インフィニット・ストラトス ~とある青年の夢~ 作:filidh
IS学園上空。
そこで
戦いは女が逃げ俺が追いかけるといった形だ。
女はできるだけ俺に近づきたくないのか遠距離武器で俺を撃ちながら距離をとろうとする。
それに対して俺のほうはただ踏み込むだけである。
もともと俺の白式はそれしかできない機体だ。
セカンドシフトで雪羅による遠距離武器は手に入れたが俺にそれを使いこなすのは難しい。
それよりか本来の戦い方である接近戦に磨きをかけたほうが俺には合っていた。
女が距離を取ろうと弾幕をはりながら後ろに下がる。
銃弾とエネルギーネットの雨、そこに俺は踏み込んでいく。
だが被弾するつもりはない。
弾を、発射口を、射線を見切る。
最小の動きで弾をかわし、零落白夜でネットを切り裂き全速力で女の懐に踏み込み雪片を振るう。
だが斬撃はむなしくも空を切る。
女も俺の
「……ふぅ、遊びが過ぎたか」
女は俺から距離をとったまま大げさに肩をすくめる。
さっきからこいつは俺と話がしたいのか話しかけてくる。
だが俺は一切こいつと話をする気はなかった。
いや、話せなかった。
こいつに言ってやりたいことは山ほどある。
だがそれを口にした瞬間、俺の頭は怒りで支配されるだろう。
これだけは自分でもわかっていた。
『頭は冷たく、怒りは足に込め自らをささえる力としろ』
これは龍韻先生に教えてもらったことだ。
その言葉を胸に秘め、女の話に意識を割かず女に切りかかるタイミングを冷静に見極める。
「私の悪い癖だな、面白いオモチャをみつけると我慢がきかねぇ」
何か喋っているが気にもならない。
あいつの一瞬、いや刹那のタイミングであろうと見逃さぬように女をにらみつける。
そしてその瞬間はやってきた。
女が俺から目を離しセシリアのいる地上のほうに気をそらしたのだ。
一瞬、だが時間としては十分だ。
即座に俺は背中にある機械の翼に意識を込めながら前に踏み込む。
「まぁ、もういっか!?」
女の動きの刹那の隙をつき、再び雪片を振るうために翼から炎を吐き出す。
女には意識をはずした瞬間、俺が目の前にいるように感じたのではないだろうか。
雪片を握る手に力を込め一閃。
今度はかわしきれずエネルギーシールドを斬り裂いた感覚が腕に伝わる。
女は再び距離を取り叫びをあげる。
「テメェ!!さっきから人の話を無視しやがって!!」
「…………」
そう興奮した様なふりをしながら女は俺と周囲のみんな、そして後ろにいるセシリア、全てに気をくばっている。
やはり油断はできない。
俺が現在この女より優っているところは『零落白夜』と『俺を殺せない』というところだけだ。
『零落白夜』の方は一撃でも当てられれば逆転可能だ。
だが、それを当てることがこの上なく難しい。
『俺を殺せない』と言うのは…戦っているからこそわかる。
この女はその気になればすぐに俺を撃墜できる。
ただし、瞬殺されることは無いだろうし、上手くいけばこちらが勝つ目もある。
だが確実に、この女は俺よりも強い、これだけは断言できた。
俺は再び雪片を構え女に何時でも斬りかかれる様にする。
「おい!!だんまりか!?……っち、おいご同類良い身分だな?人殺しの癖にお姫様気取りか?全く反吐がでる」
女はそう言ってわざとらしく首を振る様に動いてみせる。
あからさまに隙を作っているがこれは確実に誘っている。
おそらくまだ切り札があるのだろう。
このタイミングで突っ込むのは危険だな……
感覚を研ぎ澄まし雪片を掴む手に力を込める。
そして再び隙を見つけ踏み込む。
今度は女も迎撃するつもりなのかアームの砲門をこちらに向けた。
だがまだ間に合う。
砲門から弾が発射される。
だがその弾道は
体をひねるようにして弾丸を紙一重でかわし速度を落とさずに踏み込む。
踏み込んだ勢いそのままに、女の空いた胴体を零落白夜を展開した雪片で切り払う。
チリッという掠った手ごたえがしたが斬り捨てることはできなかった。
女が俺から距離をとるために再び引き撃ちをしながら後ろに下がる。
今回はかわしきれない様なので数発、雪片で斬り払いながら俺も後ろに下がる。
先ほどからこれの繰り返しなのだが確実に踏み込みは深くなってきているし女の呼吸もつかめてきた。
あと10合、いや5合もあれば一撃食らわせれるかもしれない。
だが目の前のコイツもおそらく全力ではないだろう。
ならば今すべきことは増援が来るまでの時間稼ぎだ。
俺はそれを気取られることがないように女に敵意を向けながらいつでも踏み込めるように雪片を構えた。
『い、一夏?』
「どうした箒」
そんな時突然箒から通信が入った。
声から不安が感じられるが一体何があったのだろうか?
