フォンたちがほとんど出ませんが、WoU編はそういう回がまぁまぁありますので、ご注意下さい。
それではどうぞ!
「さてと…それじゃあ、話を聞かせてもらおうか?」
「そうじゃのう…すまんが、座りながら話をさせてもらってもよいか?クィネラ…アドミニストレータとの闘いで、体力をかなり消耗してしまってな」
「ああ、構わな……構いませんよ、もう一人の最高司祭様」
ユージオたちが去った後、本題を切り出したベルクーリの言葉に賛同し、わしは座れそうな瓦礫へと腰を掛けた。なんとか話すことができる程度には体力も回復したものの、ここから時間を掛けてベルクーリに納得してもらえるような説明をしなければならぬと思っておったが、それは杞憂だったようじゃ。
「敬語を使わなくてもよい。わしにそのような振る舞いは無用じゃ…それにしても、ベルクーリ。お主はわしのことを信じてくれたようじゃが、わしのことを疑っていたのではないか?」
「…そうだな。さっきまではそうだったさ。氷の小僧から話を聞いた時には半信半疑…いや、かなり胡散臭いと思っていたが…堅物で有名な嬢ちゃんのあの言葉や、さっきのカセドラル内の空間を繋ぐ高度な神聖術を見れば、納得せざるを得ないだろう?」
「流石は整合騎士長じゃの…そうじゃ。わしは、最高司祭アドミニストレータ…いや、クィネラが自身の寿命を延ばそうと生み出した、もう一人のあやつとも呼べる存在じゃ」
「クィネラ…それが最高司祭陛下の真の名か」
クィネラの名を知ったベルクーリは驚いておったようじゃったが、目線で話の先を促してきたので、わしは話を続けることにした。
「さて…どこから説明したものかのう。お主が整合騎士の生まれについて、疑念を抱いていたことはわしも把握しておる」
「ああ。その話は氷の坊主…いや、ユージオから聞いた。俺たちが……天界からの使者ではなく、偽りの記憶と人格を植え付けられた人界の民…なんだってな」
「…そうじゃ。クィネラは、わしという反逆者を生み出し、仕留めそこなったことから、自身の駒として扱うために整合騎士を生み出したのじゃ。じゃが、あやつはそれだけでは欲を満たすことができなかったのじゃ」
「……最高司祭陛下が俺たちに隠していたという剣の人形って奴か?確か…ソード・ゴーレムか?」
「ユージオが話した通りじゃ。あやつはダークテリトリーからの侵略を……いや、ダークテリトリーをも蹂躙できると高を括って、ソード・ゴーレムを作り出したのじゃ。お主たち整合騎士から奪った記憶の欠片と人界の民の命を組み合わせ、30本以上の神器の同時記憶開放術を操るためにのう」
「………信じたくない話だな、それは」
言葉の途中で、クィネラの言動を思い出してしまい、わしは表情が硬くなるのが分かった。わしの態度の変化に、奴に疑念を抱いていたベルクーリも否定の言葉を口から出すことができないようでそう呟くのがやっとのようじゃった。
「それで…最高司祭陛下は?」
「…フォンとキリトの手で致命傷を負い…自ら死を選んだ」
「…なんってこった。公理教会始まって以来の大逆罪だぞ…はぁ。ファナティオたちになんて説明すべきか」
「だが、隠すことも不可能じゃぞ。クィネラだけでなく、奴の腹心であったチュデルキンまでもが倒れたのじゃ。それに、奴らがいなくなったからといって、最終負荷実験…ダークテリトリーからの侵略が止まるわけではない」
今後の事態の混乱を重く見たベルクーリが頭を唸らせるも、わしは事態がそれ以上に最悪な方向へと向かっていることを告げる。わしの言葉にベルクーリは騎士長としての態度を取り戻しながら耳を傾けた。
「それは俺も懸念していたが…ダークテリトリーが攻め入ってくるまで、そこまで時間は残されていないということなんだな?」
「うむ…それが半年後なのか、一年後になるかは分からぬが、確実にその時はやってくる…いや、この世界を創ってしまった神たちからもたらされると言った方が合っているのかもしれぬがな」
