ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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前回の続きからです。

フォン、全く容赦なしのお話となっております。
まぁ、理由が理由なので仕方ないってことでご理解頂けばと思います。

大剣に関するコメント・ご指摘ありがとうございます。
前話の話的に混乱させてしまうとは思っていたのですが、作者の予想以上の混乱をまねいてしまったようで申し訳ありませんでした。
本話で釘刺し…できたかとは思います。

それではどうぞ。



第32話 「幼き暗殺者たち」

「今さらそんな口を利くなぁぁぁぁぁ!?」

「止めろ、ユージオ!?」

「っ…フォン…!?」

 

感情のままに剣を振り下ろそうとするユージオを制止するために、俺はユージオとデュソルバートとの間に割って入った。

 

振り下ろされた青薔薇の剣は俺の目の前で止まった。

 

「な、なんで…なんで止めるの…?」

「なら、この人を斬ったら、アリスが元に戻るのか?」

「っ…!?」

「そうじゃない…そうじゃないことはお前も分かってるだろう?お前の気持ちは分かる…けど、俺もキリトもそんなことのためにお前に剣を教えたわけじゃない!」

「…あっ…」

「ユージオ…もうこのオッサンに戦う気はないよ。そんな人に剣を振るちゃ駄目だ」

「でも…こいつがアリスを連れていったんだよ!?僕の目の前で…!?」

 

俺とキリトの説得の言葉に剣を降ろしたユージオだったが、まだその怒りは続いていた。それは致し方ないことだとは思うが、それでも俺たちはユージオにデュソルバートを殺させる訳にはいかず、言葉を続けた。

 

「…多分、この人はそのことを覚えてないよ…ルーリッドの村からアリスを連行した時のことを」

「えっ…?」

「もちろん忘れたわけじゃない…覚えていられると不都合だから、その記憶を消されたんだ」

「その二人の言う通りだ」

 

カーディナルから聞いた話と整合騎士を生み出す方法から、キリトと俺はどうしてデュソルバートの記憶が消えているのか見当がついていた。困惑するユージオだが、それを肯定するように兜を脱ぎ、素顔を露わにしたデュソルバートは答え始めた。

 

「我が…幼き少女を捕縛し、飛竜で連行しただと…?そのようなことをした覚えはない」

「……覚えていないのか?たったの8年前のことなんだぞ?」

「オッサン…いや、騎士デュソルバート…あんたはノーランガルス北の辺境を守る整合騎士だった。それは間違いないよな?」

「然り…ノーランガルス北方第7辺境区が我が統括区であった。そう、8年前までは…そして、我は功績大なりとして、この鎧と共にセントラル・カセドラル警護の任務を与えられた」

「その功が何だったのか、覚えていますか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

キリトと俺の質問にデュソルバートは答えることができなかった。それは俺たちの推測が正しいという裏付けになった。

 

「貴方が答えられないのなら代わりに俺が答えるよ。貴方の功績というのは、整合騎士アリス・シンセシス・サーティを見出したことだ」

「アドミニストレータはアリスをこの塔に連行したことをあんたの手柄としながらも、その件に関する記憶は消さなければならなかった」

「整合騎士には過去は存在しない…なぜならアドミニストレータにより天界から召喚されたとされているからだ。エルドリエも言ってたけど、貴方もそうアドミニストレータに吹き込まれたんじゃないですか?」

「整合騎士以前の記憶がないのはそのせいだって納得させるために吹き込んだのはいいが、その話を押し通すためにはアリスのことを覚えていたままでは都合が悪かった」

「自分が人間だった記憶だけでなく、他の整合騎士誕生の経緯を覚えていられると、致命的な矛盾に気付かれる恐れがあったからな」

「自分が連れてきた大罪人が、次の日には仲間の騎士として現れたりしたら、大混乱に陥るだろうしな」

「…覚えて、いない…何も」

 

俺とキリトが語る推論にデュソルバートは困惑し切っていた。だが、その困惑ぶりこそ彼が本当に記憶を消されてしまっているのだということを物語っていた。そして、キリトは話を続けた。

 

「あんたはアドミニストレータに大事な記憶を奪われ、代わりに教会への忠誠心を埋め込まれて整合騎士へと仕立て上げられたんだ。あんたは俺たちと同じ人間なんだよ」

「我が、そなた等と同じ人界の民…?記憶の操作…?

