さて、あの方の再登場です!カセドラルに来れた理由はご都合主義とのことで納得して頂ければ……
最近シリアスパートしか書けてなかった反動&フラグ建てです!後悔はしておりません!!
そして、キリト・アリスの共同戦線シーンです。さり気なくフォンがとんでもない邪魔をしています(笑)
それではどうぞ!
…夢を見ていた…
いや、夢というのは些か正しくない表現だった。
正確には現実でよく目にしていたありふれた景色を見ていた。
いつの間にか俺は実家の自室にいた。さっきまでセントラル・カセドラルの中にいた筈なのに、何故か現実世界にいる今の状況を俺は現実ではないと即座に判断した。
だが、どこか俺の知っている実家とは雰囲気が違っているように感じられた。家に人の気配がないことはいつものことだったが、それとは違う何かの違和感を感じていた。
そんなことを思っていると景色は変わり、次々と様々な光景が映し出されていく。
アインクラッドで、黒の剣士と共に戦う剣士の姿が…
世界樹で、鍍金の勇者に解放される騎士の姿が…
銃の世界で、過去の闇と闘う戦士の姿が…
妖精の世界で最愛の人と世界を冒険する男の姿が…
友のために世界を敵に回してでも闘い続ける勇士の姿が…
だが、その人物の姿が俺には全く捉えることができないのだ。そこにいるのは分かっているのだ…だが、光に包まれたようなシルエットにしか俺には認識できず、それが誰かを判別することができなかった。
呆然とする俺に…その人物がいきなり俺の方へと視線を向けてきた。そして、そのシルエットが突如黒くなったと思えば…
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
何かを言ったような気がしたが聞き取れなかった。だが、俺はその言葉が何を意味するのかが、なんとなくだが分かってしまった気がした…そこで俺の意識は再び遠くなり…
「…っ…こ、こは…?」
「起きたか」
奇妙な夢が覚めたと思った時、俺は後頭部に何か柔らかい感触が当たっていることに気が付いた。何かと意識がはっきりするのを待っていると、上から聞き覚えのある声がした。と思ったら、いきなり後頭部を地面に落とされた!
「い、たぁぁ…!?何すんだよ……って、カーディナル!?」
「何じゃ、失礼な。人の顔を見るなり驚きおって」
痛む後頭部を抑えながら講義の声を上げようとするも、起き上がりその人物を確認して、俺は驚く。なぜなら、大図書室に籠っていた筈のカーディナルが目の前にいたからだ。一方のカーディナルも俺の反応に眉を顰めていたが、俺の反応は至極真っ当なものなのだから、そんな抗議を言われても逆に困る。
「なんでここにいるんだ!?というか、こんなところにいて、大丈夫なのか!?」
「…ふぅ。安心せい。ここにわしがいることはアドミニストレータにはバレておらん。お主とキリトのお陰でな」
「…どういうことだ?」
「キリトとお主の攻撃でこの階の壁が連続して崩壊したじゃろう。セントラル・カセドラルの壁は自動で修復されるようになっておるが、連続して破壊されるようなことは想定されておらぬ…そんな軟な造り方をされておらぬからな。
じゃが、お主たちの攻撃による余波で壁が連続して壊れ、この階に限って監視網の術式が一部乱れたのじゃ。じゃから、イーディス・シンセシス・テンの治療を引き受けると共に、バックドアを使ってわしはここに来たのじゃ」
尤も帰る時には探知されてしまうがのう、と言いながら苦笑するカーディナル。それでも、危険なことには変わりない筈なのにここまで来てくれたということだ。
「そうだ…イーディスは!?大丈夫なのか?」
「安心せい。ファナティオと同じように治療を開始しておる。ファナティオの方ももう間もなく治療が完了するはずじゃ」
「そうか……良かった」
「良かったではないわ!通信の途中でお主が絶叫を上げて倒れた時には、こっちは肝が冷えたのだぞ!?」
「わ、悪い…本当にギリギリの闘いだったし、大剣の反動がまさかあそこまで大きくなるとは思ってもなかったからさ!?」
珍しく怒りを露わにするカーディナルの言葉に俺は言い訳しながらなんとか怒りを収めてもらおうとする。だが、カーディナルの怒りは全然止まない。
「確かにわしはその剣の記憶開放術は使うなと言ったが、だからっといって他の力や武装完全支配術を使うなどお主はどこまで命知らずなのじゃ!!分かっておるのか!?人工フラクトライトと違って、この世界で天命を全損すれば、お主やキリトはどうなるか分からんのじゃぞ!?」