箒から返事が返ってくる前に通信に鈴が入ってきた。
『一夏!!意識ははっきりしてる!?』
「何のことだ」
『『いいから返事をしっかり返せ!!』』
何を言いたいのかわからず聞き返すと今度は通信から大声が聞こえてきた。
俺は女から目を離さず、少しでも動きを見せようものなら斬りかかれる様に意識だけは女に向けて、俺の方に慌てた顔をして飛んで来た二人と話す。
「そんな大声あげてどうしたっていうんだ」
「あんたがまたおかしくなったのかと思ったのよ!?」
「何でだよ?」
「何でって……さっきまであんなに怒ってたのにこんなに落ち着いて……まるであの時の様で……」
そう言う箒の声は次第に小さくなっていった。
あの時って……福音の時か!!
たしかあの時って一切返事をしなかったんだよな。
でも俺今は返事をしていなかったか?
そう考えながらも女からは目を離さず箒と鈴へ手短に話す。
「いや、未だに腸は煮えくり返ってるし出来るなら今すぐあいつをぶっ飛ばしたいさ、俺だって」
俺がそういうと女はニヤッとこちらを笑う。
その笑顔もこちらを馬鹿にした様で更に怒りが湧いてくるがそれを押し殺し言葉を続ける。
「でもあいつはそれを狙ってる。遊びだ何だって言いながら多分全部計画して動いてる」
「あぁ!?何澄ました顔で」
「それ、演技だろ?いい加減うざったいからやめろ」
俺がそう言った瞬間鈴と箒は驚きを顔に浮かべ、女はぴたりと止まった。
そして今までの笑みとは違う笑みを浮かべこちらに話しかけて来た。
「へぇ?何時から気がついてた」
「…………」
「まただんまりか?」
先ほどまでの女だったら多分俺を挑発してきただろう。
今のこいつは俺が黙っている理由を察してか面白そうに笑っている。
だが俺はこいつを睨むだけで話さない。
意地になっている所がないわけじゃないが、それ以上に俺は口が上手い訳じゃないのでこいつに乗せられる可能性が高い。
だったら一切こいつとは話さなければ相手のペースに乗せられる事はないだろう。
そんな俺を横目で見ながら箒が俺に尋ねてきた。
「一夏……一体どういう事だ!?」
「『始めから勝てない勝負しに来る奴がいる訳ない』」
「……それって」
「ああ、前に鈴との試合中に乱入された時に奏が言ってた言葉だけどこれを思い出してさ、こいつの任務は何だか知らないけど最終的に勝つためには
あの時の無人機は目的はわからないが、今目の前にいる女の目的はおそらく俺の白式の強奪だ。
つまりこいつの目的を達成する為にはこのIS学園から脱出できなければならない。
「こいつがいくら強くても数でも戦力でも勝てない戦いだ、普通にやってたら絶対に勝てない」
「……じゃあ一夏、どうやってこの女は脱出するつもりなんだ?」
俺がこいつの目的を想像して脱出できなければならないと気がついた時に思い浮かんだ事があった。
俺がこの女に盾にされた時。
もしこの女が
そう思い浮かんだ後からこの女の話しが演技がかった物に見えた、そしてこの女の脱出方法も思い浮かんだ瞬間だった。
「人質だ」
「……そういう事ね」
鈴は俺の考えを察したのか俺の考えを引き継ぐかの様に話し始めた。
「つまりこいつは人質を盾にIS学園から脱出するつもりだったってことね」
「ああ、多分その役目は俺だったはずだ。人質にするなら替えの効かない数少ない男性操縦者の方がいいだろうしな」
そう考えると全て納得がいくのだ。
なぜこの女は体育館で俺を捕らえなかったのか。
