さて、皆様お待たせしました。
アリス、そして、イーディスとの戦闘回です。
インターバルが滅茶苦茶長くなってます(笑)
まさかの1万6千字だと…!?キリがいいところまで書いてたらこうなるとは…前編になりますので、バトルパートは少し短めです。
それではどうぞ!
「「キリト!?」」
ファナティオとの激闘を制し、完全武装支配術を打ち終えたキリトが目の前で倒れた。慌てて、ユージオが駆け寄り、ようやく頭痛が消えた俺もキリトの傍に駆け寄った。
「キリト!大丈夫か…キリト!?」
「落ち着け、ユージオ!回復の神聖術を…!」
「う、うん!」
パニックになりかかっていたユージオを落ち着け、俺たちは神聖術を発動させる。キリトの体には先程の光線により、複数の穴が開いており、出血も酷く、顔色も真っ青になりかかっていた。
俺は意識を集中させ、少し術式が難しい神聖術を発動させる。
「システムコール…ジェネレート・グリッター・ルミナス・エレメント!」
「システムコール…ジェネレート・ルミナス・エレメント!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「駄目だ…傷がふさがらないよ、フォン!?」
「まだだ。今度は俺たちの天命をキリトに「…そこまでしなくてもいいぞ、フォン」っ…キリト?!」
二人ならキリトに天命を多少分けても問題ないだろうと思い、俺は以前セルカが使った神聖術を使うためにキリトの手を掴もうとしたが、意識を取り戻したキリトの声に遮られた。ホッと一息を吐きながらも、俺は起き上がろうとするキリトに手を貸しながら声を掛けた。
「本当にもういいのか?傷だってまだ塞がってないんだぞ?」
「そうだよ!フォンの言う通りだ!それだけの傷…外からは見えないところだって、まだダメージが残ってる筈だよ!?」
「ゴブリンたちにやられた時に比べれば、まだマシだよ。それよりも、あいつ…ファナティオの方が心配だ」
「…分かった。立てるか?」
「ああ…いつつ…!」
こうなったキリトは説得しても無駄だと悟った俺はキリトに肩を貸し、立つのを手助ける。未だにユージオが心配そうにしているが、キリトがファナティオへと心配を向けると、眉を顰めていた。
「あいつは…あいつはお前を…僕たちを殺そうとしたんだよ?!なんでそんな奴の心配何てするのさ!?フォンも…どうしておかしいと思わないんだよ!」
「「…ユージオ」」
「憎しみじゃ勝てない…さっきキリトはそう言ったよね?確かにあの整合騎士は個人的な恨みとか憎しみとかそんな次元とかでは闘ってなかったと思う…でも僕は…
やっぱり教会と整合騎士を許せないよ!もの凄い強さだけじゃなくって、あんな志しを…人界に暮らす人たちを守る心を持っているのなら、どうしてその力をもっと……!」
その先は言わずとも分かった気がする…激しく心境を吐露するユージオにキリトと俺は口を開いた。
「あいつらだって…多分、あいつらなりの迷いの中にいるんだ。騎士長って奴に会えば、もう少しその辺の事情って奴も分かるだろう」
「それに…お前のその怒りも迷いも決して間違ってはいないと思う。けど、それを向ける相手を間違えちゃ駄目だ。剣を向ける時と同じだ…ただ憎しみをぶつければ、その憎しみはまた違った憎しみを生むだけだ。それだけは…いや、そうしないようするのは難しいだろうな」
そんなことを言っている内に脳裏に浮かんだのはデス・ガンやオーディナル・スケールで闘ったエイジ・カレット兄弟のことだった。俺たち自身の行為も誰かの憎しみを生み出しているのだ。
怒りは確かに闘うための原動力ではある…だが、それは誰かを傷つけてしまう引き金にもなりかねない。デュソルバートの一件がまだユージオに根強く残っているのならば、俺たちが支えてやるしかない。
「ユージオ、お前の完全武装支配術は凄かった。この戦いに勝てたのはお前のお陰だよ。俺とフォンだけじゃどうなってたか、分からなかったよ」
「そうだな…俺たちは勝ったんだ。だから、もうファナティオや四旋剣たちをお前が憎む必要はない…戦いは終わったんだ」
「……人間…うん、そうだね…闘っている時にそれだけは分かった。あの人は人間だった…だからあんなに強かったんだ」
「その通りだ。あの人たちは自分たちを絶対の善と言い、お前にとっては絶対の悪だったんだろうけどさ…俺たちもあいつも生身の人間なんだ」
「そんな善悪の区別なんて…多分誰にも決められないんだろうな。その人の中での信念があるのなら……尚更だろうな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そう言って、俺はキリトに肩を貸したまま、ファナティオの方へと向かった。それを聞いたユージオが、
(キリト、フォン…最高司祭アドミニストレータを前にしても、君たちはそう思えるのかい?)
