ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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イーディス戦後半です。

防御不能の攻撃をフォンはどう攻略するのでしょうか。
大剣の力の一端も開放されます!

それではどうぞ!

追記 前話がところどころ描写が抜けてたり、イーディスの一人称がごちゃ混ぜになってたりしてました。後日修正致します…申し訳ありません!


第35話 「深闇影の騎士」

「キリトォ!?アリスーーーーーーーーー!?」

 

慟哭と共に壁へと駆け寄るユージオだったが、崩壊した壁はあっという間に自動で修復されてしまい、キリトとアリスを飲み込んだ大穴は綺麗になくなってしまっていた。

 

イーディスと闘っている場合じゃない…彼女も突然のことに戦意を無くしてしまっているようで、俺は彼女の拘束を解き、ユージオの元へと急ぎ向かった。

 

「キリト!?アリス!?」

「落ち着け、ユージオ!?」

「フ、フォン…!キリトが…キリトとアリスが!?」

「分かってる…でも、今は落ち着け!!」

「っ…ゴメン」

 

壁を叩き続けるユージオを落ち着かせながらも、俺もなんとか冷静になろうと頭を回していた。あのキリトがそう簡単に諦めるとは思えない…だが、セントラル・カセドラルの構造を思い出すと、外から入るルートはこれまで来た道には存在しなかった筈だ。

 

もし仮に外の壁に引っ掛かったとしても、整合騎士のアリスと一緒だという状況はかなりマズイ。だが、何とかして内側から外壁を覗ける場所へ行かないと、二人の安否の確認も取れないってことか…!?

 

思考をなんとか回そうとするも、とんでもない殺気が俺たちを襲った。その殺気に俺の思考は停止され、その主へと視線を向けると、

 

「よくも…よくもアリスを……あたしの妹を!?貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「っ!?」

「危ない、ユージオ!?」

 

憎悪の声を上げ、先程までの軽い気配はどこに消えてしまったのか…恐るべきスピードで急接近したイーディスの凶刃からユージオを守るべく、俺は弓から大剣へと武器を戻し、慌ててその一撃を受け止めた。

 

「お前たちは…あたしの妹を……アリスをよくも!?」

「ぐぅぅぅ…!?先に行け、ユージオ!」

「えっ!?」

「こいつの相手は俺が引き受ける!お前は先に行くんだ!」

「で、でも…フォンを置いてなんて…!」

「俺はいいから!上に行って、キリトたちの安否を確認しろ!」

「っ…!?」

 

先程とは比べ物にならないイーディスの剣圧に押されながらも、俺は大剣に力を込め、その場で踏ん張りながらユージオに怒鳴る。

 

「あのキリトがそう簡単に諦める筈がない!必ずなんとかして中に戻ってくる筈だ!この上階に確か吹き抜けになっている階層があった筈だ。そこからなら外部からも入って来れる!そこに行って、上からキリトたちを助けろ!」

「……フォン」

「早く行け!俺もすぐに追いつくから!」

「………分かった。気を付けて!」

 

飛竜で連行された際に見たカセドラルの外部から吹き抜けになっている上階の存在を思い出した俺はユージオへとそう告げる。その言葉に従い、ユージオは上階へと続く階段へと駆け出した。

 

「逃がさない!お前もここで殺してる!」

「お前の相手は…俺だ!!」

 

走るユージオを逃がさまいと殺気を向けるイーディスだが、俺は鍔競りからイーディスを逃すことなく巧みに武器を動かす。そして、無事にユージオが雲上庭園を抜けたことを確認し、俺はイーディスと距離を取った。

 

「さぁ、あんたには悪いが俺に付き合ってもらうぜ?