あそこには他にも人質に使えそうな人はたくさんいた。
俺を捕らえられるのならばあそこで捕らえた方が良かったはずだ。
だが女は俺が体育館から離れた所で俺から白式を奪った。
戦った今だからわかるが、この女がその気になれば闘いながら体育館にいた一般生徒を人質にすることはたやすいはずだ。
つまり、おそらくこの女は確実に俺を捉えられる瞬間を狙っていたのだろう。
こいつは、はじめから何かを狙って計画的にこちらを攻めてきている。
「はじめは上手くいったが俺がみんなに助けられてこいつは計画を変更して、ターゲットをセシリアに……いや、セシリアと俺とで人質の交換をするつもりだったんだろう」
「お見事、大正解さ」
パチ、パチ、パチと拍手をしながら女が笑う。
まるで子供が宿題を終わらせたことを褒める教師の様に、ただし眼は濁り薄ら笑いを浮かべている事を除けば……であるが。
「ああ、その通りさ。最終的にはガキ、お前を盾にここから脱出するつもりだったんだが、上手くいかないもんだな……何かとアクシデントが続くし何より一番甘く見てたガキが一番のジョーカーだったとはね」
そう言って女は肩を落として首を振った。
そしてふと思い出したかの様に言葉を発する。
「ああ、最後に聞きたいんだが『風音 奏』は今何処に居る」
「知っていたとしてもお前などに教えるものか」
「じゃあ伝言だ……『愛しの風音へ、次は直接会いましょう。キマグレな雨より』」
「「「………………」」」
……空気が固まる。
言っている言葉はわかる。
いや、理解はできているが意味がわからない。
これは確実に奏へと向けた……告白の様なものなのだろうか?
と言ってもこの場で言う必要が有ったか?
俺も箒も鈴も微妙な顔をしている。
女の方は……女の方で呆れた様に手で顔を覆っている。
女はため息をついた後にこちらに話しかけてくる。
「言ったからな、ちゃんと伝えろよ」
「……ばっかじゃないの?」
ボソっと鈴が呆れた様に言葉をこぼす。
おそらくそれはこの場にいる女を含めたすべての人が思っていることであろう。
現に女はバツが悪そうに舌を鳴らしている。
「っち。あとこれは私からだ、次はお前を殺す。亡国起業の私…このオータムが言っていたって伝えとけ」
そう今度はしっかりとした決意を秘めた言葉を女は発する。
そうか。この女の名は『オータム』と言うのか…
その決意を含んだ言葉を聞き、先ほどの言葉で緩んでしまっていた俺たちの構えも鋭くなる。
「次があると思っているのか?」
「ここであんたを逃すほど私たちは弱くないわよ?」
箒と鈴はそう言ってオータムの方へ前に出る。
俺だってこの女をここで逃がすつもりは一切無い。
ここで確実に捕らえて情報を吐かせてやる。
しかし…
「『時間を稼げば来るはずの援軍が遅い』。お前らこう考えてるだろ?」
その言葉に俺の体が一瞬強張る。
それに気がついた女は猫なで声で更に言葉を続けた。
「なあ?流石に誰も援軍が来なくて不思議じゃないか?」
その言葉はあまりにも不快で、それでいて確信を含んでいた。
しかしこの女の話す言葉に聞き入ってはいけない。
例え援軍が遅いとしても確実に来るはずだ。
それまでの間にこの女からセシリアを守りながら時間を三人で稼ぐ。
何も難しいことでは無い。
だがその決意は
「周囲からIS学園への歩兵による襲撃。それと並行して近隣の町での暴動、さらにいくつかの施設で校門と同じような爆発が起きているはずさ」
「な!?」
歩兵による襲撃…だって!?
