ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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連日投稿の2話目になります。
日曜更新でご覧になられていた方は昨日更新の第37話からご覧下さい。でないと話が全く繋がりませんので!

ようやくフォン視点へとお話は戻ります。

キリト・アリス視点も少しだけ続きますので、時系列が少し前後します。お気を付け下さい。
そして、恐らくSAOの中でも最も心の腐った(と作者は思ってます)あのキャラクターも登場です。

それではどうぞ!


第38話 「元老院の真実」

セントラル・カセドラル 95階 『暁星の望楼』

 

「ううん……っ!?ここは…?」

「はぁ…はぁ…気が付いたか?」

「キリト…?まさかお前…私を背負ってここまで一人で登ってきたのですか?!」

「ま、まぁな…!結構大変だったんだぞ?」

 

右目の封印を破り、意識を失っていたアリスは目を覚ました時、自身が95階にいることに気付き、そして、キリトがここまで運んできてくれたのだと悟った。

 

意識を失った人を運ぶことがここまで大変だとは思っていなかったキリトは汗だくで息も絶え絶えの状態でやっとの様子で答えていた。

 

「ふぅ…気が付いたのなら、お礼の一つや二つ…」

「お、お前…!?」

「うん…?どうし「嫌だ!?お前、汗でびっしょりじゃないですか!?」…はぁ!?」

 

驚くアリスに何事かと思ったキリトは、遮った彼女の言葉に素っ頓狂な声を上げる。どういうことかとキリトが理解する前にアリスが騒ぎ出す。

 

「汗で私の服にシミができているではありませんか!?早く離れなさい!?」

「なんだと、この野郎…!」

「動くな、この馬鹿者!」

「いたぁ!?」

 

反論しようと顔を上げようとしたキリトだったが、動かれることを嫌ったアリスによって、頭を押さえつけられてしまう。整合騎士の腕力に抵抗できる訳もなく、キリトは床におでこを強打するのだった。

 

「いつつ…これがお礼のつもりだとしたら、恨むぞ…」

「…その…ごめんなさい。つい…」

「ふぅ…さいですか」

 

いきなりのこととはいえ、流石に悪いことをしたという自覚があったアリスは鎖を解きながら、キリトに謝罪する。強打したところが大丈夫かどうか確認しながら、おでこを気にしているキリトにアリスは気になったことを尋ねた。

 

「ところで…お前の仲間は大丈夫なのですか?」

「えっ…ユージオとフォンのことか?そうだな…フォンはイーディスと闘ったみたいだけど…」

「イーディス殿の剣は並みの剣士では防ぐはできません。仮にあのフォンという剣士が、もう一人の仲間…ユージオと手を組んで、イーディス殿を倒したとしても、彼らは一体どこにいるのでしょうか?」

「…もしあのまま二人が勝って先に進んだのだとしたら、80階から上に言った筈だし…

もしかしたら、この上に行った可能性もあるかもしれないのか」

「それはどうでしょうか…80階の雲上庭園から大階段を登ったのだとしたら、この階に到達する以前に最強の相手と遭遇した筈です」

「最強の相手…もしかして、さっきからよく話に出てくる騎士長って奴か?」

「ええ。伯父様…騎士長ベルクーリ閣下です」

「っ…(ユージオ…フォン…!)」

 

最強の騎士…あのアリスがそう評する相手に二人がぶつかったかもしれない…もし二人がここに到達するまでに敗れたとしたら…?そんな嫌な予感がキリトの頭をよぎっていた。

 

「二人とも…一体どこにいるんだ……あっ、そうだ…!」

「キリト…?」

「…システムコール…ジェネレート・アンブラ・エレメント…アドヒア・ポゼッション…オブジェクトID:WLSL703…ディスチャージ」

 

キリトの唱えた神聖術により、彼の右人差し指から小さな紫色の光球が放たれる。その光球はまるで何かを探すかのように周囲をフラフラと漂っていた。

 

「何をしているのですか?」

「青薔薇の剣がある場所を調べているんだ。ユージオがあの剣を手放すとは考えにくいからな。本当はフォンの大剣もサーチ…探したいんだが、あの大剣はIDが不明だからな」

「IDが不明…?そんな剣、聞いたことありませんよ!?」

「でも、本当なんだよ…おっと…そうこうしている内に見つけたみたいだな」

 

