すみません、1話で終わりませんでした。
次回に説明続きます。さり気なく16話にも触れています。
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それではどうぞ!
「ついてくるがよい」
カーディナルと名乗った少女の後を追い、俺たちは見知らぬ廊下を歩き続けていた。先程の庭園とは打って変わった光景にここがもしやと思い、俺は先導する彼女へと声を掛けた。
「なぁ…カーディナル、って言ったっけ?ここはセントラル・カセドラルの中なのか?」
「そうであるとも言えるし、違うとも言えるな」
「……どういうことだ?」
「ここは元々カセドラルと繋がっておったが、わしが本来の扉を消去してしまったからのう。ここはカセドラル内に存在するが、何者にも入ってくることができない」
「カセドラルの中でもここだけ独立してるってことなのか?」
「そういうことじゃ。お主等のように、わし自身が招かない限りはな」
俺の言葉を肯定するように小さく頷く彼女。すると、扉がある突き当たりへと到着した。そして、扉が自動で開いた先に広がってきた光景は…
「……これは…」
「大図書室…?」
「うむ。ここにはこの世界が創造された時よりのあらゆる歴史の記録と天地万物の構造式、そして、お主たちが神聖術と呼ぶシステムコマンドの全てが収められておる」
「す、全て…!?」
カーディナルが放ったまさかの事実に思わず、視界を埋め渡す数々の本を見渡した。神聖術だけでなく、アンダーワールドの歴史全てが記されていると聞き、好奇心が疼きまくりだった。
そんな興奮鳴り止まない俺の横で、驚くキリトが彼女に再度問い掛けていた。
「あんた…本当に何者なんだ?」
「言ったはずじゃぞ?わしの名はカーディナル…かつては世界の調整者であり、今はこの大図書室のただ一人の司書じゃ」
「大図書室だって言ったな?世界のあらゆる歴史って……」
「うむ。世界がステイシア神とベクタ神によって、人界と暗黒界に分かたれた頃の創世記すらも所蔵されておる。読みたければ読んでもよいぞ?」
「本当ですか!それは是非!」
ユージオが喜びの声を上げていたが、それは俺も同じ気持ちだった。
学院にもそれなりの蔵書はあったが、創世記の資料はなかなか存在していなかったのだ。それがここにはあるというのだから、歴史好きなユージオはもちろん、そういった細かな点を調べるのが好きな俺もテンションが高くなるのは仕方ないことだったりする。
そんなテンションの上がった俺たち二人にキリトが苦笑いしていたりするのだが。
「それよりも…お主等、右腕を出すのじゃ」
「「「…?」」」
「いいから、ほら。早く出すのじゃ」
カーディナルにそう言われ、首を傾げながら右手を差し出した。そして、それを見て確認したカーディナルは持っていた杖を俺たちの右腕に向けたかと思えば、
「ほい」
「…!おおっ…!」
「鎖が……」
俺たちの右腕に残っていた鎖と手錠が、カーディナルの掛け声と共に跡形もなく消滅した、ようやく完全に開放された右腕を振り、喜ぶ俺たち。
「先程の戦闘でかなり疲労も溜まっておるのではないか?ここには風呂もある。ゆっくりと体を温めてきてはどうじゃ?」
「…ユージオ。先に行って来いよ。学院からここまで色々ありすぎて、一番疲れてるのが多分お前だろうしな」
「俺たちは大丈夫だから、ゆっくりとしてこい」
「……ありがとう、二人とも。すみません、お言葉に甘えてお借りしてもよろしいですか?」
「うむ。あの通路の先に少し狭いが風呂場がある。行ってくるとよい」
俺とキリトの言葉を受けたユージオはカーディナルに一言断ってから風呂場へと行こうとして足を止めた。どうしたのかと思っていると、
「あの…カーディナルさん。創成期について書かれた本は…」
