インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
楯無の言葉に生徒会室が静寂に包まれる。
聞こえる音は外から聞こえる他の生徒の話し声だけだ。
周りのみんなは今の楯無の発言に驚いてるのか俺と楯無を交互に見ている。
さて、どういうことだ?
突然こういう事を意味もなくいう人じゃなかったと思ったが……とりあえず否定だけはしておこう。
「楯無さん、流石にそれは買い被りすぎですよ」
「そ、そうですよ、お嬢様。いくらなんでも……」
流石の虚さんも動揺している。
そりゃそうだ。
誰もが認める
そんなこと関係なく楯無は俺のことを強い視線で見る、否、睨んでいる。
俺はどうしようもなくただ困ったように笑うしかなかった。
「いえ、買い被りでもお世辞でもなく素直な私の本音よ」
「おじょーさま?もしかしてタッグの相方が足を引っ張るからとかですか?」
本音も動揺しながら楯無に尋ねる。
楯無がそう考えて言ってくれたのならいいんだが……
そこまで詰めは甘くないだろう。
「違うわよ?むしろそう過程するのなら、しっかりと連携が取れて……相性が良ければこっちの勝ち目が少しは増えそうね」
「た、楯無さん。なんでそこまで言い切れるんですか?」
シャルロットも今の発言に動揺している。
まぁこいつが気にしてるのは『楯無より強い』ってとこじゃなく『福音でも本気で戦ってない』って方だろうな。
楯無は俺から目を逸らさずに話を続ける。
「そうね〜。まず一番最初に彼が強いって思ったのは無人機の襲撃事件の映像を見た時ね」
「一夏が鈴と戦ってる時に乱入したっていう?」
「そう。それの事よ。あの試合の映像を見ればわかるけど……背筋が震えたわよ?当ててもほとんど相手を動かすことのできない威力の弾丸を連続して、それも正確に動かすことのできるポイントに当て続けて完全に無力化してる。正直口に出すだけで馬鹿げてるレベルの技ね」
あー…あの時のあれか。
一夏の安全の為に無茶した時の。
あれは確かに俺の中でも会心の技だったな。
しかし楯無からしてみれば他にも色々とあるようだ。
とりあえず聞いてみるか。
「二つ目は……ラウラちゃんの時ね。あの…暴走体相手に一歩も引かなかった時よ。考えてみなさい?いくら自分の腕に自信があっても生身で自身の何倍もの大きさの相手の攻撃を受け止めるのよ?少しは気負うものでしょうに…風音君、貴方いつも通りだったでしょう?それこそ言ってしまえば『動かない的』を狙う時とまったく同じ、そんな目をしてたわよ?」
いつも通りか……
結構あの時はいっぱいいっぱいだったんだけどね。
側からみればそんな感じだったのか。
これに対してシャルロットが少しムッとしている。
楯無がそれに気が付いたのか言葉を続けた。
「今の言葉は例えだからね?シャルロットちゃん。彼があの時誰よりもラウラちゃんの命を救う為に足掻いてたのは私も十二分に分かってるわ」
「あ……はい、すみません……」
「いいのよ。むしろ私の言葉選びが悪かったんだから」
そう言ってようやく俺から目線を外してシャルロットに微笑む楯無。
しかし『動かない的』かぁ……
あの
結果は比べるまでもなく遅かったけど。
そんなことを思い浮かべているとまたもや楯無の目線がこちらに向けられる。
「さて、ここまでの評価でも既に油断など一切できない相手と評せるのに……私にとって一番貴方が恐ろしいと感じたのは
「あの……楯無さん。ソウがあの時も本気で戦ってないってどういう意味ですか?」
シャルロットが口を挟む。
さて、これについては俺もわからん。
自分の中では結構本気で戦っていたつもりなのだが……
「簡単な事よ。あの時彼は一発の弾丸も攻める為には使ってないのよ。すべて誰かの攻撃が当てやすいよう、誰かに
……あー…そういうこと。これは仕方ないわ。
それが俺の…いや、
命の奪い合いの中で敵味方関係なく、決定的な
それが俺の目指すものだから。
「貴方があの時、周りを守るのではなく本気で
「あー…無理ですね。相手が案山子か何かじゃないと」
「貴方からしてみれば案山子と大差ないんじゃないの?」
今日はグイグイくるな、楯無。
って言ってもなぁ……ぶっちゃけ無理だな、今更戦い方を変えるなんて。それに……やっぱ誰かに銃を向けるのは気分が悪い。
向けなければいけない時は仕方ないがそれでも向けなくて済むならそっちを選んでしまう。
困ったように笑いながらどうしたものかと考えているとシャルロットが間に入った。
「楯無さん、でもそれで勝つことができるなら問題ないのではないでしょうか?それにソウの戦い方は味方に被害を与えるどころかむしろ味方の消耗を考えればこの上なく評価される戦い方だと思います!!」
結構強い言葉でこう話すシャルロット。
俺をかばうようにしてくれるのは嬉しいんだけど……俺が発言できない。
まぁ、言いたい事は言ってくれてるから構わないけど。
楯無は少し考えた後フッと力を抜きようやく俺から目線をそらしてくれた。
「私も彼のその戦い方には文句はないの。ただその気になればそれだけのことができるのだから、ちょっとはやる気を出しなさい」
「そんな!?こんなやる気に満ち溢れている僕が!?」
「ソウ、私もそこは楯無さんと同じ考えだよ?もうちょっとやる気を出して試合で結果出したほうがいいと思う」
「て、敵しかいない……」
