灰はあることに気付く。異形の身体の傷が徐々にだが、塞がりつつあったのだ。

 

 

「再生、しているのか……?」

 

 

灰は驚く。あまり見ないタイプの敵だ。再生速度もかなり高く数分も経てば完治しそうな勢いである。

 

ならば悠長にしている暇はない。灰は、更にクレイモアを振るい、間髪入れず二撃、三撃と切り付けていく。

 

 

「ギャッ……!?」

 

 

数度、斬撃を浴びせ、漸く異形はそのまま力無く倒れ伏す。しばらくピクピクと痙攣していたが、やがて動かなくなる。己の身体に決して少なくはないソウルが供給されていくのを確認し、灰はやっと死んだかと安心する。

 

再生速度はかなりのものだった。強さ自体は大したことないが、こうもしぶといとなかなか厄介だ。これがもし群れで現れたとしたら……。

 

 

「グルルルル……」

 

「!!」

 

 

__ゾッとする。そう言葉を繋ぐ前にそれは現実のものとなった。

 

同じような唸り声が四方八方から響いてくる。どうやら取り囲まれたようだ。

 

最初から潜んでいたのか、或いは同族の血の匂いに引き寄せられたのか……どちらにせよ、こればかりは灰にとって部が悪い。

 

灰は、複数の敵を相手にすることを酷く苦手としていた。例え一撃で倒せるような敵だろうが、多く居て一斉に襲い掛かってきたら数の暴力であっという間に殺されてしまう。

 

特に犬や鼠といった素早い敵は、神や竜、巨人などよりも遥かに恐ろしい強敵であるのだ。あと車輪骸骨。

 

 

「__面白い」

 

 

そして、そんな危機的状況下で、灰は笑みを浮かべる。ロードランで、ドラングレイグで、ロスリックで、こういう絶体絶命の事態を経験し、実際に幾度も死んできた。

 

しかし、いつからだろうか。死ぬかもしれないという状況を、楽しんでいる己が居た。戦いを、死を、楽しむ。そういう性分だったからこそ、灰は理性無き亡者とならず今までやっていけたのだろう。

 

 

「かかってこい。貴公らのソウル、拝領させてもらおう」

 

「……シャアア!!」

 

 

灰の挑発に乗り、一匹の異形が先陣を切って飛び出し、その首が宙を舞った。

 

 

「ギャオオオ!!」

 

「ガルァ!!」

 

「グオオオ!!」

 

 

それと同時に、異形たちが四方から我先にと灰へ襲い掛かる。よく見るとそれぞれ姿が違う。完全に同じ種族ではないのだろう。

 

灰は、飛び掛かる前方の異形の股下を潜り抜けるように前転(ローリング)し、異形たちの同時攻撃を回避する。

 

 

「…………ッ!?」

 

 

まさか避けられるとは思わなかったのか、異形たちは驚きを隠せない様子だ。

 

灰の動きは止まらない。どこからともなく取り出した炭松脂を塗り、クレイモアの刀身に炎を纏わせる。エンチャントという奴だ。

 

これは威力増強の他、再生するのならば、傷口を焼いてしまえばいいという考えによるものだった。

 

 

「ふんっ!」

 

 

異形たちが動揺している隙に灰が、クレイモアを振るう。それだけで刃の届く範囲に居た異形は首や胴体を切断され、絶命させられる。

 

やはり炎は有効だったようで特に毛深い異形は絶叫しながら燃えていた。

 

 

「シャアア!!」

 

 

横から異形が爪を振り翳す。そんなのは予測済みとばかりに灰は盾を構え、それを受け止めるが__。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

背後から迫っていた異形が灰の下腹部を貫く。

 

一瞬、灰は苦痛に顔を歪ませるが、即座に前の異形を蹴り飛ばし、背後の異形へクレイモアを振り下ろし、その頭に突き立てる。

 

 

「ギャッ!?」

 

「生憎と痛みには慣れている……!」

 

 

脳が焼かれる痛みにのたうち回る異形。対して灰は傷口から血が絶え間なく流れているにも関わらず、まるで何事もなかったかのように別の異形へ斬りかかっていく。

 

