ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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ピクニック回です。

後半、某貴族様たちが調子に乗っておりますのでご注意下さい。

このペースだと100話までにアリス登場はほぼ無理なのが確定しました。アリスファンの皆様申し訳ありません。
 
100話記念エピソードも順調に完成しつつありますので、是非お楽しみして頂ければと思います。

それではどうぞ。



第23話 「義務と正義と信念と」

『剣を振り回すばかりが戦いではないぞ・・・平民!!』

「・・・ということがあってな」

「あれから三日が経つけど、嫌がらせの予告をしておいて何もしてこないなんて・・・何か変な感じだね」

 

ユージオとウンベールが模擬試合をしてから三日後。

ライオスの最後に放った一言がどうしても気になっていた俺たちは、ライオスとウンベールが何かを仕掛けてくるのではないかと危惧していたのだが、ユージオの言う通り、嫌がらせどころか悪態の一つも言ってこず、まさかの展開に拍子抜けしてしまった俺はその時のことをユージオと共にキリトに説明していた。

 

俺の個室では手狭に感じてしまうので、今回はキリトとユージオの自室にお邪魔している状態だった。俺が淹れた紅茶を飲みながらキリトは口を開いた。

 

「禁忌目録や学院規則だってあるんだ。その網をかいくぐっていじわるするのも難しいだけじゃないのか?あいつらが次席や3位だとしても、フォンは主席なわけだから、下手なことをすればリスクが高いのは向こうの方だしな」

「そうだが、それって裏を返せば『禁忌に触れないこと』であればなんでもしてくるってことだよな・・・ゼフィリアの花の時みたいに」

「ああ」

 

俺の言葉に当時のことを思い出したのか、キリトが苦い表情をしながら頷いていた。そんな俺たちの反応を見て、ユージオは困惑していた。

 

「禁忌に触れないって、そんなことができるわけ・・・」

「ユージオ。禁忌目録はあくまでも『犯してはいけない行為を定めた目録』だ。言い換えれば、その項目に該当しなければその行為は罰されないってことだ」

「罰されない?」

「例えば、故意に天命を大きく失わせることや命を奪うことは禁忌目録に反するが、実剣での稽古中に偶然天命を減少させることや、手入れと称して花を散らすことは禁忌目録違反とはならない・・・禁忌目録は一見この世界の秩序を正しく守っているように見えるが、この世界を縛り上げているだたの枷「フォン!!」っ!?」

 

俺の理論を遮ったユージオの大声に自然と視線が向いてしまった。

 

「禁忌目録は絶対だよ!それを・・・フォンだからってそんなことを言ってはいけないよ!もしそんなことをだれかが聞いたりしてたら!」

「あっ、悪い」

 

ユージオの指摘に俺はこの世界の根底を失念してしまっていたことに気付いた。

 

俺やキリト・・・外の世界から見れば、禁忌目録はある意味異質なものだと断言できる。だが、ユージオやこの世界で生きる住人にとっては禁忌目録は絶対・・・自身の命よりも守らなければならない存在なのである。

 

それを否定されれば、あの温厚なユージオが声を荒げるのも無理はない話だった。

 

(けど、ユージオも心のどっかじゃそうじゃないと思ってる節があるみたいだな)

 

以前のユージオであれば、自信を持ってそう言っていたであろう。

 

だが、今のユージオにはそうではない表情が顔に浮かんでいた。俺を心配してくれてのことと、やはりアリスのことが影響しているのだろう、禁忌目録が絶対ではないのかもしれない・・・そんな不安な表情が読み取れた気がした。

 

「そこら辺にしておけよ、二人とも。フォンの言う事も一理あるとは思うが、もしかしたら俺たちにそう思わせておいて気疲れさせる作戦かもしれないだろう?今は平常心を忘れないようにステイクールで行こうぜ」

「キリト、何って言ったの?す、すてい・・・?」

「あっ、ええっとだな・・・アインクラッド流剣術極意その1だよ!『落ち着いて行こうぜ』みたいな意味かな。なっ、フォン?」

「そ、そうだな(初耳だよ、極意なんて)」

「それと別れの挨拶でも『じゃあ、またな』」みたいな感じで使うこともあるな」

「へぇ~・・・分かった、覚えておくよ。す、すていくーる・・・ステイクール?」

 