「……わ、悪かったよ。余裕がなかったというのも事実だけど、ちょっと安易に使用し過ぎた感はあるよ。その……なんとか気を付けてみるよ………それにしても意外だったな」
「何がじゃ?」
「いや、俺と貴女は協力者な関係だろう?そんな俺に、貴女がここまで来てまで心配してくれるとは思ってもみなかったからさ」
「…お主、一発殴るぞ?」
ジト目と共に青筋をピクピクとさせているカーディナルに、完全に失言だったことに気付き、俺は思わず後退る。目覚めてすぐのせいか、口が滑りやすくなっているようだ。
「お主たちが命を賭して闘ってくれておるのじゃ。わしもできることがあるのなら、それをしたいだけじゃ。他意はないわい」
「そっか…ありがとう」
「…ふん」
俺が礼を言うと、カーディナルは背を向けてしまった。分かれる前もそうだったが、お礼を言われることに慣れていないのだろうか…そんなことを思いながら、俺はあることに気が付いた。
「…傷が治ってる…もしかして、カーディナルが…?」
「当たり前じゃ。しっかりと治療してから、お主を膝に寝かせて…あっ…」
「…あー…(あの感触はそういうことだったのか…)」
しまったという表情で失言に気付いたカーディナルの頬に紅が差す。色々と察してしまった俺もコメントに困ってしまう。すると、耐え切れなかったのか、カーディナルが言葉を発した。
「か、勘違いするでないぞ!?地面に直接寝かせるのはどうかと思っただけじゃ!お主が少し魘されているようだったから、そうした方が良いと思っただけじゃ」
「分かってるよ…それでもありがとう、カーディナル」
「分かれば良いのじゃ…コホン」
再びカーディナルにお礼を言ってから、俺はすぐ傍に置かれていた大剣を拾い上げて背中の鞘に納める。そこで気になったのは、俺が倒れてからどれほどの時間が経っているのかということだった。
「カーディナル。俺はどれくらい寝ていた?キリトとユージオは無事なのか!?」
「落ち着け…お主は約3時間ほど眠っておった。わしが治療を施しておったせいもあるが、肉体だけでなく、精神的ダメージも大きかったのじゃ。キリトと騎士アリスは無事なようじゃ。外に飛ばされた時に剣を外壁へと引っ掛けて難を逃れたようじゃ。
じゃが…ユージオの方が分からぬ。外壁ならともかく、これより上の階は今のわしの権限では探ることができぬ。もしかすれば…」
「…そんなに寝ていたのか。マズイな…早く追いかけないと…っ!?」
俺が思っていたよりも時間が経っていたようだ。キリトとアリスの安否が確認できたことに安堵しつつも、先に進んだユージオの安否が不明だと聞き、俺は上階に向かおうとして膝から崩れ落ちた。怪我はカーディナルの治療により完治している筈だが…足に力が上手く入らないのだ。
「まだ無理をするでない。いくらダメージを回復したとはいえ、お主はこれまでの闘いでの疲労が溜まっている状態じゃ。そんな状態でまともに闘うことなどできぬ…殺されるだけじゃ」
「…それでも行かないと…ユージオ一人で行かせるわけには…!」
力を込めれば、なんとか体は動かせるようだった。それでも体は鉛のように重く、剣を振るうのもおそらくやっとの状態なのだろう。カーディナルの制止を聞かず、俺は上階へと続く階段を目指す…だが、
「止せと言っておるじゃろう!?このまま進んだところで、無駄死にするだけじゃ!?」
「だったら、ユージオは死んでもいいというのか!?」
「っ!?」
「貴女もユージオも…俺は死なせたくない!それで俺の体がどうなったとしても、俺は行く!行かないと…いけないんだ!!」
裾を掴んで俺の行動を制止するカーディナルの腕を振り切る。カーディナルには悪いが、俺は先に行かなければならない…ユージオを助けに…そのまま先に進もうとした時だった。
「わしがお主にも死んでほしくないと思っていてもか!?」
「っ…!?」
その言葉に俺の動きは止まる。振り返ると、今まで見たことのない表情をしたカーディナルの姿が目に入った。その目は本気で俺のことを心配している表情だった。
「お主もキリトも…!わしの中では死んでほしくないのじゃ!わしのこんな使命のためにお前たちが犠牲になる必要はないのじゃ!だから…!」
「死なないよ」
「っ…!?」