それに他のところでの暴動や爆発!?
だが警察や軍だって動くはずだ。
今は目の前の事に集中しなきゃ…
そんな俺の心が見えているのかオータムは笑いながら話を続けた。
「信じるか信じないかはそちらの自由だが現に応援は来ない。当たり前だよなぁ…お偉いさんを守りつつ周囲の防衛、救助依頼も山の様にきているだろうよ。わざわざIS学園の名前を出してやってる上に一機、ISも出撃させているんだからね。軍の方の救助は期待するなよ?はじめっから出撃されることは無いだろうしね。さーて……どれだけの被害が出てるかな?」
その言葉を聞いて脳裏に浮かんできたのは休日に出かけた街や、巻き込まれるであろう人々。
その人々の中には俺の友人や知り合いがいるかもしれない。
それじゃなくても俺の
早く助けに行かなきゃ…でもこの女はそんな焦りを背負って戦って勝てるほど甘い相手ではない。
むしろ下手をすればこちらが負ける可能性は十二分にある。
でも頭の中からは焦りは消えない。
早くしなければ被害はもっと広がっていく。
「この外道がっ!!」
「ははは、それがどうしたっていうんだい?それよりも戦いを再開するか。宣言してやる、『私は今からそこの
そう言って女は改めて俺たちに敵意を放つ。
セシリアを狙うと言う言葉は本当だろうか?
もしかして俺を集中して狙うかもしれない。
ダメージを負っている二人を狙うのか?
それに先ほどの街を襲っているというのは本当なのだろうか?
でも救助が来ないのは本当で…くそ、完全に相手にペースを取られた。
だが一つだけ確かなことはこいつを逃すわけにはいかないと言うことだ。
迷いを頭の片隅に追いやり無理やり戦闘に意識を向ける。
先ほどまでの集中が嘘の様に消え去りうまくいかない。
鈴と箒も女の言葉に動揺している。
このままじゃ確実に裏をかかれる。
そんな俺たちを見て女は笑う。
「後、一つだけ教えてやる。戦いっていうのは戦う前から始まってるんだよ。あんまり私たちを舐めるなよ?」
『あら?それはこちらの台詞じゃない?』
その声が聞こえた瞬間、何もなかったオータムの目の前で爆発が起きた。
確実に爆弾な様な爆発物はなかったし光線や弾丸は見えなかった。
本当に突然爆発が起きたのだ。
「な!?」
「爆発した!?」
「一体……」
「この声は……楯無さん?」
声の主を察し辺りを見渡すとこちらを、いやオータムを見下ろす様な形で更識楯無、学園最強の生徒会長が水色のISを見に纏いそこにいた。
楯無さんはそのまま俺たちの方にやってくるといつもと変わらぬ雰囲気でこちらに話しかけてきた。
「はーい、呼ばれて出てきてこんにちわ。みんなよく頑張ってくれたわね。あとはお姉さんに任せなさい」
なんでもない様に笑いながら、俺たちに背を向けてオータムと対面する楯無さん。
装備しているISはなんというか…さほど強そうではない。
なんというか装甲が少ない上に装備は杖の様な物のみ。
なんというか戦い方が想像できなかった。
だがオータムの方はそうではない様で先ほどまでとは違い明らかに警戒の色を強く出していた。
「ずいぶんお早いご到着じゃないか。ロシア代表のIS乗り、更識楯無」
「これでも時間がかかった方なのよ?亡国起業のエージェント・オータム」
「あの『更識』に覚えてもらえるとはうれしいねぇ」
「喜ばなくてもいいわ。さっき聞いて覚えただけだしこれから覚えているつもりもないわ」
楯無さんは興味がないかの様な顔でオータムと対面する。
先ほどまでとは俺たちに笑顔を向けていた人と同じ人なのかと思ってしまうほどその変化は凄まじく、俺もその冷たい雰囲気に気圧されそうになった。
だがそれでも楯無さんに街やみんなはどうなっているのか聞かないといけない。
今聞くべきことではないのかもしれない。
だが抑えることができず楯無さんへと俺は叫ぶ。
「楯無さん!!街は……みんなは!!」
「安心しなさい織斑くん、襲撃は既に鎮圧されるし市街地での爆発は起きてすらいないわ」
「へ?」
「な!?」
こちらに振り向いた楯無さんは笑顔でそう答えた。
え?何も起きてないって事か?