キリトの言葉を疑うことなく信じるユージオに罪悪感が生まれるが、場の空気を変えてくれたキリトを責める訳にもいかず、俺は思わず苦笑いをするしかなかった。

 

「さて、それじゃ俺はそろそろお暇するよ。遅くに悪かったな、二人とも」

「あっ、フォン。明日のこと、大丈夫だよね?」

 

相談を終え、そろそろ自室へと戻ろうとする俺にユージオがそう尋ねてきたので、俺は笑いながら答えた。

 

「覚えてるよ。お前たちの傍付きの・・・たしか、ロニエ・アラベルとティーゼ・シュトリーネン、それとうちのマーベルとの親睦会のことだろう?」

「うん。フォンにはお弁当を頼んじゃって申し訳ない話なんだけどね。朝9時にはティーゼたちが迎えに来てくれることになってるから、それまでにここに来てくれるかな?」

「分かった。まぁ、仕込みは今日の内に粗方終わらせてあるから問題はないと思うよ」

 

ユージオの言う親睦会と言うのは、俺たち上級修剣士と傍付きであるマーベルたち初等錬士たちとの交流会のことである。

 

まぁ、安息日に一緒にピクニックにでも行ってもっと仲良くなろう、というユージオ発案の会である。

明日の予定を確認した俺とユージオだったが、一方でキリトは、

 

「あー・・・ユージオ君、フォン君。俺はちょっと用事ができてだな・・・」

「駄目に決まってるだろうが、キリト」「駄目だよ、キリト!」

 

親睦会を面倒くさがって、というよりも安息日くらいゆっくり寝ていたいキリトが最後の抵抗を見せたが、俺とユージオがそれを許すわけもなく、キリトは降参したように両手を上げながら寝室へと向かっていた。

 

「・・・げぇ。分かったよ。それじゃ、8時に起こしてくれよ、ユージオ。お休み」

「8時じゃ遅いよ!?7時半には叩き起こすからね!!・・・まったく・・・」

「アハハ、それじゃ俺も帰るよ。おやすみ、ユージオ」

 

相変わらずのキリトの言動にやれやれといった様子のユージオに思わず同情しつつも、俺はおやすみの挨拶を送って、部屋を後にしようとした。

 

「おやすみ、フォン・・・ステイクール」

「あー、ユージオ。その言葉はそう頻繁に使うものじゃないんだ。なんて言うか・・・長いお別れになる時に使う言葉だと思ってもらえばいいのかな」

「・・・そうなんだ。ややこしいね」

「そうだな。それじゃ、おやすみ」

 

俺の説明に感心したユージオに今度こそ別れを告げ、俺はキリトたちの部屋を後にした。

自室へと帰る最中、俺はあることを考えていた。

 

(禁忌目録か。今のユージオはどう思ってるんだろうな)

 

先程話題に上がった禁忌目録のことだった。ライオスやウンベールは・・・あくまでも抜け目を突くだけで、他のフラクトライトたちとそう変わりないと考えていいだろう。

キリトの言う通り、ハッタリの可能性も捨てきれないので、最悪その点に注意していれば未然に察知することはできるだろう。

 

そんなことよりも、気になったのはユージオのことだった。

ユージオは禁忌目録を守らなければならない・・・人口フラクトライトに課せられた法令順守の精神に疑念を持ち始めていたように見受けられた。

 

(もしユージオがアリスのように禁忌目録に反する・・・破ることになれば、それはユージオも『プロジェクト・アリシゼーション』が目標とする人工知能『A.L.I.C.E.』に至る可能性を持つってことだ・・・だけど、それは・・・)

 

親友が戦争の道具として使われてしまうかもしれない・・・その事実が、菊岡の言葉と共に頭をよぎった。確かに菊岡や比嘉さんの主張は正しいとは思う。だが、

 

(それでも俺は・・・アリスやユージオにそんなことをさせたくない)

