ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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さて、タイトル通りのお話ですが、キリト未登場という珍しいお話です。
オリキャラ登場&ユージオVsウンベール回になります。

前回3点リーダーが多用しすぎているというご指摘を頂きましたので、今回自分なりにかなり削減してみました。まだ多いと思われれば、ご指摘頂ければと思います。

それではどうぞ!


第22話 「上級修剣士として」

(さてと、もうそろそろ終えてる頃かな)

 

そんなことを思いながら包みを持った俺は少し早足で自室へと戻っていた。

 

上級修剣士に昇格し、今日で1週間が過ぎた。

その間に同期からの視線が大きく変わってしまったり、今年入学してきた初等錬士の中から傍付きを選んだりなど色々なことがあって、あっという間に時間が過ぎていったように感じた。

 

そんな俺が早足で自室へと戻っているのは何故かと言うと、

 

「お帰りなさいませ、フォン主席」

「・・・相変わらず固いね、マーベル。先輩でいいって言ってるだろう?」

 

出迎えてくれた女性錬士の固い挨拶に苦笑いしながらそう返す。

 

「まだ固いですか?ですが、主席殿をそう気安く呼ぶのは不敬に当たるかと」

「俺にとっては、後輩にそう呼ばれるのはむず痒い気分になるから止めてもらえる方が助かるんだけど・・・」

「・・・努力してみます。それと、報告が遅れました。本日の清掃活動、完了致しました」

「ありがとう、マーベル。今日はもう寮の方に戻ってくれて構わないよ。まだ学院に来たばかりで、慣れてないことの方が多くて疲れているだろうし」

「いえ。このくらいで音を上げるほど、私は弱くはありませんので」

「ほらほら、そういうとこだぞ」

 

肩に力が入りすぎている彼女を見て、1年前の自分もこんな感じだったのかと思い笑みが零れた。

 

マーベル・ネフィリアム・・・俺の傍付きを勤めてくれている初等錬士だ。

雪のように白いボブカットの髪形にルビーのような色を宿した目が特徴的な女性だ。

 

上級修剣士が傍付きを選ぶ際、その選ぶ順番は主席からの成績順という決まりになっている。もちろん主席の俺から傍付きを選ぶことになったのだが、アンダーワールドには現実世界と違って履歴書などが存在しないため、傍付き候補生たちと面会して選ぶことになったのだが・・・

 

その中でも、マーベルは他の生徒とは全く違った様子だったのだ。

傍付き候補たちの方も上級修剣士側の情報は全然知らない状態で待機しているので、ほとんどの者が緊張のあまりまるで石になってしまったかのように硬直してしまっており、選ぶ方の俺まで緊張が伝わってしまったくらいだ。

 

そんな緊張が走る中、マーベルは一人目を瞑ってただただ待っていたのだ。

そんな彼女を見た時、俺は考えるよりも先に彼女を傍付きとして指名してしまっていたのだ。珍しく直感というか、彼女となら良い関係を築けると思ったのだ。何より、

 

「そんなに固いかな?でも、他の皆はこんな感じだって言ってたしな」

(どこか俺と被るって見えるんだよな。真面目というか、見てて飽きないというか)

 

先程言われたことを気にして一人反省しているマーベルを見ながら、傍付きを選んだ時のことを思い出していた俺はマーベルに声を掛けた。

 

「そうだ、マーベル。これを持って帰ってくれないかい?」

「・・・これは?」

 

俺から手渡された包みを受け取り首を傾げるマーベル。中身を開けるように言うと、マーベルは包みの中を覗き驚いていた。

 

「これって、お菓子ですか?」

「ああ。学院に来た頃からちょっと練習しててね。最近になってようやく納得がいくものが作れるようになったんだ。味は保証するけど、誰かに率直な感想を聞かせてほしいと思ってね。寮の錬士たちと分けて食べてみてくれないか?」

 

マーベルが取り出したもの・・・現実世界で言う、どら焼きもどきだ。

 