IDが不明な武器が存在するという事実にアリスから驚きの声が上がるが、それを説明し切る前に光球が青薔薇の剣の居場所を探知したようで、その場で制止していた。そして、ゆっくりと上昇していき、天井にぶつかったことで消滅した。

 

「上…?っていうことは、二人は騎士長を破ったってことなのか?」

「そんな…伯父様が敗れたというのですか…!?そんなことが…」

 

二人が上にいるかもしれないというキリトの言葉にアリスは事実が受け入れないでいた。そんな彼女の反応にキリトも何というべきか困ってしまっていた。だから、アリスの行動に反応するのが遅れてしまった。

 

「っ…!?伯父様!?」

「アリス!?おい…ちょっと待てよ!?」

 

騎士長…ベルクーリの安否を確かめるべく、下へと続く大階段を走り出したアリス。制止の声を掛けるキリトだったが、その声が聞こえていないアリスは先に行ってしまった。フォンとユージオのことも心配だったが、今のアリスを一人にはできないと思い、キリトはその背を追ったのだった。

 

 

時間は遡る…

 

 

(ふぅ…もうすぐ90階か……っ!?やっぱりまだ疲労が残ってるか…体がさっきから重く感じる)

 

80階でカーディナルと別れ、ユージオを追いかけるべく大階段を駆ける俺は、もう間もなく90階といったところで再び眩暈を覚え、手すりにもたれ掛かってしまっていた。

 

カーディナルの指摘通り、今の俺は満足に動ける状態ではないようだ。だが、それでもユージオの援護くらいはできる筈だと思い、体を叩くことで気合を入れ直し、89階の大階段を超える。

 

もしユージオがこの先に控えている整合騎士と闘い、敗れていたとすれば…そんな最悪の展開がどうしても頭から拭うことができず、俺は焦心のまま階段を駆け抜けていく。そして、90階へと辿り着いた俺の眼前にはこれまでも何度も見てきた大きな扉があった。

 

(…ユージオ…!無事でいてくれよ)

 

焦る気持ちに押され、俺は扉を開こうと触れるが、

 

「っ…!?冷たい…?まさか…!?」

 

扉の装飾部分から異常な冷気を感じ、一瞬手を引っ込めてしまった。よく見ると、扉の端か凍り付いており、隙間から冷気が漏れ出していた。その凍気に俺は嫌な予感を覚え、扉を開きにかかる。

 

扉はなかなか開かず、俺は疲労の色が濃い体で全体重を掛けることで扉を押す。すると、徐々に扉が歪な音と共に開き始めた。そして、開けた隙間から更に冷度を増した凍気が俺に体に流れ込んできた。

 

ようやく通り抜けられる程の隙間分、扉が開いた時、俺の目に飛び込んできたのは…

 

「…なんだ…これは…」

 

飛び込んできた光景は、部屋一面が凍り付いた異常な光景だった。間もなく日が沈ずもうとする部屋に残日で照らされた凍土が仄かに輝いており、一瞬その幻想的な美しさに目を奪われたが、俺はその凍土に自身の予想が間違っていなかったことを確信した。

 

「(間違いない…!これは青薔薇の剣の武装完全支配術だ……50階で見た時のものよりも明らかに効果が桁違いだ……まさか、記憶開放術を使ったの!?)ユージオ!どこだ!?ユージオ!!」

 

部屋全体を覆い尽くすように広がる凍土とそれに咲き誇る青薔薇から、俺はユージオが青薔薇の剣の記憶開放術を使ったのではないかと思い、部屋全体に聞こえるように大声でユージオの名を呼ぶ。

 

カーディナルから記憶開放術を安易に使用しないことは俺だけでなく、キリトやユージオにも忠告がされていた。武装完全支配術とは異なり、神器の記憶を全開放する記憶開放術は術式を覚えたばかりの者が使えるものではない…それがカーディナルの警告だった。

 

