「がぁぁぁ!?」
閃光に包まれ、陽炎による大爆発をその身に受けた俺はこれまで受けたどの衝撃よりも大きな衝撃を受けていた。それが超高速で壁へと背中から激突したのだと気付いた時には、俺の体は地面へと落下を始めていた。
全身が熱湯を浴びされたかの如く痛みが絶えず走っており、立ち上がるのがやっとの状態だった。周囲を見渡すと、天日剣の武装完全支配術による大爆発で煙が蔓延していた。俺と共に吹き飛ばされた天日剣はその熱を未だに纏い、壁に減り込んで…いや、壁を融かしながら埋まってしまっていた。
「っ…なん、だ…?」
その時、左手に生暖かい何かが断続的に当たっていることに気が付いた。それが自身の左目から絶えず流れ続けている血だと気付いたのは、液体の色が赤であることに認識したからだ。
どうやら、先程の大爆発と陽炎のせいで左目が潰れてしまったようだ。天日剣を握っていた右手もぐちゃぐちゃに骨折しているようで、動かすことすらできない状態だった。尤も、映現世の翼衣が盾となって消滅したせいか天命の全損は免れ、今は痛みを感じる余裕もないので、それは不幸中の幸いなのかもしれない。
「っ…みんなは……?」
そして、俺は共に戦っていたキリトとユージオ、戦闘不能に陥っていたアリスとカーディナルの姿を求め、再び周囲へと視線を向ける。咄嗟に武装完全支配術を使ったせいで、周りを気にする余裕もなく、俺はみんなの安否を確認したく、その姿を探す。
「キリト…ユージオ…どこだ…!?」
「ぐぅ…全く、無茶をしおって…!」
「っ!?」
その聞き覚えのある声に俺は視線を向ける。そこには、やっとの状態で杖を構えるカーディナルの姿があった。すぐ傍には倒れているアリスの姿もあった。そして、彼女たちや離れた位置にいたキリト・ユージオの目の前には薄い障壁がヒビの音を立てながら、顕在していた。
「はぁ…はぁ…咄嗟に放った術じゃったが…なんとか持ってくれたようじゃな……ぐぅ!?」
「カーディナル!?」
そこで限界を迎えてしまった彼女の体が崩れ落ち、俺は上手く動かない身体を強引に操り、カーディナルの体を支える。
「おい!しっかりしろ!?」
「はぁ…安心せい。少し力を使いすぎたせいで、回復の方に手が回せぬだけじゃ。このぐらいなら、少しの間は問題ない……奴が死ぬまでは、わしの命も持つ…」
「っ…まさか…!?」
カーディナルの言葉に俺は嫌な予感を覚え、奴が立っていた場所へと視線を向ける。そこには…
「アハハ……アハハハハ!?アハハハハハハハハハ!!!」
「アドミニ…ストレータ…!?」
狂った笑いを上げ続けるアドミニストレータの姿があった。その姿は…あまりにも恐ろしいものだった。
顔の右半分は炭化しており、左足は完全に吹き飛んでいた。髪はほとんどが焼き切れており、残った部分も焦がし後が所々に点在していた。そして、天日剣で貫かれた胸元は大きな空洞が生まれており、そこを中心に、奴の体を焼き尽くそうと陽炎がヒビと共に全身へと広がりつつあった。
「…まさか…まさかだわ…たった二人のイレギュラーによって…この私が倒されるなんてね。金属でない剣が数本…しかも私が知らない剣が存在するなんてね…本当に意外な結果だわ」
「…諦めろ、クィネラ。お主の敗因はたった一つ…人の感情を…人の可能性を知ることがなかったことじゃ」
「…そうかもね。特に、そのガキさえいなければ、私の計画に狂いはなかったわ…お前を殺し、ダークテリトリーをも蹂躙し、全てを支配する私の愛の計画はね!?」
愛憎が混じり合った言葉がアドミニストレータから発せられるが、カーディナルはそんなことなで聞く由もなく、言葉を続ける。
「お主のその体はもう手遅れじゃ。そこまでのダメージを受けてしまえば、ほとんどがどうしようもないじゃろう……わし以外ではな」
「……何が言いたいのかしら、おチビちゃん」