「ふふっ。その本はあそこの棚から先にある。風呂上りにゆっくりと読むがよい。食事も用意しておくから、ゆっくりとしてくるがよい」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って、今度こそ風呂場へと向かったユージオを見送り、先程カーディナルが杖で指した棚の本へと視線を向けた。同じく気になっていた俺も、ユージオが風呂に上がる前に読んでみようかと考えていたのだが、次のカーディナルの一言でそんな暢気な考えが吹き飛ばされてしまうことになった。
「…尤もここにある創世記は残念ながら公理教会最高司祭の創作物ではあるがな」
「なぁ?!」「っ!?」
告げられた事実に俺とキリトは思わず顔を見合わせ、カーディナルへと問いかけた。
「それって、ステイシアやベクタといった神は実在しないということなのか?」
「そんな者はおらぬ。アンダーワールドの民が信じておる神話は、教会が支配権を確立するために作り広めた創作物にすぎん。
ステイシアを始めとした神たちの名は緊急措置用のスーパーアカウントとして登録されてはおるが、外の人間がそれを使ってログインしたことは一度もない」
「やっぱりそうか…あんたはアンダーワールドの住人じゃないんだな?この世界の外側…システム管理者たちに近しい存在だ!」
「うむ、お主たちが考えている通りじゃ。そして、それはお主たちにも言えることじゃな。無登録民キリト、そして、フォンよ」
「そうだ。俺たちも外からこの世界へと来た人間だ」
どうやらカーディナルも隠し事をする気はないらしく、腹を割って話してくれるようだったので、俺とキリトも隠す必要はないと考え、その先を話し始めた。
「このVRワールド…アンダーワールドを作った組織の名前はラース、ボトムアップ型の人工知能『A.L.I.C.E.』を作り出すために作られたのがこの世界が存在する理由…」
「そして、あんたはカーディナルシステム…仮想世界を制御するための自立型プログラムだ」
「そうじゃ。まさか、カーディナルシステムのことまで知っておるとはのう…もしかして、あちら側でわしの同類と接したことがあるのか?」
「……まぁ、ちょっとな」
カーディナルの問いに当時のことを思い出したのか、キリトは肩を竦めていた。
アインクラッドのユイちゃんの一件やエクスキャリバー獲得のために挑んだスリュムの一件にカーディナルシステムが関与していたことは俺も聞いていたので、大体の詳細は理解していた。
『ザ・シード』を介した全てのVRMMOの中でも、ALOのカーディナルシステムがSAOのものの旧式版であることを知った当時は大変驚いたことだ。
だが、だからこそ俺たちは彼女が俺たちの知るカーディナルシステムとは異なる点について尋ねていた。
「でも、俺たちの知る限り、カーディナルシステムにはそんな擬人化インターフェイスは組み込まれていなかった。なのに、あんたはこうして俺たちの目の前にいる…あんたは一体どういう存在なんだ?」
「ここはセントラル・カセドラルとは独立した場所だって言ってたが、そんな場所であんたは一体何をしているんだ?」
「フッ…そうじゃの。少し長くなるが、できるだけ手短に話すとしようかのう」
キリトと俺の問いに困ったように笑みを浮かべたカーディナル。このまま立ち話をするのもどうかということで、俺たちは小さな東屋(図書館に東屋というのも少しおかしな気もするが…)に移動し、置かれていた椅子に腰をかけた。
テーブルを挟んだ反対側に座ったカーディナルは先程の俺たちの質問に答え始め…るかと思ったら、
「まずは腹ごしらえでもするがよい。ほれ」
「「…おおっ!」」
カーディナルが杖で机を叩いたかと思えば、すぐさま肉まんが現れた。更に、肉まんからは湯気が立ち上がっており、今まさに出来立てとばかりの香りが漂っていた。まさかの出来事に俺たちから感嘆の声が出てしまった。
「まじないをかけてある故、傷もたちまち癒えるぞ」
「へぇ~、流石は管理者だな」
「久々にチート能力を見た気がするな…貴女だったら何でもやってのけてしまいそうだな」
「そんなことはない…そもそもわしは管理者ではない。操れるのもこの図書室のオブジェクトだけじゃよ」
どうやらカーディナルも万能とはいかないらしい。俺の感想に首を振りながら答える彼女に、それだけできるだけでも十分だと思ったのだが……そうなると、更に気になることが頭に出てきた。
