ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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詰め込みに詰め込んだ長文となっております。
アドミニストレータ様、絶好調となっておりますので、暴力・蹂躙シーンが苦手な方はお気を付け下さいませ。

それでは、運命の第43話をどうぞ!


第43話 「剣が映し出す世界」

地上のカーディナルを見下ろしながら、余裕の笑みを浮かべるアドミニストレータは彼女目掛けて話し掛けた。

 

「そろそろ来る頃だと思ったわ。その坊やたちをいじめていれば、いつかはカビ臭い穴倉から出てくると思ってた」

「ふん!しばらく見ぬ内に随分と人間の真似が上手くなったようじゃな」

「あら…そういうオチビさんこそ、その可笑しな喋り方は何のつもりなのかしら?200年前、わたしの前に連れて来られた時には、心細そうに震えていたのに…ねぇ、リセリスちゃん?」

「わしをその名で呼ぶな、クィネラ!わしの名はカーディナル…貴様を消し去るためだけに存在するプログラムじゃ!」

「フフッ、そうだったわね。そして、私はアドミニストレータ…全てのプログラムを管理する者」

 

口論の内容がちょっと子供じみてないかと、姉妹喧嘩レベルじゃないか…と思っても、とてもそんなツッコミを入れられる雰囲気ではなかった。

 

「挨拶が遅れて悪かったわね、オチビちゃん…貴女を歓迎するための術式を用意するのにちょっと手間取っちゃったものだからね!」

「「「「「っ!?」」」」」

 

アドミニストレータの右手から放たれた邪な雷が周囲一帯に一気に拡散し、カセドラルの窓が全て割れた。そして、外の空間が歪み、闇のような景色が広がっていった。

 

「貴様…!アドレスを切り離したな!?」

「200年前、あと一息で殺せるというところで、お前を取り逃したのは、確かに私の失点だったわ、オチビさん?」

「っ!?昇降盤まで…!?」

 

カーディナルの言葉から察するに、おそらくアドミニストレータはセントラル・カセドラルとアンダーワールドを、大図書室の様に切り離したのだろう。そして、指パッチンで行使したシステムコマンドで、昇降盤も消すことで下の階層へと逃げられない様に、カーディナルの退路を完全に断ったのだ。

 

「だからね…私はその失敗から学ぶことにしたの。いつかお前を誘い出せたら、今度はこっち側に閉じ込めてあげようって…鼠を狩る猫のいる檻の中にね」

「猫と鼠のう…この戦力差では、どちらが鼠で、どちらが猫かが分からぬと思うが?何せ。我々は四人、そして、貴様は一人なのじゃからな」

「四人対一人…?いいえ、その計算はちょっとだけ間違ってるわね」

 

アドミニストレータの余裕な態度…その真意がようやく分かった。だが、それがあまりにも絶望的すぎる現実だった。アドミニストレータの言葉に従うように、カーディナルが雷撃を放ち、真っ黒こげにした筈のソード・ゴーレムが立ち上がったのだ…雷撃などまるで効かなかったかのように、金の巨体を復活させて俺たちへと立ちはだかったのだ。

 

「そんな…馬鹿な!?」

「カーディナルの攻撃が…全く効いていない!?」

「アハハハ!いい表情ね、オチビちゃん!」

 

絶句するカーディナル…俺自身も傷一つ負っていないソード・ゴーレムが顕在していることに、言葉を失っていた。そんな俺たちを見て、高揚したアドミニストレータの笑い声が部屋に響いた。

 

「正しくは、4人対300人なのよ?私を加えなくてもね」

「300人…?それはどういう…っ!?」

「貴様、なんと…なんという非道な真似を…!?」

 

アドミニストレータの放った言葉に、キリトとカーディナルが何かに気付いたようで、驚きを隠せないでいた。どういうことかと俺が考えていると、

 

「その300人…その者たちは、本来貴様が守るべき民たちではないのか!?」

「っ…!じゃあ、ソード・ゴーレムを構成する術式を支えているのは…!?」

「…民?民って、人間…?」

「人、だというのですか…あの怪物が…?」

 

カーディナルの悲鳴に近い言葉で、ようやくその真の意味を理解した俺は、大剣を握る手に力が籠った。ユージオとアリスが言葉を詰まらせる中、怒りが頭と体を駆け巡り、心臓の音が激しくなっていた。

 

「守るべき民とか、私がそんな低次元なことを気にするわけないじゃない。私は支配者よ?私の意志のままに支配される者が下界に存在するだけでいいのよ!人だろうと、剣だろうと大した問題じゃないわ…」

「お前…何が支配者だ…人を、命をなんだと思ってやがる!?」

「フフッ…何をそんなに怒っているの?数多の民から、たかが300個程度のヒューマンユニットデータを物質変換したくらいでしょ?むしろ、私の忠実なるゴーレムの糧となれたことに感謝してほしいくらいだわ」

「ぐっ…ぐぅぅ…!」

 

その言葉に、俺は歯を噛み砕きそうな程に怒っていた。その姿が…オーシャン・タートルでの菊岡の姿とダブって見える程、今の俺の思考は怒りに支配されかかっていた。

 

「たかがじゃと…!?」

「そうよ。これはプロトタイプ…いやったらしい負荷実験に対抗するための完成形を量産するためには…ざっと半分くらいは必要かなって感じだわ」

「半分じゃと…?」

「人界に存在する約8万のヒューマンユニットの半分…それだけあれば、足りるんじゃないかしら?ダークテリトリーの侵攻を退けて、向こう側に攻め込むのにね」

「「「「「っ!?!?」」」」」

 

悪魔の発想…まさしくアドミニストレータの考えはそれそのものだった。俺だけでない、キリトも、カーディナルも、ユージオやアリス…ここにいる全員が言葉を失っていた。

 

「どう?これで満足したかしら、アリスちゃん?貴女の大事な人界はちゃんと守られるわよ?」

「…最高司祭様…もはや貴女に人の言葉は届かない…故に神聖術師として尋ねます。その人形を作っている30本の剣…その所有者はどこにいるのですか?例え、最高司祭様が完全支配できる剣は1本のみという原則を破れたとしても、その次の原則は破れない筈です…記憶開放を行うには剣と主の間に強固な絆が必要となる。

司祭様、その人形を形作る剣の源となったのが、罪なき民たちだというのなら、貴女が剣たちに愛されるわけがない」

「そうね…普通ならそうよね…でも、答えならアリスちゃんの目の前にあるわよ?…尤も、ユージオには分かっている筈よ?」

 

