ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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えー、始めに言っておきます。
今回、賛否両論を呼ぶお話になるかと思います。
特にラストに関しては悩みながらも、フォンのキャラを考慮した結末となります。
その点を踏まえ、読んで頂ければ幸いです。

また、陵辱未遂のシーンもございます。
そちらが苦手な方もお気を付け下さい。

それではどうぞ。


第25話 「逆鱗と咎人」

マーベルの隠していた一面を聞いてから2日。

 

あれから彼女は更に剣術へと精を出し始めた。それに応えるように俺も自分が教えられることは全て教えようと決め、そんな日々が続いていた。

 

(はぁ~。なんで今日に限ってこんな大荒れの天気なのかね)

 

ここ数日晴れ晴れとした日が続き、今日もマーベルとの稽古に励もうと思っていた俺は水を差された気持ちで窓に叩きつけられる暴風雨を見ていた。

 

それで気持ちが萎えてしまうというわけではないが、どうにもこういう天気を見ていると憂鬱になっていくのは日本人としての心情だろうか。

 

コンコン!

「はい!」

 

そんなことを考えていると、ノックする音が聞こえたので俺はドアへと向かった。マーベルかと思ってドアを開けたが、そこに立っていたのは彼女ではなかった。

 

「君は、確か初等錬士の…」

「フォン主席。教官より主席を呼んでくるように言われ、こちらに参りました!」

「教官が?分かった、すぐに行くよ」

 

珍しいなと思いつつも、俺は初等錬士の彼(名前が思い出せないが)に従い、俺は身支度を整える。

一瞬マーベルのことが頭に浮かんだが、いつも鍵は開けっ放しにしているし、俺がいないことも多々あったので問題はないだろうと思い、俺は自室を後にした。

 

初等錬士の後ろを追いながら学院を歩いていくが、俺は嫌な予感を覚えていた。

今、歩いている場所は実技棟や教官のいる部屋とも離れているからだ。そもそも教官の呼び出しだというのに、初等錬士は急ぐ様子がなかったのが引っかかった。

 

「なぁ、一体どこに向かっているんだ?」

「申し訳ありません。行き先を告げるなと言われておりまして」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

聞いても埒が明かないと思い、俺は黙って彼に付いていくしかなかった。その内、一つの教室の前で初等錬士が立ち止まった。

 

「ここです、主席殿。こちらにお入り下さい」

「……分かった」

 

その言葉に従い、俺は教室へと入る。だが、教室には教官の姿はなかった。

 

「おい、誰もいな…っ!?」

 

どういうことだと初等錬士に聞こうと振り返った俺の言葉が続くことはなかった。いや、続ける余裕なんてなかった。俺の視界には棍棒が迫っていたからだ。慌てて教室の方へと飛びのき、その一撃を回避する。

 

「ちぃ!?」

「お前、何を…!っ!?」

 

悪意を隠そうともしない奴に、俺は何事かと問い質そうとするが、それはできなかった。俺の背後から別の一撃が加えられようとしていたからだ。それが視界に入った俺は…

 

 

 

〈Other View〉

「失礼します!マーベル初等錬士、入ります!」

 

フォンが部屋を出てから少し経った頃。マーベルは掛け声と共にフォンの部屋へと入室しようとした。

 

呼び掛けに対する返事はなかったが、フォンがいないことは珍しいことではなかったので、マーベルは気にすることなく部屋へと入ることにした。

 

(困ったな…先輩に急ぎで相談したかったことがあったんだけどな)

「…えっ?」

 

だが、ドアを開けた瞬間、いきなり腕を掴まれ部屋へと引きずり込まれるマーベル。咄嗟のことで抵抗することができず、そのまま床へと押し倒されてしまう。そして、両腕を後ろで拘束されてしまったマーベルの耳にあの声が聞こえてきた。

 

「元気そうだな……ネフィリアム」

「っ!?その声、グンジ?!」

 

なんとか顔を反らし、自分を拘束した人物がグンジであることを確認したマーベルは再び恐怖に襲われた。

 

「あ、あなた!これはどういうこと!?」

「おいおい、これからどうするかなんてお前が一番分かってるだろう?」

「ひぃ!?」

 