そんなことを思っているとも露とも知らずに…
そして、倒れたまま動かないファナティオに近づいた時だった。キリトが気付いた。
「っ…!フォン、急いでくれ!」
「えっ…っ!?分かった!ユージオ、来てくれ!」
キリトが焦った理由が分かり、人手がいると思い、俺はユージオを呼んでファナティオへと近づいた。ファナティオの傷は…キリトよりももっと酷いものだった。
腹部にはぽっかりと大穴が貫通しており、そこから夥しい量の血が流れ続けていた。このままではマズイと思い、俺はキリトから肩を離し、神聖術を唱える。
「システムコール…ジェネレート・グリッター・ルミナス・エレメント!……駄目だ、血が止まらない!?」
「っ…ユージオも手伝ってくれ!!」
神聖術を行使し続けるが、傷が大きすぎて回復が間に合わないのだ。キリトとユージオも術を行使するが、血が止まる気配がない。
「無理だよ…出血がひど過ぎる!?」
「でも、この人は死んだら消えてしまうんだ!…100年以上も生きて、迷って、恋して、苦しんで……そんな魂を俺が消してしまうわけにはいかないんだ!!」
悲しそうに首を振るユージオにキリトは諦めず、声を張り上げる。
「聞こえるか!?誰でもいい!まだいるんだろう、整合騎士!!仲間を助けに来いよ!司祭でも、修道士でも…誰か来てくれよ!?……頼むよ…誰か見てるなら来てくれよ…!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「……そうだ、これなら…!」
キリトの叫びだけが無常にフロアに響き渡る。その声に答える者は誰もおらず、俺は思わず歯ぎしりしてしまう。そんな時だった…キリトが何かを思いついたようで…
「まさか…それは…!?」
「駄目だ、キリト!その短剣はアドミニストレータに使うための…!?」
「分かってるさ!でも、これを使えばこの人を助けられる…助ける手段があるのに、それを使わないなんてことは……俺にはできない!」
悲痛なキリトの言葉に俺もユージオもそれ以上何も言うことができず、覚悟を決めたキリトも短剣をファナティオの手へとゆっくり刺した。その瞬間、何重にも構成された術式が展開され、ファナティオの体を包む。そして、
『やれやれ…仕方ない奴じゃな』
「カーディナル…!?カーディナルなのか?」
『状況は把握した。ファナティオ・シンセシス・ツーの治療はこちらで引き受けよう。しかし、完全修復には時間がかかる故、身柄はこちらで引き取るぞ』
そんなカーディナルの声が聞こえたと思えば、ファナティオの体が宙に浮き、あっという間に消え…いや、おそらく安全な場所へと転移したのだろう。そして、代わりに3本の薬瓶が空から降ってきた。
『今の状況から判断して、現在アドミニストレータは非覚醒状態にある可能性が高い』
「非覚醒状態…?それって、眠っているってことか?」
『そうじゃ…奴の記憶領域が圧迫されていることは説明したじゃろう?あやつはわしに記憶を移すのを失敗して以降、できるだけ記憶領域を狭めぬよう、非常時以外寝て過ごしておる。あやつが目を覚ます前に最上階に辿りつけれれば、短剣なしでも排除することが可能かもしれぬ。急ぐのじゃ…カセドラルに残る整合騎士はそう多くはない』
そう言ったところでカーディナルの声は聞こえなくなってしまった。
「すまない、二人とも。取り乱して…それに貴重な短剣まで使ってしまって…」
「はぁ…気にすんな。お前の行動は間違ってないさ。それにまだ短剣はもう一本残ってるしな…俺の責任がとんでもないものになったけどな」
「まぁまぁ。僕もキリトのしたことは謝ることじゃないと思うよ」
「ありがとう…二人とも」
俺とユージオの言葉を聞き、少しキリトの表情も和らぐ。そのまま、キリトから手渡された薬を飲み干す。先程のファナティオの記憶開放術に特攻した時に負ったかすり傷までも瞬時に回復した。
「それにしても…アドミニストレータが寝ているってカーディナル様は言ってたけど…」
「カーディナルはアドミニストレータや整合騎士は何百年も生きている反動で、かなり無理をしているんだって言ってたな」
「記憶を圧迫するからずっと寝ているか…それじゃ、騎士たちへの指示は誰が出しているんだろうな?騎士長なのか、他の誰かなのか…それは昇って見ればおのずと分かるか」
いつまでもここにいるわけも行かず、キリトの提案に俺たちは『霊光の回廊』を抜け、次なる道へと進み始めた…のだが、
「何だ、あれ?」
キリトの言葉通り、俺たちの目の前には見たことのない景色が広がっていた。薄緑の筒が上空に真っ直ぐ伸びており、逆に今まで登ってきた階段がどこにもなかったのだ。どういうことかと俺たちが周囲を見渡していると、
「待て…何か降りてくるぞ?」
上空からかなりのスピードで降りてくる物体に気付き、俺は二人に警戒を促す。それぞれがいつでも剣を抜けるように身構えていたが、降りてきたのは…
「お待たせ致しました」
「「「…はい…?」」」
謎の物体に乗っていた女性にそんなことを言われて、思わず顔を見合わせてしまう俺たち。だが、そんな俺たちなど無視して女性は言葉を続ける。
「何階へのご利用でしょうか?」
「何階をって…もしかして、君が僕たちの上の階へと連れててくれるのかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「…ふぅ」」
ユージオの質問に何も答えない女性に俺とキリトもとりあえず警戒を解き、話を聞いてみることにした。
「俺たち…カセドラルに侵入した、いわゆるお尋ね者なんだけど…そのエレベー…じゃない、円盤に乗っけても問題はないの?」
「わたくしの仕事はこの昇降盤を動かすことだけでございます。それ以外に如何なる命令も受けておりません」
「いわゆるエ…ゴホン…案内嬢ってことか。それなら、お言葉に甘えて乗せさせてもらうか」
「ちょ、ちょっと…大丈夫なのか!?」
女性に完全に敵意がないと判断し、キリトと俺はエレ…昇降盤へと乗るが、ユージオはまだ警戒しているようだった。
「ここまで使ってきた階段がどこにも見当たらないんだ。これを使うしか方法はないだろう?」
「そりゃそうかもしれないけど…はぁ…」
「それじゃ…100階まで行けたりするかな?」
「無理でございます」
俺の言葉にため息を吐きながらも納得したユージオに昇降盤に乗った。一方、キリトが最上階まで行けるのか、女性に尋ねていたが、どうやらそう話は上手いこといかないらしい。
「なら、今行ける一番上の階まで行ってくれるかな?」
「かしこまりました。システム・コール…ジェネレート・エアリアル・エレメント…バースト・エレメント」
