ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

100 / 292
さくっと終わらせようと思ったら、まさかの10000字近く・・・こんな筈では(^^;

前半はバトルパート
後半は会話パートになっております。

100話記念エピソードに関してのご報告は活動報告をご覧頂ければと思います。

それではどうぞ。


第19話 「剣の記憶」

もうすぐ懲罰試合が行われようとする中、ウォロ主席が自身の剣の具合を確かめるように素振りしているのに対し、キリトは深呼吸をしながら意識を集中させていた。すると、リーナ先輩が声を掛けた。

 

「キリト。私はお前の強さを信じているが・・・だからこそウォロの剣には十分注意しろ」

「注意・・・?」

「ウォロの家系・・・リーバンテイン家には秘めたる家訓がある。『剣を強者の血に塗らせ。されば強さは我が物と為らん』と」

「物騒な言い伝えですね。それってまさか・・・」

「そうだ。フォン君の想像通り、ウォロは入学以前にも実剣による一本先取勝負を幾度もなく行っている筈だ」

 

リーナ先輩の推測に、どうして先輩が先ほど実剣での試合に抗議したのか納得がいった。それと共にウォロ先輩の強さにも合点がいった。

 

「その経験が、奴の恐るべき剛剣を生み出している」

(イメージによる力の増幅・・・幾度となく実剣での勝利を経験し、それを自身の勝利のイメージと重ねる・・・なるほどな。『剣を強者の血に塗らせ』・・・積み重なってきた家訓のイメージと合わさって、ウォロ主席の力の源になっているってことか)

「ウォロはお前の剣力をも血に変えて吸い取り、糧とするつもりだ・・・しかし、」

 

そう言って、リーナ先輩は強い眼差しをキリトに向け、言葉を続けた。

 

「私はお前を信じている。あやつに容易く喰われてしまう剣士ではないとな。昨日、私と約束したことを忘れてはいないだろう?」

「約束・・・ええ。俺の全てを先輩に見せると約束しました!」

「ならば・・・ここで見せてくれ、キリト!」

「はい!約束・・・果たしてきます!」

「そろそろいいかな、キリト錬士」

 

リーナ先輩の言葉にはっきりと答えたキリトに、タイミング良くウォロ主席が声を掛けた。どうやら待っていてくれたらしい。それに応えたキリトが立ち位置に向かう前に俺はキリトに声を掛けた。

 

「策はあるのか?」

「・・・単純な剣技じゃまず勝ち目はない。この剣なら4連撃まで繰り出せるから、それに賭ける」

「・・・・・分かった。無理するなよ」

「ああ」

 

短く言葉を交わし、邪魔にならないように俺はキリトの傍を離れた。その間、2階の観覧席に移動しようとしていたリーナ先輩にウォロ主席が立会人をお願いしていた。

 

「リーナ先輩。このまま端っこで見学させてもらっても問題はありませんか?」

「えっ?私は問題ないが・・・リーバンテイン殿ははどうだ?」

「・・・懲罰の邪魔にならないのであれば許可しよう。間近で見学したいという前向きな意志を無碍にはできないからな」

「ありがとうございます!」

「あっ・・・それじゃ、僕もいいですか!」

 

どうやらこのまま一階で見学させてもらえるようだ。俺に許可が出たことに、ユージオも便乗して一階で試合を見守ることにしたようだ・・・ちなみにハルト先輩はさっさと2階に上がってしまっていた。

 

「フォン・・・キリトは大丈夫かな?」

「・・・はっきり言って、勝率は2割もあるかどうかだろうな」

「しょ、勝率って・・・キリトは勝つつもりなの?!」

「多分な。今のキリトにはあの黒剣がある。もしキリトの秘策が通じるなら・・・もしかしたらがあるかもな」

 

ユージオの疑問に小声で答えながら、俺は先ほどのキリトの言葉を思い出していた。

 

あの黒剣であれば、4連撃のソードスキルまでは繰り出せるとのことだったが・・・

この世界では、剣の優先度によって放てるソードスキルに制限が掛けられているのだ。例えば、北の洞窟で使った『名の知らぬ剣』は2連撃・・・〈バーチカル・アーク〉までは放てた。

 