さて、俺がお菓子作り、もとい料理に挑戦してみようと思ったのは、学院に来て傍付きの仕事にも慣れてきた頃、ユージオとこんな会話をしていたのがきっかけだった。

 

「フォンって料理に詳しいのかい?」

「えっ?それなりにってところかな。急にどうしたんだ?」

「なんて言うか、フォンって料理の感想が細かいと思ってさ。キリトは旨い、旨いしか言わないけど、フォンは味付けとか食材の組み合わせをよく言ってるから」

「あ~。言われてみれば、そうかもな」

 

ユージオにそんなことを指摘され、これまでの食事での自分のコメントを思い出した俺は思わず頬を掻いた。今、考えれば恥ずかしくなってきたな。

 

このアンダーワールドでは味覚さえも他のVRと一線を・・・いや、下手すれば現実世界よりも料理のレベルが上だと感じてしまうこともあるほどだ。もちろん、美味しいのも不味すぎるのもどっちもという意味だが。

 

それほどにフラクトライトに直接情報を写すSTLの技術が高いことを証明しているとも言えるのだが、痛覚までも現実世界と同じなのは確実に一般的に流通させる気がラースの面々にはないのだとも感じられた。

 

そんなことを思っていると、ユージオがこんなことを提案してきたのだ。

 

「そうだ!そんなに詳しいのなら、自分でも作ってみたらどうだい?」

 

そんな一言が俺の眠っていた好奇心に火が付いてしまった。

この現実世界とほとんど変わらないVR世界で、俺の料理スキルがどこまで通用するのか、試したくなってしまったのだ。

 

とそこまでは良かった。だが、俺は忘れていた。

 

ここはあくまでもVR世界であり、現実世界では常用していたオーブンやら便利な調理器具がないことを。

そして、この世界の食材を俺は熟知していなかったことを・・・

 

・・・結果は惨敗。久々にダークマターなるもの、とまではいかなかったが、とても人様に出せるものではないものを作ってしまったのだ。感覚で作れるかなと高を括った俺が甘かった。

 

それからは勉強の日の連続だった。

 

傍付きの役目を果たし、勉強や修錬も怠らず、安息日には朝食・昼食を実験も兼ねて手作りして経験を重ねた。

 

気付いた時には『初等錬士のオカン』とキリトに呼ばれてしまう程にそれなりの料理を作れるようになってしまっていた(そんな二つ名を付けようとしたキリトには試しに作ったレーズンパンもどきを口に突っ込んでやった。ちなみに味に関してはユージオから好評をもらった)。

 

そんな試行錯誤を繰り返した上で、俺はマーベルが持っているどら焼きもどきを今回作ってみたというわけだ。

 

どうして、“どら焼きもどき”と言うのかというと、中身が餡子でなく(流石に餡子はこの世界になかった)、カスタードで代用したものだからだ。生地は小さめのホットケーキを厚くしたもので、形がどら焼きっぽいので“どら焼きもどき”なのである。

 

「こんなお菓子見たことありません。しゅせ・・・フォン先輩がお考えしたものですか!?」

「俺がと言うと語弊があるけど、どら焼きっていうお菓子を再現したものだよ。俺の国・・・ゴホン、俺も話に聞いたことがあるだけで、似たようなものを作っただけだよ」

 

思わず記憶喪失の設定を忘そうになったが、なんとか誤魔化しながらマーベルにそう説明していく。見たことないものを見るとはこういった姿のことを言うのだろう、“どら焼きもどき”をじっくりと観察しているマーベルに一口食べてみるように言う。

 

おどおどしながら一口食べたマーベルの反応は、

 

「っ!!お、美味しい!!」

 

目を輝かせ、女の子らしい反応をするマーベルの感想に上手く作れたことにホッとした。どうやら出来栄えは上々のようだ。そして、俺がその様子を見ていることに気付いたマーベルは耳を真っ赤にさせていた。

 

「し、失礼しました、主席殿!?お恥ずかしい姿をお見せしました!?」

「ハハハ、大丈夫だよ。もう傍付き勤めの時間は終わったしね。というか、また耳赤くなってるよ、マーベル」

「す、すみません!?」

 

