さて、WoU編開幕です。少しだけ時系列が前後しますが、
大まかには前半ラストからの続きになります。
キリがいいところまで切ったので少し短めかつ初っ端からシリアスです。
それではどうぞ!
(ここは…どこだ?)
気が付いた時、僕は不思議な空間の中にいた。周りは0と1の数字が飛び交う見たこともない光景は、ここがおかしな空間であることを認識させるには十分すぎるものだった。僕がここがどこかと探っていると…
『『ユージオ』』
自分の名前を呼ばれ、振り返ると…少し離れた所にいたのは、僕の親友とも言える、キリトとフォンだった。
「キリト、フォン…ここは一体…!」
『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』
僕がそう尋ねても、彼らは何も答えてくれず、困ったように微笑んでいた。一体どうしたのかと思い、二人の元へと駆け出したのだが…
(…なんで…なんで距離が縮まらないんだ…!?)
いくら走っても走っても、二人との距離が縮まらないのだ。どんなに速度を上げても、二人に近づくことができない…そして、二人の姿がどんどんと遠ざかっていく。
「キリト!?フォン!?」
必死に手を伸ばすが、僕の手など届く訳がなく…二人は真っ暗な暗闇にどんどんと消えていき、
「待って!?僕を…僕を置いていかないで…!?」
「待って…!!……夢…?」
自身の声で目覚めた時、僕の視界には見慣れた木造式の屋根が広がっていた。先程の光景が夢だと悟り、嫌な汗で纏わりつくシャツを体から離して、僕はベッドから降りる。気分転換に外の空気を吸って来ようと思い、部屋を出ると、
「…ユージオ…?」
「あっ…アリス。ゴメン…起こしちゃったかな?」
目をこすりながら部屋から出てきたアリスと出くわし、僕は気まずくなりながらも、彼女に謝罪の言葉を掛ける。けど、アリスはそのことを気にしているようではなく、僕を見て、眉を顰めていた。
「…大丈夫ですか?顔色が悪いようですが」
「ちょっと変な夢を見てね。僕は大丈夫だから。起こしちゃって、ゴメン」
「いえ…本当に大丈夫ですか?」
「うん……水を飲んでから部屋に戻るから、心配しないで」
「…分かりました」
心配してくれる彼女にそう言うも、僕の言葉に納得していないアリスは眉を顰めながらも、部屋へと戻っていた。そんな彼女に聞こえない様に息を吐き、僕は下の部屋へと向かうべく、階段を下りていく。
誰もいない夜中の居室は当然の如く静まり返っていた。水を飲んですぐに自室へと戻るつもりだったため、神聖術で明かりを点けずに蛇口へとコップを近づけ水を注ぐ。そして、一口水を飲む。
「ふぅ……本当に、酷い顔だ」
コップに残った水に自分の顔が反射し、その表情を見て、そんな言葉が漏れた。アリスが心配するわけだと納得した。今の自分の顔は今にも泣きそうで、真っ青になっていたからだ。
さっき見たあの夢が、どうしても自分の頭の中から離れない。以前、何度か自分が話していたこと…二人が永遠にいなくなってしまうのではないかという不安が僕の脳裏を過っていた。
だけど、そんな弱気ではいけないと僕は頭を振るう。そんなことを考えていては、共に頑張ってくれているアリスの心を裏切ることでもあり、あの二人が元に戻ることを諦めてしまっているかと思ったからだ。
(僕がそんな弱気でどうする!?しっかりしろ、ユージオ…!)
残っていた水を飲み干し、頬を叩いた。弱気になってしまった自分を鼓舞する。余りにも遅いと、またしてもアリスに心配を掛けてしまうと思い、僕は部屋に戻ろうとして…
「…あれ、ドアが開いてる?もしかして…」
微かに開かれたドアから月光が差し込んでいることに気が付き、僕はある可能性に思い当たり、外へと出た。雲一つない夜空が広がっていて、少し冷たい風が体に吹きついていた。そして、僕は歩み始める……座ったまま、星を見上げる彼の元に。
「…また星をみているのかい…フォン…?」
笑みと共にそう彼に問いかける…そして、彼から返ってくる言葉は、
「…いつ何をしようが俺の勝手だろうが。それに、俺はフォンじゃない。何度言えば分かるんだ」
「そう…そうだったね。ゴメン」
映るものを全て反射する透明な左目で僕を捉えた彼のぶっきらぼうな言葉に、僕は苦笑しながら謝って、そのまま彼の隣に座る。フォンは嫌な顔をするも、それ以上何かを言ってくることはなく、そんな変わらない彼の優しさに更に苦笑してしまう。
(ねぇ、フォン……本当に全部忘れてしまったのかい?)