アドミニストレータの言葉の意味が分からず、俺たちはユージオの方へと視線を向けた。すると、天井を見上げて、驚愕するユージオの姿があり、

 

「そうか…そうだったのか…!」

「どういうことだ、ユージオ!?」

 

ユージオの視線の先を辿り、天井を見上げるが…そこには創造神の壁画と星図…そして、幾多の煌めく装飾が存在しているだけだった。

 

「…天井のあの水晶…あれは只の飾りじゃない。あれはきっと…整合騎士たちから奪われた記憶の欠片なんだ!」

「あれがか…!?」「なぁ…!?」「っ!?」

「おのれ、クィネラ!貴様は…貴様はどこまで人を弄ぶつもりなのじゃ!シンセサイズの秘儀で抜き取った記憶ピースを精神原型に装填すれば、それを疑似的な人間ユニットとして扱うことは可能じゃ…しかし、その知性は極めて限定され、とても武装完全支配術という高度なコマンドを行使することはできぬ。

じゃが、記憶ピースとリンクする武器の情報が重複する場合は別じゃ。すなわち、整合騎士たちから奪った記憶に刻まれた…愛する人間たちをリソースとして作った…そういうことじゃな、アドミニストレータよ!?」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 

あまりにも衝撃的すぎる事実に、もう何度目か分からない程に歯を食いしばる。手からは握りしめ過ぎたことで血が流れ、口の中は歯ぐきからの出血のせいか鉄のような味がして、頭が嫌という程にガンガンしていた。

 

「騎士たちの模擬人格が望むのはたった一つ…記憶している誰かに触れたい、抱きしめたい、自分のものにしたい…そういう醜い欲望がこの剣人形を動かしているの。彼らは今、すぐ傍にその誰かがいることを感じているわ…でも触れない、一つになれない…狂おしほどの飢えと渇きの中で見えるのは…邪魔をする敵の姿だけ。この敵を斬り殺せば、欲しい誰かが自分のものになる…だから戦う。どんなに傷を負っても、何度倒れても起き上がって永遠に戦い続けるの!どう?素敵な仕組みでしょ?本当に素晴らしいわ、欲望の力というものわ!!」

「っ…きさ「違う!!」…!?」

 

我慢ならず、再び怒鳴ろうとした俺の声は、カーディナルの叫びに掻き消された。

 

「違う!その感情を、欲望などという言葉で汚すな!それは…それは純粋なる愛じゃ!!」

「同じことよ…愚かなオチビさん?愛は支配、愛は欲望…その実態はフラクトライトから出力される信号に過ぎない。そして、何より重要なのは…その事実を知ってしまった今、お前には決して人形を破壊できないという事実よ…なぜなら!人形の剣たちは形を変えただけの生きた人間共なのだから!!」

「っ…!?!?」

 

歪な笑みを浮かべ、完全に勝ちを確信したアドミニストレータの宣言に、カーディナルはその事実を受け入れることしかできなかった。

 

「そうじゃ…その通りじゃな。わしには人を殺せぬ…人ならぬ貴様だけを殺すために、200年の時を費やして術を練り上げてきたが、どうやら無駄だったようじゃ」

「…カーディナル…!?」

「フフッ…アハハハハハハハハハ!!!なんて…なんて愚かななのかしら!なんて滑稽なのかしら!!この世界に存在する命なるものは全て書き換え可能なデータに過ぎないのに!!!」

「いいや…人だとも、クィネラよ。アンダーワールドに生きる人々は、我々が失ってしまった真の感情を持っている。笑い、悲しみ、喜び、愛する心をな!それ以上に何が必要であろうか?!」

 

自身の主張を全て言い切り、覚悟を決めたかのように持っていた杖を放り捨てたカーディナルが前へと出た。彼女の行動に、俺はまさかの可能性が頭に浮かんだ。

 

「わしの命はくれてやる!代わりに、この若者たちの命は奪わんでくれ!!」

「止めろ、カーディナル!?俺たちはそんなことを望んでなんか…ぐっ!?」

 

俺の言動を許さないとばかりに、その腕剣で警告したソード・ゴーレムの動きによって、俺は黙らされてしまった。

 

「そんな交換条件を受け入れて、私にどんなメリットがあるのかしら?」

「戦闘を望むのなら、その哀れな人形が動きを封じながらでも、貴様の天命の半分くらいは削ってみせるぞ?それ程の負荷が掛かれば、貴様の心もとない記憶領域が更に危うくなるのではないか?」

「ふーん…考えたわね………まぁ、いいわ。そんな雑魚どもを見逃すくらい、お前を殺せるのなら、私にとっては全く問題ないことだしね」

 

そう言って、カーディナルの条件を呑んだアドミニストレータはソード・ゴーレムを下がらせた。

 

「私も面白い遊びを後に取っておけるしね。じゃあ、ステイシア神に誓いましょう。オチビさんを…」

「いや、ステイシア神ではなく、貴様が唯一絶対の価値を置く、自らのフラクトライトに誓え」

「…はいはい。それでは、私のフラクトライトとそこに蓄積された大切なデータに誓うわ。オチビさんを殺した後、後ろの4人は無傷で逃がしてあげる」

「よかろう」

 

そして、覚悟を決めたカーディナルは俺たちの方を向き、一言だけ言葉を発した。

 

「…すまんな」

 

そう言って、前へと進んでいくカーディナルに…俺は言葉を掛けることができなかった。頭の中では分かっているのに…体が動いてくれないのだ。

 

(動け…!動けよ…!?今、動かないと…カーディナルが…俺の前でまた誰かが…!?)

 

頭で動けと思っても…先程のソード・ゴーレムとの戦闘の恐怖が頭を蘇り、俺はその場で動けないでいた。そして、カーディナルは前へと進んでいく。

 

「フフッ!はぁぁぁぁ!」

 

カーディナルは部屋の中心に立ったところで、アドミニストレータは細剣を召喚し、黒雷をカーディナル目掛けて撃ち放った。

 

「ふん!こんなものか?これでは何度撃とうが…」

「それなら、これはどうかしら!」

「っ!?…ああああぁぁぁ!?」

 

黒雷を連射するアドミニストレータ…煙幕がカーディナルを覆い、ボロボロとなった彼女が地面へと膝を突いた。そのあまりにも一方的すぎる蹂躙に、誰もが表情を歪めていた。

 

「もちろん手加減はしてるわよ、オチビさん!一瞬で片づけたら、つまらないもの!200年もこの瞬間を待っていたんだからね!!」

「がぁぁ!?あああああぁぁぁぁぁ?!」

「フフフッ…フフフフフッ!!アハハハハハハ!!アハハハハハハハハハハ!!フハハハハハハハハハハ!!!」

 

これまでにないくらいまで高揚し切った笑い声と共に、カーディナルへと黒雷が放たれていく。その声を…悲鳴をこれ以上聞いていることが堪えらず、俺は飛び出そうとするが…

 

「来るな!?来るでない!?」

「っ!?」

 

俺の動きを予想したカーディナルの制止に、俺は動きを止めてしまった。だが…

 

(本当に…これでいいのか?)