「お主が持っている管理者権限を渡すのじゃ……もし大人しく渡すというのなら、わしがお主のフラクトライトだけでも保護してやる…自由は与えてやれぬがな…」
「…カーディナル…貴女は…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
瀕死の状態にも限らず、もう虫の息であるアドミニストレータさえも救おうとするカーディナルの姿勢に俺は言葉を無くしていた。
自分を殺そうとした相手をも救おうとする…例えアドミニストレータ…クィネラがどこまで外道に墜ちようと、彼女もまたフラクトライトから生まれた命であり、それをできる範囲でも守りたいという彼女の意志が読み取れた。
だからこそだった…奴はその思いに対し…
「お前に管理者権限を渡せと…この私に生き恥をさらせと…?……いいわ…はっきり言ってあげるわ…
…そんなのはまっぴらゴメンよ…!」
「「っ!?」」
カーディナルの想いを最大限に裏切る形で実行した。その言葉と共にアドミニストレータの体を走る陽炎とヒビが一気に全身へと広がった。
「お主…止せ!?」
「お前如きの思惑…全てが上手くいかせるわけがないじゃない!?最後の最後でその望みを絶ってあげるわ!本当はあっちの世界にでも逃げようと思ったけど…気が変わったわ!お前の絶望する様を目に焼き付けて、地獄に行ってやるわ!?」
「…奴は何をする気だ!?」
「お主の剣の力を、自身の自壊シークエンスと掛け合わせ、一気に進行を早めたのじゃ!?フォン!奴を止めるのじゃ!?」
カーディナルの必死な言葉に応えたかったが、体も限界寸前で、手元に武器のない俺には奴を止める手段がなかった。そして、アドミニストレータの体が陽炎に包まれ、
「さよなら、おチビちゃん…滅びゆく世界を前に絶望しなさい!何もできない無力に打ちひしがれ、後悔しなさい!!アハハハハ!アハハハハハハハハハハ!?!?」
その半狂乱な高笑いと共に奴の体が炎と化した。奴の体が崩れ降りるまでその嗤いは響き笑い、その声が聞こえなくなった時、後味の悪い空気だけがその場に残った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…終わりじゃな…全て…」
「…カーディナル…?」
その声には絶望の色が含まれていた…沈んだ声を出す彼女に俺はどういうことかと思い、次の言葉を待った。
「フォン…わしはお主たちに言ったじゃろう?わしは…終わりゆくこの世界を無に還すと…そして、お主たちが望む者たちのフラクトライトを保護すると……じゃが、もうそれはできぬ」
「それはどういう……っ!?」
「そうじゃ…思い出したか?」
カーディナルの言葉の真意を量りかねていたが…俺はその途中で大図書室での会話を思い出し、言葉が詰まった。逆にどこか疲れ切ってしまった様子のカーディナルが言葉を続けた。
「…わしはカーディナル・システムのサブプロセス…メインプロセスと化した奴と違い、このアンダーワールドでの一部の権限だけを持っておる……だからこそ、あやつを倒し切る前に、全権限を奪う必要があった…
じゃが、あやつはそれを悟り、管理者権限を道連れに死を選んだ…最期の最後まであやつは、わしというもう一人の自分さえも、同じ立場に立つことを良しとしなかったのじゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…もう…わしにできることはない……終わりゆく世界を滅ぼすことも…この世界を生きる者を守ることもできぬ…もう手遅れだったのじゃ。わしがクィネラの凶行をもっと早く…わしが生まれた時にあやつを殺せていれば、あんな悪魔の人形に、民が犠牲になることもなかった筈じゃ……もうよいのじゃ……もう、疲れてしもうた…」
「…っ…!」
パァン!