何故か武器の記憶を読み取れる俺は、大剣が変化した武器の武装完全支配術・記憶開放術を上手くコントロールできていたのだが、もしユージオがここで闘った際に術を使ったのだとしたら、ユージオ自身も唯では済まなかった筈だ。

 

ファナティオやイーディスの一件が俺の頭に蘇り、俺は部屋全体を見渡し、友の姿を探す。だが、ユージオやここであいつが闘った筈の整合騎士の姿さえも見当たらない。凍土から伝わる冷気に体を震わせ、嫌な予感に焦燥感が更に募る中、俺は声を張り上げる。

 

「ユージオ!!返事をしてくれ!?ユージオォ!!」

「………だ、れだ…」

「っ!?」

 

微かな声が聞こえ、俺はその気配を辿る。目を凝らすと、地面に埋まっているような形で位置する人物に俺はようやく気付いた。覆っていた凍土で気付いていなかったが、どうやらここは風呂場のようで、そこら辺に蛇口やらお湯を貯めるスペースの大きな窪みなどが見受けられた。

 

どうやら俺の声に気付いた人物は風呂だったスペースにいたために、凍土に埋まっているように見えたらしい。もしかして、ユージオかもしれないと思った俺はその人物の元に駆け寄るが…

 

「…これは一体……大丈夫ですか?」

「……あん、まり…だいじょ、ぶとはいわ、ねえな」

 

その人物に駆け寄り、その人がユージオでないことに気づき落胆しつつも、俺はその人物の姿に思考が止まってしまった。なんとか、絞り出すように声を出して、その人に安否を確かめるが、しゃべるのもやっとの状態のようで、男は俺の問いに答えてくれた。

 

…その男はまるで石にされかのように、服ごと固まっていたのだ。生きているのかと思うぐらいで、むしろこの人がゴーレムだと言われる方が納得がいく程、肌や髪…全てが石と化していたのだ。

 

「お、まえ、さん……だ、れだ?」

「っ…体が…!?」

 

やっとの状態で話す男の体が徐々にひび割れていく。かなり無理をしているらしく、動くどころか、話すだけで体にヒビが入っていく男に、俺はこちらが話の主導を取った方がいいと思い、問いに答え始めた。

 

「俺はフォンって言います。最近カセドラルに連れてこられた罪人の一人です」

「そう、か…あの、こお、りのぼう、ずの…つれ、か」

「氷の坊主…ユージオはやっぱりここに来たんですか!?」

「っ…!?ちょ、っとま、ってな…ぐぅぅ!?」

 

男はそう言って力を込め始める。その度に体にヒビが更に走る。俺はいきなりの男の行動に驚き制止しようとするが、その前に男は目を開き、俺を見ていた。

 

「ふぅ……これで、少しは話しやすくなったか」

「なんて無茶を…!貴方の体が…!」

「…そんなことよりもだ。時間がない…よく聞け…お前の連れ……俺を相打ち覚悟で打ち倒そうとしたユージオという坊やは、元老長チュデルキンが連れて行った」

「っ!?」

 

どうやら話しやすくするために、自身の顔を動かそうと先程力を込めたらしい。俺の心配を余所に、男はユージオの行方を語ってくれた。どういうことかと考えていると、俺は男の言葉にまさかと思い、尋ねてみることにした。

 

「貴方も整合騎士なんですね…そして、ユージオは貴方とここで闘った」

「ああ、そうだ…俺は、整合騎士を束ねる騎士長…ベルクーリ・シンセシス・ワンだ」

「…ベルクーリ…?もしかして、あの青薔薇の剣が出てくるおとぎ話の英雄ベルクーリ?」

「…やっぱりそうか…お前さんもその話を知ってるんだな…ということは、あの小僧の話は正しかったってわけか…」

「…一体貴方とユージオに何があったんですか?」

 

俺の問いに男…騎士長ベルクーリは答えてくれた。

 

ここで彼はユージオと闘い、特攻覚悟での青薔薇の剣の記憶開放術を受けたのだと。そして、天命の最大値で優るであろうユージオの覚悟に圧倒されたと…

 

