剣がぶつかり合う戦場で、フォンの叫びが木霊します…そして、闘いは衝撃の展開へ……
それではどうぞ!
「僕は整合騎士…ユージオ・シンセシス・サーティツー…最高司祭アドミニストレータ様を守る最後の剣だ」
「…ユージオ…本当に覚えていないのか!?俺のこともキリトのことも忘れちまったのか!?ルーリッドの村を出てから2年間ずっと一緒にやってきただろう!」
「……さっきも言ったろ?そんなことは覚えていないと…でも、ありがとう。僕の剣を持ってきてくれて」
「な、何を…っ…!青薔薇の剣が勝手に…!?」
腰に差していた青薔薇の剣が振動したかと思えば、俺の元を離れ、何故かユージオの元へと飛んで行ったのだ。一体何事かと俺が動揺していると、ユージオがその現象について説明し出した。
「そう驚くことではないよ。これは『心意の腕』…古から整合騎士に呼ばれる秘術だよ。これはあらゆる神聖術とは異なる意思の力…使える騎士はほぼいないと言われてらしいけどね」
(『心意の腕』…つまり心意の力を応用したってことか!?)
青薔薇の剣を心意により手元に引き寄せた絡繰りは分かった。そして、諦めきれない俺はユージオを説得するべく言葉を投げ掛けた。
「止めろ、ユージオ!俺はお前と闘いたくない!」
「それはできないね。僕は君をここで倒す…それがあの人の望みだから」
「アドミニストレータの望みだと…!お前はそれでいいのか!ただ言われたままに剣を振るい、闘って…それに何の意味がある!?お前がここまで闘ってこれたのは、お前にも願いがあったからじゃないのか!?」
「闘うのに意味なんてどうでもいいんだよ…あの人は僕に欲しい物をくれるんだ。僕にはもうそれだけで充分なんだ」
「くっ…お前の欲しい物だと?それはお前の本当に欲しい物なのか!?思い出せ、ユージオ!お前は…お前の願いはアリスをその手に取り戻すことじゃなかったのか!その願いよりもお前が欲しい物は大切なのか!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺の問いかけにユージオは黙ってしまった。微かに記憶が戻ったのかという希望を抱いてしまうが、やはり現実はそう甘くはなかった。
「知らない…知りたくない…君のことも誰かのことも…嫌なんだ、もう…」
「…ユージオ」
友の拒絶の言葉に、俺はもう説得は不可能なのだと悟ってしまった。こうなってしまってはもう手段は一つしかなかった。ユージオが青薔薇の剣を抜くのと同時に、俺も大剣を背中から抜いて構えた。
「これ以上、君と話すことなどない」
「そうか…分かった。なら、この先は剣で語るしかないよな。お前は覚えてないかもしれないが、お前に剣技を教えた師の一人として、ここでお前に負けてやるわけにはいかない。だから……お前を倒す!」
互いに剣を構え、睨み合う。今思えば、こうしてユージオと本気で剣を交わすのは初めてだった。
だが、今のユージオは剣をぶつけ合っていたあいつとは別人だった…俺に対しても遠慮のない殺気と闘気をぶつけてくるのだ。その闘気に応えるように俺も全身から闘気を放つ。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
俺とユージオの気合が重なり、同時にソードスキルを繰り出した。両手剣ソードスキル〈アバランシュ〉と片手剣ソードスキル〈ソニックリープ〉がぶつかり合い、その場に斥力が発生する。剣をぶつけ合いながら、俺はユージオへと問いかける。
「どうしてだ!?なんでシンセサイズの秘儀を受けた!お前が剣術を身に着けて、ルーリッドを旅立って央都に来たのは大事な幼馴染のアリスを取り戻すためだろう!?そのお前が、同じことをされてどうする!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺の言葉にユージオは何も答えない。ソードスキルが相殺されたことで互いに距離を取り、その隙に俺は武装変換術を発動させる。