………信じられん。最高司祭陛下が我にそんな術を…」

「信じられないとは思いますが、それが真実なんです。よく思い出してみてください…貴方の中にも何かが残っている筈です。どんな術でも消し去ることの…いや、忘れることなんてできない記憶があるはずです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

俺の言葉に従うようにデュソルバートは目を瞑り、記憶を辿り始めた。そして、心当たりがあったのか、その記憶を語り始めた。

 

「人界に降り立った頃から何度も同じ夢を見たことがある…我を揺り起こす小さな手と、その薬指に填められた銀の指輪…だが、その者の顔を何故か認識することができず、目が覚めるとそこには誰も…くっ…」

「…貴方の隣に立っていた大事な人…その大切な記憶をアドミニストレータは奪ったんです。貴方を自分の駒にする為だけに…!」

 

アドミニストレータの歪んだ行為を直接目の当たりにして語気が強まってしまった。

なんとか怒りを抑えながらも話を続けるが、オーディナル・スケールでの一件が頭をよぎり、思わず拳を握りしめてしまった。

 

そんな俺を見て、キリトがその後を引き取ってくれた。

 

「これからどうするかはあんたが決めることだ。アドミニストレータの所に戻って処罰を受けるか、傷を治療して俺たちを追ってくるか…それとも…」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

キリトの問いにデュソルバートは何も答えなかった…いや、答えることができなかったのだろう。キリトもすぐの返答を求めていたわけではなく、今は先に進むべきだということもあり、階段へと向かい始めた。

 

そして、ユージオは…

 

「・・・っ!?」

 

デュソルバートのことを数秒睨んでいたが、ユージオの中でも一応の踏ん切りは着いたらしく、青薔薇の剣を鞘に納めていた。

そんな彼の肩を優しく叩き、俺たちは先を行くキリトを追いかけたのだった。

 

 

 

「随分と昇ってきたけど、今どれくらいだっけ?」

「次の階層で29階だな。このペースだと、あと30分くらいで例の50階に着くだろうな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「「・・・(コクッ)」」

 

先頭を行くキリトの問いかけに答えながら、背後のユージオを見た。先程のデュソルバートとの一件がまだ尾を引いているらしく、その表情は暗かった。キリトに目線を向けると、どうやら同じ考えだったらしく、俺たちは一旦休憩を取ることにした。

 

階段に座り込んだキリトが上服の内ポケットから何かを取り出そうとしているのを見て、俺も外ポケットに移していたそれを取り出した。

 

「ほら、ユージオ」「受け取れ、ユージオ」

「えっ…おっとと……肉まん?」

 

俺とキリトがそれぞれ投げた肉まんを器用にキャッチしたユージオ。俺たちも自分の分を手に取り一口齧る。

 

「…いつの間に持ってきてたんだい?」

「カーディナルに持たされたんだよ。俺とフォンでそれぞれ3個ずつな」

「まぁ、腹が減っては戦はできないって言うしな。それ食って、ちょっとは元気出せよ」

「…ありがとう、二人とも」

 

俺たちの気遣いに気付いたユージオはそれ以上何も言うことなく肉まんを食べ始めた。俺も肉まんを食べ、先程の戦闘で減っていた天命が回復したことを確認する。そして、話はこれから対峙するであろう50階の整合騎士たちのことになった。

 

「さて…問題は50階で待ち受ける整合騎士だが…真正面から行くのは確かに分が悪すぎるよな」

「ああ。さっきのユージオとおっさんの戦闘を見た感じだと、やっぱり整合騎士たちは連続の秘奥義には慣れてないみたいだったな…というよりも、ほとんど未経験なんだろうな」

「一対一に持ち込めれば、勝機はあるか…でも、50階にいる整合騎士が4人以上…複数いた上で準備万端で待ち受けているのなら、かなり厳しいな」

「じゃあ、正面から行くのを避けて他の道を探すかい?」

 

キリトと俺の話にユージオがそう提案するが、俺は首を横に振って難色を示した。

 

「それはちょっと難しいかもな。この大階段がカセドラルを移動する唯一の通路だってカーディナルが断言してたし、もし抜け道を見つけても、こっちよりも相手の方がこの建物の構造は把握してるだろうし…」