俺に指摘された彼女は更に耳を赤くさせていた。

どうにも彼女は感情が耳に出やすいタイプらしい。傍付きに指名された時もかなり緊張していたらしく耳を真っ赤にさせていた、と自己紹介の時に言われたのは驚いた。逆に表情を隠すのは得意らしい。

 

今も耳は真っ赤だが、表情はそこまで変わっていないのだから大したものだと思う。

傍付きとしての剣術指導でも時々手が読み辛い時があるため、かなり教え甲斐があると感心するほどである。

 

ちなみにマーベルが使うのはザッカライト流剣術なので、俺も指導時には片手剣で相手をしている。アインクラッド流を始めて見せた時には根掘り葉掘り聞かれたので、マーベルを寮に帰すのが遅くなってしまい、アズリカ先生にお小言を言われたのは余談だ。

 

「さぁ、そろそろ寮に戻った方がいい。またアズリカ先生にお小言を言われるのは俺も勘弁願いたいからね」

「フォン先輩、そんな失礼なことを言っては・・・!?」

「アハハ、ゴメン、ゴメン。ちょっと口が滑ったね」

「先輩って、時々とんでもないことを言いますよね」

「・・・・・マーベル、早く戻りなさい」

「フフフッ、分かりました。では、失礼致します!」

 

まさか後輩にまでそんなことを言われるとは思ってもみなかったので、これ以上話を広げるのは分が悪いと感じ、俺は強引に話を終わらせた。それを汲み取ってくれたマーベルも、お菓子が入った小鼓を大事そうに抱え、寮へと戻った。

 

「早くロニエたちにも食べさせてあげないと!こんな美味しいお菓子は暖かい内のほうが絶対に・・・・・・・・・」

(よほど好評だったらしいな)

 

次第に遠くなっていくマーベルの独り言に苦笑してしまう。あれくらいの態度でいつも接してもらえるとこっちも気楽なのだが。まぁ、もうしばらく慣れるまでは仕方ないだろう。

 

そんなことを考えながら、俺は窓の外へと視線を移した。

 

「・・・今年を終えたら、いよいよか。ここまで、本当に長かったよな」

 

遠くに見える、まるで天にまで続くようにそびえ立つセントラル・カセドラルを見て、俺は気持ちを改めていた。

 

学院を卒業すれば、四帝国統一剣術大会が行われる。その大会で優勝すれば・・・整合騎士の道へと一歩近づくことへとなる。

 

(そのためにも、主席の名に恥じないようにしないとな。次席と3位様がどこで目を光らせているとも限らないしな)

 

初等錬士の時以上に今年は大変な年になると思いつつも、やるべきことを再認識し、俺は明日のマーベルとの稽古をどうするか、考え始めるのだった。

 

 

 

「さぁ。来い、ユージオ!」

「うん!」

 

上級修剣士寮の修錬場。

そこで俺はユージオと対峙していた。

 

マーベルとの稽古を終え、久々に両手剣の感覚を確かめたく一人で修錬場に来たのだが、先にユージオが丸太に打ち込みをしていたのだ。俺が来たことに気付いたユージオに模擬試合での特訓を持ち掛け、今こうして剣を交えていた。

 

「懐かしいな。ルーリッドの村やザッカリアではよくこうやって剣をぶつけ合ってたよな?」

「あの時はこんな風に戦えるようになるなんて思ってもみてなかったよ」

「そうだな。あの時なんて、稽古中にしゃべる余裕なんてなかったもんな」

「それでも!今でも、君やキリトに剣が届くイメージが全くないけどね!」

 

そう言いつつも、笑いながら模造剣を振ってくるユージオの一撃一撃を模造両手剣で受け止める。軍将棋もそうだが、ユージオの成長性には目を見開かれるものがある。

 

今こうして交えている剣でさえも、俺はユージオの一挙一動から目を離すことができないでいた。ちょっとした隙を見せれば、今のユージオの実力なら・・・そう思う一撃を繰り出してくるからだ。

 