その神聖術が発動したと同時に昇降盤を包んでいる筒の入り口が閉まり、中央の制御装置らしき何かが起動した。そして、昇降盤は上昇を始めた。
「へぇ~…こういう仕組みになっているのか」
ゆっくりと上昇し続けていく昇降盤に揺られながら、俺たちはそれぞれの時間を過ごしていた。キリトは中央の制御装置に感心しながらずっとその動きを見続けていた。一方の俺はユージオと先程の戦闘での大剣に関することを話していた。
「それにしても、フォンの大剣は凄いね。ハンマーや鎌はまだ分かるけど、まさか空飛ぶ盾まで飛び出してくるとは…もう何が出ても驚かない気がするよ」
「人の武器をビックリ箱みたいに言うなよ…まぁ、俺もそう思ってる節があるから、否定できないけど」
「でも、正直な話少し怖くないかい?いくら色々な武器に変化できるとはいえ、その性質が全く分からないなんて…完全武装支配術のシステムコマンドも強力なのは分かるが、使い方がイマイチ分からないというか…
そういえば、あの大剣って、フォンはいつから持っていたんだい?」
「……それも分からないんだ。ルーリッドの村の森で目覚めた時にはもう既に持っていたからな。武装完全支配術をイメージした時も、俺が想像したというよりもこの大剣の方から記憶が流れ込んできたって感じだったからな」
ユージオにそう尋ねられ、俺は背負っている大剣を横目に首を横に振りながら答えた。この剣の出自や元となった記憶は分からないが、その性質は大まかには分かってきたのでまだマシというべきなのか。
「…そうだ…フォン。さっき、50階に着く前に言ってたよね?その大剣についてちょっとした考えがあるって…騎士たちとの闘いでほとんど自在に操っていたみたいだけど、その剣の性質を理解したってことなのかい?」
「あー、それのことか。デュソルバートと闘った後に思い付いたことなんだけど、この剣はその場その場の状況に合わせて変化しているじゃないかって俺は考えていたんだ」
ユージオが思い出した様にそう尋ねてきたので、俺は大剣の性質…武器が変化する理由について推測していたことを二人には話した…まぁ、その二人はどういうことだと言わんばかりに顔を見合わせていたので苦笑してしまったが。
「デュソルバートの時には、この剣は氷の槍である『天零』に変化した。だから、戦闘に入らないとこの剣は他の武器に姿を変えることができない…逆に言ってしまえば、その場に適した武器になら変われるって思ってさ。
まぁ、さっきの四旋剣との闘いではぶっつけ本番で試して確信したんだけどな。でも、やっぱり謎だよな…様々な武器に変化できるなんて…そんな伝承や逸話なんて聞いたことないよな?」
「…僕の知る限りじゃ全くだよ。特に最後に見たあの盾…あんなデザインは央都でも見たことがないよ。ましてや空飛ぶ盾なんて……信じられないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ユージオの疑問は至極真っ当のものだった。いや、おそらくさっきの盾…『霧霞』はこの世界…アンダーワールドには存在しないのだろう。それはこれまで呼び出してきた武器…『天零』、『頑駄鎚』、『絶』もおそらく同じなのだろう。
はっきりとした根拠があるわけではない…だが、どこか頭の中で理解してしまっている自分がいるのもまた事実だった。この大剣には必ず何かがある…それが様々な武器に変わることに関わっているのだろう。
「…アームズオーダー…」
「…えっ?」
ふと呟いたユージオの言葉に思考の海に入っていた俺は呆けた声が出てしまった。いきなり何のことだと俺が目を丸くしていると、ユージオが慌てて説明を始めた。
「えっ…あっ、ゴメンゴメン。大剣の様々な武器に変わる術…と言えばいいのかな?なんか名前があった方がいいんじゃないかと思ってさ。武装完全支配術とか記憶開放術も発動時に『エンハンス・アーマメント』とか『リリース・リコレクション』って式句を言うだろう?だから、式句から名前を付けれないかなと思ってさ」
「それでアームズオーダーか………そうだな。その名前を使わせてもらうよ。ありがとう、ユージオ」
アームズオーダー…武装変換術といったところか。そういえば、大剣の名前も未だに着けれてないんだよな…そんなことを思いながら、ふと大剣の状態を確認しようとステイシアの窓を開いた時だった。
「……?どういうことだ…?」
「どうしたんだい?」
「大剣の天命が……増えてる?」
「…えっ!?」
俺の言葉に信じられないといったユージオが窓を覗き込む。だが、その目が更に見開かれる。そして、俺の方を見て疑問の声を上げる。
「どうして…武装完全支配術を使うと天命を大きく消耗するんだろう?フォンは僕たちよりも多く使っている筈なのに…それなのに、この大剣は減るどころか、天命の最大値が増えているなんて……ありえないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんなユージオの言葉に俺も言葉を返すことができなかった。その時、頭をよぎったのはカーディナルの警告だった。
『あの大剣の記憶開放術は絶対に使うな』
(…今のところ、大剣の武装完全支配術も記憶開放術も使ってはないけど…これから先はそうもいかないだろうな。それにあの頭痛…反動も大きいがやっぱり使っていくしかないよな……じゃないと)
キリトも、ユージオも、守れない…そんな思いが俺の心に渦巻いていた。
「もうちょっとで最高階層に到着致します」
「そうか…君はどれぐらいこの天職に就いているんだ?」
ユージオと話を終えた俺はキリトの元へと合流していた。すると、案内嬢(俺の中でそう呼ぶことにした)がもう間もなく到着することを教えてくれた。その時、ほんの興味心で俺は彼女にそう尋ねていた。
「この天職を頂いてから、今年で107年になります」
「107年って…!?その間ずっとこの円盤を動かしているのかい?!」
「ずっと、ではありません。お昼には食事休憩を頂きますし、もちろん夜は休ませて頂いてます」
「いや、そういうことを言ってるわけじゃないんだが…」
ユージオの驚きの言葉に案内嬢は否定するも、俺はそこではないと引き攣りながら思わずツッコミを入れていた。隣のユージオもたじろいでしまっていた。すると、キリトが彼女へと話し掛けた。
「君…名前は?」
「名前は……忘れてしまいました」
「忘れたって……それは困らないのか?」
「皆様は私のことを昇降係と呼びますので」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(か、会話が続かね…!?)
