ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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エルドリエとの対決です。
原作とは展開が異なりますので、お楽しみ頂ければと思います。

そして、遂にお気に入り500件突破しました!!
読者の皆様あっての本作…見切りスタートした初めての小説ですが、ここまで読んで頂いた皆様には感謝しかありません。
これからも頑張って更新していきますので、宜しくお願いします!

前置きが長くなりました。本編をどうぞ!


第28話 「蛇鞭を潜り抜け!」

「ユージオ。俺たちが前に出るから合図を待っていてくれ。フォン、フォローを頼む」

「分かった」

「…その鎖を武器に戦うつもりなのかな?ならば、私も剣ではなく……こちらで相手をしよう」

 

キリトの指示に頷きながら、俺は鎖を手甲替わりに指へと巻き付ける。キリトが鞭のように手錠の鎖を伸ばしたのを見て、エルドリエも懐から鞭を取り出した。

 

だが、その鞭は一目で見て分かるように明らかに普通の物ではなかった。蛇の鱗のようなデザインで、今まで見たことのない形状の武器だったからだ。そして、エルドリエが唱えた式句がそれが普通でないことを証明した。

 

「システムコール…エンハンス・アーマメント!!」

「「「っ!?」」」

 

聞いたことのない神聖術の式句と共にエルドリエの鞭にライトエフェクトが発生した。何事かと警戒を強める俺の横でキリトが答える。

 

「大丈夫だ、フォン。鞭との戦いならリーナ先輩に鍛えられたからな…間合いに入らなければ、何も……」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「っ!?キリト!?」

 

キリトの言葉を遮るかのようにその場から動くことなく鞭を振るうモーションに入ったエルドリエに嫌な予感を覚え、俺はキリトを突き飛ばし、その反動で後ろへ飛んだ。

 

その瞬間、俺とキリトがいた場所へと普通では考えられない長さへと伸びた鞭の一撃が振るわれた。

咄嗟の出来事に驚くことしかできず、その間にエルドリエは異常に伸びた鞭を手元へと戻していた。

 

「ほう…まさか初見で我が『霜鱗鞭』の攻撃を避けるとは…流石は学院主席剣士だね」

「それはどうも…(鞭が当たった地面が抉れてる……あの鞭の優先度は計り知れないな)」

 

感心するエルドリエの誉め言葉に苦笑いしながら、俺は先程の一撃を分析していた。『霜鱗鞭』って言ったな、あの武器……

 

「キリト、大丈夫か?」

「ああ、なんとか……それよりも、フォン。あの武器…」

「多分お前の想像通りとだと思う。この鎖で受け止める…なんて生半可な防御じゃ確実に破られるな」

 

キリトもエルドリエが持つ武器が完全に一線を画していると察したらしい。

どうやら様子見をしている暇はないようだ。相手が油断し、全力を出し切っていない今の内に何か手を打たねば、やられてしまうのは目に見えていた。

 

「キリト、ユージオ。俺が一発でかい神聖術を放つ。二人には悪いが、なんとか時間を稼いでくれないか?二人を囮に見せかけて、俺の神聖術の対処にスキができたところに本命を叩き込んでくれ」

「…分かった」「…うん」

「相談は終わったかな?…さぁ、少しは私を楽しませてくれよ?」

 

二人に小声で作戦を告げた俺は一歩前へと出て、右腕を構えて神聖術の式句を唱え始める。それに対抗してか、エルドリエも左手を構え、神聖術の詠唱を開始した。

 

「システムコール…ジェネレート・ウィンドエレメント…フォームエレメント・ロングランス」

「システムコール…ジェネレート・クライオゼニットエレメント…フォームエレメント・バードシェイプ…カウンター・ウィンドオブジェクト」

「「ディスチャージ!」」

 

俺とエルドリエが神聖術を放つのはほぼ同時だった。弓を構えるような姿勢から放たれた高速の風の槍は、エルドリエが放った鳥を模した神聖術によって阻まれ、突風と煙を巻き起こす。

 

そして、その瞬間、俺の合図と共に後方からキリトとユージオが飛び出した。一瞬、虚を突かれたエルドリエだったが、すぐさま霜鱗鞭を振るって迎撃を図った。その間に神聖術を放つためにイメージを固めようとした俺は信じられない光景を目撃した。

 

「なぁ…!?ぐぅぅぅぅ!?」

「キリト!?っ…よけろ、ユージオ!?」

 