「アインクラッド流、バーチカル!」

「っ!?はぁぁぁぁ!」

 

勝負に出てきたユージオのソードスキルを両手剣ソードスキル〈サイクロン〉で迎え撃つ。自分の中で込めるイメージは

『守るべき人の笑顔』・・・変わることのない確かな意思を大剣に込めて技を放つ。

 

「俺の勝ちだ。悪いな、師匠としてはまだまだ弟子に負けてやるわけにはいかなくてな」

「・・・降参だよ」

 

ユージオのスラントを模造剣ごと弾き飛ばし、俺はユージオの眉間に両手模造剣を突き付けた。両手を上げ、降参の意を示したユージオに俺は笑みを浮かべながらそう告げるのだった。

 

「ねぇ、フォン。フォンは剣にどういった想いを込めているんだい?」

 

模擬試合を終え、シラル水を飲みながら一休みしていると、そんなことをユージオに尋ねられた。

どういうことかと俺が首を傾げていると、ユージオは目を伏せながら話し出した。

 

「前にキリトが言ってたよね?この世界じゃ、剣に自身の想いを乗せることが大事、剣の重さが戦いの全てを左右するって」

「ああ。ウォロ主席との懲罰試合の後に言ってたことか」

 

ようやく合点がいった俺はその時のキリトの言葉を思い出していた。

 

キリトが言っていたのは『心意』・・・剣を振るう時に乗せる覚悟や決意のことを指していた。

 

例えば、ウォロ主席であれば『騎士団指南役の家に生まれたという誇りと重責』、

ゴルゴロッソ先輩は『鍛え上げられた自身の肉体への自信』、

リーナ先輩は『積み重ね、研ぎ澄まされてきた剣術の冴え』、

ハルト先輩は『幼き頃から繰り返し使い続けた神聖術の才と剣を組み合わせた技を放つ柔軟な発想・想像』といったものだ。

 

ウォロ主席と戦った時、キリトの頭にはアスナや俺、これまで一緒に過ごしてきた仲間たちのことを想い強くイメージした結果、なんとか引き分けに持ち込めたと話していた。

 

「キリトは、僕自身が見つけないといけないと言ってたけど、貴族でも剣士でもない僕に見つけられるかと思ってさ」

「・・・・・そうか」

 

ユージオの言葉に俺はなんと返すべきかと悩んだ。そして、考えた結果に答えたのは、

 

「俺は・・・絶対に笑顔を守りたい人の、涙を見たくない・・・そう思って剣を振るってるよ」

「えっ?」

「人一倍強くて、人一倍明るくて・・・だけど人一倍我慢しがちで、弱音を隠して・・・その人の笑顔を守る、絶対に泣かせたくなんてない。それが俺の剣に込める想いだよ。

この想いだけは絶対に負けない。この世界・・・いや、どの世界の誰よりもそうしたい、そうありたいって俺は思ってる」

「凄いね、フォンは。そこまではっきりと言い切れるんなんて」

「そうは言うが、俺はユージオも凄いと思うぞ?」

「えっ?」

 

俺の言葉に顔を上げたユージオが驚いていたが、俺は構うことなく言葉を続けた。

 

「もし自分に何もないと思ってるんだとすれば、ユージオ自身が自分に自信を持ってないだけじゃないか?」

「・・・自信?」

「だってそうだろ。剣士でもなかったお前はこうして俺たちと一緒に修剣学院で、上級修剣士として剣を振るってる・・・ギガスシダーに対して斧しか振るってなかったお前がだ。

さっきの試合だって、手加減して剣を交わらせる余裕なんて全然なかったんだぜ?」

「で、でも」

「本当は気付いてるんじゃないか?お前が誰のためにその剣を振るっているのかってことをさ」

「っ!!」

 

その言葉にユージオの目が見開かれた。過去の罪悪感から目を反らし続けてきたのだろうが、ここまで来たユージオの行動源は間違いなく7年前に連れ去られてしまった彼女だ。

 

俺は立ち上がり、呆然とするユージオに言葉を掛けた。

 