「まさか…創造神たちが、人界とダークテリトリーとの戦争を望んでいるとでも言うのか…!そんな馬鹿なことが…」
「そうでなければ、クィネラがお主たち整合騎士を作り上げたことも、あの悪魔の人形をも事前に作り出してしまったことにも納得がいかぬか?奴が…その事実に気付いていて、その思惑に逆らい、この世界全てを自身の思うがままに支配しようとしていたのだとしたら」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
わしの言葉にベルクーリが完全に沈黙してしまった…それは肯定を意味してしまっていたも同然じゃった。じゃが、フォンたちと違い、創造神…ラースのことを知らぬ彼らにとって、それは受け入れ難い事実であることをわしも理解はしておった。
「………それで……俺たちはどうすればいい?」
「ベルクーリ…?」
沈黙を破ったベルクーリの口調は覚悟を決めたもののように聞こえた。ベルクーリの意図が計り知れず、わしは思わず言葉が詰まってしまった。
「最高司祭陛下…いや、アドミニストレータ嬢が死に、チュデルキンも死亡…その上、元老院までもが機能停止状態、と人界の柱でもあるセントラル・カテドラルはもはや今のままでは風前の灯だ。
だからこそ…俺はもう一人の最高司祭であるあんたに聞きたい…俺たちはこれから何をするべきなのか、どう行動していくことが最善なのかをな」
「……お主はそれでよいのか?わしは…お主たちの王を殺した主犯の一人でもあるのじゃぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ベルクーリの真意を問うべく、ワシは敢えて厳しい言葉を投げ掛けた。その言葉を聞いたベルクーリは迷うことなく、腰に差していた時穿剣をわしの眉間へと突き付けた。じゃが…
「…どうした?今のわしの状態なら、神器の一撃で簡単に葬ることができるぞ?」
「そうだな…確かにその通りなんだろうな。だが…あんたの目を見て、俺はあんたを信じることにした。あんたの目は氷の坊主…ユージオと通じるものを感じた。今はあんたたちをどうこうするよりも、一刻も早くダークテリトリーからの侵略に備える必要がある…そうだろう?」
「…そうじゃ」
「なら、俺にはあんたを斬る権利も、裁く権利もない。それに……いくら偽りの存在だったとしても、俺たちは整合騎士…人界を守護する剣であり盾だ。その使命だけはこの魂に根づいている。だから…俺たちに知恵をくれ、最高司祭様」
突き付けていた剣を地面へと置き、その場に跪いたベルクーリの姿は、まさしく騎士そのものじゃった。その姿に、わしは思わず笑みが零れてしまった…あの女が仕出かしたことは確かに許されることではないが、騎士長ベルクーリ・シンセシス・ワンの世界を思う心が皮肉にもこう働くとは思ってもみなかったことじゃった。
「……なぜクィネラがお主を騎士長に選んだのか、よく分かったわ、ベルクーリ……わしのような大罪人の知恵で良いのなら、いくらでも貸そう。それと…最高司祭という呼び方は止めてくれ。わしにはそのように呼ばれる資格はない」
「では、カーディナル殿と呼ぼうか。さてと……まずは現在活動中の整合騎士たちへの説明が先か。やれやれ……俺はそういうことをする性分じゃないんだがな」
「じゃが…騎士長であるお主でなければ、皆が納得しないじゃろう?わしも説明の場に同行する…それに、治療を頼まれておったファナティオとイーディスを大図書室から出してやらなければならぬしな」
「…ちょっと待て…大図書室?治療?…どういうことだ?」
わしの放った言葉に再度疑問符を浮かべるベルクーリ。そういえばと思い、わしはわし自身のことを説明し始めた…200年程閉じこもっておった反動で、人と話す機会が全くなかったことに今後気を付けようと思うのじゃった。
「…皆、集まったな?」
二刻後…目覚めたファナティオとイーディスを大図書室から連れ出し、ベルクーリと合流したわしは、ベルクーリと共に未だ瓦礫が残った100階で整合騎士たちと面していた。