質問に答えると、そのまま沈黙を貫く案内嬢に内心再びツッコミを入れていた。俺が何か話題を振るべきかどうか困っていると、ユージオが質問していた。
「あの…あのさ。僕たち、公理教会の偉い人を倒しに行くんだ。君にこの天職を授けた人をだよ?」
「そうですか」
「もし教会がなくなって、この天職から解放されたら君はどうするの?」
「…解放?」
ユージオの放ったその一言に彼女は反応した。
「私はこの昇降廊以外の世界を知りません。故に新たな天職と言われても決めかねますが……でも、してみたいことという意味では、あの青い空をこの昇降盤で自由に飛んでみたい」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
そんな彼女の望みに俺たちは言葉を失ってしまう。そして、昇降盤が振動し、その動きを止めた。
「お待たせしました。80階…『雲上庭園』でございます」
そう告げ、俺たちが降りたことを確認すると、彼女は再び昇降機で下へと降りていった。彼女にお礼も兼ねて手を振って見送っていると、ユージオがぼそりと言葉を漏らした。
「彼女に比べれば…僕はまだ恵まれていたのかもしれない」
「…ユージオ」「……………」
「僕の前の天職も終わりが見えないことに関しては世界で一番だと思っていたけど、歳を取ったら引退できるだけ恵まれていたんだね……あの娘の天職に比べれば」
「天命の自然減少を術式で凍結したとしても、魂の老化は防げないってカーディナルは言ってたよ。記憶が少しずつ犯されていって、最後には崩壊してしまうって」
「確かに公理教会がしていることは間違っている…でも、本当はこの世界の仕組み自体が間違っているのかもしれないな」
そんな俺の言葉にユージオだけでなく、キリトまでもが驚きの視線を向けていた。俺はその先を話し続けた。
「みんなが天職は与えられるもの、決められたものだってこの世界じゃ思ってる。確かにそれは正しいことなのかもしれない…誰にでも仕事や役目を与えられているってことだからな。
でも……それは考えない人間を作り出してしまっているのかもしれない。誰にだって天職を選ぶ権利はあって然るべきなんだ。なのに…それを奴らは…」
「…奴ら…?」
「あっ…えっと…!?」
この世界の根幹を作り出したラース…フラクトライトたちの権利を全く考えていない菊岡たちへの怒りが再燃し、思わず漏れた言葉にユージオが反応してしまう。そこで失言に気付いた俺はどう答えるべきかと困っていると、
「その先のことをどうするかってことだろう、フォン?」
「…その先…?」
「ああ。俺たちはアドミニストレータを倒すためにここまで来た。でも…でもな、ユージオ。多分アドミニストレータを倒したら終わりってわけじゃないんだよ…きっと。本当の難題…対峙しないといけない者たちがいるんだよ。フォンはそのことを言っているんだよ」
「えっ…?でも、アドミニストレータを倒せば、カーディナルさんに任せればいいんじゃないの?」
「…それで終わりなのは本当に小説やゲームの……いや、この先は全ての目的を果たしてからにしよう。まずはアリスを助けてからだ」
「……そうだな」
「フォン…?キリト…?」
俺たちの言動に違和感を覚えたのか、首を捻るユージオの視線を敢えて無視し、俺とキリトは先へと進む。その先に見えていた扉へと手を近づける。
「…悪い、キリト。助かった」
「いや、気にするな…ユージオに話すのか?」
「……アリスを助けて、ユージオの目的が達成できたら……話していいと俺は思う。これ以上隠しておくのも…難しいとも思うしな」
「分かった」
俺の返事にキリトもそう短く答え、俺とキリトは扉を開ける。かなり重たい扉だったが、ユージオも遅れて手伝ってくれたお陰でようやく扉が開き始めた。そして、扉の先に広がっていた景色は…
「……おいおいおい。ここは本当に建物の中なのか?」
思わずそんな感想が俺の口から洩れていた。上を見上げれば屋根があることから屋内であることは明確だったが、それ以外の景色が異常過ぎた。
80階『雲上庭園』はその名の通り、緑溢れる空間が広がっていたからだ。まるで箱庭のように木々が生い茂り、小さな川が静かに音を立てながら流れていた。奥に向かって緩やかな傾斜で構成された丘…その頂上に大きな一本の木…おそらく金木犀の木なのだろう…がそびえたっていた。
「…これは…」
「本当にここがカセドラルの中なのかと錯覚しそうだな」
「ああ…気のせいか、風が流れているような気さえもしてきたな」
周りを見渡し驚くユージオとキリトの感想に頷きながら、俺も周囲を見渡す。今のところ、整合騎士が待ち伏せしているような気配はなかった。
ともかく、ここでじっとしていてもしょうがないので、俺たちは『雲上庭園』を進み始めた。一本の小道はどうやら金木犀の木へと続いているようで、俺たちは小道を進み、丘の頂上を目指す。
そして、金木犀の木の近くまで来た時、ユージオが気付いた。
「あっ……ああぁ…!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「………アリス」
胸元を押さえ、こみ上げてくる感情をなんとか抑え込もうとするユージオの姿に俺たちもアリスへと視線を向ける。
アリスは木の傍に正座したまま、瞑想しているようだった。俺たちに気付いているのかと思っていると、右手でこちらを制止したかと思えば、
「もう少しだけ待ってください…せっかくの良い天気だから、この子にたっぷり日を浴びさせてあげたいのです」
(…この子?……もしかして、金木犀のことか?)