整合騎士イーディス殿?」

「…許さない…アリスを…またあたしから妹を奪って……」

「…妹…?何を……」

「いつもそうだ!お前たちはあたしから大切なものを奪っていく!今度はアリスを…あたしはアリスを奪ったお前たちを許さない!その罪だけは、あたしの命を賭してでも償わせてやる!!」

 

憎悪と怒りに捕らわれたイーディスの言葉に困惑するも、おそらく怒りのせいで彼女の整合騎士となる前の記憶が出ているのではないかと俺は思った。だが、今の彼女に何を言ってもおそらく無駄なのだろう。

 

ましてや俺はアリスを外壁と吹き飛ばしてしまった仲間の一人…そんな奴の言葉に耳を貸すわけがないだろう。キリトがアリスも助けていると信じたいが、それを今すぐ証明することも不可能だ。

 

ならば、彼女を倒すしか道はないのだろう。俺は大剣を再び構えて戦闘態勢を取る。だが、イーディスが取った行動は俺とは違った。

 

「闇斬剣よ…その身に深き影を纏え……エンハンス・アーマメント!!!」

 

式句と共に武装完全支配術が発動し、黒き刀身が更なる闇を纏った。だが、イーディスの刀は全く変化することがなく、何の効果が発動したのか全く分からない状態だった。その状態に俺は警戒を更に深める。

 

「行くわよ!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「っ…(何だ?ただ攻撃したきただけ…?ともかくガードを…!?)」

 

気合と共に切り掛かってきたイーディスの刀を受け止めようと、俺は大剣を頭を庇うように身構える。そして、イーディスの刀を受け止めようとして、信じられないものを見た。

 

「なぁ…(刀がすり抜けて…!?)」

 

そう思った瞬間には、俺の眼前に刀が振り下ろされようとしていた。そして、

 

「……ぐぅぅ…ああぁ…!?」

「へぇ…よく避けたわね」

 

咄嗟に頭を後ろへとずらすことで致命傷を躱すも、胸元を切り裂かれてしまい、胸から結構な量の血が流れ始める。何が起こったのかと思いながら、傷口を抑える。確実に仕留めたと思っていたイーディスが感心していたが、先程と殺気は変わりない状態だった。

 

今、刀が大剣をすり抜けた…そんなあり得ないことが俺の眼前で起きたのだ。その現象が彼女の…闇斬剣の武装完全支配術だと理解した時、イーディスが語り始めた。

 

「あたしの剣…闇斬剣はソルスの光が一切届かない湖底の岩から生まれた。この剣の記憶は闇と影…影を捉えることは誰にもできない。そして、その影を映した刀身は何者も防ぐことができないのよ」

「解説どうも…なるほどな。あらゆる防御や防具を透過するってわけか…さっき人のことを反則とか言っておいて、あんたの神器も十分反則だろうが」

「アリスを殺した罪人にとやかく言われる筋合いはないわ…その天命が尽きるまで切り刻んであげるわ!」

 

完全に先程の明るい雰囲気はもう彼女の中には残っていないようだった。俺の冗談さえも全く受け付けないイーディスに俺は対抗策を練る。

 

近距離はこっちが圧倒的に不利…おそらく透過能力が発動するのはイーディスの攻撃時のみ。こっちが攻撃した時には防御され、そのまま防御不可のカウンターを受けるのは目に見えていた。つまり、こっちが取る戦法は一つ…

 

(遠距離からの攻撃…弓やハンマーでの武装完全支配術で攻撃を…!)

 

そう思い、俺は大剣へと意識を集中させる。武装換装術を発動させ、大剣を新たなら弓へと変換させようとする。そして、大剣を変化させようと、

 

(…なっ…そんな。武装変換術が…発動しない!?)

 

武装換装術を発動する際の不思議な感覚が感じられず、俺は困惑する。先程までは使えていた筈の術が発動しないのだ。なんとか意識を集中させるも、大剣が弓やハンマーに変わる気配が起こらない。

 

「何をしているのかしら…さっさとその首を差し出しなさい!」

「っ…くそぉ!?」

 

イーディスがそんな事情を待ってくれる訳もなく、一段とスピードを増した連撃を俺が襲う。今は防御に徹することしかできない…だが、防御といってもこっちは剣で防ぐことができないのだ。相手がド素人ならともかく、整合騎士である彼女の攻撃を何度も躱すことなどできるわけもなく、

 

「ううぅ!?ぐくぅ……!?」

 

距離を離すこともできず、次々と体に切り傷ができていく。このままじゃマズイとは分かっているが、状況を打破しようにも思考する時間さえもイーディスは与えてくれない。

 