「…っ!?」
その言葉を聞き、俺は思わずカーディナルの頬を叩いてしまっていた。いきなりのことに一瞬呆然とするカーディナル…俺に叩かれたのだと気付いた彼女はこちらへと視線を向けていた。
「ふざけるな……ふざけるなぁ!?」
「…フ、フォン…?」
「疲れただと…もういいだと…!ふざけるな!!まだ何も終わってない!まだ諦めるには早いだろう!お前は…お前はこのおかしくなった世界をどうにしかしたいと思って、200年も闘い続けてきたんだろう!?確かに失ったものもあったかもしれない…でも、お前にはまだ守るものがあるだろう!できることが…やるべきことがあるなら、最後の最後まで足掻け…生きろ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…お前には…まだ取り返しがつくだろう?俺と違って、お前は……っ…!」
「…フォン…?」
「……なんでもない…キリトの様子を見てくる」
カーディナルが眉を顰めるが…俺はその先を言うことができなかった。気付いてしまった事実…その事実に押し潰されそうになる中、カーディナルから離れる。キリトの様子を見てくると言ったが…今は他のことに意識を移したかったための方便だった。
「…ぐぅ…うう…」
「キリト…大丈夫か?」
「ううぅ……フォン…?」
「右腕の傷を塞ぐぞ…動くなよ?」
「……?フォン…?何かあったのか?」
「……何もないさ…何もな」
「……?……」
意識を取り戻したキリトの傷を神聖術で止血する…だが、俺の様子がどこか変だということに気付かれてしまっているようだった。だが…こればっかりは誰にも話すことができないことだった。
今はとにかく時間が欲しかった…そのためにも、俺は話題を自身に集中させないように話を切り出した。
「…まだユージオとアリスは意識を失っているようだな。ともかく…ここになら、現実世界と連絡を取る手段がある筈だけど…」
「…なぁ、フォン…一体何があったんだ?お前、ちょっと変だぞ」
「…なんでもないって言ってるだろう?それよりも、今は現実世界との連絡を取ることの方が重要だろうが」
「…っ…!おい、フォン…何を隠してるんだよ!どうして、そんなことを…」
「なんでもないって言ってるだろう!?」
「「っ!?」」
キリトの心配の声に、俺は思わず怒鳴り返してしまった。俺の剣幕にキリトだけでなく、その様子を見守っていたカーディナルすら息を呑んだ。
「…悪い…けど、本当に何でもないんだ……カーディナル。ここに現実世界と連絡を取る手段があるんだろう?それを使うにはどうすればいいんだ?」
「う、うむ………おそらくこれではないか…?」
俺の問い掛けに、我に返ったカーディナルが意識を集中させて周囲を探った。そして、何かが引っ掛かったらしく、杖を床へと叩いた。すると、部屋の床から台座が出現した。その上にはノートパソコンのような物体が設置されており、俺はゆっくりとその台座へと近づいた。
「…これは一体…?」
「…!これ…システムコンソールじゃないか?」
追いかけてきたキリトが左手で物体に触れると、アンダーワールドでは存在しない筈のプログラムの画面が出現した。キリトの推測で当たりだと分かった俺は操作を代わり、コンソールを調査していく。コンソールを探り、現実世界との連絡手段を模索していると、あるシステムが見つかった。
「これだ…外部監視者呼出」
「監視者…それって、菊岡たちラースのことだよな?」
「多分な…押すぞ?」
キリトの言葉に頷きながら、俺はコンソールに表示されている『外部監視者呼出』のタブをタッチする。すると、警告画面が出現し、『この操作を実行すると、フラクトライト加速倍率が1.0倍に固定されます。よろしいですか?』との画面に、俺はキリトに目配せして、実行のコマンドを押した。
その瞬間、世界が伸び縮みしたような感覚に一瞬襲われた…だが、それがFLA…フラクトライトの加速が現実世界と同期しただと分かり、通信画面へと差し変わったコンソールへと俺たちは言葉を発した。
「菊岡…聞こえているんだろう、菊岡!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「出ないだと……ふざけんな!さっさと答えやがれ……菊岡ァァ!?」
全く反応ないコンソールに俺は思わず大声を張り上げる…ここまで来て、ようやく現実世界と連絡が取れると思った矢先のことに苛立ちが募るが…その時、コンソールから音が聞こえてきた。
「「…っ!?」」
だが、それは人の声ではなかった…日常生活ではまず聞くことがない音…アサルトライフルが乱射される、まさしく銃撃音がコンソールから聞こえてきたのだ。どういうことかと俺もキリトも困惑していると、
『菊岡二佐、扉を破られました!もう限界です!?メインコンは放置して、耐圧隔壁を閉鎖します!』
『すまん…あと2分耐えてくれ!今、ここを奪われるわけにはいかん!』
「何だ…一体何が起きているだ…?」