 

ここまで共に戦ってきた友や過去に失ってしまった彼女のことを思い、思わず手に力が籠ってしまった。しかし、今こうしてアンダーワールドにいる自分にできることはなく、一介の高校生である俺に何かを変える力があるわけもなく、どうしようもない怒りだけが俺の中で渦巻いてしまっていたのだった。

 

そんな俺を月だけが静かに見つめ、照らし続けていた。

 

 

 

「よし、完璧!というか、手伝ってもらってゴメンね、マーベル」

「いえ、これも傍付きの務めですから!」

(今日は安息日だから、傍付き関係ないんだけどな)

 

時刻は8時半を過ぎようとしていた頃。

俺は調理場で今日の弁当の飾りつけを終え、出来栄えに満足しながら作業を手伝ってくれたマーベルにお礼の言葉を掛けていた。

 

本人は当たり前だという風に答えていたが、安息日だというツッコミは心の内に秘めておいた。

 

(驚いたよな。起きて台所に向かおうとしたら、自室の前でマーベルが待ち受けていたからな)

「ふわぁぁ・・・はぁ!ううん!?」」

(まったく。朝の7時から待ち受けてたらそりゃ寝不足になるよな)

 

思わず出てしまった欠伸を噛み殺し、眠気を吹き飛ばすように首を振っているマーベルを横見して苦笑してしまう。

 

少し寝かせてあげようかとも思ったが、ユージオたちとの約束まであまり猶予もなかったため、眠気覚ましにレモン(っぽい酸っぱい果実)とミント(に近い香りのする薬草)で配合した紅茶をマーベルと飲んでから、俺たちはキリトとユージオの部屋へと向かった。

 

部屋に向かうと、既にキリトたちの傍付きであるロニエとティーゼも到着しており、未だ眠そうにしていたキリトに先ほど作った紅茶を飲ませ、俺たちはピクニックの目的地である草原へと向かったのだった。

 

「あっ、ここですか?」

 

王都から少し離れ、目的地へと到着すると、先頭を歩いていたマーベルが確認するようにそう尋ねてきた。場所はユージオに任せていたのだが、なかなかに良い場所を選んだようだ。

 

木々は生い茂り、だからといってソルスの光を遮り過ぎることもなく、近くには湖畔があり、そこに飲み水を求めて動物たちが行き来している光景が目に入ってきた。安息日にこうも晴天であれば、まさしくピクニック日和にふさわしい場所だと言えるだろう。

 

さっそく持ってきたレジャーシートを広げ、いきなり食い意地を発揮したキリトの催促を受けた俺はマーベルと共に今朝作った弁当箱を取り出した。

 

「うわぁ、凄いですね!」

「これ、全部フォン主席が作ったんですか?」

「まぁね。それと主席は勘弁してくれ。二人とも、呼びやすいように呼んでくれたのでいいから」

 

弁当箱の中身を見たロニエとティーゼから驚きと賛辞の言葉が飛んできた。二人とは何回か話したことはあったが、流石にマーベルほどは頻繁に話していないので、

 

「凄いよね、これ!私も今朝主席のお手伝いをしたんだけど、主席の手際は本当に凄かったんだから!あっという間に次から次へと作り上げちゃったんだから!」

「マーベル、テンションが上がってるのは分かるけど、呼び方と喋り方が凄い比率になってるぞ」

「・・・あっ!」

 

普段の口調に主席呼びが混じっているせいでマーベルに物凄い違和感を覚えた。苦笑しながら俺がそうツッコミを入れると、あっという間に耳を真っ赤にさせていくマーベル。そんな彼女を見て、ロニエとティーゼも思わず笑ってしまっていたので、場が和んだので結果的オーライだろう。

 

「これはサンドウィッチかい?」

「というよりもバーガーに近いかな。流石にバンズを焼くのは難しかったから、パン屋のものを持ってきたが、それで終わりじゃ味気ないだろう?だから、こちらを準備してみました!」

 

ユージオの質問に答えながら、俺は持ってきたもう一つのバスケットの中身をお披露目することにした。

 