大図書室で目を覚ましたファナティオたちは当然、デュソルバートやエルドリエ、フィゼル、リネルに四旋剣の面々も、騎士長からの緊急招集に加え、ボロボロとなった100階に姿の見えないアドミニストレータやチュデルキンのことで、動揺しているようじゃった。
「皆に集まってもらったのは、公理教会始まって以来の緊急事態が起こったからだ。心して聞け……最高司祭陛下が3人の修剣士に敗れ、この世を去られた」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
ベルクーリから忠告がされるも、一同が告げられた事実に息を呑んでおった。そんな中、真っ先に我に返ったのは騎士としての経験がベルクーリの次に長いファナティオじゃった。
「3人の修剣士…まさか彼らが…!?」
「そうだ…ファナティオを始め、ここにいる騎士全員は奴らと面識があるだろう」
「そんな…奴らがそんなことを…?」
ベルクーリの言葉に、エルドリエが信じられないといった表情をしておった。その隣に立つファナティオとデュソルバートも息を呑んでおった。
「驚いているとこ悪いが、話はそれだけじゃねぇ。元老長のチュデルキンもその闘いで戦死し、元老院までもが機能を停止した状態だ…今や禁忌目録を監視する能力も失われ、セントラル・カセドラルどころか、人界の守護ですら手薄になってしまっている」
「それは……かなり不味い状況ね。ただでさえ、整合騎士の半分以上が眠っている状態なのに、監視網まで…これじゃ、手が足りないなんてレベルの話じゃない、人界を大きく混乱させることになるわね」
ベルクーリの説明を受け、状況を飲み込んだイーディスも眉を顰める。その事実を理解した一同に決まずい空気に包まれる中、エルドリエが物凄い剣幕でベルクーリへと問い掛けた。
「その修剣士共は…なぜ奴らはそのような神を恐れぬような行為をしたのですか!?」
「それは……」
「それはアドミニストレータが人界の民の命を、心のない剣の怪物へと変えるという、管理者としての禁忌を犯したからじゃ」
「…っ……貴女は一体…そもそも子供が何故ここにいるのですか!?騎士長が何も申しませんので黙っていましたが…子供と言えども最高司祭様のことを侮辱するなど…万死に値するぞ!」
(こ、子供じゃと……!?)
エルドリエの言うことは尤もなのじゃが…見た目だけで子供扱いされたことに、わしの額に青筋が浮かぶ。特大の神聖術でも叩き込んでやろうかと思うも、話を脱線させるのは良くないと思ってなんとか堪える。
隣のベルクーリも話を脱線させまいと表情を崩さず…笑いを堪える肩が揺れておることに気付き、こっそりと脛を蹴り上げておく。
「ゴホン…!わしの名はカーディナル、大図書室の司書であり…アドミニストレータを倒した剣士たちの協力者じゃ」
「「「「「なぁ!?」」」」」
わしの宣言に更なる衝撃が一同に走る。そして、わしがアドミニストレータの仇だと理解したエルドリエを始め、四旋剣が剣を抜こうと、
「止めろ!!」
「「「「「っ!?」」」」」
…その剣たちが抜かれることはなかった。ベルクーリが威圧と共に放った命令にエルドリエたちの動きがピタリと止まった。
「…こちらのカーディナル殿は、最高司祭陛下の妹君だそうだ。秘匿とされていた大図書室の司書の天職を担っており、最高司祭陛下に迫る力をお持ちの方だ。彼女は200年前から最高司祭陛下の凶行を憂い、今回の事態を引き起こしたそうだ」
「…最高司祭様の妹君…?それに最高司祭様がそんな恐ろしいことを考えていたとは…俄かには信じ難い話だ」
「俺も最初聞いた時は驚いたさ。だが、真実だ…それに、その修剣士たちと最高司祭陛下の会話をアリスの嬢ちゃんが聞いていたからな…皆、否定したいだろうが、それが真実だ」
「アリス…アリスは無事なんですか?!」