正直言って、体の限界が近づきつつあったが、反動よりも大剣を振り回す余力がなくなりつつあったので、俺は体力の消耗を抑えるためにも片手剣へと武器を変化させた。
「来い、堕天の剣よ!」
仮天混合剣『ルシファー』を手にし、俺は再度ユージオと剣をぶつけ合う。互いに一歩も譲らない剣戟のラッシュが続き、火花と共にぶつかる金属と互いの息遣いだけが空間に響き合う。5度目の剣戟の末、鍔競り合いのまま、俺はユージオへと言葉を掛ける。
「お前とこうして本気で闘うのは初めてだよな?けど、俺は何度もキリトと話してたよ。もし、俺たちが本気で剣を交えたりしたら誰が一番強いのかって…その時、俺はこう思ってたよ…剣を交えていく度にいつかお前に負けるんじゃないかって…俺やキリトを通り越していくじゃないかって……けど、今のお前は何だ!?闘う意味も持たず、目の前の敵を斬ることしか考えていないお前に、俺を倒す想像なんてこれっぽっちも感じないぞ!」
「…言いたいことはそれだけかい?剣で語ると言った割にはよく話すね」
「…そうかい!だったら、これはどうだ!!」
「っ!?」
俺は一気に剣に込める力を増し、ユージオのバランスを崩す。そのまま一瞬の隙を突き、左手で体術スキル〈閃打〉を発動させる。俺の奇襲に咄嗟に剣を引き、柄で攻撃を受け止めるユージオ…だが、後退りしたことで体制が崩れた。
「そこだぁ!はぁぁぁぁぁ!!」
「くっ…!?うおぉぉぉぉ!!」
俺の放った片手剣2連撃ソードスキル〈バーチカル・アーク〉に対し、ユージオは片手剣ソードスキル〈スネークバイト〉で迎え撃ってきた。互いの2連撃が相殺し合い、ノックバックが起こる。だが、俺たちの動きは止まらない。
「まだだ!ホリゾンタル・スクエア!!」
「……!」
反動をいなし、俺は秘奥義連携で立て続けに片手剣4連撃ソードスキル〈ホリゾンタル・スクエア〉を放つ。だが、ユージオも負けじと片手剣4連撃ソードスキル〈バーチカル・スクエア〉で相殺を図ってきた。平行4連撃と水平4連撃がぶつかり合い、恐ろしい振動が腕を襲う。
(まさか…秘奥義連携まで使いこなすなんて…しかも初めて見せた筈のホリゾンタル・スクエアを見切ったのか…!?)
ユージオには初見の筈のソードスキルを冷静に対処してきたことに驚きを隠せない俺。だが、その一瞬が命取りになってしまった。
「…サベージ・フルクラム…」
「何!?(3連撃目…!?)」
今まで2連撃まで限界だったユージオが秘奥義連携で3つ目の技…片手剣重3連撃ソードスキル〈サベージ・フルクラム〉が俺に迫っていた。
慌てて剣の軌道を見切り、なんとかソードスキルを捌くが、最後の一撃によって剣を持つ腕を上げられてしまい、俺の体はガラ空きになってしまった。
「…バースト・エレメント」
「っ…!?」
詠唱を省略したユージオが放った神聖術が俺を襲う。防御することもできず、暴風の直撃を食らった俺は吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。まさかの神聖術との重ね技に俺の体が更に悲鳴を上げる。
(嘘だろう…俺の知っているユージオの闘い方と全然違う…いや、これがユージオの才能だということなのか…!?)
なんとか痛む体を無理矢理起こし、俺は剣を構えながら今のユージオを分析する。これまで一緒に闘ってきた友の変貌ぶりに驚きつつも、何故か納得している自分がいた。
(剣技はキリト、神聖術との合わせ技は俺……まるで俺たちを合わせたみたいな感じだな。というよりも、ずっと俺たちの闘いを近くで見て、学んできたユージオだからこそか)
先程の神聖術といい、秘奥義連携といい、ユージオは本当に俺の予想を超えてくれる…それが今は最悪な形でこうして体感することになるとは思ってもみてなかったが…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(…今の俺にどこまでやれるか…俺の体、持ってくれよ…!?)