「今回はピクニックということで、即席で作れるインスタントバーガーにしてみたんだ!野菜やお肉、果物にジャムとお気軽に様々な味が作れるぞ」

「あ、あの・・・フォン?」

「もちろんそれだけでなく、今回実験的に3種類のドレッシングも作って持ってきたんだ。同じ具材でも違った味を楽しめるから是非試してくれ。味はちゃんと確認してるから心配しないでくれ!」

「え、えーと?」

「あー、いつもの奴が出ちまったか」

「流石に飲み物は作れなかったが、ちょっとしたスープとおつまみも作ってきてるから「ストップ、ストップ!フォン!」・・・あっ」

 

キリトの掛け声でようやく俺は全員の視線がとんでもないものを見ている目をして、俺を見ていることに気付いた。唯一見慣れていているキリトだけは苦笑していたが、気まずくなった俺は思わず咳払いをして誤魔化した

 

「え、えっと。色々とご説明ありがとうございました?」

「と、ともかく。各自好きな組み合わせを試してくれ。それじゃどうぞ」

 

なんとかフォローしてくれようとしたマーベルに乗っかり、俺がみんなにそう促したことで食事が始まった。

 

インスタントバーガーが初めてだった傍付きたち3人にレクチャーしながら、俺自身蒸し鶏とトマトにレタス、そこにビネガーソースを再現したものをトッピングしたバーガーを作っていく。

 

一方、以前俺が作ったものを食べたことがあったユージオはトマトにチーズというシンプルなバーガーを作っていたが、隣のキリトが蒸し鶏・ベーコン・ハム・チーズに少し辛口のバーベキューソースという豪快なバーガーを作っていたのを見て呆れていた。

 

女性陣も最初はどういう組み合わせにしていくのか悩んでいたが、2個目を作る頃には色々と話し合いながらバーガーを作っていたのでその心配は杞憂だったようだ。

 

バンズも具材も現実世界の物よりも小さめのものを準備してきたので、一個で満腹になることもなく、色々なバーガーをみんなが楽しんでいた。意外にもバジルソースが人気だったのにはちょっと驚いた俺だったりする。

 

あと、おつまみで作ってきた野菜チップスも女性陣には好評だった。もっとも、味付けが塩だけとはいえ揚げ物なので、俺が食べ過ぎると太ると言った瞬間

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

全員の手がピタッと止まったのには思わず笑ってしまった。どの世界でも女性にとっては体重は天敵のようだ。まぁ、そんなことお構いなしに横でキリトが次々とチップスを口に放り込んでいたが。

 

食事もほどほどに進んでいき、粗方食べ終わったところで雑談タイムとなった。紅茶でも淹れようかと思ったのだが、マーベルが代わりに淹れてくれることになったので俺は他のメンバーの会話へと耳を傾けて彼女を待つことにした。

 

「だからハイ・ノルキア流剣術の上段から放たれる斬撃で注意するのは二つしかないと考えていいんだ。それは・・・・・」

「フフフ!そうなんですね!」

 

熱くハイ・ノルキア流剣術に対しての戦法をロニエに語るキリトに相変わらずだなと思いながらも、ロニエも楽しそうなので良しとすべきなのだろう。

 

「ユージオ先輩、聞いてますか?」

「あっ!ゴメン、ゴメン!聞いてるよ。それで、何の話だっけ?」

「聞いてないじゃないですか!?」

 

ユージオとティーゼの方へと意識を向けてみると、何か考え事をしていたのか、うわの空だったユージオにティーゼが頬を膨らませている場面を目撃してしまった。何をやっているのかと苦笑いしていると、紅茶のいい香りを漂ってきた。

 

「お待たせしました、先輩」

「ああ、ありがとう、マーベル」

「何をされていらしたんですか?」

「みんなの会話を聞いてたんだよ。こんなにのんびりと過ごすのは本当に久しぶりだしね」

 

初等錬士の時は傍付きの仕事もあって、勉強との両立も励んでいると安息日もそうそう休めたものではなかったので、こんなに穏やかな時間はかなり久々だった。ところが、俺の感想を聞いたマーベルが苦笑していた。