その時、ユージオに聞かされたのだという…整合騎士の秘密について…自身が天界から召喚された騎士などではなく、人界の民から記憶を奪われた一人の人間なのだと…そのことについて、違和感を覚えていたベルクーリはユージオの言葉に同感を覚えるところがあったらしく…

 

その時、元老院チュデルキンが介入してきたのだという。

 

「そのチュデルキンって奴が貴方をこんな風にしたのですか?」

「そうだ…奴は最高司祭殿の次に権限を持つ…人をこんな風に石に変えることもできる…そして、奴は俺と坊主の神聖な決闘を汚しやがったのさ…!!」

 

…この人なりに騎士として、ユージオと正々堂々と闘おうとしたのだろう。その声色からは悔しさと怒りが感じられた。それ程に、自身の命を懸けたユージオの覚悟を彼も認めていたのではないかと思った。

 

「それで…ユージオは上に連れて行かれたってことなんですね?」

「ああ、そうだ…だから、急いで追いかけろ…まだ間に合う筈だ…」

「間に合う…?それはどう意味ですか!?」

「おそらく最高司祭殿の居室だ…いそ、げ…あの坊やが、記憶の、迷路に、惑わされて、しま、う…おれた、ち…みた、いに…」

「っ…ありがとうございます…!でも、どうしてそのことを俺に…?」

「お、まえ、たちは…ふぁなて、ぃおを…たすけ、てくれ、たとき、いた…その、れいだ…はやくい、け……っ…」

 

その言葉を最後にベルクーリは再び眠りについてしまった。やはりかなりの無理をしていたようだ…その言葉を受け、俺はベルクーリに一言を掛けてから、その場を去ることにした。

 

「……本当にありがとうございます。それと…俺と闘ったイーディスも無事です。アリスもです。だから…後のことは任せてください」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

物言わぬベルクーリにそう告げ、俺がユージオを追いかけようと上に続く大階段へと向かおうとした時だった。何かに呼ばれるような感覚に襲われた。俺はその感じに従い、そちらへと歩み寄ると…

 

「これは…青薔薇の剣…」

 

凍土に埋もれた青薔薇の剣が放置されていた。その剣が呼びかけたことに何かの意味を感じ、俺は大剣で氷を砕き、青薔薇の剣を凍土から取り出す。

 

「お前も…主人を追いかけたいんだな。今、連れて行ってやる」

 

青薔薇の剣にそう問いかけ、腰に差し込んでから俺は今度こそ上へと続く大階段へと駆け出した。

 

大階段を駆けあがり、95階に辿り着いた。95階は吹き抜けのフロアとなっており、夜空の星が何にも邪魔されることなく見渡すことができる絶景のフロアだった。

 

もしかすれば、外壁から登ってきたキリトたちがいるかもしれないと思ったが、その姿は95階にはなかった。本来ならば、キリトと合流してからの方が間違いなく良いのだろうが、ユージオが最高司祭に囚われたとなれば、一刻の猶予もない状況だった。

 

後からキリトが追いかけてくれることを信じ、俺は96階へと続く大階段へと進んだ。96階へと進む中、俺はベルクーリが話していた元老長チュデルキンという人物の存在が引っ掛かった。

 

(それにしても…アドミニストレータには腹心の部下がいたのか。カーディナルの話からすると、かなり慎重なタイプだと踏んでいたんだが……そんなアドミニストレータが権限を預ける程、頭が切れるのか…それとも、何か別の理由があるのか…)

 

この先にそのチュデルキンという奴が控えている可能性を考慮しつつ、俺は警戒しながら先へと進んでいく。本音を言うと、今の俺の状態からして戦闘は避けたいところだが、そればかりは会敵してみないことには何とも言えないところであった。

 

96階は思ったよりも狭いフロアだったらしく、これまで登ってきたカセドラルとは雰囲気が大きく異なっていた。今までのフロアは窓から差し込む陽光と大理石でできた神聖な感じがしていたのだが、96階からはどこか厳格があり、だが、どこか圧迫感を感じる造りになっているような気がした。

 