 

その内心が胸の中でグルグルと渦巻いていた。今、眼前で起きている出来事が歪み、真っ直ぐ立っていることすら困難な程に、俺の思考はぐちゃぐちゃになっていた。

 

(こんな結末…こんな結果を認めるのか?)

 

まるで自分の声ではないような言葉が頭を駆け巡る。しかし、それでも無慈悲に物事は進んでいく。

 

「さぁ、そろそろ終わりにしましょうか?」

 

(これで本当に終わりなのか…これがここまで来た未来だというのか…!?)

 

「さようなら、リセリス」

 

(これが運命…カーディナルの定め……本当に…?)

 

 

「さようなら、私の娘」

 

(これが…俺たちが向き合う現実…)

 

「…そして…もう一人の私!!」

 

その言葉と共に、アドミニストレータはこれまでで最も威力の高い黒雷を放った。その一撃を受けたカーディナルは宙を浮き、その光景を見た俺は……

 

 

 

「っ!?(今のは…何だ…?!)」

 

意識が覚醒した時…俺の眼前に入ってきた光景は数十秒前のものだった。瀕死の状態で床に倒れ込むカーディナル、そして、そんな彼女に止めを刺そうとするアドミニストレータ…さっきまので光景が夢だったかのように巻き戻っていた。

 

(今のは未来…?一体何が起こって……っ!?)

 

理解が追い付かず、困惑していたが…右手に持つ大剣がこれまでにない異常な震えをしていることに気が付いた。その振動はまるで、俺の覚悟を大剣が試しているかのように感じられた。

 

そして、事態は再び同じ展開を迎えようとしていた。

 

「さぁ、そろそろ終わりにしましょうか?さようなら、リセリス…さようなら、私の娘…そして…もう一人の私!!」

 

「…っ…!?」

 

その言葉と共に、アドミニストレータが黒雷を放とうとした瞬間…先程とは違い、俺は飛び出していた。もう迷いも、恐怖も、奴に対する怒りすらも頭から消えていた。頭にあるのはただ一つ…

 

(守るんだ…!あんな事実を…あんな結末を…カーディナルが死ぬ未来を変えるために…!全てを出し切れ!!全てを…解き放て!!!)

 

キリトたちの声が聞こえるが、俺はそれを振り切り、ギリギリのタイミングで彼女らの間に割り込み、大剣を振り降ろした!

 

「あらゆる脅威を遮断しろ!!エンハンス・アーマメント!!!」

 

魏王覇鎌『絶』と光翼盾『霧霞』…覇王の気で超絶強化された超高濃度エネルギーで構成された4枚羽の盾がアドミニストレータの黒雷とぶつかりあった。なんとか拮抗状態に持ち込めたが、防ぐのが正直やっとの状態だった。

 

「…あらら?おチビちゃんが折角助けてくれた命を捨てに来たのかしら?」

「ぐぅ…あああぁぁ!?」

「貴方も馬鹿よね?大人しくおチビちゃんが死ぬのを見届けていれば。貴方もお仲間も長生きできたのに…そんな愚か者、助ける価値なんてあるのかしら?」

「ぬうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「それとも、おチビちゃんと心中する趣味でもあったのかしら?それなら、一緒に楽にして「さっきからごちゃごちゃうるせぇぇ!!!」っ!?」

 

耳障りな奴の言葉を怒鳴ることで遮り、俺は叫ぶ。

 

「何が愚かだ…何が滑稽だ…!俺からすれば、アンタの方が愚目だ!」

「…何ですって?」

 

俺の言葉に反応して一段と強くなる黒雷に、俺も更に力を込めて盾の強度を上げる。そして、更に奴へと口撃を飛ばす。

 

「愛は支配なんかじゃない!誰かのために尽くし、誰かのことを想って行うことが愛だ!与えられることもなく、愛されることも知らないお前が…カーディナルのことを馬鹿にするなぁ!?」

「愚か…?愛を知らない…?お前も私のことをそう言うのか!?」

「何度だって言ってやる!あんたは惨めで可哀そうな女だ!!そのソード・ゴーレムが良い例だ!そのゴーレムはあんた自身だ!誰かに触れたい、抱きしめたい、自分のものにしたい…でも、それができないから、誰かにその力を振るう……空っぽなあんたは力で支配することでしか、自分を満たせない…人でも、プログラムでもない…ただの空っぽな人形そのものだよ!!!」

「ぐぅ…フフッ…アハハハハハハハハハ!いいわ…その度胸に免じて、お望み通り、殺してあげるわ!やりなさい、ソード・ゴーレム!」

 

完全にキレたアドミニストレータの命令に従い、再びソード・ゴーレムが動き出し、俺へとその凶刃を振り降ろしてきた。一段と激しくなるアドミニストレータの黒雷と合わせり、大剣から放出させている盾に亀裂が入る。

 

「ぐぅぅ…何が…?っ…フォン、お主、何をしておる!?」

 

意識を取り戻したカーディナルが驚愕の声を上げるが、今の俺には余計な言葉を返す余裕は全くと言っていい程なかった。アドミニストレータとソード・ゴーレムの攻撃に盾はどんどんと悲鳴を上げていく。

 

「もうよい!?逃げるのじゃ!わしが犠牲になれば、お主が死ぬ必要などない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「逃げろといっておるのじゃ!?お主に…お主に300人の民を殺させるなどという凶行をさせるわけには…」

「いいから黙ってろ!」

「っ…!?」

 

未だに自身を犠牲にしようとするカーディナルの姿勢に、俺は思わず怒鳴ってしまった。その剣幕に流石のカーディナルも息を呑んでいた。

 

「お前が死んだら、俺たちがなんとも感じないと思ったのか!?お前にだって、見たい未来やもっとやりたいことがある筈だろう!?あの図書室で見せた涙はお前の本心だった筈だ!」