「嬢ちゃんも無事だ、イーディス。今は闘いで疲労して、別室で休んでるところだ。後で顔を出してやれ」
(…何が性分ではない、じゃ。わしのことをクィネラの妹だと紹介すると言った時は驚かされたが…流石は長年整合騎士たちを纏めてきただけのことはあるのう)
この場を設ける直前に行った自身とベルクーリの口合わせのことを思い出し、他の者には気付かれない様にベルクーリへと半眼を向ける。わしの視線に気付きながらも、次々と説明をしていくベルクーリの腹芸には感心する程しかないものじゃった。
「それでだ…カーディナル殿と修剣士たちが力を合わせ、剣の人形と最高司祭陛下を打ち倒したそうだ。今はアリスの嬢ちゃんの監視の下、別室で休んでいるところだ」
「ならば!その修剣士たちに事情を…!尋問して、その話の信憑性を確かめなければ…!?」
「エルドリエ…お前は師である嬢ちゃんの証言が信用ならないと言うつもりか?」
「そ、それは……ですが!」
「ですがもねぇよ。それに、今はそんなことをしてる場合じゃねぇ!最高司祭陛下たちが亡くなったことをダークテリトリーに知られたりしたら、どうなるかを考えてみろ!」
「っ…!?」
ベルクーリの言葉によって、エルドリエの反論は完全に黙殺された。じゃが、それに終わらず、ベルクーリは説得を続ける。
「それにだ…先の修剣士との戦闘、そして、ダークテリトリーとの闘いで俺たち整合騎士の戦力はガタガタだ。その上でダークテリトリーの侵略を受ければ、とてもじゃねぇが凌ぎ切れるわけがねぇ」
「では、我々はどのようにすればよいのでしょう?」
「それについては、わしに考えがある」
ファナティオの疑問に、わしはベルクーリの代わりに答える。全員の視線がわしに集まる中、何人かは疑念の視線を送ってきたおったが、わしはそれを無視して説明をし始めた。
「まず、真っ先に行うのは、お主たち整合騎士たちの立て直しじゃ。今ここにいる者の装備や傷の手当て、それとアドミニストレータによって凍結処理をされてしまった整合騎士の解放じゃ」
「凍結処理の解放…?そんなことができるの?」
「まぁのう。そのくらいであれば、今のわしでも出来る筈じゃ。頭数を揃えなければ、兵士たちの練達も、戦闘時の指揮もできぬからのう」
イーディスが視線と共に疑問を飛ばしてきたが、わしの答えに納得したようじゃったので、引き下がり、わしは説明を続ける。
「その次に、人界四帝国近衛軍の再編じゃ。このままでは圧倒的に数でダークテリトリーに劣ってしまっておるからのう。もちろん既存兵の再訓練も並行して行わなければならぬ。今の練度では話にならぬからのう」
「…なるほど。本当に時間との勝負というわけなのですね」
説明を終え、ファナティオが納得したように頷き、そう呟いておった。他の者もわしの提案に納得しておったようじゃったが、一人だけまだ異を唱える者があった。
「…待って下さい、ファナティオ様!?この怪しげな者の話を信じるのですか?いくら騎士長が信じたとはいえ、私は納得できません!」
「…エルドリエ。お前の言いたいことは分かる…だが、」
「それでも…わしはお前たちの力を借りねばならぬのじゃ!」
「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」
ベルクーリの言葉を遮り、わしは少しだけ張ったつもりの声で答えた…つもりじゃったのが、自分が思っていたよりも大きな声が出てしまい、一同が驚いてしまっていた。
「わしは…わしはアドミニストレータの暴走さえなんとかできればよいと思って、今回のことを仕出かした。じゃが、わしと共に戦ってくれた剣士たちは、お主たちと同じくこの世界を守りたいという心共にアドミニストレータと闘ってくれたのじゃ!……やり方は違ったかもしれぬが、わしはここまで事態を悪化させてしまった責任を、この世界を見守る者として滅びゆく人界を放っておけぬのじゃ…!だから、この通りじゃ!今、わしを信じなくてもよい!全てが終わった後に断罪されても構わぬ!