再び夜空を見上げ始めたフォンの横顔を見ながら、僕はあの時のことを思い出していた。そう…全てが変わってしまったあの闘いのことを。
『ヤバいッスよ、菊さん!?』
(っ…!ううぅ…僕は一体?……そうだ。アドミニストレータと闘っていて、フォンと共に壁に叩きつけられて、意識を失っていたのか…そうだ!闘いは…キリトたちは!?)
誰かの声が聞こえ、僕は意識を取り戻した。一瞬何が起こったのかが把握できなかったが、痛む体に先程まで何が起こっていたのかを僕は思い出した。そして、アドミニストレータと激戦を繰り広げていた友たちの姿を求めた。すると、聞いたことのない男の声が聞こえてきて、僕の意識はそちらへと向いた。
『ここのロック作業は僕がやる!比嘉君は神代博士と、明日奈君、木綿季君を連れてアッパーシャフトに退避…そして、二人を保護するんだ!?』
「…ユウキ…?」「…アスナ…?」
(…二人とも無事だったんだ…でも、一体何をして…?)
『…駄目だ!?電源切れます!スクリューが止まります!?』
声がした方向には、姿を探していた二人を見つけ、安堵するも…二人が見慣れない物体の前にいて、僕は何をしているのかを尋ねようとした時、男の叫び声が聞こえ、それは起こった。
「「…!?……!?!?!」」
「フォン!?キリト!?」
…何が起こったのか、理解することができなかった…
気付いた時には、雷に撃たれたかのようにキリトとフォンの体が宙へと浮かび、地面へと倒れた。誰からの攻撃なのか、一体何の術が使われたのか…本当に何が起こったのかが分からなかった。
カーディナルさんの叫び声に、我に返った僕は慌てて二人へと駆け寄った。
「キ、キリト…?フォン…!?しっかりしろ!?おい!」
「…ユージオ…!」
「っ…カーディナルさん…!?」
「わしを…二人の元へ…!」
「はい!」
立つのがやっとなカーディナルさんに肩を貸し、僕は二人の元へと彼女を連れて行く。そして、二人のことを診始めたカーディナルさんを見守っていると、
「うっ…今のは一体…?」
「…アリス…」
どうやらアリスも意識を取り戻したらしく、僕は彼女の名を呼ぶが、眼前にいるのは僕のよく知るアリス・ツーベルクではなく、整合騎士アリス・シンセシス・サーティであることに、僕はどう言葉を掛けたらいいのか迷ってしまった。
そんな僕のことを気遣ってなのかどうか、次の言葉を切り出してくれたのはアリスだった。
「ユージオ…良かった、無事だったのですね。それで、一体何があったのですか?最高司祭様とキリトが闘い始めたところまでは、私も意識があったのですが…」
「…うん。それからフォンも闘いに加わって、二人がアドミニストレータを倒したんだと思う…多分」
「多分…?」
「僕も…途中で意識を取り戻して参戦したんだけど、途中でまた気を失って…気が付いた時には、アドミニストレータの姿は見当たらなくて、そうしたら二人が倒れて…!?」
「っ…ユージオ!?」
その言葉で二人が倒れてしまったという事実を思い出し、僕は呼吸が苦しくなり、その場に蹲ってしまった。いきなり崩れ落ちた僕の姿に、アリスが慌てて近寄る。
「大丈夫ですか…!?」
「う、うん…ゴメン、ちょっと眩暈が…」
「そう、ですか…では、カーディナル様が二人の様子を診てくれているというわけですね」
状況を把握したアリスは、激闘の跡が残る部屋や二人の傍で集中している様子のカーディナルさんの姿から現状を理解したみたいだった。そんな騎士らしい彼女の姿に、僕は更に心に靄を感じてしまう。
「おいおい…これは一体どういうことが起きれば、こうなるんだ?」
「っ…貴方は…!」「叔父様…!」
だが、そんなことを気にしている途中で割り込むように聞き覚えのある男の声が聞こえてきて、僕とアリスはそちらへと視線を向ける。瓦礫に埋もれていた昇降盤から現れたのは、僕が85階で闘った騎士長…ベルクーリさんだった。
アリスもベルクーリさんの登場に驚いており、ベルクーリさんも僕たちに気付き、どこか安堵しているようで笑みを浮かべていた。
「おう、アリスの嬢ちゃん。無事だったようだな。それに…氷の坊主もな」
「…はい」
「はぁ…そう警戒するな。今はお前さんと闘う気はない」
「叔父様…体は大丈夫なのですか…!?」