 

「そんなに変だったか?」

「あっ、いえ。フォン先輩でもそう思われることがあるんだと思いまして」

「俺だって人間だからね。こうやって何事にも縛られずに過ごしたいことだってあるさ」

「そうなんですか?先輩って、主席なのに主席らしくないことばかりされていますよね?」

「主席なんて唯の肩書きだよ」

「フフッ。それでも、普通は6等爵の下級貴族を傍付きになんて指名しませんよ?」

「あー、その件か。周りは周りだよ。そうしなければならないなんていうことは、禁忌目録になんて記されてないだろう?」

 

マーベルの言葉に紅茶を飲みながら俺は笑いながら答えた。俺やキリト、ユージオは爵位や性別など度外視して、人柄と第一印象でマーベルたちを傍付きに指名した。

 

俺たちの時もそうだったが、基本的に傍付きに選ばれるのは爵位を持った上級貴族がほとんどなのが修剣学院の通例となっている。

選ばれないように上手く実力を隠していたライオスとウンベールを除けば、俺たちの代も傍付きに選ばれたのはほとんとが上級貴族だったりしたぐらいだ(逆に言えば、ハルト先輩たちも実力重視で見ていたということになる)

 

実際、俺やキリト達が彼女たちを傍付きに指名した時にはライオス達が挑発してきたぐらいだ。まぁ、いつものように全く相手にすらせず完全無視を貫いたのだが。

 

「本当に、先輩は凄いお人ですね」

「買いかぶり過ぎだよ、マーベル。俺なんか全然だよ」

 

そんな言葉と共にマーベルから尊敬の念が送られるが、俺は俺よりももっと凄い奴がいると言って苦笑しながら答えた。

まぁ、その人物は今度はアインクラッド流剣術に関してロニエに語っていたのだが・・・横目でそんなキリトを見て、更に俺は苦笑してしまうのだった。

 

 

 

デザートに用意していた焼き菓子も食べ終わり、そろそろ戻ろうかという空気の時だった。

 

「すみません、先輩方。実はご相談、というよりお願いがあるんですが」

 

ティーゼのアイコンタクトを機に、彼女たちは真面目な雰囲気と共にそう話を切り出して来たのだ。

その表情にはどこか申し訳なそうな感情も込められており、どうやらかなり深刻の話のようだと察した俺たちは腰を落ち着けてから話を聞く体制に入った。

 

「私たちの寮の同室にフレニーカっていう子がいるんですが」

「実は彼女が傍付きを務めている上級修剣士殿がかなり厳しい方みたいなのです」

「厳しい?指導がってことがか?」

 

ティーゼとロニエにそう確認してみるがどうやらそうではないようだ。話を実際に聞いているティーゼが言いにくそうに口を押さえ、マーベルも目線を落としてしまっていた。そんな二人に代わり、ロニエが続きを話してくれた。

 

「特にここ数日、少々不適切なことを言いつけになられたようで」

「いくら上級修剣士でも、学院規定外の範囲の仕事は言いつけたりはできないはずだけど・・・」

「ですが、違反にはならずとも、その・・・・・女子生徒としては少々」

「分かった。もうそれ以上は言わなくていい」

 

ユージオの言葉に俺たちは去年のことを思い出し、頷きながら同意した。だが、それを否定するようにマーベルが事実を述べようとして、その先を察した俺はそれ以上は言わせるべきでないと発言を制止した。

 

「状況は分かったよ。けど、フレニーカの指導生を変更させるには指導生本人の同意も必要なんだ」

「問題の修剣士は誰なんだ?」

「・・・ウンベール・ジーゼック上級修剣士殿です」

「「またあいつか」」

 

ティーゼから告げられた名前に俺とキリトは思わず嫌な顔をしながらそう呟いてしまった。その言葉にマーベルたちは驚いていた。

 

「実は、何日か前に僕はウンベール修剣士と修錬場で立ち会ったんだ。結果は引き分けだったけど」

「ライオスの介入がなかったら、確実にユージオが勝ってたほどに優勢だったんだ。もしかしたら、それに納得できずフレニーカって子に苛立ちをぶつけるためにそうしているのかもしれない」