この危機を乗り越えるために、お主たちの力を貸してほしいのじゃ!」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
「俺からもこの通りだ…色々と言いたいことはあるだろうが、今は民を守るために、俺たちに力を貸してくれ」
わしが頭を下げると共に、ベルクーリも合わせて頭を下げてくれた。その姿に、騎士たちの空気には沈黙が漂うかと思っておったが、
「…私は貴女を信じます、カーディナル様」
「っ…ファナティオ…」
「あの修剣士たちに敗れた後、うっすらとですが、貴女が治療して下さっていたことは覚えています。それに、ベルクーリ様…騎士長が信じているのです。副騎士長である私も貴女も信じます」
「私もファナティオに賛成~!それに、その修剣士たちの子も信じられると私は思うな~!……もしも邪な考えを持って私たちや最高司祭様を倒したとしても…わざわざ捨て身で死のうとした私を助けなんて真似はしないと思うわよ、エルドリエ」
「イ、イーディス様まで…!?」
ファナティオとイーディスまでもがわしを信じると言ってくれたことで、未だに懐疑的だった他の整合騎士たちも納得したようじゃった。そして、味方がいなくなってしまったことで唯一反対していたエルドリエも言葉を呑み込み、無理矢理納得したようじゃった。
「これで話は終わりだ。各自、迅速に行動に移れ!ファナティオとイーディス以外で、体に不調を感じる者はカーディナル殿が治療を受け持ってくれるので診察を受けろ。問題ない者はカセドラルの被害状況を分担して調査に向かえ。
ファナティオ…まだ混乱してるだろうが、全員の武器のチェックとカセドラルにいる者たちへの説明を頼む。イーディスは…休息室でアリスの嬢ちゃんが休んでる筈だ。今の説明を嬢ちゃんにもしてやってくれ……もしかしたら、誰かが一緒にいるかもしれねぇが、気にしないで構わない……各自解散!」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
ベルクーリの号令により散り散りに動き出す騎士たち。それぞれが今後の動きに関し、相談し合う中で、ベルクーリの奴がわしの方へと近づいてきた。
「はぁ…やっぱりこういうのは俺の性分じゃねぇな。肩が凝っちまうぜ」
「あれだけのことを言っておいて、よく言うわ。それと…フォンたちのことじゃが…」
「一応緘口令を敷くつもりだが、人の口に戸は立てられねだろうな。さっきのエルドリエもそうだが、今のところは軟禁…部屋で大人しくしてもらうしかねぇだろうな」
「…その点はわしがどうにかしよう。どっちにしても、フォンとキリトが目覚めねば始まらん話じゃ。そして、このリストをお主に渡しておく」
フォンたちの処遇と騎士たちの意志に板挟みのベルクーリが眉を顰めるも、わしはどちらにしても、フォンたちをこのままカセドラルに置いておくのは危険だと考えておった。そのうち、なんとか手を打つべきだと思いつつ、わしは空間収納の神聖術を行使し、ベルクーリに数枚の洋筆紙を手渡す。
「………これは武器や補給品といったリストか?」
「そうじゃ。先程の時間で調べられるだけ調べた、このカセドラルにて埃を被っておる品たちじゃよ。それがあれば、今後の徴兵や補充の見通しも立てやすいじゃろう」
「それは助かるな、ファナティオに渡しておくか。さて、それじゃあ、俺たちもやることをやるとするか」
「ああ…といっても、誰もわしのところに来ないのじゃが…?」
「あ~……ったく、しょうがねぇな」
四旋剣の面々やデュソルバートがわしの元へと来ようかどうか迷っており、それを見たベルクーリが思わず困ったように目元を手で押さえた。
「…よし、それなら、俺から見てもらえるか、カーディナル殿。俺が見本になれば、あいつらも少しは来やすくなるだろうしな」
「…お主…意外にそういった役割が似合っておるのではないか?」
心の底からベルクーリの立ち位置にそう思ってしまったわしは、一息置いてからベルクーリの診察を始める。ベルクーリの動きを見て、迷っていた面々も続き、わしの診察を受けに来たのじゃった。
「ふぅ…流石に疲れたのう」