その下劣な視線に淫らな笑みを浮かべたグンジにマーベルの体は硬直してしまった。その言葉で全てを察してしまった彼女は目を瞑った。唯一の希望はここがフォンの自室であり、なんとか時間さえ稼げれば、フォンが戻って来てくれるかもしれないとのことだったが、

 

「言っとくが、あの田舎出の主席様を待っても無駄だぞ?」

「えっ…?ど、どういうことよ!?」

「お前を手籠めにするために、何人かの初等錬士をそそのかして奴を呼び出したのさ!今頃、どこかの教室でノビてることだろうな!!」

「そ、そんな…」

 

マーベルの希望を無残にも踏みにじったグンジは彼女の体を仰向けにし、髪を撫でますように触り出した。

 

「や、止めなさい!止めてよ!?こんなの、学院則に反する行いよ!あなただって唯では済まないわよ!?」

「へー。よくご存じじゃないか。だが、これは学院則や禁忌目録に反することではない」

「な、何言ってるのよ?!」

「これは貴殿が私の高貴なる誘いを悉く断ったことへの上級法に則った罰だよ!知っているだろう、学院則の例外である貴族裁決権のことを!」

「そんなこと、認められるわけが…!」

「しかし!実際にこうして俺は禁忌目録に反さず、お前の体を拘束できているぞ?これで分かっただろう?お前は俺に体を差し出すしかないのだと!!」

「きゃぁぁ?!」

 

その言葉と共にマーベルの服を剥ぎ取りグンジ。少し低めの身長とはアンバランスなマーベルの上半身の下着が露出された。

 

「そうだ!この大きさ!この柔らかさ!いつもいつも、この手で揉んでやりたいと思っていたのだ!ようやく実現できたぁ!!」

「や、止めて…嫌!!嫌ぁ!?」

 

歓喜の声を上げるグンジに対し、悲鳴を上げながらなんとかその凶手から逃れようとするマーベル。だが、その叫びですらグンジを喜ばせる材料にしかならなかった。

 

「ライオス次席には礼を言わねばならまい!遂に…遂に我が悲願が達成できた!さぁ、もっと俺を喜ばせろ、ネフィリア!!」

「だ、誰があんたなんか?!」

「そうだ、その目だ!その目をするお前をこうして我が手で征服したかったのだ!その幼き表情を、豊かな胸を、この手で支配してやりかったんだよぉ!!」

「っ…!?」

 

下着を破り捨てられ、遂にその手がスカートへと掛かった。恐怖のあまり、叫ぶことしかできないマーベルを見て、グンジの気分は最高潮に達していた。そして自身も服を脱ごうとした時だった。

 

ガン!

「えっ、ごはぁぁぁぁぁぁぁ?!?!」

 

ドアが勢いよく放たれたかと思った瞬間、グンジの体はクの字に折り曲がり、放たれた矢の如く壁へと吹き飛ばされた。

いきなりのことにグンジは自分の身に何が起きたのか分からず吹き飛ばされていたが、マーベルはグンジを吹き飛ばした人物を見て思わず涙と共にその名を呼んだ。

 

「フォン、先輩・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そこに立っていたのは、憤怒のオーラを纏い、怒りのあまり表情から感情が抜け落ちたフォンだった。

〈Other View End〉

 

 

 

(マーベル……無事で良かった)

 

半裸状態のマーベルに近くにあった毛布を投げた。どうやら最悪の状況になる前には間に合ったようだ。最も手遅れであることには違いはなかったが。

 

4人の初等錬士の襲撃を退け、全員を気絶させた後、全力で自室へと急いだ俺の目に入った光景は最悪のものだった。

 

グンジがマーベルを襲っている・・・その事実だけを認識した俺はいつの間にか体術スキルである〈馬蹴掌〉による後ろ廻し蹴りを奴の横っ腹へと叩き込んでいた。

 

「フォン、先輩…」

 

マーベルの言葉に応えず、俺は黙ってベッドに横掛けていた大剣を手に取った。

 

「おい、起きろよ」

「がぁ!?お、お前は…?!」

 