一瞬視界が揺らぐが、この闘いだけはどうしても負けられないと思い、俺は頭を振るって気合いを入れ直す。呼吸を整え、俺は再びユージオへと剣を向ける。
「さぁ…いくぞ、ユージオ!」
不用意なソードスキルは危険だと思い、俺は純粋な剣技でユージオに仕掛けた。一気に距離を詰め、上段から切り掛かるがユージオには難なく受け止めれられてしまう。そのままカウンターを繰り出してきたユージオの突きを剣でそらし、その反動を生かして回転斬りを放つが、それも青薔薇の剣でいなされてしまう。
そのままユージオの剣戟ラッシュが迫るが、俺は的確に全てを捌き切り、反撃にユージオを蹴り飛ばす。そして、背後に向かって下から斬撃を放つが、反応したユージオに躱されてしまう。
そして、俺の隙を突いたユージオの神速の突きが迫るが、俺も怯むことなく袈裟斬りを放つ。ユージオの左腕を剣が掠めると共に、俺の左頬を青薔薇の剣が掠めた。互いに出血するも、俺たちは止まることなく剣を交えていく。
俺が足払いを放つも、空中に飛んで躱すユージオ。そのまま上空から切り掛かってくるが、俺はその一撃を瞬時に後方に飛び躱し、再び飛び出す。片手剣の一撃がユージオの右足を捉え切り裂くが、すれ違い様に俺もユージオの反撃で左肩に斬撃を受ける。
激痛で息が一瞬止まるが、無理矢理体を動かし、タックルを奴にかまして乱闘に持ち込む。その勢いで完璧にユージオの背後を取った俺は片手剣ソードスキル〈バーチカル〉を放つが、
「くぅ…うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「はぁぁ!!」
咄嗟にユージオの放った両手剣ソードスキル〈バックラッシュ〉により、威力が相殺されてしまった。そのまま鍔競りになり、俺はユージオに問いかける。
「バックラッシュ…さっきの技はバルティオ流剣術秘奥義〈逆浪〉だな?」
「そうだよ…それがどうかしたのかい?」
「お前が普段使っていたのは片手剣を主体としたアインクラッド流だった筈だ。なのに、両手剣を主体とするバルティオ流剣術を何故知っている?…答えは一つだ。お前が傍付きとして仕えていたゴルゴロッソ・バルトー先輩から学んだ技だろう!お前は、その技を教えてくれた人のことも覚えていないのか!」
「そんなの知らないし、興味はない…僕はあの人だけを知っていればいい。あの人の為に剣を握り、あの人の敵を排除する為だけに僕は生かされているんだ」
(くっ…シンセサイズされたユージオには何を言ってもダメなのか!?俺の言葉じゃ…届かないのか…!?)
頑なにアドミニストレータに忠誠を誓うユージオに俺の心が折れ掛かる。こんな闘いを俺は望んでなどいなかった。ユージオとは一緒に笑って、泣いて…それでも一緒にここまで来たはずだった……いつか本気で剣を交える日を、俺は密かに楽しみにしていたのだ。
友を救うことができず、今の闘いに闘気をこれ以上起こすこともできない俺は思わず剣に込める力を抜いてしまった。そして、その隙を整合騎士となったユージオが見逃してくれる訳もなく…
「…アインクラッド流〈ノヴァ・アセンション〉」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
絶望に打ちひしがれる俺に高速の10連撃が迫っていた。気付いた時にはもう既に遅く、片手剣最上位ソードスキルが俺の体を八つ裂きにしていた。体の至るところから血が大量に流れ始め、最後の一撃をなんとか剣で受け止めるが、勢いを殺し切ることなどできるわけもなく、俺は部屋の壁へと叩きつけられた。叩きつけられた壁にひびが入ったことからも、その威力が今までの技とは段違いであることを物語っていた。
「……大口を叩く割には大したことなかったね。殺し合いの途中で気を抜くなんて…咄嗟に剣で致命傷は全て避けたみたいだけど、その傷じゃもう闘うことはできないだろう?」
「ぐぅぅ…ごふぅ…!?」
斬撃のダメージも加わり、遂に体が限界を迎えてしまった。武器も大剣へと戻ってしまい、俺はもう立ち上がるのがやっとの状態だった。それでも、今ここで諦めたくないという一心だけが俺を支えていた。だが、そんなことなど知らないユージオは俺に非情な一撃を放った。
「エンハンス・アーマメント」
その式句と共に、青薔薇の剣の完全武装支配術が発動した。剣から生み出された永久凍土が迫るも、今の俺に避けることなどできる筈もなく、すぐさま体が青薔薇と氷に囚われてしまう。
「ぐぅ!?く、そぉぉ…!?」
「無駄だよ。その氷を振りほどくことはできない…君はここで死ぬんだ」
「あき、らめるか…俺はお前とは違う!俺は諦めない…!お前みたいに逃げたりしない!」
「…逃げる…?」
その言葉に初めてユージオが反応した。徐々に体が氷に覆われていくが、そんなことなどお構いなしに言葉を続ける。
「そうだ!知りたくないなんて言って、お前は恐れているだけじゃないか!?見たくないもの、聞きたくないものを退け、ただ逃げてる臆病者だ!デュソルバートと向き合って、整合騎士の在り方について怒りを抱いていたお前の方が何百倍も勇敢だった!そんなことも覚えていないお前は「うるさい!?」っ…!?」