「っ!?」

「…だから…お前が誰にも頼れないっていうのなら、俺が守ってやる!…この世界を愛するお前をこんなところで死なせてたまるか!?俺が…俺がお前の未来を切り開いてやる!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

呆然とするカーディナルを余所に俺は叫ぶ。だが、もう既に盾が限界を迎えていた。盾を壊そうと、ソード・ゴーレムが凶刃を振り上げ、アドミニストレータも細剣を頭上へと掲げた。

 

「それじゃあ、今度こそさようなら…おチビちゃん、坊や」

「…すぅぅ…(もう方法はこれしかない…!)」

 

覚悟を決めた俺は…未だに震え続ける大剣を握りしめる。まるで警告とも、俺の意志に応えようかとするかのようにも感じられるその動きに、俺は再び頭上に大剣を構え、振り落としながらその言葉を発した。

 

「っ…!?まさか…よすのじゃ、フォン!?」

「リリース!!……リコレクション!!!!!」

 

大剣の記憶開放術を解き放ち、俺はアドミニストレータへとその刃を振り降ろした。

 

 

 

(ここは…宇宙?)

 

気が付けば、俺の体は宇宙を漂っていた。さっきまでアドミニストレータたちの猛攻に押し潰されそうになっていた筈の戦場から、いきなり転移したことに思考が追い付かず、周囲を慌てて見渡す。その時、視界に入ってきたは俺の大剣だった。

 

周囲を旋回し、俺の眼前で制止した大剣…その光景に俺は全てを思い出した。この空間は、俺が大剣の武装完全支配術を会得した時に見た空間だ。だが、あの時よりも宇宙は明るく照らされており、周囲は澄み切った光で満たされていた。

 

そして、変化が訪れた。

 

大剣の向こう側から波打つような赤光を放つ太陽が昇り、俺の背後から静かな直線状の慈光を刺す月が姿を現したのだ。一段と光が空間を満たし、術を取得した時と同じ様に大剣へと光が注がれ、再び剣に赤と青の色が半身ずつに宿っていく。そして、大剣から無数の光の枝が…前とは異なり宇宙の至るところから大剣目掛けて枝が伸び始めたのだ。

 

その先を辿ると、様々な映像が映っていた…いや、それは映像ではない。これまで武装変換術で呼び出してきた武器の元となった世界、もしかすれば俺たちが辿り着いていたかもしれない世界、まだ見知らぬ世界…それこそ無限に存在…いや、今もなお広がり増えつつある、幾億の世界の記憶だった。

 

それを見た俺は以前から感じていた感覚から、大剣の記憶を確信した。

 

世界は一つじゃない…それを知っている俺は肯定し、それを知らない奴らはその可能性を否定する。この未来へ辿り着いたのは運命なんかじゃない…一つの奇跡だ…だから、その可能性を否定させない力を…!悪意が満ちる世界を肯定させない力を…!

 

「行くぞ…『     』」

 

俺は名を呼び、大剣を手に取った。

 

 

 

「リリース!!……リコレクション!!!!!」

「無駄な足掻きを!!これで終わりにしてあげるわ!」

 

フォンが大剣を振り降ろすと同時に、黒雷だけなく、獄炎・灰氷・崩嵐を混合させた天変地異にも近い神聖術をアドミニストレータは放った。それだけではない。確実に、フォンとカーディナルを殺すために、ソード・ゴーレムの両腕刃も同時に振り降ろさせ、フォンの武装完全支配術で発動させた盾を破壊しにかかった。

 

(…取った!)

 

圧倒的な攻撃に、崩壊寸前の盾を構えるフォンと、虫の息であるカーディナルの命を取ったと確信したアドミニストレータはこれまでにない程の笑みを浮かべていた。だが、その瞬間、彼女の背筋にこれまで感じたことのない悪寒が走った。

 

自身が感じたことのない恐怖に、アドミニストレータはその場から思わず飛びのいた…それはある意味で正解だった。自身が放った神聖術とソード・ゴーレムの凶刃が大剣の盾を砕き、フォンたちを襲うとした時だった。振り下ろされた大剣から光の刃が放たれ、ソード・ゴーレムをいとも容易く吹き飛ばし、アドミニストレータが放った混合神聖術を吸収し、彼女が元いた場所を通過したのだ。

 

その斬撃はあまりにも早すぎて、もしアドミニストレータが避けていなければ、直撃していたことだっただろう…そして、何よりも彼女を驚愕させたのはその威力…いや、明らかに異質な能力だった。

 

「な、何…?これは…断絶していたアドレスが復活して…!?ば、馬鹿な…カセドラルの壁を突き抜けて、私が展開した術式を破壊したというの!?」

 

セントラル・カセドラルが大きく揺れたことに動揺するアドミニストレータ。そして、気付いた時には自身が発動していた遮断領域が解除されていることに気が付いた。

先程、自身を襲おうとした光の刃はカセドラルの壁をヒビをつけることなく綺麗に貫通しており、そのまま飛び出して、領域を構成していた闇を切り裂いたのだ。

 

自分が時間を掛けた上で形成した術式を瞬時に破壊され、流石のアドミニストレータも動揺の色が隠せないでいた。そして、その元凶であるフォンへとふと視線を降ろした時だった。

 

「………(ゴォォォォォォォォォォォ)」

((ゾクッ!?)っ…今のは…!?)

 

言葉にできない覇気に押され、アドミニストレータは思わず後退った。フォンから異質な闘気が溢れ出しており、先程まで蹂躙していた少年とは思えない変化を遂げていたからだ。

 

カーディナルシステムと融合し、アンダーワールドの全てを管理し、支配しようとしてきたアドミニストレータにとって、この世界のものであって、知らないものなど存在するわけがなかった。

 

アンダーワールドにイレギュラーユニットが紛れ込んできた時にも、全く恐れることなどなかった。全てを掌握する自分にとって、そんな些細な事が大敵になるとは思えなかった。

フォンの持つ大剣が測定不能であっても、負ける気などさらさら感じていなかった。自身は最高レベルのシステム権限を持ち、ソード・ゴーレムという奥の手すら持っていたのだから、当たり前だった。

 

だからこそだった…今、自身の眼下で立ち上がっている者が一体何なのか…全く理解できない存在がアドミニストレータの前に立ちはだかっていた。

その者は今もなお、自身を圧倒し続けていた。その得体の知れない存在感にアドミニストレータの全身から警鐘が鳴り響いていた。

 

(ありえない…支配者たる私が気圧された?!…私が恐怖を感じた…!?私が……支配されると感じてしまった…!?)

