今日は朝から雨が降っている。雨が降ることは珍しいことではない。ただ並かと聞かれたら今日は土砂降りだねと答えるレベルの大雨だ。
雨の日は若干混む。残念ながら当駅は例外ですが。
さて時は下り列車の始発が到着する時間だ。
「今日はやや遅れてるな〜」
ちなみにこの鉄道に数分の遅れはなんも影響はない。と思ってるとディーゼルの音が聞こえた。
列車はすぐに出発した。
「また今日も降りる人いたのか?最近乗降客数増えてね?ん?」
カラフルな頭を見掛けた。
「まさか!」
ネットニュースで見たから分かる。
「パステルパレットの人達だ...」
幸い彩ちゃんは歌練はしてない。このまま通せば大丈夫だろう。
彼女らは金髪の背の低い子を先頭に迷わずこちらに来た。大丈夫、目撃情報を聞かれるだけだ。
「ありがとうございました。」
「すみません。」
「はい、どうされました?」
ほら来たぞ。
「そちらに丸山彩という女の子はいませんか?」
「!?」
結構ダイレクトに来たな。もうここにいること前提の質問だ。危うく動揺するところだった。
「いえ、ご存知ないですね。」
「そうですか。先週後輩たちがここに来た時に帰りの列車からピンクの髪をした子を見掛けたと聞きましたが...」
つ、強い...
そういえばポピパと同じ学校の言ってたな。朝の散歩の時にちょうど見られたのか?
実は俺の方から「隠れろ!」とか「外出するな!」と言ったらこれこそ監禁になるのであまり口出ししなかった。
でも散歩ならまだ助かった。
「そうですか。しかし私はずっと駅にいるのでなんとも...」
「嘘ですね。何か知ってるはずです。」
「ど、どのような根拠があると...」
「後輩たちのやり取りも全て聞きました。」
これは完全に事情聴取だ。ていうか追い詰められてる気がする。
「その時1つ矛盾していることがあったんです。」
「...」
「始めパステルパレットをご存知ですか?という質問にあなたは『ネットでしか聞いた事ない』と答えました。」
「あぁ...」
「その後丸山彩のこと知りませんか?という問いに『見掛けてない』と答えた。ちょっとおかしいですよね。ネットでしか聞いた事ないのに、まるでどんな子かと知っている素振りでした。普通あまり知らないならどんな子ですか?と聞くはずです。」
そうか...結局ボロが出てたんだな。
あの時に彩ちゃんの情報は一切聞いてない。
「それでもしかしてと思いここに来ました。」
「......そうですか。」
「それに...先程の会話から確信しました。あなたは後輩と聞いて心当たりがあるようでしたね。それに何もかも知らないなら、少し戸惑うはずですよね?」
ダメだ。悪魔みたいに微笑んだその顔が、自分の敗北を語っている。
それでも......それでも守らなければ!
「いや、しかし...」
「もういいですよ。」
新たな声が聞こえた。ココ最近いつも聞く声だ。
後ろを振り向くと事務所入り口にピンクの髪の毛の女の子が立っていた。
『彩ちゃん!』
その場全員彼女名前を呼んだ。
「な、なんで...」
「もう十里さんには迷惑掛けられません。」
「でも...」
「覚悟はしてました。」
思ってた以上に巣立ちの準備をしていたらしい。
「みんな迷惑掛けてごめんね。ずっと十里さんにお世話になってもらったの。」
そこから彩ちゃんは初めてここに来たのと同じ説明を彼女らにする。
「そう。この度はうちの彩ちゃんがお世話になりました。」
金髪の少女はぺこりと頭を下げる。
そして彩ちゃんに向いてこう言う。
「恐らく活動を再開すると思うけど、今までよりもかなり過酷だと思う。それでもついていける?彩ちゃん。」
「う、うん...」
ん?なんでそんな曖昧なんだ?
「どうした?」
「大勢の人の前で歌える自信がない...」
あらら...その心配があったのか...
「うぅ...」
「じゃあここで歌う?」
「ここで?」
「そそ、川の前で。川の音を歓声だと思って。」
「音源もちゃんと用意してあるわよ。」
準備がいいですね。
「でも...」
「大丈夫!自然は笑ったりしないよ。思いっきり自然にぶつけようよ!」
気づいたら雨はどこに行ったんかと突っ込むぐらいスカッと晴れている。残念ながら虹は見えない。
「そういえばなんで川の前で歌うことを提案したんですか?」
メガネを掛けている子が聞いてきた。
「まぁ自信を付けるため...かな?」
「なんかちょっと違う気がしますけど...」
「練習と言うよりは気分転換。今のうちに取れる悩みは取っといた方がいいから。これですっきりすると思うよ。」
川は先程の雨の影響か、水がいつもよりは多いが濁ってはいない。
「それで何歌うの?」
「そうね、彩ちゃんが歌うから彩ちゃんの好きなもので。」
「じゃあしゅわりん☆どり〜みんで!」
初めて聞く名前だな。単純にこの業界に詳しくないだけかもしれないが...