俺の諫言に、整合騎士と化したユージオが初めて叫んだ。叫びと共に頭を抱えるユージオが苦しむのに連動するかのように青薔薇の氷も徐々に勢いを無くしていく。
「うるさい…!うるさい、うるさい、うるさい!?お前に…僕の何が分かる?!もう嫌なんだ…傷つきたくない!あの人の愛があれば…!あの人がくれる愛さえあれば、僕はもう十分なんだ!?だから…邪魔をするなぁぁぁ!?」
「っ…うううううぅぅぅ!?」
絶叫と共に青薔薇の剣を俺に向けて突き出したユージオ。その動きに合わせるかの如く、先程とは全く異なる勢いで氷が俺の体を侵食していく。
「愛、だと…!?それはお前が求めた人の愛なのか!?お前が本当に欲しかったのは…!」「黙れぇ!?何も知らないくせに…!いつもそうだ……僕は臆病で、弱虫で…だから彼女も僕を見てくれないんだ…!」
「ユージオ、お前…!?」
断片的な記憶が戻ったのか、ユージオの言葉に俺は僅かな希望を持つが…もう既に氷が俺の首元まで迫っており、一刻の猶予もない状態だった。
「思い出せ、ユージオ!?お前は…「うるさい!?もう聞きたくない!凍ってしまえ!?」がぁ!?ぐぅぅ…ユー、ジオ…!?」
遂に頭部まで氷に包まれてしまい、俺は薄れゆく意識の中、彼の名を呼んだ。最後に聞こえてきたのは…
「僕は…もうあんな思いはしたくないんだ…」
そんな友の後悔の言葉だった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
(ここまでなのか…ユージオも救えず、アリスも助けられず、キリトを一人置いて…俺は死んじまうのか…)
身体を動かすこともできず、真っ暗な空間で俺は後悔していた。右手には、最後まで握っていた大剣の感覚が残っていたが、それを感じられることも時間の問題だった。
(…こんな結末しかないのか…俺はなんて無力なんだ…誰も助けられない…これが運命なのか…?)
自問自答しながら苦悩する…最後まで贖って、闘って、その結末がこんな残酷なものでいいというのか…それを……俺は認めたくなかった。
(傲慢かもしれない…偽善かもしれない…それでも俺は…諦めたくない!ユージオのことも、この世界のことも…助けられるものは助けたい!それが俺自身を滅ぼすことだとしても、俺は負けたくない…!)
無駄だと分かっていても、動かない身体へと力を込める。
(これが運命だというのなら、これが決められた結末なんだとしたら…そんなものは俺がブチ壊してる!!俺は……未来を諦めたくない!!!)
その思いに応えるかのように、大剣から今まで見たことのない量の光が溢れ出した。その光に包まれ、俺の意識は……
〈Other View〉
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
完全に氷漬けになったフォンを見ながら、ユージオは言葉に表すことのできない虚無感に襲われていた。脳裏に蘇るのはフォンの言葉だった。
『愛、だと…!?それはお前が求めた人の愛なのか!?お前が本当に欲しかったのは…!』
(僕が欲しかったのは…一体の誰の愛だったんだ…?)
フォンの言葉がユージオの胸にしこりを作っていた。その言葉の真の意味を知りたく、アドミニストレータの元へと戻らなければならない筈が、彼の足をこの場に縫い付けていた。
ユージオがアドミニストレータにシンセサイズ…心を奪われてしまったのは理由があった。それは、アドミニストレータによって、見たくなかった現実を、虚実を交えて思い出させられたからだった。
『思い出させてあげるわ…貴方が心の深いところに仕舞い込んで、忘れてしまった本当の記憶をね?』
チュデルキンの手により100階へと連れてこられたユージオはアドミニストレータの眼前で意識を取り戻した…だが、アドミニストレータの言葉と術によって深層意識へと誘われてしまったのだ。そして、蘇ったのは幼き記憶…まだアリスがルーリッド村のいた頃の記憶だった。
(フォン、どこに行ったんだろう?安息日だから、一緒に教会に勉強に行こうかと誘いに言ったら留守だったし…)
ユージオは朝から見かけないフォンの姿を求めて、街を探し回っていた。アリスの話に少しでもついていきたいと思っていたユージオは暇があれば、神聖術の知識をつけるために教会に本を読みに行っていた。
サボりがちなキリトと違って、そういう類に興味があったフォンもユージオに付き合うことが多かったのだ。今日もフォンを誘おうと思っていたユージオはフォンを探す。
(う~ん…もしかしてキリトとどこかに行っちゃったのかな?しょうがない…今日は僕一人で教会に…あれ、あれは…)
もうそろそろ諦めて、一人で教会にでも行こうかと思っていた時だった。商店街で物色しているフォンの姿を見つけたユージオ。すぐさま声を掛けようとしたが、その時、店の奥から姿を現したのは…
「ゴメン!お待たせ、フォン!」
「いいや、全然待ってないぞ?それで、良い物は見つかったのか?」
(ア、 アリス…?)