 

未だに異質なオーラを放ち続けるフォンに、アドミニストレータの胸中は心底穏やかではなかった。初めて襲われた恐怖に息は荒くなり、顔には冷や汗が浮かんでいた。

 

一方のフォンは大剣を振り降ろしたまま、表情を伏せ、全く動く気配が感じられずにいた。まるで、アドミニストレータが動き出すのを待っているかのようだった。

 

「(…恐れるな!私はアドミニストレータ…!全てのプログラムを管理し、全てを支配する絶対なる者!そうよ…私がこんなガキに負けるはずがない…そうよ…!)…私は全てを支配できるのだから!!…だからこそ…!ゴーレム!そのガキと死にぞこないのコピーを今すぐ殺しなさいぃぃ!!!」

『……!』

 

支配者のプライドを取り戻したアドミニストレータから号令が下され、倒れていた巨体を起こしたソード・ゴーレムは凄まじいスピードで迫る。キリトたちがフォンに逃げるように叫ぶが、フォンはやはり動こうとしない。そして、ソード・ゴーレムはその凶腕刃をフォンとカーディナル目掛けて振り下ろして…

 

ガァァァァン!

 

「…はっ…?」

 

それは誰が発した言葉だったのか分からない程に微かな驚き声だった。それは眼下の光景が信じられないアドミニストレータが放ったのかもしれない…もしかすれば、焦燥していたキリトたちの誰かから漏れた声だったのかもしれない。

 

そこにはあり得ない光景が存在していた…先程までアリスやキリトを蹂躙していた筈のソード・ゴーレムの刃が止まっていたのだ。

 

『…!?……!?』

 

もちろん、ソード・ゴーレム自身の意志で止めているわけではない。ゴーレムはアドミニストレータの命を実行しようと、刃を振り降ろそうと全力になっていた。それでもなお、ゴーレムの刃がそれ以上進まない理由…それはフォンにあった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『…!?!?!?!?!?!?』

 

顔を伏せたまま、フォンは片手で握った大剣でゴーレムの凶刃を受け止めていたのだ。何度もフォンたちを斬り殺そうとするゴーレムの剛力を、フォンは全く動じることなく受け止めていたのだ。そして、遂にフォンがその顔を上げ、言葉を発した。

 

「…剣に宿りし全ての記憶よ。その表裏を顕現させろ…

リリース・リコレクション!!!」

 

その言葉と共に大剣が赤と青の二色に染まり、衝撃波が発生した。その衝撃でソード・ゴーレムは再び吹き飛び、フォンは大剣を空へと投げた。

 

空中に放られた大剣は、なんと真っ二つに分裂し、赤き太陽の陽炎を宿す剣と、青き月の陰光を放つ剣へと変わった。空中を自在に駆ける二つの片手剣は、ソード・ゴーレムを縦横無尽に攻撃し、再度ゴーレムの体制を崩した。

 

そして、フォンの手元へと戻ってきた剣たちは柄頭の部分で繋がり、刃の向きが異なる薙刀へと変化した。それを手に取ったフォンの姿もまた変わり始めた…彼を構成するデータが書き換えられていき、その身に純白の衣を纏ったのだ。

 

蒼・紫・黒・赤・緑・水色・桃・シアン・茶色…まるでフォンやユウキたち、それぞれのパーソナルカラーを模した線が襟から裾へと一本ずつの線として伸びているアクセントが特徴的な衣を纏ったフォンは、再び変化した銀の左目でアドミニストレータを捉え、薙刀を構えた。その姿と覇気にアドミニストレータはただただ恐怖を感じていた。

 

「…どうした?さっきまでの威勢はどこにいった?カーディナルを一方的に痛めつけてたいた時みたいに笑ってみろよ」

「…な、何を言っているのよ?」

「お前と同じことをしているだけだ。お前は支配者でもなんでもない…こうして自分が理解できないものを目の前にして、恐怖を感じる…ただの弱者だ」

 

明らかに挑発するフォンの言葉にアドミニストレータは反論するのがやっとの状態だった。あまりにも冷たく、そして、冷静に問いかけるフォンの様子は…完全に怒りに染まっていた。それは、整合騎士たちの記憶や自由を奪い、人形呼ばわりした公理教会を…本来は守るべき者のために振るわれる力を持つ者が、力なき民を搾取どころか、その命すらも弄んだ愚行を…そして、世界を愛し、心を痛めるカーディナルの美徳を汚し、罵倒し…否定しようとしたアドミニストレータに…その怒りが遂に爆発した。

 

「俺は……俺はお前を否定する!!お前の存在はこの世界にあってはならない存在だ!!例え俺の魂が消滅しても、お前だけは許してはおけない!!!」

「っ!?」『…!?』

 

その言葉と共に、フォンの放つ闘気が一段と強まる。自身が纏う翼衣すらも、まるで羽のように逆巻き、その勢いの強力さを物語っていた。

 

「…ふざけるな…ふざけるなぁぁぁ!?私を認めないだと…!私を許さないだと…!?外の世界から偶然にもやってきたガキが好き勝手なことを言ってくれるじゃない!?ゴーレム!いつまで寝ているつもりよ!?さっさとそのガキを殺しなさい!その身を八つ裂きにするのよぉぉ!?」

 

半ば半狂乱に近い、アドミニストレータの悲鳴のようにも聞こえる命を受け、ソード・ゴーレムは再起動する。そして、今度こそフォンを始末しようと臨戦態勢に入った。

 

「アリス!カーディナルを頼む!」

「っ…!?わ、分かりました…!」

「は、離せ、アリス?!…フォン!?」

 

ソード・ゴーレムと対峙するフォンは、背後に庇ったカーディナルのことをアリスに託し、薙刀を静かにゴーレムへと向ける。フォンの言葉に我に返ったアリスは、素早くカーディナルの元へと駆け寄り、その身を抱き寄せ離脱した。

カーディナルは残った力で抵抗しようとするも、整合騎士の腕力から逃れることなどできるわけもなく、フォンへと伸ばした彼女の手は届くことはなかった。

 

そして、ソード・ゴーレムがフォン目掛けて、その凶刃を振り降ろすが…やはりフォンに届くことはない。薙刀一つで完全に防ぎ切るフォンの防御をゴーレムが突き破れないことに、アドミニストレータの焦燥感は一層強くなっていく。