アリスの視線を辿り、この子というのが金木犀の木であることかと俺が頭を傾げている時だった。
「それじゃ、あたしが君たちの話し相手にでもなってあげようか!」
「「「っ!?」」」
アリスとは別の女性の声が聞こえ、俺たちは思わず身構える。その声の主は金木犀の木の背後にいたらしく、俺たちの前へと姿を現した。
「…イーディス殿。咎人に話す必要などないと思いますが」
「もう…!アリスは相変わらず真面目だね。いいじゃない…丁度退屈してた時だったからさ。それに…禁忌目録を破った人界人がどういった人なのか知りたかったしね」
イーディスと呼ばれた騎士はどこか気さくなキャラのように感じられた…それが彼女の第一印象だった。俺たちに向けている闘気を全く隠そうとしない点を除けばだが…
「それで…まさかファナティオまで倒しちゃうなんてね。貴方たち強いんだね!」
「ど、どうも」
「でも、残念ながらこの先を通すわけにはいかなんだよね…あたしも整合騎士の端くれだからね。あたしの名はイーディス・シンセシス・テン…普段は東方警護の任に就いているだけど、たまたまセントラルに帰ってきたら、まさかの脱獄騒ぎでしょう?」
「は、はぁ…」
「やっとお風呂に入れると思って期待してたのに…!どうしてくれるのよ!?」
「す、すみません…?」
……えっと、敵なんだよな?
途中から愚痴になってしまっているイーディスの言葉に俺、キリト、ユージオは困惑してしまう。今まで会ってきた整合騎士の中でもかなり特殊なタイプな気がする。そんなやりとりをしていると…
「ふぅ…お待たせしました、イーディス殿」
「あれ、もういいの、アリス?」
「ええ……私も自身の使命を果たさなければなりませんから」
どうやらアリスの気も済んだらしく、ゆっくりと立ち上がりながら彼女はイーディスと合流した。残念ながら、この場もそう易々とは通してくれないようだ。
「まさかとは思っていましたが、ここまで登ってくるとは思ってもみませんでした。万が一、地下牢から逃げ出したとしても、エルドリエ一人で対処できると私は判断していました。しかし、まともな武器もない筈なのに貴方たちはエルドリエを倒し、幾多の整合騎士たちをも切り伏せて、この雲上庭園の土を踏んだ」
「常人ならとてもじゃないけどありえない話だよ。どうして、そこまでしてカセドラルの最上階…最高司祭様の元へと向かおうとするのかな?」
「それを言ったら、あんたたちはここを通してくれるのか?」
「…残念ながらそれはあり得ないわね」
問いかけてきたイーディスに逆に問いかけ直してみたが、俺の質問に対する彼女の答えは予想通りノーであった。会話しながら、俺たちは少しずつアリスたちとの距離を詰めていく。
「貴方たちは分かっているのですか…今の自分たちの行動が人界の平穏を脅かそうとしているのだと…そんな禁忌を犯してまで一体何をしようとしているのですか?」
「そんなの決まってる…最高司祭が、教会が行っている過ちを正すために…そして、」
「友の救いたい人を助けるために、例え悪行だと非難されようと俺たちはここまで来たんだ」
「…キリト…フォン…!」
アリスの問いかけに前へ出ながらそう答えるキリトと俺。一方のアリスとイーディスは微動だにせず、俺たちへと警戒を一層強めていた。
「教会が悪…そんなあり得ない理由だけで、エルドリエだけでなくデュソルバート殿やファナティオ殿を倒したというのですか…咎人という領域を遥かに超えた罪を重ねたのですか?」
「あんたたちにとっては教会や最高司祭が絶対正義なのかもしれないが……それで泣いている人が、悲しみを生んでしまうというのなら、俺は…俺たちは教会を否定する!そのためなら、あんたたちとも戦う。そして、倒す!」
「…倒す、か。甘く見られたもんだね。ねぇ、アリス?」
「そうですね。これ以上、口で何を言っても無駄のようですし…ここで貴方たちの天命を断ち、その蛮行を終わりにしてあげましょう」
俺の言葉がツボに入ったのか、微笑みながらそうアリスに尋ねるイーディス。そして、その言葉に応えるようにアリスが右手を金木犀の木に当てた瞬間だった。木は黄金の光を放ち、アリスの右手に剣として顕在した。
「…まさか…その木が剣だったとはな」
「武器がないからって、飛び出してたらとんでもない目に逢ってたな」
おそらく記憶開放術の状態だったのだろう。アリスの言っていた『あの子』というのは、彼女の剣の元となった金木犀の木のことを指していたのだろう。剣を持っていないからと奇襲を仕掛けなくてよかったとキリトが横で安堵していた。
「僭越ながらお聞きしたい。先程の木が整合騎士アリス殿の神器の元となったものだったのか?」
「…いいでしょう。冥土への手土産として、教えましょう。この神器の元となった木…セントラル・カセドラルが立つこの場所は、遥かなる古の時代、創生神ステイシアによって人間に与えられた始まりの地でした」
俺の問いに剣を構えながらも答えるアリス。始まりの地というのは、カーディナルの話の中にも出てきた土地のことなのだろう。