「さぁ、そろそろ終わりにしてあげるわ!」

「っ……まだだ!?」

 

その声と共に刀を大きく振るおうとしたイーディスの一瞬の隙を突き、俺は素早く複合型単発ソードスキル〈クラッシュホール〉を地面に放つ!放つと同時に技の反動で一気に後方に下がるだけでなく、衝撃によって少しだけイーディスの動きを止めることができた。

 

この間になにか対策を立てなければと、俺は更に後退しようとするが、そうは問屋が降りなかった。素早く体制を立て直したイーディスは刀を持っていない左手を構えたと思うと、

 

「システムコール!フォーム・エレメント・アローシェイプ・ディスチャージ!」

「っ…嘘だろ!?うぉぉ!?」

 

まさかの神聖術での遠距離攻撃に俺は慌てて横飛びで放たれた炎の槍を躱す。これでは距離を取ったといっても全く安心ができない。

 

「整合騎士が武装完全支配術だけしか使わないと舐めてもらっては困るわね。貴方がどんなに距離を取ろうとも私は術で撃ち抜き、接近すればこの影の刃でその身を切り裂く…何があってもね」

「…(近距離も遠距離も隙なし…マズイ…完全に追い詰められつつある!?くそ…せめて、武装変換術が使えればなんとかなるのに………駄目だ!?槍や盾にも変えられない…まさか…一回使った武器には変化できないのか!?)」

 

次々と放たれる神聖術をなんとか躱しながら、イーディスが時一刻と距離を詰めつつある現状の中、再び武装変換術を発動させようと試みるが、槍にも盾にも変化させることができず、俺はまさかの可能性に冷や汗を流していた。

 

今思えば、デュソルバートやファナティオたちとの闘いから全然時間が経っていないのだ。一定のインターバルが必要なのか、ほぼ永久的に同じ武器に変化できないのかは分からないが、この状況を打破するにも他の武器カテゴリーでないといけないということだけは明白な事実だった。

 

「現れなさい…影ノ傀儡」

「っ……しまっ…!?」

 

回避と思考に専念しきっていたせいで俺はイーディスの技に気付くのが遅れてしまった。彼女の神器が影であることをすっかり失念していた。その言葉が聞こえ、背後に気配を気付いた時には既に遅かった。

 

俺の影から突如現れたもう一人のイーディスが俺に向かってその凶刃を振り下ろして…

 

ポタ…ポタ…ポタ…

「くぅ……うううぅ!」

「まさか、今の一撃を凌ぐなんてね。でも、その左腕はもう使えないよね?」

 

咄嗟に左腕を盾にするように体を動かしたことで致命傷はなんとか避けたが、戦況は更に悪い方向へと流れていた。大きく切り裂かれた左腕からは尋常でない血が地面へと流れ落ちていた。

 

もう一人のイーディス…いや、彼女の影はすぐさま俺の影に戻り、彼女の目の前へと出現した。

 

「これは影ノ傀儡。闇斬剣により生み出した私の影の分身。あまり細かい操作はできないけど、さっきみたいな影から影への移動もできるのよ。その状態が続くのは辛いでしょ?安心して……すぐにアリスの元へと送ってあげるから」

 

(っ…どうする…相手の攻撃は防げない…神聖術を使おうにも左腕がこれじゃまともな術が使えない…考えろ!?イーディスのあの攻撃を受けずにこっちが攻撃する方法を…その武器を!!)

 

満身創痍の俺にトドメを刺そうとイーディスがゆっくりと近づいてくる。痛みを無視し、俺は頭をフル回転させる。このまま、ここで負けるわけには…キリトやユージオを置いていくわけにはいかない!

 

(遠距離の武器が使えず、相手の攻撃を受けずに闘う…そうするには…!?)