霜鱗鞭の一撃を躱したキリトだったが、太い一本だった筈の鞭が二本に分かれ、その一本がキリトを横薙ぎで吹き飛ばしたのだ。咄嗟にユージオに叫び、ユージオは回避に成功したが、まさかの事態に俺も言葉を失っていた。

 

「これは買い被りだったかな。所詮は学生…武装完全支配術まで使うのは大人気なかったかな?」

「キリト…!」

「来るな、フォン!!」

「っ!?」

 

受けたダメージがかなり大きいらしく、なんとか体を起こすキリトの言葉と目で、思わず駆け寄ろうとしていた俺は動きが止まった。

 

「集中しろ…こっちは任せろ!」

「っ……分かった!」

「ユージオ、援護を頼む」

「うん!」

「…やれやれ。諦めが悪いようだね。ならば、もっと力の差を見せつける必要があるようだ」

 

再び神聖術の発動体制に入る俺。キリトとユージオは鎖を構え、なんとか時間を稼ごうとしてくれていたが、エルドリエがそんな余裕を与えてくれるわけがなかった。

 

二本に分かれていた霜鱗鞭が今度は四本へと別れ、一気に俺たちに襲い掛かった。俺目掛けて振るわれる一撃もあったが、それをキリトとユージオが鎖を文字通り削りながら、防御して身代わりになってくれていた。

 

そして、そのお陰で俺の準備もようやく完了した。

 

「システムコール!…ジェネレート・ハリケーンエレメント…フォームエレメント・タイラント・ドラゴンフォーム…バースト・エリア・ゴーアウト・オーバーウェルム!!」

「まさか…そんな高度な術を…!?させるか!」

「それはこっちのセリフだ!!」

 

完成したイメージと共にその式句を唱える。

エルドリエも俺が何の神聖術を放とうとしているのかに気付いたようで、すぐさま妨害しようと4本の鞭を俺へと振るうが、キリトが砕けた鎖と引き換えにその鞭の猛攻を受け流した。

 

そして、そのスキを突き、俺は術を発動させた。

 

「全てを呑み込み、その名の通りに敵を滅せよ!ディスチャージ!!!」

「っ…いいだろう!受けて立ってやろう!」

 

俺の右腕から圧倒的な暴風が巻き起こり、風が龍の形を象っていく。俺が今一番放てる最大級の神聖術『風還龍』…ようやくコントロールできるようになった暴龍を俺は操り、エルドリエへと放った。

 

暴龍へとエルドリエは振るう霜鱗鞭を更に分裂させる。4本の鞭が…なんと7本にまで分かれた霜鱗鞭がぶつかり、先程以上の爆発が俺たちを襲う。

 

なんとか吹き飛ばされないようにその場に堪えるが、爆発が俺たちよりも近かったエルドリエが吹き飛ばされたのが見えた。

 

「キリト!ユージオ!」

「「っ!!」」

 

そんな決定的な隙をこっちが逃すわけもなく、俺の言葉にいつでも動けるように構えていた二人が飛び出した。そして、体勢が立て直せていないエルドリエに向けて鎖を振り下ろした。

 

「……まさかこれを出すことになるとは…リリース・リコレクション!」

「なぁ…まだ何か残ってんのかよ!?」

 

耳に聞こえてきた不穏な式句に嫌な予感がした俺は、二人の援護に入るべくエルドリエへと駆け寄るが…一歩遅かったようだ。霜鱗鞭が再び光を放ち始め、その姿を変えた。

 

「っ!?うぉぉぉぉぉぉ!?」「えっ!?うわぁぁぁぁぁ!?」

「なぁ…キリト、ユージオ!?」

「……惜しかったな」

 

霜鱗鞭が真っ白な大蛇へと姿を変え、まるで意思があるかの如く、キリトとユージオのその巨体で巻き上げ拘束してしまったのだ。更に二人を体を締め付け、容易に抜け出せないようにしていた。

 

そして、体勢を立て直したエルドリエが左手で剣を抜き、俺へと向けた。

 

「先程の発言は撤回しよう。流石はアリス様が警戒するだけのことはある。よもや、私に霜鱗鞭の記憶開放の奥義まで使わせるとはな」

「……それがあんたの切り札ってわけだ」

「大人しく投降したまえ。君たちの切り札はもう残っていないだろう?私のこの術は制御がかなり難しくてね…下手をすれば、友人たちが痛い目を見ることになるかもしれんぞ?」

「ぐぅぅ!?ぐぅぅぅぅぅぅ!?」

「っうぅ…ああ、あああぁぁぁ!?」

「っ!?」

 