「俺は死ぬ気はないし、キリトたちも死なす気はない……そして、貴女を犠牲にする気もない。この手が、剣が届くなら…俺は助けたい。だから俺は…行くよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺の言葉にカーディナルは何も返さない。そして、俺が今度こそ先へと進もうとした時、彼女は重たい口を開いた。
「約束するのじゃ…もし危険だと思えば、わしとの約束など忘れて逃げるのじゃと…短剣を使ってしまったお主にこれ以上、わしがどうこうしてやることはできぬのじゃからな」
「…分かった」
絞り出したカーディナルの言葉に俺は短く答え、先を行く友を追いかけ始めた。そんな俺を見送ったカーディナルは目線を落としたかと思えば、すぐさま表情をいつものものに戻し、バックドアを使って、大図書室へと戻っていた。
〈Other View〉
時間は少し遡る。フォンとイーディスが激闘を繰り広げている頃…外に吹き飛ばされたキリトとアリスはというと…
「くぅ…ううぅ!?」
「もういい!その手を離しなさい!?」
カーディナルの言葉通り、間一髪の状態で助かっていた。吹き飛ばされた際に咄嗟にキリトが壁へと剣を突き立て、アリスの腕を掴んだまま、壁へとぶら下がっていたのだ。それでも、自身と鎧を着たアリスの体重を剣一本で支えるのは限界があった。
「お前のような大罪人に命を救われ、生き恥を晒すなど騎士の誇りに関わります!お前が離さないというのなら…!?」
「うわぁ!?ちょ…!?」
キリトに命を助けられるくらいならとキリトの腕を離させようと体を揺らして暴れるアリス。まさかの彼女の抵抗に慌てるキリトはアリスに怒鳴る。
「動くな、馬鹿!?」
「ば、馬鹿ですって!?」
「ああ、馬鹿だよ!あんたも整合騎士ならここで自暴自棄になったとしても、何も解決しないことくらい悟れよ、馬鹿!?」
「なぁ…!また馬鹿と…何度私を愚弄すれば気が済むのですか、この罪人が!」
「うるさい!馬鹿だから馬鹿って言ったんだ!この馬鹿!馬鹿!!」
アリスの反論など知ったことないという勢いでキリトは言葉を続けていく。
「いいか!ここであんた一人が落ちて死んだとしても、塔の中に残ったユージオとフォンはあのもう一人の騎士を倒して、必ず最高司祭の元へと辿り着くぞ!あんたはそれを阻止するのが役目だろうが!?」
「っ…!?」
「なら、今は何を置いても生き延びるのが最優先じゃないのか?整合騎士として、それぐらいの理屈が飲み込めない馬鹿だから馬鹿って言ってるんだ!?」
「…9回もその屈辱的な侮言を口にしましたね!…ですが…なるほど。お前の言うことは理屈が通っています。しかし、ならば何故お前はその手を離さないのですか?」
「えっ…?」
「その理由が私にとって、死よりも耐え難い憐憫ではないとお前は証明できるのですか!?」
アリスの問いかけにキリトは一瞬迷ったが、今なら自分の言葉をアリスが聞いてくれるかもしれないと思い、その可能性に賭け、正直に答え始めた。
「俺は…俺たちは公理教会を壊滅させたくてカセドラルを登ってきたわけじゃない。俺たちだって、ダークテリトリーの侵略から人界を守りたいという気持ちは同じなんだ」
その言葉と共にキリトの脳裏にカーディナルから伝えられた最終負荷実験である戦争のことが浮かぶ。
「だから、整合騎士の中でも最強の一人と言われているあんたをここで死なせる訳にはいかないんだ。貴重な人界の戦力なんだからな」
「ならば、お前は何ゆえにその剣を振るい、血を流すという禁忌を犯したのですか!?」
「それは…法よりも大切なものを守りたかったからだ!」
「ほ、法よりも大切なもの…?」
キリトの言葉にアリスの中で動揺が走る。それでも、キリトは言葉を続ける。
「俺が…俺たちが学院で切ったライオスとウンベールは法の…禁忌目録の抜け道を使って、ロニエやティーゼ…そして、ユージオを殺そうとしたからだ。俺たちのやったことが正しいとは言わない…けど、誰かの悪意のために他の人が傷つくなんて、あっていいわけがない!」
「ど、どういうことですか…!?」
「公理教会の作った禁忌目録が間違っているってことだ!禁忌目録で禁じられていないからといって、ロニエやティーゼ、マーベルみたいな女の子たちが上級貴族にいいように弄ばれるなんてことが本当に許されると…あんたはそう思ってるのか!?