「小さな村の中央には美しい水が涌き、岸辺には一本の金木犀の木が生えていたそうです。その木こそが我が神器…『金木犀の剣』の原型。神の創りたもうた木の転生した姿…人界の神羅万象の中で最も古き存在なのです。そして、その属性は永劫不朽…舞い散る花弁の一枚ですら、触れた石壁を割り、地を穿つのです」
「…なるほどな。創生神様が最初に作った破壊不能オブジェクトってわけか。それで…隣のあんたはどんな神器を使うんだ?」
「アハハ!真っ直ぐに聞いてくれるね、君!でも、残念…あたしはアリスみたいに正直には答えてあげないんだな、これが」
残念ながら、イーディスは教えてくれなかった。アリスが真面目過ぎるというのか、イーディスが曲者なのか…おそらく両方なのだろう。勝手な偏見ではあるが、生真面目なアリスにイーディスのフレンドリーさは意外に合っているような気がした。
「さぁ、剣を構えなさい、咎人たち」
「1人ずつでも、3人同時でも構わないわ。どっちにしても負ける気は全然しないけどね」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
その言葉に俺とキリトはアイコンタクトし、一歩前へと出る。それに合わせてユージオも剣を抜こうとするが、
「ここは任せろ、ユージオ」
「キ、キリト!?」
それを制するように手で合図したキリトの行動にユージオから驚きの声が上がる。だが、俺もユージオの方を向き、その理由を話す。
「お前はアリスと闘うべきじゃない…いや、闘えないだろう。そういう役目は俺たちに任せておけって」
「………ゴメン、二人とも」
「気にすんなって。すぐに倍にして返してもらうからな。いつでもアリスにカーディナルからもらった短剣を刺せるように準備しておけ」
「分かった」
ユージオに闘わせるわけにはいかない…アリスはともかく、イーディスと闘ったとしても、今の集中力を欠いた状態ではあまりにも闘えるメンタルではないと思ってのことだ。
俺とキリトは互いに剣を抜き、アリスとイーディスに対峙する。
「…さて、ユージオにはああ言ったが、どうしたもんか…」
「キリト、完全武装支配術はあと何回使える?」
「……一回がやっとだ。本音を言うのなら、その一回は温存しときたいところだな。まだこの先には騎士長って奴も控えているだろうしな」
「分かった。なら、お前はアリスの方を頼む。なんとか隙を作ることさえできれば、ユージオの短剣でなんとかなるだろう。俺の大剣はまだまだ術を使えるから、もう一人の騎士を抑える」
「頼んだぜ、相棒」
アリスの相手をキリトに任せ、俺はイーディスの方へと対峙する。闘う相手が来たことで
イーディスの方から声を掛けてきた。
「へぇ~…君が私の相手か」
「もしかして、キリトの方が良かったですか?」
「まさか…斬る相手に良しも悪くもないわよ。それに…私やアリスに勝つつもりでいるんだから、そんな相手と闘えるなんて…面白いじゃない!」
「そりゃどうも…!」
大剣を構えながら、俺は戦闘態勢に入るために半身に身構える。イーディスも神器…黒い刀身の刀らしき武器を抜いた。
「修剣士キリト!」
「同じく、修剣士フォン!」
「整合騎士アリス殿、そして、イーディス殿に尋常なる剣の立ち合いを所望する!」
「いいでしょう。お前たちの邪心がいか程のものか、その剣筋で試すことにしましょう」
「今さら謝ってももう遅いわよ。覚悟することね!」
その言葉を皮切りに、キリトとアリス、俺とイーディスは剣をぶつけ合った。
「っ…!?」「へぇ~!」
大剣と刀がぶつかり、火花が目の前で散る。だが、俺もイーディスも互いに一歩も引くことなく、鍔競りのまま密着する。
「流石はファナティオを破ってきたことだけのことはあるわね!整合騎士相手に互角に剣をぶつけるなんて、ね!」
「くっ!それはどうも!」
軽口を叩く余裕が彼女にはあるようで、言葉の途中でバランスを崩され、一気に連撃を繰り出してくる。武器の性質の都合上、あちらのほうが小回りが利く分、俺は後手に回っていた。刀から繰り出される高速連撃に俺は大剣を盾に、時には身を躱し、その連撃を裁いていく。
時折隙を見て、反撃するもイーディスの戦闘スタイルは俺たちに酷似しており、どうしても大振りになってしまう大剣の一撃は悉く躱されてしまう。
このままでは埒が明かないと思い、俺はイーディスの放った水平斬りをわざと大剣で受け止め、吹き飛ばされることで大きく距離を取った。俺の目的はアリスをキリトたちがなんとかするまでの時間稼ぎだが、倒してしまっても問題はないのだ。
あっちが武装完全支配術を使う前に一気に制圧する…そのために俺は切り札を使うことを躊躇しなかった。意識を集中さえ、武装変換術を発動させる。
「何を……うそぉ…武器が変わった!?」
俺の行動に疑問を持ったイーディスの言葉が驚愕のものに変わった。俺の大剣が光を放ち、その姿を弓…縁勇弓『神繋』へと姿を変えた。そのまま同時に背中に装備された矢筒から矢を抜き、イーディスへと放つ!