 

「…なんでよ…どうして、あんなガキ一人殺せないのよ!?」

「当たり前だ…こんな魂の籠ってない、たかが30本の剣が集めたくらいで…この剣に勝てると思ったのか?」

「な、何を…言ってるのよ…!?神器を30本…ヒューマンユニットを300も注ぎ込んだのよ!?私の最高傑作がそんなガラクタに負ける筈がないのよ!?」

「…現実を向き合えないお前には分からないだろうな…この剣には全ての世界の記憶が集まっている…この剣の力の源はありとあらゆる可能性で広がる全ての世界そのものだ」

「…全ての世界…?何を世迷言を…!?」

「全ての世界を読み取り、この世界に映し出す…この剣は俺という媒体を元に世界を映すんだ……『映現世の剣』…それがこの剣の名前だ」

 

ソード・ゴーレムの刃を、異次元の力を放つ映現世の剣の赤き刃で受け止めるフォン。そして、一振りでソード・ゴーレムを振り払い、大きく剣を振りかぶる。

 

「映現世の剣は全ての世界の可能性を肯定し、そして否定する…この剣の記憶開放術はあらゆる記憶や可能性の否定…それは全ての存在を拒絶すること……その深淵を切り裂け!はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

言霊と共にフォンは映現世の剣を振るった。空を切ったかに見えた一撃…完全に間合いを見誤ったかに見えたが…異変が訪れたのはすぐのことだった。

『…!?…!?……!?!?!?!?!』

「ゴ、ゴーレム…!?どうしたのよ…!?」

 

動作がおかしくなったソード・ゴーレムの姿に、アドミニストレータはその嫌な予感を否定し切れずに思わず言葉が漏れた。だが、その予感は現実のものとなった。

 

『?!?!!?!??!!?!』

「なぁ…!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

言葉にならない悲鳴…アドミニストレータの口からそんな悲鳴が出た時、ソード・ゴーレムの体が横にズレ始め、その体は平行に斬り裂かれていた。それは、先程のカセドラルの壁を貫通した斬撃のように、あまりにも鮮やかにかつ綺麗すぎる斬り方だった。その一撃を放ったフォンは静かに両手で映現世の剣を再度振りかぶった。

 

「これで……終わりだぁぁァァァァァァァァァァ!!!」

 

上段から振り降ろされた映現世の剣…その斬道に合わせて、横にズレかけていたソード・ゴーレムの体が今度は縦に真っ二つにされる。神器で合成された剛体などお構いなしに、紙のように一太刀で斬り分けられたソード・ゴーレムはもう動くことすらできず、遂に…

 

『%!?#$&!>$#!>$』

 

…その巨体が倒れた…

 

その光景に、アドミニストレータは真の意味で言葉を失い、思わず細剣を手から落としてしまった。

 

その光景に、カーディナルは目を見開き、フォンに背負わせるべきではなかった罪を背負わせたことを…300の命を救えなかったことに表情を歪めた。

 

その光景に、キリトたちはただただ目の前で起きたことを見ていることしかできずにいた。

 

その光景に、フォンは静かに剣を振るった。

その行動は…ソード・ゴーレムに止めを刺すかのように見えたが…それは真ではなかった。記憶開放術状態の映現世の剣が振るわれ、地に沈んだソード・ゴーレムの体が光へと変換されていく…その光は無数の人の形を成していた。

 

「馬鹿な…?!あれは…変換した筈のヒューマンユニット!?そんな馬鹿な…!?無理矢理術式に変換したフラクトライトが戻るわけが…」

「いいや…俺が最後に斬ったのはソード・ゴーレムの術式と変換させられたフラクトライトたちの繋がりだ…今のこの剣には全てを断ち切る力がある。それは人だろうと術だろうと関係ない…ありとあらゆる理を切り裂く力…それこそがこの映現世の剣の記憶開放術だ」

 

眼前で起きている出来事が信じられないアドミニストレータの言葉を遮り、フォンが今、自分が行ったことを話した。アドミニストレータの呪縛から解き放たれた300のフラクトライトたちが次々と消えていく…その表情は、人間として最期を迎えられたことに安堵しているようにも見えた。

 

ソード・ゴーレムの体が完全に光へと変わり、その場に残ったのは破壊し尽くされた神器の欠片たちばかりだった。あまりの光景にアドミニストレータは顔を伏せることしかできなかった。一方のフォンも、仕方なかったとはいえ、300ものの命を一方的に奪ったことに罪悪感が胸を支配していた。その時だった…

 

ギィーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンン!?

「がぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?ぐぅぅ…あああぁ!?ああっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!!?!?」

 

これまでとは比較にならない痛みがフォンの頭を襲った…それはこれまでの経験から、映現世の剣の記憶開放術を使った反動であることは間違いなかったが、今回のそれは桁が違った。

映現世の剣の武装完全支配術を使った時や不知火刀『黒暁』の力を限界以上にまで引き出した時と比べ、その何十倍もの頭痛がフォンを襲っていた。それだけではない…頭の中に、まるで錆びついた歯車が何十個も噛み合うような、そんな不快音が響き渡っていたのだ。それに加え、聴覚や視覚…ほとんどの体の感覚がなくなり、フォンは立つことすらままならず、その場に崩れ落ちてしまったのだ。

 

(駄目だ…!?痛みで……頭が割れそうだ!?!?)

 

『よくも…よくも私の計画を…貴様ァァァァァァ!?』

「っ…がぁぁぁぁ!?」

 

何かの声が聞こえたと思った瞬間、フォンの体に蹴りがぶち込まれていた。それがアドミニストレータの怒りの慟哭だと分かったのは、鬼の表情で蹴りを放った彼女をフォンが視界に捉えた時だった。

 

そのあまりにも強力すぎる威力に加え、怒りを隠すことすらしない容赦のないアドミニストレータの一撃にフォンの体が大きく吹き飛ばされる。思わず血を吐き出すフォンだったが、痛みすら感覚がなくなっており、壁に打ちつけられても、立つことすらもできない状態だった。

 

モノクロに染まる視界でアドミニストレータが追撃を掛けてくることが分かっていても、防御することもできず、フォンはアドミニストレータの拳により、そのまま地面へと体を沈められた。床に巨大なヒビが入り、その威力の尋常さを物語っていた。

 

『お前が…お前如きが私の計画の全てを壊すなんて…私は認めない!お前が私を…この世界を…ありとあらゆるものを支配するなんて……認めるものかぁぁぁぁぁ!?』

「がぁぁぁ……ごほっ!?」

 

首を絞められ、呼吸を苦しくがなるフォン。そんなフォンを…先程の出来事全てを認めることができないアドミニストレータは、余裕な姿などかなぐり捨て、持てる力全てでフォンを排除しようとしていた。そのままフォンを全力で地面へと投げ捨て、更なる追撃を加えようとする。

 

『『フォン…!?』』

『邪魔よ!人形共が?!』

 

このままではフォンが危ない…そう思ったユージオとアリスがアドミニストレータの前へと立ちはだかるが、今や一切の手加減すらしない彼女に足を止めるのが精一杯で、突破されてしまうのは時間の問題だった。

 

その時、キリトは…動くことができなくなってしまっていた。

 

(動け…動けよ…このままじゃ、フォンが…!?)

