ソードアート・オンライン~夢幻の戦鬼~   作:wing//

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皆様、大変お待たせ致しました!
体調もようやく回復してきましたので、更新再開です!(残念ながら、全快とまではいかにのですが…(苦笑))

タイトル通り、ちょっとオリジナル要素が多いお話になります。
カーディナルが盛大にフラグを立ててますが、お気になさらずに(笑)
本当はもう少し先まで話を進める予定だったのですが、書いてたら区切りがつかなくなってしまいました…すみません。

それではどうぞ!


第Ⅲ話 「氷花鱗の飛竜」

(うぅ…ここは………そうか。アリスと一緒にキリトたちを運んできて、いつの間にか寝ちゃってたんだ。アリスは…?)

 

気が付いた時、僕の視界には真っ白な何かが広がっていた…それが休息室にあるベットのシーツだということを認識するまで、時間が掛かった。ここ数日にあまりに色々なことが起こり過ぎて、ゆっくりと眠れたのは久しぶりだった気がする。

 

アリスはもう目覚めたのかと思い、周囲を見渡そうとした時だった。

 

「動くな」

「…っ…!?」

 

背後から誰かの声が聞こえ、僕は思わず青薔薇の剣を抜こうと…

 

「ま、待った!?待った!?」

「えっ……あ、貴女は…!」

 

僕が振り向き様に剣を抜こうとしたことに向こうも気づき、制止の声が慌てて飛んできた。そして、その声に僕はとても聞き覚えがあった。彼女は確か…

 

「まさか、振り向き様に剣を振るわれそうになるとは思ってなかったわ。アリスの隣でぐっすり眠ってたから、ちょ~と揶揄っただけだったのに…」

「えーっと……確か、イーディスさんでしたよね?アリスと一緒にいた…」

「こうして会うのは80層ぶりね。それにしても、本当に貴方、修剣士なの?カセドラルの駐在兵でも、そんな反応できる者なんて限られるわよ?」

「あー……剣を教えてくれた人が優秀でしたので」

「ふーん……まぁ、いいわ。私はアリスの…いいえ、貴方たちの様子を見てくるように騎士長に言われたのよ」

 

そう話すイーディスさん。だが、僕は未だに警戒を解くことができず、青薔薇の剣を掴んだ手を離さずにいた。そんな僕を見て、イーディスさんは呆れ半分苦笑半分といった感じだった。

 

「安心しなさい…整合騎士は貴方たち3人を今すぐどうこうしようとする気はないし、その大剣を使う子…フォンって言ったかしら?その子とカーディナルっていう人が私の命を助けてくれたのよ。だから、私も貴方たちに危害を加えるつもりはないわ。それこそ、騎士の名に懸けてもいいわよ」

「…そう、ですか」

 

やれやれといった表情でそう語るイーディスさんにそこまで言われては、僕も信じないわけにはいかず、ようやく剣から手を離した。

 

「ええっと…僕はどのくらい眠っていましたか?今は一体何時なんでしょうか?」

「今はお昼過ぎよ。貴方たちがいつから眠っていたのかは分からないけど、私たちが事情を聞かされたのが半日前といったどころだけど…」

「…っていうことは、大体半日ほど眠っていたのか。そうだ…アリスたちは…!」

「まだ寝てるわ。貴方の連れもね」

 

イーディスさんの視線を辿り、背後を振り返ると、ベットに眠るアリスの姿があった。さっきのやり取りで起こしてしまったかと危惧していたが、どうやらその心配は無用のようだった。

 

その一方で、未だ目覚める気配のないキリトとフォンの二人。早く目覚めて欲しいと思うが、あの激戦を繰り広げたこともあり、今はもう少しゆっくりとしてほしいと思う自分もいた。

 

「…本当に無事だったのね、アリス」

「……あの…イーディスさんはアリスとは一体…?」

 

眠るアリスのベットを挟み込む様に反対側に座ったイーディスさん。眠っているアリスの頭を優しく撫でる彼女の姿は…妹を心配する姉…昔見た、熱を出したセルカのことを心配するアリスの姿と被って見えたのだ。

 