「それなら、外との連絡手段は?カーディナルシステムの貴女なら…」
「ばかもん…それができればこんな埃っぽい場所に何百年も閉じこもっておらんわ!残念ながら、その手段を持っているのは最高司祭だけじゃ」
「そうか……一応手段はあるのが幸いというべきか…」
あることはあるらしいが、結局その最高司祭様に会わなければ、現実世界とは連絡が取れないらしい……尤も今となっては大変困難な方法であることは違いないようだが…
そんなことを考えていた俺は先程のカーディナルの言葉にどこか引っ掛かりを覚えた。その疑問を尋ねようとしたが、紅茶をテーブルに召喚したかと思えば、すぐにカーディナルの方が先に話を再開してしまった。
「わしは先程この世界に神はおらんと言った。じゃが、創世の時代…今より遡ること450年前、似たような者たちは存在したのじゃ…まだ央都セントリアが小さな村でしかなかった頃に4人の神がな」
「……450年前」
それ程までに彼女が昔からこの世界を見てきたことを知った俺は疑問を尋ねることもできず、隣のキリトがカーディナルの言葉に応えた。
「それが起源の4人…この世界に最初にダイブしたラースのスタッフのことだろう?」
「その通りじゃ。4人の外世界人がこの土地に降り立ち、2軒の農家で8人ずつの子供を育てたのじゃ。読み書きや作物の育て方、家畜の飼い方、そして、後の禁忌目録の礎となった善悪の価値観に至るまでな」
「そんな時から善悪の基準まで教えていたのか…」
オーシャン・タートルでは大まかな概要しか聞いていなかった創成期…いや、初期テストダイブ時の話を聞き、思わずそんな感想が出てしまった。そして、カーディナルは話を続けた。
「原初の4人は課せられた困難な使命を見事に達成したことからも人間としては最高級の知性を持っていたことが分かる。しかし、知性に秀でていても……善ならざる者が一人だけ存在したのじゃ」
「それって…」「…まさか」
「お主等の想像通りじゃ。そやつは子に所有欲や支配欲といった利己的な欲望をも伝えてしまった…その子供が祖先となったのだ。今の人界を支配する貴族や公理教会の上級司祭達のな…」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
カーディナルが告げた事実に俺とキリトは眉を顰めてしまった。
あのライオスやウンベール、グンジといった底知れぬ悪意を持ってしまった原因が、この世界を作ったラースによるものだというのだから、あまりにもお粗末な話だと思ったからだ。
「そして、彼らの頂点に立つのが公理教会最高司祭にして、今ではシステム管理者でもある一人の女じゃ…アドミニストレータという不遜極まりない名前を名乗っておる」
「不遜…?」
「……なるほどな。確かに貴女からすれば、不遜極まりない名前だな。システムを良好に保つ責務を負う者の名前を語るなんてね」
カーディナルが吐き捨てるように呟いた言葉にキリトが疑問符を浮かべていたが、俺の解説に納得がいったようだった。
今、不具合が起きているこの世界をどうともせずに放置している最高司祭がその名前を語ることは、この世界のバランスを維持しようとするカーディナルにとっては憎悪を抱いてしまうのも無理ない話なのかもしれない。
「そういえば、さっき戦った整合騎士のエルドリエもその名前を呼んでいたよな?」
「ああ。確か…『最高司祭アドミニストレータ様の招きを受けて』とかみたいなことを言ってたな」
「わしが話しているのはまさしくそやつのことよ。そして、おぞましいことだが…アドミニストレータは、言うなればわしの双子の姉でもあるのじゃ」
「「!?」」
エルドリエの発言を思い出した俺にキリトも頷きながら先程の言葉を復唱してくれた。その言葉を聞いたカーディナルは間違いないとばかりに頷き、衝撃的なことを口走った。驚きの事実に俺たちは顔を見合わせてしまう。