修錬用の木剣では単発のソードスキルしか放てず、逆に優先度が圧倒的に高い青薔薇の剣であれば、3連撃までは問題なく使えて、4連撃も途中までは発動することができる。

ちなみに俺の大剣は〈アバランシュ〉、〈ブラスト〉、〈テンペスト〉、〈イラプション〉、〈スコッピード〉までは問題なく使えたが、4連撃である〈ライトニング〉は駄目だった。その上に位置する3連撃の〈メテオ・フォール〉も駄目だったことから、連撃数だけでなく一定の上位ソードスキルを使うには何か条件が必要のようだった。

 

まぁ、そもそもの話をすれば、この世界でソードスキルに当たる『秘奥義』はほとんどが単発技なので、その一撃を相殺し、2撃目・3撃目で追撃できるアインクラッド流のアドバンテージが強すぎるのだが・・・

 

(問題は、それが家訓によるイメージを確固として持つウォロ主席に通用するのかどうか、か・・・)

 

間もなく試合が始まろとする中、俺はキリトの背中を見ながらそんな懸念が胸をよぎっていた。

だが、だからといってリーナ先輩との約束を果たそうとしているキリトを止めることなどできるわけもなく、こうして見守ることしかできないのだが・・・

 

「これより、リーバンテイン上級修剣士とキリト初等錬士による一本先取の手合わせを始める!なお、双方の合意により両者ともに実剣を使用する」

 

リーナ先輩の言葉に会場中がどよめき始める。どうやら、実剣による勝負というのは学院では珍しいようだ。

 

(・・・まぁ、あの二人はキリトが怪我することでも楽しみにしているようにニヤニヤしてるけど)

 

ライオスたちは驚くどころか、キリトを見下すかのように嗤っており、その態度を全くといって隠す気がないようだった。

一方、ユージオが傍付きを務めるゴルゴロッソ先輩やハルト先輩は達観して試合を見守っていた。

 

「両者、構え!」

 

リーナ先輩の号令にキリトとウォロ主席がそれぞれの剣を抜いた。

 

ウォロ主席が抜刀すると、会場のどよめきが一段と大きくなった。見ただけでははっきりとは断定できないが、そこら辺の安物ではないことだけは確かで、かなりの業物のようだ。

 

一方、キリトが抜刀した黒剣を見た会場の反応は・・・何とも言えないものだった。驚き半分、困惑半分といったところか?

 

無理もない。刀身までも真っ黒だというのはこの世界ではかなり珍しいのだ。俺たちみたいに青薔薇の剣のような神器に触れる機会があれば、話は別だろうが・・・

一介の学生がそんなものを見る機会などあるはずもない。その例として・・・

 

「おやおや!辺境では墨を塗る風習でもあるんですかな、ライオス殿?」

「そう言ってやるな、ウンベール。傍付き殿は忙しくて剣を磨く暇もないのだろうさ」

 

・・・と貴族様たちも仰っているようなので、やはり青薔薇の剣や黒剣、俺の大剣はかなり珍しい部類のようだ。

ライオス達の言葉に会場から嘲笑が起こるが、(無知をさらけ出してくれたことに感謝しながら)無視した俺は怒りの視線を周りに向けようとするユージオを諫める。

 

「止めて置け、ユージオ。言わせたい奴には言わせておけばいい」

「け、けど・・・!?」

「それよりも・・・試合から目を離すな。結果を見てもいないのに、口だけ達者な奴を相手にするよりもそっちの方が価値がある」

「・・・分かった」

 

そう言って、納得・・・はしていないようだが、とりあえずキリトたちへと視線を戻したユージオ。すると、会場が一気にシーンとなった。無理もない・・・

 

(なんて気迫だよ・・・!見ているだけなのに、こっちまで潰されそうな闘気だ・・・!)

 

剣を上段へと構えたウォロ主席の闘気に、会場が呑み込まれたのだ。こうして見学しているだけの俺までもその闘気に思わず汗が出てしまうほどの圧を感じているほどのレベルだ。

 

(あれはハイ・ノルキア流剣術秘奥義〈天山烈破〉・・・両手剣重突進ソードスキル〈アバランシュ〉・・・いきなり大技を放つからこそ、全力を出そうとしての闘気ってわけか)

 

ウォロ主席の剣技を分析しながらキリトを見ると、キリトもウォロ主席が放とうとしている技に気付いたようだ。

半歩引き、剣を後ろに構える・・・どうやらキリトは片手剣4連撃ソードスキル〈バーチカル・スクエア〉で勝負に出るようだ。

 

・・・

・・・・・

・・・・・・・

 

睨み合ったまま動かない両者。あまりの空気に会場全体も沈黙に包まれ、観客全員も息をするのを忘れたかのように両者を見守っていた。

 

そして、遂に火蓋が切られた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

秘奥義を放ったウォロ主席に合わせて、キリトが迎撃に動いた。ウォロ主席の剣撃に連続技の1撃目・2撃目をぶつける・・・だが、ウォロ主席の剣は止まらない!