だから、僕は思わず尋ねてしまった…80階で、キリトとアリスがカセドラルの外壁から放り出されてしまった際、どうしてイーディスさんがあそこまで激怒したのか…彼女とアリスは一体どういう関係なのかを…

 

「うん?もしかして、気になる?」

「えっ…ま、まぁ…一応…」

「ふ~ん…」

 

僕の問い掛けに笑みを浮かべたイーディスさん…その笑みを僕はよくしっていた。キリトが大体何か悪戯を思い付いた時の笑みにそっくりだったからだ。嫌な予感をしながらも、僕は歯切れ悪いながらも頷く。

 

「別に大した関係じゃないわよ。先輩騎士として、アリスが整合騎士になった時に面倒を見てあげていたのよ。私はダークテリトリーとの境界の巡回に行くことが多かったから、いつも一緒にいた訳じゃないけどね」

「でも、アリスが妹っていうのは…?」

「あー、それは……なんかそう見えちゃったんだよね。アリスと最初に会った時、なんかそう思えてさ。その時はもしかしたら私にも天界に妹がいるんじゃないかとも考えていたんだけど…」

「……それは」

 

イーディスの声が少し低くなり、僕も掛ける言葉に詰まってしまう。彼女にもおそらくいたんだ…記憶を奪われても、魂に刻み込まれた大切な人が。もしかすれば、その人はもう…

 

「…!はいはい!しんみりしたお話はこれで終わり!さてと…とりあえず、貴方にはこれからの処遇について伝えるわ」

「…はい」

「そう力まなくてもいいわよ、何も危害は加えないと言ったでしょ?」

 

来るべき時が来たと思い、僕は思わず背筋を伸ばしてしまう。そんな僕の姿に、イーディスさんはまたしても苦笑してしまい、僕たちの処遇を伝えてきた。それは…

 

「軟禁処分ですか…それはまた…」

「まぁ、処刑されなかっただけマシだと思うよ」

 

その後、しばらくして目覚めたアリスの一言に僕は答えるも、流石に笑みが引き攣ってしまっていた。それは、処遇の甘さについてもだったが、実は目の前の光景に対しても笑みが引き攣ってしまっていた。

 

「えーっと…大丈夫かい?」

「……イーディス殿のあれはいつものことなので、気にしないで下さい」

 

それ以上触れるなというアリスの言葉に、僕はそれ以上言及するのを諦めた。というのも…ベットの上で半身を起こしている彼女の黄金の髪はとてつもなく乱れていたからだ。それは、イーディスさんが去り際というタイミングに、アリスが目覚めてしまったからだ。その時の行動はよく覚えてる。

 

『アリス!?目が覚めたのね!本当に良かった!大怪我したって、騎士長から聞いたけどもう大丈夫なの!?顔色も悪いし…もう少し寝てないと…!?』

『イ、イーディス殿!?私は大丈夫ですから!ちょ…!?待って下さい、抱きしめないで!?ユージオが見て……きゃぁぁ!?』

 

(…アリスの名誉のために、この記憶は消し去っておこう)

 

イーディスさんに抱きしめられたり、散々心配されたり……僕が止めなかったら、おそらく永遠に続いていたかもしれないぐらいの勢いだった。そして、アリスの為にも、このことは忘れようと僕は心に固く誓った…キリトだったら、揶揄いのネタとして覚えておきそうだなと思ったのは余談だ。

 

「ふぅ…では、私もそろそろ行かねばなりません」

「…本当に…もう大丈夫なのかい?」

 

髪を整え終わったアリスはベッドから降り、身支度を整えていた。イーディスさんは、僕たちだけの処遇だけでなく、アリスにも任務を言い伝えにきた。アリスは100階にいるカーディナルさんの補助をすることになっているらしい。

 

未だ顔色が悪い彼女の姿に、僕は思わずそう声を掛けてしまった。しかし、アリスは…問題ないといった風に笑みを浮かべ答えた。

 

「ありがとう、ユージオ。私は大丈夫です……貴方の大切な人の体をまだお借りすることになりますが…すみません」

「………ううん。そのことは…大丈夫だから」

 

申し訳なさそうにそう語る彼女の言葉に、僕もなんとか言葉を捻り出す…正直に言えば、これ以上、アリスに…本当の彼女に危険なことをしてほしくないと思う自分がいたが、彼女が必要とされていることも事実であり、なんとか割り切った。そんな感情を隠し切れない僕を見て、