「混乱させてしまったか…順に話そう。原初の4人のログアウトから数十年後、とある二つの領主家の間で人界初の戦略結婚が行われ、一人の女の赤子が生まれたのじゃ…名をクイネラと言ってのう」
少し冷めてしまった紅茶を手に話を続けるカーディナル。俺も紅茶を口に含み、黙ってその先を聞き続けた。
アドミニストレータ…クイネラは天職として『神聖術師見習い』が与えられた普通の人工フラクトライトだったらしい。彼女は人一倍神聖術に関して研究していた、いわゆる研究者気質みたいなタイプで、神聖術の式句には意味があると見出していた、ある種の天才と呼べる才能を持っていたのだと…
そして、その好奇心と知性が一つの過ちを生んでしまった。
彼女は気付いてしまったのだ…神聖術を扱うレベル…システムコントロール権限やオブジェクト操作権限といった数値は人間や小動物…動的オブジェクトを殺せば上昇するというシステムの理に……禁忌目録がまだないその時代に彼女を縛るものなど存在しなかった。
そこから彼女の暴走は始まったとカーディナルは語る。
誰も直すことが出来ない怪我や病気を神聖術で治し、誰にでも親しみと慈悲の笑みを向ける彼女をいつしか人々は『神の子』、『ステイシア神の遣い』だと崇め始めたのだという。そして、底なしの支配欲を満たす時が来たことを彼女は悟ったのだと。
神に祈りを捧げる場所として建てられた、セントラル・カセドラルの原型、
自ら以上のシステム権限を持つ者が現れないようにするため、殺しを主に禁止とした法律の成文化…ステイシア神の信託と偽って公布した禁忌目録の初期版、
今の世界の歪みをクイネラは作り出してしまったのだと…だが、そんな彼女にもどうにも回避できないものがあったのだという。それは自身の寿命…フラクトライトの限界…それはアンダーワールドに生きる彼女にはどうしようもない結末のはずだった。
だが、彼女は再び過ちを…いや、奇跡ともいえる神聖術を発見してしまったのだという。それが神の悪戯だったのか、悪魔からの贈り物だったのかは分からない。彼女は見つけてしまったのだ…禁断の扉を…
「…ふぅ…ふぅ…」
「…大丈夫か、カーディナル?」
「……大丈夫じゃ。話を続けよう」
身体を腕で抱え、その先を話すことを恐れるようなカーディナルの姿に俺は思わず声を掛けたが、彼女は必死に声を絞り出して話を続けた。
「ありえない偶然によってか…あるいは外の人間が何か手を貸したのかもしれん。見せてやろう…システム・コール…インスペクト・エンタイア・コマンドリスト!」
「っ…これは!?」
「…嘘だろう…」
カーディナルが唱えた式句により出現したステイシアの窓に似たそれを見た俺たちは絶句した。そこに並んでいたのは、
「そうじゃ。この窓にはシステムコマンドの一覧が記してあるのじゃ。それを知ったクイネラがまず行ったのは天命値の全回復と自然減少の停止、そして容姿の回復…彼女は10代後半の美貌…全盛期の美しさを取り戻したのじゃ」
ある意味、彼女が最も女性らしいと思ったのは俺だけなのだろうか。欲しい物、自分の欲に忠実…純粋で穢れのない人間の姿だとも言えるのかもしれない。そんな俺の反応を見てか、カーディナルも悲しそうにその先を語り始めた。
「そこで満足して終わりにしておけばよかったのじゃ。しかし、クイネラは自分と同じ権限を持つ者すら…カーディナルシステムすらその存在を許すことができなくなってしまったのじゃ」
「…まさか」
「そうじゃ。あやつはカーディナル・システムの権限レベルを奪おうと考え、強大な神聖術を組み上げ唱えた…その結果、カーディナルシステムに与えられていた基本命令を己のフラクトライトに書き換え不可能の行動原理として焼き付けてしまった」
「それって…アドミニストレータとこの世界のカーディナルシステムは一つになってるってことなのか?」
俺の推測にカーディナルは肯定だと頷いて答えた。つまり、アドミニストレータは支配するつもりが、カーディナルシステムと融合してしまったということか。
「秩序の維持…それがカーディナルシステムの基本命令であり、存在目的じゃ。
