真紅の穿炎-Granbrue prominence- 作:山鳥心士
あたしはマルテの案内で大社の中に入った。ダダっ広い大社の中は子供二人で生活するには広く、静かすぎた。
「どうぞ、入って」
マルテは襖を開けてあたしを座敷に通した。
「ありがと。はいこれ、後から食べるなら冷やしておいたほうがいいかも」
ケーキを渡すとマルテはキョトンとした表情をみせた。どうしたらいいか分からずあたふたとしている。
「ケーキのお皿とフォーク私が持ってくるね!」
ティケはうきうきとキッチンへ向かった。置いてけぼりとなったマルテは後を追いかけるか、あたしと部屋で待つか迷っている。初めのマルテに対する印象は不愛想でとっつきにくい感じがしたが、よく観察してみると人見知りがちのかわいい男の子だ。
「ティケちゃんが来るまでにさっきの言葉の意味を教えてほしいな」
「う、うん」
床に置いてあるテーブルを挟んで座る。土足禁止の文化はあまり慣れていなく、座布団に座るというのはなんというか、いけないことをしているような感じがした。
「お姉ちゃんはティケがはっきりと見えてるの?」
「うん、見えてるわよ。その言い草だとティケちゃんがお化けかなにかみたいよ」
「お化け・・・ではない、と思う」
歯切れが悪い。はっきりと断言できないということはマルテ自身もティケのことを何者なのか確証を得ていないのではないか? この子たちはどういった関係でこの静かすぎる大社に暮らしているのだろうか。
「マルテくんはティケちゃんをどう思っているの?」
「どう・・・。大切な友達で、家族だと思ってる。ティケは僕が物心つく前から一緒にいたんだ。だけど、島の人たちは誰もティケを知らない―――、見えていないんだ!」
「島の人たちは見えていない。それって昨日の記憶がないのと関係していたりする?」
「たぶん。この島はずっとおかしいんだ」
やはりこの子たちと星晶獣は関係がある。だけど運命を操る能力と、記憶がリセットされるというのは因果関係があるとは言い難い。もう少し材料が欲しいところだ。
マルテはこの島の様子がずっとおかしいと言った。ずっと。それはいつからだろうか。
あたしは息を呑んだ。
マルテとティケが出会ったのはマルテの物心がつく前。ずっとおかしい。島の人たちはティケが見えていない。ずっと・・・。
「ね、ねぇマルテくん。そのずっとっていうのはいつからなの?」
「わからない。だけど、僕が神子であるということがわかった日からずっとなのは確かだよ。それで、祭りの前日を何回も何回も繰り返しているんだ。今日で3648回だよ」
「ちょ、ちょっと待って! 3648回!? 意味が分からないんだけど!?」
突拍子もない言葉に私は混乱した。3648回繰り返している、つまり約9年間も島の人たちは記憶をリセットされ、マルテとティケは記憶を維持したまま繰り返される日々を送っていたということになる。想像しがたいが、常人であれば狂ってしまう歳月だろう。
「ご、ごめんなさい」
マルテは耳をしゅんと垂らしてうつ向いてしまった。
「ああっ、ごめん! 大声を出すつもりはなかったの。だけどこれは普通じゃないわ、マルテくんやティケちゃんが正気を保てるのが奇跡みたいなものよ」
「僕もそう思う。だけど体が成長しなくなってから心のほうもおかしいんだ。なんて言ったらいいのかわからないけど、同じものを毎日見ても初めて見たみたいな感じ」
体が成長しなくなってから? あたしは一つ見落としていたようだ。マルテは見た目10歳から12歳ほどの子供だ。そんな子供が約9年間性格に繰り返される日数を数えられるだろうか、1歳から3歳ほどの子供が。
「マルテくん、その3648回というのは君が何歳になってから数えたもの?」
「えっと・・・10歳の時」
ああ、やっぱり。この子たちは時間だけの年齢で言うと19歳。だけど、肉体と精神の成長が止まってしまっている。それはこの子たちだけではない、この島の人たち全員がそうなのだろう。
「おまたせ~! お姉ちゃんの分のフォークがなかなか見つからなかったよ~」
えへへとティケは陽気に座敷へとお皿とフォークを3人分運んできた。
問題はこのティケという少女。島の人はティケの存在を認識していない。だけどあたしにははっきりと人間の女の子として認識している。それはマルテも同じ。そして記憶を保持して繰り返しの毎日を過ごしている。
「ゼタお姉ちゃん怖い顔してるけど何かあったの? 大丈夫?」
ティケは無邪気な笑顔を向けてあたしの顔を覗き込む。
「ううん、大丈夫。ケーキ食べよっか! いろんな種類買ったから選んでいいよ。マルテ君も選んで選んで!」
想像を絶する出来事がこの島で起きている。いきなりこんな話を聞かされたのだから自然と脳が糖分を欲してしまう。ひとまずは休憩を挟んでから調査に乗り出そう。
ケーキを選ぶ二人の様子はとても9年間同じ日々を過ごしてきたようには見えない。微笑ましい光景ではあるが、あたしには不気味だと感じてしまうのだった。