意識を失っているグンジのボディに蹴りを叩き込み、無理矢理意識を覚醒させる。目覚めた奴は目の前に俺が立っていることが信じられないといった表情をしていた。

 

「俺が無事なのがそんなに不思議か?何人か腕の立つ奴を仕向けたようだが、残念だがもっと大人数にすべきだったな。まぁ、次の機会があればの話だが…」

「ぐぅぅ、ううぅ!?」

 

その言葉と共に俺は押し込んでいた足の力を更に強める。痛みで奴から悲鳴が上がるが、そんなことなどお構いなしに俺は更に足をめり込ませる。

 

「お、俺を誰だと思ってやがる!?この田舎剣士がぁ!お前如きがこの俺様を「ゴチャゴチャうるさいんだよ」…っ!?」

 

奴から発される雑音を遮った俺の言葉に奴の表情が崩れた。自分でも今どんな顔をしているのかは分からなかった。だが、これまでない程の怒りと憎悪が俺の中で渦巻いているのは確かだった。

 

「バ、バケモノ…!?」

「化物?フフッ、よく言うよ。人の心を踏みにじって、こんな愚かなことをしたお前もそうだろうが?」

 

自嘲と共に、俺は大剣を鞘から抜き、ワザと地面を叩くことで奴に恐怖を与える。

奴も俺がこれから何をしようとしているのか察したようで慌て出した。

 

「お、お待ちください、主席殿!?お許しを!どうかご庇護を!?」

「許し?庇護?今更だな。上級貴族だろうが、お前の行なった行為が許されるわけがないだろう?それに……」

 

どうせライオス辺りに唆されて下級貴族への裁決権辺りを持ち出してきたのだろうだが、主席上級修剣士への暴行・襲撃に対する制裁ということで、今の俺の行為も禁忌目録違反には反していない。

 

そんな冷静な判断がすんなりとできる程に俺の頭は冷え切っていた。

 

そして、その言葉と共に俺は奴の首を左手で掴み、締め上げながら持ち上げる。怒りのあまり、奴の呼吸が苦しくなる程に力を込めていたが、そのことに対する罪悪感など全く沸いていなかった。

 

「お前は俺の大切な人に手を掛けた。何がお前を許そうが、俺はお前を許さない。二度とこんなことができないようにしてやるよ」

「ま、まっ!?ゴホ、ま、て…。ぐぅ、やめ…て?!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

必死に抵抗するグンジだったが、俺の拘束からは逃げ出すことはできないでいた。必死に足掻く奴に俺は無言で大剣を構えた。

 

「ううん!?お、お願いします!!…助けてぇ!?」

「お前に与える慈悲なんてない」

 

最後の嘆願すら無視し、俺は戸惑うことなく大剣を振りかぶり突き刺した。

 

「ひ、ひぃぃ?!」

 

大剣は奴の銀髪を切り裂き、壁に突き刺さった。奴から情けない悲鳴が上がり、ほんの少しだけ溜飲が下がった俺は奴の首を放した。

重力に引っ張られた奴は尻餅をつくが、俺から少しでも離れようと壁へと引っ付くように密着していた。

 

「少しは分かったか?誰かに傷つけられる恐怖を…一方的に攻撃される痛みを…逃げたくても逃げられない辛さを……」

「あ、ああぁぁ?!ああああうう!」

「一度だけ見逃してやる。だが、次は容赦なくその首を撥ねてやる。すぅ………分かったかぁ!!!」

「あああ、おおおあああああぁぁぁぁぁ!?!?……あぁ…」

 

顔を近づけ、冷たい声で奴にそう告げる。俺の闘気と殺気、そして先程の脅しが重なったせいか、絶叫したのち奴は泡を吹きながら失神してしまった。

失禁までしてしまっている程なので、軽くトラウマにもなったかもしれない。

 

禁忌目録により自身の命が脅かされることがないと信じ切っている人工フラクトライトにとっては致し方ないことなのかもしれないが、今回ばかりはそれに感謝すべきだろう。

最も俺のしたことも決して褒められるものでないことは分かってはいるが…

 