重苦しいと言えばいいのか、どこか閉鎖的と言えばいいのだろうか…薄暗い廊下を歩きながら、そんなことを思っていた俺は扉の前へと到着した。これもまたこれまでとは異なるデザイン…機械のような装飾が感じられる扉を前に、俺はいつでも大剣を抜けるように準備し、覚悟を決めて扉を開いた。

 

外気の空気が一気に流れ込む音ともに扉を開いた先は…これまた奇妙な空間が広がっていた。アンダーワールドではほとんど見たことがない、まるで実験場のような装飾が施された廊下に、少し先には開けた明るい空間が目に入った。

 

どうやら襲撃の気配もなく、進むことを決めた俺はその時、何かの声がすることに気が付いた。近づきながら、その内容に耳を澄ませてみると…

 

「これは…神聖術か?でも、攻撃術の類いじゃない…?」

 

警戒を一段と強めながら。俺は大剣を抜いて進み続ける。そして、声がどんどんと聞こえてくる広場へと到着した時だった。

 

「………なん、だよ…これ…!?」

 

その広場には異様だった…これまで様々なものを見てきたが…その中でも、今、俺の眼前に広がっている光景は明らかに異常なものだった。

 

壁の至る所に、カプセルに入れられた人間の姿がそこにはあったからだ。

 

しかも、普通の人間ではない…真っ白な肌に白目、髪もなく、ぶつぶつと神聖術を唱え続ける者たちは明らかに普通の状態ではなかった。まるでその人の意思などそこには存在しておらず、ただただ行動しているだけの光景は常軌を逸していた。

 

その光景に言葉を失っていた俺は、ようやく気が付いた。カプセルに閉じ込められている者は、俺がウンベールを斬り殺そうとした時に現れた生首だと…!

 

「…まさか…こいつらはずっと禁忌目録違反を見張り続けているのか…?まるでこれじゃ…『ジリリリリリリリリリリ!!!』なんだ…!?」

 

操り人形じゃないか…そう言おうとした俺の言葉は、広場に響き渡ったベルにより遮られた。ここに侵入したことに気が付かれたのかと思った俺は周囲を警戒するが、そのベルが鳴ったのは別の意味でだった…そして、それは更に常識を逸したものだった。

 

「……ぐっ…うっ…!?」

 

天井から降りてきたスロープから、生首たちに食事が与えられるという、あまりにも衝撃的すぎるシーンだった…人形どころか家畜のような彼らの扱いに、俺は吐き気を催し、思わず口を押えてしまった。そして、その気持ちを抑え込み湧き上がってきたのは、アドミニストレータへの怒りだった。

 

(人間を、人をなんだと思ってやがる…!?何を思いつけば、ここまでのことができる!?それでも…これがこの世界を維持してるルールだとでもいうのか…!そんなの……腐りきってる!)

 

怒りで一杯になりそうな頭をなんとか抑え込み、囚われたユージオまでもが、アドミニストレータの手に落ちる前になんとかしなければと俺は先へと進もうとした。その時、奥の部屋から気持ちの悪い声が聞こえてきた。

 

「あああぁぁ!?そんないけません!?」

(誰だ…?もしかして…元老長か…?)

 

声の持ち主は何故か酷く興奮しており、何かを喚いているようだった。俺は声の主が件の元老長ではないかと思い、奥へと進んでみることにした。どんどんと鮮明に聞こえてくる声は何かを恐れながらも、どんどんとテンションが上がっているように感じられた。

 

そして、俺は声の主がいる部屋へと辿り着いた。辿り着いた部屋は…これまた珍景な部屋だった。部屋の所々に散らばったぬいぐるみやおもちゃ、天井から垂れ下がっている天幕にカラフルな家具の数々…まるでサーカスのテントの中に設けられた子供部屋…それが部屋を見た俺の感想だった。

 

その部屋の中心に声の主はいた。

 

「あああ!あ~~~~!?おおぉ…そんな…いけません…いけません、陛下!?」

 

さっきから何を言っているのか、全く意味が不明だが…声の主は何かを見ているようで、完全に興奮し切っていた。その主の見た目は…この部屋にピッタリというべきなのか…まさしくピエロだった。

 

真っ白肌に、赤と青の二色で構成された帽子と服は見た者からすれば、その人をピエロだと思わせるには十分すぎる格好だった。ピエロは見ているものに夢中なようで、俺の存在には全く気が付いていないようだった。