「その想いを胸に、剣に込めればいい。

俺もキリトも一人じゃここまで強くなんて絶対になれなかった。それはユージオがここまで一緒に来てくれたことも一緒だ。ユージオの護りたい者のために、その剣を振るえばいいんじゃないか?」

「・・・僕の、護りたいもの」

 

少しは答えとして光を示せたかと思うが、ここから先はユージオが見出さなければならないことだ。

これ以上は俺やキリトが何かを言うべき部分ではないと思い、俺は話をそこで打ち切った。

 

「あれ?笑顔を守りたい人?フォン・・・もしかして記憶が戻ったのかい?!」

「えっ!?あ、あ~・・・なんとなくそんな人がいたなと思ってさ。ちょ、ちょっとだけそんなことを思い出した気がしてさ、アハハ・・・!」

「そっか!もしかしたら、そう記憶を思い出すのは遠くないのかもしれないね!」

「そ、そうだな(グサッ!)」

 

記憶喪失の設定を完全に忘れていた俺に、ユージオの純粋な言葉が胸に突き刺さる。罪悪感に苦しみながらも、もうユージオには全てを話した方がいいかもしれないと思い、その内キリトと相談しようと考えながら乾いた笑いを浮かべていると、

 

「おや~?修錬場で何やら和やかな会話が聞こえてきたかと思えば、これはこれはユージオ殿と・・・主席殿ではありませんか」

 

修錬場の入り口から聞こえてきた声に振り返ると、そこにはライオスとウンベールの姿があった。

 

一方のライオスは俺までここにいるとは思ってなかったようで、苦々しい表情をしながら俺のことを見ていた。

 

「ライオス殿にウンベール殿。貴方方も修錬に来たのですか?」

「ええ。まぁ、主席殿たちはここで談笑するほどに暇を持て余していたようですが?」

「そうですね。丁度模擬試合を終えたところで休憩をしていたところでしたから。もし良かったら、どうぞお使いになってもらって結構ですよ?」

「・・・チィ」

 

最近になってようやく慣れてきた貴族口調で答える俺が挑発に全く乗らなかったことに隠す素振りすらせず舌打ちするウンベール。

 

修剣検定試験で俺がライオスを打ち倒し、主席上級修剣士となってからこの二人の態度には少し変化があった。以前よりも俺を敵対視してきたのだ。

 

事あるごとに挑発してきたり、主席上級修剣士としてどこか落ち度がないかいちゃもんをつけてきたり、あまりにも子供じみた言いがかりに怒りを通り越して呆れる日々が続いている・・・一番呆れたのは、

 

(俺と同室が嫌だとか、ライオスが言い出した時にはそこまで俺が嫌いになのかとちょっと傷ついたぞ。

まぁ、アズリカ先生が気を遣って、俺に個室を提案してくれたのは助かった。ライオスと同室とかストレスにしかならなさそうだし)

 

当時のことを思い出した俺は思わずため息が出てしまった。まだ貴族目線で挑発してくるウンベールに対し、俺に負けたことが認められないのか、ライオスは時々憎悪を宿した視線を向けてくることがあるのだ。

 

禁忌目録である程度の制限は掛けられているので、直接危害を加えてくることはないだろうが、ゼフィリアの花の一件を考慮して俺は奴に最大限の警戒を払っていた。

 

「ユージオ」

「(コクッ)」

 

こいつらと一緒にいると碌なことがない。

 

そう思った俺はユージオにアイコンタクトを取る。俺の言動で考えを察してくれたユージオと共に、模造剣の手入れをして後片付けを始めるが、そんな俺たちにあいつ等が黙っているわけもなく、

 

「もう鍛錬は宜しいのですかな?それとも、偏狭な田舎で育った貴殿方はお疲れになってしまったのかな?」

「まぁまぁ、ライオス殿。主席殿はともかく、ユージオ殿は元木こり・・・主席殿に剣を教わりたくとも、丸太程度の技しか知らないのではありませんか?」

「ほう、これは傑作だ!流石の主席殿もきこりには教える技がないと・・・これはこれは同じ寮に住む者としては、型の一つでも教授差し上げるべきだったかな?」

「おー!ライオス殿の寛大さたるや、まさしく模範の鏡とすべき姿でありますな。そうは思いませんか、主席殿にユージオ殿」

「(ちっ・・・)・・・はぁ」「・・・・・」

 