キリトとユージオのうめき声に流石の俺も下手に動くことができずにいた。そんな俺にエルドリエはゆっくりと近づいてくる。

この状況をどうするべきかと頭を回転させていると、俺は先程のエルドリエの発言が引っ掛かっていた。

 

『私のこの術は制御がかなり難しくてね…下手をすれば、友人たちが痛い目を見ることになるかもしれんぞ?』

(……待てよ?制御が難しい…最初に使った伸縮や枝分かれの術を使っていた時とは、エルドリエの様子も違う……もしそうなら…)

 

今のエルドリエは霜鱗鞭のコントロールに意識しているせいか、どこか慎重になっているように見えた。そして、まだ残っている手札が噛み合った時、俺は勝負に出ることにした。

 

「あんたのその術…凄まじい性能を発揮する分、かなり神経を使うみたいだな」

「…それに答える必要はないだろう。それとも、友人を見捨ててでもまだ抵抗するつもりなのかな?」

「悪いな…俺は諦めが良くない方みたいでね……キリト!ユージオ!少しだけ耐えてくれよ!!」

 

その言葉と共に俺は大きく後ろへと飛び、左手を構えて再び神聖術を発動させる体制へと入った。その行動にエルドリエも驚いていた。

 

「まさか…仲間を見捨てるのか!?この罪人が…!?」

「システムコール!…ジェネレート・ハリケーンエレメント…フォームエレメント…」

「っ…させるかぁ!?」

 

俺が再び『風還龍』を発動させるつもりだと思ったエルドリエがそれを今度こそ制止するべく、剣を投げようと構えた。

 

現状、手を離すことのできない霜鱗鞭を持つ右手が使えない以上、それが一番最善最速の一手だったろう。

だが、先程の光景が未だに頭に焼き付いていたエルドリエがそうすることこそが俺の狙いだった。

 

「それだ…その瞬間を待っていたんだ!!」

 

剣を投げようとエルドリエが構えた一瞬の隙…その隙を待っていた俺は神聖術の発動を中止し、一気に横っ飛びした。

俺の動きに目を釣られたエルドリエ…その注意が逸れてしまった右手へと俺は意識を集中させる。

 

「……そこだぁぁ!!!」

 

先程距離を取った際にポケットから取り出していた鎖の欠片を、右手で発動させた投擲スキル〈ヘビーショット〉を用いて全力投球する。

 

これがただの石などであれば、当たったとしてもダメージにはほとんどならないだろう。

だが、この欠片は罪人を拘束してた優先度38の鎖の欠片だ。

それがソードスキルを上乗せしたものを受ければどうなるか…答えは明白だった。

 

「なにぃ!?ぐぅぅ!?」

 

エルドリエの警戒と注意を掻い潜った俺の投擲による一撃は見事に奴の右腕に直撃した。そして、その威力に流石の整合騎士も耐え切れずに霜鱗鞭を落としてしまう。

 

その瞬間、コントロールを失った大蛇はその姿を保つことができなくなり、拘束されていたキリトとユージオが解放された。

だが、俺たちの攻撃はそれで終わるわけがなかった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ぬぅう!?これしき…!?」

 

自由の身となった二人が空中から止めを刺すべく、エルドリエへと鎖を振り下ろした。

だが、エルドリエもすぐさま対応し、両腕で振り下ろされたそれぞれの鎖を掴んだ。

多少の手傷を負ったのか、血が手のひらから零れ落ちるが、鎖を掴んだエルドリエはそれを力強く引っ張った。

 

「まだだ…まだ私は負けてなど…」

「まだだぁ!!!」

 

鎖を引っ張られ、身動きが取れなくなったキリトとユージオの間を走り抜け、俺はエルドリエへと飛び掛かった。

振り上げた右拳には鎖をメリケンサックのように巻き付けていた。そんな俺の動きに気付いたエルドリエだったが、気付くのがほんの少し遅かった。

 

「これで……ラストォォ!!!」

「ぐぅぅおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

叫びと共に全力の一撃をエルドリエの顔へと叩き込む。振り切ったその一撃を額に喰らったエルドリエは大きく吹き飛び、後ろにあった噴水の淵へと体を思いっ切り叩き付けた。

 

「ま、まだだ…アリス様のために、も…わたし、は……ぁ…!」

 

なんとか立ち上がろうとしたエルドリエだったが、流石に先程の一撃は耐え切ることができなかったようで糸が切れたように崩れ落ちてしまった。

 