なんとか怒りを収め、俺は一部始終を黙って見守っていたマーベルの方へと視線を向けた。

彼女は顔を青くしていたが、どこかホッとした様子だった。俺が本気でグンジを殺すつもりかもしれないと思っていたのかもしれない。

 

ともかく彼女に声を掛けなければと思って近付いたが、先日のマーベルの行動が俺の頭をよぎった。

 

(今のマーベルに、男の俺が下手に声を掛けるのは危険か。ここはアズリカ先生かロニエたちに頼んで…)

 

俺よりもアズリカ先生たちにマーベルのことを任せた方が良いと考え、ともかく誰かを人を呼ばなければと思った俺がどうするかと頭を巡らせている時だった。

 

「先輩!!」

「マ、マーベル…?!」

 

いきなりマーベルが俺に飛びついてきたのだ。不意打ちではあったが、なんとかそのタックルを受け止める。俺に対しての反応は大丈夫なことに安堵しつつも、震える彼女の体を優しく抱きしめる。

 

「済まない…助けるのが遅くなった」

「いえ。先輩は来てくれなかったら、私…私!?」

「もう大丈夫だよ」

 

間一髪で彼女を助けられたことに喜びつつも、再び彼女の辛い傷をえぐらせてしまったことに後悔の念を抱いていた。まさか俺だけでなくマーベルにまで標的にしてくるとは。

 

(ライオスめ……どこまで下劣なんだ!?)

 

ライオスへの怒りが沸き上がった時だった。俺の頭にもう一つの最悪な考えがよぎった。それが気のせいであってほしいと思いながら、俺は急ぎマーベルへと確認を取った。

 

「マーベル!ロニエとティーゼはどこだ?!」

「えっ!じ、実はそのことで急ぎご相談したいことがあったんです!フレニーカの件で、二人がライオス次席たちの所に抗議に行ってしまったんです!?」

「っ!?(くそっ!?それがあいつらの本当の目的だったのか!?)」

 

マーベルが襲われたということは、最初から奴らの狙いは俺たちではなかったのだと俺はそこでようやく気が付いた。いや、ゼフィリアの花の一件からもっと早く気付くべきだった。

 

……奴らが俺たちを苦しめるために手段や方法を問わないということを。

 

「マーベル!悪いんだけど、俺はすぐにライオスたちの所に行かないといけない。もしかしたらロニエたちが危険な目に逢っているかもしれないんだ!」

「そ、そんな?!」

 

大剣を背中に担ぎ、俺はすぐさま部屋を出ようとしたが、この状況にマーベルを置いていくべきか迷った。だが、その懸念はすぐになくなった。

 

「先輩、行ってください!私は、大丈夫ですから」

「…だけど」

「大丈夫です…私は大丈夫ですから、ロニエたちをお願いします!」

「分かった。なら、このことをアズリカ先生に伝えてくれないか。いざという時には教官方の力が必要になると思う。頼めるか?」

「はい!」

 

マーベルの表情を見て、彼女の言葉を信じた俺は予備の制服を彼女に渡して部屋を飛び出した。

 

暴風雨が一段と強くなり、窓を激しく叩きつける中、俺は後先考えず寮を走り抜けていた。

誰に咎められようが、今の俺は一切スピードを落とすことなど考えてなどいなかった。階段を駆け上がり、ようやくライオスたちの部屋へと着き、中に飛び込もうとした時だった。

 

「そんな代物は我が秘奥義で打ち砕いくれるわ!!」

「来い、ライオス!!」

「きえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「っ!?」

 

俺の目の前で、キリトとライオスの秘奥義がぶつかっていた。その衝撃波に思わず後退るも、なんとか衝撃波から目を腕で庇いながら俺はその成り行きを見ていた。

 

「どうだ?どうだ!!そうだ、貴様たちのような平民にこのライオス・アンティノス様が遅れをとることなど絶対にない!!あってはならないのだぁ!!ふおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ライオスの自尊心と支配欲が心意として働き、キリトの黒剣をどんどんと押していく。

膝を突き、なんとかその凶撃を凌ぐキリト。ライオスの表情はもう既に人間などでなく、その歪んだ心を表したかのように邪に染まっていた。だが、

 

(負けらない!ユージオを、俺の大切な友を守るためにも!こいつにだけは負ける訳にはいかないんだ!!)