「最悪の場合、上と下からの挟み撃ちを受けるかもしれないのは避けたいよな。そうなると、50階の整合騎士たちは奥の手を使ってでも倒しておきたい」

「奥の手…武装完全支配術のことだね?」

 

キリトの言葉にユージオは頷きながら、俺の方を見た。おそらく俺がさっき使った氷槍の技を思い出したのだろう。

 

「フォンがさっき使ったことからもその威力は折り紙付きだ。50階に着き次第、先制で武装完全支配術を使って整合騎士の何人かを無力化出来れば…」

「えーっと…」「あー…」

「…?どうした、二人とも」

 

ユージオと俺が困った反応をしていることに首を傾げるキリト。理由を尋ねられ、俺たちはその訳を話し始めた。

 

「僕の完全支配術はさっきのフォンや整合騎士みたいに大威力の直接攻撃ってわけじゃないんだ」

「なぁ…そうなのか?それなら、さっきのフォンの技なら…」

「あーあ…それなんだが……俺がさっき使ったのは、実はこの大剣の武装完全支配術じゃないんだ」

「「…はい…?」」

 

俺の告げた事実に思わず目が点となる二人。どういうことかという視線を飛ばされ、俺は苦笑しながら答えた。

 

「さっきのあの長槍はいきなり大剣が変化したんだよ。大剣本来の武装完全支配術は別にあるんだ…だけど、さっきの戦闘もそうだったが、俺の意志で長槍に変えたわけじゃないから、あれをもう一度狙ってやるっていうのは難しいな」

「マ、マジか…?」

「マジだ。俺自身、いきなりのことだったから、さっきの戦闘も咄嗟に使ったって感じでよく分かってないんだよ」

「あれが大剣の武装完全支配術じゃなかったのかい?僕はてっきりそうかと思ってたよ」

「あの氷の龍人を模した攻撃は長槍自体の完全武装支配術だよ。術式も大剣の物とはまったく別物だ」

 

先程の戦闘で放った氷のレーザー…天零の武装完全支配術は武器の記憶と共に頭に流れ込んできたものだ。

それを証明するように俺は大剣の武装完全支配術の術式は記された洋筆紙を二人に見せた。 

 

「なら、あの長槍…天零って言ったっけ…あれは一体何なんだい?さっきの整合騎士に聞かれた時に半魔半人が使っていた武器だって言ってたけど」

「…分からない。あの武器を持った時にその使い手の記憶が流れ込んできた感じで、名前も使い方もその時頭に浮かんだんだ」

「へぇ〜…それじゃあ、それがその天零っていう武器の記憶だったってことか?」

「でも、キリト。そんな神話は聞いたことがないよ?僕が持ってる青薔薇の剣…『ベルク―リと北の白い竜』以外の竜の話なんてあるのかな…しかも半魔半人が使っていたものなんて…そんな存在自体が初耳だよ」

 

天零に関してキリトが感心する一方で、歴史に詳しいユージオは首を傾げていた。そして、その疑問は俺の中にもあった。

 

(あの記憶…あれはアンダーワールドの光景とは全く違っていた。どちらかといえば、前に見た奇妙な夢に近い気がする。

もしかして、この剣って…)

 

アンダーワールドにダイブした時から持っていたこの大剣。

カーディナルがこの大剣がアンダーワールドのカーディナルシステムに登録されていないと言われた時点で、思い出したのは本来存在しない11番目のユニークスキル『幻想剣』のことだった。

 

(でも、今回はアバターをコンバートしたわけじゃないから、幻想剣は関係ない筈だし……この大剣は一体何なんだ?)

 

そんな疑問が頭をよぎる中、俺はキリトに渡していた武装完全支配術のコマンドリストを返してもらった。

その答えを知るにはこの大剣を使っていき、どう行った性質を持っているのかを知るしか方法はないようだ。

 

「それにしても参ったな…フォンのあの技があればと思ったんだが…ユージオの武装完全支配術はどんな感じなんだ?」

「う、うん…僕はこんな感じで青薔薇の剣の技をイメージしたんだけど…」

 

完全に頭を抱えてしまったキリトだったが、すぐさま考えを切り替えて、青薔薇の剣の武装完全支配術がどんなものかを確かめるべく、ユージオから洋筆紙を見せてもらう。俺も横からその術式を覗き込む。