 

頭の中でそう何度も命令するが…先程のソード・ゴーレムの一撃を食らったことが、キリトの行動を鈍らせていた。友が危ないと分かっているのに、足が動いてくれないのだ。

 

「キ、リト……!?」

「えっ…っ!?」

 

その声に振り返ろうとして、キリトはいきなり背中を押された。視線を向けると、瀕死のカーディナルが最後の力を振り絞り、彼の背中を押した姿が見えた。

 

「いく、のじゃ…!…お主の友を…守れ!!」

「っ…!?」

 

その言葉と行動に動かれたキリトの体は…おそるおそる速度を上げながら、徐々に駆け出して行った。

 

『どきなさい、雑魚共!?』

『うわぁぁぁぁぁ!?』『きゃぁぁぁぁ!?』

 

その時には、もう既にアドミニストレータは妨害するユージオとアリスを、手元に呼び戻した細剣により吹き飛ばし、戦闘不能に追いやっていた。そして、今度こそ床に倒れ込んでいるフォンへと止めを刺そうと、細剣を振り上げていた。

 

『消えなさい…!イレギュラーな邪魔者がぁぁぁぁぁ!?』

「っ…!?」

 

その光景が…キリトの脳裏にある光景を思い出せた。

 

アインクラッドにて、ヒースクリフと闘っていたフォンが…神聖剣の隠しスキルにより、虚を突かれて背後から剣に刺された光景を…

 

(俺は…俺は何度同じ過ちを繰り返すんだ…!あの時も今も……これを何度繰り返せば気が済む…!?)

 

アドミニストレータが振り下ろす細剣がゆっくりに見える中、キリトは全力で駆ける。その先に居る友を想い、ただひたすらに走り、そして、剣を抜いた。

 

(…俺はいつもあいつに助けられてた…!あいつはいつも俺たちのために…!誰かのために闘ってた!誰かのために怒って、悲しんで…この世界にも一緒に来てくれた…!あいつがいたから…あいつがいなかったら、俺はもう折れてた!だから…!)

 

「っ…うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

『何…!?』「…!?」

 

その咆哮と共にキリトは黒剣を振るった。間一髪…フォンへと振り降ろされようとしていた凶撃は寸でのところで弾かれた。そして、まさかのキリトの一撃に、虚を突かれたアドミニストレータは一旦距離を取った。

 

「…ぐぅ…キ…リト……!」

「フォン…休んでてくれ。ここからは…俺が闘う。もう誰も…お前やお前が救った命を奪わせたりしない!」

 

なんとか顔を上げたフォン…モノクロの世界が視界に映る中、唯一色のついたキリトの姿に頷くことで返し、それを受けたキリトも再びアドミニストレータへと向き直った。

 

 