ようやく勝利を確信し、俺たちは纏っていた闘気を収め一息を吐くことができた。ユージオも緊張の糸が切れたようでその場に座り込んでしまっていた。

 

俺は意識を失ったエルドリエに注意を払いつつも、奴が持っていた霜鱗鞭を回収していた。

一瞬先程の大蛇の術が頭をよぎったが、どうやらそういった類の罠やセキュリティはないようで、安心した俺は霜鱗鞭を右手に取った。

 

「大丈夫か?キリト、ユージオ」

「う、うん…なんとかね」

「俺も大丈夫だ…だが、かなりギリギリだったな」

「ああ…こいつ自身が言ってた通り、経験が浅かったり、まだ全力を出し切る前だったから勝てたようなもんだな。

なんとか武器を取り戻さないと、このままじゃジリ貧だぞ」

 

本当にギリギリでの闘いだった上に、一か八かの勝負に出た結果で勝てたのだ。次は…いや、もしエルドリエが初めから本気で戦っていれば、こちらが確実に負けていたことだろう。

 

勝利したとはいえ、状況はあまり宜しくないことに俺とキリトが顔を顰めていると、ユージオがエルドリエの顔を見て、何かを思い出そうとしているのが目に入った。

 

「どうした、ユージオ?」

「……ねぇ、フォン。この人、どこかで見かけたことないかい?」

 

ユージオにそう言われ、俺はエルドリエの顔を見た。

言われてみれば、どこかで見たことがあるような気がしてきた。すると、タイミングよくエルドリエが意識を取り戻した。

 

「うっ、うううぅぅ……はぁ!?き、貴様ら…そうか……負けたのか」

「悪いな…俺たちにも負けられない理由があるんだ。それよりも…」

 

抵抗は無駄だと悟ったのか、潔く負けを認めたエルドリエに少し驚きつつも、俺はエルドリエに既視感を覚えた理由を尋ねようとしたのだが…

 

「…そうか!思い出した…!」

「…ユージオ?」

「名前を聞いた時、どこかで聞いたことがあると思っていたんだ。キリト、フォン…この人は今年のノーランガルス北帝国第一代表帝国剣士…そして、リーナ先輩たちを破った四帝国統一大会の優勝者…エルドリエ・ウールスブルーグだよ!!」

「「っ!?」」

「…私が…北帝国代表帝国剣士…?」

 

ユージオの言葉で俺もようやく思い出すことで出来た。そうだ…どこかで見たことがあると思ったら、新聞の記事で見たことがあったのだ。

ユージオの言う通り、彼は新聞に写真と記事が載っていた、北帝国代表のエルドリエ・ウールスブルーグにそっくりだった。

 

だが、そう言われた本人は困惑しきっていた。

まるでアリスのように、そんなことなど全く覚えてなどいないといった表情だった。

 

「エルドリエ・ウールスブルーグ……?」

「その通りだ。あんたは流麗極まる剣術で全ての試合を一本勝ちで勝利したって、新聞の記事に書いてあった」

「な、何を…何を言っている!?私は、この地に召喚された整合騎士、エルドリエ・シンセシス・サーティワンだ!?ウールスブルーグなどという名など知らん!?」

「な、何を言っているんですか!?貴方は…!?」

「知らん!知らんと言っている!?」

 

頭を抱え、完全に混乱してしまったエルドリエは俺やユージオの言葉を聞かず、それがまやかしだとでもいうように頭を振り払いながら否定し続けていた。

 

「わ、私は…最高司祭アドミニストレータ様によって31番目に召喚された騎士!!天界よりこの地に使わされた…整合騎士…のはず…うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「「「っ!?」」」

 

突然止まったエルドリエの言葉に驚くが、それよりも更に驚くことが目の間で起きていた。

 

「な、なんだあれ…」

 

ユージオの呟き通り、紫色の光を放つ三角柱らしき謎の物体がエルドリエの額から抜け出てきたのだ。それが抜け出ようとすると、エルドリエは苦しそうに頭を抱えていた。

 

「あああぁぁ……ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「エルドリエ!?」

 

明らかにただ事ではないレベルの絶叫を上げるエルドリエ。そして、謎の物体から光が消えたと思えば、エルドリエは再び意識を失ってしまった。物体は半分くらいまでエルドリエの額から抜け出た状態で止まってしまっていた。

 

「な、何が起こったんだ…」

「キリト…まさかとは思うが、もしかしたら…!」

「ああ。アリスが記憶を失って、別人格のようになったのも…もしかしたらあれが原因なのかもしれない」

 

俺とキリトの言葉にユージオは驚きつつも再度エルドリエと謎の物体へと視線を戻していた。もしこの推論が正しいとすればあの物体を調べる必要がある。

 

そう思い、その物体を調べようとエルドリエに近づこうとした時、謎の物体がエルドリエの頭の中に戻ろうとし始めたのだ。どうするべきかと迷っていると、キリトが叫んだ。

 

「エルドリエ!エルドリエ・ウールスブルーグ!!」

「……!」

「止まった…!