 

「…本当に貴方は優しいのですね…ユージオ」

 

そんな言葉を最後に、アリスは部屋を去ってしまった。彼女の表情は嬉しそうに、しかし、どこか悲しそうな笑みを浮かべていた。残された僕は心に靄を感じてしまっていた。今こそ友の声が聞きたい…そんなことを思ってしまった僕は二人の目覚めを待つしかなかった。

 

 

そこから一週間が過ぎた。

 

 

僕らは保健室にて完全に隔離され、カセドラルの人と会う機会はほとんどなかった。そのため、外の状況がどうなっているのかを知る術はほとんどなかった。時々、カーディナルさんやアリスが食事を運んできてくれる際に、簡単に話をしてくれるが、かなり忙しいそうにしていた。

 

アリスは四帝国のそれぞれにあるダークテリトリーへと繋がる関所の見回りに飛竜で飛び回っているらしい。カーディナルさんもベルクーリさんと連携して、人界軍の再編に奮迅している…けど、あまり状況は芳しくないらしい。

なんとか力を貸したかったけれど、今の僕の立場ではかえって、アリスたちに迷惑を掛けてしまうため、歯がゆさを感じながらも僕はキリトとフォンの面倒を看ることしかできなかった…その二人も一向に目覚める気配がなかった。

 

そんな中、空いた時間を使って、僕は頭の中であることを考えていた…それはカセドラルで経験してきた数々の闘い、騎士たち、そして、キリトとフォンの闘いの姿だった。

 

整合騎士たちの洗練された剣技に、武装完全支配術の信じられない攻撃、

キリトが見せてくれたアインクラッド流剣術の真義、

フォンの目にも止まらない数々の神器を召喚する術、

 

それらを思い出し、もし自分が同じ立場だったらどうするのか、どう対処するのか…一度、学院に居た頃、キリトたちが話してくれたことがあった。

 

『どんな敵にも闘い方のスタイ…あ~…癖みたいなものがあるんだよ。だから、どんな敵とも闘えるように想定していく…どの闘いも決して無駄じゃないんだよ』

『例えば、この前のキリトとウォロ主席の試合なんかがそうだよな。ただ剣技を見てるだけじゃない…もし自分が同じ立場ならどう動くのか…もちろんその場その場で思い付きでなんとかするしかないこともあるけど、そういう物の見方がができてこそ本当の剣士と呼べるのかもしれないな』

『まぁ、あらゆる武器を変えて闘うフォンは見てても、手合わせで闘ってもいい経験になるよな…そういえば、なんでここ最近は大剣や片手剣だけで闘ってるんだ?』

『えっ…だって、片手剣ならユージオも見てて参考になるだろうし、両手剣の動きが分かってたら、いざ連携を取るとなった時にすぐに動けるだろう?』

 

(…あの時はただただ二人が凄いことを話しているなんて驚いていたけど、今の僕にはよく分かる)

 

キリトの黒剣、フォンの映現世の剣、そして、その横に並ぶ僕の青薔薇の剣…それらに目をやりながら、ここ数日、頭で何度も繰り返してきた想像へと思考を集中させる。時間だけは嫌というほどあったので、それらに費やす時間は困らないでいた。

 

今日もそうしようかと思い、考えていた時だった。

 

「ユージオ…ちょっといいですか?」

「……!アリス?…いいよ」

 

十数回目になるベルクーリさんとの(頭の中での)闘いへと入ろうとした時、遠慮がちにそう尋ねるアリスの声が聞こえ、僕は現実へと意識を戻した。僕の返事に扉が開くと、そこにはアリスだけでなく、カーディナルさんの姿もあったが、二人の様子はどこか焦った様子のものだった。

 

「カーディナルさんまで…何かあったんですか?」

「うむ…少しマズい状況になってきてのう。アリスとベルクーリとも相談したのじゃが…お主たちをここから逃がすことにしたのじゃ」

「に、逃がす…?どういうことですか?」

 