ということは初めからオータムは嘘をついていたという事か?
だが驚きの声を上げたオータムの反応を見る限り嘘ではなかったのだろう。
そのオータムを見て楯無さんはクスッとわらった後に冷たい笑顔で話を続ける。
「あら?さっきの言葉聞いて無かった?『なめるな』はこちらの台詞。市街地での爆発は事前に察知されてあらかじめ確保していたし、襲撃に関しても学園内には一歩として踏み入れさせていないわ。一応何かあった時のために街の方には信用できる戦力を送ってるしこの学園の周囲は既に包囲されて逃げる事は出来ないわ。つまり貴女は袋のネズミ、いえ、自ら仕掛けた
「っ!?」
楯無さんはの言葉を聞いてオータムが動こうとするが、ピクリと動いた瞬間再び周囲が爆発した。
今度も何もない空間が何の前触れも無く爆発した。
あれでは防御も間に合わないだろうし何よりかわしようがない。
現にオータムはかなりの衝撃を受けたのだろう、ISはともかくオータム自身がかなりダメージを負っている様に見える。
そのオータムを見ていても楯無さんの表情は冷たい笑顔のままで話を続ける。
「動かない方がいいわよ?私、貴女の身体に事なんてどうでもいいんだから。最低口がきけるなら
「……」
ゾッと冷たいものがこみ上げてくる。
多分楯無さんは今言った事を容赦なくやるだろう。
それくらいのことが分かる程度には今の楯無さんの雰囲気は冷たい物だった。
箒と鈴も感じ取っているのか俺と同じ様に楯無さんに気圧されている。
楯無さんは杖の様な物をオータムに向ける。
「さて、最後に何か聞きたい事は?」
「……遅えよ」
『時間通りだ』
オープン回線で突然声が聞こえる。
次の瞬間俺たちに十数本の光線が襲いかかる。
「!?」
「きゃ!?」
「っつう!?」
俺は何とか雪羅のエネルギーシールドで防ぎ、箒も紅椿の防御形態でガードし、鈴はシールドを展開しながら装甲の厚いところで受けている。
楯無さんの方を見ると何か、エネルギーバリアーとは違う薄い膜の様なものが展開され消えていった。
今のはなんだ?
だがそんな事を考えている余裕は無い。
俺たちが光線を防いでいる間に、オータムの横には一機のISが現れていた。
カラーリングは濃い青色。群青色とでも言えばいいのだろうか?