 

本当の名をキリトに呼ばれ、エルドリエに戻ろうとしていた物体の動きが止まった。どうやら本来の記憶に関することを思い出そうとすると、あの物体が抜けるのかもしれないようだった。

 

「ユージオ!この人の知っていることを…彼の記憶を呼び覚ますんだ!」

「分かった!」

 

俺の言葉にユージオが頷き、エルドリエの記憶を呼び起こさせるために次々と声を掛けた。

 

「エルドリエ!貴方は帝国騎士団将軍エシュトル・ウールスブルーグの息子だ!母親の名前は…確か…アルメラ…そう!アルメラだ!」

「ア…ルメ…ラ?」

「そうだ!貴方はお母さんのために整合騎士になろうと必死に努力してきたんでしょうが!帝国統一大会の優勝記事でもそう答えていたでしょう!そのことを思い出すんだ!!」

「…かあ、さん…!」

 

涙と共に言葉が漏れたエルドリエの様子にあと一歩だと思い、更に声を掛けようした時だった。

 

グシュ!

「ううぅぅ!?」

 

霜鱗鞭を持っていた右手に矢が突き刺さった。しかもかなりの威力で腕を貫通しており、思わず霜鱗鞭を落としてしまった。

 

「「フォン!?」」

「っ…ぐぅぅ!?上だ!!」

 

痛みを堪え、無理やり矢を抜いた俺は矢が刺さった方向から襲撃者のいる方向へと視線を向けた。俺の視線に二人も釣られて空を見上げると、

 

「そこまでだ、罪人どもよ」

 

飛竜に乗った赤い甲冑を身に纏った騎士が俺たちへと再度矢を向けていたのが目に入った。

 

その瞬間、俺たち目掛けて矢が放たれ、回避するべく俺たちは後ろへと飛んだ。回避自体は余裕で間に合ったが、どうやら奴の目的は俺たちとエルドリエの距離を離すことにあったらしき、その目論見通り、エルドリエとはかなり離れてしまった。

 

「騎士サーティワンの心につけ込むとは…神聖なる整合騎士を堕落への道へと誘う禁忌!?…もはや許せん!」

 

どうやら俺たちの行為は、整合騎士から見ると騎士を堕落させようとしたように見えるらしい。あともう少しでエルドリエから謎の物質が取り除けたかもしれなかったのに、みるみると物体はエルドリエの頭の中に戻っていってしまった。

 

そして、矢を放った騎士は俺たちへとその怒りを露わにしていた。

 

「輝かしき整合騎士を堕落させようとした罪…その四肢を射貫くことで清算し、牢に叩き返してくれるわ!!」

「マズイ!?」

「逃げるぞ、走れ!?」

 

次々と迫りくる矢の追撃に不利だと悟った俺たちは、キリトの言葉と共に庭園へと逃げ込んだ。背後から次々と矢が放たれては床を砕いていく様は、まるで当たったら痛いでは済まないことを証明しているようだった。

 

庭園を走り抜けていくが、空からはこちらの姿は丸わかりであるため、まさしくジリ貧の状態だった。このままでは矢に追い付かれてしまうのも時間の問題だった。

 

そんな時、庭園の道がT字路の分岐へと差し掛かった。

 

(右か左か…どっちに逃げれば……!?)