「おう。嬢ちゃんと黒髪の坊主が立ち去ってから、しばらくしたら術が解けてな。もしかしたら、チュデルキンの奴がやられたからと思って、ここに来たんだが……最高司祭陛下の部屋に謎の結界が張られていて入れなくて立ち往生していた。だが、とんでもない爆発音がしたと思えば、こっちに上がれるようになって、今に至る訳だ」
二人の会話からして、どうやらアリスも石にされてしまったベルクーリさんと会っていたようで、彼女がベルクーリさんを慕っていることが見て取れた。そして、僕は先程、ベルクーリさんが放った言葉…『今は闘う気はない』という言葉の意味を理解していた。
「…さて、それじゃ聞かせてもらおうか。一体ここで何があったのか?最高司祭陛下とチュデルキンはどうなったのか?そして…あの坊主たちの近くにいる者が何者なのか、な…?」
「…分かりました」
少しだけ闘気を放ち、僕たちにそう問い掛けてくるベルクーリさん。この人も何が起こったのかを察しているだろうが、それでも僕たちの口から事実を聞きたかったのだろう。アリスのアイコンタクトを受け、僕たちは交互に何があったのかをベルクーリさんに説明し始めた。
キリトたちの近くにいるのはカーディナルさん…もう一人の最高司祭であり、アドミニストレータの独裁を憂いて、反旗のために僕たちに力を貸してくれている協力者であること
アドミニストレータが整合騎士たちから奪った記憶と人界の民を犠牲にして作り上げたソード・ゴーレムのことを、
ソード・ゴーレムに追い詰められるも、カーディナルさんが身を張って犠牲になろうし、フォンが土壇場で割り込んで見たこともない力でゴーレムを圧倒して破壊したこと、
そして…キリトとフォンが力を合わせて、アドミニストレータと闘ったことを…
「……………そうか」
僕たちから事情を聞いたベルクーリさんはそう呟いた。感慨深く、そして、死者を弔うかのように目を瞑っていた。不信感を持っていたとしても、この人は騎士長…長年仕えてきたアドミニストレータに思うところがあったのだろう。
「あの……叔父様」
「…ふぅ…気にするな。あの爆発音の大きさからして、最高司祭陛下も無事ではないと思っていたが、そうか…それで、あのオチビさんがもう一人の最高司祭様、とはな」
アリスの心配に、気遣い無用だと手で制止したベルクーリさんは僕へと視線を一度向けてから、キリトたちの様子を診ているカーディナルさんへと視線を移し、その視線にカーディナルさんも気付いたようだ。
「カーディナルさん…その…キリトとフォンの様子は?」
「気を失っておるようじゃ…じゃが、こやつらが倒れた理由が分からん。今は意識が戻るのを待つしかないじゃろう。今のわしの状態では、キリトの右腕もフォンの左目も治療してやることができぬ」
「…分かりました。下の階に休息室があります。そこでキリトたちを休ませしょう」
「そうじゃな。今、この部屋と休息室との直通のドアを作る。少し待っておれ」
アリスの意見に賛同したカーディナルさんはよろよろと立ち上がり、杖で地面を二度叩いた。すると、カーディナルさんの隣に何度か見たドアが出現し、扉が開いた。その先は、ベッドが並ぶ休息室らしき部屋へと繋がっていた。
「ユージオ、二人をこの部屋へと連れて行くのじゃ。アリス、お主も手伝ってやれ」
「…ですが…」
「嬢ちゃん、こっちはいい。それにお前さんも少し休んでおいた方がいい、顔色が酷いぞ。氷の坊主もな。こっちは……もう一人の最高司祭様らしき人物から話を聞いておくからよぉ」
「………分かりました。では、ユージオ、手伝ってもらえますか?」
「えっ…う、うん」
気を失っているフォンを担いで行くアリスに、僕は慌ててキリトの肩を背負い後に続く。僕たちが扉を潜ると、ドアは消えてしまった。
「ユージオ、こちらのベットを使いましょう」
「わ、分かった…」
未だに距離感に困りつつも、僕はアリスの指示に従い、キリトをベットに寝かせる。すると、フォンをベットに寝かせたアリスが僕の方を見ていることに気付いた。
「ど、どうかした?」
「…いえ…キリトから、私…いえ、私が体を奪ってしまった元の私が、貴方と幼馴染だと聞きまして…」
「キリトが…?」
アリスからそんな言葉が漏れ、僕は眠り続ける友へと視線を落とす。
「…私はお前を知っている…」
「…っ!?」
アリスの独白に僕は思わず息を呑む…その言葉が意味するものに、思わず何かを期待してしまう。だが、悲しげな表情を漂わすアリス…その姿が僕の胸に棘が刺す。