●オリジナル武器解説
映現世の剣(うつしよのけん)
 フォンがUWへとダイブした時から持つ大剣。包括する記憶は『平行世界の肯定・否定』『太陽と月』『日食・月食』。
 形状はトゥハンドソードに近く、刃幅が少し細めであり、両刃に整った刃文は薄らとした蒼色が特徴的。刃の中央には模様が刻まれおり、刃の中心を境に上下に連なっている(表面にのみ刻まれており、右側は上から下へ、左側は下から上へと読む形になっている)。フォンが剣の真意を理解したことで銘を名付けた。名前の由来は『世界を映し出す剣』、『現世に虚世を紡ぐ剣」。
 基本時は大剣の形状を取っているが、用途によって大剣を含めた3つのモードを使い分けることを主戦法とする。
・大剣モード(セーブモード)
 基本時・武装完全支配術を使用時の形態。別名セーブモード。この状態では、『平行世界の肯定』・『日食』の記憶を体現している。
 能力は武装完全支配術・武装変換術を主としており、第35話で解説しているため、詳細については割愛する。ありとあらゆる平行世界の記憶に干渉し、それを剣に取り込み、フォンたちがいる世界(以下SAO世界)に合わせて再反映させる能力を持っており、武装変換術で変化させる様々な武器は、実は元の世界とは少し異なる武器なのである(その世界の記憶を持った、SAO世界にもしも存在したらという設定で具現化した武器という認識)。そのため、変換させたばかりでも、フォンは自在に武器を扱え、武装完全支配術を容易に行使することができる。しかし、当初はフォンが映現世の剣の真意を理解できていなかったため、一度呼び出した武器カテゴリーを連続で呼び出すことはできず(10種類の武器を呼び出せば、制限はリセットされる。理由は薙刀モードを参照)、各能力を使用するたびに頭痛に襲われていた(記憶開放術を初使用してからはその反動はなくなっている)。
 この剣の包括する『平行世界の肯定』の意味通り、武装変換術で再反映させた武器を記憶する力があり、それを元に武装完全支配術を行使している。一つの記憶を使いこなす能力が全形態中で最も高く、力を抑える(セーブ)・記憶を保存(セーブ)することが別称の由来となっている。
・二刀流モード(セパレートモード)
 大剣を構成した二つの剣へと分離する形態。二つの剣と共に、第44話で解説予定。 
・薙刀モード(リリースモード)
 記憶開放術状態で使用する専用形態。二つの剣が柄頭で合体したことで、刃の向きが異なる薙刀の形状を取っている。映現世の剣の真なる力を解き放った形態でもある。包括する記憶は『平行世界の否定』・『月食』。
 ありとあらゆる平行世界の記憶を集結させたことにより、あらゆる理を斬り裂く力を持っている。記憶開放術は平行世界の負の側面…一つの世界を肯定することで、他の世界を否定する…パラレル理論の裏の顔を表現しており、フォンが対象としたものだけを斬る反則的な能力を持つ。
 また、その能力はフォンが剣を振るった斬撃線上に効力が及び、振るった瞬間に能力が発動した上で、対象の概念を斬るため、一切の防御が通用しない(心意は例外だが、生半可な心意ではそれすらも貫通する)。更に斬撃線上という平行線上全てが攻撃対象となるため、フォン自身が剣をどう振るうかで攻撃範囲をある程度調整ができるため、相手がどこにいようが、何人いようがお構いなしに効果を及ぼすことができる。
 恐ろしく強力な形態だが、弱点もいくつか存在する。まず、攻撃対象がフォンの視界に入っていなければ、効果が及ばない(何かしらの方法で相手の位置を特定したとしても、フォンの視界上にいなければ攻撃できない…裏を返せば、遠くにいようともフォンが見えてさえいれば攻撃範囲に入ってしまうことになるのだが…)。
 また、斬る概念を複数指定することができない。細かく設定することはできるが、『Aは命を、Bは武器だけを』…といった個別の指定はできない。一振りで一つの概念を斬るため、『命を奪う』という意識で剣を振るえば、敵の中に救いたい人がいたとしても、対象全てを即死させてしまう(尤もこちらも『悪意のある者だけ』といった条件付けである程度の絞り込みは可能で、剣を振るう範囲を調整することでもある程度はコントロールができる)
 そして、最大の弱点は使用回数が存在すること。術を発動してから3回までしか能力を行使できず、(使用回数が残っていても)他のモードに切り替えたり、3回全てを使い切ってしまえば、(仮想世界の時間内で)24時間は使用できなくなる(但し、薙刀として使用することはできる)。
 だが、その弱点を補って余るほどの異常なまでの攻撃性能を持っており、攻撃だけでなく防御にまで転用できる大剣モードと違い、『否定』という負の面を十二分に体現している…だが、全てを否定・拒絶する力が刀身自体にも宿っていることから、薙刀の刃であらゆる攻撃を防ぐといった手法を取ることもできるため、実は破壊する力だけではなかったりする(その際には上記の使用回数制限は考慮しない…しかし、使い切ってしまっていれば効力は発生しない)。劇中では、ソード・ゴーレムの攻撃を『拒絶すること』で物ともせず、圧倒的な力で瞬殺した上で、変換されたフラクトライトとゴーレムを能力で切り離すといった奇跡ともいえる現象を起こした。
 一方で、本来は武装変換術で100を超える武器を反映させ、映現世の剣の真意を理解したことで初めて使用できる形態だったのだが、セントラル・カセドラルでの立て続けの激戦による酷使、そして、アドミニストレータへの怒りが頂点に達したフォンの感情に応える形でイレギュラーな形で発現してしまった。そのため、今までにない反動がフォンを襲い、五感のほとんどを一時的に失ったフォンはあわやアドミニストレータに殺されそうになってしまった(音は全く聞こえず、触覚・嗅覚・味覚はなくなり、視界はモノクロ一色に染まってしまった)。
 なお、この反動は初使用時がイレギュラーでの発動だったため、起きたものであり、以降は全ての能力を使用する際の反動はなくなっている(全ての平行世界の記憶を読み取ったこともあるが、フォンが映現世の剣の真意を理解したため)。

映現世の翼衣 
 映現世の剣専用装備。武装変換術で変化させる各種武器への適正も高く、どんな武器であってもかなりの相性を持つ。この衣自体に意味はなく、左目が銀色に変わることと同じく、フォンが映現世の剣を完全に使いこなしている証明みたいなものである。第40話で登場した『不知火の翼衣』は、元はこの翼衣が変化したものであり、各種武器専用の翼衣に変化する際には一瞬でこの翼衣から変化する。 
 元となっているのはフォンがいるSAO世界そのものであり、フォンやユウキ、キリトたちのパーソナルカラーを表す一本線がアクセントとして入っている白銀(というよりも純白に近い)のローブの形状。この翼衣のみ、フォンにかかる負担は全くない。
 純白の色合い・他の翼衣に変わることから、様々な世界を映す・色に染まりやすいといった意味合いから、映現世の剣そのものを表しているとも言える。

武装完全支配術
『堕天氷龍拳』
前話でフォンがアドミニストレータへと放った拳型の衝撃波。蒼輝勇槍『天零』と仮天混合剣『ルシファー』の力を掛け合わせた技であり、イメージは堕天使と龍神の強力な一撃。牽制で放つも、ソード・ゴーレムによって阻まれ無効化されてしまう。
前回解説し忘れたことを作者が読み返していた時に気付いたのは余談。

『覇王の輝翼盾』
魏王覇鎌『絶』が持つ覇気で光翼盾『霧霞』の防御能力を超絶強化した武装完全支配術。エネルギーで構成されたピンクと水色の二組4枚羽の翼であらゆる攻撃を防ぐ。フォンの感情・気によって防御力が上下する特性があり、アドミニストレータの神聖術を防ぐも、ソード・ゴーレムとの連携攻撃まで耐え切れず、フォンが記憶開放術を使う直前に砕かれてしまった。


上げて、上げて…最高潮になったところから一気に叩き落とす…そんなフォンの容赦のない怒りが露わに、遂に闘いはアドミニストレータ戦を残すだけとなりました。
映現世の剣の真の力を開放したフォンは、アドミニストレータから見れば、異物に見えたことでしょうが、実は圧倒的な力を持って相手を蹂躙し続けた彼女そのものを映し出しているともいえる、一種の意趣返しでもあったりします(尤も、フォン自身は意識してやっているわけではありませんが…)。

そして、ようやく開放できた大剣の真の能力…能力自体は上記しておりますが、大剣の元となったデータソース自体が今後の物語を語る上で欠かせないものとなったりします(なので、アリシゼーション以降も映現世の剣は登場する予定だったりします)。また、映現世の剣のデータ元半分は次回解説する予定です(もちろん後半でも、比嘉さんが言及するですが…(笑))
まぁ、その前にまだまだ暴れる予定なのですが…

さて、原作とは大きく異なる展開となったアドミニストレータ戦…アリシゼーション リコリスのように両腕が健在する彼女に、キリト一人ではあまりにも分が悪すぎるのは明白です…そんな時、彼の横に立ち上がるのはもちろん彼らであり…

最終章後編『黒幻の剣舞』にご期待頂ければと思います。
感想・評価お待ちしております。
それでは!
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