『右よ』

「っ…!?二人ともこっちだ!」

「「フォン!?」」

 

耳元に届いた声に一瞬驚くも、聞き覚えのある声にその指示を信じた俺は二人を先導すべく、前へと出た。しかし、

 

「っ…フォン!前は行き止まりだよ!?」

 

その先はユージオの言う通り行き止まりとなっていた。先程の声は罠だったのかと思った瞬間だった。

 

「おい、こっちじゃ!!」

「「「っ!?」」」

 

少女の声が聞こえたと思った矢先、何にもなかった庭園の通路の右手に光の扉がいきなり現れ、その中から誰かが手招きをしているのが見えた。

 

『飛び込んで!』

「あの扉に飛び込むぞ!」

 

声に従い、勢いよく扉にダイブする。光を抜けた先は、

 

「…うおおぉぉぉ!?」「ぬわぁぁぁ!?」「…おっとと!?」

 

いきなり入り込んできた光景は下りの階段と迫りつつある床だった。慌てて着地するために体勢を整え、無事に床に足を着いた。が、俺の背後で物凄い落下音が響いた。何事か後ろを向くと、

 

「い、たたぁ…」

「大丈夫か、キリト?」

 

ものの見事に顔面からダイブを決めていたキリトと無事に着地を決めたユージオの姿があった。どうやら3人とも無事にあの状況から脱することができたようだ。

だが、ここがどこだか分からないため、油断はまだできない状況が続いていることには変わりなかった。

 

警戒を緩めることなく、周囲を見渡している時だった。

 

「やはり探知されてしもうたか。このバックドアはもう使えん」

 

その声に入ってきた扉の方へと視線を上げると、杖を持った少女が扉の前に立っていた。

その独特な帽子にローブの服装から賢者を思わせるような姿の彼女が杖を叩くと、扉が粒子となって消えてしまった。

 

「…あっ。助けてくれてありがとう。あのままだったらかなりヤバかったから、本当に助かったよ」

 

こちらを向いた彼女にお礼を言わなければと思い、俺は彼女にそう話し掛けた。見た目からしてかなり幼く見えるが、一体何者なのだろうか。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「えーっと…俺はフォン。こっちの二人がキリトとユージオって言うんだ。君は何者なんだ?ここは一体どこなんだ?」

「………知っておる。お主たちのことはずっと見ておったからな」

「「「っ!?」」」

 

まさかの発言が彼女から飛び出し、俺たちは思わず身構えてしまった。だが、そんな俺たちの態度などお構いなしに彼女は言葉を続けた。

 

「そう身構えるでない。わしがお主たちの敵であるのなら、ここに匿うたりはしないであろう?」

「……君は何者なんだ?」

「…ふぅ。仕方ない……わしの名はカーディナル。そう言えば、少しは納得するか?」

「「なぁ…!?」」

 

少女…カーディナルと名乗った彼女の言葉に俺とキリトは思わず言葉を失った。何度も耳にしてきた言葉に、俺たちは彼女がただ者でないことをようやく実感した。

 

「ついてくるがよい」

 

そう言って、カーディナルは廊下を先導していった。未だに頭の整理が追い付いていない状況だったが、今は彼女に従うべきだと判断した俺たちは彼女の後を追った。

 

 




カーディナルもようやく登場させることができました。
第9話でちょっとだけ出てはいたのですが、再登場させるのにここまで時間がかかるとは…
まぁ、作者の中では第9話とは完全に彼女の立場が変わっているんですが(笑)

さて、エルドリエとの闘いの結末は元々どうしようかと考えていたのですが、後方支援もできるフォンがいるのなら、油断しているエルドリエにも勝てるのではという発想からきたものになります。
武装完全支配術・記憶開放術の解除方法は常時発動型の『霜鱗鞭』ならこうなるのではと思っての推測です。
地味に前話でフラグを立てていたりしてました(笑)
というか、頑丈な鎖を巻きつけた拳で容赦なく殴るフォンさんが上条さんにしか見えないのは作者だけでしょうか?(意識して書いた訳じゃないのですが、何故か『そげぶ』っぽくなってしまいました)

その代わりに、原作だとデュソルバートにキリトが足を射ち抜かれたのが、フォンの右腕になったりもしましたが…

次回はカーディナルとのお話になります。
まだ途中ですが、多分フォンがまたプツンとなります(長さによっては次々話になるかもしれませんが)
お楽しみにお待ち頂ければと思います。

ブラッド族族長さん
コメント付きでのご評価ありがとうございます。
毎回頂く感想も大変有り難いです。最近メインヒロインのユウキの影が薄くなりすぎてますが、後半からはしっかりと登場させますので、今後も宜しくお願いします。

真白希乃さん
評価を付けて頂きありがとうございます。

それではまた。

追記 お盆休みに連日投稿しようかと考えてましたが、仕事の夏休みが先延ばしになってしまい断念しました。皆様もご体調にはお気を付け下さい。

次回更新 7日0時予定

カーディナルは生存させるべきでしょうか?(どちらでも前半の結末は変わりません。後半以降の物語に大きく影響します)

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