お主たちも同じシステムの制御される世界にいた頃があるのなら分かるじゃろ?お主たちプレイヤーの行動を常に監視し、バランスを乱すような事象を検出するや否や……容赦なく対処する」
「「っ!?」」
カーディナルが告げた事実にキリトも俺も心当たりがあった。キリトはユイちゃんの一件を、俺は幻想剣とあのユウキと出会うきっかけとなった隠しダンションのことを思い出していた。
俺もALOでユイちゃんと初めて会った時に聞いたのだが、どちらもカーディナル・システム絡みだったのにはかなり驚いたのを覚えている。
「昏倒していたクイネラは一昼夜眠り続けてから覚醒した。
その時には既にフラクトライト…いや、あらゆる意味で人間ではなくなっておった。老いもせず、水も飲まず、パンも食わず…欲するのは己が支配する人界を今のままに永遠に保つことのみ…」
「それが…アドミニストレータの誕生した瞬間だったわけか」
「そうじゃ。この世界は絶対者アドミニストレータの統治下で平和かつ無為な時代が長く続くことになったが…クイネラがアドミニストレータとなって70年後のことじゃった。アドミニストレータにある異変が起きたのじゃ」
全ての出来事にアドミニストレータが関わっている…その一片がまたしてもカーディナルの口から語られ始めた。それはとてつもなく意外なものだった。
「記憶を保持するための魂の容量…フラクトライトがいつの間にか限界に達していたのじゃ」
「魂の容量…?記憶の限界…?」
「……そうか。フラクトライトは人間の脳の管に走ってる光の粒子…人間なら脳の限界量まで記憶できるが、その一部でしかないフラクトライトは記憶できる量の限度が小さいわけか」
いつか本で読んだことがあるが、人間の脳の記憶容量は数億テラバイト…人間の寿命が数千年あっても使い切れるものではないのだという。だが、人工フラクトライトではそうもいかないのだろう。
特に不老不死となったアドミニストレータにとっては最も避けることができない事象だったのだろう。だが、
「しかし、あやつはまたしても悪魔的な解決法を考え出した…他人のフラクトライトを強奪するために、魂と記憶の統合を意味するシンセサイズの秘儀…悪魔の儀式をな」
気になるワードがいくつか出てきたが、疑問は後で聞くことにするとして、俺たちはカーディナルの話を聞き続けた。
「じゃが、そこでアドミニストレータ…クイネラは失敗を犯した」
「「失敗…?」」
「そう…何故なら、女子に乗り移りそれまでの自分を処分する一瞬だけ、同等の力を持つ神が二人存在してしまうことになるからじゃ。ところで、お主たちのどちらか。わしのオリジナルバージョンを知っておるのなら、カーディナルシステムの特徴を言ってみよ」
カーディナルにそう問われ、流石にそこまでの知識はない俺は降参とばかりにキリトへと話を託した。話を振られたキリトはカーディナルシステムの特徴を述べ始めた。
「確か…人間によるメンテナンスや修正を必要とせずに長期間稼働できる、だったか?」
「そうじゃ。そのためにカーディナルシステムはメインとサブの二つのコアプログラムを持っておる。メインプロセスがバランス制御を行っている間は…」
「サブがメインのエラーチェック、サポートを行うってことか?」
「その通りじゃ」
ようやく二人の会話が理解できた俺の言葉にカーディナルは頷きながら、その先へと話を進め続けた。
「クイネラが己のフラクトライトに刻み込んでしまったのは、秩序の維持だけでなかった。サブプロセスであるわしは奴の心の奥底でこう考えていた。こんな女の過ちを正さねば
とな」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「わしは待った…待ったのじゃ。その時が訪れるのをひたすら待っておったのじゃ……70年の長きに渡ってな」
そして、その時が訪れたのが来たのだというカーディナルは呟いた。
それがクイネラ…アドミニストレータが失敗を犯した時だったらしい。
一人の修道女…その子は常人よりもシステムアクセス権限が高かったらしい…その人格を『悪魔の儀式』で乗っ取ろうとした瞬間のことだった。