それよりも気になったのはその機体の形状である。
何処か蝶の様な印象を受ける機体なのだが、何故かセシリアの『ブルー・ティアーズ』を連想した。
女はこちらを見て数秒後、一気に状況は動いた。
はじめに動いたのはオータムだ。
オータムはアームの砲門をセシリアの方に向けた。
が、その行動は楯無さんの杖のような武器から発射された弾丸によって防がれた。
その後、楯無さんが追撃しようとしたのだが、新たに現れたISによって俺たちの周囲に囲む様にしてビットが展開された。
次の瞬間ビットから閃光が放たれる。
その閃光は通常ならばかわし切れる様な単純な攻撃。
楯無さんもそう判断して光線をかわそうとして
かろうじてバリアーは貼ることができていたが、その顔には驚きが浮かんでいた。
だが楯無さんも即座に反撃をしていたらしく新たに現れたISの近くで再び爆発が起き、正面からその爆撃を受けたISは大きく体制を崩していた。
このぶつかり合いが俺の目の前で一瞬でおこなわれた。
楯無さんは相変わらずゾッとする様な雰囲気を醸し出しており、二つのISはこちらを見下す様にしてこちらの上空のポジションを取っている。
楯無さんは杖をオータムの方に向けたまま声を飛ばす。
「偏光制御射撃……どうして貴女がソレを?」
「は?教えてもらえると思ってんのか?おぉっと、動くな?動いたらそこのメスガキは確実に跡形も残らねえぞ?」
「……仕方ないわね、行きなさい」
そう言って楯無さんは杖を下に降ろす。
ソレを見たオータムはフンと鼻を鳴らすと構えを解いて離脱するかの様に背を向けた。
だが俺は何故こいつを逃すのか納得がいかず楯無さんの名前を呼ぶ。
「楯無さん!?」
「織斑くん、後で説明するから今は私に従いなさい」
有無を言わさぬ物言いに俺は声を詰まらせ黙り込む。
オータムともう一機のISは脱出するための長距離飛行の為のモードに変更しているのかISから大きな音が聞こえてくる。
音が一際高くなったかと思うとオータムがこちらを見下しいやらしい笑顔でこちらに話しかける。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ、おい行くぞ」
「……織斑一夏」
二機が飛び立つかと思った時にもう一機の名前も知らない方のISから俺の名前が呼ばれる。
無視しても仕方がないし警戒を怠らずに聞いてみることにしよう。
「……なんだ」
「
覚えているか?
なんのことだ?
俺はこいつにあったことがあるというのだろうか?
だがこんな奴に会った記憶は無いし、何より質問には主語が無いため質問の意味がわからない。
聞き返してみるしか無いな。
箒と鈴も訳がわからないと言った顔で俺の方を不安そうに見てくる。
「何のことだ?」
「……いずれ必ず、貴様は殺す。私が殺す」
「な!?」
そう俺を殺すという宣言をした後に俺の返事も聞かずに二機のISは遠くへと飛び立っていった。
二機のISが点になるほど遠くへと行った後にすぐさま楯無さんに詰め寄る。
確かにあの二機と戦うのは大変だろう。
でも俺と箒と鈴、あと楯無さんの四人がかりならあの二機もなんとかなったのでは無いだろうか?
俺はオータムと数分戦っていただけだが十二分に勝機はあったと確信していた。
「楯無さん!!何であいつらを!?」
「……ここであの二人と戦うとしたら確実にオルコットちゃんは死ぬわ」
「誰かがセシリアを抱えて逃げれば!?」
「オルコットちゃんの
そう楯無さんに言われて改めてセシリアの方を見る。
ふさぎ込んでいるセシリアの足元によくよく見ると何か光るものがある。
ISを使って更によく見てみるとセシリアの足に絡みつく様にしてエネルギーで出来た何かがあった。
「……アレは?」
「おそらくオータムが仕掛けた対人用の捕獲装備よ。これからすぐさまセシリアちゃんを解放するのに織斑くんの零落白夜が必須。私がオータムを押さえるとして、あの乱入してきたISの偏光制御射撃から二人を守るのに凰ちゃんと箒ちゃん。この状態でも敵のビットを完全に防ぎきれる確証はない」
そう楯無さんは続けざまに話すと一度ため息をついた。
それは何かに呆れたため息というのではなく、まるで何か避けられない嫌なものを感じているかの様だった。
そして苦虫を噛んだ様な顔で驚きの言葉を口にした。