 

一か八かになるが、俺は大剣を逆手で持ち、深呼吸して意識を三度集中させる。変化させる武器は決まった…後は完全にその場任せになるが今は四の五のを言っている状況ではなかった。

 

「…まだ抵抗する気?それとも、まだ何か手が残っているのかしら?」

「当たり前だろう…俺は諦めが悪いんでね。すぅ……来い『光絆撃』!」

 

流れ込んだ武器の記憶からその名を呼び、大剣を変化させる。大剣が光を放ち、俺の両腕・両足に分離した武器が装着される。

 

「それは…手甲?」

 

イーディスの言葉通り、俺が大剣を変化させた武器…それは手甲と足具だった。純白の装甲に赤と黄色のクリアカラーの装飾が入った特殊装甲…星創甲『光絆撃』を纏った右手を頭上へ掲げ叫ぶ。

 

「集え、輝きよ!エンハンス・アーマメント!!!」

 

『光絆撃』の武装完全支配術を発動させ、周囲に顕在化した光の粒子が『光絆撃』へと集まっていく。だが、もちろんその光景をイーディスがただ見ているだけの筈もなく、

 

「何をしようが…!やれ、影ノ傀儡!」

 

再び俺の背後に影を出現させるが、出現した瞬間、イーディスの影はあっという間に霧散と化してしまった。まさかの光景に信じられないものを見ているような表情になるイーディス。その間に俺のチャージが完了する。

 

「馬鹿な…影が消えた!?」

「…悪いが…あんたの攻撃を利用させてもらった。

さぁ、こっからが本番だ!!」

 

赤と黄色の装飾から眩い光を放つ『光絆撃』をイーディスへと突きつけ、俺は言葉を放った。その言葉に更に怒りを露わにするイーディスは一気に距離を詰めてきた。

 

「ふざけるなぁ!?その台詞はこの刀の攻撃を防いでから言いなさい!!」

「…確かにその攻撃を防ぐ術は俺にはない…けどな!」

 

イーディスの言葉に受けて立つように俺も彼女の方へと駆け寄り、刀の間合いに入る直前に両足に力を込める。その瞬間、

 

(っ……消え、後ろ!?)

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ぐぅ…きゃぁぁ!?」

 

彼女の背後を取った俺は右手を大きく振りかぶり拳を振るった。だが、咄嗟に気配を感じて刀を盾にしたイーディスに防がれてしまう。だが、今の俺の拳はただのパンチではない…尋常ではない力が込められた一撃でイーディスを吹き飛ばす。

 

「くぅ……一瞬であたしの背後に…?!一体どうやって…?」

「はぁ…はぁ…悪いが、種明かしをしてやる程、余裕はないんでね!さぁ、まだまだいくぞ!」

 

再び両足に力を込め、瞬間的に俺はイーディスの懐へ飛び込んだ。刀の間合いよりも内側…完全に拳の間合いに入られたイーディスが対応できずに表情が困惑し切っていた。

 

「もらった!!」

「がはぁ…!?こ、この!?」

「っ!?」

 

だが、流石は整合騎士。腹部目掛けて放った拳を、咄嗟に体を捻ることで鎧に掠める程度に済ませたイーディス。そして、零距離での神聖術を俺目掛けて放つが…

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ま、また…!?一体どんな術でそんな高速移動を…?!」

 

躱せる距離でない筈の術を躱され、再び信じられないものを見ているイーディス。かくいう俺はイーディスとは少し離れたところに立っていた。

 

このままヒット&アウェイでいけば、なんとかなるかもしれないが、実はそうもしていられない事情が俺にもあった。

 

警戒を厳にするイーディスに再び仕掛けるため、俺は一気に駆け出す。

 

(落ち着きなさい、イーディス…奴の高速移動には必ず秘密がある。あの手甲らを装備した途端、いきなり動きが変わったわね……奴の動きをよく見て…)

 

同じ攻め方では見切られてしまうので、俺は横に駆けながら徐々に距離を詰め、一気に両足へと力を込めて飛ぶ!