「っ!?きゃぁぁ!?」
いきなりの攻撃に反応し、咄嗟に飛ぶことで回避したイーディスだったが、着弾した矢はその瞬間、突風を起こしイーディスを吹き飛ばす。
「くっ…まさか違う武器を使うなんて…ちょっと反則じゃないの!?」
「反則って…整合騎士相手に手加減も反則もないでしょうが!」
まさかの抗議にツッコミを入れながらも、俺は二発目を放つ。だが、俺の矢の性質を理解したのか、矢の軌道を完全に見切り、風の余波さえも計算したイーディスは矢を回避する。
次々と矢を放つが、突風さえも見切ったイーディスに矢が当たらない!
舌打ちしながら、まだかと思い、キリトとアリスの方へと視線を向けるが…どうやら向こうの状況はもっと酷かったようだ。
キリトの放った片手剣4連撃ソードスキル〈バーチカル・スクエア〉がアリスの剣による一撃で初撃から無効化されている光景が目に入ったからだ。連撃ソードスキルが初めて通用しないという事実に驚愕するキリトに、アリスは容赦なく追撃を加えていく。
「勝負の途中に余所見なんて余裕、だね!!」
「っ…くそっ!?」
刀の間合いに入られてしまい、イーディスの斬撃を俺は飛んで躱す。だが、距離をすぐに詰められてしまい、再びイーディスは連撃を放つ体制に入った。その連撃が繰り出される前に、俺は自身の足元へと飛びながら矢を放った。
「ぐっ…!?」「なぁ…そんな!?」
突風に乗り、更に予測していなかったイーディスを吹き飛ばし、距離を取ることに成功した俺は矢筒から同時に3本の矢を弓につがえる。残りの矢は8本…無駄遣いはできない。
「これなら…どうだ!」
「おっとっと!まだまだ!」
3本同時に放った矢さえも軌道を見切られてしまう。だが、流石のイーディスも3本同時に矢を躱すのが精一杯らしく、こちらに近づく余裕はないようだ。俺が再び3本矢を構えると、警戒を厳にしていた。
「まさか3本同時に撃ってくるなんて…デュソルバートじゃないんだから、勘弁してよね。というか、貴方闘う気あるの?さっきからちょこまかとしか攻撃してこないし…まるで時間をかせ……まさか!?」
「っ…(気付かれた!?)」
俺の行動に違和感を感じていたイーディスはどうやら気付いてしまったようだった。俺は先程から横目に戦況を見守っていたキリトとアリス…いや、ユージオの行動を邪魔させまいと詠唱を始める。
「もう一人の奴…アリスを!?」
「ユージオの邪魔はさせない!エンハンス・アーマメント!!!」
アリスの猛攻にキリトが壁側へと追い詰められていく中、青薔薇の剣の完全武装支配術を発動させるために二人に近づくユージオ。それに気付いたイーディスが駆け寄ろうとするが、俺は『神繋』の完全武装支配術を発動させる。
弓の装飾である三つの緑・青・赤の宝石が輝きを放ち、弓に新たな属性を付与させる。そして、駆けながら俺は矢をつがえ、ジャンプと共に放つ。
「っ!?熱…!?」
先程の風を纏った矢と違い、一段とスピードを増した炎の矢がイーディスの進路を妨害するように通過する。その軌道に高熱を残し、イーディスの動きを鈍らせる。だが、俺は追撃の手を止めない。
「次は…こいつだ!」
属性を切り替え、氷の矢を3連射する。わざと狙いを外し、イーディスの周囲に着弾した矢は瞬間に背丈ほどの氷を生成する。その氷に触れた草木が凍ってしまったことから、危険を察知したイーディスはその場から慌てて飛びのく。
「お前…よくも邪魔を!?アリス、避けて!?」
目の前で進路を妨害する俺に憎悪の目を向けるイーディスがアリスへと警告の声を飛ばすが、もう既にユージオは射程距離へと入っていた。そして、その声は壁際へとキリトを追い詰めていたアリスへと届くには遠すぎた。
「私と剣を撃ち合い、ここまで耐えたのは貴方で二人目です。それなりの覚悟と信念を持って塔を昇ってきたのでしょうが、しかし、教会を揺るがすにはまるで足りません。
やはりお前たちに人界の平穏を乱させるわけにはいかない。では…覚悟を!!」
「っ!そこだ!!」
「…!?」
キリトに止めを刺そうとするアリスの一撃を、キリトは黒剣でギリギリで受け流した。まさかの行動に一瞬虚を突かれたアリスの隙を突き、剣を捨てたキリトがアリスの腕を掴み、拘束する。
「今だ!俺ごとやれ、ユージオ!?」
「っ!?」「アリス!?」
「ゴメン、キリト…エンハンス・アーマメント!!!」
キリトの叫びに応えるようにユージオが青薔薇の剣の武装完全支配術を発動させる。その瞬間、永久凍土の氷がキリトとアリスを氷漬けにしてしまった。イーディスが悲痛な悲鳴を上げるが、もう既に遅かった。
(よし…このままユージオがアリスに短剣を刺せば、3対1…そうなれば、武装完全支配術を使わなくても)
「……甘いわね」
「っ…何…?」
イーディスがユージオたちの元へと行かぬよう、矢をつがえながら牽制しつつ、戦況を予測していた俺にイーディスの意味深な言葉が耳に入った。どういうことかと思っていると、
「何のつもりか知らないけど、アリスの金木犀の剣を舐め過ぎよ。あの剣だけを凍らせずに露出させるなんて……意味がないわよ?」
「……まさか!?」
イーディスの言葉から俺はまさかの可能性に至り、慌ててユージオたちの方へと視線を向けた。そこには、
「なかなかの座興でしたが、たかが氷で私の動きを封じたところで、私の花を止めなければ何の意味もありません」
(…嘘だろう?青薔薇の剣の氷を砕いたのか!?流石は最初に創られた破壊不能オブジェクトといったところか!?)