「ううっ!……うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

キリトも心意を発動し、一気にライオスの〈泰山烈派〉ごと剣の先端を切り飛ばした。

 

「ぬぅん!?ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

なんとか反撃しようとライオスが再び剣を振り下ろそうとするが、そんな隙をキリトが与える訳もなく、〈サイクロン〉の二撃目でライオスの両腕を切り飛ばした。

 

「っ!?あああ、あああああああぁぁぁぁ?!腕がぁ?!私の腕が?!」

 

断末魔を上げるライオスにこれ以上何かをすることなどできないと判断した俺は落ちついて部屋の中を見渡すことができた。

 

ベッドには服を乱暴に脱がされた形跡があるロニエとティーゼ、そして、左手を失っているウンベールの姿があった。パッと見てだが、二人も最悪の一歩手前だったようだ。

 

キリトの背後へと視線を向けると、ユージオも来ていたことに気付いたが、何より驚いたのはユージオの右目から血が流れていたことだった。何があったのかと俺がキリトに尋ねようとした時だった。

 

「ウンベール!?私の……私の血を止めろォォ!?」

 

いきなり叫んだライオスに意識を取られてしまった。両腕を失ったライオスは蛙のように飛びながら、ウンベールの傍へと近寄った。

 

「早くしろ、ウンベール!?お前の縄を解いて、私の傷口を縛れぇ!!」

「い、嫌だぁ!?これを解いたら、俺の天命が減る!その命令は禁忌目録違反だぁ!?」

「禁忌?!だが、私の血がどんどんと…!?」

 

ウンベールに見捨てられ、焦り出したライオス。だが、次の瞬間、その様子がおかしなものになった。

 

「お前の天命、禁忌、お前、禁忌………天命!?禁忌?!天命!?禁忌?!天命!?禁忌!?」

「っ!?キリト、何か縛るものを…早く!?」

「あ、ああ!」

 

自身の流れ出る血とウンベールを何度も見ながら、繰り返してそれしか言わなくなったライオスの言動に嫌な感じがして俺はキリトに怒鳴る。

キリトもライオスの言動が異常だと気付き、すぐにティーゼを拘束していた紐を切ってライオスの傷口を縛ろうとしたが、

 

「天命!?禁忌?!天命!?禁忌?!天命禁忌天命禁忌天命禁忌天命禁忌ててててめめめめめきききききててていいいいいいてててててきききききききんんんんんん?!※×●?$#&※!#!?!?!?!?!?!」

「「……!?」」

 

言葉にすらなっていない言動を繰り返し続け、遂にライオスは糸が切れた人形のように崩れ、そのまま動かなくなってしまった。

一同が突然の出来事に戸惑い、唖然としてしまっている中、俺はライオスの身に起きた出来事に見覚えがあった。

 

(あれは…オーシャン・タートルで見たフラクトライトの崩壊そのものじゃないのか?まさか、禁忌目録に反することと自身の天命を守ることへの判断ができず、大規模な負荷がかかったせいでああなったとでもいうのか?)

 

菊岡に見せつけられたフラクトライトの崩壊と、ライオスの最期の有り様がいやにダブり、俺はそう推測を立てた。

そして、目の前で人が死んだという事実に正直驚く一方で、どこか落ち着いている自分がいたのだった。

 

だが、それは過去に似たような現象を見たことがあった俺だからこその話であり、全くもって知らない人物たちにはありえない光景だった。特にライオスと親しくしていたウンベールにとっては尚更だったらしく、

 

「ラ、ライオス殿…?ひ、ひぃぃぃ!?ライオス殿がぁ?!こ、この人殺し!!化け物がぁぁぁ!?」

 

恐怖の感情を隠そうともせず、キリトを指さし叫ぶウンベール。その言葉に呆然としてしまうキリトと俺。だが、錯乱したウンベールは何を考えたのか、俺にいきなり迫ってきた。

 

「お、お助け下さい!主席殿?!」

「っ…!お、おい!?」

 