 

奇襲を仕掛けるなら今しかない…そう思った俺は大剣を抜き、素早く奴の背後を取った。

 

「動くな…!」

「っ…な、なにぃ!?」

 

背後からピエロの首に大剣を突きつけた。完全に不意を突かれたピエロは、全く動くことができずに体を硬直させていた。

 

「…少しでも抵抗したり、神聖術を発動させようとしたら、あんたの首をこのまま斬る。分かったな?」

「な、なにをする、貴様!?あたしが元老長だと分かっての狼藉なのですか!?」

「へぇ…やっぱりあんたが元老長だったか。死にたくなかったら、俺の問いに正直に答えてもらおうか?」

 

ピエロ…元老長チュデルキンは脂汗を流しながら暴れようとしたが、俺が大剣を首筋に強く当てつけたことで大人しくなった。

 

「お、お前は…!?どうして罪人がここにいるのですか!?」

「さぁ?残念ながら、整合騎士は倒してきたぜ。それとも、こんなガキに整合騎士全員が負けるとは思ってもなかったか?」

「ちぃ!?使えない人形共が…!」

「答えろ!ユージオは…ベルクーリと闘っていた剣士はどこだ!?」

 

明らかに整合騎士を見下している発言に再び怒りが湧くも、それよりも今はユージオのことを聞きだすことが先決だった。だが、俺はチュデルキンを甘く見すぎていた。

 

「ユージオ…?ああ!ベルクーリと相打ちを狙った、あのバカガキのことですか!ヒヒィ!!さぁね…一体どこにいるんでしょうね!!」

「正直に答えろと言った筈だ…!悪いが、今の俺はかなり機嫌が悪いんでね。あんたの天命を削ることどころか、腕の一本や二本ぐらい斬り飛ばすぐらいは躊躇しない自信があるぜ」

「ホーホホォ!!罪人はやはり罪人ですね!そんなことで、あたしを殺そうとするなんて…あーあ、これだからバカの相手はしたくないんですよ!」

(……いやに冷静だな。何かを待ってる…?)

 

殺気を込めた俺の脅しに全く動じることのないチュデルキン。それどころか、重ねて挑発してくる奴の様子に俺は何か違和感を覚えていた。俺が攻撃するのを誘っているような仕草に、俺は少し冷静になり、再び問い掛け始めた。

 

「馬鹿で悪かったな。でも、そんな馬鹿な俺でもあんたを斬ることには全く戸惑いはないぜ?早くユージオがどこにいるのか吐いた方がいいんじゃないのか?」

「ほう!元老長たるあたしを斬りますか!まぁ、そうなったら、お前の知りたいことが知れなくなるだけですが、斬りたければ斬るがいいでしょう!オーホッホッホッホッホッ!!」

(…間違いない。こいつは何かを狙っている。でも、一体何が目的なんだ?)

 

俺を挑発するチュデルキンの余裕な態度に、俺は奴が何かを企んでいることを確信するも、それが何かが分からず眉を顰める。俺がどうするべきかと思案しているとチュデルキンが言葉を発した。

 

「それにしても…そんなにあのユージオというガキが大事ですか…人形の30号を取り戻しに来たあのガキのことが?」

「…なんだと…お前、今なんて言った!?」

「うーん?人形のことを人形と言って、何かおかしいですか?」

「っ…!?ふぅ……答えろ!どうして、ユージオがアリスを取り戻しにきたことを知っている!?」

 

一瞬、アリスを人形扱いしたチュデルキンの言葉にブチ切れそうになったが、怒りをなんとか抑えて、俺は奴が発した言葉の意味を問い詰めた。挑発に乗らなかった俺の姿にチュデルキンはため息を吐き、答え始めた。

 

「…ちぃ。案外冷静に話を聞いていましたか…それは知ってますよ。ここに連れてくるまで、うわ言のように、アリス、アリス…と呟いていましたからね!あたしは一発でピンときましたよ…このガキは30号と縁の深いガキだってね!