カーディナルさんの言う意味が上手く呑み込めず、僕は思わず聞き返してしまった。すると、二人はここ最近カセドラルに流れる話を教えてくれた…アドミニストレータが死に、当初は混乱していたカセドラルだったけど、落ち着きを取り戻し、ダークテリトリーの侵攻へ向けて軍の再編が行われる中、良くない噂が流れ始めたらしい。そして、それを偶然アリスが立ち聞きしてしまったらしい。

 

『おい、聞いたか?例の反逆した修剣士たちが生きてるって噂…』

『ああ…まだ昏睡状態が続いているらしいが、意識がある者もいるのに、騎士の方々は軟禁するだけで尋問すら行っていないって話だろう?』

『今がダークテリトリーの侵攻に備えるべき時というのも分かるが…まずは公理教会に背いた咎人を断罪するべきなのが、正しいことじゃないのか?!』

『…俺に言うなよ。ベルクーリ騎士団長も、あのもう一人の最高司祭とかいう女の話を鵜呑みにしてるようだし…もしかすれば、騎士団全員が騙されているんじゃないか?』

 

「…そんな…!そんな憶測でベルクーリさんやカーディナルさんを疑うだなんて…!?二人はそんなことなんて考えていないのに…!」

「ユージオ…!」

「っ…!?」

 

思わずカッとなってしまい、大きな声が出てしまった。アリスの声に僕は我に戻り、対面するカーディナルさんを見た。彼女は少し困ったように笑っていた。

 

「…わしのことはどう言われても良い。ベルクーリもその程度の噂など気にも留めておらん。尤も、そんな噂を気にしているような姿を見せれば、今の人界軍の心は更に離れてしまうことになるじゃろうしな」

「ですが…いくらなんでもあんまりです!?ここまで事態が悪化したのは、アドミニストレータが人界を支配していたからで…それを止めるために、二人は命がけで闘ったのに…それで二人はまだ目覚めないのに……!」

 

僕が何よりも許せないと思ったこと…それはキリトとフォンがこうなるまで行ったことを、何も知らない人たちに否定されてしまっているようなことにだった。この世界のことを…僕たちの為に闘ってくれた彼らの全てを無駄にされたような気がして、思わず手に力が籠ってしまう。

 

「お主の気持ちはよく分かる…じゃが、これが現実なのじゃ。人界軍の中には、今の勢力でもなんとかなると思っている者もおるのじゃ…ダークテリトリーの侵攻が迫っているということを眉唾ものだと思っておる者もな。

しかし、こうしてお主たちをカセドラルに置いておくのも、お主たちの身に危険が迫る可能性もある…そこで、先程の話に戻るが、お主たちをこのカセドラルから逃がす。もう既にベルクーリも了承しておる」

「で、でも…逃がすって…もしかして、カーディナルさんが、この前みたいに空間を繋いで下さるのですか?」

 

カーディナルさんの話を呑み込み、僕は以前何度か見た、カーディナルさんのあの高度な神聖術を思い出し、そうかと尋ねたが、カーディナルさんを首を横に振って否定した。

 

「あれは長距離を結ぼうとするとかなりの神聖力を消費してしまうのじゃ。それに数人が通る程の大きさを開けるのもそう容易いことではない」

「でも、地上から行けば誰かしらに見られてしまうのではありませんか?」

「そうじゃ。じゃから、空から飛んでいくのじゃ」

「そ、空から…?」

「うむ…ついてくるがよい。アリス、準備の方は任せるぞ?」

「ええ、承知しました」

 

アリスにそう告げたカーディナルさんは僕の有無を聞かず、神聖術を使い、どこかへと空間を繋げた。そしてその先へと歩いて行ってしまったので、僕も慌ててその後を追う。空間を抜けた先は…

 

「…飛竜…!?」

「うむ。ここは飛竜たちの待機場所…宿舎じゃ」

 

複数の巨大な檻に囲まれた部屋にいた数匹の飛竜たち…カーディルさんの言葉通り、ここは飛竜たちのカセドラルにおける住処のようだった。竜は夜行性だという話を何かの本で読んだような気がしたが、ここにいる飛竜たちは多くが眠っていた。

 

こんなにも多くの飛竜がいるとは思っておらず、驚きの余りに周囲を見渡していると、カーディナルさんが先を行き始めたので、僕は遅れながら彼女の跡を追った。

 