 

「………なるほどな。確かに攻撃的な技じゃないが、でも使い方次第じゃ十分役に立ちそうだぞ。俺やフォンの武装完全支配術とも相性は悪くなさそうだしな」

「確かにな…キリトのその黒剣のはどんな術なんだ?」

「そういえば気になるね…どんな感じなんだい?」

「それは見てのお楽しみだ」

「いや、今言えよ。大事なことなんだから…あっ…」

「いや、今言いなよ。大事なことなんだからさ…あっ…」

 

勿体ぶるキリトに冗談を言ってる場合かとツッコミを入れたが、綺麗にユージオとハモってしまった。

どうやら思っていることは同じだったらしく、思わず苦笑してしまう俺たち。そんな俺たちを見て、キリトも笑っていた。

 

ひとまず先を進みながら作戦の続きを話そうと、移動を再開しようとする俺たちだったが、ユージオが何かに気付いた。

 

「…あれは…」

「ユージオ、どうし……なんだあれ」

 

どうしたのかと尋ねようとして、ユージオの視線を辿った俺はその理由を悟った。階段の手すりからこちらを伺っている二つの頭が目に入ったからだ。あきらかにバレバレの覗きに俺も思わず肩の力が抜けてしまった。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「君たちは誰だい?」

 

こっそりと覗いているのがバレた二人は、キリトの問いかけに互いに頷くことで意思を確認し合って姿を露わにした。

 

「こ、子供…?」

 

驚くユージオの言葉通り…姿を露わにしたのは修道服の女子二人だった。こんな場所に子供がいるとは思ってもみなかったので、ユージオが驚くのも無理ない話だっただろう。

 

「あの…!あたし、じゃない…私は公理教会修道女見習いのフィゼルです」

 

金色のショートカットの薄い青色の瞳の少女…フィゼルと名乗った修道女はそう自己紹介をした。そして、隣に立っているもう一人の少女についても紹介を始めた。

 

「こっちが同じく修道女見習いの…」

「リ、リネルです…」

 

気弱そうな自己紹介をしたリネルという修道女は薄いクリーム色の二つに分かれたおさげ髪に灰色の瞳が特徴的な少女だった。そんな自己紹介をされ、なんと答えればいいのか俺たちが困っていると、フィゼルがこちらへと近寄ろうとしていた。

 

「あの…ダークテリトリーからの侵入者っていうのはお二人のことですか?」

「は…えっと…」

「「ユージオ」」

「えっ、ちょ!二人とも!?」

「俺、子供苦手なんだよ」

「俺たちよりもユージオの方があっちも安心するだろうしな。ほらほら!」

「それどういう意味だよ、フォン!?」

 

キリトとアイコンタクトを交わし、フィゼルたちの相手をユージオへと押し付ける。そのまま俺たちはユージオの背後へと回る。ユージオから半眼での抗議の視線が飛んでくるが、半ば無視して俺はフィゼルとリネルへと視線を移していた。

 

「僕らは人界人だよ…侵入者っていうのは間違いではないけど…」

「「・・・うーん」」

 

ユージオの言動と容姿を確認した二人は再び顔を見合わせたかと思えば、俺たちに背を向けてコソコソ話を始めた。が、

 

「なによ!見た目は全然普通の人間じゃない、ネル!角も尻尾もないわよ」

「う~…私は本にそう書いてあると言っただけですよ~!早とちりしたのはゼルの方です!」

 

こっちに聞こえる声量で話されるので思わずため息を吐くユージオ。このままでは埒が明かないと思ったのか、話を切り出した。

 

「あの、君たち。僕らと話すと怒られるんじゃないの?」

「今日は朝から全修道士・修道女と見習いは私室の扉に鍵を掛けて外に出ないように命令が出てるのよ。だから、侵入者を見物に行っても誰にもバレる心配はないってわけ…やっぱり人間じゃない、この人たち」

「人間ですね」

 

まだ疑われていたらしく、フィゼルの言葉に同意するリネルにユージオが思わず苦笑していた。そして、警戒を解いたらしいリネルが俺たちをダークテリトリーの手先だと誤認した理由を語り始めた。

 