 

「くっ……そろそろ回復しとくか」

 

 

そして、粗方の異形を切り捨て、もう近くに居ないことを確認すると灰は懐から“エスト瓶”を取り出し、一口飲む。

 

すると至る所にあった傷が一瞬にして癒えていく。エスト瓶の使用できる回数は残り5回。王たちの化身との戦闘からそのままだからだ。

 

故に、あまり無駄遣いはしたくない。

 

 

「さて、だいぶ殺したが……」

 

「グルルルルルルル……!」

 

「……やれやれ。まるで深みの聖堂の亡者のよう……いや、罪の都の鼠のようなものか? 吹き溜まりの湿り人のような地獄は勘弁してほしいが」

 

 

ぞろぞろと現れる異形たち。先程切り捨てた異形の何匹かも殺し損なっており、ゆっくりだが、再生し始めている。

 

正に絶望的な状況。この時、灰は遥か昔に知り合い、殺した、女神の騎士の言葉を思い出す。

 

 

「__哀れだよ、炎に向かう、蛾のようだ」

 

 

灰は絶望など微塵も感じていなかった。かつて、“絶望を焚べる者”と呼ばれた身。この程度の危機は幾度も経験し、踏破してきた。

 

死にながら__。

 

 

「やれるだけやってやろう」

 

 

いつものように、文字通り死ぬ気で、死ぬまで戦い抜く。そして、死ねば再び挑み、勝つまで、殺し尽くすまで、戦い続ける。

 

それが、灰であり、不死の基本だ。尤も、大半が心折れて亡者になる訳だが……。

 

 

「__往くぞ」

 

 

両手待ちにしたクレイモアを構え、灰は異形の群れへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__どれくらいの時間が過ぎただろうか。

 

 

「ハァ……ハァ……流石に疲れるな」

 

 

息を切らす灰の周囲には、死体の山が築かれ、血の海が出来上がっている。

 

あれから灰は、ただひたすら戦い、殺し続けた。

 

手に持つクレイモアには血だけでなく、肉片がべったりとこびり付いている。こんなになるまで使い続けても多少の刃零れはあれど、切れ味を失っていないのは流石は神々の鍛冶素材である“楔石の原盤”を使用して鍛え上げられた一振りだろう。

 

数の暴力で灰を蹂躙せんとする異形。しかし、途中から、彼らは狩る者から狩られる者へと転換し、一方的な殺戮と化した。

 

痛みに怯まず、普通の人間ならば明らかに致命傷のはずの傷にも平然とし、鬼神の如く戦う灰に一部の異形が臆したのか後退し始めたからだ。

 

そんな者たちから、灰は優先的に殺す。逃げる者はクロスボウや火炎壺で徹底的に殺した。仲間を呼ばれたら堪ったものじゃないからである。

 

やがて動きのパターンも把握し、攻撃を見切るようになってからはもう無双状態だった。それでも獰猛な異形たちは、灰を喰らおうと溢れ返るように襲ってくる。

 

しかし、もはや灰の敵ではなく、悉く殺し尽くされる。百を優に越える夥しい死体の山が、それを物語っていた。

 

だというのに__。

 

 

「グルルルル……」

 

「まったく……いい加減にしてくれないか?」

 

 

異形はまだまだ現れる。

 

これには流石の灰も溜め息を吐く。もはや先程のような気持ちの昂りはない。同じような敵を延々と相手にして、何が楽しいというのか。

 

__すると次の瞬間。辺りが炎に包まれる。

 

 

「…………!?」

 

 

突然のことに驚く灰。炎は、まるで“炎の嵐”のように広がり、灰の周囲に居た異形を一人残らず、一瞬にして焼き尽くし、消し炭にしてしまう。

 

 

「大丈夫か? あんた」

 

 

そして、声が、背後から女の声がする。

 

振り向いてみると、そこには紅い瞳をした、長い白髪の少女が立っていた。

 

 

「貴公は……?」

 

 

__これが、“友”との最初の出会いだった。

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