「それってつまり、腹いせってことですか?」

 

できるだけ憶測で話したつもりだったが、ロニエの言葉通り間違いなくユージオに負けかけた腹いせでの行いだろう。思わず拳に力が入ってしまう程に怒りを覚えた。

 

「私には分かりません」

「・・・ティーゼ?」

「私のお父様は言ってました。私たちが一般民よりも大きな家に住み、いくつかの特権を与えられているのは当たり前だと思ってはいけない・・・貴族は、貴族ではない人たちが楽しく、平和に暮らせるように尽くさなければならない。

そして、いつか戦が起きた時は真っ先に剣を取らなければならないと!

なのに、ウンベール上級修剣士殿のご命令の為にフレニーカはずっとベットの上で泣いておりました!なんでそんなことが許されるのでしょうか・・・!」

 

悔しさのあまり涙を流すティーゼ。ハンカチをロニエから受け取り、涙を拭く彼女にマーベルも手でスカートを強く握りしめ、悔しさを露わにしていた。

 

「ノブレス・オブリージュ」

「「「「えっ?」」」」

 

俺の発した一言にユージオやマーベルたちが驚きの声を上げた。

 

「ティーゼ。君のお父さんが教えてくれた心構えは、ノブレス・オブリージュ・・・神聖語のノーブル・オブリゲーションだと言えば分かりやすいか。貴族、つまりは力や地位を持つ者はそれを自身ではなく、力のない他者の為に使うべきだという一つの信念みたいなものだ」

「・・・信念」

「ああ。誇りやプライド、追うべき責任や義務とも言う意味でもある」

 

俺の説明の言葉を繰り返すユージオにキリトがそう補足してくれた。

 

「そういった誇りや信念というのは時には規則よりも大切なものなんだ。

例え、法律が禁じていないことであっても、してはいけないことは存在している。もちろん、その逆も然りだ。法律が禁じていたとしても、時にはそれを破ってでもしなきゃいけないことも存在するかもしれない。

それが誰かの自由や尊厳を守るためであるのなら、罰されるのを覚悟してでもやり抜くことが大事なじゃないかと俺は思う」

 

そこで一旦言葉を切り、俺はみんなの方を向いて最後の言葉を続けた。

 

「法律だって人が作った物だ。必ず正しいものばかりがあるわけじゃない。それを考え、判断し、行動に移す、それこそが本来の人間・・・貴族としての正しい在り方じゃないのかな?」

 

そう諭すように告げると、何かを感じることがあったのかマーベルとロニエが口を開いた。

 

「何が正しくて、何が間違っているのかを考える・・・」

「私、なんとなくですがフォン先輩の仰りたいことが分かった気がします。それって、自分の中の正義ってことですよね?

法を遵守するのではなく、それが本当に正しいのかを自分の正義と照らし合わせる、そういうことですよね?」

「ああ。自分で考え、判断することこそが最も大事なことなんだ。どんなものにも絶対というものは存在しないからな」

「フォンの言う通りだ。ロニエ、考えることは人間の一番強い力なんだ。どんな名剣、どんな秘奥義よりも強い。

禁忌や学則に反していなくともウンベールの行為は絶対に間違ってる。だから、誰かが止めさせないといけない。その役目は、」

 

俺の言葉にキリトがそう続くと、ユージオも覚悟を決めたようで顔を上げてからティーゼたちに告げた。

 

「うん。それは僕たちの役目だね」

 

 

 

「それで?我が朋友にユージオ修剣士殿はどのようなご用事かな?こんな休息日ももう終わりを迎えようとしている夕刻に」

 

ピクニックから戻り、マーベルたちと別れた後、俺たちはすぐさまライオスとウンベールの部屋へと直行した。

案の定、俺たちが来たことにライオスは驚かず、一方のウンベールは不快感を隠そうとせず、俺たちと相対していた。

 

露出が多い真っ赤なガウンを着たライオスに用件を尋ねられ、ユージオはここに来た理由を話し始めた。

 