まさかの武装完全支配術が無効化されてしまい、ユージオも動揺してしまっているようだった。流石の俺もまさかの光景に一瞬動揺してしまった。もちろん、そんな隙を見逃してくれるわけもなく、
「よそ見厳禁よ!!」
「っ…ぬぅぅ!?」
振り下ろされた刀を慌てて弓で受け止める。完全には受け止め切れず、弓に刀が食い込んだ。そのまま、再び鍔競り合いになり、イーディスが声を掛けてきた。
「残念だったわね?お仲間の作戦は失敗に終わったみたいよ…助けに行きたいでしょうけど、あたしは逃がさないわ」
「…助け?まさか……悪いけど、あの黒剣を使ってる剣士はしつこいぞ?本当に諦めが悪いからな…俺もだけどな!!」
「どういう「エンハンス・アーマメント!!!」なぁ!?」
イーディスの言葉を遮ったのは、キリトの完全武装支配術の式句だった。横目に向こうの戦況を見ると、アリスの隙を突いたキリトが黒剣の武装完全支配術を発動していた。そのまま切っ先をアリスの剣へと向けて放つ。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「くっ…!?(剣を狙って…!?)」
「ユージオォォォ!!!」
キリトの一撃が完全武装支配術状態だったアリスの剣を弾き、大きく体制を崩した。その隙にキリトがユージオへと叫んだ。今度こそアリスへと短剣を刺そうと、ユージオもアリスへと駆け寄る。
「アリス!?」
「行かせないって言ってるだろう!?」
救助に向かおうとするイーディスの刀を弓と矢で逆に抑え込み、俺は彼女を動けなくする。全力で抵抗するイーディスの体を抑え、俺はなんとか踏ん張る。このままならいける…俺がそう確信し、キリトたちを見持っている時だった。
それは起こった…起こってしまった。
キリトとアリスの武装完全支配術がぶつかった余波があまりにも大きすぎたらしい…セントラルの壁がひび割れたと思った瞬間、外壁が崩壊したのだ。そして、外部の空気がいきなり入ったことで気圧が乱れ、
「キリトォォォォォォ!?」
俺は思わず叫んでいた…だが、その叫びは無駄だった。
急激な気圧の変化により起きた突風でキリトとアリスが外壁の外へと吹き飛ばされたのだ。そのまさかの光景に俺は…目を見張ってしまう。それは対峙していたイーディスも同様で、その光景を目にした彼女もかなり動揺していた。
「キ、キリト…?アリス…?ああぁ……あああああぁぁぁぁぁ!?!?!?キリトォ!?アリスーーーーーーーーー!?」
ユージオの慟哭だけが雲上庭園に響き渡った。
●オリジナル武器解説
縁勇弓『神繋』
風を模した水色の意匠が入った黄色をベースカラーの弓。中央部には緑・赤・青の属性石が組み込まれている。耐久度もそれなりにあるが、武器を何度も受け止めれるわけではない。矢に強力な風を纏わせることができる。
幾度も世界の危機を救ってきたとされる勇者が使っていたとされている弓。危機によって、活躍した勇者は違う人物だったが、それらに共通した特徴として緑の衣装にとんがり耳が共通していたという。この弓は普通の矢だけでなく、神々の遣いである巫女の力が分けられた神石により、様々な属性の矢を放ち、時には魔王さえも退ける光の矢を放ったと言われている。
武装完全支配術は風だけでなく、火・氷の矢も放てるようになる属性の全開放。記憶開放術ではあらゆる邪を祓う『光の矢』を放てるが、弓本本体への負荷が余りにも大きく、一度使えば大剣へと戻ってしまう。
モチーフは『ゼルダの伝説』から『勇者の弓』に『時のオカリナ』で登場した3つの秘石と『トワイライトプリンセス』の『疾風のブーメラン』の要素を組み合わせたもの。
というわけ、原作通りキリトとアリスは外へと放り出されてしまいました。
次回はイーディス戦後半となります。キリトたちの描写はほとんどカットになりますので、キリトたちがどういった感じなのかはアニメをご覧下さい!
そして、次回はフォンもピンチに陥ります。決着は次回で着けますのでご期待頂ければと思います。
インターバルでフォンとユージオが大剣について、踏み込んだ話をしていましたね。この時点でフォンは大剣について少しだけ察しをつけています…しかし、ほとんどが間違った解釈をしているので反動はまだまだ受けます。
そして、武装変換術…アームズオーダーの名付け主はなんとユージオでした。まぁ、原作でも夜空の剣の名付け主でしたし、ユージオならいいかなと思ったのでこうなりました。
紅い彗星さん
ご評価ありがとうございました!
感想やご質問もどんどん頂ければありがたいので、
遠慮のないご意見お待ちしております!
それでは!
カーディナルは生存させるべきでしょうか?(どちらでも前半の結末は変わりません。後半以降の物語に大きく影響します)
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生存ルート
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死亡ルート