逃亡アイドルの辿り着く場所   作:スタプレ

2 / 12
意外に読んでくれてる方が多いので頑張ります。

切るタイミングが分からず書いていたらいつもより多くなってしまった...


1話 少女は全てを語る

「まだ目覚めないか。」

 

ここは田舎の駅蒲萄川客室用の部屋。簡易的なベッドの上には桃色の髪の少女が静かに眠っている。ネットをもう1回確認したらあの炎上したアイドルだった。名前は丸山彩というらしい。

 

蒲萄川駅員でありここの家の主である俺、十里セイヤは駅事務室とこの部屋を行き来している。

 

いくら鈍感でも何かあったからここに来たのは分かる。彼女は幸せそうな表情をしていなければ、悪夢で苦しそうな顔もしてない。用意した水は夏の暑さでぬるくなってしまった。

 

「さてもうすぐ夜か。さて、どうしたらよいのだろうか...」

 

夏だから6時でも明るい。しかし夕日が唯一の光で、このまま暗くなるのを待つか、カーテン閉めて電気をつけるか。迷わなくてもいいことを迷っていると彼女が目覚めてしまった。

 

「.........」

 

彩は窓の方を見て自分が何処にいるかすぐに把握したみたい。そして自分の方を見てから重く俯く。

 

俺の存在が助けてくれた人だというのも察しただろう。この黙秘は恐らく事情を話さなければならないという覚悟だろう。

 

結構精神状態が危ういな。こんな時に事情を聞くものではない。

 

「君がどういう状態かは残念ながら分からない。今日は列車もないからここで泊まって行きなさい。腹は減ってるか?」

 

「.....」コクッ

 

「ご飯出来てるから一緒に食べよう。」

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃいただきまーす!」

 

今日のメニューは近くの川で釣れた鮎の塩焼き。いざ食べようとふと顔を上げると彩が何かゴソゴソとしていた。

 

「どうしたの?食べないの?」

 

そして彩はポケットから可愛い財布を取り出した。

 

「お金はいらないよ。気にしないで好きなだけ食べて。」

 

「.....」

 

最初は戸惑っていたものの、観念したのかようやく食べ始めてくれた。

 

「...........いただきます。」

 

 

.......え?

 

 

一瞬思考が止まってずっと彼女を見ていた。アイドルのボーカルだからてっきり甘ったるい声をしていると勝手に思っていた。

 

しかし彼女の声はとても澄んでいる。アイドルというよりは歌姫なのでは?

 

彩は美味しいご飯に夢中になってガン見されていることに気がついてない。

 

 

おっといかんいかん。そろそろ駅に戻らないと。

 

「ごちそうさま。じゃあ俺は仕事に戻るね。」

 

「...」

 

「お風呂も沸かしてあるから好きな時間に入ってね。寝巻きも用意してあるから。流石にサイズ分からないから何種類か用意したけど...多分大丈夫なはず。」

 

「.....」コクッ

 

「それにさっき寝てた部屋も、自分の部屋だと思って自由に使って。食器はこのままでいいよ。それじゃごゆっくり〜。」

 

 

 

終電が行ってしまったら後はゆっくり出来る。本数があれだから夜は遅くならないし、朝も特別早くない。

「さて、皿でも洗いますか。」

 

そしてキッチンに行くと、ぐしゃぐしゃなはずのテーブルが綺麗に洗っている。

 

「もしかして洗ってくれた?」

 

乾燥器を覗くと綺麗に並べられた皿があった。

 

脱衣場を入ると寝巻きが1着ない。もう寝てしまったようだ。

 

「お行儀のいい女の子...なのかな?」

 

そして彼女がいる部屋の前に行くと、優しい寝息が聴こえてきた。

昼間に爆睡してたのに夜も寝れるのか。よっぽど疲れていたのだろう。

 

「皿洗いありがとな。そしておやすみ。」

 

と静かに微笑んだ。はたから見たら気持ち悪い笑顔だろうな。だからって警察に電話しようとしないでね。

 

 

 

 

翌日の朝も特に変わらない。

 

コーヒーをちまちま飲んで来ると想定して窓口に座っている。

 

 

「あの、おはようございます。」

 

澄んだ声の主は彩だ。

 

「おはよう。昨夜は眠れたか?」

 

「はい、お陰様で。ご飯もありがとうございました。」

 

「口に合えばよかったけど...」

 

「とても美味しかったですよ!」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ。」

 

よく考えるとこれが初めての会話だった。

 

彩は少しキョロキョロしてから重い口を開けた。

 

「今、大丈夫ですか?」

 

「見ての通り、暇だからいいよ。」

 

「私のことについて話します。」

 

「!?.........いいのか?聞いても。」

 

「お世話になっているのに自分の諸事情を話さない訳にはいきません。」

 

いくつかある椅子を用意して面接試験みたいに向き合った。

 

「私は丸山彩と言います。パステルパレットはご存知でしょうか?」

 

「ネットニュースで見た事ある。でもどんなグループかは知らないよ。ごめんね。」

 

「いえ、結成したばかりですから。知らなくて当然です。でもネットニュースで知ったならあの騒動を知ってますね。」

 

そこから彼女は話してくれた。

 

 

彩は幼い頃からアイドルを目指してた。そのため養成所もかなり早い時期から入って日々特訓をしていた。その努力の結晶は養成所一輝いていたらしい。

なぜ自分でそう言えるのか。後から入ったメンバーがユニット組んだりソロで出たりと周りが次々とデビューをしたからだ。そんな中彩は取り残され、ついに高校生になってもアイドルになる話は一切なかった。

 

「なんでこんなに頑張ってるのに?才能の問題なの?そんな気持ちで毎日過ごしてました。」

 

彼女に転機が訪れたのは高校生2年生になる前。事務所の意向で前代未聞のバンドアイドルを組むことに。

元々いた同年代の子を集めて結成したのがパステルパレット。そのボーカルが彩だった。

 

やっと.....夢が叶ったたんだ!これで私もアイドルになれる!