残った右手で俺にしがみついてくるウンベールにいつもの醜い余裕の姿など微塵も感じられなかった。

そんなウンベールの行動に俺は困惑してしまい、一先ず落ち着かせようと体を離させようと抵抗した。

 

だが、恐怖に襲われた人間の力は尋常ではなく、ウンベールの拘束を解くことができなかった。これでは埒が明かないとキリトに助けを求めようと俺が視線を上げようとした時だった。

 

「私をお助け下さい!?あの化け物共から、私の命をお救い下さい?!」

「……化け物?」

 

その言葉に俺の中の何かが再び罅割れるような音がした気がした。上げようとした視線を戻し、思わずライオスの放った言葉を繰り返してしまった。

 

「そうです!?私は…私はただライオス殿の甘言に従っただけなのです!?私は悪くない……俺は悪くないのですぅ!?全ての元凶はそこのライオスと禁忌目録を破った咎人たちなのです!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

あまりに必死なウンベールの言い訳が更にその罅割れを強くさせた。言葉遣いが途中で崩れてしまっていることなどどうでもいいと思ってしまう程に、俺の中で何かが再度崩れて落ちてしまった。

 

それが何かを理解しながら、俺はウンベールに気付かれないように部屋の扉を閉めた。これからすることをキリトたちに直接見せる訳にはいかない。

それに、キリトなら間違いなく俺を止める…その確信が俺の中にはあった。

 

「分かったよ、ウンベール」

「……っ!?では、あの咎人たちに処罰を…!!」

 

俺の言葉を勝手に肯定的に受け取った奴に、俺は微笑みから一瞬で表情を変えながら言葉を返した。

 

「……裁かれるのはお前だよ」

「えっ…?」

 

まさかの言葉を告げられ、驚いてようやく俺の顔を見たウンベールだったが、その直後に俺の裏拳が顔にめり込んだことで理解する前に壁とへ吹き飛んだ。

壁に激突したウンベールを横目で追いながら、俺は静かに大剣を抜く。

 

「な、何をす……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

奴の抗議が最後まで続くことはなかった。

その前に俺が大剣で奴の残っていた右手を切り落としたからだ。何が起こったのかを理解したウンベールから遅れて悲鳴が発された。

 

「がぁぁぁ!?うう、ぐぐううう!?な、何を……!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

奴の問いかけに応えることなく、俺はゆっくりと奴に近づく。奴は逃げようとするも、そんなことができないようにわざと壁の方へ吹き飛ばしたのだ。逃げられるわけがない。

 

奴の胸元を強く蹴り付け、地面に仰向けに寝かせる。その眼前に俺は大剣を突き付けた。剣を突き付けられ、奴の目元から涙が零れるが、そんなこと知った事ではなかった。

 

「正気か、貴様ぁ!?これは…こんなことは禁忌目録違反だぞ!?それを「分かってるさ」…っ?!」

 

奴の雑音を遮り、俺は酷く冷たい声でそう告げる。奴なりの最後の抵抗なのだろうが、今の俺にそんなものは通用しないし、今更自分のしたことを後悔する気など毛頭なかった。

 

「禁忌目録が自分を守ってくれると思ったか?貴族である自分がこんな目に逢うなんて少しも疑ってなかったか!?ライオスに従っていれば、俺たちを害されると高を括っていたか!?

 

だったら、俺がお前を捌いてやるよ…痛みを知らないお前に恐怖を植え付けてやる。誰かを傷つけても何も感じないお前にそれを教えてやるよ……自分が何にも守られていないってことを…

その魂に刻み付けてやる!」

「や、止め……止めろぉ…!?」

 

奴の言葉を閉ざすように、俺は奴の口に大剣にゆっくりと突き込む。本当に殺されると感じたのだろう、遂に言葉を発することさえもできなくなり、唸り続けるライオスに俺は無情に宣告した。

 

「後悔と痛みを纏って、闇に眠れ」

 

その言葉と共に、俺は両手で大剣を一気に持ち上げてから振り下ろした!