 

「(まさか?!…でも、見えた!)そこよ!!」

「っ…!?(見切られた!?けど…!)」

 

左横からの奇襲に気付かれてしまい、イーディスの凶刃が俺に振るわれる。直前で気付き、慌てて後方へと飛ぶが、イーディスの追撃は止まらない!その勢いで連撃を繰り出し、果てには神聖術を放ってきた。

 

「システムコール!サーマル・エレメント・バースト!!」

「くっ…うおぉ!?」

「空中では流石の高速移動もできないわよね!散りなさい!」

 

炎を広範囲に放つ神聖術を躱すために上空に飛んでしまった俺は完全に無防備に見えたのだろう。刀を構え、神速の突きを放つイーディスだったが、

 

「悪いが…まだだ!」

「えっ…うそ!?」

 

突きが放たれる直前に、俺の足具から光が漏れ出し、バーニアのように粒子が噴出する。その噴出を生かし、俺は空中で移動して突きを躱す。そして、その勢いでカウンターの蹴りをイーディスに放つが、刀で防がれてしまい、距離を取る程度に留まってしまった。

 

「…驚いたわ。まさかのその手甲と足具…神聖力を原力として打撃や移動の強化を図っているのね」

「っ…バレたならしょうがないか。直接的な攻撃は圧倒的に不利、遠距離攻撃もできない…なら、あんたの攻撃よりも早く攻撃するしかないだろう?シンプルだけど、そう簡単には対策は…ガハァ!?」

 

説明の途中で俺は吐血してしまう…それだけではない。胸や左腕の傷からの出血が更に酷くなっている気がした。俺の姿にイーディスはどこか納得していた。

 

「……やっぱりね。その武装完全支配術、貴方の体に相当な負担がかかっているんじゃないの?ただでさえ、満身創痍な状態なのに、あんな高速移動や威力の大きい打撃は体に掛かる負担も尋常じゃないでしょう?」

「うぅ……あんたを倒すくらいには持つさ」

「そう…まぁ、こっちもあんたを倒すのに待ったをかけるつもりもないけどね」

 

そう…イーディスの指摘は全て正しかった。星創甲『光絆撃』は周囲の神聖力を吸収し、爆発的な推力とパワーを得る装具だ。だから、発動時に襲われたイーディスの影さえも神聖力に変換して吸収できたのだ。

 

だが、この装具…とんでもない負担が体に掛かるのだ。装具の放つパワーに俺の体が長時間耐えられないのだ。俺の体自体が装具のパーツの一つとなっていると言っても過言ではないだろう…その点、無理矢理体を動かしているので、負傷している左腕も使えるという利点もあるのだが…長期戦など自滅にしかならないのだ。

 

(次で決めないと俺の体がぶっ壊れちまいそうだ!?次で決める!!)

(…来るわね…次の一撃を凌げば、あたしの勝ち…受けて立つ!!)

 

無理矢理動かしている左手を頭上へと掲げ、神聖力を集中させる。足具には高速移動のためだけの最低限の出力だけ残して構える。一方のイーディスも俺の攻撃が最後だと理解したらしく、闘気を全開にして刀を構えていた。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

互いの闘気と殺気がぶつかり合い、沈黙が俺たちの間に渦巻く。そして、数十秒にも感じられた沈黙を破ったのは俺だった。

 

「行くぞ、イーディス!!」

(まだよ…奴の動きを直前まで見極めなさい!)

 

駆け抜けながら俺はほぼ感覚のない左拳をなんとか握りしめる。だが、イーディスはまだ動かない。

 

(まだ…まだ…もっと引き付けて…!)

 

そして、あと数歩で刀の間合いに入ろうとしたところで、俺は両足の装具の神聖力を開放し、高速移動する。初撃と同じ背後を取った俺はそのまま拳を、

 

「そうくると読んでいたわよ!!」

「っ!?」

「さぁ…終わりよ!!」

 

完全に俺のコースを読んでいたイーディスは振り向き、すぐさま俺に向けて刀を突き出す。その一撃は確実に俺の顔面を捉えていた。今さら高速移動する神聖力も両足には残っておらず、俺はその一撃を…

 

「ぐぐぐぅぅぅぅ!?ああああぁぁぁぁぁぁぁ?!?!」

 

左腕を突き出し、腕を犠牲に刀を無理矢理逸らす。左腕にこれまで以上の激痛が走り、一層血が噴き出す。だが、逆に俺は完全に突き抜かれた左腕で刀を握りしめる。

 

「そ、そんな…あたしの行動を読んでいたの!?」

「まぁね…こっちは本当に後がなかったんでね。初撃で背後を取ったことから一番警戒していると思ったよ。そこに賭けさせてもらった…そして、この至近距離なら流石に避けられないよな!!」

(っ…まさか…あたしに一撃を加えるためだけに左腕を犠牲に!?)