選んだ少女のフラクトライトが崩壊したことで、サブプロセス…カーディナルがその肉体を持つことが可能になり、神聖術による奇襲でアドミニストレータの抹殺を図ったらしい。
だが、アドミニストレータは空間支配による神聖術使用不可の領域を展開し、不利を悟ったカーディナルはこの大図書室へと逃げ込んだのだという。
「…それ以来200年…外と完全に隔離されたこの場所で、ひたすらに観察と思索のみを積み重ね、逆襲の一撃を見舞うべく方策を練った」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
あまりにも途方な時間に俺たちも何も言うことができず、黙ってカーディナルの話を聞き続けていた。
「しかし、あやつはわしの奇襲に備え、忠実にして強力な手駒を揃えようと考えたのじゃ」
「…まさか。それが整合騎士なのか?」
「そうじゃ。最初の整合騎士となったのは、不誠実の剣士と呼ばれながらも教会の支配を嫌って仲間たちと共に辺境に流れ、自ら村を開拓した豪傑じゃった…ベルクーリ・シンセシス・ワン…それがその騎士の名じゃ」
整合騎士誕生の秘密がそういう過程だったのかと思う一方で、どうしてカーディナルが俺たちに接触してきたのかが分かった気がした。
「アドミニストレータが整合騎士という軍勢を作り上げたことから、貴女一人では立ち向かうことが困難…それで俺たちをここに招き入れたのか?」
「お主は察しがいいのう、フォン。アドミニストレータとわしの戦闘力はそう大差はない。じゃが、わし一人で数十人もいる整合騎士を突破して、奴と戦うことは不可能に近いと思うた」
「そこに、俺たちがセントラル・カセドラルにやってきたってことか」
キリトの言葉を引き継ぎ、カーディナルはこれまで自身が何をしてきたのかを語り始めた。
「協力者を見つけるためにわしは危険を覚悟で様々な場所に扉を開いたのじゃ。その地域周辺に住む鳥や虫に感覚共有やその他の術を施して全世界に放った…例えば、こやつとかもそうじゃ」
そう言って、まるで悪戯が成功したかのように少し微笑んだカーディナルが右人差し指で何かを手招いたかと思えば、
「へっ…うおぉ!?」
「ほれ、見るがよい」
俺の前髪から何かが飛び出したかと思えば、カーディナルの掌へとそれは着地した。一体何なのかと思い、俺とキリトはのぞき込むと、
「…蜘蛛?」
「そうじゃ。お主たち3人がルーリッド村を出た時からずっと会話や行動を見聞きしておったのはこやつじゃ。名前はシャーロットという…まぁ、偶には見る以外のこともしておったみたいじゃがな」
「…もしかして、さっき庭園で聞こえた声や」
「ゼフィリアの花の時に励ましてくれたのも君だったのか?」
「ちなみに、ザッカリアの剣術大会の時にお主たちが上手く分かれるように細工したのもシャーロットの仕業じゃぞ?」
俺たちの言葉に照れてしまったのか、本棚へと飛び移ってしまったシャーロットに苦笑しながらカーディナルから意外な事実が告げられた。あの時は、俺とキリトたちとでどうにも上手く分かれたなと思っていたが、そういうことだったらしい。
「シャーロットは、わしが術式を施して人界に放った最古の監視用ユニットじゃ。長い長い任務もこれでようやく終わりじゃな。天命の自然現象を凍結してある故、もう200年以上も働いてもらったか…」
((……ありがとう))
剣術大会の一件といい、ゼフィリアの花の一件といい、ようやく直接お礼を言うことが出来たと思い、感謝を心の中でシャーロットに告げる一方で、先程のカーディナルの発言からして、シャーロットはカーディナルにとっても他のユニットとは違う思いを持っているのだと感じられた。
「200年…そんなに長い間あんたは協力者を探していたんだな」
「うむ…しかし、そうして長い間、世界を眺めている間に流石のわしも思ったよ……何故、この世界を作った外界の神たちは偽りの神アドミニストレータの専横を放置しているのかとな」
そう告げたカーディナルの声色には失望が混じっていたように思えた。それを聞いた俺は丸で責められているような錯覚を覚えてしまった。