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

「……!?………っ!」

「…ふぅぅ…ふぅぅ…!!」

 

沈黙の内、目を開けて事態を理解したウンベールが自身の左耳を掠めている大剣へと視線を移した。そして、俺は奴の上で大きく肩で息をしていた。今にもはち切れそうな怒りをなんとか理性で押し殺しながら、俺はウンベールへと顔を近づけた。

 

「もう二度と…俺たちにその醜い顔を見せるなぁ!!次に見せたら…俺は確実にお前を殺す!」

「……!(コクコク!?)」

 

恐怖のあまり、首を縦に振ることしかできないウンベールを見て、俺はゆっくりと大剣を引き抜き、拘束から解放した。

 

「いいな?……分かったのなら、さっさと消えろ。

……この、クズがぁぁぁ!!!」

「ああぁぁぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!??!」

 

一旦離した顔を再度近づけ、今出せる全力の声で叫ぶ。その殺気から逃れるようにウンベールの背中が暗い廊下へと消えていった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

震えている右手が視界に入った。自分が何をしようとしていたのかを思い出し、思わず空いていた左手で顔を抑えた。さっきのグンジの時もそうだったが、自身が何をしようとしていたのかを悟り、嫌悪感を持った。

 

(俺は…俺は命を奪おうとした。ここがアンダーワールドだからって…人を殺そうとした……!俺自身の意思で…!)

 

『果ての山脈』のゴブリンの時はユージオやキリト、セルカを守るという理由があった。

その時のゴブリンたちを切った鈍い感触は今もでも覚えているし、忘れることはないと絶対にないとも思った。

それはSAOで人を殺した時もそうだった。

 

けど、今回の一件は違った。例え、奴らが間違っていたとしても…禁忌目録が間違っていても…俺に奴らを裁く権利がある筈があるわけがなかった。これじゃ、俺も…

 

(俺も…菊岡たちと何も変わらないじゃないのか…)

 

気付いてしまった事実に俺は目線がフラついた。今だ止まない雷雨と暴風がまるで俺を責め立てる様に窓を揺らし続けていた。そして、

 

『シンギュラーユニットデテクティド…IDトレーシング…コーディネートフィクスト…リポートコンプリート…』

(あれは…アリスが禁忌を犯した時にもいた生首…?)

 

白眼の黒目のない顔面蒼白の生首が捻じ曲げられた空間の先から俺を見ていた。生首の言葉でその存在に気が付いた俺は、かつての光景を思い出した。

そして、生首は何かを完了したのか、空間ごと姿を消してしまった。

 

(シンギュラーは奇妙な…デテクティドは検出する…リポートは報告…直訳すると『異常なユニットの検出、IDを特定、コピー、報告完了』といったところか)

 

どうやら禁忌目録を破ると、ああやって検出されるらしい…そんなことをどこか冷静な思考で判断していた俺は、思わず震えていた右手へと視線を向けた。

 

「……咎人か」

 

ウンベールをこうして見逃しはしたが、殺してしまっても変わりなかったのではないかと俺の何かが囁いているような気がした。そんな悪魔の囁きを振り払い、俺はキリトたちに合流することにした。

 

その数分後、マーベルから事情を聞いて、ライオスたちの部屋にアズリカ先生を始めとした教官たちがやってきたが…部屋の惨状から事情を察した教官たちに俺たちは拘束されてしまうのだった。

 




実はウンベールを粛清しようかどうかというのは最後まで迷っていました。
おそらくSAOの時であったなら、迷いなく処断していたかと思いますが、ギリギリで理性が押し買ったという形を取らせて頂きました。

前々話や今回のお話は後々にも大きく関与してきますので、飛ばす訳にはいかなかったのですが、書いてる内に殺意しか湧いてこなかったです(笑)

次回はようやく彼女の登場となります(まぁ、本当に顔出し程度ですが…もしかしたらもう一人出すかもしれませんが)
そして、次回のお話からアリシゼーション前編ラストに関わる重大なアンケートを行いますので、そちらも宜しくお願いします。

それではまた。

次回更新 19日0時予定

カーディナルは生存させるべきでしょうか?(どちらでも前半の結末は変わりません。後半以降の物語に大きく影響します)

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