でも、ざんね~ん!!30号は強制シンセサイズを受けて、過去のことなど全く覚えていないというのに、それすら知らずに助けにきたとか…もう笑うしかありませんよ!!私の大切な人たちの記憶を消さないでと懇願する30号を強制シンセサイズした時もいい思い出でしたが、何も知らずに助けに来たあのガキの姿は新たな酒のつまみにできま…「それ以上喋るなァァァァァ!?」グフッ!?」

 

チュデルキンの下劣な言葉に俺は怒りのあまり、大剣を奴の体に突き刺してしまった。なんとかキレない様にしていたのだが、アリスの記憶を消したことを喜びの糧にし、ユージオの願いを侮辱した奴の言葉に、俺の我慢も限界を超えてしまったのだ。

 

だが、俺の予想に反し、チュデルキンの顔が笑ったかのように見えた。そして、その瞬間、奴の体が一気に膨れ上がったと思ったら、爆発を起こしたのだ。

 

「っ!?何だ…コホッ!煙幕!?」

「ホヒィー!!バーカ!バーカ!術式ばかりが芸じゃないんですよ~!このバ~カ!ホーヒィヒィヒィヒィヒィ!!!」

「くっ!?この程度の煙幕…はぁぁぁぁ!」

 

遠ざかっていくチュデルキンの罵倒と下品な笑い声を聞きながらも、俺は両手剣範囲ソードスキル〈サイクロン〉を放ち、剣圧で煙幕を吹き飛ばす。視界が晴れ、チュデルキンの笑い声が聞こえてくる階段へと駆け出した。

 

このまま奴を逃がすわけにはいかない。階段を駆けあがりながら、俺はチュデルキンの後を追いかけた。

 

「システムコール!ジェネレート・ルミナス……………」

 

神聖術を放とうとするチュデルキンの声に警戒を一層強め、俺は階段の出口へと飛び出した。神聖術の不意打ちが飛んでくると思っていたのだが、飛び込んだフロアにはチュデルキンはおろか、人っ子一人の姿さえもなかった。

 

「奴はどこに…いや、上に登る階段すらないだと……どういうことだ?」

 

周囲を警戒しながら見渡すが、奴の姿どころか上へと続く階段すらこの部屋には見当たらなかったのだ。だが、ここは登ってきた階数を考えると、99階…つまり100階のアドミニストレータの部屋に行くための通路がどこかにある筈なのだ。

 

何か特殊な仕掛けでもあるのかと思った俺は部屋の奥に奇妙な台座があることに気が付いた。そして、その上に位置する天井はぽっかりと穴が開いており、その台座が上へとつながるギミックなのだと、80階の昇降盤を思い出した俺はその台座に乗ろうと近寄ったのだが…

 

「っ……誰かが降りてくる…?」

 

100階から降りてくる物体に気が付き、俺は警戒を強める。まだ整合騎士が残っていたのかと思い、その人物を確認して…思わずその名を呼んだ。

 

「…ユ、ユージオ…!?お前、無事「君は誰だい?」…っ!?」

 

ユージオの発した言葉に俺は思わず息を呑む。その言葉を信じたくはなかったが、俺は最悪の可能性が頭に浮かんでしまっていた。

 

「な、何言ってんだよ…俺だ!フォンだ!分からないのか!?」

「……知らないね。ごめんよ、僕には天界の記憶がないんだ」

「嘘だろう…嘘だと言ってくれよ、ユージオ!?」

 

信じたくない現実を突きつけられ、ユージオの放った次の言葉に俺の願いは儚く打ち砕かれることになった。

 

「僕は整合騎士…ユージオ・シンセシス・サーティツー…最高司祭アドミニストレータ様を守る最後の剣だ」

 

ユージオが整合騎士にされてしまった…それは、俺はここまで苦楽を共にし、背中を預けて闘ってきた友と闘わなければならないことを意味していた。

 

 




多分読者の皆様は大体予想されていたと思いますが、
次回はフォンVsユージオとなります。
こういう展開でしたので、連日投稿したのも理由としてはあったりもしました(笑)

もちろん一筋縄ではいかない勝負な上、まさかの展開になりますので前後編でお届けする予定です。

それではまた。
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