 

俺の言葉に、俺の真意に気付いたイーディスが驚愕するがもう遅い。直前に左腕から右腕に移していた神聖力の籠った手甲を大きく振りかぶり、

 

「これで…終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「がはぁ・・・ううううぅぅぅぅぅぅぅ!?!?」

 

零距離でイーディスの腹部に拳を叩き込む。『光絆撃』で強化された拳は鎧をいとも容易く砕き、イーディスを物凄い速さで壁へと叩き付けた。確実に決定打を叩き込んだ自信があり、俺はイーディスはもう立てない状態だと思っていた…というよりも、俺の体の方が限界だった。

 

一気に反動が俺の体を蝕み、全身に激痛が走る。もう既に立っているのもやっとの状態だったりする。もう立ってくれるなよと思いながら、イーディスの方を見ると……彼女は立っていた。立ってしまっていた。

 

それが怒りからくるものなのか…それとも整合騎士としての使命からくるものなのか…彼女の意地がおそらくそうさせているのだろう。

 

「がはぁ…痛いな…こんなに痛い思いをしたのはかなり久々だよ」

「…ぐぅ…痛いで済むだけ凄いだろう。手加減なしでぶん殴ったんだぞ…」

 

笑いながらそう答えるイーディスだが、刀を杖にして立っているところを見ると、彼女もやっとの状態なのだろう。闇斬剣の武装完全支配術も解けているようだった。このままなんとか決定打を打つ方法を思索していると、

 

「でもね…アリスを殺したお前たちをあたしは決して許さない…妹をあたしの前から奪ったお前たちだけは必ず殺す……そのためなら、命すら賭けてやるわ!」

「っ…まさか…止せ!?」

 

その言葉に最悪の展開が頭に浮かんだ俺はボロボロの体でなんとかイーディスを止めようとするも、そんな状態で間に合う筈もなく、イーディスはその術を発動させてしまった。

 

「全てを呑み込みなさい!リリース・リコレクション!!!」

 

その瞬間、闇斬剣から莫大な闇…いや、影という表現の方が正しいだろう。イーディスを中心に壁・床問わず全てを侵食し始めた!侵食された床…草木はあっという間に呑み込まれてしまい、消滅してしまっていた。そして、それは中心にいるイーディスも例外ではなかった。

 

「っ…!?止めろ!あんたまで呑み込まれているじゃないか!?」

「……言ったでしょ?この剣はソルスの光が一切届かない湖底の岩から生まれたって。光が届かない影は全てを呑み込み、闇へと還す…アリスの仇が討てるのなら、あたしの命くらい捨てるのだって、あたしは躊躇しない!!」

「っ…ぐぅぅぅ……いい加減にしやがれ!?」

 

もう既に両足のほとんどが影に呑み込まれてしまったイーディスの言葉に、俺の怒りが頂点に達した。ほぼ勢いだけで動かしている体で侵食してくる影へと向かって一気に駆け出し、『光絆撃』の記憶を開放する。

 

「リリース・リコレクション!!!!!」

 

僅かに残っていた神聖力を変換し、俺は影へと向かって解き放つ。変換された神聖力は全ての術を抑制する粒子へと変わり、波の様に闇斬剣の影を覆った。その瞬間、影の侵食はピタリと止まり、イーディスへの侵食も止まった。

 

その間に俺はイーディスの元へと素早く駆け寄り、彼女を影から引っ張り上げた。

 

「どうして…助けるの…!?」

「あんたを死なせたくないからだよ!キリトも…アリスと闘っていた剣士だってそうだ!外に投げ出されたからって、アリスが…あいつらが死んだなんて決めつけるなよ!?あいつは…キリトは絶対に無事だ!アリスも…!でも、再会した時にあんたがいなかったら、悲しむのはアリスも一緒だろうが!?」