どうなんだ!答えろ、整合騎士!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
流す涙と共に感情のままに訴えるキリト。その涙がアリスに当たった。キリトの問いかけにアリスは弱弱しく答え始めた。
「法は法…罪は罪です…それが恣意によって民が勝手に判断するなんてことがあっては…どのようにして秩序が保たれるというのですか?」
「なら、その法を作った最高司祭…アドミニストレータが正しいか否かを決めるのは一体誰が決めるんだ!?天界の神か?なら、どうして今すぐにでも天罰の雷が落ちて、俺を焼かないんだ!?」
「神は…ステイシア様のご意思は下部たる我らの行いによって、自ずと明らかになる筈です!」
「それを明らかにしたくて、俺たち3人はここまで登ってきたんだ!アドミニストレータを倒して、その誤りを証明するために!そして、全く同じ理由で…はっ!?」
キリトの言葉が途中で止まった。二人をぶら下げていた黒剣が重さに耐えきれず、今にも壁から抜けそうになっていたからだ。
「今、あんたを死なせる訳には…いかないんだ!うおおおぉぉぉ!!」
「な、何を…!?」
「壁の継ぎ目に剣を!?」
アリスを持てる力で持ち上げたキリト。だが、キリトの方も徐々に限界が迫りつつあり、その前にアリスに剣を突き刺すように指示する。
「こっちはもう持たない!頼む!」
「え、ええ!」
キリトの指示通りすぐさま金木犀の剣を突き刺すアリス。だが、金木犀の剣が刺さった衝撃で限界がきていた黒剣が抜けてしまった。途端に重力に襲われ、キリトは落下しそうに…
「……っ!?あ、あれ…?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「アリス…」
そうはならなかった。咄嗟にアリスがキリトの襟を掴んでいたからだ。そのままキリトを持ち上げ、キリトは再び黒剣を壁の継ぎ目に黒剣を突き刺した。
「勘違いしないで下さい。助けたわけではありませんから…借りを返しただけです。それに…お前とは剣の決着がまだ着いていない」
「なるほど。なら、これで貸し借りはなしだな……そこで提案があるんだが」
「…提案?」
「俺たちは、二人ともどうにかして塔の中に戻らないといけない立場にあるわけだ。だから、ひとまず中に戻るまでは休戦ということにしないか?」
「休戦、ですか?」
「ああ。一人より二人で協力した方が生還の可能性が増える筈だ」
「協力と言っても、具体的には何をするのですか?」
「どっちかが落ちそうになったら助けるってだけさ。縄でもあれば更に確実なものになるけど、ないものねだりだしな」
「……合理的な提案である…と認めざるを得ないようですね。仕方ありません。その代わり、塔内部に戻ったその瞬間、私はお前を斬ります。それだけはゆめゆめ忘れないように」
「…分かった。覚えておくよ」
「それでは…縄が必要なのでしたね」
キリトの提案した休戦協定を了承しつつも、塔内部に戻ったら敵に戻ることを確認したアリスは右腕を上げ、神聖術の式句を唱え始める。
「システムコール…フォーム・オブジェクト・チェインシェイプ」
神聖術により、アリスの右小手が黄金のチェーンへと変化する。
「なぁ…もしかして、物質変換術!?」
「何を聞いていたのですか!?今のはただの形状変化です。物の材質そのものを変化させる術は最高司祭様にしか使えません!」
「べ、勉強不足ですみません…(そういえば、デュソルバートのおっさんも、フォンの武器が変わった時にそんなことを言ってたな。最高司祭にしか物質変換は使えない、か……そういや、フォンとユージオがあの大剣は奇妙だって言ってたな)」
「どうしましたか?」
「っ…いや、ちょっと考え事をしてただけだよ」