 

「おおおぉぉぉぁぁぁぁぁ!!!」

 

キリトも負けじと気合と共に3連撃目の水平切りを繰り出し、遂にウォロ主席の秘奥義を止めた。だが、

 

「「止めた!?」」

「まだだ!」

 

ユージオとリーナ先輩の驚きの声が重なるが、俺はそれを否定した。

確かにキリトは3連撃目でウォロ主席の剣を止めたが・・・止めるのが精いっぱいで4連撃目を放てずにいた。

なんとか4連撃目を繰り出そうと踏ん張るキリト。それに対し、剣ごとキリトを切ろうとするウォロ主席。秘奥義のぶつかり合いで大きな火花が散り合っていた。

 

「・・・うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

(っ!?あれは・・・なんだ!?)

 

ウォロ主席の気迫と共に、放たれる闘気が一段と増した。その時、俺にはウォロ主席の背後から何人もの剣士がキリトを倒そうとしているビジョンが見えたような気がした。同時にウォロ主席が剣圧が一段と強まる。

 

その剣圧に徐々に押し込まれていくキリト。そんなキリトを見て、黙っていられず俺は思わず叫んだ。

 

「キリト!!」 

「っ!?そうだ・・・俺にだって守りたいものが・・・

ここで負ける訳にはいかないんだぁ!!!」

 

その言葉と共に不思議なことが起こった。

キリトの剣に光が集まったかと思うと、黒剣の刀身が伸びたのだ。

それと共に黒剣が放つライトエフェクトが一段と輝きを増した。そして、俺はキリトの背後にそびえたつそれを見た。

 

(あれは・・・ギガスシダー!?)

 

間違いない・・・あれはギガスシダーそのものだ。

まるでキリトに力を・・・いやギガスシダーがテラリアやソルスの恵みを独占して吸収するように、黒剣がそれを体現しているかのようだった。

 

「・・・なぁ!?」

「っ!?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 

キリトの気迫に呑まれたウォロ主席から驚きの声が漏れた。

その隙を見逃さず、キリトがウォロ主席の秘奥義を弾き飛ばした。ノックバックにより両者が後退る中、まだ4連撃目を残していたキリトが最後の一撃を放つため、一気にウォロ主席の懐へと飛び込んだ。

 

ソードスキルの突進力を活かした高速の一撃にウォロ主席は反応できずにいた。だが、距離があったせいで、キリトの最後の一撃はウォロ主席の服を掠っただけで、一本には届いていなかった。

 

「おおおぉ!」「ちぃ・・・はぁぁぁ!」

 

硬直が解け、反撃に出たウォロ主席が眼前のキリトへと剣を振り下ろす。負けじとキリトも水平切りを放つ。このままでは相打ちになる!

焦った俺がリーナ先輩に試合の中止を求めようとした時だった。

 

「そこまで!!」

「「「っ!?」」」

 

あわや剣が直撃しようとしたところで、会場にリーナ先輩ではない女性の声が響いた。

その声に闘気を全開にしていたキリトとウォロ主席は剣を止め、声を掛けようとしていた俺も思わず制止してしまった。

 

「・・・アズリカ先生!?」

 

声の主はアズリカ先生だった。いつの間に来ていたのか、どうやら修剣場の入り口から試合を見ていたらしい。

 

「あの方の裁定なら従わないわけにはいかない」

「えっ?えーと・・・何故です?」

「知らないのか?あの方は、7年前の四帝国統一大会におけるノーランガラス北帝国の第一代表剣士だからだ」

「・・・ええぇぇぇぇぇ!?」

(・・・マジか!?)