もちろん音響設備なんてある訳ないので、少し物足りない。だけどそんなことでの文句は誰もいない。
「じゃあ流すわよ。」
「うん!」
『しゅわしゅわ〜弾けた気持ちの名前を教えて〜』
彼女はキラキラ輝きながら歌う。他のメンバーも奏でるハーモニーはこの自然に合っている。
1曲なんてすぐ終わる。
「十里さん。どうでしたか?」
「素晴らしいかった!駅員さん感動しちゃったよ〜」
讃える意味で力いっぱい拍手する。もっと色んな曲を聞きたいけど、それは彼女らに失礼だろう。
「十里さん。今までありがとうございました。私また1から夢への道を歩こうと思います。」
「彩ちゃんならどんな困難でも乗り越えられるよ。」
「はい!私頑張ります!」
「頑張ることはもちろんいい事だが、無理はするなよ。休憩や逃げることはいつでもできるからね。焦らないで!」
満面の笑みで頷くとメンバーの方に向き直した。
「こんな私だけど、これからよろしくお願いします。」
「何言ってるのよ。一緒に頑張るに決まってるじゃない。」
「そうですよ。お互い頼って頼られましょうよ!」
「またるん♪とすることもしようよ!」
「仲間を見捨てることはブシドーに反します!」
もう1人じゃないんだね...
勝手に感傷に浸っていると、こだまする汽笛で思い出した。
「君たちはどうやって帰るの?もう列車ないけど...」
「それなら心配いりません。」
心配いらないということはお迎えでも来るのか。
「この度は彩がご迷惑をお掛けしまして申し訳ございませんでした。」
「い、いえ、お気になさらず。」
今戸惑っている。ちょー戸惑っている。
駅の前には黒塗りの高級ワゴン車が止まっている。セダンだと思った?残念でしたね。
そしてその運転手とマネージャーらしき人が謝罪している。その光景にビックリせざるを得ない。
「彩ちゃん...そっちでも頑張って。そしてあの時語った夢を叶えてね。ずっと待ってるから。」
「うん......ありがとう...十里さん。」
「もし辛かったらいつでも来てね。」
「うん......うん...」
彼女の目からは大粒の涙を流している。
アイドルが別れの時に号泣してどうするんだよ全く...
「じゃあ気をつけて...」
「ありがとうございました!そしてさよなら、十里さん!」
「さよなら彩ちゃん。またいつか会える日まで...」
俺は車が見えなくなるまで手を振った。そしてまた静かな葡萄川駅に戻った。
「......」
その夜。俺はヤケ酒...ではないけど、明らかにバランスの悪い料理が目の前にあり、お茶も何杯も飲んでいる。
「クソ!なんでなんだよ!」
彩ちゃんの新たな門出を祝いたいはずなのに何故か後悔している。
この気持ちが恋愛とは違うとは思うけどじゃあ一体なんなんだ?
『セイヤ。』
「え?親父!?」
振り返ると死んだはずの親父がそこに立っていた。
『お前寂しいだろ。寂しいという感情を殺したのは俺の責任でもあるがな。』
「寂しい...」
答えが分かった瞬間涙が溢れる。
『男だからって我慢しなくていい。人間なんだ。泣いてもいいんだぞ。辛い時は。』
「うっ.........あ、あぁ......」
溜めていたものは嗚咽と共に出る。
ずっと1人だったから気づかなかっただけだった。
でも彩ちゃんが来てからは違った。毎日が楽しかった。彩ちゃんの存在は友達でも彼女でもない。家族同然の存在だったんだ!
でも彩ちゃんは巣立ちをした。その嬉しさの反面、もうここにはいないという現実を後から知って悔やんでいるんだ。
親父はもういない。分かっていた事だが、やはり幻覚だった。
途切れ途切れの泣き声はいつまでも続く。
「彩ちゃん。絶対、ぜったい夢を叶えろよ!」
届かないエールは駅舎ないに響いて消えた。
さて、このお話はここで区切るという感じです。お付き合いありがとうございました!
まだ後日談を上げる予定なので楽しみに待って頂けると幸いです。
さてお気に入りがもうすぐ100件いきます(2019年11月4日昼2時半)たくさんのお気に入り、評価本当にありがとうございました。
また類似の作品を書くかは決めていませんが、いつか私の作品にまた出会ったらその時はよろしくお願いします。
さてさて後日談もお楽しみ