「っ…!?」

「だから…あんたは死なせない!死なせてたまるか!!」

 

激痛など今は気にしている暇なんてなかった…動けないイーディスを背負い、俺はその場から脱出しようとするが…少し時間を掛け過ぎたようだ。

 

変換した神聖力が少なかったせいもあり、『光絆撃』の記憶開放術が解けつつあったのだ。影の侵食は再び動き始めようとしていた。既に一番外の部分は侵食が再開しており、俺たちがいる場所も時間の問題だった。

 

(クソ…俺一人ならなんとかなるかもしれないが…だからって、彼女を見捨てるわけにも…どうすれば…!?)

 

背中で意識を失ったままグッタリとしているイーディスを見捨てるなどいう選択肢は俺にはなかった。だが、このままでは二人ともお陀仏というルートしか残っていないのもまた事実だった。状況打破のために思考を回転させている時だった。

 

ドクン!

「っ…なんだ?『光絆撃』が…違う…これは…!」

 

『光絆撃』が…いや、変化している大剣が俺に何かを訴えかけているように感じた。ライオスと闘った時や武装変換術を始めて使った時にも感じた感覚に、俺は大剣を元の姿に戻す。一層脈打つ剣に俺は、大剣の一つの可能性に賭けてみることにした。

 

背後は壁…この侵食から抜け出し、身の安全を図るのに必要なのは、この場から離脱する推進力と影を排除する方法だった。刻一刻と影が侵食しようとしてくる中、俺は武装完全支配術の式句と共に大剣へと意識を集中させる。

 

その時、脳裏に浮かんだのはこの戦いで使った縁勇弓『神繋』と星創甲『光絆撃』のイメージだった。そのイメージが大剣の中で溶けるように光として集まり、

 

「っ…!?(そうか…そういうことだったのか!?)」

 

大剣の武装完全支配術の真意を理解した俺はイーディスを背負い直し、大剣を右腕で構える。狙うは背後の壁だ。

 

「頼む…俺に力を貸してくれ……すぅぅ…いくぞ!

エンハンス・アーマメント!!!」

 

その場から後方にできる限りの力でジャンプし、俺は大剣の武装完全支配術を発動させる。大剣にシステムコマンドが表示される。

 

しかし、キリトやユージオのものとは異なり、緑と水色の二種類の3組一式のシステムアイコンが表示され、大剣から突風が吹き荒れる。

 

「突き抜けろ、星風の神槍!!」

 

大剣の武装完全支配術…式句によると『二つの力を統合し、想像を超えた強力な一撃』を放つというイマイチ要領を得ないものだったが…ここに来て、その意味が理解できた。

 

『二つの力』とは変化させてきた武器のこと…つまり、それらを自在に組み合わせた変幻自在の一撃を放てるということなのだと。

 

俺の咆哮と共に大剣から放たれた暴風と光の粒子で構成された星の槍は壁へと激突し、起こった突風で俺は大きく吹き飛ばされた。落下のことなどお構いなしに放ったため、無事に影の侵食外には逃げ出せれたが、着地は落下に近いものだったため、俺はイーディスを庇って地面を転がるハメになった。

 

そして、俺の放った星の槍は未だ壁を削り続けており、遂に床と壁の両方を砕いた。その瞬間、起こったのはキリトとアリスに起こったことと同じだった。急激な気圧の変化により突風が起こり、侵食していた影ごと崩壊した床が一気に外に放り出されていく。

 

「これでダメ押しだぁ!!」

 

壁の修復が完了する前に、大剣から再度星の槍を放ち、残っていた影を外へと吹き飛ばす。そのおかげでほとんどの影を吹き飛ばすことに成功し、残りの影も闇斬剣の記憶開放術が解除されたことで、それ以上の侵食はすることはないようだった。

 

だが、俺にはまだやるべきことがあった。それは、

 

「悪いな、カーディナル。短剣、俺もこう使わせてもらうぞ!」

 