まさかの人物…アリスが現れたことにユージオは声を掛けることを躊躇ってしまった。咄嗟に二人に見つからないように物陰に隠れてしまったが、二人はユージオに気付くことなく楽しそうに話していた。
「う~ん…やっぱり駄目ね。ピンとくるものがないのよね」
「そうか…なぁ、だったらいっそうのこと、俺たちで作らないか?」
「えっ…でも、できるかしら?」
「確かに金属製のものだと難しいと思うが…でも、木材を元にしたものなら、子供の俺たちにも出来る筈だよ。デザインはアリスが考えて、俺が設計する。キリトには肉体労働で頑張ってもらおうぜ!」
「…それなら確かにできそうね!よ~し!それなら、早速キリトにも話さないとね!」
(そんな…フォンとアリスが…そんなこと…)
笑顔を浮かべるアリス。その相手であるフォンの顔も楽しそうだった。その光景は幼きユージオにある種の感情を湧かせてしまった。
『…見たでしょう?あの娘は貴方一人じゃない…他の男にも愛を注いでいるのよ?』
その甘言にユージオは思わず首を振ってしまう。だが、アドミニストレータは更に残酷な光景を見せつける。場面は打って変わり、森の中…別の日にキリトの姿を探し求めていたユージオの視線に入ってきたのは…
「あっ…アリスにキリト…!ここに…っ!?」
「なぁ…そろそろ戻らないか?」
「駄目よ!キリトはサボってばっかりでこんなに時間が掛かってるんだから!フォンはもうとっくに自分の分を仕上げているのよ?私たちがフォンを待たせているの分かってる?」
「でも、そろそろ戻らないとユージオにバレちゃうぜ?」
「…まだ大丈夫よ。もう少し、もう少しだけ…ね?」
(バレる…?何が…キリト…アリス…?)
聞こえてきた言葉と睦ましく互いに肩を寄せ合うキリトとアリス。先日見かけたフォンとアリスのデートと同じように、ユージオの心をどす黒い何かが侵食していく。そして、その心に揺さぶりをかけるように再び悪魔のささやきが聞こえてきた。
(うそだ…こんな記憶は…全部嘘だ…!?)
『ほら、ね?もう分かったでしょ?あの娘の愛すら貴方一人のものじゃないのよ?ううん…そもそも最初から貴方の分はあったのかしらね?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
見たくない現実…認めたくない記憶…それを虚実を交えて見せられてしまったユージオの心をアドミニストレータは巧みに誘導していく。
「でも、私は違うわ。ユージオ、私が貴方を愛してあげる。貴方一人だけに私の愛を全部あげるわ」
「…僕だけを…?」
「そう…貴方だけをよ。こっちに来るのよ?そして、貴方は初めて愛される感情を知るのよ?だから……貴方の心を私に委ねて?」
「…………はい」
その誘惑に、遂にユージオの心も誘われてしまった。ここまでの闘いでユージオの心は疲れ切ってしまっていたのだ。フォンの懸念通り、心の隙を突かれ、思い出しくない記憶を見せつけられたユージオが折れてしまうのも無理はない話だった。
(…いや…僕を愛してくれる人はあの人だけだ。あの人がいれば、僕は他には何もいらない。そうだ…あの人のところに帰らないと…)
意識を現実に戻したユージオは頭と胸に掛かっていた靄を振り払い、降りてきた昇降盤に乗ろうとした。その時だった…背後から妙な気配を感じた。
(何だ…?今一瞬、熱気を感じたような…)
振り返り背後を確認したが、そこには氷漬けにされたフォンと、氷に咲く青薔薇の花々だけがあるままの状態だった。気のせいだったのかと思い、再び戻ろうとした時だった。ユージオはそこでようやく異変に気が付いた。
(…なんだ…この熱気は!?あの剣士からとんでもない熱が…!)