「もっと言えばオータムはまるで底力を見せていないし、乱入者に至っては多分オータムよりも強いわ」
俺たちを手球に取ったオータムはまだ遊んでいたでけで、あの乱入者はそのオータムよりも更に強いのか……
それが本当かどうかはわからないが、少なくとも俺よりもオータムは俺よりも強いということは知っていたし、そのオータムが警戒を示していた楯無さんがそう言い切るのだ。
多分あのまま戦っても苦戦を…いや、俺たちが楯無さんの足を引っ張って最悪負けてしまいかねない。
くそ……なんでだ?どうして俺はこんなにも弱い。
あの時の誓いどころか、満足に友人を守りきることもできないのか、今の俺は……
悔しさから歯を食いしばっていると楯無さんが俺の肩を叩く。
「それより織斑くん、早くオルコットちゃんを解放してあげて」
「あ、は、はい!!」
そう言われて急いでセシリアの近くに急行する。
まずは自分のことよりもセシリアの方だ。
戦闘中は流れ弾がいかない様に注意していたが放置していたことには変わり無い。
地面に着地しセシリアの足の近くに零落白夜を展開した雪片を刺す。
何かエネルギー状のものを斬った時の手応えがしたのでみんなの方を見て頷く。
箒と鈴は即座にISを解いてセシリアに駆け寄った。
「セシリア!!大丈夫か!?」
「怪我は!?どっか痛くない!?」
「触らないで!!」
そのセシリアの叫びにビックッとして二人とも一歩引く。
セシリアは相変わらず耳を押さえ、下をうつむいたまま座り込んでしまっている。
俺もISを解いてセシリアのそばに近づき声をかける。
「セシリア?」
「いや……何も聞きたく無い!!みんな…もう、いなくなって!!」
そう言ってセシリアはさらに小さくなる様にして鬱ぎ込む。
それが俺にはまるで泣いている子供にしかみえなかった。
このセシリアにとどめを刺してしまったのは多分俺の
だからこそ俺はセシリアに俺がどう思っていたかを伝えないといけない。
「セシリア……ごめん」
「触らないでっていってるで……」
そう言って俺はセシリアの事を優しく抱きしめる。
そしてセシリアの耳のそばで優しく、それでいてしっかりと聞こえる様に声をかける。
「俺さ、セシリアがいま思っている気持ちがよくわかんないんだ。両親の記憶がないからさ」
「あ……」
「それでも、もし千冬姉が誰かにやられてあんな風に貶されたら俺なら怒りで形振り構わず、殺した奴のことを死んでても関係ないから…聞き出すために暴れ回ったと思う」
誰だって自分の大切な人があんな風に侮辱されたら怒りをあらわにするに決まっている。
俺がそう言うとセシリアがゆっくりと顔を上げてくれた。
その顔は涙こそ出てはいないが、今にも泣き出しそうで普段のセシリアからは想像もできない様な顔だった。
そんなセシリアとしっかりと目を合わせて話を続ける。
「あと……びっくりしてごめん。俺セシリアがあんなに怒ったところ初めて見てちょっと混乱…いや、怖かった。でもそれはセシリアが家族がそれだけ大切だったって事だろ?別に恥ずかしい事でも恥じる事でもないさ」
もう文章にならない様な言葉を、ただ思ったままに口にする。
ただセシリアに謝りたくて、でもセシリアの反応を否定したくなくて……
まずいぞ…もう自分でも何が言いたいのかだんだんわからなくなってきてしまった。
「えっと、何が言いたいかって言うと……セシリアはあいつらとは違う。ただ家族が貶された怒りと悲しみでああなっただけだし誰だってああなる。俺はセシリアがいい奴だってわかってるよ」
そう結言を言うかの様に言葉を閉めセシリアに微笑む。
次の瞬間、バッとセシリアが俺の首に飛びつき力強くしがみつく。
突然抱きつかれた俺はバランスを崩して尻餅をつくがなんとかセシリアを受け止めることが出来た。
びっくりして呆然となりそうになるがセシリアの方から聞こえるしゃくり声が俺の意識をはっきりとさせた。
「一夏さん……ちょっとだけ肩を貸してください……」
「……うん」
セシリアはそう言うと俺の方に顔を押し付け声を押し殺して泣き始めた。
箒と鈴は、泣き始めたセシリアの方を優しく撫でてやっていた。
そんな中俺は、ただただ俺に体重を預けて泣くセシリアの事を受け止めてやることしかできなかった。
自分自身を信じてみるだけでいい。
きっと、生きる道が見えてくる。
〜ゲーテ〜