 

ウォロ主席の放った一言の絶叫するキリト。俺も知らなかった事実に思わずアズリカ先生を見てしまった。修剣学校で教師を務めている辺り、何かしらの実績を持っているかと思ってはいたが、俺の予想を超える凄い人だったらしい。

 

「これにて、キリト錬士の懲罰は終了とする!今後は誰かに泥を跳ね飛ばさないように気を付けることだ」

 

剣をしまいながら、そう告げたウォロ主席はその場を去って行った。その瞬間、我に返った観客が一気に歓声を上げた。

 

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

「凄かったぞー!!」

「リーバンテイン主席と引き分けるなんてな・・・」

「闘気だけで、鳥肌が立つくらいだったもんな・・・」

「カッコよかったぞ!キリト錬士」

 

賞賛と拍手の嵐に驚きながらも手を振るキリト。黒剣は元の長さへと戻っていた。どうやらさっきの出来事は一時的なものだったらしい。

 

そんな歓声を無視し、俺は速足でキリトへと近づいた。ちなみに、ライオスたちは呆然となっていた。どうやら、予想が外れた・・・というよりも、見ている光景が信じられないといった感じのようだ・・・まぁ、同情する余地は全くないが。

 

そのまま、黒剣の状態を確かめているキリトに俺は・・・

 

「この、アホ」

「いてぇ!?」

 

手刀を入れながら一言を放った。最後の一撃にはこっちもハラハラとしたのだ。ちょっとぐらいお小言を言ってもいいだろうと思い、俺が口を開こうとした時だった。

 

「な、何すんだよ、フォ・・・うぉぉ!?リ、リーナ先輩・・・?」

「斬られたと思ったぞ・・・!」

 

キリトの肩を掴み、正面で向き合ったリーナ先輩に阻まれてしまった。そんな先輩は今にも泣き出しそうな表情だったため、流石の俺もお小言を飲み込み思わず距離を取った。

 

「す、すみません。ご心配をお掛けしました・・・俺も斬られるかと思ってヒヤっとしました」

「なのに降参しないとは・・・この大馬鹿者め!」

 

とキリトを責める先輩の声色はどこか嬉しそうな感じだった。

 

「見事な・・・素晴らしい戦いぶりだったぞ、キリト。礼を言わせてもらうよ。

独り占めできなかったのは残念だが、お前は約束通り、私に全力の戦いを見せてくれた・・・ありがとう」

「で、でも・・・引き分けですし」

「リーバンテイン殿に引き分けておいて不満か?」

「い、いや、そういう訳では・・・」

「もはや勝ち負けは関係ないさ。お前の戦いぶりに私は大切な・・・とても大切なことを学んだのだ。私の部屋で祝杯でもあげようではないか?・・・まぁ、その前にフォン君が君に言いたいことが沢山あるようだが」

「・・・アハハ。良かったです・・・てっきり俺の存在なんて無視されているかと思ってましたから」

 

二人の真剣な会話の前に空気と化していた俺だが、リーナ先輩は気にしてくれていたようだ・・・

最も、先程のリーナ先輩の言葉でお説教の言葉は引っ込んでしまったので、もうどうこう言う気は無くなってしまったのだが・・・

 

「・・・ハァ。いえ、大丈夫です。キリトはキリトですから」

「失礼な奴だな、人を問題児みたいに・・・」

「お前・・・・・いや、もう何も言うまい。まぁ、とにかく無事で何よりだ」

「・・・そうだ。フォン君、君も一緒に祝杯を挙げないか?ユージオ君やゴルゴロッソ殿やザガメナン殿も誘おうかと思うのだが」

「・・・そうですね。では、お言葉に甘えようかと」

「そうか。では、ユージオ君とザガメナン殿に声を掛けてくれないか?」

「分かりました。キリト、後でな」

「ああ」

 

リーナ先輩とキリトと別れ、空気を読んで端っこで待機していたユージオに祝杯の件を伝える。

ゴルゴロッソ先輩にはユージオから伝えてくれるらしく、俺はハルト先輩に伝えに行こうと思ったのだが・・・先輩の姿は観客席にはなかった。

どうやら試合が終わり次第、どこかに行ってしまったようだ。

 

とりあえず探しに行くかと思い、俺は大修剣場を後にした。その時、ライオスたちの姿がないことにも気付いたが、何より気になったのは・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(・・・アズリカ先生?キリトを見て、どうしたんだ?)