 

メンバー内の空気はお世辞でもいいとは言いづらい。しかし練習をやっていくうちに心を開き初め、ついに初ライブの日が来た。

 

正真正銘のデビュー。しかしその華やかしいデビューもスタッフの一言で変わる。

 

『当日は口パクでよろしく。』

 

『え?なんでですか!』

 

『ハッキリ言って君たちの実力はまだまだだ。彩ちゃんの歌だってまだ生で歌えるレベルまで達してない。だから音に合わせて当日は動いて。』

 

『.......分かりました。』

 

彼女は気づいた。自分の努力が報われたのではなく、ただ余り物だったのを仕方なく使っていた事を。スタッフから自分の努力を遠回しに否定されたことも。

 

 

そして本番。ライブは成功は言えなかった。観客の反応はイマイチだし、何しろネットでは『初めてのクセに口パクとは生意気だ』という理由で炎上した。

 

もちろんメンバー内の空気はまた悪くなる一方。ある子は自分の飛躍のための踏み台だとしか思ってなく、小さい踏み台を捨てようとしていた。

 

それだけではない。

彩はハンバーガーショップでバイトをしていた。クレーマーがいるのは日常茶飯事だが、今回の炎上が公になったので、その事をイジる客も出てきた。

 

いや、イジるよりはヤジだろう。励ましてくれる客は1人もいない。

 

『全ての人が私の努力を否定する!嘲笑う!誰も味方なんていない。』

 

そして彼女すら彼女の努力を否定し始めた。

 

『なんで私はアイドルを目指してるの?世の中私を否定するのに!まだ目指すの?バカバカしい!もう辛い思いするのは嫌だよぉ...』

 

誰も知らないところで嫌気が刺してくる。誰も知らないところで涙を流す。

 

『逃げたい!世の中から逃げたい!現実から逃げたい!こんな人生から逃げたい!!!』

 

鬱になった彼女は適当に新幹線に乗り、たくさんの電車に乗っては降りる。それを繰り返して...

 

「気づいたらここにいて、あなたに助けられていました。」

 

「そっか...もしかして線路にいたのは...」

 

「列車で自殺も考えていました。でも迷惑になると思いやめました。」

 

「じゃあなぜ?」

 

「適当に歩こうと思いフラフラ歩いていたら頭がぼんやりして気づいたらベッドで寝ていました。」

 

あぁ暑さで気を失っただけなのか。確かに日光を遮る建物ないからなここ。

 

「話を聞いてくれてありがとうございました。」

 

「なんか申し訳ない。辛い話をさせちゃって。」

 

「私も話せて少し楽になりました。」

 

彼女は立ち上がって深々と頭を下げた。

 

「ご迷惑をお掛けしました。私は東京へ戻ります。」

 

そこでふとある疑問が頭に浮かぶ。

 

「電車賃はあるのかい?」

 

ここは東京からかなり離れている。運賃も決して安くはない。

 

彩は財布の中身を確認すると、

 

「足りないです。」

 

と呟く。

 

「仕方ないないなぁ。俺がお小遣いあげるよ。流石に切符をそのまま渡すのはまずいから1回窓口に行って.........」

 

言葉が続かなかった。目の前にいる少女はまた泣き始めてしまったからだ。

 

「もう.......私、辛い...思い.....したくない!」

 

嗚咽混じりで続ける。

 

「それに.....たくさんの人を.....裏切った。.......東京なんて.....戻りたくない.....」

 

涙の訴えだった。

 

俺はすっと立ち上がって彼女の頭に手を置いた。

 

「それならここにいればいい。」

 

「う.......で、でも.......」

 

「嫌がっている女の子に帰れとは言えないよ。何か見つかるまで、気が済むまでここにいればいい。新しい自分も見つかると思うよ。」

 

「あ、ありがとうございます。じゃあ.......お言葉に甘えさせてもらいます。」

 

まだ目が乾いてない彼女がやっと笑ってくれた。その笑顔は暗い駅舎に灯す太陽みたいだ。

 

 

こうして、蒲萄川駅には予期もしなかった日常がこれから訪れてくる。

 




なんとこの作品に感想を書いてくれた方がいました!ありがとうございます!!本来個人で言うべきですが、言葉が見つからなかったのでこの場を借りてお礼を言わせて頂きました。

期待に応えられる作品を目指して頑張ります!

プロローグでも言った通り、前作『山吹色をもっと濃く』を優先して書く予定なのでこちらの作品の投稿ペースがかなり遅くなります。1ヶ月に1回は目指しますが...まぁ挫折します。途中放棄だけはしないようにします。あ、山吹色をもっと濃くもよろしく!(唐突な宣伝)

さて、この話を書いた日が旅行前日です。また旅行で起きたことも、番外編の山吹色であげるので、そっちもオナシャス(唐突な(ry)

それでは次回もお楽しみに
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。