こっそり修錬場を後にしようとしたのだが、ウンベールに呼び止められてしまった。思わず内心で舌打ちしながら、俺は覇気のない声で答えた。

 

「ライオス殿のお言葉に甘えて指導を受けてみては如何かな?このような機会二度とはないぞ。まぁ、主席殿はまぐれでライオス殿に勝てたのですから、必要ないのかもしれませんが・・・フフフッ」

(ここまでくると可愛そうに見えてくるな、ウンベールの奴)

 

思わず盛大なため息が出そうになるが、ぐっと飲み込んで俺はユージオに判断を委ねた。ちなみに俺は断る一択だったが、ユージオはどうかと思ったのだ。

 

「それでは、お言葉に甘えて一手ご教授願えますでしょうか?」

「・・・!」「・・・ほほう」

 

覚悟を決めた目をしたユージオははっきりとライオスたちに向けそう答えた。その回答に俺は少し驚き、ウンベールが感心・・・いや、嘲笑うかのように応答した。

 

「ユージオ修剣士、それは本気ですかな?」

「はい。3位であるウンベール・ジーゼック殿の高貴なる剣を、この身に直接ご指導頂ければと・・・お願いできますか?」

「な、なんだと!?」

 

ユージオの回答が本気であると悟ったウンベールの表情が怒りに変わる。おそらくユージオが逃げるとでも思っていたのだろう。短絡的な挑発が裏目に出たウンベールだったが、一方のライオスは冷静だった。

 

「それはつまり、ウンベール殿の剣に打たれたいということかな、ユージオ修剣士?」

「もちろん寸止めでお願いしたいですが・・・しかし、こちらは指導を乞う立場。この上注文するのは無礼というものでしょう」

 

ライオスの言葉を肯定し、そう答えるユージオは落ち着いていた。そんなユージオの姿が気に入らなかったのか、はたまた事故に見せかけて怪我を負わせられることを喜んでいるのか、ウンベールは模造剣を抜きながらユージオへと言葉を掛けた。

 

「いいだろう!貴殿のその向上心に免じ、真の剣術となるものを教えてやろう!主席殿も構いませんな!」

 

ウンベールがそう確認してきたため、俺はユージオの方を向き、確認を取った。

 

「本当にいいのか、ユージオ?」

「うん。良い機会だと思ったんだ。ライオスとウンベール・・・二人の自尊心が生み出す力がどういったものなのか知ってみたかったんだ」

(前にキリトが話してたことか。俺もライオスと戦った時に経験したが・・・そういう点ではあいつ等は頭一つ抜けていると言っても過言じゃないしな)

「それに、信じてみようと思ったんだ」

「えっ?」

 

以前のライオスとの試合で奴の“自尊心”からなる『心意』を受けたことがあった俺はその時のことを思い出し眉を顰めたが、ユージオの次の言葉に何も言えなくなってしまった。

 

「フォンが言ってくれた強さが、想いが彼らにどこまで通用するのかを・・・今度こそ、僕の剣が本当に彼女を守ることができるのかどうか、試してみたいんだ」

「・・・・・!分かった」

 

まだ自信満々とまではいかないようだが、ユージオの目から迷いはほとんど消えていた。これなら問題ないと思い、俺は壁際まで引き下がり事の成り行きを見守ることにした。

 

「そろそろいいかな?では、参るぞ!ハイ・ノルキア流の真髄・・・その身をもって学ぶがよい!!」

「ノルキア流剣術〈雷閃斬〉か」

 

ノルキア流剣術〈雷閃斬〉・・・片手剣単発ソードスキル〈バーチカル〉を放つ構えを取ったウンベールに対し、ユージオも迎え撃つために半身を引き、右手で剣を掴んだ。

 