「投獄されていた筈なのに、鋼鉄の鎖を引き千切って脱出して、しかも二人の整合騎士を倒したんですよね?てっきり闇の化物か、もしかしたら本物の暗黒騎士が攻めてきたのかと思って待ってたんですけどね…」

 

どうも彼女の期待には沿えなかったようだ。そんなことを言われ、流石のユージオも困惑してしまっていたが、そんなことなどお構いなしにリネルはユージオに近づき、

 

「最期にお名前を教えてもらっていいですか?」

「僕はユージオ。後ろの黒髪がキリトで、茶髪交じりがフォンだよ」

「ふーん…性はないんですか?」

「ああ。開拓民の子供だからね…もしかして、君たちも?」

「いえ、私たちにはありますよ」

 

その言葉と共にリネルはユージオへと更に近づき…

 

「えっ…うわぁ!?」「…えっ!?」

 

両者の驚きの声が重なった。ユージオが驚いたのはいきなり体を後ろへと引っ張られ混乱から出た声だ。対して、リネルから洩れた声は予想外の出来事に出くわした際のリアクションだった。

 

それもその筈だ。なぜなら…咄嗟にキリトがユージオの後ろ襟を引っ張ったことで、リネルがユージオ目掛けて放った短剣が空振ったからだ。

 

「そこだぁ!」

「っ!?きゃぁぁ!?」

 

そして、その横から俺がすぐさま大剣の一撃をリネル目掛けて放つ。咄嗟に短剣を構えたが、流石にソードスキルを受けきることはできず、ソードスキル〈サイクロン〉の一撃を受けたリネルは壁に叩き付けられた。

 

「リネル!?このぉ!?」

「させるかぁ!!」

「いつの間に、うううぅぅ!?」

 

硬直に襲われた俺の背後を取ったフィゼルだったが、キリトに阻まれた上に、ソードスキル〈ホリゾンタル〉でのカウンターを受けて、リネルの横に叩き付けられた。

 

二人を完全に無力化したことを確認した俺は彼女たちが持っていた2本の短剣を回収する。一方、いきなりのことが目前で繰り広げられたユージオは完全に困惑し切っていたが、我に戻って俺たちを問い質し始めた。

 

「フォン、キリト!?これは一体…」

「悪いな、ユージオ。お前を囮に使うような真似をして。こいつらの装備を見た時から怪しいと思ってたからさ…敵を騙すからにはまずは味方からってな」

「フォンがアイコンタクトで警戒しろと言った時には驚いたが、こいつらの言動のおかしな点に気付いたからな。本当にヒヤヒヤしたぜ…」

 

ユージオに二人の対応を押し付けた時、俺はキリトにアイコンタクトで『警戒しろ』と告げたのだ。

3年近く一緒に戦い続けてきたこともあり、俺の意図を汲み取ったキリトはいつでも動けるように警戒していたというわけだ。

 

「ぐぅぅ…ど、どうして分かったのよ…!?」

「子供の姿だから騙せたとでも思えたか?悪いが、お前たちがその短剣の鞘を持っている時点で俺は疑っていた。それに、お前たちは決定的なミスを犯したのさ」

「ミス…?」

 

ダメージで動けないリネルの疑問に俺は出会った時から疑っていたことを告げる。そして、こいつらが犯したミスというワードにユージオが反応した。

 

「こいつ等はさっきこう言った…『今日は朝から全修道士・修道女と見習いは私室の扉に鍵を掛けて外に出ないように命令が出てる』ってな。

だけど、カセドラルの中にそんな命令を破れる修道女がいると思うか?」

「…あっ!」

「だから、俺もフォンの真意にそこで気付いた。命令に従わないこいつ等は本物の修道女見習いじゃないってな」

 

俺の推論を補足するように語るキリトの言葉にユージオも納得したようだった。今、目の前で壁に叩き付けられた二人が修道女見習いではなく、自分たちの敵なのだと。

 

「多分、お前たちは暗殺を得意とする整合騎士なんだろう?お前たちが持ってたる鞘…それは紅玉樫製だな?ルベリルの毒鋼で作られたこの短剣に触れても腐らない唯一の素材だったよな?