「ここには整合騎士たちに仕える飛竜たちもおるが、中にはそうではない飛竜もおるのじゃ…飛竜は仕える者を選ぶ種族なのじゃ」

「…本で読んだことがあります。誇り高く、一度仕える主を見つければ、その者の命にのみ従う生き物だって」

「ユージオ…お主、博識じゃのう。その通りじゃ…じゃから、クィネラの奴は多くの飛竜を持て余しておった。整合騎士の半分近くを冷凍処刑したが、それら用に揃えた飛竜の多くが無駄になってしまったのじゃ。

もちろん、複数の飛竜が一人の者に仕えるなどということもない…流石に全てを処刑するというのは、騎士たちの反感を買うと思い、できなかったようじゃがな」

「それで…僕をここに連れてきた理由は一体…?」

「うむ……こやつにお主を会わしたかったのじゃ」

 

カーディナルさんが立ち止まった先…一つの檻の向こうには飛竜がいた。目を閉じていたが、寝ているわけではなく、今の状況に関心がなく、思考を放棄しているようだった。

 

全身が凍土のような輝きの鱗を持ち、覚醒していない様子なのに竜としての姿を捨ててはいない、一種の美しさのようなものを感じた僕は、気が付けば、檻へと身を近づけ、飛竜へと手を伸ばしていた。

飛竜も僕の存在に気が付き、その大きな目を開き、僕を捉えた。一瞬、その動きに驚くも、その青い目はまるで僕を見定めようかとしているように見え、僕は迷わず飛竜へと更に手を伸ばしていた。

 

すると…飛竜はその巨体を動かし、僕の腕へと顔を近づけ……その顔を僕の手へと触れてきた…どうやら食べられるといった最悪な事態にはならないで済んだようだ。

 

「驚いたのう…もしやとは思っておったが、まさか…」

「カーディナルさん…?」

「いや…すまぬ。実は、この飛竜をお主に使ってもらおうと思って、ここに連れてきたのじゃが、まさかこうもあっさりと飛竜がお主のことを認めるとは思ってなかったのでな……かなり驚いておる」

「えっ……お前、僕のことを認めてくれたのかい?」

『グルル…!』

 

それが肯定だとばかりに唸る飛竜は、再び僕の腕へと顔を近づけ、摺り寄せてきた。いきなりのことに困惑してばかりだが、飛竜に認められたという事実は、かなり嬉しいものがあった。

 

「あの…この子に名前はあるんですか?」

「いや、ない…クィネラもイチイチ名前をつけるのが面倒くさいと、騎士に仕えない飛竜は番号で管理しておったのじゃ。それに、竜の名は仕える者が決めることとなっておるのじゃ。例えば、ベルクーリのは『星咬』、アリスのは『雨緑』といった感じじゃったな」

 

僕が名前を付けるのだとカーディナルさんから聞き、僕の腕へと懐いている竜の名前を考えようと意識をそちらへと傾ける。青薔薇の剣が放つ永久凍土の氷にも劣らない、氷のような鱗に、穏やかさが宿る青き目…その風貌から出た名前は、

 

「『凍華』…っていう名前はどうだい?」

『グル…?……グルゥ!』

「そうか…気に入ったかい!なら、お前は今日から凍華だ」

 

一瞬首を傾げたような感じだったが、僕が告げた名前を受け入れたらしく、嬉しそうに咆哮を上げる凍華を見て、僕も思わず嬉しくなってしまったが、僕はあることを心配して、慌ててカーディナルさんへと尋ねた。

 

「って、性別聞かずに名前を決めてしまいましたが、この子の性別は…」

「安心せい、この飛竜は雌じゃ。凍華という名前もピッタリじゃよ…そもそも、凍華自身が名を受け入れたのじゃ。そんな小さなことを心配するでない」

「そ、そうですか……」

 

僕の心配など無用だといった風なカーディナルさんの言葉に安堵しながら、僕は新たな相棒である凍華から手を離した。離れる手を名残惜しそうにする凍華…もしかしたら、甘えん坊な性格なのかもしれないと思いながら、僕はカーディナルさんの方へと体を戻す。

 