氷漬けになっているフォンからとんでもない熱気が漏れ出していたのだ。永久凍土の氷から水蒸気が発生している程の高温に、ユージオは驚きつつもすぐさま動いた。
「氷漬けにされたのにまだ動けるのかい?なら、今度こそ止めを刺そう…君が二度と動けなくなるように」
その言葉と共に青薔薇の剣を構え、ソードスキルを発動させる。片手剣ソードスキル〈ホリゾンタル〉で氷ごとフォンを切り裂こうとする。だが、その一撃はフォンに届くことはなかった。
「っ!?な、何だ!?」
大剣から尋常ではない炎が飛び出し、ユージオを吹き飛ばしたのだ。その炎の勢いに驚きながらも、熱さを感じないことに気づいたユージオ。
だが、その噴き出した炎はどんどんと形を形成しき、遂に8枚羽の不死鳥となった。そして、氷漬けになったフォンへと舞い降り、
「…お前が…」
「っ…!?」
炎の中から聞こえてきた声にユージオは目を見開く。一瞬の内に青薔薇の氷を溶かし尽くした炎を纏い、少年は言葉を続ける。
「お前が…俺たちを忘れようが…!例え、お前自身の願いを忘れようが…!俺はお前のことを覚えてる!お前の願いを忘れさせなんてしない!
ルーリッド村で、必ず戻ると約束したセルカのことを!
修剣学院で指導をしてくれたゴルゴロッソ先輩のことを!
別れ際までお前のことを心配してくれたティーゼのことを!
そして…お前が一緒に帰ると誓った…アリスのことを!!」
その言葉と共に纏っていた炎を、大剣から変化させた黒い刀身の刀で振り払い、フォンは叫ぶ。
「お前が思い出せないというのなら…お前の友として俺が思い出させてやる!!…お前が思い出すまで、俺は諦めない!!絶対に思い出せてやる…ぶっ飛ばしてでも!」
「……!?」
纏った炎がフォンの体で衣となり、新たな姿へと変わる。彼が持つ刀も今まで変化させてきた武器とは何かが異なる力を発していた。炎の様な真っ赤な色に紫雷のような模様が所々に散りばめられた衣を纏い、フォンは光を反射する刀をユージオへと突きつける。
「さぁ…こっからが本番だ!!!」
そう宣言するフォンの左目は銀色に変化していた。
●オリジナル武器解説
仮天混合剣『ルシファー』
片手剣のカテゴリーに属する武器。柄には羽と華が集結したような豪華な装飾がなされている直剣。
使う手に堕天使の加護と力を与えるとされている神剣。使用者の力を底上げするが、この剣には堕天使の力だけでなく、魂までもが封印されていると言われており、その力は未知数である。
青薔薇の剣と互角に打ち合える性能だったが、フォンが本心では迷いを持っていたこと、度重なる激闘での疲労により真価を発揮できずに大剣へと戻ってしまった。
フォンが大剣の真意をまだ理解できていないため、十二分に力を発揮できていないが、武装完全支配術は敵の秘奥義を無効化して倍返しの一撃を繰り出すカウンター、記憶開放術は堕天使の拳を召喚して、敵味方問わず辺りを荒野へと変える程の拳のラッシュを降らせる。
モチーフは『ペルソナ3』から主人公が使う最強武器の一つ。ちなみに作者が好きなペルソナは『イザナギ』と『ノルン』。
フォン、覚醒…
そう簡単にやらせはしませんよ、オリ主は!!
ちなみに、フォンは迷いが剣に出やすいタイプだったりします。大体負ける時も、ヒースクリフに秘密を暴露されたり、ユウキに対して感情的になりすぎた結果だったりします。
なので、剣で語ると言っておきながら、ユージオと闘うことにまだ迷いがあったせいで負けかけたという形です。
なので、次回はフォンも容赦なしの死闘決着となります。
最後の武器やフォンの変化した左目は次回以降解説します。
それではまた!
ケチャップの伝道師さん
こちらの作品にも評価をつけて頂き、ありがとうございます!