 

キリトに視線を向け、何かを見定めるような目をしたアズリカ先生の珍しい姿が気になったのだ。

俺が先輩を探しに通り過ぎた後、誰にも聞こえない声で先生は言葉を漏らしていた。

 

「キリト錬士・・・あなたには剣の記憶が・・・」

 

 

 

先輩が上級剣士の寮の方へと向かったという話を何人から聞いた俺はハルト先輩の事実に来ていた。ドアをノックするが返事がない・・・だが、物音はするので中にはいるようだ。俺はもう一度ノックしてから部屋に入った。

 

「失礼します!フォン初等錬士入ります!ハルト先輩、いらっしゃ・・・うわぁ」

 

入室の挨拶をしようとして、途中で言葉が詰まった。上級剣士の部屋は一部を除いて、基本二人一組の部屋となっている。

ハルト先輩の同居人は不在のようだが・・・俺が言葉を詰まらせたのは、現在進行形で部屋が散らかっているからだ。本来は俺やもう一人の傍付きがいつも掃除をしているのだが・・・それを台無しにするかの如く、散らかりつつあるのだ。

 

現実世界であれば、押し入り強盗が金品を物色しているかのような光景だが・・・犯人は分かっているので俺は落胆しながらも散らかしの犯人かつ捜していた当人へと声を掛けた。

 

「・・・何してるですか、先輩・・・」

「うん?おや、フォン君。どうしたんだい?」

「どうした、っていうのはこっちの言葉ですよ。探しに来てみれば、この惨状に出くわしたんですけど・・・なんですか、これ?」

「探し物をしていてね・・・ある本を探しているんだが、見当たらなくてね」

 

周囲を物で埋め尽くした先輩は困ったように笑っていた。先輩は片づけが下手くそなのだ

・・・絶望的に。自分が片付けた物を次の日には忘れてしまっているほどだ。初めて傍付きの仕事をした時は整理整頓した途端、先輩の同居人からお礼を言われてしまったほどだ。あれは・・・いや、もう思い出したくもない。

 

「何の本ですか?」

「確かね・・・『神器と呼ばれた剣』という本だよ」

「ああ、あの本ですか。その本でしたら・・・・・ありましたよ」

 

先輩の机に最下位に位置する、一番サイズが大きい引き出しを開ける。あまり読まれていない本と先輩に確認してからこの引き出しの一番奥に他の数冊の本と一緒にしまったのだ。

 

奥から引っ張り出し、背表紙で目的の本かどうか確認してから先輩に差し出す。が、何故か突き返されてしまった。いきなりのことに俺の頭にはてなマークが浮かぶ。そんな俺を見て、先輩は笑いながら理由を話してくれた。

 

「その本を君に渡したくて探していたんだ。君の糧になればいいと思ってね」

「えっ・・・あ、ありがとうございます。でも、なんでこの本を?」

「キリト君が使っていたあの剣・・・君はどう思った?」

「!?」

 

そう告げる先輩の声が低くなったのは気のせいじゃない筈だ・・・笑みを浮かべる表情は変わっていないが、こういう時の先輩の声色は必ずといって爆弾発言をすることを俺は知っていた。

 

「キリト君がまるで大木を背負っているような姿が、君にも見えたんじゃないかい?」

「・・・先輩は何をしっているんですか?」

「まぁまぁ、別に取って食おうとしているわけじゃないんだから。君も神器と呼ばれる武器があることは知っているだろう?」

「はい。先輩はキリトの黒剣は神器だと思っているんですか?」

「・・・確証はないけどね。でも、神器と呼ばれる剣にはある共通項があるんだよ。ちょっといいかな?」

 

そう言って、先輩は俺から本を受け取り、あるページの一文を指した。

 

「神器と呼ばれる武器には『記憶』が宿る」

「・・・!」

 

その言葉で俺は先輩の言いたいことを理解した。

つまりウォロ主席との試合の時、俺が見たギガスシダーの幻影は錯覚ではなかったということだ。

あの黒剣にはギガスシダーの『記憶』が宿っているということになる。ということは・・・ユージオの青薔薇の剣にも・・・?

 

「仰りたいことは分かりました・・・でも、『記憶』が宿る武器が神器だとしても、それに何か意味があるんですか?」

「・・・それはね」

「・・・・・・(ゴクッ)」

「・・・・・・・・・・・・・・・僕にも分からない」

ガックン!!

 

散々勿体ぶってからの肩透かしに俺は思わずズッコケた。そんな俺を見て、クスクス笑う先輩を見て察した。全く笑いを堪えようとしていないところで、完全に俺をからかったのだと・・・!