そんな物騒な物をただの修道女見習いが持ってる時点で疑うには十分だったよ。いつでも動けるようにお前たちの動きを見張っていたのさ」

「ぐぅ・・・くそっ」

 

俺の推理は当たっていたらしく、フィゼルからそんな声が漏れる。まぁ、この二人が俺たちの警戒を解こうとして、口を滑らせたのはラッキーだったと言える。だが、俺にはこの二人に対して見逃すことができない点がまだあった。

 

「それとだ…これは返すぞ」

「「えっ…つっっ!?」」

 

俺の言葉に疑問を顔で表す二人だったが、その顔に掠るように俺は二本の短剣を投げつけた。俺の言葉の意味が分かった時にはもう遅い…頬を掠めた短剣により、麻痺毒に襲われ二人は途端に身動きが取れなくなる。

 

「な、なに…を…」

「こ、これ…は…」

「別に暗殺が悪いとは言わないさ。

お前たちにだってこうしないといけない理由があるんだろうし、暗殺だって立派な作戦の一つさ

 

…でも、お前たち…殺しを楽しんでるだろう?」

 

「「っ!?」」

 

温度が一気に冷えた俺の言葉に二人はビクッとする。その反応は肯定でもあり、今の俺の言動に恐怖していた。大剣を二人の顔に近づけ、俺は一気に闘気と殺気を放つ。

 

「フォン!?何を…!?」

「待て、ユージオ!フォンに任せよう」

 

俺の行動にユージオから焦りの声が飛ぶが、キリトが押さえてくれたようだ。それを確認した俺は話を続ける。

 

「さっきユージオを刺そうとした時、お前たちは嗤っていたよな?命を奪うことに覚悟もなく、ただの作業と思ってやろうとしていたんだろう?だったら、お前たちにも教えてやるよ…一方的に殺される恐怖って奴をな…!」

「「…ひぃ!?」」

 

そのまま大剣を振りかぶり、俺は二人目掛けて振り下ろした。殺されると思った二人は目を咄嗟に瞑った。

 

だが、俺はわざと狙いをずらし、動けないでいる二人の間へと大剣を振り降ろした。その一撃で壁が抉られるも、二人は傷を負ってはいなかった。

 

「「…あっ…えっ…?」」

「少しは分かったか?命を狙われる恐怖って奴を…それが少しでも分かったのなら、自分たちが何をしてきたのか…それを考えろ。君たちはまだ、やり直せる筈だ」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

俺の言葉に呆然とする二人。そんな二人から目線を外し、俺は先に階段を昇り始めた。それを慌てて追いかけてくるキリトとユージオの気配を感じる。そのまま数段昇った先で、

 

「…くそっ!」

「フォ、フォン…?」

 

あまりの苛立ちに思わず壁に拳を叩き付ける俺。そんな俺の反応にユージオは困惑していた。だが、キリトは違った。

 

「あれがフォンなんだよ」

「キリト…?」

「あいつは…あの子たちが命を奪うことを楽しんでるのが許せなかったんだよ。それを当たり前の仕事としてさせているアドミニストレータのやり方もな…あいつはそういうのを一番嫌うんだよ。

だから、デュソルバートにお前が剣を振り下ろそうとした時に必死に止めたんだよ。只の私怨で命を奪って、お前に後悔してほしくなかったんだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「二人とも…早く行くぞ!!」

 

こんな下らないことは終わらせてやる…アドミニストレータのやり方にまたしても怒りを覚え、俺は先を急ぐべく、後ろの二人へと声を掛け、一気に50階を目指して駆け出した。

 

 




フィゼル・リネルのファンの方々、フォンが容赦なく大剣を振るった上に、早々に出番終わりで申し訳ありません。

原作でキリトが気付いていたのに、鍛冶士でもあるフォンが気付かない訳がないと思い、こうなりました。
というか、いくら麻痺毒で動けないとはいえ男3人を階段引きづって行くのは想像し難かったのも理由の一つです。

なので、フィゼル・リネルの過去を3人が知ることもなくなりましたが、流石に咎めなしはどうかと思い、フォンがああいう行動を取りました。
今思えば、禁忌目録を破った一件からさほど時間が経ってないんですよね…流石のフォンもちょっと頭にきてしまったということで。

次回はフォナティオ&四旋剣との闘いになる予定です。

卯月 蓮華さん
ご評価ありがとうございました。

それでは。

カーディナルは生存させるべきでしょうか?(どちらでも前半の結末は変わりません。後半以降の物語に大きく影響します)

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