両足を失ったイーディスに例の短剣を突き付けることだった。俺の最後の一撃だけでも致命傷に近かった筈なのに、その上で両足の欠損など完全に俺の神聖術では治療できないと判断しての行動だった。

 

『やれやれ…お主までもそうするとは思ってなかったぞ、フォン』

「悪いな…これ以外に方法が…うううぅ…!?あああぁ…あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

『フォン…?フォン!?』

 

短剣を通して聞こえてきたカーディナルの嫌味に答えようとして、俺は頭痛に襲われた。今まで以上に酷い頭痛に立っていることができず、先程のダメージも重なり、聞こえてくるカーディナルの声が遠くなるのを感じながら、俺は意識を失った。

 

 




●オリジナル武器解説
星創甲『光絆撃』
手甲・足具のカテゴリーに属する防具。防具ではあるのだが、用途が完全に攻撃仕様というチグハグな性能を持つ。
周囲の粒子を自身の力に変えることができる試作兵装。基本武装を失った際やここぞという時に使うことを想定された防具であり、肉弾戦においてその真価を発揮する。装着者の身体能力を飛躍的に上昇させるが、それに比例してかかる負担も大きいため、人間が使用することを想定されていない。
武装完全支配術は発動時に周囲の神聖力を限界まで吸収し、装着者の身体を極限まで強化する。この際、発動している神聖術すらも神聖力に還元して吸収することが可能で、それは武装完全支配術も例外ではなく劇中ではイーディスの影ノ傀儡すらも吸収した(尚、吸収できるのは発動時のみ)。
記憶開放術は吸収した神聖力を変換し、放出するもの。放出された神聖力はありとあらゆる神聖術を静止させる特性を持っており、劇中では闇斬剣の記憶開放術を一時的に押し止めた(尚、静止・停止させるだけであり、無効化するわけではない)。
超接近での戦闘スタイルと爆発的な推力、術を無効化してからの奇襲といった超攻撃的な戦法が取れる一方で、装着者には高速移動によるGを含め、常時恐ろしいほどの負担がかかっており、吸収できる神聖力が少なければ真価を発揮できず、時間・攻撃・移動ごとに蓄えらている神聖力はどんどんと減っていくため、長期戦では自壊してしまう危険性を孕んでいる(それを証明するように、劇中ではフォンが反動に耐えられず吐血し、記憶開放術発動時も神聖力不足で短い間しか効力が発動しなかった)。
モチーフは『ガンダムビルドファイターズ』よりスタービルドストライクのRGシステムやディスチャージシステム。続編で登場する主人公機の一体ビルドバーニングガンダムの要素も少し入っている。

大剣 武装完全支配術
『二つの力を統合し、想像を超えた強力な一撃』
当初は仕様が分からなかった大剣の武装完全支配術の式句の内容。イーディス戦でフォンの想いに応える形で大剣のイメージを元に発動に成功した。
術の構成はこれまで呼び出してきた武器2種類の特性を組み合わせた本来あり得ない一撃を放つ大技。カセドラルの壁を単体で打ち砕くなど、その威力は組み合わせ次第では計り知れないものとなっている。また、決まった型がなく、その場その場での即興技になるという多様性を兼ねた術になっている。但し、この術を使うと、武装変換術での武装完全支配術・記憶開放術とは異なり、大剣自体の天命を大きく損耗する。


ここに来て、遂に3人ともバラバラになってしまいました。
闇斬剣の記憶開放術は完全に想像で書いたものになります。アリブレの動画を色々と探して見たのですが、記憶開放術が見つからなかりませんでした。もし間違ってたら、すみません。

そして、倒れるフォン…次回はその後の経過と、すみません…カットすると言っていたキリト・アリスの共同戦線シーンになります。ほぼ原作通りですが、少しオリジナル要素も足しており、2話に渡ってお送りすることになるかと思います。

あつもりさん、ちやまさん、リオン·さん
ご評価ありがとうございました!
次回は当分原作通りの動きになりますが、今後もご期待頂ければ有難いです!

それではまた。

カーディナルは生存させるべきでしょうか?(どちらでも前半の結末は変わりません。後半以降の物語に大きく影響します)

  • 生存ルート
  • 死亡ルート
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