 

「ハ~ル~トせ~ん~ぱ~い~!!」

「ゴメン、ゴメン!真剣に聞いてくれるもんだから、思わずからかい・・・ゴホン。ちょっと悪戯してみたくなってね」

「悪意を隠す気ゼロですか?!」

 

そうだった・・・これが先輩の悪いところなのだ。

整理整頓ができないのもそうだが、人をからかうことに関して頭を回すのも早いのだ。

一体、この一年で何回やられたことやら・・・先輩の虚言で神聖術を暴発させたことも数回・・・いや、もう忘れよう。

神聖術や剣術の腕は先輩のお蔭で上がったことは事実なのだから、うん。

 

「さて、冗談はここまでにしておこうか。

神器と呼ばれている武器は他の武器と違うことは分かっているね?自然にソルスの恵みを吸収することで天命を少しずつ回復させることも知られているとは思うが、

それがどういう仕組みで行われているのかはまだ解明されていない」

「はい。それも聞いたことがあります」

「・・・そして、神器にはまだ未知なる力が宿っているとされている。話によると、それは武器の『記憶』に大きく関わっていると言われている」

「それじゃ、さっきの試合でキリトはその力を発現したってことですか?」

「・・・それは僕にも分からない。でも、気になった君は調べるつもりだっただろう?

僕と同じで君も好奇心が強いから、その助けになればと思ってね」

 

まぁ、その本もあまり詳しいことは書かれてないんだけどね、と苦笑いしながら告げる先輩の言葉と共に本を受け取る。

 

「風の噂では、整合騎士は神器の力を使いこなしているという話があるくらいだ。もし神器を使いこなすことができるとすれば・・・」

「整合騎士と同じ力を得ることができる、ということですか?」

「・・・ああ。君と、同期のキリト君とユージオ君は整合騎士を目指しているのだろう?君たちの力になればと思ってね。先輩からの餞別だ」

「・・・ありがとうございます!大切に使わせてもらいます!」

 

先輩なりに気遣ってくれていたようだ。おそらくキリトの試合を見て、すぐにこの本の存在を思い出したのだろう。

先輩は暗記も得意だから、本の内容はもう全て覚えているから必要ないのというのもあったのだろうが、これは有難い贈り物だった。

 

その時、俺は気になったことを先輩に尋ねてみることにした。

 

「あの、先輩。その神器の『記憶』に関するものなんですが・・・持ち主に特定の記憶を見せる、なんてこともあるんでしょうか?」

「・・・いや、そんな話は聞いたことないね。まぁ、僕が聞いたことがないだけかもしれないけどね・・・もし気になるのなら、アズリカ女史に聞いてみるといいよ」

「ア、アズリカ先生ですか?」

「そうだよ。僕が神器について調べていた時に、資料について相談してみたらその本をくれたんだ。まぁ、僕が神器について知っているのかどうかを尋ねてみたら、何も教えてはくれなかったからね」

(・・・それじゃ、アズリカ先生もギガスシダーの『記憶』が見えたってことなのか?さっきのキリトへの視線はそういうことだったのか?)

 

ハルト先輩の言葉に俺はアズリカ先生の行動に納得がいった。まぁ、先輩が尋ねてダメだったのなら、俺が質問してもおそらく同じ結果になりそうだが・・・

 

「そういえば・・・フォン君」

「なんですか、先輩?」

「君、僕を探していたって言ってたけど・・・何か用事があったんじゃないか?」

「・・・・・あっ!?」

 

先輩の一言で俺はここに来た本来の目的を思い出した!そして、慌てて時計を見た・・・あれからかなりの時間が経ってしまっていた。

ハルト先輩に祝杯の誘いの件を伝え、すぐにリーナ先輩の部屋に向かおうとしたのだが・・・先輩が散らかした荷物を片付けなくてはならず、更に時間を食ってしまった。

 

ようやく片づけが終わり、急ぎリーナ先輩の部屋に向かう。もう既に飲み会は始まっており、ユージオやゴルゴロッソ先輩は時間通りに来ていた。

 

リーナ先輩たちにハルト先輩と共に謝り、俺たちも飲み会に参加したのだった。

 




実質後半はフォン強化のための布石だったりします。

次回更新 31日0時予定

『外伝 鼠のボディガード』を読みたい人!

  • はい
  • いいえ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。