アリスの指摘に罰の悪そうに謝るキリトだったが、フォンの持つ大剣はあっさりと物質変換をやってのけていたなと少し疑問に持ったのだ。
そんなことを考えていると、アリスに声を掛けられ、我に返ったキリトはチェーンを受け取り、自身のベルトに装着した。
そして、反対側をアリスに渡し(というよりも手荒く奪われたという方が合っている)、これからどうするべきかと頭を働かせていた。
「なぁ、俺たちをここまでぶら下げてきた飛竜をここに呼ぶことはできないのか?」
「残念ながら、飛竜の接近が許されているのは30階の発着台まで。そこから上へは例え伯父様…いえ、騎士長閣下の飛竜でも近づけません。カセドラルの上層には鳥すらも近づけないのです…詳細は私も知りませんが、最高司祭様の特殊な術式が働いていると聞いています」
「なるほどね…そのお陰で何かに襲われる心配はないが、助けを期待するのも難しいってことか。なら、残る選択肢は3つだ」
飛竜を呼べないとアリスから聞いたキリトはその3つの選択肢を説明し出した。
「降りるか登るか…もしくはもう一度壁を壊すかだな」
「三つめは困難でしょう。カセドラルの外壁は無限にも等しい天命と自己修復性を備えているのですから」
「そうなのか…内側からだったから壊せた話で、外からだと難しいわけか。なら、もしここから上に登ったとして、塔の内側に戻れそうな場所はあるのか?」
「…あります。『暁星の望楼』と呼ばれる場所は四方の壁が柱だけの素通しになっている筈。そこまで登れば、容易に中に戻れるでしょう…ですが、仮に95階まで辿りつけたとしても、そこで私はお前を斬らなければなりません」
「そういう約束だからな」
アリスの言葉にキリトもしょうがないという表情で答える。だが、今はカセドラルの中に戻ることが優先であり、キリトはアリスに確認を取る。
「なら、壁を登るということでいいんだな?」
「いいでしょう。しかし、お前は簡単に言いますが、この壁面をどのように登るつもりなんですか?」
「こうするのさ…システムコール!」
アリスの疑問に答えるように、キリトは空いている右手を突き出し、神聖術を発動させる。
「ジェネレート・メタリック・エレメント・ウェッジシェイプ!よっと!」
神聖術で生み出した鉄串を継ぎ目に差し込み、黒剣を鞘へと納める。そして、体を揺らして反動をつけ、逆上がりの要領で鉄串の上に立つキリト。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫…だと思う。よし…システムコール…ジェネレート・メタリック・エレメント・ウェッジシェイプ」
もう一度神聖術を発動し、鉄串を召喚して、今度は一段上の継ぎ目へと突き刺す。そして、同じ要領でその鉄串の上に立ち上がる。
「…大丈夫、いけそうだ!今、俺がやったみたいにして一本目に登ってくれ!」
「………です」
「は?なんだって?」
「無理ですって言ったんです!!」
「む、無理…?いや、だって…無理ってことはないよ!?君ほどの力があれば、自分の体を引っ張り上げることくらい簡単だろう!?」
「そういう意味ではありません!?このような状況に陥ったのが初めての経験ゆえ、恥を晒すようですが、こうしてぶら下がっているだけで精一杯なのです!そんな細い足場に登るなど、とても……」
「分かった!なら、俺が鎖を引っ張って、あんたを足場まで持ち上げる!」
「よ、宜しく頼みます」
本当に恥ずかしいらしく、キリトを直視することが出来ず、アリスは細い声で答える。そして、キリトが体制を整え、鎖を持ち上げようとした時だった。
「うん…?うおおおおおぉぉぉぉ!?!?」
「えっ…?きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