「参る!!」「・・・っ!!」

 

掛け声と共にウンベールが放った〈雷閃斬〉を、ユージオはその場から動くことなく抜刀共に放った片手剣ソードスキル・・・アインクラッド流剣術〈スラント〉で迎え撃った。

 

修錬場に秘奥義の衝突音と衝撃による突風が吹くも、目を反らすことなく俺はどうなったのかを見続けていた。

 

「なぁ?!」

 

そんな驚愕の声を漏らしたのは、自身の秘奥義が完璧に相殺されたウンベールだった。対するユージオは冷静にウンベールの剣を受け止めていた。

 

すかさず剣をずらし、ユージオの体勢を崩したところで追撃をかけたウンベールだったが、それすらもユージオは即座に反応し防ぎ切った。

 

「流石だな、ユージオ」「ほう・・・」

 

ライオスと感想が被ってしまったが、やはり剣の腕だけでいえばユージオの方が上をいっているといってもいいようだ。秘奥義越しの鍔競り合いから、じりじりとウンベールの剣を押し返していくユージオ。だが、

 

「っ・・・平民が!調子に乗るなぁぁ!」

「っ!?(この力は?!)」「・・・!(心意か!?)」

 

ウンベールの剣に禍々しいオーラが宿ったかと思えば、一気に剣圧が強まった。突然の出来事に驚きを隠せないユージオに対し、俺は以前ライオスと戦った時と同じ感覚にそれが心意だと見抜いた。

 

(これが・・・ウンベールの自尊心が生み出す力なのか!?)

「その無様な姿に、流派の卑しさがにじみ出ているぞ?」

「くっ・・・うう!?」

 

剣圧に押され膝を突くユージオ。そんなユージオに止めを刺さんとばかりにウンベールが剣に力を込める。

 

「このまま右肩を砕いて、当分の間剣を振れなくしてくれるわ!」

(っ・・・!?マズイ!)

 

このままではユージオが危ない。

割って入るべきだと判断し、俺が両手模造剣を構えようとした時だった。まさかの光景が俺の目に飛び込んできた。

 

「そこだ!」

「なぁ!?」

 

剣を僅かにずらし、ウンベールの秘奥義をユージオは紙一重で回避したのだ。流石のウンベールも力を込めていたことが仇となり、重心が前へと取られてしまう。そして、背後を取ったユージオが放ったのは、

 

「うぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「っ!?うわぁぁぁ!!」

 

片手剣ソードスキル・・・アインクラッド流剣術〈バーチカル〉だった。その一撃になんとか反応したウンベールだったが、体勢を崩した状態でユージオの全力の一撃が受け止められる筈もなく、大きく吹き飛ばされた。

 

「そこまで!」

「っ!?」「ラ、ライオス殿!?」

「そこまでだ。この立ち合いは引き分けとする」

 

ウンベールの不利を悟ったライオスの制止の声に、目の前で起きたことに驚いていた俺も我に返り、ユージオの元へと駆け寄った。

 

「ライオス殿!お、俺・・・いや、私がこのような田舎剣士と引き分けるなど!?」

「ウンベール、私の言うことが聞けないのか?」

「うぅっ!」

 

ライオスの言葉にようやく・・・いや、納得はしていないのだろうが、抗議することを諦めたウンベールは口を閉ざした。互いに剣を収め、礼をしているところに、ライオスがユージオへと声を掛けていた。

 

「貴殿の珍なる技、大いに楽しめたぞ、ユージオ修剣士。貴殿も主席殿も卒業後には、帝立曲芸団辺りにでも天職を求めては如何かな?」

「それはそれはお気遣いありがとうございます、次席殿。それとも、またしても貴族様が田舎出身の剣士に負けるような事態になる前に試合を止めて頂いたことにお礼を言うべきでしょうか?」

「っ!?ユージオ修剣士、次は私が真の貴族たる剣を教えて差し上げよう。まぁ、そんな機会があればだがね」

「結構です。僕には、貴方よりも真の強さを持っている人を知っています。お気遣いはありがたいですが、僕はその人たちの剣に近づきたい・・・今はそう思っています」

「っ!?っ!?・・・剣を振り回すばかりが戦いではないぞ、平民!!」

「「・・・!」」

 