「…銃撃…?!オーシャン・タートルで何が起こったんだ…」
男性と菊岡の切羽詰まった会話のやりとりにキリトも俺も困惑していた。明らかに異常な事態がオーシャン・タートルで起きているようだった。
『比嘉君、まだロックは終わらないのか!?』
『あと8…いや、70秒ッス!?…あっ…ああああぁ!?菊さん、中から呼び出しッス!これは……彼らです!桐ヶ谷君と音弥君ッス!?』
『…っ…何!?キリト君、フォン君!そこにいるのは君たちか…!?』
「「っ…!?」」
比嘉さんの声に続き、こちらを認識した菊岡の声が飛び込んできた。切羽詰まった声が聞こえてきたが、奴の声を聞いた瞬間、俺の怒りが再燃してしまった。
「菊岡…あんたは……一体何をしようとしていたのか…本当に分かってるのかよ!?」
『っ…!?フォン君か!?本当に君なのか…!』
「うるさい…!あんたは…あんたたちは…!?こんなふざけた実験を…命を冒涜しやがって…!」
『っ……最終負荷実験のことを黙っていたことは謝る!誹りだって後でいくらでも受ける!だから…!?』
「黙れ!あんたたちは……人工知能だからって、命を粗末に扱っていいわけがないだろう!?あんたたちにとっては軽い物であっても、その命は身近な人にとってはもう二度と取り戻せないものなんだぞ?!それはあんたらは……!?」
『頼む!今は僕の話を聞くんだ、音弥君!?』
「フォン、落ち着け!?菊岡さんの態度からして、今はそれを責めてる場合じゃない!?」
「…っ…!?」
菊岡の鬼気迫る言葉と、キリトの制止の言葉でようやく我に返った俺はなんとか怒りを呑み込み、奴の言葉に耳を傾けた。
『今、オーシャン・タートルは…ぐぅ!?』
「っ…!菊岡…どうした!?」
「そっちで何が起こってるんだ!?」
コンソールから爆発が響き渡り、言葉が途切れた菊岡に俺とキリトが問い返す。キリトの言う通り、奴のことを責めている場合ではないようだ。
『大丈夫だ…!すまないが、時間がないから手短に伝えるぞ…!いいか、キリト君、フォン君。アリスという名の少女と、君たちの近くにいたユージオという少年を探して保護してくれ!そして…』
「探すも何も…二人とも今ここにいる!二人は俺たちと一緒だ!」
『何だって…!?』
『これは奇跡ッス!』
アリスとユージオが俺たちの近くにいるとキリトから聞いた菊岡と比嘉さんは、次なる支持を出してきた。
『よし…この通信が切れ次第、FLAを1000倍に戻すから、二人を連れてワールドエンドオールターを目指してくれ!』
「目指してくれって…いきなりそんなことを言われても…!?」
『時間がないんだ!いいか!オールターは東の大門から出て、ずっと南へ…』
『マズイ!?』
「「『っ!?』」」
菊岡の声を遮り、聞こえてきた男性の声はかなり切羽詰まっていた。しかし、現実世界で何が起こっているのか分かっていない俺たちはただ困惑するしかなかった。
『奴ら、電気室へ侵入しようとしています!?』
『何ィ!?』
『ヤバいッスよ、菊さん!?もし奴らが主電源ラインを切断したら、サージが起きる!ライトキューブクラスターは保護されてますが、サブコンの桐ヶ谷君と音弥君のSTLに過電流が流れ込んで…このままじゃフラクトライトが焼かれちまいます!?』
『っ…!?ここのロック作業は僕がやる!比嘉君は神代博士と、明日奈君、木綿季君を連れてアッパーシャフトに退避…そして、二人を保護するんだ!?』
「…ユウキ…?」「…アスナ…?」
(ユウキが来ているのか…!?まさかとは思ってたけど…本当に…!?)
比嘉さんと菊岡の会話からユウキとアスナの名前が飛び出し、俺たちは驚く。もしかしたらとは思っていたが、本当にユウキがオーシャン・タートルに辿り着くとは思ってもおらず…そして、俺は胸を捕まえるような圧迫感に襲われた。今のまま、ユウキに会うことは…俺にはできない。だが、そんな俺たちの思いとは裏腹に事態は進んでいた。
『…駄目だ!?電源切れます!スクリューが止まります!?』
そんな言葉が聞こえてきたと思った瞬間だった…頭上から気配を感じた時にはもう既に遅かった……胸の内が何かに焼かれるような感覚に襲われ、俺とキリトの体が宙へと浮いた。
「「…!?……!?!?!」」
「フォン!?キリト!?」
言葉にならない悲鳴を上げ、耳鳴りで音が聞こえなくなった世界…近くで誰かが叫んでいるようだったが、それすらも耳に届いていない状態だった。だが、そんな中、聞こえてくる声が一つだけあった。
『…!…ォン…!?』
(……誰だ…この声は…?)
『……フォン……!』
[…ボクは■■■のことが好きだよ]
(…君は誰だ…?俺は…)
とても懐かしい声とその人物を確かめようと天井へと手を伸ばすが……ぼんやりとしたそのシルエットを掴むことができず、俺の意識はそこで途絶えた。
第45話 「Fatal Error」
NEXT War of UnderWorld
15分後に後半に関わる予告を投降します。
そちらもご覧頂ければと思います。