そう言ってがっくりとしてみせる。
そうやって場の空気を少し入れ替えた後で次の話に進めようと考えていると楯無がチラリと時計を見た。
「楯無さん、この後予定でも?」
「そうなのよね〜。予定してたより時間が足りなかったわ」
確実に最初の『簪ショック』のせいだな。
まぁとりあえず時間がないなら仕方ない、出直すとしよう。
「じゃあ、楯無さん。僕たちがまた出直しますよ」
「そうしてくれれば助かるわ。次の予定は追って連絡するわ」
「了解です。シャルロット、行こう。ではまた」
「楯無さん、失礼しました」
そう言って俺とシャルロットは部屋を出て自室に向かい歩く。
しかしなぁ……本気で相手を撃墜する為に引き金を引けか………やっぱり無理だな。
でもそう言ってる場合じゃないんだよなぁ…
楯無がわざわざ俺にそう言ってくるってことはおそらく学園内だけじゃなく別の勢力からも何か言われているのだろう。
そうじゃなければわざわざ言う必要はない。
そんなことを考えているとシャルロットに袖を引かれ足を止める。
「うん?どうした、シャルロット」
「楯無さんに言われたこと気にしてる?」
「そりゃ、まぁ…少しはね」
「そのままで良いと思うよ」
そう言ってシャルロットはこちらに笑顔を向けてくる。
キョトンとしてしまった俺に対しそのままの笑顔で話を続ける。
「楯無さんはああ言ってたけどね、私は今のソウの戦い方の方が良いと思う。誰も怪我させたくないんでしょ?味方も相手も」
「……そうだな。できるなら戦い自体無い方が良いと思うよ、俺は」
「うん!!やっぱりソウはそっちの方がいいと思う。突然変わっちゃたらどうしようかと思っちゃった」
「流石にそうすぐ変えれないし……変えるつもりもないよ」
そうだ。別に言われたから変える必要なんて無い。
俺の強さが疑問ならこのままで強さを示せばいい。
と言っても……
「大会出なきゃ駄目かなぁ……」
「流石にそれは駄目だと思うよ?」
「だよなぁ……やだなぁ……」
そう言ってがっくりと肩を落とす俺とそれを見て笑うシャルロット。
そのままモチベーションの下りきった俺を励ますようにして俺とシャルロットは生徒会室を後にした。
『
今回は少し強気でいったのだが彼は怒るどころか困ったように笑うばかりだった。
少し怒るかと思っていたのだが……やはり優し過ぎる子である。
さて次の大会にやる気を出てくれればいいのだけれど…
そんな時に私の目の前に紅茶が置かれる。
「虚ちゃん…」
「お疲れ様です、お嬢様。でもなんであんな事を?風音君って戦い自体嫌いだって、お嬢様、自分でおっしゃてましたよね?」
「そうなのよね〜、彼がもう少しだけ好戦的だったら楽だったんだけどね」
そう言って紅茶をすする。
うん、やっぱり美味しい。
そういえばまだ彼が持ってきたお菓子が余ってたはず。
皿を見るとまだいくつか残ってる。
さて、この子たちには一応説明しておこう。
「私もできれば戦わせたくはないのよ?でもそうも言ってられなくてね」
「……またIS委員会の方ですか?それとも女権の方が?」
「両方よ。『風音奏にISを持たせる意味は有るのか!?』ですって。こっちが強く言えないからって調子に乗って……」
「それだけですか?」
む?見抜かれてたか。
こっちは正直なところ建て前だ。
「本当のこと言うと私も面白くないのよね……」
「ソーがISに乗っていることがですか?」
「違うわよ、本音ちゃん。私が気にしてるのは今の学園内での風音君とシャルロットちゃんの言われようよ」
それを言うと本音が目に見えて元気が無くなる。
まだ問題は起きていないが聞こえてくる陰口は正直なところかなり癪にさわる。
風音君なら自分のことならどうとでも言えと思っているだろうが、噂というものは恐いもので彼を知らない人からすると噂の『風音奏』が彼の評価になるのだ。
早いうちに手を打たなければ確実にこの噂が原因で彼らに何かかしらの被害が降り注ぐであろう。
「できるだけ早いうちにイメージアップさせたいのよねぇ……その為にも手っ取り早く風音君に優等生になってもらわないとね」
「そうですか……お嬢様にとっても初めての男友達ですものね、大切にしたい気持ちもわかりますよ」
そう言われてふと考えてみる。
そういえば私今まで男友達っていなかったわね……
立場上とか育ちとかのせいだけど。
「そっか……男友達か……確かに初めてね」
「距離感間違えて好きになっちゃ駄目ですよ?あの二人隙がありませんから」
「大丈夫よ。私を誰だと思ってるの?そういう虚ちゃんこそ大丈夫?」
「私はそういうのに興味ありませんから」
「そう言う子に限って直ぐにハマっちゃうのよね」
互いにからかいあいながら場の空気を入れ替える。
さて、落ち込んでいる本音ちゃんの方も立ち直らせなければ。
しかし、一つだけ話していない彼を試合に出したい理由がある。個人的なものだが。
私と彼本当の
個人的な思いだということも分かっているし、彼が戦いが嫌いだということも承知している。
だがこればかりはどうしようもないサガなのだ。
もし彼と本当に大会で戦えたのなら……
想像するだけで喜びとプレッシャーで身震いが起きそうだ。
そしてその想像はしばらく経てば現実となる。
私は誰にも言えないこの感情を胸に大事にしまいこみ次の予定に向かうのだった。
男と女の間に友情はあり得ない。 情熱、敵意、崇拝、恋愛はある。しかし友情はない。
〜ワイルド〜