「移動手段は分かりました…でも、飛竜を使ってまで向かう場所なんて、一体…」

「お主もよく知っておる場所じゃ……ノーランガルス北域、お主らが育ったルーリッドじゃよ」

「ル、ルーリッドですか…!?」

 

まさかの名前が飛び出し、僕は驚く。どういうことか尋ねる前に、カーディナルさんがその理由を説明し始めた。

 

「あの村はノーランガルスの端に位置する村じゃ。フォンたちの療養にも良いじゃろうし、お主も気が知れた場所の方が良いじゃろう…それはお主だけに限った話ではないがのう…」

「えっ…?」

 

カーディナルさんの意味深な最後の一言に、僕は思わず声が漏れる。

 

「ルーリッドの村にはお主だけではなく、アリスも同行させるのじゃ。建前上はお主たちの護衛という形じゃが…少し気がかりなことがあってのう」

「…アリスがどうかしたんですか?」

「うむ………近頃のアリスは集中力に欠けておる、というよりも迷いを抱いておるといった感じでな。あやつの迷いは分かっておるのじゃが、わしではきっかけを与えることしかできぬのじゃ。そこで、ベルクーリとも相談し、アリスをルーリッドへ同行させることになったのじゃ。

お主にはフォンたちだけでなく、アリスにも気を遣ってやってほしいのじゃ…今のあやつは整合騎士のアリス…お主にとっては複雑なところではあると思うが、今のアリスにはお主が必要なのじゃ」

「…大丈夫です。その辺りは割り切っていますから……でも、僕なんかじゃ、騎士であるアリスの助けには…」

 

カーディナルさんの言いたいことは分かったものの、僕の助けなど彼女は必要としていないと思い、その言葉を否定しようとするも、カーディナルさんは首を横に振る。

 

「お主でなければ駄目なのじゃ…アリスが自身の魂と向き合えるのか、そして、騎士と本当の自分とどう折り合いをつけるのか…その時に、お主が傍にいてやらねばならぬのじゃ」

「それは…彼女を苦しめることになりませんか…僕はアリスをそんな目に遭わせたくは…」

「…お主は優しい…優しすぎるのじゃ、ユージオ。これはアリスが避けては通れぬ定めじゃ。そこにはお主も関わっておる…」

「カーディナルさんは…何を知っているのですか?アリスに一体何をさせたいのですか!?」

「…これ以上はわしの口から言うことはできぬ。じゃが……これはお主にとっても避けてはならぬ定めじゃ。そのことを決して忘れるでないぞ?」

「………分かりました」

 

これ以上聞いても、おそらくカーディナルさんが答えてくれはしないのだろうと思い、僕はそれ以上追及することを諦めた。ここはカーディナルさんを信じるしかないのだろう…それにアリスだけでなく、僕にも必要なことだということが引っ掛かった。

 

「出発は1刻後じゃ…準備はアリスが済ませてくれておるから、お主は自分の荷物を整理しておくがよい。それと…アリスにここに来るように言ってくれるか?」

「…はい!」

 

僕の返事を聞き、カーディナルさんは杖で地面を叩き、再び空間を元の部屋へと繋げてくれた。僕は空間を通り、準備を進めてくれているアリスに、カーディナルさんが呼んでいることを告げ、入れ替わりに部屋へと戻った。

 

アリスが通ると空間は閉じてしまい、残された僕はアリスが進めていた準備を引き取り、大急ぎで片づけを始める。

 

(ルーリッドか…セルカに何と言えばいいのかな)

 

アリスを連れて帰ると約束したセルカの表情が頭に浮かび、僕は複雑な思いに駆られる。ある意味では約束を果たせるのだが…今のアリスとセルカを会わせることが本当に良いことなのかと、僕の胸中には不安が渦巻いていたのだった。

 

 




そんなかんやで、次回からようやくルーリッド村へと話が移ります。
一体いつになったら、現実世界へと話が移せるのやら…そんなスローペースな更新でのお話になりますが、今後もご期待頂ければと思います。

ルクス@がんばRoseliaさん、立花オルガさん、椛葉さん、
ご評価ありがとうございました!

それでは、また!!

……このお話、書き上げたのが投稿15分前だったりします…
誤字とかあったらすみません!?
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