「…初めて…学院でお前と出会った時、どこかで会ったような気がしていました。その時はきっと気のせいだと思っていました。でも、それは私の魂が知っていたから……ですから……貴方には謝らなければならないと思っていました」
「…謝る…?」
「謝って済むことではないことは百も承知です!私の自己満足と罵られても構いません!それでも……」
「ま、待って…!?」
「っ!?」
アリスの言葉を遮り、僕は彼女の言動を制止する。それ以上先を言わせる訳にはいけないと僕は思ったのだ。
「僕は貴女に謝ってもらいたいわけでも、貴女に怒りを抱いているわけでもありません。ただ…あの時、助けることができなかった彼女を助けたくて…行方を捜したくて、僕たちはここまで来たんです。だから……僕は貴女にお礼を言いたい」
「お、お礼…?」
僕の言葉があまりにも意外だったのだろう…アリスは目を丸くしていた。当然だと思う、もし僕が逆の立場でもおそらくそうなっていただろう。
「こうしてアリスと再び会える機会をくれたことに…僕の願いを叶えさせてくれて、ありがとう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…アリス?」
「…ほ、本気で言っているのですか!?貴方は…私に負の感情を持っていないのですか?!」
「……もちろん持っていないと言えば、嘘になると思うよ?でも、君だって、整合騎士が人格を植え付けられたものであることを知らなかったんだろう?なら…僕は君に言うことはもうないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
再び呆然としてしまったアリス…それに対し、アリスとこうも対面しながらも、僕は酷く落ち込んでいた。もしも、昔の僕であったら、眼前の彼女に思うままに罵詈雑言を浴びせていただろう…けど、そんな負の感情は全く湧かず、僕の脳裏には友たちの言葉が蘇っていた。
『なら、この人を斬ったら、アリスが元に戻るのか?そうじゃないことはお前も分かってるだろう?』
『お前は整合騎士が憎いからここまで来たわけじゃないだろう?アリスを取り戻したいから、アリスを愛しているからここにいるんだろう?その気持ちはあいつの正義に決して劣るものじゃない!』
『違う!お前はユージオだ!俺たちの友で、優しくて、気弱で…一人の女の子のために立ち向かえる剣士だ!!』
(…これでいいんだよね?フォン、キリト…)
もし起きていれば、屈託のない笑みでそう答えてくれるのではないかと思い、僕も思わず笑みが零れる。
「…貴方は…お人好しなのですか?」
「かも、しれないね…もしかしたら、友達の癖がうつったのかもしれないけどね」
「そうですか…それは難儀な……っ!」
「ア、アリス…!?」
言葉の途中で崩れ落ちたアリスの姿に、僕は慌てて彼女の体を支える。鎧のことを失念しており、その重みに一瞬僕までも崩れ落ちそうになるも、なんとか堪える。
「すぅ…すぅ…」
「ア、アリス…?もしかして……寝てる?」
彼女の口から寝息が聞こえ、僕は更に力が抜けそうになってしまう…先程までのアリスの言動からも、彼女も気が張り詰めていたのだろう。アドミニストレータ、ソード・ゴーレムとの激戦で、アリスも一度瀕死の状態に陥ったのだから、無理のない話だと思った。
アリスの体を肩を背負うことで体制を立て直し、空いているベッドへと彼女を寝かす。その寝顔は…昔見た彼女の寝顔そっくりだった。
「アリス…もう全て終わったんだ。だから……今はゆっくり休んで?君が起きる頃には、キリトもフォンも…みんな起きてるから……その時にゆっくりと話をしよう?」
「……すぅ…すぅ……」
その寝息に誘われ、僕も気が緩んだのか睡魔に襲われた。そして、アリスの傍に腰掛けたまま、意識を手放した。
だけど、この時の僕はまだ分かっていなかったんだ。
まだ何も終わっていなかったのだと…
これが始まりに過ぎず、僕とアリスに大きな災禍が待っているんなんてことを…
ちょっとしたユーアリ回でした。
ユージオの成長も少し見れたところではありましたが、まだまだ試練は待っております(苦笑)。というか、UWの事情を深く知らないユージオたちにとって、この先に起こることなど予想できるわけもないのですが…
そんなわけで、次回はカーディナル視点でのお話になるかと思います。
では、また!
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