長かった一日が終わり、カセドラルの95階『暁星の望楼』にて、わしは夜風に当たりながら、央都を見下ろしておった。
ファナティオがカセドラルにいた面々に事情を説明し、整合騎士たちが飛竜にて各地方へと兵力の確認と集結に尽力する中、わしは凍結処分を受けておった整合騎士たちの解術を試みておった。なんとか一人の騎士を解放することには成功したものの、他の騎士たちは凍結されていた時期が長すぎて、今のわしではどうすることもできぬかった。
そして、わしはもう一つの贖罪を同時に行った…機能停止に陥った元老院のメンバー…人としてのほとんどの権利を奪われてしまった管理ユニットとされてしまった者たちの解放を試みたのじゃ。
じゃが…監視ユニットから解き放つということは、その者たちのフラクトライトを元の状態に戻すということじゃった…アドミニストレータによって、ほとんどの感情を抑制されておった彼らが元に戻ればどうなのるか…度重なる激務と記憶回路に関する重大な摩耗により、フラクトライトが崩壊することは明白じゃった。じゃが、それを分かっていても、わしは彼らをそのままにしておくことができぬかった。
ベルクーリが介錯の代理を申し出たが、この事態を招いた当人であるわしが引導を渡すべきだと断り、わしは元老院だった者たちを解き放った。その時の彼らの表情は……どこか穏やかなようなものに感じられた。
(…これで…良かったのかのう)
少し冷たい夜風に当てられながら、わしは壁へともたれかかり、そんなことをぼんやりと思い浮かべていた。アドミニストレータ…クィネラを倒し、整合騎士たちと協力体制を取り、人界の戦力を纏め上げようと行動し……今日一日の出来事があまりにも濃すぎたことに頭痛を覚えつつ、程よい疲労感に襲われたわしは珍しく呆けておった。
(もしもわしが…クィネラから管理者権限を奪い返せておったら…もしも、あの時、わしがあの闘いで死んでおったら………どうなっておったのじゃろうな)
ふと浮かんだ思考がわしの頭を巡る…じゃが、わしの心には影が差しておった。管理者権限を持たぬわしにはできることなど限られている…それを嫌という程、思い知らされた一日じゃった。
クィネラとの決戦もそうじゃった…わしは奴に止めを刺すどころか、かえって足手まといとなってしまった。本来であれば、わしが背負うべき咎をフォンたちに背負わせてしまった。
…全てが終わった時に、わしの心に残ったのは絶望と虚無じゃった。
…だからこそ、私はあの時、死んでもいいと思った…けど…
『疲れただと…もういいだと…!ふざけるな!!まだ何も終わってない!まだ諦めるには早いだろう!』
『できることが…やるべきことがあるなら、最後の最後まで足掻け…生きろ!!』
「…フォン…」
脳裏に蘇った彼の言葉と共に、今は痛みの消えた右頬へと私は手を添えた。彼の必死な言葉と、今にも泣き崩れそうな表情が…私のそんな負の感情を消し去ってしまった。彼のあの言葉があったからこそ、今の私は……わしはもう一人の最高司祭として、この絶望にも立ち向かえると思ったのじゃ。
「…贖え、か…そうじゃな。じゃから……お主たちも早く目覚めるのじゃぞ……フォン、キリト。お主たちが待っている者のためにもな」
明日からは休む暇もないじゃったが、大図書室に戻るまで、もうしばらくわしはこの光景を目に焼き付けておこうと思った。フォンたちが守ったこの世界を…わしらがこれから守らなければならない世界のことを…
それは、今までの私にはない思いが芽生えたと感じた時じゃった。
腹芸達者なベルクーリに、恐れ知らずのエルドリエ、そして、ご感想でも再登場の要望が多かったイーディスも少しだけ顔出ししたお話でした。
エルドリエの発言ですが、事情をよく知らない騎士たちからすれば、至極真当な言葉かと思い、彼にその役目を担ってもらいました。
そして、この時点でサブヒロインを陥落しかけている我らが主人公はもうしばらくお休みで、再び視点はユージオへと戻ります。イーディスも引き続き少しだけ登場する予定ですので、お楽しみに。
それでは!
バンドリーマー[ハクア]さん、KuMaKuMaKumaさん、
ご評価ありがとうございました。