「そちらのジーゼック修剣士に対して、少々好ましからざる噂を耳にしましたので確認に参った所存です。学友がご高名を汚される前に忠言すべきかと思った次第であります」

「なんだと貴様!?」

 

ユージオの言葉に、それが事実だと言わんばかりに怒りを露わに抗議するウンベール。

だが、俺やキリトはあえて何も言わず状況を見守っていた。あくまで俺たちはユージオの付き添いであり、この場に相対するのはユージオだと事前に相談しての結果だ。

 

「ほーほう。これは意外であり、望外のことでもあるな。ユージオ殿に我が朋友のことを案じてもらえるとは。

しかし、惜しむらくはそんな噂に思い当たることはないな」

 

そう言って、ソファから寝ていた体を起こしたライオスは反撃とばかりに質問をユージオにぶつけてきた。

 

「ユージオ殿は一体どこからそのような噂を聞きつけたのかな?」

「ジーゼック殿の傍付きと同室の初等錬士たちから直接話を聞いたんです。ウンベール殿がフレニーカという傍付き錬士に逸脱した行為を命じていると」

「ふむ、逸脱?何とも奇妙な言葉だな、ユージオ殿。もっと分かりやすく学院則違反だと言えばいいのではないのかね?」

「っ!?」

(・・・マズイな)

 

場の流れ的にはかなり・・・いや、おそらくライオスの思惑通りに場が動いているのだろう。冷静なライオスに対し、ユージオは少し感情的になり始めているのを見て、俺は内心で嫌な予感を覚えていた。

 

「ですが!例え学院則に禁じられていなくとも、初等錬士を導く筈の上級修剣士としてすべきことではないこともあるでしょう!?」

「ほほう!それでは、ユージオ殿はこのウンベールがフレニーカに一体何をしたと申されるのかな?」

「そ、それは・・・!?」

「どうなんだ、ウンベール?ユージオ殿の仰ることは身に覚えがあるかね?」

「う~ん?とんでもない!何を言われているのかさっぱり思い当たりませんな。まぁ、いくつか他愛もない世話を命じたりはしたかもしれませんがね?」

 

そう言うウンベールは黄色のガウンから肌が見えることなどお構いなしのオーバーリアクションと共に言葉を続ける。

 

「ユージオ殿との立ち合いで情けなく引き分けて以来、私も心を入れ替えて鍛錬を撃ち込んでおりましてな!だが、これまで醜い筋肉がつくような稽古を控えていたせいもありましてな。全身が痛くてしょうがなく、フレニーカには湯浴びの際に全身をほぐしてもらっただけのことですよ!」

「なぁ!?」「っ!?」

「その上で制服が濡れてはフレニーカも困るだろうと思い、下着姿になるようにと、その行為を許す程の寛大さですよ?これを施しと言わず何と言うのでしょうか!」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

予想以上の行ないに怒りが表情に出そうになるのを我慢するのがやっとだった。ここで俺が怒りを示せば、奴らの思うつぼだと思い、なんとか冷静に怒りを処理した。

 

それはユージオも同じだったようで、今は腰に無い剣に手を掛けようとする素振りをして、なんとか怒りを抑えたようだった。

一方のキリトは俺たちよりも冷静に状況を見ることができていたようで、一人落ち着いていたが、内心では何か思うところがあるはずだった。

 

「フレニーカ初等錬士は日々耐え難い思いをしております。改善が見られないようなら教官にも調査を依頼することも考えなければなりません。その御つもりで」

「なに!?」

「ご自由にされるがよかろう。まぁ、そんなことをしても徒労に終わると思うがね、ユージオ修剣士殿?」

 

勝ち誇ったような笑みを浮かべ、俺たちにそう告げるライオス。これ以上は何を言っても無駄だと思い、俺たちは部屋を後にしようとした。その時、俺は部屋を出る前にライオスたちに確認を取ることにした。

 