「そのことを考えながら、カーディナルシステムに内蔵されたデータベースを参照していく中で一つの答えに思い至った…真の神たるラースはこの世界の人間たちの幸せの営みなど望んでなどおらぬのだと」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
カーディナルの推測に俺は何も答えることができなかった…彼女の推測は当たりで、俺はその答えを当事者たちから聞いていたからだ。それを俺から聞いていたキリトも同じで何も返すことができなくなっていた。
もちろん、シャーロットを通してそのことを見聞きしていたカーディナルも自身の推測が正解だったと確信してこの話をしているのだろう。
「お主たち…いや、フォン。お主の話を聞いて、わしは確信した。ラースはこの世界に住む民たちをゆっくりと万力で締め上げ、その負荷にどのように贖うのかを観察しているのだと。現在にも負荷は日に日に増し、そして、最大の試練として負荷実験の最終フェーズが訪れる」
「「…最終フェーズ?」」
思わぬ言葉がカーディナルの口から語られ、俺たちは思わず疑問符を顔に浮かべてしまった。どういうことかと思っているとカーディナルが眉を顰めていた。
「もしや…お主たちも知らぬのか?」
「あ、ああ…俺はそんな話を聞くのは初めてだ。その最終フェーズって一体何が起こるっていうんだ?」
「人界の外には何が広がっているのかはお主たちも把握しておるな?」
「…ダークテリトリーだよな?」
キリトの答えにカーディナルは頷きながら説明を続けた。
「そのダークテリトリー…闇の世界に住む住人こそが民たちに究極の苦痛を与えるべく造られた装置…人間と同じフラクトライトに殺戮と強奪の行動原理を付与された怪物たちが人界陣への領土へと攻め入り、暴虐の限りを尽くす日を今か今かと待っておる…それが最終フェーズ…ラースが望む最終試験じゃ」
「それって…それは…」
「そうじゃ…ラースの連中はこのアンダーワールドで戦争を起こさせようとしておるのじゃよ。人界とダークテリトリー…両者をぶつけることによってな」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
カーディナルが告げた真実に俺たちは固まってしまった。キリトがどういうことだと目線を向けてきたが、俺自身全く寝耳に水の話だった。
どうやら、俺は菊岡という人間を本当の意味で理解できていなかったらしい。
あいつにとって、フラクトライトは本当に人の命よりも価値が低く、
そして、俺にこのことを黙っていたことよりも、仮想世界の中でそんな簡単に命を失わせる考え方に、俺は
『…君はリアリストかと思っていたんだが…もちろん君の言う事も分かるが、僕からすれば10万の人工知能の命は1人の自衛官の命よりも軽い』
オーシャン・タートルで聞いた菊岡の言葉が頭をよぎった瞬間、激怒のあまり思わず唇を噛み切ってしまった。それはあまりにも酷い裏切りで、最も行ってはいけない禁忌の儀式だったからだ。
アリシゼーション終わったら、菊岡がフォンに殴られそうで怖い(笑)
次回は説明回後半&武装完全支配術についてです。
大剣の謎にもかなり踏み込む話にもなりますので、
お楽しみにして頂ければと思います。
SKーYMさん
ご評価を頂きありがとうございます!
今後は怒涛の展開が続きますので、是非ご期待ください!
佐世保バーガーさん
ご評価頂きありがとうございます。
ご感想もお待ちしておりますので、
遠慮なく頂ければと思います。
それではまた。
次回更新 8月16日0時予定
カーディナルは生存させるべきでしょうか?(どちらでも前半の結末は変わりません。後半以降の物語に大きく影響します)
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生存ルート
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死亡ルート