何かの振動がしたと思った瞬間、カセドラルの壁が大きく揺れた。金木犀の剣にぶら下がっていたアリスは振動に襲われただけだったが、鉄串の上に乗っていたキリトはもろに振動の余波を食らい、鉄串から落下してしまった。
キリトが落ちると思ったアリスは慌ててチェーンを引っ張ろうとしたが、咄嗟に鉄串を掴んだキリトは寸でのところで落下せずに済んだ。二人とも落ちずに済んだことに安堵の息を吐くが、振動の原因となったものへと視線を移した。
「…なんだあれ…?なぁ、あんたはあれを知っているか?」
「……いえ。あんな術は知りません。あれは、イーディス殿の闇斬剣の武装完全支配術でもありません。一体あの術は誰が…」
自分たちの完全武装支配術がぶつかった時と同じように、内側からカセドラルの壁を崩壊させながら貫いていたのは煌びやかな光を纏った暴風の槍だった。その攻撃がイーディスのものではないと聞いたキリトには心当たりがあった。
(もしかして、今のはフォンか?フォンはまだ80階でイーディスと闘っているってことなのか?ユージオも一緒で無事だといいんだが…)
あの攻撃がフォンのものだと理解したキリトは中に残っている二人の安否が気になった。
だが、今はアリスと自分のこの状況をなんとかしなければならないと思い、頭を切り替えた。再び逆上がりの要領で鉄串に登り、今度こそアリスを持ち上げようとする。
「よし…今度こそ持ち上げるからな!いくぞ…せーの!」
その言葉と共にチェーンを手元に手繰り寄せるキリト。チェーンがピンと伸び切ったところで、アリスへと声を掛ける。
「よし、剣を抜いてもいいぞ!」
「え、ええ……ふん!」
「うおぉぉ!?(し、しまった…!?アリスが鎧を着てることを忘れてた!?)」
アリスが金木犀の剣を抜いた途端、予想以上の重さに思わず体を持っていかれそうになったキリト。鎧のことを失念していたが、体勢を立て直し、ゆっくりとアリスをチェーンで引っ張り上げる。
そして、一本目の鉄串のところまで引き上げたところで、アリスを鉄串の上へと誘導する。恐る恐る足を掛けようとするアリスにキリトはアドバイスする。
「チェーンで支えてるから、足を着けると同時に両腕で壁に捕まるんだ!」
「え、えい!?」
「よし…じゃあ、俺はもう一段上に登るからな。また合図するからよろしく」
「分かりました…気を付けてくださいね」
「了解…さてと、95階か」
アリスの言葉に親指を立てながら答えるキリト。そのまま行き先である上階を見上げる。雲で行き先は見えず、キリトは長い道のりになりそうだと覚悟していた。
(さっきの衝撃からしてフォンはまだ闘ってるってことは無事なはず。ユージオのことはフォンに任せて問題ないはず…はずなのに……なんだ、この嫌な予感は)
胸の中で燻ぶる予感にキリトは一刻も早く中に戻らなければと次の鉄串を作り出し、95階を目指すのだった。
本来ならこのままフォンが90階に行く予定だったのですが、キリト・アリスのシーンもあってもいいのではないかと思い、少し変更しました。
なので、次回はフォンお休みです!
キリト・アリスがメインとなるお話で、どうせ書くならと思いっきりフラグを建てます(そのせいで長くなったら、もう1話に分割するかもしれませんが…(笑))。
Zakkiさん
ご評価頂きありがとうございました!
それではまた。
カーディナルは生存させるべきでしょうか?(どちらでも前半の結末は変わりません。後半以降の物語に大きく影響します)
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生存ルート
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死亡ルート