「最後に確認しておきますが、ウンベール殿は本当に自分のしていることが学院則に反していないと考えての行ないなんですね?」

「もちろんだとも」

「それは、ライオス次席も同室で生活する者として、間違っていないと仰られているという認識でよろしかったんですよね?」

「その通りだとも。それとも、主席殿もウンベールがいかがわしいことをしているとご指摘されるのかな?」

 

勝ちを疑っていないライオスに俺は笑いながら言葉を返した。

 

「いえ、現時点ではそうは言いません。ですが、高貴なる貴族のお二方が虚言や事実とは異なることをしていたとすれば、その時は主席として容赦なく糾弾させて頂くために言質を取らせて頂いただけです。

まさかとは思いますが、崇高なる貴族様方が自身の仰ったことを撤回するなんてことは無いとは思いますがね。それでは失礼」

 

はっきりとそう宣告し、俺は奴らのリアクションなど見ることなく思いっきり部屋の扉を閉めてやった。

 

 

 

「くそっ!?」

「落ち着けよ、ユージオ。それにフォンも。眉間に皺が寄り過ぎて大変なことになってるぞ?」

 

自室に戻って来た途端、壁に拳を叩きつけたユージオにキリトがそう言葉を掛けていた。言われた俺も鏡で自分の表情を見たが、かなり怖い顔をしていた。

 

「はぁ。フォンはともかく、キリトの方が先に感情を爆発させると思っていたのにな」

「剣があったら、俺も危なかったと思う。最も最後に爆弾を落とした奴よりかはずっとマシだったと思うぞ?」

「悪かったな、最後に余計なことを言って」

 

キリトにそう責められ、思わず目線を反らしてしまった。もっとも最後にあんな挑発をしたのには理由があったのだが。

 

「けど、何か裏があるかと思ってたがそれが何なのか分からなかったな」

「・・・裏?」

「ああ。これはユージオ一人を狙った何かの罠じゃないかって俺たちは考えていたんだ」

「えっ?」

 

キリトと俺が告げた推測にユージオは酷く驚いていたが、驚くのも無理もない話である。

 

「例えば、抗議に来たお前がウンベールの挑発に乗って言いすぎたりでもすれば、それを逸例行為に認定して最大限の懲罰を科すつもり、だったとかな」

「そ、そんな・・・」

 

キリトの言葉に先程のことを思い出したのか、ユージオは落ち込んでしまった。だが、そんなことを気にしないようにと俺は言葉を掛けた。

 

「だから、最後にユージオだけじゃなく俺の方にも奴らの意識が向くように挑発しておいたってわけだ。奴らにとっても俺は目の上のたんこぶで、絶対に主席から排除したいだろうしな」

「それに、もしウンベールがこれからもフレニーカを辱めるようなことがあれば、すぐに教官に調査を要請できるように準備だけはしておこうぜ?

こっちには主席殿もいるんだから、言い分としてはまかり通るだろうしな」

「勝手に人の位を使うな。まぁ、キリトの言う通りだ」

「・・・うん、そうだね」

 

勝手に人の役を使わないでほしいが、友や後輩のために使うのであれば、主席という役柄も悪くはないのだと思い、キリト共にそう言葉を掛けた。

 

「ユージオ。もし俺たちがいないところで何かを言われたとしても、さっきみたいに熱くならないように気を付けろよ?」

「怒ることがあいつらのもっとも狙っていることだからな。何言われても、全部受け流すようにするんだぞ?」

「わ、分かってるよ!ステイ・クール、だろ?」

「そうだ、ステイ・クールだ」

 

その後、今後の方針に対して話し合い、今日のことをティーゼに報告しに行ったユージオを見送ってから、俺もキリトに別れを告げて自室へと戻ったのだった。

 

 




この話書くためにアニメを見直していたのですが、ライオス・ウンベールがウザすぎる(笑)

おそらく次々回でやらかしますので、お楽しみにして頂ければと思いますが、その前に100話記念エピソードを挟むことになるかと思います。

アンケートの方もよろしくお願い致します。

それではまた。

次回更新 28日0時予定

カーディナルは生存させるべきでしょうか?(どちらでも前半の結末は変わりません。後半以降の物語に大きく影響します)

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