今まで見たことのない、一番の憎悪のこもった視線と言葉を吐き出したライオスはウンベールを連れ、修錬場を後にしてしまった。残された俺たちは何ともいえない空気に包まれていたのだが、

 

「・・・はぁ」

「お疲れ。最後はちょっとハラハラしたけどな」

「うん。心配を掛けてゴメンよ、フォン」

「それにしても驚いたぞ。いつの間に秘奥義連携なんか使えるようになってたんだ」

 

俺の疑問にユージオは苦笑いしながら頭を掻いていた。

 

秘奥義連携・・・SAOで俺が終盤使っていたシステム外スキル『スキルチェイン』のことである。

 

この世界でも秘奥義・・・ソードスキルの使用直後は技に応じた硬直に襲われるため、連続で技を放つことはできない。

 

だが、もちろん例外は存在する。

 

それが、先程〈スラント〉から〈バーチカル〉へと硬直なしでユージオがソードスキルを発動した秘奥義連携のことである。

このシステム外スキルを使うことができれば、硬直なしで連続してソードスキルを発動することができる。

 

と言うのは簡単なのだが、この秘奥義連携がまたしてもタイミングがシビアなのである。

ALOでキリトも使っている『スキルコネクト』・・・コンマのタイミングで両手の意識を切り替えて交互にソードスキルを発動させるスキルに対し、

秘奥義連携は片手のみで発動できるため、意識のタイミングが少しだけ緩和されているのだが、技を放った後の体勢で次に放つ秘奥義が限定されるなどといった弱点も存在する。

 

まぁ、多連撃のソードスキルを連続発動できる時点でいささか反則的なスキルになっているのだから、そのアドバンテージはとても大きなものなのだが。

 

以前、キリトとの鍛錬の時にこのシステム外スキルがアンダーワールドでも使えることに気付き、ユージオに見せたことがあったのだが、

まさか一度見せただけで再現してみせるとは思ってもおらず、俺は制止することも忘れ、ユージオの剣技に目を奪われてしまっていたのだった。

 

(まったく。本当に追い抜かれちまうのも時間の問題かもな)

 

友の成長を内心喜びながらも、俺はユージオの成長性にそんな危機を覚えるのだった。

 

 




マーベル・ネフィリアム CV:桑原由気
フォンの傍付きを務める初等錬士。下級貴族の6等爵家出身。 
少し堅い面があるが、天然気味なところがある。ついつい敬語が出てしまい、毎回フォンに突っ込まれている。白いボブカットの髪形にルビーのような赤眼が特徴のトランジスタグラマーな体型(本人はかなり気にしてる) 
 ザッカライト流剣術を主とした片手剣をメインとするも、フォンからはアインクラッド流剣術の秘奥義も学んでいる。同じ初等錬士でキリトたちの傍付きを務めるロニエ・ティーゼとはとても仲がよく、3人で行動していることが多い。
 ロニエたちとのガールズトークでフォンに対しての感情を聞かれた時には、意外な回答をしている。
 今のところ人界戦争編にも登場予定。

というわけで、いささか不安な影が見え初めてきました。今回もフォンに暴れてもらおうかとも思いましたが、ユージオにも活躍してもらいたいと思って原作と同じ流れになりました。

その分、フォンのオカン力が発揮されていますが(笑)
そして今回、ユージオを通してフォンとキリトの心意に関する描写も入れさせて頂きました。

ちなみに次回はフォンのオカン力(?)&オリキャラとディーゼたちとの交流回になります。

アクトさん、ナギンヌさん、評価ありがとうございます。
3点リーダーをできるだけ削除してみましたが、読みやすくはなりましたでしょうか?

それではまた。

次回更新 21日0時予定

カーディナルは生存させるべきでしょうか?(どちらでも前半の結末は変わりません。後半以降の物語に大きく影響します)

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